ラスト・メイルの配信開始から1周年を迎えました!【短編小説:予行演習】
ご来訪いただきまして誠にありがとうございます。あすのかぜです。
早速みなさまに質問ですが、本日「12月28日」は何の日でしょうか?
仕事納め? 年末の大掃除をする日?
それとも性の6時間を過ごせなかった分の振り替え日?
正解はですね……記念すべき「ラスト・メイル」の配信開始日でした!
ちょうど去年、2023年12月28日が配信開始日だったんですね。
あれからもう1年間だなんて……時が過ぎるのは本当に早いものです。
実はラスト・メイルが1周年記念を迎えるという事実に気が付いたのは、なんと26日の夜のことでして……「時間がないやん!」と思いながらも、急いで短編小説を書き上げました。
ですから、これを書いている今現在は一周年記念日当日の深夜なのです。
今日は用事がありますので、予約投稿をしたら寝ます……寝られます……メリーネラレマス……深夜テンションはなぜこうも寒いことを平然と思いつくのか……寒いのは気温だけで十分ですよ……ブルブル
……と、忘れるところでした。それでは短編小説をお楽しみください。
予行演習
「ふぅ……一人でも大丈夫かと思いましたが、予想よりも少し重たかったですね……」
買い出しを済ませて宿に戻ってきた私は、部屋に続く廊下を歩いていました。すると、曲がり角から綺麗な銀髪の女性――つまりシルフィーナさんが歩いてきました。
「あっ、ただいま戻りま――」
その時でした。
私はシルフィーナさんに肩を押され、廊下の壁に背中をくっつけることになりました。優しく押されただけでしたので、痛みなどはありませんでしたが、急な出来事に私は何も反応できずにいました。
え~と……これはどうしたものでしょうか?
シルフィーナさんはとても理知的な方なので、意味もなくこんなことをするとも思えませんし……まずはこの行為にどのような意図があるのかを訊ねてみるべきかもしれませんね。
そうして私が行動指針を決めている間に、シルフィーナさんは細い指先をそっと開き、手のひらを私の顔に向かって伸ばし……と思いきや、その手は私の顔のすぐ横の壁面に対して突き立てられました。
な、なんということでしょう!! こ、これは……! 恋愛小説で稀によく見る“壁ドン”ではありませんか!?
え、しかしどうしてシルフィーナさんが私に壁ドンを? 私のことをそういう対象として見ているような素振りなんて一度も……って、あれ? シルフィーナさんのお顔って間近で見たらこんなに綺麗なんですね……もともと綺麗だとは思っていましたけど、改めて近くで見るとこれはこれは……あっ、唇がとても柔らかそうにぷるっと震えました……いいなぁ……と、迫りくる美貌を前に、ついつい見入ってしまう私。
――って、そんな場合じゃありません!!
「なっ、なななっ、なななんなんですかっ!? こ、こんな急にっ! ちゃんと説明してくだ、ひゃうっ!」
い、今っ、シルフィーナさんが私の顎をクイって……クイってっ!
「エレノアさん……いい、ですよね?」
「え……あ……」
な、何もよくありませんけどーーーー!?
えっ、ええっ!? これから私は何をされちゃうんですか~~!?
「くっ! 逃げろ! エレノア!」
「ぇ……あ……か、カーニャさん!」
いつの間にかカーニャさんが助けに来てくれたようで、私に猛接近していたシルフィーナさんを背後から羽交い締めにして引き剥がしてくれました。
「あ、ありがとうございます。助かりました……」
「くっ……わたくしを身動きできなくするとは……さすがカーニャさん。最後に立ち塞がった四天王なだけのことはありますね……」
「そんな評され方をされる覚えはないのだが……」
「……あの、カーニャさん、これは一体……?」
「ああ……実はさっきエレノアもされていた……あー……なんだあれは?」
「壁ドンです♪ なんでも好きな人にやってもらえると、とてもドキドキするのだとか」
「襲撃犯に教えられるというのが妙に腹立たしいが……まあ、そうだ。シルフィーナはその壁ドンとやらをみんなにして回っていたわけだ」
「…………い、意味が分かりません……なぜそのような奇行を?」
「む……奇行とは随分な物言いです。わたくしは本番で失敗しないための予行演習をしていただけですのに……」
「予行演習、ですか?」
「はい、そうなのです。実はわたくし、今度ラストさんに壁ドンをやってみたいと思っておりまして……本当はされる側を所望したいですけれど」
「そ、そうですか……たしかにされてみたいというのはなんとなく分かりますが……やってみたいと言うのはちょっと……」
「えー、でもでも、ラストさんの照れ顔ですよ? 滅多に見れるものではないと思いますが……エレノアさんは見てみたいと思いませんか?」
「うーん……そう言われると、たしかに見てみたい気もしますけれど……シルフィーナさんが壁ドンをしたとして、果たしてそんな空気になるでしょうか?」
「……なりませんか?」
「おそらくは……」
「ならないだろうな」
「むむむ…………しかしですねっ、試すだけ試してみたいのです!」
「わけの分からないところで挑戦意欲を発揮する王女様だな……」
カーニャさんがやれやれと言った様子でため息を吐いたころ、廊下の奥から複数人の足音が聞こえてきました。
その足が次第に大きくなると、ついにはとても見慣れた姿が現れました。
「あれ……みんなここに集まってたんだ」
その内の一人はアリシアさんでした。どこか遠くを見ているような視線が気がかりですが、耳が少しだけ赤くなっているのが印象的でした。
「……」
そしてもう一人はウサウサさんです。しかし、いつもの元気いっぱいの姿は鳴りを潜めているようで……俯いているために表情をうかがうこともできません。
「おぉ、アリシアにウサウサか。二人ももう安心していいぞ。犯人は……このとおり、確保したからな」
「えへへ、捕まっちゃいました♪」
「なんで楽しそうなの……私なんて、突然のことに頭の中が真っ白になっちゃったのに……」
「…………」
そうしてアリシアさんが会話に混ざっても、ウサウサさんの方は相変わらず俯いたままでした。
「あの……ウサウサさんはさっきからどうしたのですか? やけに静かですけれど……」
「………………ら……」
「え?」
その声は小さくてよく聞き取れませんでしたが、私が首を傾げると、ウサウサさんはぴょんと飛び跳ねて、頭上に向かって大きく手を突き上げました。
「むっきーーーー!! さっきね、フィーちゃんがね! ウサウサは小さいからカベドンができそうにないって言って、ウサウサのことだけ仲間外れにしたんだよっ!!」
「……今の壁ドン、なんだかモンスターの名前みたいな発音だったね」
「シアちゃん! 今はそれどころじゃないでしょ!? おっぱい揉むよ!」
「すみませんでした……」
少し茶々を入れたくなったアリシアさんに、ウサウサさんはセクハラ宣言で反撃。アリシアさんを見事に降伏させました。
……まあ、そんなことは置いておいて、ですね。
「えっと……ウサウサさんは壁ドンをされたかったのですか?」
「んーん。それはどうでもいいんだー」
「思いの外、あっけらかんとしているな……」
「でもね! 仲間外れはプンスカだよ! カンパン袋の緒だって切れちゃうってもんだよ!」
「急に保存食を失くしてしまいそうなことわざが飛び出したぞ……」
カーニャさんのつぶやきに私は頷きましたが、ウサウサさんたちの耳には入らなかったみたいです。シルフィーナさんがウサウサさんに向かって口を開きました。
「そうだったのですか……ウサウサさん、わたくしはあなたに対して、とても酷いことをしてしまったようですね……」
「そーだよっ。ウサウサの気持ち、わかってくれた?」
「はい、もちろんです!」
反省したような態度を見せたシルフィーナさんに、ウサウサさんはむふーといった鼻息を吐き、機嫌を良くしました。
ですが、その後のシルフィーナさんの満面の笑顔が、今回のオチの到来を告げたような気がしました。
「ですから、今回のお詫びの気持ちといたしまして、今夜、床ドンしてもいいですか♪」
「ふっふっふ…………ばっちこい、だよ!」
「「「二人ともアウト!」」」
この時の息の合った突っ込みが宿中に聞こえていたと後で聴き、私は恥ずかしさのあまり悶絶したのでした。
――――――
――――
――
そんなやり取りがあった日の夕餉。
食卓を囲んでいるシルフィーナさんの笑顔がとても眩しかったことを、私は鮮明に覚えています。
「壁ドンに床ドン……あとはそうですね……天井に対しては“天ドン”でしょうか?」
「なんだか美味しそうな名前だね!」
「そ、そう……かなぁ?」
「どのようなお料理になるのか、楽しみにしていますね、アリシアさん♪」
「ええっ!?」
私たちの王女様は、今日も楽しそうに笑っています。