投稿記事

2018年 05月の記事 (25)

チェーンライド 2018/05/13 10:00

姫騎士隊長洗脳改造 第三章

第三章 奈落への誘い

 次の日の昼前頃――
「うーん……」
 ティーノは、新聞に目をとおしながら、イノセンシアの詰め所へ向かっていた。
(今日も見事につまらん記事ばかりだな……)
 トップ記事は、二日連続でサルヴァシオンが現れたというニュースだ。しかも、ストーリーは昨日と同じで見事な奴○少女の救出劇……
 いろんな意味でつまらなかった。
 記事のつまらなさはもちろんのこと、サルヴァシオンなる連中が、好き放題に暴れているのも面白くない。
 ラビオスに奴○を運び込む馬車や魔導車が、連中にやられる確率はそう高くない。しかし、その可能性があるというだけで、運び屋が萎縮してしまった。
 現実として、運び屋を引き受ける人間が激減し、奴○が運び込まれる数は、サルヴァシオンが現れてから三分の一程度になっている。
 奴○がいないと商売にならない改造屋としては、いつまでも見過ごせない。
(いずれは、なんとかしないとな……)
 そう思うティーノだが、まずは目の前の案件に集中しないといけない。
「……と」
 イノセンシアの詰め所が見えてきて、ティーノはあらためて気持ちを引き締めた。そして、事前にしてきた準備が問題ないか最後に確認してから建物の中に入る。
「失礼します……」
「あっ!」
 建物に入るなり、待ち構えていたイエマがティーノに近づいてきた。
「バレンティンさん、お待ちしてましたっ!」
「えっ?」
「っと、その、昨日は本当にご迷惑をおかけしました」
「い、いや……」
「そして、適切な処置をしていただきまして、本当にありがとうございました」
 満面の笑みを浮かべて深々と頭をさげるイエマ。いきなりの出迎えで、さすがに少し動揺したティーノだったが、疑われているわけではないとわかり、密かに安堵する。
「……その様子だと、後遺症は出てないみたいだな?」
「はいっ、おかげさまでっ!」
「よかった。それじゃ、隊長さんを呼んでもらえるかな?」
「あ、はい……」
 すーっとイエマの笑顔が消えていく。
「どうかした?」
「隊長、今日は体調不良でお休みしてるんです」
「……まさか、アレの影響が出てるとか?」
 イエマが抵抗なく会話が続けられるよう、媚薬のことを『アレ』と言い換えた。
 その意味を理解したイエマは、頬を赤くしながら口を開く。
「正直、わかりません。隊長は、疲れが見えるので、団長に休むよう命令されたと言ってましたが……」
「団長が……?」
「はい、隊長はここ半年ほど、まったく休んでいませんでしたから、それを団長が心配されて……」
「……なるほど」
 イエマからきわめて重要な話を聞き、ティーノは心の中でにんまりと笑う。
(半年休みなしなら、まとまった休暇は確実に取れるはずだ……)
 小躍りしてしまいそうな気分になるが、そんなものは一切表に出さず、話を続ける。
「でも、それだと隊長さん、今日は出てこられないってこと?」
「いえ、大丈夫です。直接応対したいので、あなたが来たら知らせるようにと隊長から言われてあります」
「ああ、だからきみはここで待ってたわけか」
「はい、そろそろお見えになると思いましたので」
「じゃあ、隊長さんを呼んできてもらえるかな?」
「わかりました。それではこちらへ……」
 イエマが先導する形で、ティーノを施設の中へ案内する。
 施設の廊下を歩きながら、ティーノははじめて見るイノセンシア中枢の内部を、興味津々で見回す。
(質素な建物だな……それに、普通だ……)
 一国の姫様が作った組織の建物なのだから、もう少しきらびやかなのかと思ったがそうでもなかった。さらに、蒼き英知と謳われるアルティエが関わっているのにもかかわらず、魔導的な施しがされている箇所がほとんど見受けられない。本当に、ごく普通の役所の造りだった。
 そうこうしているうちに、ティーノは応接室に通された。
「ええと、こちらにおかけになってお待ちください……」
 ティーノを部屋にとおしたイエマは、頭をさげて出ていった。
 ひとり残されたティーノは、ソファーへ腰かけることなく室内を見回す。
(ふむ、一見不審な点はないが、一応……)
 ティーノは荷物の中から、自作の魔導器チェッカーを取り出した。
 魔導石は絶えず細かな振動を繰り返しており、それが魔導器の動力源として利用されている。魔導器チェッカーは、その振動を検出する機能を持っているのだ。
 ただ、一般的に売られている魔導器チェッカーは比較的大きな振動しか検知できず、発信源の方向すら示せない。その点、ティーノ製は微細な振動にも反応し、ある程度発信源を突きとめる機能もある高性能な代物だ。
 これなら、盗聴用に使われる小型録音器でも、検知することができる。
(さて……)
 魔導器チェッカーにスイッチを入れて、壁面や備品にかざしていく。だが、ひととおりチェックしてみたが、反応は出なかった。
 どうやら、この部屋に録音器は仕掛けられていないようだ。
(団の中で悪さをする人間はいないって思ってるのか……)
 たぶん、団員を疑う真似はしないという、姫か団長の方針なのだろう。
 だがこれで、さらにやりやすくなった。この部屋でひととおりすませることができそうだ。
「っ……」
 コンコンと扉がノックされ、ティーノは慌ててソファーに腰かけた。
 一拍おいて、扉が開く。
「失礼する……」
 入室したのは、カレンひとり。イエマをお供に従えてはいないようだ。
(ま、そうだろうな……)
 たぶん、これから人に聞かれたくない話をするのだろうから、部下を同席させるはずがない。
「お待たせして、申し訳ない」
 武人らしくぴっと背筋を伸ばしたあと、正しい角度で頭をさげた。しかし、その顔はひどくやつれている。
(案の定、一睡もしてないな。それに、この匂い……)
 メスの分泌液の匂いがティーノの鼻をかすめた。たぶん、イエマに呼ばれる直前まで、オナニーに耽っていたのだろう。
「いや、大丈夫。イノセンシアの中なんてめったに入れないから、待ってる間も退屈はしなかったさ」
 内心笑いたくなるのをこらえながら、ティーノはそう返した。
「で、隊長さんの方こそ、大丈夫じゃないって聞いたが?」
「えっ?」
「部下さんから聞いたぞ。体調不良で休みを取ってるんだろ?」
「あ、ああ……そのことか……」
 自分の身体がどうなっているのか、早くもティーノに見透かされてたかと思い、思わず動揺してしまったカレン。しかし、それが勘違いだとわかり、にわかに恥ずかしくなってくる。
「休みを取ったのは……ただ、団長が気を回してくれただけで……自分としては……」
「ということは、体調的には問題ない?」
「そ、それは……」
 カレンは視線を逸らし、言葉を濁す。恥ずかしさでかあっと頬が熱く火照る。だが、自身に起きていることを告白しなければならない。
「そ、その……実は……」
「……実は?」
「き、昨日の夜から……す、少し、調子が悪くて……」
「調子が悪いってのは、どのように?」
「え、ええと……」
 際限なく羞恥心が膨らみ、言葉が途切れる。
(ダメだ……やはり、こんなこと言えない……くうっ!)
 とろけた粘膜がヒクヒクとうごめき、淫汁があふれだす。特殊スーツの股間を覆う内側のサポーターは、ちょんと指で突けばじゅっと汁が染み出す状態だ。
「あぁ……」
 なにかをこらえるような顔をして、カレンはティーノを見つめた。その瞳は、なにかを訴えかけていた。
(察しろってか……)
 もちろん、ティーノから助け船を出す気は更々ない。恥ずかしい告白を、カレンにさせるつもりでいる。
「媚薬屋なんてやってるが、病気に効く魔導薬もそれなりに調合できる。症状によっては、力になれると思うが……?」
「す、すまない……だ、だが……その……」
 見当違いな心配をされて、カレンはもどかしさを覚える。もちろん、ティーノはわざとやっているのだが……
「どうした? なにか言えない理由でもあるのか?」
「そ、そういうわけでは、ないが……うぅ……」
 察してほしいと、カレンは火照った顔でもう一度ティーノを見つめた。
 だが、ティーノは変わらずとぼけ続ける。
「……下痢でもとまらないとか?」
「げ……ち、違うっ!」
「でも、なにか漏らさないようにモジモジしてるように見えるが……」
「そ、それは……はっ、くぅ……」
 キューンと強い衝動が襲ってきて、カレンはぶるっと身体を震わせた。そして、ティーノの前だというのに、内股になって太腿をすりすりとこすり合わせてしまう。
(も、もうダメだ……)
 いよいよ追い詰められて、カレンは観念した。
「じ、実は……」
「……実は?」
「……び、媚薬が……抜けていないんだ……」
「……昨日の媚薬が中和されてないのか?」
「…………」
 羞恥に視線をさまよわせながら、カレンはためらいがちに小さく頷いた。
(そうとうテンパってるな……)
 屈辱の告白をしたカレンを、冷静な目で見つめるティーノ。この調子なら、相当無茶な要求をしても、従うに違いない。だが、これまで勝ち得た信頼を保ち続けたいので、高圧的な振る舞いは極力控えるつもりだ。
「うーん……昨日の中和薬が効かなかったとは、にわかに信じがたいが……」
「それは……じ、自分が、悪いんだ……」
「隊長さんが?」
「そ、そうだ……昨日、自分の症状を……っ……正確に、申告しなかった……ぅ……」
「つまり、昨日俺が中和薬の調合してる最中に、もう媚薬の症状が出ていたと……?」
「すまない……くぅ……」
 中和薬が効かなかったいいわけをカレンが先取りしてくれた。自分が悪いと思っているのなら、なおさら話は進めやすい。
「まあ、隊長さんの気持ちもわからないわけではないが……男にそんなことを申告するのは恥ずかしいだろうし……」
「ほ、本当にすまない……」
「いや、中和薬が効かなかった原因がわかって俺はすっきりしたよ」
「それで……うっ……自分は、どうすれば……あうっ……」
 太腿をモジモジとこすり続けながら、カレンは情けない顔でティーノに訊ねた。本当に、切羽詰まっているのだろう。
「……そうだな、まずは隊長さんもすっきりした方がいい」
「ど、どういうこと……?」
「一時的に、症状を抑える薬があるんだ」
「本当か?」
「ああ。部下さんの症状がぶり返してる可能性もゼロじゃなかったから、念のためにと思ってな」
 それはもちろんウソだ。端からカレンに使うつもりで持ってきている。
「さて、それじゃ早速はじめようか」
「はじめる……?」
「なにかおかしいか?」
「い、いや……飲み薬じゃないのか?」
「ああ、違う違う……ほら、こいつは塗り薬だ」
 ティーノは荷物から薬を取り出し、カレンの前にかざしてみせる。
「ぬ、塗り薬……って、まさか……」
「まあ、想像どおりの場所に塗る薬だ」
「っ……」
 さすがのカレンもショックを受けて言葉を失う。
(直接、あそこに塗らないといけないとは……)
 だが、この程度でティーノの羞恥責めが終わるはずもない。
「そのスーツ、横から指は入るか?」
「えっ?」
「指が入るなら、脱がなくてもいいんだが……」
「ちょ、ちょっと待った! まさか、おまえが薬を塗るつもりなのか?」
「そのつもりだが?」
「なっ……なにを言ってるんだ? じ、自分がそんなことを許すと思っているのか?」
「許すもなにも、素人が塗ると確実に失敗する薬なんだが……」
「そ、そんな……」
 愕然とするカレンを見て、ティーノが心の中で笑う。
(それだよ、おまえのそういう顔が見たかったんだ)
 ちなみに、ティーノの説明は当然のようにでまかせだ。薬は本物だが、誰が塗っても同じ効果を発揮する。
 だが、魔導の知識を持たないカレンにティーノのうそは見抜けない。
「まあ、隊長さんの気持ちもわかる。だから、少しでも恥ずかしさが軽減できればと思って、さっきの質問をしたんだが」
「…………」
「で、どうなんだ? 指は横から入りそうか?」
「は……入る……と、思う……」
 全身が煮えてしまいそうな羞恥に震えながら、カレンは消え入りそうな声でどうにか答えた。
 この答えによって、カレンは事実上、ティーノの行為を受け入れると表明したことになる。
「よし、それなら脱がずにこのままやろう」
 脱がないということで、ひとつハードルを下げて、カレンの心理的抵抗感を減らしてやる。ここまでくれば、あわててひん剥く必要はない。
(楽しみはあとに取っておこうじゃないか……)
 そんな思考をおくびにも出さず、ティーノは事務的な口調で、恥辱に震えながら立ち尽くすカレンに告げる。
「それじゃ、手を後ろに組んで、腰を落とすんだ」
「……えっ?」
「聞こえなかったか? 手を後ろに組んで、腰を落としてくれと言ったんだ」
「な、なぜ……?」
「ヘタに動かれると失敗するからな。ポーズはがっちり固定してもらわないと」
「…………」
 そう言われると、カレンはなにも言い返せなくなる。女にとって一番大事な部分を触られたあげく、失敗したら目も当てられない。
(ガマンだ、ガマンしろ……)
 繰り返し自分にそう言い聞かせるカレン。
 恥ずかしいのは気持ちの問題だけだから耐えられるはずだ。だけど、身体の方はもう限界にきている。ティーノの言うことを聞くしか道はないのだ。
「んく……」
 生唾を飲みこみ、覚悟を決めたあと、カレンは腕をうしろに回してしっかりと組み、中腰の姿勢を取った。
「こ、これでいいのか?」
「いや、もっと脚を開いてもらわないとうまく塗れないぞ」
「わ、わかった……」
 カレンはぎこちなく頷き、ゆっくり脚を開いていく。
「もっとだ」
「ああ……しかし……」
「やる以上は、少しでも成功率をあげたい。恥ずかしいだろうが協力してくれ」
 ティーノにそう言われると、媚薬の苦しみから解放されたいカレンは拒否できない。
「うう……」
 結局、カレンは激烈な羞恥に身悶えながら、肉体的な限界まで脚を開くことになった。
「よし、それでいいだろう」
 ティーノは納得したように頷いて、指定のポーズを維持しているカレンを舐めるように見回す。
(どうだ、あのカレンが俺の前で奴○のポーズを取っているぞっ!)
 さすがのティーノも興奮してしまうが、カレンにきづかれるとマズい。ぐっと気持ちを抑えこんでソファーから立ちあがり、奴○のポーズを取っている相手に近づいていく。
「えーと、はじめる前にいくつか質問するから、正確に答えてくれ、いいな?」
「…………」
 逆らう気力も削がれたカレンは、奴○のポーズを維持したまま、こくりと頷いた。
「じゃあ……昨日の睡眠時間は?」
「……ない」
「そうか……だとすると、夜通しオナニーしてたわけだな?」
「っ……」
「答えてくれ」
「…………」
 極限まで真っ赤に染まった顔を、ぎこちなく頷かせるカレン。虚偽申告によって、今の状態を招いたと痛感してるだけに、ウソはつけなかった。
「やっぱりか……それで、今の今までで何回くらいイった?」
「そ、そんなの……数えてない……」
「おおよそでいいんだ、それで薬の量が変わってくる」
 相も変わらずティーノの話はうそっぱちだが、カレンはそれを看破できない。
 カレンにできるのは、そのインチキな問いに対し、くそまじめに答えることだけだ。
「た……たぶん……二十回……い、以上……」
「ということは、三十回まではイってないんだな?」
「そ、それは……」
「じゃあ、四十回は?」
「そ……その……ホントに、わからないんだ……」
 今にも泣きそうな、いや、目尻にはもう涙が浮かんでいるカレンが、震える声で答えた。
「なら、逆に聞くけど、何回まではイってないと言い切れる?」
「え、ええと……」
 そこで一旦言葉を句切り、視線を虚空にさまよわせながら……
「……ご、五十回は……ないと、思う」
 震え声で、カレンはそう答えた。
「なるほど……」
 もっともらしい顔でそう呟いたティーノだが、内心おかしくて仕方がない。
(いくら媚薬中毒とはいえ、五十回近くイクなんて、相当の好き者だぞ……)
 昨日に続いて笑い出しそうになるのをぐっとこらえて、質問を続ける。
「まあ、オナニーの回数はだいたいでいいが、次の質問は正確に答えてくれよ?」
「わ、わかった……」
「じゃあ聞くが……隊長さんは処女か?」
「えっ?」
「聞こえなかったか?」
「い、いや……」
 ティーノの問いは最初からわかっていた。だが、その情報が今回のことにどう関わるのか、カレンには理解できない。
「だ、だけど、そんなことまで、本当に答える必要があるのか?」
「厳密に言えば、ない」
「なんだとっ!?」
「ただ、こんなことで処女喪失するのはかわいそうかと思って聞いたんだ」
「えっ?」
「基本的な塗り方だと、十中八九処女膜が破れてしまうんだ。だが、最初から処女だとわかっていれば、傷つけないように塗ることもできる」
「だ、だったら、最初からその方法でやれば……」
 こう言ってる時点で、自ら処女であると暴露してるようなものだ。だが、はっきりとカレンの口から告白させたいティーノは、気づかぬふりをして話を続ける。
「時間が三倍以上かかるんだよ。隊長さん、あんまり余裕ないみたいだし、処女じゃないなら普通のやり方で塗った方がいいと思ってな」
「っ……」
「と、いうわけだから、処女かどうか教えてほしい」
「…………」
 ティーノが興味本位で訊ねているわけではないと理解できたが、やはり自分の秘密を明かすのはためらわれる。
(しかし、言わなければ……)
 イノセンシアに入ると決めたとき、女を捨てると心に誓った。普通の女の子らしいあこがれや夢も全部封印した。だが、こんなことで処女を喪失してしまうのは、どうにもこうにも悲しすぎる……
「自分は……その……」
「……その、どっちなんだ?」
「え、ええと……しょ、処女、だ……」
 震えながら、消え入りそうな声で、カレンはとうとう処女だと告白した。
 他人に、しかも、昨日知り合ったばかりの媚薬屋に、大事な秘密を明かしてしまった恥ずかしさはこの上ない。
 そんなカレンの姿を楽しみつつ、ティーノは変わらず事務的な態度で話を進める。
「ふむ……それなら、膜を傷つけないやり方で塗ろう」
「た、頼む……」
「ただ、さっきも言ったように、時間はかかるぞ。塗ってる間、そのポーズをしっかり維持するんだ、いいな?」
「わかった……」
 媚薬でとろけている身体をどうにか引き締め、カレンはポーズをしっかりと固定する。
「……よし、それじゃはじめるか」
 奴○のポーズを取るカレンをもう一度舐めるように眺めたあと、ティーノは薬ビンのふたを開けた。
 右手の中指で少量の薬をすくい、その指先をカレンの鼻先にかざす。
「この分量が一回分だ。これをゆっくり丁寧に、数回塗っていくからな」
「ああ……」
 ティーノはぎこちなく頷いたカレンの前にしゃがみこむ。そして、ピンと張っている白い太腿を左手で押さえた。
「ひぁっ……」
 ティーノが触れた瞬間、引きつった声をあげ、きゅっと眉をたわめるカレン。これからはじまる行為を思うと、自然に恐怖が迫りあがってきてしまい、身体が小さく震えはじめる。
(こうなってしまえば、鬼の三番隊長もただの小娘だな……)
 だが、ただの女としてみれば、カレンはかなり上玉の部類に入る。きちんと着飾り、娼婦として売り出せば、高級娼館でナンバーワンを獲れるレベルだ。
 もっとも、ティーノはカレンを堕としたあとも、娼婦にする気はさらさらない。自分専用のドールとして、とことんかわいがってやるつもりだ。
「さあ、動くなよ……」
 ドールとなったカレンの姿を思い浮かべながら、ティーノは恥丘を覆うスーツの上に右手をかぶせる。
「あっ、んっ……」
 スーツの上からとはいえ、そんな場所を男に触られるのははじめてあり、カレンは恥辱に震える。だが一方で、媚薬に冒された美肉は微細な刺激にも反応し、キュンと熱くうずいてしまう。
 そんなカレンの反応を楽しみながら、ティーノは薬の乗っていない人差し指の腹を使い、布地の上から縦スジに沿って、すりすりとこすっていく。
「んあっ、やっ……んんっ、ああんっ!」
 愛撫を欲していた秘苑が勝手に反応してしまい、カレンの口先から悩ましいあえぎ声があふれでた。しかし、中途半端な刺激に、もどかしさが増していく。
「あっ、ああん……な、なぜ……そんな……んあんっ!」
「準備運動が必要なんだよ」
 適当なことを言って、ティーノはスーツの上から淫裂をこすり続ける。
「し、しかし……んっ、あああっ、いやぁ……あああんっ……」
 ぶるっ、ぶるっと、カレンは二度ほど強く身体を震わせた。もっと強い刺激がほしいと子宮が訴えているのだ。
「どうした?」
「ああっ……んっ……いやぁ……ああっ、くぅっ……」
「恥ずかしがる必要はないんだぞ?」
「で、でも……あっ、んっ、ああっ、はううううっ……」
 こらえきれずに、自ら腰を動かしはじめたカレン。ティーノの人差し指がより食いこむように、くいっ、くいっと前後に身体を揺らしている。
 奴○のポーズでそれをやっているのだから、端から見ればずいぶんいやらしい行動を取っているのだが、カレンにはそんなことに頭を回す余裕などなかった。
「なんだ、ガマンできなくなったのか?」
「ち、違うっ……違うんっ、ああああっ、ひっ、あっ、はああんっ!」
 否定するそばから、ビクビクと身体を痙攣させて、カレンはあられもない声をあげた。股間を覆うサポーターは淫汁を吸収しきれなくなり、イノセンシアスーツの表面もべっとり濡れはじめている。
「違うのか? ガマンできなくなったら準備運動は終わりなんだが」
「ああああ……そ、そんな……」
 いまだに残っている小さな理性が、カレンを苦しめる。
(ガマンできなくなったなんて……い、言えるはずが……)
 ためらう間にも、美肉は愛撫を催促するように、じゅくじゅくと熱くうずき続けている。
「ああんっ、いやぁ……んっ……ああっ、だめっ……あああああっ……」
 心と身体の板挟みになって、悶え苦しむカレンに……
「大丈夫だ……」
 意外にもティーノは、優しい言葉をかけた。
 だか、それも一瞬――
「今のおまえは普通じゃない! 今抱えてる劣情は、全部媚薬のせいなんだっ!」
 ティーノは急に態度を変えて、けしかける感じでカレンに訴えた。
「カレンはもっと素直になっていいんだっ! 誰も責めたりしない、もちろん俺もだっ!」
「――っ!?」
 ティーノの言葉にカレンはぷるっと身体を震わせた。
 次の瞬間――
「あ、ああぁ……」
 カレンはすべてが許されたような気分になった。ティーノに呼び捨てされたことなど、まったく気にしていない。
「さあ、どうしてほしい……?」
 ティーノが再びやさしくささやきかけると、もうカレンは抗えない。
「……な……中に……ゆ、指を入れてぇ」
 極限まで顔を朱に染めて、カレンは恥辱のお願いを口にした。
(堕ちたな……)
 一度坂道を転がりはじめた石は、そう簡単にとまらない。これからカレンは、媚薬をいい訳にして、どんどん堕ちていくだろう。
「わかった。ではカレン、次の段階に進むぞ?」
「は、早くぅ……」
 ひとつ枷がはずれたカレンは、やはり呼び捨てにされたことも気にせず、ティーノを誘った。上下に揺さぶる腰の動きも大胆になっている。
「じゃあ、一度腰をとめろ」
「――っ!」
 反射的に、カレンはぴたっと腰をとめた。そして、これまで淫らな動きを続けていたことに気づく。
(じ、自分は……なんてはしたないことを……)
 どうしようもない羞恥が込みあげてくる。だが、それは媚薬のせいだとティーノに認めてもらっている分、いくらか気持ちが軽い。
「よし、いくぞ……」
 覚悟を促して、ティーノはスーツの脇へそっと指を差し込む。
「あっ、やっ……んああっ!」
 ぬかるんだ秘苑の入り口に指先の感触が伝わると、カレンはぶるっと大きく身体を震わせた。
(と、とうとう……男に、触られたっ……)
 女にとってもっとも秘めやかな部分を、ティーノに暴かれた恥辱がカレンの胸を焼く。だが同時に、渇望していた直接的な刺激を得て、たまりにたまったもどかしさが、一気に快感へ転じた。
 そして、ティーノの指は、カレンの内側へは向かわず、そのまま粘膜の表面を駆けあがっていく。
「んっ、あっ……はっ……ひああああああああああああっ!」
 指先が膨張しきった突起に触れた瞬間、カレンはこれまでで一番大きな声をあげてぐっと喉を反らした。
「おいカレン、そんなに大声出して大丈夫なのか?」
「やっ……んんっ……ふっ、むっ……」
 あわてて口をつぐむカレン。しかし、湧きあがる快楽を抑えきることはできず、唇の隙間から情感あふれる切なげな吐息がどうしても漏れてしまう。
「まあ、外に気づかれない程度に頼むぞ」
「んんっ……ふあっ、くっ……んあっ……ひむっ……」
 真っ赤な顔をなんとか頷かせるカレンだが、あえぎ声は殺しきれない。もっとも、応接室の壁もドアもそう薄くはないので、悲鳴でもあげない限り、外に漏れることはないのだが……
「それじゃ、まずはこいつの膨らみを抑えないとな」
 相変わらず適当なことを言って、ティーノはクリトリスをコリコリと刺激する。
「んああっ、むっ……ふっ……んっ、ひうっ……んあんっ、ふむっ……」
 ビリビリするような快感を味わいながら、カレンはあえぎ声をあげてはかみ殺すという動作を繰り返す。だが、次第に抑えが効かなくなっていく。
「ああああんっ、んっ……んあっ、ひうっ、むふっ……んっ、ああっ、あああんっ、あはあああああんっ!」
「そんなに気持ちいいのか?」
「んんんっ……ああんっ……ちがっ、ひあんっ、んんっ、あああああんっ!」
 わずかに残った理性が羞恥心を生み、それがカレンに快楽を否定させた。
(ち、治療なのに……感じてるなんて、し、知られたら……)
 だが、ティーノはカレンの心境などお見通しだ。
「カレンは媚薬にやられてるんだから、ガマンしない方がいいぞ」
「ああっ、んんっ……ああんっ!」
 媚薬という免罪符を思いだし、カレンの負の感情がすーっと消えていく。
(そう、だ……これは、媚薬のせい……だから……)
「どうだ、カレン、気持ちいいのか?」
「んんっ……ふああっ……い……いいっ……んっ、あああんっ、気持ちいいいっ!」
 快楽を認めた瞬間、これまでとは違う快感が、ぞくぞくと背筋を走り抜けた。だが、それの正体を吟味する時間も思考能力も、カレンには残されていない。
「あっ、あっ、あんっ、いいっ、気持ちいいっ……んああああんっ、気持ちいいっ、そこ、そこっ、そこっ、そこおおおっ!」
 巧みに指の腹で肉芽を転がすティーノのテクニックに翻弄され、カレンは完全に快楽の波に飲みこまれた。奴○のポーズをとったまま、ビクンビクンと全身を痙攣させる。
「ほーら、これも感じるだろ?」
「感じっ、感じるっ……んあああっ、それっ……んぁっ、すごっ……んああああっ、すごいひいいいいいいいいっ!」
「こうするとどうだ?」
 ぐいっと突起を包皮に押しこむ感じで、小刻みに指先を震わせる。
「ひっ、はっ、ふっ……んんっ、あっ、あんっ、いっ、いいっ、いいっ、いいっ、いいっ、ああっ、いいっ!」
 クリトリスの刺激に合わせて、カレンはぶつ切れのあえぎ声を、連続して漏らした。さらに太腿の痙攣も派手になり、全身がきゅーっと硬直していく。
「イクのか? カレン、イクんだろっ?」
「あっ、んっ、そんな……いやっ……んんっ、あんっ、いいっ、あああんっ!」
「大丈夫だ、イクのは媚薬のせいなんだから」
「ああっ、んっ……そ、そう……媚薬のせい……媚薬の……あああっ、んっ、ふっ、ひあっ、あああああああっ!」
 全てを媚薬に押しつけて、カレンは押し寄せる激流に身を任せる。
「ほら、イクんだ、カレンっ、イケっ!」
 トドメとばかりにティーノが強く肉芽を弾いた瞬間――
「あああああっ、イクっ、イクぅ……あああああっ、イっちゃううううううっ!」
 カレンは奴○のポーズを保ったまま、ガクガクと腰を上下させて、恥辱のアクメを迎えた。

 それからも、治療と称した愛撫は続けられ――
「あああああああっ、イクうううううううっ、またイクうううううううううっ!!」
 カレンはふた桁を超える絶頂を迎え、真っ赤な顔を震わせた。
 そんなカレンを、ティーノは冷静な目で見つめていた。
(……さすがは、三番隊長ってことか)
 これほどの快楽漬けになれば、普通は途中で体力が続かなくなり、奴○のポーズは崩れるのが普通だ。だが、カレンはここまでしっかりとその淫らな格好を取り続けている。さらに、昨夜は一睡もしていないのだ。よほど鍛えてなければこうはならない。
「んっ……はっ……ふあぁ……んっ……んん……」
 カレンは、小刻みに吐息を漏らしながら、うっとりと絶頂を味わっている。媚薬のせいだという免罪符もあって、途中からは治療だという名目も忘れ、純粋にティーノの愛撫を楽しんでいた。
「んんんん……んっ……はあああああぁぁ……」
 絶頂から降りてきたカレンが、大きな吐息を漏らした。
(そろそろ……か……)
 カレンの様子を見て、ティーノは指をゆっくり引き抜いた。
「んああんっ!」
 瞬間、ビクンと身体を震わせて、あられもない声をあげるカレン。だが、そこから次第に理性が戻っていく。
(あ、ああ……自分は……)
 これまでティーノ相手に晒した痴態を思い出し、カレンは赤かった顔を青くさせていく。もう、ティーノの顔を見ていられず、顔を背けた瞬間――
「薬が効いたようだな」
「えっ?」
「いや、だいぶ正気を取り戻したように見えたんだが」
「――っ!」
 ティーノに指摘されて、あらためて気づくカレン。
(そ、そうだ……身体は、もう……)
 奴○のポーズを解き、カレンは自身の状況を確認する。秘奥の熱はなくなり、すっきりとした気分になっていた。
「どうだ? 薬は効いたか?」
「あ、ああ……」
「そうか、よかった」
「っ……」
 笑顔でよかったというティーノを前に、カレンはどうしようもなく恥ずかしくなった。
(向こうは、純粋に治療してくれたのに……自分は……自分、は……)
 いくら媚薬に冒された身体とはいえ、あれほどの痴態をティーノに晒してしまった事実が、今更ながら重くのしかかってくる。
 しかも、ティーノはそんなことがなかったかのように、爽やかな笑顔を向けてくるのだから、余計につらい。
 だからと言って、変態女などと罵られたら、確実に憤慨してしまうが……
「で、このあとのことだが」
「あ、うん……」
「今塗ったのは、あくまでも一時しのぎの薬だってのは、最初に説明したよな?」
「ああ……」
「薬が切れたら、再びうずきだすはずだ。悪いことに、今後は今の薬が効かなくなる」
「なっ、なんだって?」
「身体に巣くった媚薬が急速に耐性を作り出す。たぶん、明日には効かなくなるだろう」
「そんな……」
 愕然とするカレンを見て、ティーノは密かにほくそ笑む。
(バカが、完全に信じてやがる)
 もちろん、そんな気持ちは一切表に出さない。カレンを自分のアジトに連れ出すまでは……
「だが、そんなに心配しなくていい。ちゃんと解毒する方法はある」
「そうなのかっ?」
「ただ、時間がかかるぞ」
「どのくらいかかるんだ?」
「そうだな……一週間くらいか」
「一週間も……」
「言っておくが、通いながらとかはダメだからな」
「えっ?」
「完全に媚薬を抜くには、一週間、俺のラボにこもる必要がある」
 本当は三、四日の予定だったが、イエマの話を聞いて一週間に変更した。半年も働き詰めなら、一週間くらいの休暇は取れると思ったからだ。
 三日あればドール改造を施すことは可能だが、どうせなら時間をかけて、カレンをレベルの高いドールに仕上げてみたかった。
「そ、そんな……無理だっ、そんなに休めるはずがない!」
 昨日は早退し、今日は丸一日休養している。カレンとしてはこれ以上、休むわけにはいかなかった。
 だが、ティーノも引くつもりはない。
「んー……無理だと言われても、俺にはこれ以上短くする腕がない」
「……と、いうと、他にできる人間がいる……?」
「そうだなぁ……レベルの高い魔導士なら……そう、ここの団長とか……」
「――っ!」
「フェジタリアの蒼き知性と言われるその才能は我が国随一。しかも、魔導庁から純度の高い魔導薬は回ってくるわけだし……」
「…………」
 一瞬、アルティエにお願いするという考えも浮かんだが……
(だ、だめだ……団長にこんな話などできるはずがない……)
 誇り高きイノセンシアの隊長であるという思いが、それを打ち消した。無様にも、媚薬に冒されてしまったなどと、団には絶対に知られたくない。
 ティーノもそれがわかっていて、わざとアルティエの名前を出したのだ。
「どうする? 団長にお願いするか?」
「……それは、無理だ。団長も忙しいお方だから……」
「そうか。しかし、そう言われると、まるで俺が暇そうに聞こえるが」
「えっ? い、いや、決してそういう意味では……」
「本当のことを言うと、俺は明日から魔導触媒を買い付けに、外国へ行く予定なんだ」
「あ、明日からっ?」
「そうだ。出たら一週間は帰ってこないぞ」
「一週間も……」
「その間に、さっき塗った薬は切れて、またうずき出すのは確実だ」
「っ……」
 カレンの頬に、冷や汗が伝う。
(あ、あれはもう、絶対にイヤだ……)
「というわけだから、もし、俺に治療を任せるつもりであれば、早急に決断してくれ。今ならまだギリギリ外国行きはキャンセルできる」
「い、いいのか……?」
「一応乗りかかった船というか、初期治療に失敗した責任も感じているからな」
「す、すまない……本当に……」
 男の義を感じ、カレンは心の底から感謝した。
 だがもちろん、すべてはカレンに恩を売るためのウソ話だ。そして、押し売りした恩を回収するための無茶振りをはじめる。
「ただ、やる以上は、今度こそ完璧にやり遂げたい。だから、一週間の期間が必要だ」
「っ……」
「今から上にかけあって、一週間の休暇を取ってきてくれ。それが、治療を引き受ける条件だ」
 ドールに改造したカレンを、ただの愛奴として自分のそばにおいておくのなら、休暇を取らせる必要はない。勝ち得た信用を元に適当な理由をつけて自分のアジトまで連れ出せばいいだけだ。
 しかし、この女はスパイとしてイノセンシアに戻すつもりなので、しばらくカレンが姿を消しても、ここの連中に不審を抱かれないようにしないとならない。
 そのためには、どうしてもカレンに休暇を取ってもらう必要があった。
「どうだ? むずかしいか?」
「…………」
 そこで、カレンは押し黙り、考えるような仕草を見せる。
(たぶん……休暇は、とれるはず……)
 実は、アルティエに今日も休むようにと言われたとき、少し長めの休みを取るよう勧められていたのだ。そのときは断ったが、今から申請しなおせば、たぶん休暇は取得できるだろう。
 あとは、こんなことで長期休暇を取るという罪悪感との闘いだが……
「……わ、わかった。団長に、申請してみる」
 さほど長考することもなく、カレンは休暇申請することを承諾した。
 期間短縮をお願いしたい気持ちもあったが、カレンはそれを口にしなかった。予定を変更して自分の治療を優先してもいいと言ってくれている相手に対して、これ以上譲歩を迫るのはあまりにも厚かましいと考えたのだ。
「じゃあ、早速今から行ってくれるか?」
「わかった。しばらくこの部屋で待っててもらえないだろうか?」
「了解した」
 頷いたティーノを残し、カレンは部屋を出ていった。

 それから、待つこと十数分――
「……お待たせした」
 カレンが応接室に戻ってきた。
「どうだった?」
「……一週間の休暇をいただくことができた」
「そ、そうか、それはよかった」
 満額回答に、さすがのティーノも笑みをこぼす。
「それで、このあとどうすれば……?」
「いったん別れて外で待ち合わせしようか?」
「外で……?」
「他の団員の目もあるから、ふたり一緒にここを出るのはあんまりよくないと思ったんだが」
 一度別れるのはリスクになるが、それ以上に自分たちが一緒にいるところをできるだけ他人に見られたくない。のちのちカレンはスパイとして働き出すことになるが、その活動に失敗すれば、なんらかの嫌疑をかけられるだろう。
 そのときにカレンと通ずる人間として、媚薬屋ヴァレンティンが浮上する可能性をできるだけ小さくしたいのだ。
「……そうだな、そうしよう」
 ティーノの思惑など知るよしもなく、カレンは頷いた。
「じゃあ、七番街の噴水広場で待っている」
「わかった」
 約束を交わして、ティーノはイノセンシアを後にした。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

チェーンライド 2018/05/12 10:00

姫騎士隊長洗脳改造 第二章

第二章 蝕む媚薬

 ハンドラ大陸の南西に位置するフェジタリア連合王国。建国二百五十年を越える歴史を持ち、ハンドラ三大国のひとつと称されるほど、大きな領土を抱えている。
 そのフェジタリアには、王都フェリナスルに隣接する巨大な繁華街、ラビオスがあった。様々なマーケットが集まり、国内外から多くの人々が買い物に訪れる活気のある街だ。
 しかし、夜になるとラビオスはその貌を一変させる。大陸随一と言われる色街になるのだ。多くの娼館が店を構え、男たちに一夜限りの快楽を提供している。
 その稼ぎは莫大で、国の税収の二割はこの街が生み出していると言われている。フェジタリアにとって、ラビオスはなくてはならない存在だった。
 それゆえに国からは破格の扱いを受けていた。ラビオスは、独立国家に近いレベルの、強大な自治権を持っているのだ。
 ラビオスは、その自治権を盾にして、国の方針に逆らうことがある。半世紀ほど前に、国際的な流れに沿ってフェジタリアが批准した奴○禁止条約を無視したのが、その最たる例だ。
 ラビオスの中では、娼婦となる奴○少女の取引が、公然と行われた。国も、税収が減るのを恐れて事実上黙認するしかなかった。
 しかし、いまの国王、アロザール・エルバレッタ・イニシアが即位して状況が一変する。国際的に非難されていたラビオスの奴○取引を、完全禁止としたのだ。
 ラビオスの自治評議会は激しく反発したが、本気になった国にはかなわない。奴○ブローカーは追放され、不本意に娼館で働かされていた奴○少女は解放された。
 だが、これでめでたしめでたしとはならない。娼館の衰退により、ラビオスからの税収が激減したフェジタリアは、大不況に突入したのだ。特に地方の不景気は深刻で、娘を売って食いつなぐ家が増えた。
 結局、奴○売買は地下にもぐっただけで、なくなることはなかった。
 ただ、売られてきた少女を買っても、当局に訴え出られるとおしまいだ。そこで娼館は、女の肉体にいやらしい改造を加える、改造屋と呼ばれる魔導士に、精神の改造も依頼するようになった。
 精神を書き換えられて、偽の名前と記憶を与えられた娼婦は決して裏切らない。当局の捜査に対しても、自分の意志で娼婦になったと証言してくれる。娼館にとっては、完璧な存在だった。
 やがて、彼女たちは裏社会で一般的な存在になり、ドールと呼ばれるようになった。
 こうして、ドールという使い勝手のいい商品を手に入れた娼館は、当局に取り締まられることもなく、業績を回復させていった。国の税収も、全盛期の八割までは回復した。
 だが、その頃からドールの廃人化という現象が起きはじめた。多くの改造屋が、きちんとした精神改造の技術を持っていなかったせいだ。
 やがて問題が表面化し、国としても放っておけなくなったが、その対応はかなり消極的だった。奴○禁止を厳格化して税収を減らした苦い経験が、彼らの手足を縛りつけた。国王も、即位したばかりの頃と違って、理想だけでは国が回らないことを理解していた。
 場当たり的な対応しかしない国に対して、しびれを切らす者がいた。
 王位継承権の第一位にいる、国王のひとり娘、シエスタ・ベルダード・イニシア姫だった。
 彼女は、ドールを生み出す改造屋と、地下にもぐった奴○ブローカーを取り締まる組織、イノセンシアを立ちあげた。
 ただ、強い自治権を持つラビオスには、自警団という独自の警察機構がある。あらたに、国から警察組織的なものを受け入れたくないので、評議会は激しく抵抗した。
 アロザールが即位した頃なら、それでも強引にねじ込んだだろうが、いまはそうではない。多くの税をもたらしてくれるラビオスの要請を無視するわけにはいかなかった。
 結局、イノセンシアには多くの制限がつけられた。中でも、一番大きなものは、夜間の活動自粛だ。開放的な夜の色街に、取り締まりをする人間がうろつくのは困るという理由からだった。
 シエスタは反発したが、それを飲まないと組織の立ちあげは白紙になると言われて、最終的に受け入れた。どれだけ制限されたとしても、ないよりはマシだと思ったからだ。
 こうして、独立女子騎士団、イノセンシアが発足した。今から一年前のことだった。

 コンコンコン……
 背筋を正し、カレンは『団長室』と書かれている扉をノックした。
「失礼します……」
 数拍おいてから、扉を開けて入室する。
「あら、カレン、いらっしゃい」
 部屋中央のデスクに鎮座している、カレンよりも若く見える女性が、にこやかに対応した。
 彼女は、イノセンシア初代団長、アルティエ・フィアレス。
 国王アロザールの大きな後ろ盾となった忠臣フィアレス侯爵の孫娘。そして、彼女を団長に任命した幼なじみ、シエスタ姫もその隣にいた。
「あ、姫様……」
「昨日ぶりね、カレン」
「連日こちらにいらっしゃるとは……なにか、大きな案件が……?」
「ううん、そうじゃないの。二日続けてアルに用事があっただけ」
 団長デスクに座る同い年の幼なじみを愛称で呼び、くすっと微笑んだシエスタ。くったくのない笑顔は、年相応のかわいらしい少女そのもので、とても一国の将来を担う運命を背負っているようには見えない。
 そして、シエスタに拝み倒される形で、ここの団長に就いたのがアルティエだ。
 そのアルティエが、カレンに訊ねる。
「それで、どうしたのかしら?」
「あ、はい。実は、検問の際に我が隊の隊員が、市民の所持品を破損してしまったのですが……」
「もしかして、イエマ?」
「はい……」
「あはは、あの子、そそっかしいもんね」
「…………」
 姫様に指摘され、さらにくすくすと笑われてしまい、カレンは恐縮してしまう。
「それで、その方には、きちんと謝罪されましたか?」
 笑うシエスタの横で、アルティエが再びカレンに訊ねた。
「はい、それはもちろん。ただ、その壊した所持品が毒性魔導薬でして……」
「えっ? イエマは大丈夫だったのですか?」
「大丈夫です。その方に中和薬を調合してもらい、事なきを得ました」
「そうですか、安心しました」
「それで、破損した薬液と解毒処置にかかった分を……っ!?」
 瞬間、カレンの身体の芯がズキンとうずいた。
(えっ? こ、これは、まさか……)
「……かかった分を、どうされたのですか?」
 カレンの変化に気づくこともなく、アルティエは途切れた言葉の続きを求めた。
「え、ええと、ですね……我々で、負担すると、先方に……」
「ああ、そういうことですか。それで、市民の方にはもうお支払いを?」
「い、いえ……明日、申請してもらうことに……」
「わかりました。そのことは、きちんと経理の方に話をとおしておきます」
「――っ!」
(あ、ああ……そんな……また、媚薬が……?)
 昼間に味わったあの淫らな感覚が、ゆっくりと、しかし確実に湧きあがってきている。
「……どうしたの? カレン?」
 これまで、ふたりの会話を黙って聞いていたシエスタが、カレンの様子にきづいて訊ねた。
「な、なんでもありません……大丈夫です……」
「そうかなぁ……なんか、顔、赤くない? アルもそう思うでしょ?」
「そうね……たしかに……」
「っ……」
 ふたりにじっと覗きこまれて、カレンは思わず顔を逸らした。
(ふ、ふたりに気づかれるわけには……)
 気を強く持って耐えようとするカレンだが、美肉は熱を孕み、じゅくじゅくと粘っこい樹液を分泌しはじめる。
「やっぱり、少し普通ではないようですね」
「アルがそう言うんなら間違いないわ。ゆっくり休んだら?」
「い、いえ、しかし……」
「いいですよ、今日の任務時間はもうすぐ終わりますし……なにより、カレンは全然休んでませんから」
「――っ!」
 アルティエに反論しようと瞬間、さらに強烈なうずきが秘部を襲った。我慢しきれずに、カレンはすりすりと股をこすり合わせてしまう。
「だ、大丈夫? ホントに休んだ方がいいわ」
 シエスタもカレンの異変を直接感じ取り、諭しはじめた。
 そして、トドメと言わんばかりに――
「これは団長としての命令です、今日はもう休みなさい」
 アルティエはぴしゃりと命令した。
「わ、わかりました……」
 ツートップにそうまで言われて、返せる言葉はなかった。カレンは深々とお辞儀して、一歩さがる。
「そ、それでは、お言葉に甘えて、休ませて頂きます……」
「ご苦労様っ!」
「ご苦労様でした。しっかり、休んでくださいね」
 ふたりにねぎらいの言葉をもらったカレンは、もう一度深々と礼をして、部屋から出ていった。
「……彼女、がんばりすぎじゃない?」
 ふたりきりになると、シエスタは姫ではなくひとりの少女の顔に戻り、アルティエに話しかけた。
「そうなのよね……まあ、いろいろ責任を感じてるのでしょうけど……」
「責任って……あれのこと?」
「ええ……」
「突撃隊長として、十分役割を果たしたと思うんだけどなぁ……」
「私もそう思うのだけれど、やはり、自分のせいで相手を取り逃したという思いが強いみたいで……」
「うーん、カレンを責任から解放してあげるためには、あの男を捕まえるしかないということか……」
「ただ、捕まえようにもどこに潜伏してるのか、全然わからないまま半年が過ぎてしまったわ」
「というわけで、わたしたちは今できることをやるしかないのよ」
「……そうね」
 シエスタの言葉に、アルティエは静かに頷いた。

 ガチャっ、バタンっ!
 乱暴にドアを開閉したあと、自室に入ったカレンはすばやくイノセンシアの特殊装備をはずし、ベッドに身体を投げ出した。
「っ……くぅ……」
 ためらうことなく股間に手を這わせ、キンキンに膨らんだ肉芽をコリコリと刺激しはじめる。
「んんんっ、あっ、はぁっ……あっ、あんっ、ああっ、んあんっ!」
 ビクビクっと肩を震わせて、あられもない声をあげるカレン。昼間の時と違って、誰かの視線を気にする必要はない。
「あっ、あああっ、んっ、あはんっ……んっ、あうっ……あっ、ああんっ、んんっ……」
 大胆な指遣いでクリトリスをこすり、腰もくいくいといやらしく上下させる。カレンがこれほど淫らなオナニーに興じるのは、生まれてはじめてのことだ。
「あふっ、んむっ……んああああっ、いいっ……ああんっ、いいいっ……」
 自慰に耽っていると、昼間のイエマの姿が脳裏に浮かんだ。自然と同じポーズを取るように、足を大きく開いていく。
「ああっ、こんなっ……んっ、あんっ、恥ずかしいっ……でもっ、あっ、はぁっ……んんんっ、気持ちいいっ!」
 淫らなポーズを取ることで、より性感が昂ぶるのか、カレンのあえぎ声はさらに大きくなった。指の動きもどんどん激しくなり、とうとう熱くぬかるんだ粘膜へ中指を差し入れる。
「ひううううっ!」
 自分の指を熱くうずいた美肉で咥えこむと、カレンはビクビクと激しく全身を痙攣させた。そして、最初の強い刺激に慣れると、指をずぽずぽと出し入れしはじめる。
「んっ、ふっ……んあっ……ひんっ……あっ、あっ、あんっ、あはんっ!」
 指のピストンに合わせて、小刻みにあえぎ声を漏らすカレン。鍛えられた太腿も、ピクピクと淫らに痙攣している。
「ああっ、いいっ、んっ、いいっ……ああんっ、気持ちいいっ、気持ちいいっ、気持ちいいいいっ!」
 あふれる快楽をそのままあえぎに乗せて表現する。普段は凜としているその顔も、今はとろけて朱に染まっている。もう、限界が近そうな雰囲気だ。
「あっ、はあああっ……んふんっ、もうすぐっ……んああんっ、もうくるっ……ああっ、もうきちゃうっ!」
 きゅーんと背筋を突っ張らせ、カレンは間もなくアクメに達することをひとり告げる。
 そして――
「んあああああっ、もうイクっ、イクっ……ああああああああっ、イクうううぅっ!!」
 こらえることもなく、たまった欲望を解放するように、カレンは絶頂に達した。
「んんんっ……はっ……ぅ……っ……」
 時折ぴくっと身体を痙攣させながら、激烈な絶頂感を味わう。これほど深いエクスタシーを味わうのも生まれてはじめてのことだった。
「っ……んん……ふぁ……」
 頭の中は真っ白で、ふわふわと宙に浮いている感じ……
 気持ちよくて、ずっとこのままでいたいと願ってしまうが、それは叶わない。アクメによって呼吸がままならず、酸素が足りなくなってきた。
「んはっ……んんっ……ふあっ……はぁ……」
 口をぱくぱくとさせて、ぎこちない呼吸をはじめるカレン。次第に苦しさは和らぎ、絶頂感も薄らいでいく。
 普通なら、このまま落ち着きを取り戻すのだが――
「――っ!」
 ズキンと秘奥が再びうずきはじめた。
(ど、どうして……っ?)
 心の中で問いかけたが、その答えもカレンは知っている。
 そう、媚薬のせいだ。
 ティーノからもらった薬では中和しきれず、再び中枢神経を狂わせはじめたのだ。
「ああああぁ……」
 ティーノに自身の状況を正確に伝えなかったことが悔やまれる。だが、いくら悔やんでももう遅い。自分のせいで、解毒しきれなかったのだ。
「ああっ……中毒に、なるなんて……いや……あっ、んああんっ!」
 媚薬中毒者になってしまうという恐怖に震えながらも、湧きあがる淫欲には逆らえず、カレンは再びオナニーをはじめるのだった。

(しまった……)
 後悔したときにはもう遅かった。ティーノの喉元には、鋭い剣先が突きつけられていた。
「おとなしくしろっ! もう逃げられないぞっ!」
 ティーノに剣先をかざしたカレンが、強い語気でそう言い放った。
 たしかに、状況はそのとおりで、ティーノは完全に詰んでいた。
(くそ、せめて一瞬でも気を逸らせれば……)
 しかし、ヘタに動けば相手は躊躇なく、自分の喉を貫くに違いない。
 文字通り、万事休すだったが――
「ご主人様ぁっ! 逃げてくださいいいいいっ!!」
 イノセンシアの団員に保護されようとしていた、ティーノが最も寵愛していたドールが突然走り出し、ふたりの間に入ろうとする。
「――っ!?」
 とっさに、そちらへ視線を向けたカレン。その隙をティーノは見逃さない。
「っ!」
 かちっとスイッチを押した瞬間、ティーノの周りにボンと煙が発生する。
「えっ?」
 慌てて視線を戻したカレンだが、もう遅い。あっという間に煙が室内に充満し、ティーノの姿は見えなくなってしまった。
「逃がすなあっ! 絶対に確保するんだあああああぁっ!」
 カレンの絶叫が室内に響いて――
「……っ!」
 ティーノの視界は、真っ白な煙から、無骨な天井へと変わった。
「…………」
 今のが夢だとわかり、安堵するティーノ。しかし、すぐさま腹立たしくなる。
「ちっ……」
 今見た夢は半年前にティーノが体験した、現実の出来事なのだ。
 用心深く、摘発に対しては再三の注意を払っていたティーノが、そんな憂き目にあったのは、師匠の代から長年の顧客であった大臣が裏切ったからだ。
 その大臣は、不正蓄財が明るみに出て、更迭どころか投獄されかねない状況にあった。そこで、シエスタに司法取引を持ちかけたのだ。改造屋の情報を提供する代わりに、執行猶予をつけてもらえないかと。
 シエスタは大臣との取引に応じ、ティーノのアジトへ踏み込むことに成功した。だが、その後の展開は、さっきの夢のとおり、ギリギリのところで取り逃している。
 ティーノは、急襲された応接用のサブアジトを捨て、誰にも存在を明かしていないメインのアジトにこもった。当然、そこは大臣も知らない場所なので、イノセンシアも追い切れない。
 こうして、メインアジトに潜伏しながら、ティーノは復讐の計画を練った。
 そして半年経った今、ついに反撃ののろしをあげたのだ。
「ふぅ……」
 完全に目が覚めて、ティーノはひと息ついた。
 時計を見ると、ちょうど日付が変わる頃だ。
(……カレンのやつ、今頃寝られなくて困ってるだろうな)
 宿敵の惨状を思い、にやりと笑う。きっと、カレンは中毒患者のようにオナニーを続けているに違いない。
 実は、カレンに飲ませた中和薬は二層構造になっていて、中心部のカプセルに、強烈な媚薬がしこまれていたのだ。
 カプセルが胃液に溶かされ、媚薬の効き目が現れるのは夕方過ぎ。きっとそれからは、何度オナニーしても満たされないまま、カレンはもんもんとした時間を過ごしているだろう。
 たぶん、今日は一睡もできずにオナニーし続けるだろうとティーノは確信している。
(明日会いに行ったら、きっと目の下が真っ黒だぜ)
 オナニー疲れで憔悴しきったカレンの姿を想像すると、にやにや笑いがとまらなくなる。だが、そこからが勝負なのはティーノもわかっている。
(大丈夫、俺は完璧だ。明日はすべてうまくいく……)
 ベッドの上でひとり頷き、ティーノは明日の成功を確信した。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

チェーンライド 2018/05/11 09:59

姫騎士隊長洗脳改造 第一章

第一章 はじまりの罠

 街頭に、ひとだかりができていた。
「さあさあさあ、昨日も出たよ出ましたよ! 光翼天使(こうよくてんし)サルヴァシオン! 今度は、八人の奴○少女の救出に成功だ!」
 中心にいるのは新聞屋だ。今日のトップ記事は、数ヶ月前からこの街に現れた、正体不明のふたり組が起こした事件のようだ。
 新聞屋を取り囲む群衆は、我先にとコインを差し出して新聞を買っていく。
「毎度ありっ、毎度ありっ」
「いくらだ?」
 他の客がある程度はけたところで、男は新聞屋に訊ねた。
「十チェンになります」
「……ほら」
「毎度ありーっ!」
 コインの替わりに差し出された新聞を受け取り、男は新聞屋から離れた。そして、歩きながら紙面を覗きこむ。
 どこからともなく現れた謎のふたり組が馬車を急襲し、御者を捕縛する。そして、荷台の中にいた奴○少女を救い出すと、ふたりは空を飛んで闇夜の中に消えていく――
(毎度代わり映えしない記事だな……)
 いつもいつも同じストーリーにうんざりして、男は新聞をくずかごに捨てた。
「さて……」
 あと少し歩けば、この国最大の魔導石マーケットがある五番街に着く。しかし、男の目的は買い物ではない。
(お……やってるやってる)
 五番街に差しかかったところで、遠目に人の集まりが確認できた。さきほどの新聞屋のひとだかりとは違い、整然と人が並んでいるように見える。
 さらに近づくと、検問が行われている様子が目視できた。特に混乱はなく、人々は粛々と尋問者の質疑に応答しているようだ。
 その検問を行っている連中は特徴的だ。国の騎士団を模した装備を身につけているが、それで身体が守れるのか不思議に思えるほど、肌の露出が多い。
 だがそれは、最先端の魔導技術によって作られた特殊装備であり、身につけた者の身体能力を極限まで高めてくれる代物だ。装着すれば、屈強な男でも一撃で倒せるらしい。
 そして特徴的なのはその装備だけではない。ひとりも男がいないのだ。
 彼女らは、女性のみで構成された独立女子騎士団(どくりつじょしきしだん)、またの名をイノセンシアという、ある犯罪に特化した警察組織の人間だ。
(……よし、三番隊だな)
 男は、彼女らの装備につけられているエンブレムに、矢の絵が三本あるのを見つけて、小さく拳を握りしめた。
 それから、荷物の中をそっと確認して男は列に並んだ。それなりの人数が並んでいたが、列のはけはそんなに悪くない。検問と言っても、身分確認と荷物検査程度のことなので、ひとり一、二分で終わる。
(あいつは……どこにいる?)
 待っている間に、さりげなく団員の顔をひととおり確認したが、お目当ての人物は見あたらなかった。たぶん、脇に設営してある簡易テントの中にいるのだろう。
「それでは、次の人」
 十分くらい待ったところで、男の順番がやってきた。手を挙げて声をかけたイノセンシア団員の前まで行く。
「お、お忙しいところ、お待たせしまして大変申し訳ございません」
 男を呼んだ団員は、若干緊張した面持ちで応対した。見ればまだ幼さの残る顔立ちをしており、つい最近入団したのだろうという予想が立つ。身につけたイノセンシアの特殊装備は他の団員と変わらないが、ランクを示すバッチがついていない。もしかしたら、正式な団員ではなく、見習い扱いなのかもしれない。
「え、ええと、それでは、お名前などが確認できる、身分証のようなものはお持ちですか?」
「……はい、どうぞ」
「ありがとうございます……えーと、バレンティン・トーレスさん……魔導士をされてるんですか?」
「そうです」
「身分証ありがとうございました、お返しいたします」
 なんら不審を抱かず、イノセンシア団員は男に身分証を返した。
 しかし、その身分証に記載されている情報は、なにもかもウソだった。もちろん、バレンティン・トーレスも偽名だ。男の真の名前は、ティーノという。
「それでは、お荷物拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「どーぞ」
 偽の身分証を信じた団員はティーノからバッグを預かり、中を確認するためひもを緩める。
 そして、中を覗きこみ、手を入れた瞬間――
「きゃああっ!?」
 ブシュっと煙が吹き出して、団員の顔を直撃した。
「お、おいっ!」
「ケホッ、ケホっ……かはっ!」
 一瞬で煙は消えたが、団員は思いきり吸いこんだようで、激しく咳きこんだ。その様子を見て、あたりが騒然とする。
「おい、大丈夫か?」
「ケホっ……は、はい……すみません……かはっ……」
 まだ咳は切れないものの、団員はどうにか落ち着いてきた。
 と、そこで、周りの人々を掻きわけるようにして、誰かが近づいてくる。
(来たな……カレン……)
 寄ってきた人物の顔を見て、ティーノはニヤリと口元を歪めた。
 その人こそ、イノセンシア三番隊隊長、カレン・アペリティだった。
「どうしたイエマ? なにがあった?」
 いまだ苦しげに顔を歪めている団員に近寄り、ことの成り行きを訊ねたカレン。だが、イエマと呼ばれた団員が答える前に、ティーノが口を開く。
「あんた、隊長さん?」
「……ん?」
 ふたりは、半年ぶりに顔を合わせた。しかし、カレンは相手の正体に気づかない。なぜなら、ティーノが魔導器を使って顔を変えているからだ。
「いかにも、自分がこの三番隊を率いているカレンだ。して、部下があなたになにを?」
「俺の魔導薬をひとつ台無しにしてくれたんだよ」
 そう言って、ティーノは自分のバッグの中から、ふたの開いた小ビンを取り出し、カレンの前に差し出した。
 ティーノから小ビンを受け取り、中身を確認するが、なにも入っていない。
「なにも入っていないが?」
「ふたが開いてほとんど蒸発しちゃったんだよ、ほら、ビンの隅に少し残ってるのが見えないか?」
「ええと……」
 注意深くビンを観察するが、やはりなにも残ってないように見える。それどこか、薬品的な匂いも感じられない。そこでカレンは、無意識に近い形で鼻を寄せ、ビンの中をくんとひと嗅ぎしてしまう。
 その行動を、ティーノは見逃さない。
「あっ!」
 ティーノはわざと大げさに驚いてみせて、カレンの動揺を誘う。
「んっ? ど、どうかしたか?」
「いや、今嗅いじゃったよな?」
「な、なにかまずかったか……?」
「ええと……」
 大きな声では言えないという感じで、手招きをするティーノ。それに反応してカレンが顔を寄せると、そっと耳打ちする。
「……それ、娼婦に使う媚薬」
「びっ!?」
「隊長さん、ちょっと吸いこんじゃったよな?」
「っ……」
「で、隊長さん以上にヤバいのが、あんたの部下さん。ひとビンほとんど吸っちゃったみたい」
「イ、イエマっ、大丈夫か?」
 慌ててカレンは振り返り、部下の様子をうかがう。
「は、はい……もう、落ち着きました」
「そ、そうか……」
「おいおい、咳がとまっただけだろ、薬の効果はこれから現れるぞ」
 ティーノの言葉に安堵しかけたカレンの顔に、焦りの色が再び灯る。
「……イエマは、いったいどうなってしまうんだ?」
「数十倍に希釈して使う媚薬の原液をあれだけ吸っちゃったからな、このまま放置したら、間違いなく媚薬中毒になるだろう」
「び、媚薬中毒……?」
「まあ、あんまり大きな声じゃ言えないけど、常に発情しっぱなしで、セックスしてもしても満足できない身体に……」
「き、貴様ぁああっ!」
「ちょっ? 俺が悪いのかよ」
「っ……す、すまない」
 さすがに筋違いな怒りだとカレンも理解し、ティーノに謝罪した。
 そんなカレンの動揺っぷりを楽しみつつ、ティーノは話を続ける。
「とにかく、一刻も早く対処した方がいい」
「対処!? できるのか?」
「俺のラボに戻れば中和剤を調合することは可能だ。それを飲めばなんとかなると思う」
「そ、そうか、すまないが、その中和剤というやつを作ってもらえないだろうか?」
「それはかまわないが、一緒にラボまできてもらうぞ?」
「一緒に?」
「往復してる時間的余裕はないと思う。即効性がウリの媚薬だからな」
(こんな男に、イエマを預けて大丈夫なんだろうか……)
 カレンはわずかにためらいの表情を見せた。事態は急を要するが、媚薬を持ち歩くような男に部下をひとり預けるのはやはり危険……
「……自分も一緒に行こう」
「ん? 端からそのつもりだが」
「なに?」
「隊長さんも媚薬を嗅いじゃっただろ、覚えてないのか?」
「あ……」
「微量とはいえ、体質によってはキマってしまう場合もあるからな。ついでに隊長さんの分も用意してやるから、一緒に来るんだ」
「わ、わかった、お願いする」
 イエマだけではなく、自分も媚薬中毒になる可能性がある。さすがのカレンも不安を覚えて、ティーノの言葉に頷いた。

 五番街で拾った辻馬車に揺られること三十分あまり――
「さ、着いたぞ」
「……ここが、おまえのラボだと言うのか?」
 ティーノに続いて馬車を降りたカレンが、驚きの表情を見せた。
「おかしいか?」
「おかしいもなにも……ここは宿屋だろう?」
「そう、宿屋だ。一室を無期限で借りて、そこをラボにしている」
「なんでまたそんな……」
「同じラボだと飽きて煮詰まるんだよ。だから、定期的に環境を変えるため、宿屋を渡り歩いてるのさ」
「はぁ……」
「とりあえず、無駄話に興じてる暇はないと思うが?」
 そう言って、ティーノは最後に馬車から降りたカレンの部下、イエマ・エフィメラを指差した。
「っ……」
 媚薬に身体が冒されはじめたのか、イエマは真っ赤な顔でふらふらと身体を揺らしている。
「イエマっ、大丈夫か?」
「た、隊長……すみません……」
 ふらつくイエマに肩を貸したカレン。そして、ティーノへ向き直る。
「それじゃ、部屋まで案内してもらえるか?」
「わかった、ついてこい」
 ティーノを先頭に、三人は宿屋へ入った。そのままフロントの前を通過するが、従業員はティーノの顔を見ると笑みを浮かべて会釈するだけで、呼びとめたりはしない。
(この宿に住み着いてるってのは、本当なんだな……)
 ティーノが顔パスになっているのを目の当たりにして、カレンはようやくこの魔導士の話を信じた。しかし、男の人間性まで信用したわけではない。
 馬車の中で軽く自己紹介しあったが、男は自分の仕事を媚薬屋だと言っていた。正直、女を弄ぶような薬を作るような人間がまともなわけがない。どさくさに紛れてイエマにおかしなことをしないか、鋭く目を光らせる必要がある。
「さ、こっちだ」
「ん……? これは……」
「昇降器だ。見たことないか?」
「いや、王城では何度か……」
 魔導石の振動力を利用した昇降器は、百年ほど前にはじめて作られ、王城などで利用されるようになった。四半世紀前くらいから民間の建物でも見られるようになったが、とても高価な代物であり、そう簡単にはお目にかかれない。
「……ここは、そんなに高級な宿屋なのか?」
「そう見えるか?」
「いや……」
「まあ、一点豪華主義ってやつだ。俺はこれが気に入って、この宿に住んでるんだよ」
「そうなのか……」
 そんな話をしているうちにチャイムが鳴り、昇降器のドアがゆっくり開いた。
「ほら、乗った乗った」
「わかった……イエマ、大丈夫か?」
「は、はい……」
 肩を貸したまま、カレンはイエマとともに昇降器へ乗り込んだ。ふたりが中へ入ったあと、ティーノも乗りこみ、最上階行きのボタンを押した。
「最上階?」
「ここは昇降器があるから、最上階が一番高い部屋なのさ」
「なるほど……」
 ティーノの言葉に、カレンは納得した。
 普通は階段がしんどいので、最上階付近の部屋は割安なのだが、昇降器がある宿では逆となる。実際、昇降器を備えた高級高層宿は最上階がもっとも高い。
「よし、ついたぞ」
 どうでもいい話をしているうちに、最上階についた。昇降器から降りて、まっすぐティーノの部屋へ向かう。
「さ、入ってくれ」
 ドアマンのように部屋の扉を開けたティーノが、カレンたちに入室を促す。
「……わかった」
 なにか仕掛けてある可能性も考え、カレンはイエマを抱えながら、慎重に部屋へ入っていく。だが、部屋の中はいたって普通の宿という感じで、特に不審な点はないように見える。ただ、一番高いというだけあって、ここだけではなく複数の部屋があるようだ。
「じゃあ、部下さんはそこのソファに」
「ああ」
 頷いて、カレンはイエマをそっとソファに座らせた。そして、その顔を覗きこみ、話しかける。
「……大丈夫か?」
「はい……なんとか……んっ……あっ……」
 真っ赤に顔を火照らせたイエマは、身体をピクっと震わせて、切なげな吐息を漏らした。
 イエマが媚薬によって性感を狂わされていると、性的な経験に乏しいカレンでもさすがにわかる。
「いかんな、思ったよりも猶予がなさそうだ」
「な、なんだと?」
「悪いが隊長さん、ちょっと手伝ってもらうぞ」
「自分が手伝えば、イエマは元に戻るのか?」
「そうだ。一緒に隣の部屋へ来てほしい」
「わ、わかった」
 ティーノは必死の形相で頷いたカレンからイエマへ視線を移す。
「部下さんは、そこで休んでてくれ。辛いようだったら、横になってていいから」
「は、はい……っ……」
 発情している姿を見られるのが恥ずかしいのか、イエマは顔を背けたまま、小さく頷いた。
 そんなイエマの心情を察して、カレンはティーノに視線をはずすよう言おうと思ったが――
「それじゃ隊長さん、いくぞ」
 注意するまでもなく、ティーノは視線をカレンに戻し、隣の部屋へ移動するよう促した。
(こいつ……意外と……)
 思ったよりも紳士的な行動を取るティーノに感心してしまうカレン。皆無だった媚薬屋に対する信頼感が、少しずつ芽生えはじめている。
「どうした? いくぞ」
「あっ? ああ……」
 慌てて頷き、カレンはティーノに続いて隣の部屋へ入った。
 カレンが通された部屋は、いかにも魔導士のラボという感じで、実験用の機材がいくつも並べられていた。
「で、自分はなにをすればいい?」
「そこに小窓があるだろ? 覗いてみろ」
 言われるまま、ティーノが指差した小窓を覗く。
「ん? これは……」
 カレンの視界に飛びこんできたのは、これまでいた応接間だ。ソファの上でもじもじと身体を揺らしているイエマの姿もよく見える。
「隊長さんはそこから部下の様子に変化がないか、見張っててくれ」
「えっ? 手伝うというのは、それだけ……?」
「そうだ」
「だったら、イエマのそばについててやった方が……」
「おいおい、あんたが横にいると、恥ずかしくてできないだろ?」
「できないって……?」
「だから、オナニー」
「――っ!?」
 卑猥な単語にかあっと頬を赤らめるカレン。しかし、ティーノは特に反応することなく淡々と話を続ける。
「部下さんは、もう完全に発情しきってる。オナニーで発散しないと気が狂いかねない」
「…………」
「だから、彼女が心置きなく発散できる環境を作ってやろうと思って、あんたをこっちに連れてきたんだ」
「そ、そうだったのか……」
 ティーノはしっかりイエマの体調を考えて行動してくれていた。そんな彼に、どこか疑いの眼差しを向けていた自分が恥ずかしくなる。
 カレンはイエマを救うため、媚薬屋というネガティブな先入観を捨てて、今後はティーノのやることに協力しようと思った。
「とりあえず、自分はここからイエマの様子をうかがっていればいいのか?」
「そうだ」
「しかし、ここから覗いていることを、イエマにはきづかれないのか?」
「大丈夫だ、向こう側から見るとその窓は鏡になってるから」
「そうなのか……不思議な魔導器もあるものなんだな……」
「それじゃ、俺はこれから調合に入るから、隊長さんは、部下の様子を逐次報告してくれ」
「逐次、というと……?」
「そうだな……オナニーをはじめたときとか、どこをいじってるとか、イったときの様子とか」
「そ、そんなことを自分に報告しろと言うのかっ?」
「発情度合いによって、中和薬を微調整する必要があるんだよ。それに失敗すると、彼女は媚薬中毒から抜け出せなくなる」
「っ……」
「もちろん、俺が調合しながら様子を見てもいいんだが、部下の痴態を男に見せるのは抵抗があるだろ?」
「それは……たしかに……」
「だろうと思って、隊長さんにお願いしたんだが……どうする?」
「ど、どうすると言われても……」
 イエマのことを思えば、答えはひとつだ。
「わ、わかった……自分が、イエマの様子を報告する」
「悪いな、隊長さんにまで余計な恥をかかせることになってしまって」
「いや……こちらこそ、いろいろ気を遣わせてすまない……」
「じゃあ、早速頼む……っ……」
 真面目な顔をして頭をさげるカレンを見て、ティーノは震えながら背を向けた。震えているのはほかでもない、今にも噴き出しそうなのだ。
 だが、ここで笑ってしまっては、すべてが台無しになる。ティーノは横隔膜をぐっと強張らせて、調合器具の揃うデスクへ向かった。
 そんなティーノの様子に気づきもせず、カレンは指示されたとおりに窓の向こうにいるイエマへ視線を向けた。
(イエマ……)
 応接間のソファに座っているイエマは、ひっきりなしにモジモジと身体をくねらし、熱病患者のように、荒い呼吸を繰り返している。
「んっ……あっ……いや……んんっ!」
 ぴくっぴくっと身体を痙攣させて、白い喉を反らせるイエマ。それから股の間に両腕を差し入れ、手首付近をぎゅーっと太腿で挟み込んだ。さらに、挟んだ手首で股間がこすれるように、身体を前後に揺らしはじめる。
 イノセンシア団員が身につけている特殊スーツは、腕力と脚力を強化するパーツ以外は、できるだけ軽くなるよう設計されている。股間を覆うのは、伸縮性のある薄い素材でできた布のような装備だけだ。その内側には、大事な部分を保護するサポーターがついているので、下着は身につけない。
 なので、装備の上からでも、それなりに刺激は伝わる。
「あっ、んん……やぁ……あっ、はぁ……んふ……」
 切なげな吐息を漏らし、イエマは身体を揺らし続ける。そのうち、腕の方も上下運動がはじまった。手が直接股間を刺激する頻度が増えていき、ついには――
「ひゃうんっ!」
 イノセンシアの装備の上からではあるが、直接指で秘部をいじりはじめた。
(は、はじまった……)
 イエマのオナニーがはじまった瞬間、カレンの心臓がドキンと強く鼓動した。その直後、部下の秘めたる行為を覗き見しているということに、罪悪感を覚えてしまう。
 だが、覗き見だけではすまない……これからティーノに報告せねばならないのだ。
「あ……あ、の……」
 自分に背を向けて作業しているティーノに声をかけた。
 だが、ティーノは振り向きもせず、作業を続けながら返事をする。
「どうした?」
「は、はじまった……」
「そうか、どんな様子だ?」
「ええと……装備の上から、い、いじってる……」
「いじってるって、どこを?」
「そ、それは……その、こ、股間を……」
「股間じゃ曖昧すぎる、もっと詳しく!」
「詳しくと、言われても……」
 会話しているうちに、イエマはクリトリスをいじりはじめていた。だが、それを当たり障りなく報告する文章力を、カレンは持ち合わせていない。
(くっくっく……早速困ってやがるな……)
 カレンに対して背を向けているティーノだが、相手側から見ると反射しない特殊な魔導鏡を使って、その姿を覗いていた。
「どうした? きちんと報告してもらわないと、調合に失敗するぞ」
「っ……」
 自分が報告をためらったせいで、イエマが媚薬中毒から抜け出せなくなったら、後悔してもしきれない。
(自分が恥ずかしい目に遭うのは覚悟していたはず……それに、イエマの苦しみに比べたら……)
 覚悟を決めたカレンは、頬を真っ赤に染めて口を開く。
「ク……クリトリスを……い、いじって……る……」
「クリトリスだな?」
「そ、そう、だ……」
「わかった。その調子で今後も報告を頼む」
 そう返して、ティーノは調合作業を続ける。
「今の段階でそれなら、調合の割合に変更はなしだな……」
「…………」
 自分の方を振り返りもせず、集中して作業をしているティーノの姿を見て、カレンはまた恥を覚えた。
(この男は、自分のことなんかひとつも意識していない……ホントに自意識過剰だ……)
 とにかく、今後は男の作業に支障が出ないよう、的確に報告しようとカレンは心に誓った。
 だが、実のところティーノは調合作業などしていない。フリをしているだけだ。そもそも、媚薬の中和薬はすでに用意できており、微調整する必要などひとつもないのだ。
 にもかかわらず、こんな演技をしているのは、『媚薬屋、ヴァレンティン』をカレンに信用させるためだ。
 それができれば、カレンを次なる決定的な罠にはめ込むことも可能になるだろう。
 ただ、いくつか用意した罠のうち、理想に近いシナリオでことが進み、思いがけず淫語プレイを楽しめることになった。これは、嬉しい誤算と言える。
(せっかくの余興だ、もっと楽しませてくれ……カレン……)
 そんなことをティーノが考えているなどとはつゆ知らず、カレンは自慰に耽るイエマの姿を真剣に見つめている。
「やっ……んんっ、あああ……こんなことしちゃ、ダメなのに……ああんっ、とまらない……」
 窓越しに見えるイエマの行為は確実にエスカレートしていた。いつの間にか大きく足を開き、大胆にクリトリスをこすっている。
「あああんっ……んんっ、あっ、もっと……もっと……あっ、ひああああんっ!」
 ただ前後にこするだけでは足りなくなったのか、イエマは肉芽を摘まみあげて、指の腹でコリコリと刺激しはじめた。そのたびに、大胆に割り開かれた太腿が、ピクピクと淫らに痙攣する。
(イ、イエマ……なんていやらしい格好を……)
 誰の目も気にする必要のない自室でさえ、カレンはこれほど淫らなオナニーをしたことはない。布団にくるまり、もっと息を潜めて、ひっそりとするものだと思っていた。
 それだけに、なりふりかまわず、快楽を貪るようなイエマのオナニーに衝撃を受けた。もちろん、媚薬のせいだということは重々承知だが、それでも性経験の乏しいカレンには十分すぎるほどの淫猥な刺激として伝わる。
「あっ、いいっ、気持ちいいっ……あっ、んっ、あんっ、いいっ……感じちゃう……」
 ドアひとつ隔てた部屋にカレン達がいるということも忘れたように、イエマは夢中でオナニーに耽っている。ついには股間を覆う布地の脇から指を入れ、直接秘部を愛撫しはじめた。
「あっ、ああ……」
 イエマの動きに思わず声を漏らすカレン。その声にティーノが反応する。
「どうした? なにかあったのか?」
「えっ? あ、と……」
「変化があったのなら、きちんと報告してくれ」
「す、すまない……え、ええと……指を……な、中に……」
「中ってのはどこの中だ?」
「そ、それは……たぶん、ち、膣の、中……」
「指は何本入れてる?」
「い、一本だ」
「どのくらい濡れてるかわかるか?」
「え、ええと……だ、出し入れしてる指は……もう、ぐ、ぐっしょりと……」
「そうか。それじゃ観察を続けてくれ」
「わ、わかった……」
 激しい羞恥と闘いながら、カレンはどうにか報告しきった。しかし、恥ずかしい言葉を紡ぐうちに、頬どころか全身が熱を帯びてきた。特に、股間が熱い……
(ああ……どうして、自分まで……)
 思い当たるのは、やはり媚薬だ。ビンはカラになっていたが、匂いを嗅いだせいで影響がでるかもしれないとティーノは言っていた。体質によっては、ごく少量でも中毒になる可能性があるとも……
(だ、大丈夫だ……あいつは、自分の中和薬も用意してくれている……)
 そう思うと、多少不安が和らいだ。
 だが、秘部に灯った熱は引かず、確かなうずきへと変化ししていくのだ。
(カレンのやつ、うずきはじめたな……)
 鏡越しに写るカレンがわずかに腰をくねらせはじめたのを見て、ティーノはにやりと笑う。
 本当のところ、カレンに吸わせた媚薬は、イエマが浴びたのとは別物だ。
 騒ぎを起こし、隊長であるカレンを引っ張り出すため、最初の媚薬には噴き出す演出を加えたが、中毒になるほどの効き目はない。
 一方、カレンが吸いこんだ媚薬は、色もなければ匂いもない代物だ。これも、一発で中毒を起こすほどの物ではないが、意識的に吸いこまなくても、ビンを顔に近づけるだけで十分効果を発揮する。
 それをイエマが誤って開封してしまったビンだと偽り、ティーノは直前にふたを開けてからカレンに渡したのだ。
 直前まで薬品が入っていたと言われて渡されたビンには、一滴たりとも液体が残っていない。それどころか、薬品にありがちな刺激臭すら漂ってこない。そうなれば、ほとんどの人間は、多少匂いを嗅いで真偽を確かめようとするだろう。
 そして、カレンはティーノの思惑どおり、ビンの匂いを嗅いでしまった。
 もっとも、そうならなくても、カレンはイエマに付き添っただろう。そこから次の罠へ導くシナリオもティーノはきちんと用意していた。
 すべては、イエマが媚薬を浴びた時点で決まってしまったのだ。
 そして、そのイエマは今――
「やぁんっ、ダメぇ……とまらないっ、とまらないよぉ……あっ、あんっ、気持ちいいっ、ああっ、気持ちいいいっ!」
 無我夢中で肉壺に入れた指をくねらせ、もうひとつの手でクリトリスをコリコリといじり倒している。口からあふれるあえぎ声も抑えが効かなくなってきた。
「あんっ、いいっ、あっ、んっ、いっ、いい……ひうっ、んっ、ああっ、いいっ、ああんっ!」
 ピストンする指のスピードがあがると、それに合わせてあえぎ声も小刻みになっていく。さらに、ピクンピクンと痙攣する太腿の動きもシンクロし、きゅうっと全身が強張りはじめた。
(イエマ……なんて気持ちよさそうなの……)
 カレンは、はばかることなくオナニーに耽るイエマを、うらやましげに見つめた。うずきはじめた秘部を、イエマと同じように愛撫できたら……
(い、いけない……そんなことを考えては……)
 淫らな願望を振り払うように、小さく顔を振るカレン。その際、ちらっとティーノの姿が目に入る。
 ティーノは背を向けたまま、相変わらず熱心に薬品を調合している。そういえば、イエマの様子を報告している間も、一切振り返ったりはしなかった。
「…………」
 イエマを観察しつつも、カレンはちらっ、ちらっとティーノの様子を探る。しかし、何度見ても作業に集中しており、振り返る様子はない。
 一度は振り払った淫らな欲求が、再びカレンの頭に拡がりはじめたそのとき――
「あああっ、ダメっ、ダメぇっ……もうっ……ああっ、ああああああっ!」
 ひと際大きなあえぎ声をあげて、イエマはガクンガクンと大きく身体を痙攣させた。
(ああっ、イエマはもう……)
 他人が絶頂を極める姿など一度も見たことのないカレンだが、イエマがまもなくその瞬間を迎えることくらいはわかった。
 そして、カレンの予想どおり、イエマは狂おしい頂点へ昇り詰める。
「んああああんっ……イクぅっ……イっちゃうっ……ああああっ、イクうううぅっ……」
 ピーンと全身を突っ張らせて、激しいエクスタシーを貪るイエマ。幸福感に満ちた恍惚としたその表情が、カレンの劣情をあおる。
(あ、ああ……)
 無意識に手が股間へ伸びかけたが、今やるべきことを思いだし、カレンは慌ててとめた。
「あ、あの……」
「なんだ?」
「イエマが……ぜ、絶頂を、迎えた、みたいだ……」
「そうか。だったら、だいたい想定内だな……」
 適当なことを言いながら、ティーノはなにか考えるような仕草を見せる。だが、もちろんふりをしているだけで、実際は発情しているカレンの姿を鏡越しに覗いているだけだ。
(かなりキテるみたいだな……そろそろご褒美をやるか……)
 ティーノはなにか結論に至ったようにふむと頷き、はじめてカレンの方へ振り返った。
「な、なにかっ!?」
「いや、部下さんの調合割合はだいたい決まったんで、次は隊長さんの分をと思ったんだが……特に異常はなさそうだな?」
「も、もちろんだ! 自分はなんともないっ!」
 カレンはとっさにウソをついてしまった。うずいているなどとティーノに言えるはずがない。
 もちろん、そうとわかっていて、ティーノも訊ねたのだが……
「じゃあ、隊長さんのも一緒に作ってしまうぞ」
「あ、ああ……すまないが頼む」
「隊長さんはこれまでどおり、部下さんの様子を見ててくれ。たぶん、一回イったくらいじゃ収まりがつかないはずだから」
「わかった」
「俺はそっちで最終調合をはじめるから、なにかあったら声をかけてくれ」
 そう言って、ティーノはこれまで作業していたデスクの更に奥のスペースへ向かった。
(あ……)
 カレンの場所からだと、ティーノの姿は大きな棚の影に隠れてしまい、完全に見えなくなる。それはつまり、逆も同じであり……
(今なら、もしかして……)
 そう思うと、抑えこもうとしていた劣情が、一気に込みあげてくる。美肉は熱くうずき、喉がカラカラに渇いてくる。
「……んくっ!」
 思わず生唾を飲み込んでしまったカレン。その音が意外に大きかったものの、ティーノは反応せず、奥で作業を続けている。
(……これなら、多少物音を立てても気づかれない?)
 媚薬に冒され、思考能力が半減しているカレンは、それが勝手な思いこみだということもわからなくなっていた。
 なにより、身体がもう限界だった。うずいてうずいて仕方がない。
「ん……ああ……やぁん……収まらない……全然っ……あっ、あんっ……」
 小窓の向こうでは、絶頂からおりてきたイエマが再びオナニーをはじめた。なににも気兼ねすることなく、大胆に粘膜や肉芽をいじる姿を見て、カレンはいてもたってもいられなくなる。
(あ、ああ……自分も……)
 カレンはもう一度、視線をティーノへ向けるが、さきほどと変わらず死角にいるようで、その姿は確認できない。
 それがわかった瞬間――
(もう、ダメっ……)
 カレンの右手がすーっと股間へ向かい、指先が肉芽部分にチョンと触れる。
「ひぅっ……っ!」
 スーツの上からわずかに触れただけなのに、激烈な快感が全身を駆け巡り、カレンは思わず声を漏らした。
「どうした? なにかあったか?」
「えっ!? とっ……」
 奥からティーノの声がかかり、カレンは慌てて手を引いた。そして、取り繕うように報告をはじめる。
「え、ええと……イエマがまた、は、はじめた……」
「はじめたってのは、オナニーをか?」
「そ、そうだ……」
「わかった。またなにかあったら報告してくれ」
 そこで会話は終わったが、その間ティーノは姿を現さなかった。淫らな行為に及んだことがバレずにすみ、カレンはほっと胸を撫でおろす。
 しかし、一度クリトリスを刺激したことによって、快楽に対する欲求は数倍にも膨れあがった。ティーノにバレるかもしれないというリスクを改めて認識したのに、もはや自制が効かない。
(ダメなのに……ダメ、なのに……)
 カレンは再び股間に手を這わせ、イノセンシアスーツの上から、クリトリスをいじりはじめる。
「っ……」
 今度は唇をキツく噛みしめ、声が漏れないようにした。そろりそろりと肉芽を刺激しながら、ティーノの様子をうかがうが、先ほどのように声をかけてくる雰囲気は感じられない。
(んっ……ああっ、ダメぇ……)
 次第に指の動きが大胆になっていく。肉芽を強く押しつぶしながら、クリクリと円を描くように刺激する。
「ふっ……むっ……っ……んっ……」
 こらえきれない小さな吐息が鼻先から漏れだす。それでもティーノは反応せず、奥で作業を続けているように見えた。
 だが、もちろんティーノは薬の調合などしていない。さきほどと同じように鏡越しにカレンの痴態を覗き見しているのだ。
(くっくっく、さかってやがる……)
 恨みある相手が、自分の罠にはまり込んでいく姿を見るのは格別だった。しかし、復讐はまだはじまったばかりで、すべてはこれからだ。
 そして、その復讐すべき相手は、とうとうスーツの脇から指を入れ、直接クリトリスをいじりはじめた。
(あっ、いいっ……全然違うっ、直接触るの……ああっ、すごくいいっ!)
 夢中になって、肉芽をいじるカレン。やはりスーツの上からこするよりも、ずっと刺激が強く、全身を駆け巡る快感も倍増した。
「むふっ……んふっ……んんんっ……」
 あふれてしまいそうになる嬌声を必死にこらえ、血が滲みそうになるほどの力で唇を噛みしめる。だが、漏れだす吐息は最初のころより確実に大きくなってきている。
(このままでは……ああっ……バ、バレて……あんっ、んっ、ああんっ!)
 オナニーしているところをティーノに見られてしまうという、最悪の事態がカレンの頭をかすめた。
 しかし、自らを愛撫する指先のペースは落ちるどころか加速度的に速くなってきている。しかも、バレるかもしれないという破滅感が、カレンの気持ちをより昂ぶらせてしまう。
(あはんっ……んんっ、気持ちいいっ……ああっ、気持ちいいっ、どうして、こんなに……あああっ、すごいいっ!)
 普段するオナニーとは、快楽の次元が違った。いつもなら軽いアクメに到達し、満足してしまう頃だが、まだまだ気持ちよくなれそうな気がした。
(あんっ、いいっ、んあんっ、いいっ、感じるっ……ああああああんっ、ダメぇっ……ダメえぇっ!)
 ブルっと大きく身体を痙攣させたカレン。ティーノはそれを見逃さない。
(もうそろそろか……)
 女体の反応から、ほどなくカレンが絶頂を迎えると確信する。
「んんっ、むふっ……んんんっ、んふっ、ふむぅ……」
 カレンがビクビクと全身を震わせながら、抑えきれない熱い吐息を漏らした瞬間――
「よしっ、できたぞっ!」
 ティーノはわざと大きな声で、薬の完成を告げた。
「――っ!?」
 絶頂寸前で頭は真っ白になっていたカレンだが、ティーノの声を聞いて反射的に手を股間から離した。そして、素早くスーツの乱れを直していく。
(……もういいようだな)
 カレンに最低限の身繕いをさせてから、ティーノは奥から顔を出した。
「ひぅっ!!」
「……なんだよ、ひぅって?」
「い、いや……なんでも、ない……」
「うーん……」
 いぶかしげにジロジロとカレンの顔を見つめるティーノ。寸止めを食らいなんとも情けない顔をしているのが、おかしくてたまらない。
(俺がひと触りすれば、白目をむいてイクだろうな)
 だが、ここで不用意にお触りなどしてしまえば、カレンの中に芽生えた自分への信頼感が一瞬で瓦解する。今は、ガマンだ。
「ホ、ホントに、なんでもないから!」
「……ならいいが」
 わりとあっさりティーノが詮索をやめてくれて、カレンは安堵する。だが、絶頂寸前でオナニーを中断したので、どうしようもなくもどかしい。
(あああ……つらい……くっ……)
 こらえきれずに股をすりすりとこすり合わせるカレン。だが、ティーノは見て見ぬ振りをして話を続ける。
「で、これが隊長さんの用の中和薬だ」
「……これが?」
 ティーノから渡されたのは、固形の丸薬だった。てっきり、液体の薬が出てくるかと思ったので、少し拍子抜けしてしまう。
「なにかおかしかったか?」
「い、いや……」
「まあ、信用できないなら、無理に飲まなくても……」
「そんなことない、飲むっ、飲ませてもらうっ!」
 返せという感じで出されたティーノの手を払い、カレンは丸薬を見つめる。
(と、とにかく、これを飲まないと……)
 秘奥は自慰の再開を求めるようにうずいている。もう、信用するとかしないとかではなく、この中和薬にすがるしかない状況なのだ。
「飲むんなら、早い方がいい。効き目が違ってくるからな」
「わかった……」
 頷いたあと、カレンは手にある丸薬を口に含み、躊躇なくゴクリと飲みこんだ。
「…………」
 カレンが薬を飲みくだしたのを確認し、ティーノはほんのわずかに口元をニヤリと歪めた。
(よし……これでおまえはもう、俺から逃げられないぞ!)
 本日最大の目的を果たし、ティーノは心の中で喝采した。しかし、そんな素振りをみじんも見せず、淡々と次の作業に入る。
「じゃあ、部下さんにはこっちの薬を飲ませてやってくれ」
「……えっ?」
「どうかしたか?」
「イ、イエマのは……液体なのか?」
「部下さんは症状がでまくりだからな、即効性のある液薬が最適なんだ」
「な、なる、ほど……」
 再び、不安になるカレン。
(やっぱり本当のことを言って、自分も液体の薬をもらった方が……)
 迷うカレンをティーノがせっつく。
「おい、早く持っていってやれよ。俺が行くわけにはいかんのだし」
「えっ? なぜ……?」
「なぜって、部下さんはまだまだ真っ最中だろ?」
「あ……」
 ティーノは徹底してイエマを気遣ってくれている。それに比べて自分は己のことばかり考えていた。どうにも自分が情けない……
(いや、反省はあとだ……)
 まずは、部下を苦しみから解放してあげないといけない。
「じゃ、じゃあ、これから行ってくる」
「部下さんが落ち着いたら、声をかけてくれ。俺はそれまでこっちにいるから」
「……本当に、気遣ってもらってすまない」
 カレンは、深々と頭をさげてから、応接間へ繋がる扉を開けた。

 イエマが中和薬を飲んでから約三十分後――
(もういいぞ……)
 カレンは、合図を送るような視線を鏡に向けた。こちらからは自分の顔しか見えないが、その向こうにいる相手はきっと気づいてくれたはずだ。
 ほどなくして、扉が開く。
「……調子はどうだい?」
 様子をうかがう感じで、おずおずとティーノが応接間に戻ってきた。
「このとおり、イエマは元どおりだ」
 笑みを浮かべたカレンが部下の肩をポンポンと叩いた。それを合図にイエマが深々と頭をさげる。
「ほ、本当にご迷惑おかけしました……」
「よかった、中和薬は効いたみたいだな」
「お、おかげさまで……」
 かあっと頬を真っ赤に染めて、イエマはもう一度頭をさげた。オナニーしているところは誰にも見られていないと信じているが、自室でもないところで、淫らな行為に及んでしまった事実を恥じていた。
「自分からも、礼を言わせてもらう。本当にありがとう」
 ぴっと背筋を伸ばしたあと、カレンも深々と頭をさげた。イノセンシアの一隊を率いる、隊長の威厳が復活している。
 それもこれも、ティーノに渡された中和薬が効き、正常な思考を取り戻すことができたからだ。あれだけ淫らにうずいた身体も、いまではウソのようにスッキリしている。
「まあ、大事に至らないでよかった」
「あなたのおかげだ、感謝している」
「いや、ふたりが媚薬屋なんてうさんくさい仕事をしてる俺のことを信じてくれたからな。それはもう全力で頑張るしかないわけで……」
「…………」
 ティーノの言葉を聞いて、カレンは自分が恥ずかしくなる。
(正直、中和薬が効くまで、信用しきれてなかった……)
 せめて今後は、最大限の誠意を示さなくてはと思う。
「とりあえず、今回かかった費用は全額イノセンシアが負担するので、ぜひ申請してほしい」
「それは、最初にダメになった媚薬の代金も含めて?」
「もちろんだ」
「ホントに? それは凄く助かるが……余裕で百リィード超えちゃうけど大丈夫?」
「そ、そんなに値が張る物なのか……?」
 百リィードと言えば、一般的な男性肉体労働者が稼ぐ半月分の賃金にあたり、決して小さな金額ではない。この街で生活するとしても、独り身なら贅沢しなければ一ヶ月は暮らせる。
 もっとも、提示した金額は適当で、正価などあってないようなものだ。高ければ高いほど相手が責任を感じるとわかっているから、ふっかけているにすぎない。
「まあ、原液だったからなぁ」
「す、すみません、ホントにすみませんっ!」
 事の発端を作ったと思いこんでいるイエマは、何度もペコペコと頭をさげた。それを制して、カレンは話を続ける。
「たとえいくらだろうと、イノセンシアがきちんと保証するので、安心してください」
「おー、ありがたい。さすがはフェジタリアの紅水晶(べにずいしよう)、シエスタ姫が肝いりで立ちあげた組織だけはある」
「……それは、どういう意味で言っているのだろうか?」
「ん? 姫様がバックにいるから予算は無尽蔵なんだと感心しただけだが……なんか、気に触ったか?」
「やはり、市井の民からすれば、我々は姫様の道楽でやってる組織に見えるということか……」
 怒りを表すというふうでもなく、カレンは無念そうに呟いた。
「まあ、あんまり評判がいいとは言えないな。さっきやってた検問だって、みんな不満に思ってる」
「それはわかっているが、検問から検挙に繋がったこともある。改造屋撲滅に向けて、地道にやっていくしかないんだ……」
「で、いつ撲滅できるんだ?」
「わからない……だが、必ず成し遂げてみせる! そして、不幸な女性がひとりも生まれない世の中にしてみせる!」
「そうですよ隊長っ! 改造屋なんてひとり残らず捕まえちゃいましょうっ!」
 盛りあがるふたりを一瞥するティーノ。
(ふん、半年前に取り逃がした改造屋を目の前にして、なに言ってやがる)
 とりあえず、これ以上女たちの話は聞く価値がないと判断し、まとめにかかる。
「えーと、それで話を元に戻すが、媚薬の代金を含めた経費は、イノセンシアが払ってくれるってことでいいんだな?」
「そうだ」
「で、どう請求すれば……?」
「団にきてもらえればすぐにでも支払うことは可能だが……」
「このあとは、用事があるからなぁ……明日でも問題ないか?」
「ああ、もちろんだ。話は先に通しておく」
「じゃあ、明日、イノセンシアの詰め所に顔を出すから」
「わかった……それと、ひとつだけ注文していいだろうか?」
「注文?」
「申請する際、弁償する物品は媚薬ではなく、魔導薬ということにしてほしい」
「なぜ?」
「申請書に経緯を記載しなければならないが……今日のことが書面で残ると、イエマの今後に影響が……」
「……なるほど」
 媚薬でさかってしまったなどという記録が残ると、大きな恥になってしまうと言いたいのだろう。しかし、口実としてイエマの名を出したが、本当のところは自分の体面を気にしての注文だとティーノは思った。
「わかった。毒性のある魔導薬を浴びて、その解毒を行ったという話にしとくから」
「ありがたい。これで団長に余計な心配をかけずにすみそうだ」
「ちなみに、ふたりが中にいる時間ってある?」
「そうだな……明日なら午前中は詰め所にいると思うが」
「じゃあ、昼前くらいにうかがわせてもらうよ。ふたりの様子も気になるし」
「……と、いうと?」
「今は収まってるけど、また媚薬の影響が出てしまう可能性もゼロとは言えないからな」
「そ、そうか……心配かけるな……」
「本当にすみません、お手数おかけしてしまって……」
 ティーノの言葉に、カレンとイエマは一緒に深々と頭をさげた。
 もうすっかり、ふたりはティーノを信用してしまっていた。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

チェーンライド 2018/05/10 20:37

アダルト小説【姫騎士隊長洗脳改造】の公開がはじまります


amazon kindleで公開しているアダルト小説【姫騎士隊長洗脳改造】の公開が明日からはじまります。
公開ペースは1日1章を予定しています。

コンテンツの区分は
○1~4章:誰でも
○5~8章:フォロワー(無料プラン)以上
○ 残りすべて:有料プラン
とさせていただきます(9章公開と同時に有料プランが選択できるように設定する予定です)。

話の概要などについてはこちらをご覧ください。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

1 2 3 4 5

月別アーカイブ

記事を検索