~ザ・ファブル~「清水ミサキが欲しい似顔絵…」
『ザ・ファブル』
同人作品です。
忠実な再現はしてませんが、ネタバレが苦手な方は避けてください。
前作
~ザ・ファブル~「小島の狙いは清水ミサキ」
~ザ・ファブル~「清水ミサキの契約書」
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23422904
上記も併せてお読みください。
~本編~
その夜、小島は組の事務所ではなく、自分の根城である古びたマンションの一室に高橋を呼び出していた。部屋はタバコと古い畳の匂いが混じり合い、外の冷気とは別の意味で息苦しい。
「……ええか、タカハシ。来週や。砂川のハゲと二人で話す。」
そう言いながら、小島はテーブルに肘をつき、煙草をふかした。
「商売の話かなんかっすか?」
高橋が恐る恐る尋ねると、小島はニヤリと笑って煙を吐き出した。
「せや。風俗のな。あいつのシノギにちょっかい出してるみたいやけど……って、周りは思っとる。まぁ、実際そうやけどな?」
「……あかんのちゃいますん?」
「せやから、調整するんやがな。こう見えてワシも義理は通すタイプや。でな──今回の話は、一発で砂川の気ぃ変えさせるもん用意してる。」
小島は足を組み直し、ニヤついた顔で高橋を見た。
「……あの女ですか?」
「そうや。ミサキちゃんや。」
「……ほんまに渡すんすか? あの人……けっこう限界っぽい感じでしたけど……」
「アホかお前。渡す言うても、タダでくれてやるわけちゃう。使い方はこっちで決める。せやけど“極上の素材”があるだけで交渉カードになるんや。あの女は“売れる”んやで?」
小島は煙草を灰皿に押しつけながら続けた。
「こっちが仕切る“別店舗”に一時的に貸し出すいう話でもええし、砂川に"共用"させるだけでも価値ある。なぁ? 一発やっただけで、あの娘がどんなレベルか、お前がよう知っとるやろ?」
高橋は気まずそうに視線をそらし、曖昧に頷く。
「……たしかに、ヤバかったっす……」
「やろ? 砂川のハゲも、あの手の顔立ちとカラダにゃ弱い。うまくいきゃ、“今後の取り分”も柔うなるやろしなァ。」
窓の外では風が唸っていた。小島は立ち上がり、寒さをものともせずに窓を開けた。冷気が部屋に入り込むが、それも気にならない様子で空を見上げる。
「なぁ、タカハシ。組の中っちゅうのはな、正論じゃ回らへん。損得とタイミング。それだけや。」
「……でも、砂川さんは……怒ってますよ?前の件もあるし、あっちの縄張りで動いたの、小島さんっすよね?」
「せやけど、“極上の女”を連れてきたやつに、誰が口きける?──あいつの言う“品格”ってのはな、カネの匂いがする方へ引っ張られるんや。」
小島は笑いながら背を向け、再び椅子に腰を下ろした。
「砂川とは来週、会う。場所はあいつの指定したとこ。俺の口で、直接話つける。」
「……ミサキさんには?」
高橋が躊躇いがちに口にした名前に、小島は一瞬、意味深な沈黙を挟んだ。
そして、ニヤニヤと口元を歪めながら、低く笑う。
「詳細が決まった前日にでも連絡しときゃええ。なぁに、そんなもん簡単な話や。『マンコしっかり洗うて、ヌラして待っとけ』っちゅうてなァ。」
指を軽く振りながら空中をなぞるような仕草をし、舌で唇を湿らせる。
「どんなプレイが好みか、どこが感じるか──砂川の前で“披露”させるのもおもろいかもな。まぁ、あの娘の体なら、黙って腰振るだけで営業になるやろうけどなぁ。」
言葉の節々ににじむ悪意と下品さに、高橋は思わず視線を落とした。冷笑が部屋にまとわりつくように滲み、空気がねっとりと重たくなる。
「……は、はぁ……」
返す言葉を失った高橋の頬には、わずかに引きつった笑み。だが、それすらも本心ではなかった。小島の目には、従順な部下の演技としてしか映っていない。
「ええか? “商品”は鮮度が命や。いまのミサキは、心も体も追い詰められて擦り減っとる。──せやけど、そこがええ。“壊れかけ”の女ってのは、客がいちばん欲しがる素材や。まるで自分で調教できるみたいやからなァ。」
満足そうに鼻で笑いながら、小島は煙草に火をつけた。紫煙がゆっくりと天井へ昇っていく。その煙の向こう側には、彼が思い描く“商売の未来”が、まるで揺らめく幻のように浮かんでいる。
高橋はその様子を黙って見つめながら、無言で頷いた。
けれども──その胸の奥には、言葉にできない不快感が、じっとりと張り付いていた。
・・・・・・・・・・。
薄暗い部屋の中、カーテンは閉められたまま、空気は重く、動きのない時間がそこに沈殿していた。ミサキはソファにもたれかかるようにして、無言で天井を見つめている。
テレビも音楽もつけていない。
ただ、自分の呼吸音だけが、静かに部屋に響いていた。
この数日、小島からの連絡は途絶えたままだった。
あの夜、唇を噛みながら部屋に戻り、それから時間が止まったように、世界がどこか遠くに感じられていた。
(……このまま、全部夢だったことに……なってくれへんかな……)
考えても仕方のないことを、何度も繰り返す。
何もない日々が続くことで、どこか希望のような錯覚すら生まれていた。
(もしかしたら、小島は飽きたんやろか……忘れてくれたらええのに……)
そんな妄想にも似た期待に、必死で縋ろうとしていた――そのときだった。
――ブゥゥ……ブゥゥ……
ソファの傍らに置いていた携帯が、無機質な振動音を立てて震えた。
一瞬、心臓が跳ねる。
ミサキは固まったまま、携帯の画面を見つめた。
《非通知》
だが、彼女にはすぐにわかった。
(……来た……)
指先が凍りついたように動かない。
画面の振動が止まりそうになった、その瞬間、意を決したようにミサキは震える指で通話ボタンを押した。
「…………はい……」
沈んだ声に応えるように、聞き覚えのある、あの薄ら笑い混じりの声が耳元に広がる。
「おう、ミサキちゃん。元気しとったかぁ~?」
その言葉だけで、背筋に冷たい汗が滲んだ。心臓が乱れて跳ね、指先が痺れる。
「……何の用ですか……」
精一杯の平静を装った声。でも、小島にはすべて見透かされていた。
「ん~まぁ、そろそろ仕事の準備してもろか思てな。明後日の火曜、夜の11時に迎えに行くわ。」
淡々とした口調に混じる軽さが、かえって背筋を冷たく撫でる。何の場所かも言わず、ただ一方的な“指示”として告げられる。
「……どこに……行くんですか……?」
震える声が漏れた瞬間、小島はくすくすと笑い声を上げた。
「そんなん聞いてどうすんねん。デートちゃうねんぞ? 言うたところで、お前の選択肢なんか一つしかあらへんやろ。」
その言葉に、ミサキの喉が詰まり、息が浅くなる。返事ができないまま沈黙が続いた。
「それとなァ……服やけどな。ちゃんと、色っぽいの着て来いや? ジーパンとか履いてきたら……、そん時はその場で全部脱いでもらうからな?」
わざとらしく甘く言葉を伸ばす。耳元で囁かれているような錯覚に、ミサキはゾッとした。
「なぁんも難しいことあらへん。ただ、“ちゃんと見せもんになれる格好”してきたらええんや。それだけや。」
その“だけ”という一言の重さに、心が沈み込む。小島は満足げに続けた。
「じゃあ、当日は楽しみにしとるわ。オマエの“働き”で今後の関係が決まるからなぁ~?ガンバレヨ~」
ぷつり。
通話は一方的に切られた。まるでその瞬間、現実が背後から襲いかかってきたかのような圧迫感。
ミサキはスマホを握りしめたまま、ソファにもたれた体を起こすことができなかった。
静まり返った部屋の中に、かすかに彼女の吐息だけが響いていた。
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