紗耶の初めて 第25話
第25話 朽ち果ての果て
快楽が、人を壊す。
それは甘美な幻想でも、比喩でもなかった。
紗耶の身体は、すでに言葉の届かない場所へと進みつつあった。
触れられたわけではないのに、膣がひとりでに収縮する。亮の心拍が伝わるたび、膣の内壁がぴくりと連動する。脈動と脈動が呼応しあうように、身体が勝手に応答していた。
「……ん、ふ……っ……」
小さく漏れる息が、声になる寸前の震えで揺れていた。
彼女の視線は焦点を失い、天井のどこか、定まらない空間を彷徨っていた。黒目がゆっくりと上方に寄っていく。
亮の顔は見えているのか、見えていないのか。
もはや、その判断さえ自分の意思ではできなかった。
目蓋が半開きのまま固まり、瞳孔は微かに開いたまま。
光も音も、遠くなっていく感覚だけが、彼女を支配していた。
「……ぅ、……ぐっ……ぁ……っ」
喉の奥から漏れる声は、言葉ではなかった。
何かを伝えようとしているわけではない。ただ、出てしまった音。
空気を震わせ、唇を震わせ、それでも形にならない音が、紗耶の存在をかろうじて世界に繋ぎ止めていた。
「……す……き……っ……ん……」
それは、“ありがとう”か“好き”か。
断片的にちぎれた言葉が、舌のもつれの中から浮かび上がっては消えていく。
亮の中にあるペニスが、少しでも動くと、彼女の身体は反射のように跳ねた。
いや、跳ねたのではない。
彼の存在を、
その“中にいる”という事実を、
ただ必死に、抱きしめたかったのだ。
骨盤がきゅっと締まり、膣が強く吸い付く。
まるで、亮が抜けてしまわないように、自分の中で“鞘”になろうとしているようだった。
「……っ、……っぁ……ぁあ……」
漏れる声とともに、紗耶の足先がぴくぴくと反射的に動いた。
指先が勝手に開き、また握る。
そのすべてが、意思を伴わない“反応”だった。
快楽は、もはや刺激ではなかった。
それは、生きる感覚そのものだった。
亮が中にいる。
彼が自分を満たしてくれている。
その事実だけが、すべてを凌駕していた。
「……ぷ、しゅ……ぅ……」
音もなく、潮が膣奥から染み出していた。
派手に噴き上がるものではない。
けれど、じわじわと、止まることのない熱が紗耶の中で溢れていた。
膣口から、わずかに空気が混ざったような音が漏れる。
「じゅる……、ぬるっ……」
快感が続いているのではない。
“終わらなくなっている”のだった。
彼女の身体は、すでに“次の刺激”を待つことをやめていた。
今ある刺激の中に、永遠を感じていた。
「……りょ……ぅ……、ぁ……」
もう、誰が聞いているのかもわからない。
けれど、彼に向かって声を出している。
亮はその声を聞きながら、そっと彼女の頬に触れた。
「大丈夫です。先輩はそのままでいいです」
その声に、紗耶は微かに頷いた。
感情は、涙になって頬を流れた。
どれだけ身体が反応し、崩れていこうとも、
この人に抱かれているという事実だけが、彼女の人間性を支えていた。
それは、壊れるための愛ではなく、
壊れてもなお、愛してもらえるという確信だった。