毛ガニデパート 2020/10/02 23:26

【名文紹介】八島游舷『天駆せよ法勝寺』

新作は収録待ちで手持ち無沙汰、その間、次回のネタ探しと勉強と趣味と趣味と趣味を兼ねて読書してます。
知識が無くともシナリオを書けなくは無いけれども、やはり、知識量は文章に表れるもの。
「コイツ知悉しているな」、と感じさせる文章は、ディテールがしっかりしていて臨場感や説得力が違ってくると思います。
そんなわけで、第2回のテーマは知識量、紹介したい作品はこちら。

天駆せよ法勝寺

八島游舷
東京創元社

創元SF短編賞を獲り、電子書籍化した作品です。
仏教の世界観に基づいたSF作品で、他にも仏教SFや仏教ファンタジーは数が少ないものの存在しますが、八島游舷氏は知識量の違いを感じさせてくれます。

佛理学。それは、万物を構成する佛質(ぶっしつ)と佛精(エネルギー)を相互転換する手法を研究する学術分野である。佛の教えの七割は佛理学として理論化され、再構築された。涅槃教(ねはんぎょう)に一切衆生悉有佛性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)と説く。佛理学では、この概念を拡張し、衆生のみならずあらゆる佛質に佛性(ぶっしょう)があり、佛精(エネルギー)と等価であることが宇宙の根本原理であるとする。
八島游舷.天駆せよ法勝寺-SogenSFShortStoryPrizeEdition-創元SF短編賞受賞作(Kindleの位置No.71-78).株式会社東京創元社.Kindle版.

「佛理学」(佛は仏の旧字体)とかいう、ぶっ飛んだパワーワードが、読者を殴りつけて物語の世界に引きずり込みます……いえ、衆生を説話に引き込む広長舌です。
ストーリーとしては、普通のスペースオペラなのですが、こんな感じで仏教色に頭のてっぺんまで染まり切っているのが魅力です。
全編通してこんな感じと超濃厚な作品ですが、食傷気味になる前に締める短編なのもポイントです。
本気でやるから面白い、そんな事を伝えてくれる文章ではないでしょうか?

なお、引用文中で「涅槃教」となっているのは、恐らく「涅槃経」の誤字です。
「一切衆生悉有佛性」の文は涅槃経にありますし、『新版 仏教学辞典』を調べても「涅槃教」の文字はありませんでした。

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