「ハッピーストーキングオペレッタ!」制作後記
こんにちは。折紙ななこです。
重たい一作目から一転、コメディに振り切った作品が二作目にくるとは私自身も予想だにしていませんでしたが、改めまして、お手に取っていただいた皆さまと、制作にかかわってくださった皆さまには心から感謝申し上げます。
シチュボでコメディ作品がもっとあったらいいのになという願いと、私自身が聴きたいという動機から制作したので、完成した時点で作ってよかった!とはもちろん思っていましたが、上がってきた音声を何回も聴いていると自分ではおもしろいのかどうかまったくわからなくなってくる現象がおきました。
リリースまで、とにかく「スベりたくねぇなぁ…!」という不安がずっとつきまとっていたので、おもしろかったとご感想をいただけて、非常にほっとしました。
今回も制作後記として、トラック毎にあれやこれや思い出しながらお話ししてみたいと思います。
構想について
制作経緯は先の記事にも書いた通り、本当に思い付きです。
ちょうどその時、いろいろと悩んだり疲れたりしていたタイミングでもあったので、セルフケア的な文脈で書き始めたところもあったかもしれません。
コメディにしよう、と決めてから、実は当初書こうと思っていたのは全然違うストーリーで、主人公も初期設定では、ナルシストでプライドが高く、友達がいないタイプの痛いキレキャラでした。
構想を練っているうちに、なんだかシリアスでテーマ性の強い話になってきちゃって、もっとカジュアルでポップなコメディにしたい!と思い直し、一部要素だけ引き継いで、ストーリーとキャラクターを再構成したのが本作になります。
再構成するにあたって、宮前を痛々しさのない、シリアスから縁遠い男にする必要があり、そこで「尊重の男」として書こうと決めました。
その権利と責任がどこにあるべきか、ということを常に考えている。
相手も大事、自分も大事、ゆえに童貞。
そしてそれをおくびにも恥とは思っていない。
そんな純粋で自己肯定感の高い男に一途に好かれたらなんて素敵だろうと思い、プロ童貞としての矜持のある男、というキャラクター性に軸足を置いたことで、宮前小太郎という男が誕生しました。
ストーカーまがいのことをしておきながら尊重とは…というところもありますが、ヒロインのツッコミ力とボケ力を見極めたうえでの行動であり、摩耗していくヒロインを案じるがゆえなので、結果的にストーカーっぽくなっちゃった、みたいな解釈で何卒お収めください。
ドラマパートを書くのがまあ楽しくて。
芸人さんのお笑い理論に「緊張と緩和」というものがありますが、1トラックに1箇所はその波を作ろうと自分に課しつつ、思う存分、好き放題に書きました。
ストーリー自体は割とベタな展開ではありますが、そこに宮前という男が乗っかることで彼のクセの強さが強調され、折紙としては非常に満足しております。
こういうプレイを書きたい!か、こういうテーマを書きたい!をきっかけに着想を得ることばかりだったんですが、こういうキャラクターを書きたい!からスタートしたのが初めてで、もう本当に、書いている最中ずっと宮前が愛おしくて仕方ありませんでした。
ストーリーを再構成、とか言いましたが、そんなに頭を使ったわけじゃなくて、宮前がかなり勝手に動いてくれたので、それもあって筆の進みがとても早かったです。
トラックタイトルはオペラアリアの有名どころから、各トラックのテーマや雰囲気に合いそうなものを選んでいます。
(通ぶったことを言いながら、私もそこまでオペラに造詣が深くないので、詳しい方からしたらとんちんかんなチョイスかもしれませんが…)
トラックごとに
トラック1「恋とはどんなものかしら」 ※モーツァルト「フィガロの結婚」より
ここで宮前との関係値がなんとなくわかり、リスナーの皆さまにもヒロインのテンション感にチューニングしていただこうというトラックです。
トラック1にしてはボケ数が少ない気がしたのと、ストーカーというキャラ付けが弱い気がしたので、110番通報をしようとするくだりは最後の方に付け加えました。
防犯ブザーって懐かしいですよね。(懐かしいですよね?)
今の小学生たちも学校から支給されているんでしょうか。
宮前はエリートだしお値段ノールックで外車を買ったりしますが、ごく一般的な家庭で育った文化的背景をもつ男というのも、ここで伝わっていたらいいなと思います。
せをはやみ、は仕上げのいちばん最後に思い付いて入れました。
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふ」
こういうところで百人一首から出典してくる男がいたら私はきっと一発で好きになってしまうので、これは完全に私の個人的な趣味です。
あとこう、熱量で押してくるんじゃなくてこういう引き方をされると、なんとなく人間としての強さを感じるといいますか。
只者ではないぞ、という雰囲気を醸し出せたらいいなっていう感じです。
そして読み手の崇徳天皇はとんでもない執着心の持ち主なので(そうならざるを得ないだけの可哀想な境遇ゆえですが)、「ストーカー」たる宮前が口にする怖さみたいなものが匂うのもおもしろいかな、と。
宮前のセリフは、全体的に文語体っぽい回りくどい言い回しを用いて、鬱陶しくなるように意識しました。
トラック2「そは彼の人か」 ※ヴェルディ「椿姫」より
小ボケを挟みつつ、ちょっとだけ不穏な前振り。
課長のくだりが伏線というのをボケで殺してしまった感もあり、ストーリーをわかりにくくしてしまったかもしれません。
足し算と引き算のバランス……今後とも精進いたします。
独占欲強いスパダリが、秘書や愛人としてヒロインを囲うというシチュエーションもめちゃくちゃ好きなんですけど、尊重の男・宮前はそういうことはしません。
なにより、ビジネスはビジネス、と線引きはちゃんとできる男じゃないと、キャラクターとしての説得力がないと思いまして。
グミのくだりは最後の方に追加しました。
これも思い付きのネタで、なんで宮前がグミを持っていたのかとかは全然考えておらず、そこはご自由に解釈していただければと思うのですが、私個人的には宮前がグミ好きかって聞かれるとあんまり想像がつかないので、ヒロインのためにいろいろ小道具持ち歩いてるっていう方が自然かも。
でもこういう人からもらったグミは食べない方が賢明だと思います。
トラック3「花から花へ」 ※ヴェルディ「椿姫」より
椿姫における「そは彼の人か」~「花から花へ」は流れるように歌われていて、「え、好きかも…いやそんなことないわ!」というこの心情描写が、トラック2~3の流れにもしっくりくるな、と思ったので採用しました。
宮前の昔話ですが、最初から設定として決めていたわけではなく、宮前を公園に連れて行ったら勝手にしゃべりはじめたので、それを文字に起こしたっていう感覚です。
宮前の人柄がすごくよく出ているエピソードだと思います。周りの人を引き上げていく根っからのリーダータイプ。
顔面グーパンは初期構想から入れると決めていました。
手近な笑いがなんだかんだで好きです。
叫び声、文字に起こしたときにいちばんおもしろいと思ったので台本上では「グンッッッ」と書きましたが、演者様の殴られっぷりが大変お見事で、収録時に大笑いした思い出です。
そしてこれをスキンシップと受け取るポジティブさ。恋は人を盲目にします。
でもこういうふうに落ち込んでるとき、変に優しくされるより変わらない態度でいてくれる方が安心できることもありますよね。
「高校生時分にクラスの女子からビンタされた」のは、プールの授業を見学していた女子が掃除の時間に机を運んでいるのを見て、「僕がやるよ。今日生理でしんどいでしょ」的なことを堂々と言い放ってバチコーン!…というノンデリエピソードが思い浮かんで、そこからきているセリフです。
宮前家はパパがママ大好きなおうちな気がしてて、両親間でそういう配慮が日常的になされているのを学校でも同じようにやって通用しなかった、みたいな苦い思い出があったら宮前らしいなという妄想。
トラック4「セギディーリャ」 ※ビゼー「カルメン」より
カルメンは娼婦が主人公なので、ここはぜひカルメンのアリアから持ってこようと思いまして、「ハバネラ」「ジプシーの歌」とも迷ったんですが、ヒロインの挑発感がいちばんしっくりくるのはこれかなーと思い「セギディーリャ」にしました。
ヒロインが風俗嬢になったとしても愛し続ける、と平然と言い放つ宮前。
宮前は先入観とか偏見とかがないわけじゃなくて、自分の中にあるそれを自覚したうえでニュートラルに接することができる知性的な男、と思っています。
宮前なりの思いやりで正論を説いてくるわけですが、風俗やろうと思い悩んだ過程や覚悟も知らないでマジレスされると、なまじ余裕がないからそれを思いやりとは受け取れないしイラッともくる。
こういうところが宮前の良いところでもあるし、他方デリカシーに欠けるところでもあります。
手コキバトル。これも最初から書くぞ!と決めていたシーンです。
どうですか、好きな女の子に手コキしてあげると言われているのにちんちんを勃てないこの紳士ぶり。折紙的には大いにメロです。
ロードオブ両想いいちゃラブエッチの序章としてラストトラックをより輝かせるため、宮前には滔々と信念を語ってもらいました。
この一連のセリフは宮前の想いがしっかり伝わるようにと、繊細に組み立てた記憶があります。
トラック5「花の歌」 ※ビゼー「カルメン」より
カルメン被りですが、こちらはテノールのアリア。
ここから先は全部男声のアリアです。
歌詞はすごく情熱的な、愛憎渦巻く感じなんですが、とにかく愛してるんだ!という宮前の思いの大きさと、ストーカー男に対峙する場面でははじめて強い感情を見せるので、このトラックのタイトルにはいいんじゃないかなーと思って。
宮前がヒロインに惹かれた理由が明かされます。
普通に初対面だったヒロインの後をつけるヤバさはあるんかい、という感じではありますが、いい歳して初めての、しかも運命的な恋に一瞬で落ちてしまった彼からすれば、万が一連絡がもらえなかったときの絶望を想定してついていきたくなっちゃう気持ちはまあわからなくもない。ヤバいけど。
宮前がヒロインとの出会いからトラック1までの一ヶ月をどのように過ごしていたかと言うと、一応ヒロインからの連絡は数日待ったけどこなくて、偶然を装って連日目の前に現れるようになり、だんだん普通につきまとうようになった、というところから本編がスタートしています。
そして実は本物のストーカーは辞めた会社の上司でした、というオチ。
宮前が上司に迫る際の一人称の変化、ここはしっかり感情的になってほしかったので、僕っていうのもなんだか迫力ないな、と思って変えました。
トラック6「女は気まぐれ」 ※ヴェルディ「リゴレット」より
収録したものの、空気が重くなってテンポが悪くなるという理由でカットしてしまったんですが、ヒロインに抱き着かれてから、「どうして元上司とそんなやりとりがあったことを言わなかったのか」と迫られ、
「だって……もし僕があの男に忠告したことを知っていたとしたら、君は会社に迷惑をかけるかもしれないと考えて、ひたすら我慢する道を選択していたかもしれないでしょ。
僕なりに、もっとも君に影響を与えずに済む方法だと思っていたんだけどね……
でも、結果的にあの男の執着をエスカレートさせることになってしまった。
僕の行いのせいで、君の心を深く傷つけることになってしまったようなものだ。
君には本当に申し訳ないことをしたと思う。
君を傷つけるようなことはしないって、約束したのに……本当に……ごめん。
はあ……自分の甘さに腹が立つよ。
会社の人間にもよく言われるんだ。
社長は他人のことを信用しすぎだとか、肝心なところで判断が甘いとか。
やっぱり、ビジネスに私情を持ち込むべきではないね。
今回のことで、つくづくいい教訓になったよ」
と告白するシーンがありました。
ビジネスに私情を持ち込まないという彼の主義に反する行動をとってまでヒロインのことを守ろうとしてくれていた。
彼の行動が正しいことかどうかは議論の余地があるでしょうが、大切な人の幸せを願うって、必ずしも目に見えるものばかりではないのかなって思ったりもして。
宮前的にはヒロインとの日々のふれあい自体が楽しくて、「運命で結ばれるはず」とか言っておきながら、ここからどう発展させればいいかわからなくなっていたところもあったかも。
とはいえトラック4で語っていた通り、ヒロインが宮前に好意を抱かないことには進まない関係性なので、どうしたってここはヒロインから動くことになるわけで。だって童貞なんだもん。
スパダリが狼狽する様が好きで、いざヒロインに好きって言われたらオロオロしちゃうし、あんなに紳士だったのに快楽に流されてウワーッ!となっちゃう純粋さが愛おしいです。
素股シーンはアホエロ語彙をいっぱい書けて楽しかった!
トラック8とのギャップを出すためにコメディノリで書いたつもりだったんですが、上がってきた音声を聴いて、アンタそんなにかわいかったんだ!?と腰抜かしました。
結果的に、本当にヒロインのことが大好きなんだなーと伝わるシーンになって非常によかったなと思います!演者様マジックすごい!
告白のあと、ヒロインが「汗くさい」と言い放つシーン。
ここはボケで落としたかったというのもあるんですが、もう気にしないでいいからシャワー浴びておいで、というヒロインなりの優しさです。
トラック7「人知れぬ涙」 ※パヴァロッティ「愛の妙薬」より
このアリアは本当にこのトラックの宮前の心情にぴったりの歌詞なので、ぜひ調べてみていただけたらって思います。
お付き合いを始めて3ヶ月。
雨音が響く車内でのキスシーン、素敵でお気に入りです。
そして相変わらずの紳士ぶり。彼の性格をわかっていても、一向に手を出してこようとしないのはやっぱり女として不安になるところ。
ここもやはりヒロインがアクションを起こして動くことになります。
トラック8「誰も寝てはならぬ」 ※プッチーニ「トゥーランドット」より
初々しく、でもえっちになるように、としたためた絡みシーン。
そして懺悔するのですが、宮前のメガネの処理を完全に失念しておりました。
せっかくメガネキャラを書くのに、おいしいところを逃しました。
しかしながら、トラック3ラストで「メガネがないと何も見えない」と言っている通り、どちらにせよ大好きなあなたのお顔を高解像度で見たかったということで外さなかったと思うので、各々で補完しながら聞いていただければ幸いです。
やっぱりある程度攻めっ気はほしくて、でもこなれてる感じにはしたくなくて、結構塩梅が難しかったです。
初めてにしては器用にいろいろやってる気がしますが、そこそこ落ち着いた年齢(一応30代前半の設定でした)ではありますし、一発抜いたあとですし、もともと要領のいい男なので、これくらいは許容範囲かなと。
トラック6とは対照に淫語は使わず、とびきりロマンティックになりますように、と思って書きました。
なっていたでしょうか。なっていたらいいな。
折紙の想定以上にかわいい男になりまして、やっぱり書いた本がお芝居を通したときのシナジーといいますか、そこも作品作りのおもしろいところだなと、今回も得るものばかりの制作でした。
シチュボってやっぱり非日常を味わえるのが醍醐味のひとつだと思うので、強気に迫られたり強引なことをされたりするシチュエーションを楽しまれる方が割合として多いのかなって勝手に思っていて(私も好きなんですが)。
だから、ストーカーと言いつつ「尊重」がテーマの本作および宮前はあまり好まれないのかも…と不安に思っていたんですが、多くの方が受け入れてくださって、宮前をいい男と言っていただけて、とてもうれしかったです。
今思えば執筆当時の折紙はトランス状態だったので、本当に向こう見ずで制作を進めました。
でもあのタイミングでなければ、きっと書けなかったと思います。
みなさまに少しでも楽しい時間をご提供できていたら幸いです!
次作について
さて、次作についても少しだけ触れておきたいと思います。
現在、2本同時に制作を進めておりまして、出し順を悩んでおります。
ひとつはヒモ男が転がり込んでくるお話(前の記事で「3作目」としていたもの)、もうひとつは利害一致して結婚するふたりのお話です。
赤城、宮前と、ここまで非常に誠実な男が続きましたが、両者とも比較的軽薄で、でも重い男です。どちらもハピエン。
前者はすでに収録も終わり、もうすぐ完パケしそうなんですが、冬~初春と季節の設定がはっきりしているので、頃合いまで寝かせようと思っています。
明確にこのプレイが書きたい、からスタートしたので、スケベになーれ!と頑張って書きました。演者様のお力で大変エロい仕上がりになりました。
プレイはだいぶM向けで激しめですが、ストーリー自体は地味めかも。
生姜鍋みたいな作品だな~って折紙は思っています。
後者は、系統でいえば一作目「私のために、苦しんで」と同じラインの純愛モノです。
赤城とはまた別ベクトルで可哀想な男が、ジレンマで苦しんでいます。
結局こういうのが好きなんですよね…
台本は完成していて、あとは進行スケジュールによって、こちらを先にお出しするかもしれません。
少なくとも、年内にどちらか1本はリリースする予定です。
ここまでの活動で、わかったこともいまだにわからないこともたくさんあるのですが、おかげさまで本当に楽しい日々を送っております。
今後もおもしろい話を書けるよう頑張りますので、またご興味の向く作品がありましたら気にかけていただけると幸いです!