Let it be 全編通し ルビ付き縦書き版(2000円支援者様限定、PDFリンク)
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したい印のまりあ 2021/03/17 18:10
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したい印のまりあ 2021/03/17 18:00
フォロワーの皆様、ありがとうございます。随分昔に書いた小説なので、今見ると、結構つたない部分がありますが、それでも、なんというか……「ささやかなことで、人は救われる」というのが、私の小説の根底に流れる物なのですが、それを決定づけた作品ではないか、と思っています。
500円支援プランで全編読めますので、よろしければ支援の程、よろしくお願いします。
Let it be 完結編、ちょこっと読めます。
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Let it be 完結編です。ご笑覧ください。
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したい印のまりあ 2021/03/17 17:30
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したい印のまりあ 2021/03/06 11:58
碧(あおい)は笑わない女だった。滅多に、だとか、ほとんど、だとかそういうのではない。笑わないのだ。笑顔を見せることはあった。微笑むこともあった。けれど彼女は笑わなかった。決して、いつだって。
その理由を、紅一(こういち)は知っていた。自分とほぼ正反対の色を名にまとう彼女が笑わない理由を。彼女が微笑みを見せても、笑顔を浮かべても、決して笑わない理由を。
碧には恋人がいた。紅一にはいない。紅一にとって、気の置けない異性は碧くらいしかいなかった。そして、碧の恋人が、彼女から笑いを取り上げた原因であることを、紅一は知っていた。通っている大学で、碧は見せつけられるようにして、とある女子生徒と腕を組んで歩いているところを、何度も紅一は見ていた。そして偶然見かけてしまったのだ、有り体に言えば、碧がDVの被害者であることを。具体的に言えば、碧が、その名も知らぬ女子生徒の靴を舐めさせられているところを。
それがSMのパートナー故の行為であるのか。それとも本当に彼女は被害者なのか。紅一は最初はパートナーなのだと思っていた。しかし、注意深く観察すると、碧がそういった屈辱を受けるのは、自分と話した日に集中していた。そして彼女から告白された。ある日、家に帰りたくない、と。
紅一は、碧と彼女が、西新宿のアパートをルームシェアしていることも知っていた。SMのパートナーであれば、屈辱は喜びであるはずだった。主に与えられるそれは快楽であるはずだった。しかし彼女は、無表情に煙草を吸い、煙を吐き出し、そして珈琲のカップを持ち上げるまでのほんのひとときに、そう呟いた。告白した。
「どうして?」
紅一は、聞かなかったふりをするのは嫌だった。いや、できなかった。唯一の気の置ける異性。そして、碧は紅一にとって最大の友人だった。
「見たことあるくせに」
碧はにやっという風に笑顔を作り、そう言った。そして、珈琲を一口すすった。
「他にも見せてあげる」
彼女は、真夏でも長袖を欠かさなかった。その美貌故、紅一はモデルの副業(アルバイト)でもしているのかと思っていた。だが、真相は違った。碧はその袖をめくった。無数の傷が、痕が、そこには刻まれていた。
「これは昨日の」
言って、彼女は生々しい火傷を指さした。
「沸騰したばっかのお湯かけられたんだ。私が珈琲を淹れようとしたら。これは先週」
彼女はジャケットを脱いだ。大小様々な青あざが、鎖骨から胸元にかけて、彼女の陶器のように白い肌を蹂躙するかのように、無数にあった。
「まだまだあるけど、ドトール(ここ)じゃちょっと無理かな」
もう一口、煙草を吸った。沸騰した湯をかけるという異常さ、執拗なまでの殴打。深く、深く、まるで刃物でなぞられたかのように、紅一の心に刻まれる。
「つまりこういうことって訳。帰りたくない理由も分かるでしょ?」
「俺には分からない」
紅一はあらがった。抵抗した。
「帰りたくないなら帰らなきゃいいじゃないか。帰りたくないなら帰らなくて良いんだ」
静かに、だが全力で。
「そんなことをする相手と、どうして一緒に住む必要があるんだよ。どこにそんな理由が存在するんだよ」
「愛だよ、愛」
こともなげに、碧は答えた。そして煙草をもう一口吸った。
ちょっとだけ詳しく書いてます
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