プリミティブ・ダンスの追加SS、一部公開

ちょっとだけ手が空いたというか、
書きたくなったのでプリミティブ・ダンスのその後のSSをかきました。

【おさらい】
プリミティブダンス


どのような結末になったかは、近日追加されるSSをご覧くださいませ★


悪魔の機体

 「――知ってるよ」

 コクピットの中、男は手慣れた手つきで機体を急旋回させる。
体にかかる重力加速度――gravityに奥歯を噛みしめる。
視線は機体の360度を移すモニターから、逸らされることはない。
瞬き一回分のその刹那、遠くから放たれた実弾が、男の機体のギリギリを掠めるように貫いていく。

 男の機体を弾丸の後から轟音が撫でる。

 長い死神の腕が、男の魂の端っこを撫でていく。冷たくて白い、美しい爪(ネイル)をした愛しい指先が放った弾丸。
 それが放たれた着弾するまでのわずかな間に、男はあらかじめ決められていたかのように、紙一重でかわし続ける。

 まるで、コンマ秒単位で定められた舞いを踊るかのような、完全無欠な無駄のない動き。――それは死の舞踏。

 慣れ切ったその感覚に、男は自然に左の唇の端を上げる。あふれ出てくるアドレナリン。口の中の渇きも気にならない。戦闘特有の高揚感。でも、体を流れる血は滾るのに、胸は躍らない。

 歩兵から、Arkと言う機械に搭乗して戦うようになって、男は幾度の戦いを超えてきた。
死ぬつもりなんてなかったし、毎回生きて帰るつもりでいた。

でも、今日は違う。
――絶対に、勝つ。殺してやる。この命尽きようとも。
その想いだけが男を突き動かす。

「戦争は終わった。――お前も終わらせてやる」

 感情を切り離して、男は戦場を支配する鬼神(エース)として口にする。
その視線の先、モニターの向こう側には普通のArkより5倍ほど大きな機体があった。

 ――それは、悪魔の機体だった。


◆◇◆◇◇


 時を溯ること3日前。アーシェント帝国の首都をルドリア連合国は攻め落とした。
ある程度の犠牲を払いながらもルドリア連合国が「今」このタイミングで決着を望んだのには理由があった。

 新型Arkの投入――という確かな情報を得たからだ。

 アーシェント帝国は追いつめられていた。世界一の大国であるルドリア連合国からの再三の降伏勧告。疲弊した国土と人民。Arkという戦闘兵器での戦争を辞めれば、国家は維持できない。国家を生かすためには、連合国との戦争を続けていくしかない。

 よって、アーシェント帝国は新型Arkの開発に全てを賭けた。物量は大国であるルドリア連合国には勝てない。それなら――、それを上回る程の技術力で対抗するしかなかったのだ。新型Ark開発のための時間稼ぎと布石が薬物と洗脳による強化人間の作成であり、それこそが鍵だった。

 アーシェント帝国の首都を攻め落とした連合国の部隊は精鋭揃いだった。彼らには「新型Arkを起動させてはならない。見つけ次第破壊せよ」との命令が下っていた。その全貌は明らかにはなっていなかったが、軍部はそれを鹵獲する選択肢はない様だった。

 「悪魔の機体はこの世界に存在してはならない。――これ以上の強化人間を増やしてはならない。この悲劇は我々の世代で終わらせる。そのために、我らは今1つになって、アーシェント帝国を打ち、新型Arkを破壊する」

 精鋭部隊の中心となった隣国のジルヴァ共和国の海軍から招聘された「救国の英雄」は、戦場に向かう戦艦の中で全兵士にそう声をかけた。

 ジルヴァ共和国の「救国の英雄」とその補佐官による作戦立案。
 及び、アーシェント帝国の「赤き稲妻」と呼ばれるArk乗りの男の活躍もあり、アーシェント帝国の首都は僅か12時間で陥落した。

 電撃的な作戦により皇帝及び皇族の殆ど、軍上層部は身柄を確保された。

 しかし、――その12時間の間に新型Arkは皇族の末席にいる男と、軍の一部により持ち去られた。世界にとって最悪なことに、――新型Arkは完成していたのだ。


◆◇◆◇◇


 首都陥落当日。
 時を同じくして、中立地帯のとある街でも事件は起こった。

 秘密裏にアーシェント帝国のエースである女性パイロットを拘束したルドリア連合国だったが、その6時間後――女性パイロットを帝国側の工作員に奪い返されてしまう。

 眠ったままの彼女を抱え、帝国側の工作員は闇に消えた。

 
 ――そして、その彼女が次に世界に姿を現すのは。――3日後となる。
 

 複座式である悪魔の機体の後部座席に、彼女は薄く笑いながら据えられていた。

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