~ザ・ファブル~「……さと……う……くん……?」 清水ミサキ 完
『ザ・ファブル』
同人作品です。
忠実な再現はしてませんが、ネタバレが苦手な方は避けてください。
前作
~ザ・ファブル~「小島の狙いは清水ミサキ」
~ザ・ファブル~「清水ミサキの契約書」
~ザ・ファブル~「清水ミサキが欲しい似顔絵…」
~ザ・ファブル~「擦り減っていく心…清水ミサキ」
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23422904
上記も併せてお読みください。
~本編~
……場所は変わって、一階の仄暗い工場事務所。
ガラス窓には埃がこびりつき、蛍光灯の明かりもどこか黄ばんで見えた。
その中央、金属脚のテーブルを挟んで、小島と砂川が向かい合っていた。
小島は椅子にもたれながら、煙草を口にくわえたまま。
指先で灰皿の縁をコツコツと弾き、どこか余裕のある表情を浮かべている。
一方の砂川は、組の幹部としての貫禄を漂わせつつも、視線の奥には探るような光を宿していた。
長年、表も裏も見てきた男特有の勘が、微かに警鐘を鳴らしているようだった。
「――で?」
砂川が、静かに問いを切り出す。
「もし、あの女が使いもんにならんかったら……どうするつもりや?
どう見ても、あの子……自分の意思で来たとは思えへんぞ?」
語調は柔らかい。だが、言葉の裏には確かな圧があった。
小島は一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに口角を上げて笑い返す。
「……さすがですわ、砂川さん。そういうとこ、よう見とる」
煙を吐き出しながら、肩をすくめて続けた。
「せやけど……“使えるかどうか”ってのは、本人の意思や覚悟で決まるモンちゃいます。
この世界でモノになるかどうかは、“結果”だけで測るもんやと俺は思てますけどなぁ」
砂川は黙って聞いていたが、その眼差しは鋭さを増していた。
「つまり、最初から無理やり引っ張ってきたと。──違うか?」
小島は笑いを消さずに、静かに煙草を灰皿へ押しつける。
「俺のやり方がどうであれ、組としては――結果さえ良ければ、納得でしょう?
女が不本意かどうかなんて、俺らが気にする義理あります?」
そして、少しだけ身を乗り出すと、低い声で囁いた。
「ヤクザが“道理”を気にして商売できるような世の中なら、とうの昔に堅気になっとりますわ」
砂川の口元がわずかに歪む。
それが皮肉か、納得か、あるいは見過ごすという合図なのか――判然としなかった。
「なるほどな。そっちタイプの考えなワケか……」
その瞬間だった。
静かな空気を破るように――
上の階から、女の声が響いた。
「……っあ……ん、んっ……くぅ……っ……!」
断続的な喘ぎ声。
それは、抑えていたものが堰を切ったように、時折壁を越えて一階まで届いてくる。
一拍置いて、小島が笑った。
ニヤリと、口の端を持ち上げて。
「……まぁ、結果が物語ってますやん。
“気持ちええ”かどうかなんて、本人の口が証明してくれとる」
砂川は視線をわずかに上に向けたまま、表情を崩さずに煙草をくゆらせていた。
「不本意でも……気持ちよぉなっとるなら、ええってか」
小島は肩をすくめる。
「結果オーライっちゅうやつですわ、砂川さん」
コンクリートの天井越しに響く声。
そして、それを下で聞きながら交わされる、無感情な会話。
それは、彼らが生きる世界の“冷たさ”そのものだった。
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