空想科学<あいとゆうき>の物語。
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はじまりは、安っぽい娼婦と詐欺師の物語。
――たった2人ではじまった物語。
1羽の天使が、全ての人が幸福であれば良いと思いました。
――そんなの無理に決まってるのに。
ひきこもりのカラスが、真実は1つであるべきではないと思いました。
――そのせいで宇宙はぐちゃぐちゃになっちゃった。
ひとりぼっちのライオンは、友達のために一生懸命頑張りました。
――だけどあの子は最後までひとりきり。
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ひとりぼっちのライオンは、桜色のうさぎを作りました。
――友達の世界を護るために。
桜色のうさぎは、だいすきな人と一緒にたくさんボウケンしました。
――キミはまだ、ぼくたちを覚えてる?
桜色のうさぎは、だいすきな人のために爪と牙を生やしました。
――癒やす事しかできなかったくせに。
希望の為に、種を植えた人たちがいました。
うさぎは 今 も、種から育った大きな桜の木を護っています。
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宇宙は無くなりそうでした。
だから桜色のうさぎは、黄金のうさぎを造ることにしました。
出来ないことなんて1つもない。
――いぬは少し苦手だったけど。
誰かに傷つけられることなんてない。
――割りとメンタルは弱めだった?
大好きな主人と宇宙を守る、そのための存在。
――あなたが居なくなったら、どうしたらいいの?
黄金のうさぎは戦いました。歌ったり踊ったり、お酒も少し飲みました。
一生懸命がんばって、宇宙は何とか救われました。
それから、黄金のうさぎは水星で幸せに暮らしましたとさ。
めでたし。
めでたし。
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時間が流れました。
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彗星が星を毀す夜。
西暦1960年、横浜、みなとみらい。
蒼い彗星が地球を滅ぼすのを、私たちは見つめていた。
あなたの手は震えていた。きっと怖いのだろう。と思った。
こんな事が昔にも起きた気がしていた。
誰もが忘れ去った海岸で、世界が滅ぶのを見つめていた気がした。
そんなの勘違いなのは決まっているけど。
私は毀れる夜空を睨んだ。だって、もう、決めているんだもの。
『貴方を護る。何度失っても。何度毀れても。私は貴方を護り抜く』
それは随分と前から決意した誓いだ。
例え世界が滅んでも、あなたの事を愛し続ける。
目が覚めた。
私は一人で立っていた。
西暦2023年。横浜。中華街。
世界は滅んでいない。
私の隣にあなたはいない。
大好きだったあなたは。
護ると誓ったはずのあなたは。
幾重もの日々をともに過ごしたあなたは。
私の隣にはもう居ないけど。
それでも。護ると。決めていた。
これは、私達の物語だ。
英雄は死んだ。
狼は桜を護り続けた。
魔法の音楽家は宇宙の真ん中で眠る。
これは、私達の物語だ。
旧い旧い時代から続く、私と君の物語だ。
荒唐無稽で有り触れた、
空想科学<あいとゆうき>の物語。
ほんの少しだけ様相は変わってしまったけど。
それでも。まだ。ボウケンのやり方は覚えてる?
じゃあ行こう! この日常を愛するために。
白いライオンが君の手を取る。
蒼いうさぎは桜を目指す。
さあ、――ボウケンの時間だ。