夜山の休憩所 2019/08/17 20:16

書き下ろし小説制作中! 途中の原稿を公開中!(2019年8月17日)


*続くノベルは制作中の書き下ろしです。
 挿絵をつけて有料プランで公開する予定です。
*未完成段階での公開内容は、
 ぶつ切りで終わっているケースもあります。
 続きにご期待下さい。
*開発中につき完成品とは異なる場合があります。
*完成品の発表と同時に、この記事は見られなくなります。
 予めご了承ください。

ここから前回(https://ci-en.dlsite.com/creator/2069/article/90025)の続きです。


「いくわよ……」
 わたしは全身に気合いを漲らせた。
 相手はビーチをメチャメチャにするつもりの怪人。
 このままじゃ、折角の臨海学校が台なしよ。
 だから、早くカタをつけるのに限るの。
 けれど、拳と拳を交えた感じだと、実力は互角みたい。
 どちらが上でも、そう変わりはないでしょうね。
 だとすると、長期戦は避けられない。
 どちらかが大きな隙を見せれば、あっけなく勝負はつくでしょうけど、これまで何度となくやりあってきた者から言わせてもらえれば、そうなったことなんてほとんどないの。
 でも、すぐに決着を付ける方法はあるのよね。
 わたしは大きく息を吸った。
 成長に一喜一憂する思春期としては誇らしいけれど、ジロジロ見られるのは恥ずかしい胸元が、一回り大きくなる。
 そしてわたしはこう叫んだ。
「皆! わたしを応援して! わたしは、平和なビーチをメチャメチャにするこのシャドウマター……怪人をすぐにやっつけて見せるわ!」
 わたしとアイツの戦いを何度も見ている学園の生徒は、すぐに訳知り顔になった。
 わたしたちのことを知らない海水浴客の反応は様々だ。
 露骨に首を傾げたり、頭の上にハテナマークを浮かべたりする人は多かったけれど、ヒーローショーのお客さんみたいに、ノリノリで拍手してくれる人もいた。
「わたしは、ティアブライト! 声援を送ってくれるだけで、それがわたしの力になる。この怪人なんかひとひねりよ!」
 足を開いて拳を青空に突き出して見せると、状況に戸惑っていた人たちも、なんとなくノッてきてくれた。
「頑張れティアブライト!」
「ンなふざけたやつはぶちのめしちまえ!」
 わたしを慕ってくれる学園の男子と、恋人を取られた男の人を中心に声援が飛ぶ。
 男子たちの「マッチョになってモテたい」という煩悩を力に生まれたシャドウマターは、その影響力で女子らを催○状態にして、自分のトリコにしていたみたい。
 けれどわたしが纏う正義の力が、ヨコシマな力を中和している。
 正気を失い、アイツに抱きついていた女子や女性客の中からも、声援が聞こえていた。
「ありがとうみんな!」
 わたしは感謝の気持ちを込めて手を振る。
 いつも思うけど、こうしているとアイドルみたい。
 思春期の女の子だもの。綺麗な服を着て煌びやかな舞台に立ち、美しいメロディの曲を歌って皆を喜ばせるのには、憧れる。
 わたしはすっかり、いい気分になっていた。
 負ける気はぜんぜんしない。
 敵を倒すのに十分な力が溜まり、いざ決着を、と思ったとき、シャドウマターが高々と告げた。
「オレもお前らに助力を乞おう! オレを応援してもらおうか!」
 怪人は、腕を組んでふんぞり返っている。
 とても助けを求めている態度ではない。
 わたしを応援してくれる人達が、一斉にブーイング。
 悪の味方はひとりもいない。
 これは勝った。
 そう思ったけれど、甘かったわ。
 悪はたった一言で、大勢を味方につけたの。
 それはこんな言葉なのよ。
「オレがティアブライトを制圧したら、こいつを辱める! エロアニメ、エロマンガ、エロ小説、エロA……いや、AVみたいなことをすると約束しよう! こいつの正義の心を折るためにな!」
 ブーイングがぴたっと止まった。
 主に学園の男子や男のひとたちが顔を見合わせる。
「え、ティアブライトがエロい目にあうのが見られるの?」
「あの巨乳でナイスバディで顔も可愛い若い子が犯されるのを拝めるのか?」
「おらぁ、社会の不平等をいやってほど体験してる。正義の味方ヅラするヤツは嫌ぇだ」
「世間知らずの小娘は逞しいオスにメチャメチャにされて、世間の厳しさを知ればいい」
 不穏当な言葉が小さく飛び交う。
 う……まずい……。
 この場合、声量は関係ないの。
 わたしもシャドウマターも、人々の気持ち……心の力の波動を浴びて自身の力に変えているのだから。
 つまり、周囲の人々が正義の実現を願えばわたしが強くなって、アイツは弱くなる。
 でも、反対と逆になる。
 周囲の人々が悪徳の実現を願えば、わたしが弱くなってアイツは強くなるのよ。
 人々の悪徳の実現を願う気持ちは一秒ごとに大きくドス黒く広がっていく。
 あわわ……すごい速度で、他の人にも伝染していって……もう、周りは真っ黒じゃないの!
「勝負あったな」
 普通の人に、人々の心の力の波動……オーラは見えない。
 けれど、わたしとシャドウマターには見えている。
 だから、形勢逆転したのを目の当たりにした怪人は、いやらしい笑みを浮かべていた。
「くっ……負けるものですか!」
 優勢だった頃に得た力を集中させて、わたしは駆けだした。
 今ならまだ間に合うかも。
 でも、一か八かの賭けは、させてももらえなかった。
「ふん、遅いわ!」
「えっ、ああっ!」
 駆けだしたつもりだったけれど、実際は、一歩踏み出した時点で、シャドウマターに後ろを取られていた。
 いつ接近したのかまるで見えなかった。
 ほんの少し前まで互角だったのに、皆の支援を取り付けられたかどうかで、こんなにも実力に差ができてしまったの。
 ドゥンゥ!
 シャドウマターが超高速移動したことで、周囲に衝撃波が生まれた。
 砂が今までにないくらい、それこそ、お日様まで覆うほど噴き上がる。
 そうなったときには、わたしは完全に身動きを封じられていた。
 両手を後ろに取られてしまったの。
 肘から先は、筋肉ムキムキの太ももに挟まれて、ガッチリホールドされている。
「くっ、この……こんなことって……!」
 わたしは必死にもがいた。
 こんなピンチで諦めるなんて、ティアブライトにはあり得ない!
 腕を抜こうと力を込めたり、身体を揺すって抜けやすくしようとしたり、思い切ってジャンプしたりと、考えつく限りの脱出方法を試してみた。
 でもダメだったわ。
 まるで万力にガッチリ挟まれたみたいに、ビクともしない。
 ギリギリ締め付けられてるわけじゃなくて、まるで敵のマッチョな太ももと融合したみたいに、痛みを伴わない固定を受けているの。
「は、離しなさい!」
 焦りと絶望の汗をかきながら、わたしはやけくそに叫んだ。
 すると、シャドウマターはどうしたと思う?
 これ以上ないというくらいに楽しそうに、でも冷たく言い放ったの。
「敵に解放しろと命令するということは、自力では抜け出せないことの証拠だな」
「うっ」
「いつもの戦いよりも周りに人が多く、それだけ、多くの力がオレのものになっているお陰だろうな。かつてないほど、力の差がついているのは、お前もわかるよな」
 わたしは言い返せなかった。
 まさしく、悪の怪人の言うとおりだからだ。
「わ、わたしは諦めない」
「ほう」
「必ず隙を見つけて、あんたをやっつけて見せるんだから!」
「その気勢、いつまでもつかな」
「余裕綽々のその態度、腹が立つ!」
「さて。上手くお前を生け捕りにできた。力の差と、よほどのことがない限り逃げられはしないと言うことを確認できた。あとは、始めるだけだな」
 わたしは背筋が寒くなった。
 コイツが皆を味方につけたときに言ったこと……約束事が頭の中に浮かぶ。
「う……うわあああああああ!」
 わたしはさっきよりも必至にもがいた。
 思い返せば、さっきはまだ、なりふり構ってる余裕があったと思う。
 けれど今は、檻に閉じ込められたケモノみたいに、髪を振り乱して、変身したせいでかなりエッチに成熟したオッパイやお尻、太もものお肉が揺れるのも無視して暴れた。
 敵に負けた上に、エッチなことをされるなんて真っ平ご免よ!
 でも。
 やっぱり。
 わたしとコイツとでは、力の差がありすぎた。
 我ながらみっともなく取り乱すわたしの暴れぶりを、コイツは完全に見切った。
 素早く精密でしかもあっさりと、フリルでいっぱいのチューブタイプのビキニブラを首元までたくしあげてしまう。
 布が擦れる感触と、胸元が少し涼しくなったのに気付いたときには、両方のオッパイは完全に露出してしまっていた。
「きゃ、きゃぁあああああああああ!」
 声の限りに悲鳴を上げるわたしを見て、シャドウマターの口角が、またもやいやらしく上がる。
 学園の生徒や海水浴客も、同じような具合だった。
 怪人の放つ力のオーラが、皆を狂わせているのだ。
 常識で考えれば婦女暴行の現場以外のなにものでもない。
 でも、誰も彼もが、見世物を見るみたいに眺めている。
「オレの力の源、モテない皆様、悪徳を愛する皆様お待ちかね!」
 シャドウマターが声を張り上げる。
 露天商やテレビの通販番組のノリの怪人に、皆の視線が集まった。
「『敗北ヒロインの生意気オッパイは、悪にメチャメチャにされまショー』の始まりだ!」
 うおおおおおおおおおおおおおおおおお!
 皆の歓声が砂浜を揺らす。
 空の太陽よりも熱い、けれど欲望の黒いオーラを伴う皆の熱気が、平和だったビーチを満たしていた。



今回はここまでです。
次の更新、作品の完成にご期待下さい。


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