●痴人の略~事の顛末~②●
鬼灯が現世視察に行き、一週間がたった頃。
自らの執務室で書類に判を押している最中、スマホに一通のメールが入った。
人物によって着信音を変えているので相手はわかる。鬼灯はそのメールの相手を知って相変わらずの無表情だが、少々期待する雰囲気を漂わせてすぐにスマホをチェックした。
画面につづられた文字を見て、鬼灯が短いため息を吐く。
『ひさしぶり。あんたに言われた通りガサいれさせてもらったら、わんさかエロ動画が出てきたぜ。おかげで人気の某政党が一個潰れそうだ。俺もめざわりだったから嬉しいよ。これでサツもしばらく、俺のことは放っておいてくれるだろうぜ』
その文面を見て、鬼灯が素早く返事をする。
『ああそうだ、もちろん動画は全部押収したぜ。警官どもに一応、中身チェックされるから・・・残念ながらあんたの裸は観られちまうだろうけれどな。けど、ネットに流すようなバカはしねえと思うから大丈夫だと思っておきな』
その文面を見て、鬼灯は短く礼を送り、山崎と表示された人物からのメールを終えた。
「さて、次は・・・」
「ブエルー!なんで僕の髪の毛がこんな色になっちゃったんだよ!」
そう言ってマリモのような巨大な毛むくじゃらで白衣を着た物体に、褐色の肌の美少年が詰め寄っている。
彼が怒っているとおり、美形にそぐわず髪の色は赤、青、黄色、銀色のごちゃまぜのまだらだった。
「ふん、やはり失敗したか・・・」
「やはりってどういうこと?これじゃアデス様の気を引けないじゃないか!綺麗なレンボーの髪になって、アデス様に僕の新しい魅力を知ってもらおうと思ったのに!」
そう金切り声を上げて、美少年、アルミッラは地団太を踏んだ。
「もう新しい魅力もないだろう・・・百五十年から一緒におるくせに・・・」
毛むくじゃらはそう言って再び無数のモニターの一つに向かったが、思い出したように言葉を発した。
「そういえば、お前三位から墜落したらしいな。もっぱらの噂だが、その様子を見ると本当のようだな」
言ってはならない地雷を踏んだらしく、アルミッラの身体は一瞬にして漆黒のオーラに包まれた。
「誰が墜落だって?アデス様は気まぐれなんだ、僕があんな東洋おべっか悪魔なんかに負けるはずないじゃないか!」
怪し気な呪文を唱え始めると、ブエルと言われた毛むくじゃらを攻撃すべく、アルミッラは腕輪から小さな魔法陣を浮き上がらせる。
その様子にブエルがため息をついていると、突然、アルミッラが詠唱を止め、ブエルの毛玉全体が揺さぶられる轟音が鳴り響いた。
危険な実験室が簡単に崩壊しないよう、魔界特注の鋼鉄製で作られた扉が、どんどん形を変えて内側にめりこんでくる。
「さあ、『三位』様のおでましかな?」
ブエルは無表情にそう言うと、金棒が鉄扉を破って突き出てくるのを冷静に眺めた。
~完~