【小説】公師寺凉音、壮絶なる「二十四時間耐久根性焼き」の果てに【裸足道】

公師寺凉音、壮絶なる「二十四時間耐久根性焼き」の果てに

(月刊『裸足道』2025年9月号より)

 2025年7月11日、裸足道記念会館「焦熱の間」にて、四段の公師寺凉音(こうしじ・すずね)(18歳)が公開演目『二十四時間耐久根性焼き』に挑んだ。一分ごとに一本、二十四時間で一四四〇本の根性焼きを行うはずだった聖女は、連鎖するペナルティで十三日間の地獄を味わった。彼女の焼け爛れた足裏と不屈の精神を、インタビューと共に追う。


■演目の全貌

「二十四時間耐久根性焼き」はプロの裸足道家が行う公開演目の一つである。これに挑む裸足道家は足を組んで座り、一分間に一度、火の着いた煙草を己の足の裏に押し付け、五秒数えてから消火。それを二十四時間、休みなく行い、一四四〇本の火傷を足裏に刻み付ける。

 ただし、一四四〇本で終わるとは限らない。例えば、五秒数える前に消火してしまった場合や、一分以内に根性焼きできなかった場合は失敗となり、二十四時間経過後、失敗本数に応じたペナルティを受けることになる。ペナルティは演目の延長であり、失敗本数の十倍が罰として課される。例えば五本失敗していたなら、十倍の五十本を追加で根性焼きすることになる。もちろん、一分ごとに一本だ。そのペナルティでさらに失敗したなら、当然、再ペナルティが発生する。

 全て成功するまで、ペナルティは延々と続くが、一二〇時間(五日間)経過後、まだ成功していなければ演目は失敗とみなされ、最終ペナルティを受けることになる。

 最終ペナルティは裸足道家を拘束し、実に一万本もの根性焼きを足の裏へと叩き込むものである。この事実上の処刑も、当然一分ごとに一本のペースで行われるため、およそ八日掛けて足裏を焼かれ続けることになる。合計十三日間に及び、足裏を焼かれ続けた裸足道家は多くの場合発狂する。それどころか衰弱死することさえあり、命がけの演目といえる。

■根性焼きの聖女

 だが、このような過酷なルールにもかかわらず、「二十四時間耐久根性焼き」はプロの演目の中では低リスクな部類に入る。九割以上が成功する成功率の高さと、過去に一人しか殉道していない死亡率の低さゆえだ。

 また、一四四〇本の根性焼きは通常人では到底耐えられない壮絶な苦痛だが、プロの裸足道家にとっては「物足りない」数字である。というのは、高校女子裸足道における「根性焼き大会」でも、トップレベルでは二千本を超える根性焼きが当たり前であり、プロの裸足道家のほとんど全員が、高校時代に二千本以上の根性焼きを経験しているのだ。

 今回、この演目に挑む公師寺凉音は関西の名門、公師寺家の次女だ。公師寺家は某神社の宮司を代々務める名家であり、旧華族の家柄でもある。京都の裸足道名門校である高踏院女子高等学校に入学し、裸足道部で主将を務め、卒業と同時に四段に昇段。プロの裸足道家となった。

 在学中から全ての大会で優秀な成績を残してきたが、特に根性焼きを得意としており、高校二年時の大会では二五五三本もの煙草を足の裏で味わい、優勝している。その出自と根性焼きに挑む際の凛とした美しい姿から「根性焼きの聖女」という二つ名を持つ。

 そんな彼女のプロ入り二度目の演目となったのが、今回の「二十四時間耐久根性焼き」であった。弊誌は演目が決定した際に、公師寺にインタビューを行った。

 ――プロ二度目の演目は「二十四時間耐久根性焼き」に決まりましたが、根性焼きの聖女として、今の気持ちはどうですか?

公師寺「正直言うと複雑な気持ちです。もちろん根性焼きは大好きなのですが……」

 ――やはり、本数ですか?

公師寺「そうですね。たったの一四四〇本しか根性焼きができないのが、正直、残念ですね。もちろん一四四〇本は十分に凄まじい数ですし、全治一ヶ月半の大火傷を負うことになるんですが……。なんていうか、絶望感が全然足りない、というか……。

 ――絶望感?

公師寺「はい。演目の名前を聞いた瞬間に『あ、ダメだ』『これ、死んじゃう』っていう感覚ですかね。その瞬間に命を諦めて処刑の日を待つ……みたいな。五段の裸足道家が挑む演目はシャレにならないものばかりで、演目が決まるたびに死を覚悟するらしくて……それがすごく羨ましいんです。四段の演目はまだ絶望感が足りないんですよね。せっかくプロになったんだから、私、死ぬ気で足の裏焼きたいです」

 ――でも、過去にはこの演目で殉道した裸足道家もいますよね?

公師寺「はい。一人、殉道してますし、二人、発狂しています。ただ、それでも成功率は九割弱ですから、安全な部類です」

 ――しかし、過去に失敗した裸足道家も、高校生の頃は二千本以上の根性焼きを成し遂げていたと思います。なぜ失敗したのでしょうか?

公師寺「よく聞くのが、やはり時間の長さです。高校裸足道では十秒に一本のペースですから、二千本と言っても六時間焼き続ければ終わります。もちろん六時間ずっと足裏を焼き続けるのも凄まじい苦痛で、私は大好きなんですけど……こちらは四倍の二十四時間ですからね。二十四時間、足裏は激痛に襲われ続け、水分補給や栄養補給はできるけど、痛みと疲労と睡魔で意識が朦朧としてくるようです。最初の二十四時間は耐えられても、ペナルティで延長を繰り返した末に気力が潰えて失敗……というケースが多いようです」

 ――やはり、ペナルティの存在が大きいんですね。

公師寺「はい。ですが、二十四時間で一四四〇本、キッチリ焼けばそれだけの話です。……正直、私も二〇〇本くらい追加でペナルティを受けたい気持ちもありますが、わざと失敗するのもプロとして適切な態度ではありませんし、最初の一四四〇本で綺麗に終わらせるつもりです」

 こう語っていた公師寺凉音だが、当日の演目では思わぬ大惨事を招くことになった。演目の後に公師寺は失敗の原因をこのように振り返った。。

「やはり油断があったのだと思います。一四四〇本は私が高校生の時に味わった根性焼きより千本も少ないのですから。万が一にも失敗しないよう引き締めていたつもりでしたが、心の底では危機感が足りてなかったんでしょうね。失敗するなんて思ってもなかったんです。『二十四時間耐久根性焼き』がプロの演目として採用されているのは、やっぱりそれだけ過酷だからなんです」

■地獄への入口

(写真:「焦熱の間」の様子。ミニシアター程度の広さだが、観客席はマス席となっており、長時間の演目でも観客の負担は少ない。さらに別室には仮眠室やシャワー室もある)

 裸足道記念会館二階「灼熱の間」には、抽選に当たった幸運な裸足道ファン三〇名が集まっていた。観覧料は七万円もするが、チケットの競争率は実に二二〇倍。それでもプロの裸足道家の演目の中では、まだ入手しやすい部類である。観客の一人はこう語った。

「『二十四時間耐久根性焼き』は演目としての人気はそれほど高くないですね。大抵、ペナルティは一回か二回で、せいぜい二十五時間で終わります。裸足道家も余裕を持って終了することがほとんどです。でも時々、確変が起こるんですよ。そう、ペナルティの連続失敗です。最終ペナルティまで至れば、実に十三日間も、裸足道家が苦しみ抜く姿を楽しむことができます。確率は低いですが、そういう超ラッキーを期待して応募しているところはありますね。まあ今回は、根性焼きの聖女、凉音ちゃんですから、そこの期待はしてませんけど(笑)」

 だが、今回、彼はその幸運に恵まれることになる。

 開始時間が訪れ、司会が短い前口上を述べた後、白い道着に藍色の袴姿、足元は当然裸足の公師寺凉音が、満を持して壇上に現れた。会場は盛大な拍手で彼女を迎え、凉音は観客に向かって正座して言った。

「この度は、私の『二十四時間耐久根性焼き』に足をお運び頂き、誠にありがとうございます。これから二十四時間、一四四〇本の根性焼きを味わわせて頂きます。ペナルティを受けるつもりはありませんので、きっかり二十四時間後に終了する予定です。ですが、もし……私が無様にも失敗を繰り返し、最終ペナルティを受けることになったなら……。そのような恥ずべき醜態を晒したなら、私は当然、足の裏を焼き尽くし、苦しみ抜いた末に死ぬべきと心得ています。その際は、ぜひ皆さん、私に向かって『死ね』などの罵声を浴びせて頂けますよう、何卒よろしくお願いいたします。それでは、私の足裏が焼き爛れる様を、ぜひお楽しみ下さい」

 凉音は深々と頭を下げた後、あぐらをかき、左足裏を右太腿の上へと乗せた。当然、足裏はまだ傷一つなく真っ白だった。公師寺凉音は、彼女自身も思いもよらなかった深い地獄へとこれから落ちていく。

(写真:正座で観客に頭を下げる涼音(7月11日、灼熱の間))

■根性焼きの美

 開始を告げる銅鑼が鳴り響き、彼女の前に一四四〇本の煙草が運ばれた。

 火の着いた一本目を受け取った凉音は、微笑さえ浮かべながら、左足裏の土踏まずにためらいなく煙草を押し付け、ゆっくりと五秒を数えてから(実際は七秒ほど経過していた)煙草を押し消した。一切の怯えを見せず、涼やかな表情と流れるような美しい所作で、最も痛みが大きなはずの土踏まずをいの一番に焼いた凉音に対し、観客から再び拍手が湧き上がった。根性焼きの聖女は見事なスタートを切ったのだった。

「演目には不満がありましたけど、でも、一本目の根性焼きをしたら、もう嬉しくなっちゃって(笑) 高校三年の根性焼き大会が最後だったから、九ヶ月ぶりの根性焼きだったんです。煙草を押し付けて、皮膚が焦げて、土踏まずがズキズキ痛み出して来るのを感じると、ああ、私、やっぱり根性焼きが大好きなんだなあ……って。自分の手で、少しずつ、丁寧に、足の裏をグチャグチャのドロドロになるまで爛れさせていくのがイイんですよね。だから、もう嬉しくて、早く二本目の煙草を押し付けたくって。一分経つたびに審判の方が『焼け』って言ってくれるんですけど、早く言ってくれないかなぁ、早く足の裏焼きたいなあ……って、火の着いた煙草を指先でつまみながら待ち侘びてました。一分に一本しか根性焼きできないのが、あの時は本当に歯がゆかったですね」

(写真:微笑を浮かべ、足裏を焼く涼音(7月11日、灼熱の間))

 凉音は足を組み替え、二本目の煙草を愛おしそうに右足裏の土踏まずに押し付けた。最初の百本で両足裏の土踏まずだけを丹念に焼いた後、その後はあしゆびの関節部分や、指と指の間の股などを順番にじっくりと焼き焦がしていった。

「私、高校の時からずっとこのスタイルなんです。皮膚が弱くて痛みが強いところから集中的に焦がしていきます。もちろん最終的には踵とかもドロドロに爛れるまで焼きますけど、土踏まずとかの方が手っ取り早く強い痛みを味わえますから。今回は長期戦ですし、もちろん最初にそんなことやったら不利になるに決まってますけど、それは私が死ぬ気で耐えればいいだけなので。特に問題はありません。…………って、その時はそう思ってました(苦笑)」

■初日の結果

 顔に脂汗を滲ませながらも、実に十七時間弱……千本を超えるまで公師寺凉音は笑顔さえ浮かべながら足裏を焼き続けた。両足裏は既に全面が焼け爛れて二度熱傷を起こしていたが、凉音はその火傷を深めるように火種を容赦なく重ねていく。だが、次第にその目は潤み、嗚咽も漏れ始めた。

「この頃になると、次の煙草が待ち遠しい! なんて感情はもうありませんね(笑) 『焼け』と言われるたびに、怯える体を叱りつけて嫌がる腕を無理矢理に従わせて足の裏に煙草を押し付けていました。火傷した足裏に火種を押し付けるのは、叫びたくなるくらいの激痛ですが、悲鳴も必死に飲み込んでました。でも、裸足道家はみんな同じだと思うんですけど、根性焼きはこうなってからが本当に楽しいんですよ! 一本一本の煙草を死ぬ気で味わうの、本当に裸足道の醍醐味ですから!」

 二十二時間を超えた「灼熱の間」には、十八歳の少女の足裏の肉の焦げた匂いが充満しきっていた。凉音はしばしば気を失い始める。ほんの一瞬ですぐに目を覚ますが、そのたびに彼女はヒヤッとした顔を見せていた。

「この頃になると、私の中での演目への評価がガラリと変わっていました。ああ、本当に良い演目だなぁ……って。この段階になると、もう一本一本の根性焼きのたびに気力を総動員しなきゃいけないんです。全力で拒否する心と身体をねじ伏せて足裏に煙草を押し付け、爆発するような激痛に震えます。必死にそれを成し遂げるんですが、その瞬間に反動で意識が遠のくんです。激痛のせいか意識がボーッとなって……。気絶なんてしたら後が大変ですから、めちゃくちゃ怖いですよ。精神的にもこんなに追い詰められて辛い思いができるなんて、本当に良い演目だなあ、って思いながらやってました」

 二十四時間経過時、彼女は一四三九本もの根性焼きを成し遂げていた。失敗は実に一回のみ。これには観客が湧き上がった。たいてい、五~十回はミスがあるもので、一回のみの失敗は相当に優秀な成績だった。

「私はノーミスで終わらせたいと思ってたので残念な気持ちはありましたね。ノーミスで一発終了した裸足道家は過去に六人いて、私が七人目になりたかったんですが。……ミスの原因ですか? おそらく、五秒焼きに失敗したんだと思います。終盤は火種を皮膚に押し付けて五秒数えるのが本当にキツくて……。たぶん無意識の内に、少しだけ早く数え終わってたんでしょうね。審判役は複数のカメラでスロー確認してて、コンマ一秒でも早ければ失敗扱いにしてきます。この判定は非常に厳しいんです」

■ペナルティの連鎖

 だが、この時点では凉音は成功を確信していたという。ペナルティとして追加で十本の煙草が彼女の目の前に置かれたが、これを焼き切って終了だと彼女は考えていた。ところが、だ。

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