2021日々姫お誕生日記念ショートストーリー
『プレゼントにはネックレスを』
2021/10/25 進行豹
*
「ネックレス。――首飾りか」
自分から聞いたことではあるが、少し意外な返事とも思え聞き返す。
「誕生日のプレゼントに、日々姫は、ネックレスが」
「欲しかと、すっごく」
言い終える前に言い切られた。
僕を見つめる日々姫の目線はかなり強い。
「心得た。恋人同士になって初めてのバースデープレゼントだ。
最初から、なんであれ日々姫の望むものを送るつもりだった」
「なら!」
「!?」
言葉が、視線がさらに強まる。
ぐぐっと鼻先が寄ってくる。
「私の欲しか、私に似合いのネックレス。にいにが選んで贈って欲しかと!
ねぇねとかハチロクとかポーレットさんとか、他の誰かにに聞くとかじゃなく、
にぃにが自分で――自分ひとりで、私のことをいっぱいいっぱい考えて――そうして贈って欲しかとよ」
「心得た」
そうとは口では答えても、内心かなりヒヤリとしている。
……装飾物の類のことなど、まるきり興味も知識もない。
ならば知識のある者に教えを請いたく思うのだけれど――
「心得た。自分ひとりで、日々姫のことをいっぱいいっぱい考えて。そうして似合いの品を贈ろう」
「うん!」
視線が和らぐ。笑顔に崩れる。
距離が離れて、ふわり、日々姫の甘やかな香りだけが一瞬、残る。
「にぃにぃのこと信じとるけん! やけん! 楽しみにしとるけん!!」
「うむ!」
……大事な大事な義妹で、いまとなっては惚れた女だ。
期待されれば、なんとしたって応える他にありえない。
「しかし……ううむ。まずは知識を仕入れるところからはじめるべきか」
『誰かに聞く』を封じられてしまった以上、知識を求めに行く先は、書物か、ネットか、あるいは――
「――ああ、いや」
///
「双ちゃん、どぎゃんしたと? そぎゃんひーちゃんのことば見て」
「うむ。いやなに。よく見てみれば日々姫は案外、細やかな装飾品を身に着けているのだと思ってな」
「双鉄さま? いかがなさいましたか? 日々姫になにか」
「なに、大したことではない。日々姫の身につけているものは、花の模様が多いのだなといまさらながらに感じただけだ」
「双鉄くん? 日々姫ちゃんに……ああ、話しづらいとかなら、わたし、きっとなにかのお役にたてるかなぁって」
「いやいや、そうではない。日々姫の仕事ぶりをみていただけだ。……成長著しくあれど、まだまだ弱い……不安定な部分も残しているな、と」
///
「で。だ」
小さな包み。
石炭ヒトカケの重量もないに決まっているのに、やけに重く、固く感じる。
「僕なりに精一杯に日々姫を見つめ。その上で考え、選んだ――これがその贈りものとなるのだが」
「♪」
ぴょん、と日々姫が小さく跳ねる。
髪飾りの、ブラウスの花がつられてゆれる。
そうして、気づく。
ただよってくる髪の香りも、また、花だ。
「うれしか! ね、にいに、開けてもよかと!!」
「無論だ。それはもう日々姫のものなのだから」
「うふふっ」
日々姫の細い指先が器用に動き、ピンクのリボンを、白い包装を剥がしていく。
その内にある濃い青色の箱がぱかりと開かれて――
「かわゆか! お花! 白いお花のペンダント!!」
「うむ。日々姫の暮らす毎日に馴染むものをと思ってな」
「うん! すっごくしっくりはまりそう! ね? にぃに。にぃにの指でつけてほしかと」
「心得た」
幼いころから日々姫の肌には幾百度となく触れている。
恋人同士になって以降は、それまでとまるで違った意味でも、幾度も幾度も……
なのだけれども。
「ううむ、微妙に緊張するな」
「えへへ、うれしか。お願い、守ってくれたとね」
ぱっとほころんだ笑顔の頬が、じわり、桃色に染まってく。
「……いまさらあらためて緊張するほど、にいに、私のことばしっかり見つめてくれたとね」
「!」
言われて気づく。
自分で考え自分で選べと言われたがゆえ――
判断を他に委ねる道を最初から閉ざされたゆえ――
「だなぁ」
今までになく日々姫を見つめた。
面倒をみるべき相手としてではなく、いつでもそばにいることが当然である存在としてでもなく――
「恋人としての日々姫のことを。一人の女性な日々姫のことを。今までになくしっかりと僕は見つめて」
見つめたことで芽生えた想いか。
見つめる前からあった想いに気がついたのか。
どちらであれど、何の違いも生じない。
「だから、うん。緊張して当然なのだ」
納得する。理解する。
この指先の震えこそ、僕の正直な感情なのだと。
「――僕は日々姫を、どうしようもなく好きなのだから」
「大好き! にぃに!!!」
日々姫が僕に飛びついてくる。
つけたばかりのネックレスを、その先端の新たな花をふわりと揺らし。
「さいっこーのお誕生日プレゼントを、ありがとう!!!」
;おしまい