11:罪の先02
「……ナース、ですか?」
ななみが眉をひそめると、恭平は満足げに頷いた。
彼の唇には照れた笑みが浮かび、視線はベッドに並べられた衣装、そしてななみの体へとゆっくりと向けられる。
「先日ね、某病院の幹部たちとの懇親会があってさ。ああいう場に出ると、君みたいな看護師がいてくれたら……と、どうしても想像してしまってね」
恭平の声には、官能と期待、そして巧妙に隠された支配欲。
だがその男性的な欲望を向けられることは、ななみにとって不快ではなかった。
「変態ですね、本当に」
そう言いながらも、ななみは薄く笑みを浮かべ、ナース服を受け取る手を止めなかった。 叱責の語調に、照れた色気がにじんでしまうのが悔しい。
彼女の頬が微かに上気し、その白い肌を淡く染め上げる。
* * *
ななみは流れるようなしなやかな動作で、ニットワンピースの首元のボタンに指をかけた。滑らかな生地が肌から離れていこうとしている。
恭平の目の前で、自分の肌を晒すという習慣。
羞恥と屈服の儀式が、また始まっていく。
そして、その儀式がもたらす抗いがたい興奮を、ななみはすでに知っていた。
ななみはゆっくりと立ち上がり、深紅の絨毯の上で膝を滑らせるように一歩前へ進んだ。
その姿を恭平の視線が捉え続ける。
背筋を伸ばしたまま、腰に手を添え、着ていたボルドーのニットワンピースの裾に指をかけた。柔らかな光沢を帯びた生地は、身体に吸い付くようなフィット感で、彼女のグラマラスな曲線を強調していた。
まるで体温に馴染んで離れたがらない恋人のように、彼女の腰や胸にまとわりついている。
ゆっくりと引き上げられるたび、下から覗く膝、腿、太腿の内側――。
恭平の視線がそこへ吸い込まれていくのを、ななみは確かに感じ取っていた。
その視線は熱を帯び、彼女の肌を焦がすようだった。
ワンピースがウエストを越えると、白い肌の上に浮かび上がるうす紅色のランジェリーがあらわになる。
それは繊細なレースで刺繍された、ブラジャーとショーツのセット。
光沢を帯びた糸が編み込まれ、角度によって煌めきが変わる。
ブラの下縁には細かなチュールが飾られており、まるで肌を撫でるように胸元に影を落としていた。ショーツは腰骨をなぞるように浅く、両脇の極細のリボンが今にも解けそうに揺れている。
すっぽりと抜けるように頭からワンピースを脱ぐと、ななみの豊かな黒髪がふわりと肩に落ちた。室内の柔らかな光に照らされて、彼女の肌は陶器のように滑らかに、そしてうっすらと赤みを帯びている。
露わになった肩をわずかにすくめると、そこに生まれる鎖骨の陰影が、視線を誘う罠のように浮かび上がる。
恭平の熱い視線が肌の上を這う中、ななみは一呼吸置いた。
ゆっくりと、だが迷いなく、彼女の指がうす紅色のブラジャーのホックへと伸びる。
カチリ、と静かな音を立てて、小さな留め具が外れた。
開放されたブラは、重力に抗うことなく滑らかにその役目を終え、柔らかな胸の曲線が室内の光を吸い込むように現れる。
続いて、ショーツのサイドを結ぶ極細のリボンに指をかけ、恭平の視線を一身に浴びながら、ゆっくりと解いていく。
シフォン地がそっと肌から離れ、純粋な曲線が露わになった。
最後に、腿の付け根のレース飾りが揺れるパンティストッキングを、太ももから膝、そして足首へと、まるで絹のベールを剥がすように静かに脱ぎ去る。
すべての衣を脱ぎ捨てたななみは、ただその場に立っていた。
室内の柔らかな間接照明が、彼女の完璧なまでに均整の取れた肉体を優しく照らし出す。 それは芸術家が描いた女神像を思わせる、静謐にして官能的な美しさだった。
豊かな黒髪がそのしなやかな肩から背中へと滑り落ち、陶器のような白い肌との対比が、見る者の目を惹きつける。
鍛え抜かれたわけではない、しかし女性特有の柔らかな膨らみと、流れるようなラインが織りなすその身体は、生命の輝きを宿し、あらゆる男性の想像力を掻き立てる。
恭平は、その全てを目の当たりにして、息を呑む。彼の瞳には、純粋な敬意と、そして抑えきれない欲望が混じり合った複雑な光が宿っていた。
「……まるで、女神だ」
深い感嘆の声が恭平の唇から零れ落ちた。
彼の視線は、ななみの美しい肌の隅々までを慈しむように這っていく。
彼女の裸体を賞賛し、そして次の期待に鷹ぶっていくのがわかった。
恭平の熱を帯びた視線を肌に感じながら、ななみは静かに、ベッド脇に並べられた白い下着へと指を伸ばした。まるで舞台に立つ前の役者のように、息を整え、まず手に取ったのは――レースを贅沢にあしらったブラジャー。
そのカップは掌で形を保ったまま、ななみの胸に吸い寄せられるように当てがわれる。
ゆっくりと背中でホックを留めると、繊細な刺繍の縁が彼女の柔肌に沈み込み、豊かに実った乳房を「理想の形」へと押し上げていく。デコルテの谷間は、レース越しに僅かに透けて――だが、その隠された美が却って挑発的に立ち上る。
次に手に取ったのは、シフォン地のショーツ。
指先で軽く摘むと、その薄さと柔らかさに、肌が触れる前から体温が漏れてしまいそうになる。脚を通し、腰まで引き上げる。両脇を結ぶ極細のリボンは、蝶のように揺れ、まるで“解かれること”を待っているようだった。
そして雪のように白いガーターベルトを腰元に絡めていく。
ななみの腰に巻かれると、レースの縁がそっと肌に沈み、浮かび上がるくびれと繊細な造形が完成していた。パンティストッキングを指に絡め、慎重に脚を滑らせていく。
足先から太腿の上まで、肌に沿って密着する光沢は、見る者の目線を誘導する濡れた光。
太腿の根元にあしらわれたレースの縁が、白と肌色の境界を淫靡に飾っていた。
最後に、彼女はナース服を手に取る。
ブロード生地はハリを持ちつつも、彼女の指の間で微かにざわめく。
滑らせるように腕を通し、肩を覆い、ひとつずつボタンを留めていくたび――肌が白に隠されていく。だが隠されるほどに、そこにあった熱は際立っていくようだ。
胸元に刺繍された小さな赤い十字模様。その公平な印が、ななみの丸みを帯びた胸のすぐ上で、まるで偽善的な微笑みを浮かべているようだった。
着替えを終えたななみが振り返る。
清潔な白に身を包んだその姿は、無垢でありながら、どこか背徳的だった。
「治療」と称して欲望を差し出すための服のようで。
ななみが清純であろうとすればするほどにヌードよりも淫靡さが際立っていくことに、ななみ自身は気付いていなかった。