【小説サンプル】死にたがりの魔女と上位魔族ー終焉ー プロローグ
※DL siteで販売中の作品のサンプルです。
概要
『死にたがりの魔女と上位魔族』シリーズ最終巻!
あらすじ
上位魔族に溺愛される魔女(調教済み)がご主人様の淫らな愛に応えているうちに気付けば世界を救っていた話。
全体を通したプレイ内容
人外(魔族)攻め・敬語攻め・躾け/調教・羞恥プレイ・連続絶頂・子宮責め・中出し・快楽責め・指責め・焦らし・アナル責め
※ダークな世界観でストーリーは進みますが、最後はハッピーエンドです。
※暴力表現・モブキャラの殺傷描写・流血描写がございます。
※ヒロインが攻め以外(世話役)から躾け・性感開発を受けるシーンがあります。
プロローグ
自分に歳の近い妹がいると知ったのは、ユキが六歳の時だった。母親の召使いが話しているところを、たまたま立ち聞きしたのだ。
どんな子なのか興味を抱いたユキは家を抜け出し、妹が暮らす孤児院を訪ねた。
妹はとても可愛かった。初めて会ったその日から、幼い少女はユキのことを姉と慕ってくれた。
妹に笑顔を向けられると胸の奥がほわほわした。つられてユキも笑うのだけど、自分の笑顔はなんだかぎこちないように思えた。それでも妹は嬉しそうに手を叩いてはしゃいでいた。
ユキに新しい家族ができた。
しかし喜びは長く続かない。
妹は生まれつき、身体が弱かった。
ユキの母は魔女である。
魔女が自分のもとで育てるのは、後継者と定めた子供だけ。それ以外の子供は父親となった男に渡され、そこで人間として育てられる。
正統な後継者でなくとも魔女の子供は皆、人並外れた魔力を持って生まれてくる。自らの血筋に魔女の血筋を加えたいがために、身分のある男たちは競うように一夜の相手に名乗り出た。
しかし念願かなって生まれたはずの妹は、健康でないという理由で母親だけでなく、貴族の父親からも不要とされた。父親は魔女との逢瀬をなかったことにして、多額の寄付金と共に妹を孤児院に押しつけた。
孤児院の院長いわく、妹は長く生きられないという。
ユキが初めて孤児院に行ったのは初夏の季節だ。
ふたりで長椅子に座って、爽やかな風を感じながらたくさんおしゃべりができた。
しかし日を追うごとに妹は弱っていき、冬を迎える頃には彼女はベッドから起き上がれなくなっていた。
血の気が失せた青白い肌。夜の闇を彷彿する真っ黒な瞳が力なくユキを見つめている。カサついた小さな唇がかすかに動くも、そこから元気な声は出てこない。それでも、妹は懸命に唇を動かして「お姉ちゃん」と言ったのがユキにはわかった。
助けたいと、心から思った。
母はユキに関心がなく、召使いたちも仕事の範疇でしかユキとかかわることがない。愛情に飢えた子供は、消えかかる幼い命に家族のぬくもりを求めた。
妹を助けたい。
そのためには、自分のした「悪いこと」を大人に打ち明けなければいけない。ユキは「ひとりで行動していい範囲は家の敷地内だけだ」と常日頃から召使いに言われていた。
叱責を覚悟して母に孤児院まで妹に会いに行ったことを報告する。
勇気を振り絞った娘の告白に、魔女は最後まで無感動だった。
「次からは供をつけなさい。幼い子供が一人で外を出歩いてはいけません」
有無を言わさぬ冷たい口調に身がすくむ。
「お母様なら、あの子を助けることは……」
「できません」
言い終わるのを待たず、母は娘の懇願を切り捨てた。
話は終わりだと背を向けて研究室へと歩き出した母の背中を慌ててユキが追いかける。
「本当に、方法はないのですか」
後ろ姿へと声を振り絞る。母と会話を続けるのは、召使いと話すよりも勇気を要した。
立ち止まった母がため息を漏らす。心底面倒だと思っているのが態度から伝わってきて、ユキは居た堪れず身を縮こませた。
「延命は苦しみを長引かせるだけです。これ以上うるさくするなら外に出ることを禁止します。他人に余計な情を抱く暇があるなら、その時間を母の魔術研究の記録を一ページでも多く頭に叩き込むことに使いなさい」
他人じゃない。あの子はわたしの妹で、家族なのに——。萎縮したユキは言い返すことができない。
母はうつむく娘を気にかけることなく行ってしまった。
廊下にひとり残される。
——あなたは魔女の後継者です。他者の愛情を必要とせず、自立してこの世界を生きなければなりません——。物心がつく以前から、何度も母に言われてきたことだ。
母はユキを自身の後釜にするべく準備を進めてはいるものの、ユキが精神面において魔女の後継者にそぐわないことを早い段階から見抜いていた。
それゆえに夜な夜な男を呼び寄せ、子作りに励む。ユキよりも魔女の素質を持つ子供が生まれた際は、後継者を入れ替えるために。
ユキはいつ捨てられるかわからない立場にいた。そんなユキ自身もまた、顔も知らない姉を押し退けて魔女の後継者になったのだ。そしてそれは、母も同じ。
愛情に揺らぐことなく生涯を魔術の研究に打ち込む。子供は研究を後世に繋げるための道具でしかない。魔女は昔からそうやって東方大陸で生きてきた。
子供心に独りが寂しいと感じてしまうユキは、たしかに魔女の後継者に相応しくないのかもしれない。
そういう意味では、母親の判断は正しい。
母になんと言われても、ユキは妹を見捨てることができなかった。
どうにかして妹を助けられないかと奔走する。
家の書庫を探したら、妹の身体を蝕むものの正体はすぐに調べられた。
妹は魔力を蓄える器官が人並みしかなく、母から受け継いだ膨大な魔力が幼い身体を脅かしているのだ。
魔女狩りが盛んに行われた暗黒時代以降、魔女の出生率は著しく低下した。現在魔女は国家規模で保護され人間に狩られることはなくなったものの、直系の魔女の血筋はゆるやかに絶滅に向かっている。
魔女の子供は貴重。
調べ物の途中でユキはひとり納得する。だから母様は、わたしみたいな出来損ないでも妥協して後継者に選ばざるを得なかったのだ。
——お前は市井で生きるべきですね。次に産む子に魔女の素質があれば、お前は父親の元へ送りましょう。その日が来たなら人間として生き、命に飽きた時は人知れず国を去りなさい。
以前に言われた母の言葉が重くのしかかる。気分が沈んで次の書物に手をつける気になれず、ユキは書庫を後にした。
結局、妹の体を蝕む原因を突き止めることはできても、根本的な治療方法は見つからなかった。
もう一度母に縋ろうにも、母は研究室にこもってしまった。こうなると何日も出てこない。
ユキは研究室への入室を許されていない。あそこには近づくだけで召使いに止められる。
無力感にさいなまれて衝動的に家を飛び出す。召使いは裏口から敷地の外に出たユキに気づかぬふりを貫いた。
一直線に街外れに建つ孤児院へと走った。いつも突然訪ねてくるユキを院長は毎回笑顔で出迎えてくれた。
妹は簡素なベッドで眠っていた。日が暮れるまで見守っていたが、結局妹が目を覚ますことはなかった。
妹にはもう時間がない。
子供の一人歩きを心配して家まで送ると言った院長の申し出を断り、孤児院を後にした。
日が落ちて薄暗くなった街の大通りを、道行く人々に紛れてトボトボと家に帰る。
その時だった。
——さみしいさみしい、ああどうしよう、独りぼっちはこわいこわい……、愛にあふれた、一途な香りは、だぁれから?
建物と建物のわずかな隙間から、歌が聞こえてきた。小鳥のさえずりのように高い、女の人の声。ユキが建物を通りすぎてもまるで耳のすぐ側で歌われているかのように、声は一定の音量を維持してつきまとってくる。
不思議に思って後ろを見るが、そこに歌を口ずさんでいる者の姿はない。
気味が悪くてユキは駆け足になった。一時的に歌は消えたが、路地裏に続く曲がり角を通りすぎたところで、また声が耳に届く。
——さみしいさみしいおじょうさん、こちらへいらっしゃい。
一度目は無視した。
——あなたの願いを、叶えてあげる。
次の曲がり角から聞こえた言葉に、足が止まる。ユキの願いを見通しているような、確信のこもった声に心が揺らいだ。
——……さあ……。
歌うような囁きに導かれるようにして、ユキはひと気のない小道に入っていった。
暗い路地の行き止まりに、フード付きのマントで全身を隠した怪しい人間が立っていた。しかし歌声でユキを誘ったのはその人ではなかった。
——そぉらかわいいかわいいおじょうさん。望みを聞かせてごらんなさい。
上空か、あるいは路地を囲む建物の壁からか。どこからともなく歌が聞こえる。
ユキは差し伸べられた救いの手に、藁にもすがる思いで縋った。
ユキがソレの正体を知ったのは、すべてにおいて取り返しがつかなくなってからだった。
——心の底から湧き上がるその願いを叶えるために、あなたは何を差し出すことができるかしら?
問いかけられてうーんと悩み、ユキは自分の宝物を提案してみた。しかし金銭や宝石、魔力結晶など人間にとって価値がある物を、ソレは受け取るに値しない無価値なゴミだと言い捨てた。
ソレが美しい歌で遠回しに求めてきたものは、ユキの肉体の一部だった。
それならば——と、ユキは保管してあった臍の緒と、最近抜けた自分の乳歯を屋敷から持ち出した。そして口の中でぐらついていた残りの乳歯も強引に抜き取り、全部をまとめてソレの右手に置いた。
——いいこいいこ、とてもいい子……。
宙に浮かんだ大きな手がゆっくりと握りこぶしを作る。
——あなたの願いを叶えましょう。
歌ではない、ハキハキした言葉が暗い路地に響く。
再びソレの右手が開いたときには、捧げた供物は手品のように消えていた。
きょとんとするユキの前で、宙に浮かぶ大きな左手がくるりと向きを変える。手の甲が上になり、そこから立ち上がっていくようにゆっくりとユキの顔に手のひらが向けられた。
——でも、少し多かったわね。もらいすぎたぶんは、返さなきゃ。
眼前に巨大な左手が迫り、ユキは反射的に目を閉じた。自分の顔を生温かいものが包む。そのまま握りつぶされるのかと思うと恐怖で動けなかった。
しかし心配は杞憂に終わり、数秒後には何事もなかったかのようにユキは解放される。
風が頬を撫でたことで、謎の手が顔から離れたのだとわかった。
「ようこそ、美しき真実の世界へ」
聞こえた男の声は、今にして思えば精霊使いのものだったのだろう。フードを被った人物が立ち去る足音は聞こえていたが、ユキにそちらを気にする余裕はなかった。
周囲に誰もいなくなって、恐る恐る目蓋を持ち上げる。
そこから、ユキの目に映る「世界」が変わった。
*
眠れないようでしたら昔話でもしましょうか。
そう言って、主人はユキに語り始めた。
「今でこそ実界と精霊界は混ざり合っていますが、元々はそれぞれ独立した空間に存在する、まったく関わることのない世界でした」
背後から聞こえてきた男の言葉に、ユキは小首をかしげた。
思っていた昔話と違う。ユキとしては主人のちょっとした体験談を聞く心づもりでいたのに、語られたのは神話レベルの壮大な話だった。
怪訝そうな顔で振り向き気味に背中を預けていた主人を見上げる。問いかけの色がこもったユキの視線を受け、主人——サファルはゆったりと目元を和ませた。
穏やかな微笑みは疑問の答えになっていない。それを承知のうえでサファルはユキのこめかみに口付けを落とし、ユキの体勢を収まりのいい位置に戻す。
これは最後まで聞けということか。
サファルに後ろから抱き締められるようにしてベッドの上に座るユキは、腹部にまわるサファルの手に自らの手を重ねた。
見えなくても、背後で主人がそれでいいとうなずいたのがなんとなくわかった。
「一万年や二万年どころではない、遥か昔の話です。それまで交わることのなかった二つの世界を融合させようと仕掛けてきたのは、精霊界のほうです」
え……? と、振り返りそうになるのを寸前でこらえた。ユキに緊張が走る。性交後の甘い余韻がすぅっと冷めていくのを感じた。
「精霊界がどのような方法を用いたのか我々にはわかりません。実界を取り込んだ果てに奴らが何をしたかったのか、精霊界の最終的な目的も判明していない。それでも精霊界のやり方には迷いがなく、世界を融合させる工程には『手慣れている』印象を受けました」
最初は異常とも言えない些細な変化だった。そこから実界の物理法則に歪みが生じ、空間が捻じ曲がり、何百年もかけてじわじわと理(ことわり)がおかしくなっていった。
はるか昔、いにしえの魔族が殺し合いに興じていた時代のことである。当初、世界の異変に気づいた魔族はサファルをはじめ、ほんのわずかしかいなかった。そこに何者かの意思が介在しているのではと警戒した魔族はさらに少ない。
「本当に間一髪でした。あの時オズウードとミスガルムの説得に成功して休戦に持ち込めていなければ、すべてが手遅れになっていたことでしょう」
異常事態を実界の危機だと理解して、魔族たちは同族以外に自分たちを脅かす敵がいるのではと調査に乗り出した。
「世界を歪める原因は実界の外にあると突き止めた途端に、『奴ら』は姿を現しました。実界を取り込む過程において我々が邪魔になったのでしょう。直接消しに来てくれたので、ようやくこちらも敵に攻撃を加えられるようになりました」
そこからいにしえの魔族と、実界を蝕む「敵」——精霊界との戦争が始まった。
「結果だけを申し上げれば、精霊界の侵蝕を阻止することには成功しました。しかしながら二つの世界を完全に分離させる方法は見つけられず、現在においても実界は精霊界の干渉を許したままとなっています」
懐かしむように語られるが、ユキの心境は穏やかではない。
精霊はサファルの敵。いや、サファルだけではない。
精霊は排除しなければいけない、実界の敵なのだ。
——じゃあ、そんな精霊と契約を結んでしまったわたしは……?
頭からサッと血の気が下がる。罪の意識から身をこわばらせたユキを、サファルが逞しい腕で強く抱きしめた。
「この話にユキを責める意図はありません。精霊との契約なら過去に私も経験がありますし、あちらと繋いだ縁のすべてが害悪でないことは承知しています」
力強い腕の力がゆるまったかと思えば、サファルの長い中指にへその窪みをほじるようにくすぐられる。そこから主人の手はさらに下方へと移動して、薄い茂みを越えた先で秘裂をゆっくりと往復する。
「っぁん、ぁ……」
「精霊と契約した程度でユキに猜疑心を抱くなど、浅はかもいいところです。もっとも、たとえあなたの心を精霊が巣食っていたとしても、その時は跡形もなく取り除くだけですが」
ちゅぷ……。ぬかるんだ蜜壺に指が突き入れられる。
つい先ほどまで主人の肉棒を咥えていたそこは、二本の指をすんなりと受け入れた。膣内をクチュクチュと掻き混ぜ、肉壁を擦る刺激にユキの口から甘い声がこぼれる。
冷たくなりかけた心に再び官能の火が灯る。
「ぅぁっ、あ……わたしは、全部っ、サファルさまのもの……だからっ」
「わかっています。ユキのすべては私のものです」
膣奥で軽く曲げられた指が媚肉を抉りながら引き抜かれる。トロリと溢れた精液をナカへ戻すように、主人の指が再び沈む。
「ぃん、んぁ、あっ……くぅん……あぁ」
膣壁を揉み押される快感にうっとりと身をしならせる。ユキは後頭部をぐりぐりとサファルの胸板に押し付けた。
ふっと笑いを含んだ吐息が耳にかかる。
「可愛いらしいことを」
耳に直接吹き込むように囁かれた直後、ポルチオに強い快感が襲う。
「はひっ、ぃ……っ、ぁや、ぁ、そこっ、あんっ……んんぅ……っ」
膣奥をグニグニとこねられる。腹の底から湧き上がる快楽に足が小刻みに震え、迫り来る絶頂の気配に肩がすくんだ。
耳のふちをなぞるようにサファルが舌を這わせてきて、反射的にユキはぎゅっと目を閉じた。
「愛おしいあなたを、あの醜悪な化け物に譲るはずがないでしょう」
怒り、憎しみ、あざけり——。ありとあらゆる負の感情が混ざり合った低い声が鼓膜を揺らす。
サファルは今、どんな顔でそれを言っているのだろう。
小さな好奇心が芽生えるも、与えられる刺激によって一瞬でそれどころではなくなる。
胎内に潜り込んだ指に子宮口を優しく撫でられる。子宮からこぼれた白濁液を膣奥の肉壁に擦りつけられ、ジンと痺れる快感にユキの表情が蕩けた。
「はふ、ぅ……っん、あぁ、はぁ……ぁっ」
「何度も言いますが、私は決してユキを疑っていません。しかし疑惑とはまた別の……認識の齟齬とでも言いますか。あなたが伝える必要がないと判断した部分に、私にとっての特別重要な事柄が隠れている気がしてならないのです」
「んぁっ、ぁ……伝えてない、こと……?」
「ええ……ユキは自身で抱える不安や懸念のすべてを、私に打ち明けてはいないのでしょう?」
確信のこもった口調に困惑する。いったい何のことを言っているのかわからず、無意識に首を横に振った。
ざっと記憶を振り返っても、思い当たることがない。
精霊と契約した事実、瘴気のこと、東方大陸の動向。言わなければいけないと思ったことは全部サファルに打ち明けている。隠し事はない……はずなのだ。
ユキの無自覚はサファルにとって想定どおりだったらしい。何も言えなくなったユキを咎めたりはせず、主人は穏やかな口調で答えへと続く道を示した。
「あなたは以前、瘴気と精霊界に何らかのかかわりがあるのではないかと、同郷の女性に尋ねましたね」
それについては覚えている。エスター領で領主会議が開かれ、サファルが屋敷を不在にした日のことだ。
中庭の温室で、ユキはカリンにそんな感じの質問をした。
「あれは……聖教会が東方大陸に瘴気を放った際に、精霊の契約者——精霊使いが協力していたかもしれないって思ったから……」
「本当にそれだけですか」
「ひんっ、……っぃ、あぅっ」
ポルチオをグジュリとひときわ強く抉られる。キュッと締まった肉壁をズリズリと擦りながら指が膣道を後退する。
トロトロに濡れた主人の長い指が引き抜かれた。
「同郷の彼女に報告ではなく質問という形を取った時点で、ユキは彼女から何かしらの答え、あるいは見解を期待したのでしょう? そして質問を放った当初のあなたは、『聖教会と精霊の契約者が協力関係にあったことに確信を得るための回答』を求めていたのではなかったはずです」
——瘴気の厄災に、精霊界が関わっている可能性はあると思う?
あの時ユキは温室で、カリンにそう訊いた。
最初の段階では、聖教会や精霊術師という単語は、ユキの口から出てきていなかった。
その質問をカリンに投げかけた本当の意味を、サファルは知りたがっている。
「……あれ、は……」
なんとなく思いついただけ……そう言って誤魔化せる空気ではなかった。
主人の希望に応えたい。応えなければいけないと、わかっている。
それでもユキが口ごもってしまったのは、自らの抱く懸念が人に話すにはあまりにも荒唐無稽な内容だと自覚していたからだ。
気にしなくていいことに注目して共通点を無理やりこじつけ、あたかもそこに何者かの思惑があるかのように仕立て上げているようなもの。陰謀論も甚だしい。こんなものは火のないところに上がった土埃を、煙だ火事だと騒いでいるのと同じだ。
情報の取捨選択に偏りがあり、冷静な分析ができていないことをユキは自覚していた。
そんな妄想は自分の中だけで留めなければいけない。くだらない想像を打ち明けるのは、主人を慕う気持ちを曝け出すよりも恥ずかしいことだった。
言葉が続かず黙ってしまうが、それをサファルが許すはずがない。
「答えられませんか」
サファルの指先が後孔に触れた。
「……っ! ぃっ、や……そこは、やだ……っ」
窄まりのふちをフニフニと押されてユキが身を固くする。膣口からこぼれた体液が秘裂をつたい、後孔をいやらしく濡らしていた。
サファルは精液と愛液が混ざった淫液を絡めた指で、閉ざされた孔をほじるように押し撫でる。
「確信が得られない限り沈黙を選ぶ、あなたの癖はなかなか治りませんね。私はユキの思考だけでなく、不安も喜びも、心のすべてを知りたいというのに……」
「ぁっ、やっ……おしりはだめっ、……ぅぁっ、サファル様っ」
「自身の考えには価値がないと勝手に決めつけ隠してしまうとは、いけない子です」
後孔に指先が埋まる。
後ろが拡がる感覚に焦るも、男の片腕でがっちりと腹部を抱かれているため逃げられない。
「やっ、だぁ……っ、あぅ、うぅ……」
後ろの快楽にはいまだに慣れず、際立つ異物感にユキはイヤイヤと首を振る。
「どうか心の内を打ち明けて、私の望みを叶えてくれませんか」
後孔に挿さる指は今にも奥へと潜り込もうとしている。主人の懇願と肉体的な脅しを同時に受けて、ユキの精神が混乱をきたす。
そうやってうろたえる腕の中の獲物を、サファルは薄い笑みを浮かべて楽しんでいた。
グチュ……。
アナルの浅いところに留まる指がわずかに動いてユキが息を詰めた。
「————っ」
お仕置きがほしいのかと言外に問われている状況だ。このまま何も言わないでいると、容赦なく後ろの孔をぐちゃぐちゃにされる。
「……ゃっ、ぁ……っ、精霊はサファル様の……敵、なの……?」
「そうなります。とはいえ精霊とは精霊界の生物の総称なので、単純に敵を示しているわけではありません。かつて我々の戦った精霊は人語を操り、醜悪な見た目をしたものばかりでした。昨今実界に出現する精霊は知能の低い獣ばかりなので、それとはまったくの別物です」
「…………けもの……」
たしかに、ユキの藍色の瞳に映る精霊は皆、実界の動物に近い姿をしている。ユキが取引のために召喚する精霊は言葉を理解しているようではあるが、獣の口から人語が聞こえてくることはなかった。
ただひとつ、幼い日にユキと最初に契約した精霊を除いて——。
……じゃあ、アレは……?
女の歌声が脳裏をよぎる。
グジュ、ズルゥ……。
「ぃぎゅ、うぐ……ぉっ、くぅ……」
サファルの問いかけから話を逸らしたことを咎めるように、指がアナルの奥へと入り込んだ。
慌ててユキは口を動かす。
「やぁっ、あっ、ぁ………ぁっ、あの……わたしが最初に契約した精霊は、しゃべって……唄ってたっ。あれ、は……っ」
サファルの纏う空気が変わる。しかし彼自身は何も言わず、後孔に埋まる指を止めてユキに続きを促す。
「……あの精霊がどんな姿をしていたのかは、わからない。実界に見えていたのは……両手だけだった。右手も左手も……人間のものより、大きくて……っ」
——そう、手だ。
「あの手が…………似てるって……思ってしまったの……」
「何とですか」
羞恥心が限界突破する。ユキは耳まで真っ赤にして唇を震わせた。目尻に溜まった涙が流れる。精霊界と実界の関係に衝撃を受けて混乱中だというのに、容赦なく与えられる快楽のせいで頭はさらにぐちゃぐちゃだ。
体内に埋まるサファルの指がゾロリと動く気配がしてユキはもうどうにでもなれと半ばヤケっぱちになった。
「聖教会の、神様と!」
言ってしまった。顔が沸騰しそうなくらいに熱い。
馬鹿げた考えだと自分でもわかっている。
ユキは神を信じていない。だからといって他者の信仰を否定するつもりはなく、人の心の礎を土足で踏みにじりかねない思考にはある種の禁忌を覚えていた。こんなのは不謹慎どころではない。人間が忌み嫌っている精霊と神を同一視するなんて、信仰者への最大の侮辱だろう。
「おかしなことを言ってるって、わかってる。でも……西方大陸で聖教会の女神を知ったときに、ふと頭によぎって……」
東方大陸を出奔したユキが西方大陸に渡ってすぐのことだ。冷たい夜風をしのぐために訪れた廃教会で、そのとき初めて彼女は聖教会の女神を見た。
礼拝堂前方に放置された女神像は、右と左、両方の手のひらを訪れた者に差し出すポーズでたたずんでいた。全身のバランスを無視して顔よりも大きく誇張された「手」が、ユキには幼い日に見た精霊の手と重なった。
引っかかりを覚えて廃れた教会を探ってみれば、女神の両手に深い意味が込められていることがすぐにわかった。本腰を入れて調査するまでもなく、大部屋で拾った聖典の序章に記されていたのだ。
女神は右手で献身を受け取る。——女神はその右手の手のひらで信者の祈りを感じられる。またその手から供物をお納めになられる。地上で役目を終えた信徒の御魂を女神は右手に包み楽園へと導く。
女神は左手で祝福を与える。——女神はその左手から、多くの奇跡を地上に授けた。繁栄の知恵、聖なる力、そして悪きものに惑わされぬ強き心。女神に選ばれし代弁者の導きにより、人々は安住の地を得る。
それまで目的もなく西方大陸を歩いていたユキだったが、以降は旅の道中でなんとなく聖教会を意識するようになる。しかし聖教会を調べていくうちに瘴気の真実に辿り着いたことで、精霊のことは頭の隅に追いやられていった。
「本当に、少し気になっただけで、サファル様に言うほどのことは何もないって……思ってた、けど…………黙っててごめんなさい……」
弁明を重ねるうちに自信が削られる。サファルが大昔に精霊界と戦っていた事実を知った今となっては、「そんな馬鹿な」と否定できなかった。
「よく話してくれました」
ユキの腹部にまわっていたサファルの手が、秘部の前方でぷっくりと勃起する肉粒を撫でる。
「ぃあっ……っんんぅ」
敏感な場所を刺激されて下腹部に力がこもる。意図せず後孔を埋める長い指を締めつけてしまい、湧き上がる快楽にユキの頭がジンと痺れた。
「おおよそのことはわかりましたが、いくつか確認させてください」
「……っ、まだ、なにを……?」
「そう不安になることはありません。知りたいのはユキが最初に契約したという精霊のことです」
ギクリと身体がこわばるも、主人がクリトリスに優しく触れてくるものだから緊張はすぐにほぐれた。そのまま小さな粒をトントンとタップされる。
顎を上げて甘い声をこぼすユキへと、サファルがそっと囁く。
「大丈夫、ソレの正体がなんであれ、ユキは何ひとつ悪くありません」
発覚の遅れが最悪の事態を招いたとしても、責任の所在は自分にあるとサファルは認識していた。ユキの「精霊の契約」を魔族の常識の範疇で捉えてしまっていたのがそもそもの間違いだったのだ。
一万年、二万年——と、時間が積み重なるほどにいにしえの魔族たちの記憶も曖昧になっている。かつての出来事を鮮明に覚えているつもりではあるが、自覚のないところで何かしら抜け落ちてしまった部分もあるのだろう。
途方もない時間が、気づかぬうちに精霊への警戒心を風化させた。この事実を男は内心苦々しく思うも、それをユキには悟らせない。
「ユキは言葉を操る精霊から、直接契約を持ちかけられたのですね」
「うん、そう……」
「手」の近くには精霊使いがいたけれど、あの男は精霊界と実界を繋げていただけだ。ユキを誘ったのは、間違いなく精霊そのものだった。
「その精霊が実界に顕現したのは『声』と、人と同じ形の『両手』だけでしたか?」
ユキは少しの間考え込み、小さくうなずいた。
「手首から上は見えていない。声は女性のものでも、どんな精霊がそれを発していたかは、実界からはわからなかった……と?」
再度うなずき、口を開く。
「そう。……だから、見えていた手の大きさから、ソレは巨大な人間の女性の姿をしているんじゃないかって……、ずっと自分の中で思い描いていたイメージが、女神の像と一致して……」
「それで西方大陸の女神と繋がったのですね。なるほど、よくわかりました」
グジュリと、後孔に埋まる指が向きを変えた。刺激にユキの膝が跳ねる。
「うくっ、ぅあ……やっ、あ、だめっ、グリグリはっ……やぁ……しないで、っうん、うぅ……ぅあっ、ぁっ……どうしてっ、はなした、のにぃ……っ」
「ええ、ですからこれはお仕置きではありません」
「ひぃん、あっああぁ————っ」
後孔の指責めに戸惑っているところにクリトリスをしごかれる。長い時間ゆるゆると快楽に浸っていたころにトドメを刺されたユキはあっけなく絶頂に昇り詰めた。
イッた直後に敏感な肉粒からサファルは指を離し、その手でユキを抱え込む。達した余韻に子宮が震える最中も、アナルをほじる指は止まらない。
「……っほ、ぉ……あっ、うあっあ、いまは、だめ……そこ、やだぁっ」
「嫌がらずに受け止めなさい。後孔の刺激に戸惑いはあっても、気持ちいいことに変わりはないのでしょう?」
耳穴に直接吹き込むように囁かれたユキは身を捩るのをやめる。主人の言葉に本能的に身体が従い、意識が快感に集中する。
「……は、あぃ、ぃっ、いぃ……ぅ、んんっ、くぅん……っん、ああっ」
身体から力が抜けて、奥をいじる指を肉筒がキュッと包み込む。
「ぁ……あぁ……お、しり……、きもち、ぃ……」
ズグ……グジュ、スリスリ、スリ……。
奥へと入り込んだ指に肉壁を撫でられ、甘い嬌声が漏れる。
主人の気分次第でアナルへの愛撫は罰からご褒美に変わる。
ジュプ、ジュプっ、ヌップ……ズブブッ。
震える肉道を二本の指に抜き挿しされる。勢いよく奥を穿った指先が肉壁をこねまわす。突き上げもさることながら、指が外へと抜け出る際の刺激がたまらく気持ちいい。
「おっ、おぅ、ぅっ……ぁっ、……あぅ、んんぅ……んあ、ああぁっ——っ」
アナルの刺激で軽い絶頂感を味わう。何も咥えていない膣が締まり、ナカからコプリと精液が溢れた。
「上手にイケましたね。しばらく後ろには触れていませんでしたが、いい具合です」
この性感帯は完全に慣れないくらいがちょうどいいと、サファルは満足げに口端を上げた。
「はあぁ……ふぁ、あ……っ、……サファルさまぁ、っぁあん」
後孔が解放される。体内の異物感は尾を引いて残り、アナルのふちが物欲しそうにヒクついていた。
その窄まりをくるりと指先でひと撫でして、サファルは両腕でユキを抱き締める。
情交の直後に淫らな尋問を受けたことで、ユキは肉体的にも精神的にも疲れ切っていた。素肌に感じる主人の体温にほっとしたのも束の間、視界にサファルが映らないことに不安を覚えて緩慢に後ろを振り返る。
縋るように見上げた先でサファルが穏やかに微笑んだ。頬にキスを受け、互いに向かい合うようにして抱き直される。
身じろぐことができないほどの強い腕の力に泣きたくなる。悲しいわけじゃない。このままずっと一緒にいたいと、ユキはひたすらに強く願った。
「ユキの話を聞いていろいろと腑に落ちました。どうやら我々は物事をおかしな方向に考えすぎていたようです。思考が凝り固まった年寄りがどれだけ長考したところで、正解に辿り着けなくても仕方がないのかもしれませんが……」
ユキの頭に頬を寄せ、サファルが自嘲する。
異世界からの勇者召喚も、人間が上位魔族を葬ったことも、瘴気の発生源も——。何も難しく考える必要はなかった。
魔族の知らないうちに人間の技術が目まぐるしい速度で向上したわけではない。
記憶の奥底に沈んだ過去の敵が、再び動き出した。一連の出来事は、ただそれだけのことだったのだ。
「……メィユマーム……」
仇敵の名をサファルが呟く。
——貴様か。
わずかに動いた男の薄い唇を、ユキは藍色の瞳で見つめていた。
◇ ◇ ◇
北方大陸の最高峰モンスクルメは、巨大な一本槍が突き刺すように天高くそびえ立っている。
ゼアの統治する北方大陸四大領・ミラース領は、モンスクルメに連なる山岳地帯を中心とした標高の高い場所にあった。
一年を通して氷に覆われた山に自生する植物は極めて少ない。岩肌ばかりの領地には雪の混ざった暴風が頻繁に吹き荒れていた。
上空から見たミラース領は雪と剥き出しになった岩壁があるだけの殺風景な場所で、魔族でも簡単に住めるような環境ではない。
厳しい自然と共生するミラース領において、ゼアの城はモンスクルメの麓の山の中にあった。頂上に白い石積みの建造物が見えるものの、城の大半は地中を掘って造られている。その城のさらに下には階層式の都市が築かれていて、多くの領民がそこで暮らしていた。
城壁の上から領地の山々を見下ろすゼアへと、いにしえの魔族のひとり——シュプレが歩み寄る。
「本当にやる気か?」
かけられた声にゼアは反応を示さなかった。城壁の手すりに白い手を置き、ただじっと遠くを見つめている。
無視されるかたちになったシュプレはわずかに肩をすくめ、ゼアの隣に並んだ。彼は人間でいうところの成人男性の平均的な体格をしているのだが、高身長のゼアと比較したら大人と子供くらいに頭の位置に差があった。
「本当にやるのか……か。自分で言っておいて、野暮な質問だったな。我がとやかく言ったところで、お前たちは止まらんのだろう」
長年この城に客人として居座り続けていた男は、ゼアや彼女に追従する眷属たちのことをよく知っていた。
「しかし、今のお前は焦りが前に出過ぎているのではないか。アレのしたことをよもや忘れたわけではあるまい」
慎重になれと遠回しに言うシュプレに、ゼアは大きなお世話だと冷たい一瞥を投げつける。
「貴様こそ、我らミラースの悲願を忘れたとは言わせんぞ」
決意を固めてしまっては、忠告も助言も彼女の耳には入らない。ゼアには何を犠牲にしてでも取り戻したいものがあるのだ。
こうなってしまっては何を言っても無駄だ。シュプレは多くの言葉を吐き出しかけたため息と共に飲み込んだ。
いにしえの魔族であるシュプレは、自身の選択が世界にとっての誤りであることを自覚していた。争ってでもゼアを止めるか、もしくは古い知人に密告するべきだと、自分の中の本能的な部分が叫んでいる。
「……まあ、なるようにしかならんか」
しかしシュプレは世界の忠告を聞き流し、欲望を優先した。
すまんな……と誰にともなく謝る。
「我も友に帰ってきてほしいのだよ」
ゼアの悲願は、シュプレの悲願でもあるのだ。
あの男が本当に精霊界から戻るというなら、自分もそれに賭けてみたかった。
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