生活音

夕方、僕はうとうとしていた。遠くで誰かが笑う。街中で暮らしていると大学生くらいの若い大きな笑い声が聞こえて来たりする事はしょっちゅうある。それが僕の耳に入る時の音量が何dbなのか分からないが隣人の悲鳴などよりよっぽど胸を締め付ける。それは恐らく僕にとってああいう風に道端で友人達と笑い合った経験があまり良い思い出ではないからなのだろう。僕の人生はあまり良いものではなかった。まだ四半世紀にも満たない時間であるのだが...。憂鬱なことを考えたとたんに視界がだんだん暗くなっていく。不快な音が近づいては遠ざかる。なんだか手が思うように動かない。不思議な感覚。苦しい。息が詰まる...。ハッとして目を覚ますと聴こえてくるのは換気扇の音。クーラーの音。付けっぱなしのNetflixで喋っている海外ドラマのセリフ。視界に入ってきたのは夕刻を跨いでまだ電気のついていない薄暗い部屋。どうやら不思議な夢の原因はどこからか迷い込んだ蚊が僕の指から血を喰らって痒かったかららしい。今年初めて蚊に喰われた。実家だったら薬箱からムヒを取ってくるのに。幼い頃、実家の隣の家から聴こえてくるピアノの音が心地良かったことを思い出す。たまに音がズレてリズムが外れて。二度と聴く機会は無いだろう。ショパンが好きなあの子にまた会いたいと思った。BGM Made my day - 唾奇

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