05:早朝の駐車場 03
窓の向こうで旅客機の轟音が遠く唸るたびに、恭平とななみは現実を思い出しそうになったが――そのたび、唇を重ねることで、それを拒絶した。
「恭平さん……っ、こんな……近すぎて……」
ななみは彼の膝の上、震える吐息をこぼしながら身を寄せた。
胸元は乱れ、恭平の胸板に触れるたび、肌がぴたりと張り付く。
「恥ずかしい……」と呟きながら、ななみは恭平から目を逸らせなかった。
その視線の奥には、羞恥よりも――渇きの色が濃かった。
「その顔、反則だよ……」
恭平の声は掠れ、低く、喉の奥で熱を抱えていた。
彼の手が彼女の腰を支え、そのまま自分の芯へと導いていく。
それに応じるように、ななみの腰がわずかに沈む。
触れた。
熱が、わたしの奥に触れた。
「ん……っ、熱い……♡」
ななみの声はかすれ、身体が小さく跳ねる。
恭平は一切目を逸らさず、ななみの全てを見つめていた。
彼女の瞳、唇、首筋、揺れる胸、そして……躊躇いながらも、自分を受け入れようとする腰の動き。
「ゆっくりでいいからね……」
その囁きに応え、ななみは震える指先で彼の肩を掴み、ひと息に腰を下ろす。
身体が、開かれる。
熱が、じわりと内側に広がっていく。
言葉よりも、うめき声が先に零れた。
「あ……ぁ……っ、入って……きてる……♡」
恭平の熱が、深く、ゆっくりと押し広げていく。
ななみの内側はそれを拒むどころか、貪るように絡みつく。
自分でも恐ろしくなるほど、彼を欲している。
「……ダメ、こんな……全部、入っちゃ……っ♡」
肩に食い込む爪が、彼女の理性の名残だった。
腰が、ゆっくりと上下するたびに、ななみの身体は熱を増していった。
恭平の芯が、すでに自分の奥の奥にあるのに――まだ、足りない。もっと欲しい、と身体の奥が勝手に震える。
わたし、どうして……。
こんな場所で。こんな姿で。
なのに――どうして、こんなにも、気持ちいいの……。
「……っ、ん……あぁ……」
動きが自然と速くなっていく。腰の動きが、恭平のリズムにぴたりと合わさっていくのがわかる。
自分でも気づかないうちに、ななみの身体が“覚えて”しまっていた。彼の形、彼の熱、彼の奥の届き方を。
「……上手くなってるいよ、ななみ」
恭平の囁きは甘く、熱を孕んでいるのに優しい。
「……俺の動き、身体が覚えてきた?」
ななみの頬が羞恥に熱を持ち、視線が泳ぐ。
「……ちがっ……あっ……んっ、やだ……そんなこと……」
でも、それは嘘だった。
彼の指が腰に添えられた瞬間、無意識に腰が跳ね上がる。
自分の中のどこを押されると、どう感じるか――すでに、恭平の指先のほうがよく知っている。
(……ダメなのに♡ こんなの、知られちゃいけないのに……っ♡)
熱が深く押し寄せるたびに、ななみの中の何かが崩れていった。
恭平の芯が、彼女の内奥にじわじわと満ちていくたびに、理性が剥がれていく。
「ん……っ、ああ……やだ、こんな……」
涙に似た潤みが、ななみの瞳に浮かぶ。
それは快楽か、羞恥か、あるいはその両方だった。
恭平はその涙を指で拭った。だが、口元には笑みを浮かべたまま――。
「もしさ」
彼の声が、不意に落ち着いた低さを帯びる。
「今日、旦那さんが……帰ってきてたら、どうする?」
ななみの背筋がぞくりと強張った。
「え……?」
恭平は笑わない。目を細めて、じっとななみを見ている。
「たとえば、同じ空港にいたとしたら。駐車場で、近くにいたとしたら」
ななみの表情がみるみる青ざめる。
「……そんな、やだ……そんなこと言わないでください……」
声は震え、否定しながらも、彼女の腰はまだ恭平の上にあり、その腕は恭平の身体を抱きしめてしまっている。
「……わたし、隆を……愛してる」
絞り出すように言葉を吐く。
「誰よりも、ずっと。……それだけは、ほんとだから……っ」
恭平はその言葉を静かに聞いた。だが、次の瞬間、鋭く――断ち切るように言い放つ。
「でも、身体は俺を欲しがってるよね?」
「あぁっ♡」
ななみの口が、何かを返そうとして開いた。
けれど、言葉にならない。
腰が動いていた。否応なく、熱を求めて、また沈んでいた。
「――あっ、あ……やだ……やだ……♡」
恭平の瞳は冷静なまま、ななみの動きを見つめていた。
「俺の角度、奥、形、動き。……全てを覚えていてくれているよね?」
ななみの手が彼の肩に縋りつく。
快感と罪悪感がせめぎ合い、視界が涙に滲む。
「ちが……ちがうの、でも……っ♡」
「違わないよ」
「ふあぁぁぁ……っ♡」
恭平が腰を引き寄せ、さらに奥へと迎え入れる。
快感が電流のように走り、ななみの脚が震えた。
「ななみが愛してるのは隆君――それはまごうことなき事実だ。でも」
「ななみがイってる時、頭の中にいるのは……誰だろうね?」
「や……ぁ……っ♡」
身体は、嘘をつけない。
心は誰かを守ろうとしても、肉は正直すぎた。
理性の抗議は、快楽の波に呑まれて、無力に消えていく。
曇った車窓の外には、現実がある。
だがこの密室の中では――
彼女はすでに、自分の意志で“裏切り”を選び取っていた。