●夢白桃13●

桃太郎の身体全体が鳥肌立ち、これ以上ないほど意識が覚醒する。



「え、あ、いや、なんの、こと・・・」



「いや夕べだよ・・・途中で僕と変わって、鬼灯預けたじゃん・・・」



「あ、いえ、まあ、はあ・・・ええと・・・」



いきなりの直球にしどろもどろになる桃太郎を、白澤が穏健な目で目で眺めている。



「桃タローくん最近思い悩んでたし、なんか溜まってるカンジだったしさあ・・・ちょっとは刺激にならないかと思ってサプライズしてみたんだけど・・・やっぱり男は無理だったかな」



どんなサプライズだ、と桃太郎は心の中で突っ込こみ、白澤の話は続く。



「ちなみに打ち明けると、僕と鬼灯は結構前からああいう関係だよ。まあ滅多にしないけど、スパンの長いセフレってカンジ。このことは内緒だよ?女の子たちの耳に入って、ドン引きされたら困るからね」



「・・・言いませんよ・・・」



ここまできてようやく、桃太郎の頭が明瞭になり、この目の前の男に対する不信感と敵対心がわいてきた。



「あの、白澤さん」



「ん?なに?」



いつになく真剣な目で桃太郎は白澤を見つめて言う。



「あんた、セフレだからってあんな扱いするんですか?」



そう言われて、白澤はすぐに返事を返さず、斜め上に目線を向けて頭をポリポリと掻いた。



「いくらなんでも、あんなやり方鬼灯さんに失礼です。セフレだって言いますけれど、これまで女の子相手でもそんなことしてきたんですか?」



「冗談!女の子相手にそんなこと絶対しないよ!」



その言葉を聞いて、桃太郎は一気に怒りがこみあげてきた。



「じゃあ鬼灯さんならするんですね!」



「いやいや、これには事情があって・・・」



「なんの事情ですか!俺、結構怒ってますからね!」



いまにも白澤に食ってかかりそうな桃太郎を両手でなだめ、白澤は傍らにある椅子に腰かけてため息を吐いた。



「昨夜のことは、ごめん、やりすぎた。あいつにも叱られた。確かに僕がやりすぎだったね。悪かったよ」



こう素直に謝られては、桃太郎は怒りの行き場がなくなり、ただシーツをぎゅううと握りしめるだけだ。



「セックスの時のあいつが案外色っぽいから、桃タローくんの良い息抜きになるかもしれない・・・と思ってさ・・・ほら、あいつ男だけど黒猫ちゃんに似てるだろ?」



黒猫・・・?と言われ、桃太郎はしばらく思考をめぐらせた。そういえば、昨日言った花街の、鬼灯によく似た遊女だ。



「まあ、でも身体は男だしなあ・・・気持ち悪かったよね。もう二度としないよ、ごめんごめん」



ペコペコと頭を下げられ、桃太郎は次第に毒気が抜けていくのを感じた。
本当に抱きたかったのは黒猫ではなく、鬼灯の方だったが、目の前の白澤は本当に反省しているようだし、これ以上言っても泥沼になるだけだ、と桃太郎は大人な解釈をして、ため息を吐いた。



「俺、鬼灯さんと次、どうやって顔あわせりゃいいんですか・・・」



「それは大丈夫だよ。鬼灯も君のことは気にしてないし、普通に接すればいいんだよ」



ん?と、桃太郎は白澤の言葉に引っかかるものを感じた。



鬼灯も君のことは気にしてないし・・・?



その言葉が意味することは・・・・



「うわっ!」



桃太郎はぬれタオルを白澤に投げつけて、憤怒の形相でまくしたてた。



「昨日の相手が俺ってバレてるんですか!?」



「わわ、びっくりした・・・」



白澤は桃太郎を驚愕の目で見つめながら、呑気に手でキャッチしたタオルを折りたたむ。



「あんたバラしたのか!?」



すごい剣幕でまくしたてる桃太郎を再び両手で制しながら、白澤は言った。



「違うよ、あいつが感づいたんだよ。桃太郎さんだろう、って」



「・・・・・・」



桃太郎は、今度はベッドの上へへなへなと体を横たえ、仰向けで倒れてしまった。



「うわうわ、何なの今日の君!どうしたの!」



「うるさい・・・この性悪神獣・・・」



昨日の相手が自分だとバレたということは、白澤の悪趣味に付き合った邪悪な相手として、鬼灯には認定されただろう。
ここまで築き上げてきた信用や信頼関係は、これで音もなく崩れ去ってしまった。



「でもでも、鬼灯怒ってなかったよ?むしろ僕に怒っていただけで、桃タローくんのことは一切否定してなかったよ?」



うるさい、そんなことどうでもいい。やってしまった結果が大事なのだ。挿入こそしなかったが、自分は鬼灯の身体を使って精を吐き出したし、体中も触りまくった。



こういう悪戯をされても、普通なら相手が男だと気づいた時点で部屋から出るものだというのに、自分はしっかり男と確認したうえで、鬼灯の身体を愛撫したのだ。



「なんでバレたんだろう・・・・・・・」



半泣きの声で言う桃太郎に、白澤は淡々とした声で言い続ける。



「なんか、耳を舐められたからわかったとか言ってたけど?」



それを聞いて、桃太郎の弱気は沈み、かわりに身体が急激に熱くなるのを感じ取った。


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