宣伝SSを完成したところからアップします。その⑤
来年初頭に発売予定の成人女性向けシチュエーションボイス作品、アルトボイス男子・桐野千歳の前日譚を少しずつアップします。
その⑤をアップしました~!
・宣伝ボイス(ちょびっと様)
紹介の所から商品予告のリンクがあります!
・販売予告
アルトボイス男子 桐野千歳 flower spiral https://www.dlsite.com/girls/announce/=/product_id/RJ309044.html
次で終わります!やっとエッティ―書ける~!!よっしゃー!
最後までご覧いただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします!
・アルトボイス男子 桐野千歳、前日譚⑤
「玄関が狭くて、すみません。このスリッパを使ってください」
「ありがとう」
足下に犬のぬいぐるみみたいなスリッパを置かれて、和んでしまう。
彼女の住んでいるマンションは電車一本で都心に行ける郊外だった。
玄関の内鍵をかけてから、彼女の後をついて行く。
シンプルな内装のリビングダイニングには、たくさんの本棚が並んでいた。
大きめのテレビの前に、ローテーブルとクッションが置かれている。
「綺麗な部屋だね」
「あ、ありがとうございます。本買いすぎて、溢れそうになってますが、なんとかごまかしてます」
「ふふ、そうなんだ?」
「すぐに夕飯を作りますので、よかったら好きな本を読んでください」
「君に全部お任せするのは申しわけないし、手伝うよ」
「大丈夫です!桐野さんはお客様ですから、くつろいでください」
軽く背中を押されて、テーブルの前に座る。
気を使ってくれているのに、無理やり手伝うのもよくないだろうと考えて、本棚を確認した。
「すごいな。まるで図書館みたいだ。集めてるのって、海外作家の絵本が多いの?」
「いえ、普通の本も右側の棚にあります。それから、こっちに置いてるのは読み終わった本だけで、寝室には積んでます。あ、でも桐野さんに寝ていただくスペースは、ちゃんとあるので安心してください」
「そう……」
本好きにありがちなことだなと思いつつ、棚にのばしかけた手をとめる。
「ちょっと待って、一緒の部屋で寝るの?」
「? えっ!? だめでしたか?」
「いや……別に君さえいいなら、かまわないけど」
「よかった……。せっかくのお泊まりですし、できるだけ長くお話したくて」
「……」
楽しそうに夕食の準備をしている彼女に対して、僕は内心混乱していた。
いくら彼女が僕を友人だと思っていたとしても、男相手に無防備すぎる。
気をつけたほうがいいよと言いたいところだか、これから彼女に告白するつもり男が、そういうことを口にしていいものか。
(別に今すぐ、言わなくてもいいか。本、読もう)
気になったタイトルの絵本をとり、読み終えたところで、彼女が夕食をテーブルに並べてくれる。
鮪の角煮に、ほうれん草と人参をあえた小鉢、あげと豆腐とわかめのお味噌汁……胃に優しそうな和食だ。
「お待たせしました。お茶、なんでもいいですか?」
「うん、ありがとう。家でこんなにちゃんとしたご飯、食べたことないよ。おいしそう……」
「ほとんど作り置きだから、たいしたことないです。桐野さんは、お料理しないんですか?」
「まぁ、一応できるってレベルかな。仕事が詰まってるときは、出前ですませちゃう。君はえらいね」
「私も疲れてる時は、スーパーで買っちゃいますよ」
ふたりで笑いながら、いただきますと言って、鮪の角煮をひとくち食べる。
「角煮、味がしみてて美味しいね。これも作り置きなの?」
「そんなふうに言ってもらえたら、嬉しいです!……もしよかったら、お仕事がお忙しいときは、桐野さんのぶんも作り置きしますよ」
「え……そんなの大変じゃない? いいよ、作り方だけ教えてもらえれば」
「二人分になっても手間は変わらないので、大丈夫ですよ。桐野さんに喜んでいただけるなら、作りがいもありますし。よかったら角煮以外も、食べていただきたいです。……私の料理でよければ……」
頬を染めて笑う彼女に、一瞬、みとれてしまう。
「……」
「桐野さん?」
(僕の考え方がおかしいのか……?普通、友人ってだけで、ここまでするものかな?)
僕は彼女に男として意識されていないと思っていた。
しかし、それは思い違いだったのかもしれない。
さっきから彼女の言動すべてに、好意があるような……気がする。
「あの、桐野さん。大丈夫ですか?」
「っ! あぁ、ごめん。じゃあ、今度、作ってもらおうかな。材料費とか、ちゃんと教えてね」
「わかりました!」
僕たちはアニメを見ながら、ごはんを食べ終えた。
始終和やかに会話して、良い雰囲気になっている……と思う。
「アニメ、いかがでしたか?」
「うん……面白かったよ。動きも可愛くて、原作の良さを生かしてたね」
「ですよね!? 桐野さんにも楽しんでいただけてうれしいです」
「……うん」
目をきらきらさせている彼女には申しわけないが、僕はアニメの感想よりも伝えたいことがあった。
(予定より早いけど、告白、今してしまおう)
僕も彼女と楽しい時間を過ごせてうれしい。
でも、もっと今以上に親しくなりたい、君の友人じゃなくて恋人なりたいって、言おう。
――きっと彼女は、良い返事をくれると思う。
「今日は、家に誘ってくれてありがとう。少し君に話したいことが――」
僕の話をさえぎるように、お風呂がわいたのことを知らせるアラームがなった。
「……」
「桐野さん、お話って……?」
「……いや、後で言うよ」
「そうですか? では、先にお風呂に入ってください。私、食器とか洗っちゃいますので」
「全部、任せちゃってごめんね。じゃあ、先にいただくよ」
出鼻をくじかれたことを苦笑しつつ、洗面台の前でシャツを脱いでいると、足音が近づいてきた。
「桐野さん、すみません……!入浴剤を置き忘れてたので、これ使ってください」
「ありがとう」
仕切布をどけて、入浴剤を受け取ろうとした瞬間、彼女は顔を真っ赤にして叫び声をあげた。
「っ!?えっ、なに?……どうしたの?」
戸惑いながら近づくと彼女は後ずさり、しりもちをつく。
僕に指をさして「む、むっ、胸……胸っ……がっ……!」と震える声で言った。
「……胸?」
この驚きぶりは、まさか――
「えっと……もしかして、僕のこと女の人だと思ってた?」
「僕!?」
僕の質問に、さらに動揺する彼女を見て、答えを聞くまでもなかった。
あぁ、だから積極的に遊びに誘ってくれていたのか。
家に呼んでくれたのも、ごはんを作りに行くと言ってくれたのも、全て同性の友人に対しての好意によるものだったか。
(そういえば今まで、彼女の前で「僕」って言ってなかったかも? ……覚えてないけど)
騙すつもりはなかったけれど、僕は結果的に彼女を動揺させて、困らせている。
彼女に恋愛感情をもってもらえているのかもと、浮かれていた自分が情けない。
とりあえず、この場は謝っておいたほうがいいだろう。
「ごめん。最近はあまり間違われなくなったから、わざわざ言う必要ないかなって思ってた」
彼女と距離をとったまま、軽く頭をさげる。
「僕は男です。今まで誤解させるようなことをしてたなら、ごめんね」
「い、いえ……私こそ、叫んだりして失礼しました」
これ以上、彼女が落ちこまないように、僕は明るくふるまう。
「……とりあえず、帰ったほうがいいよね?」
「え……?」
「だって君は僕が同性だと思っていたから、家に呼んでくれたんでしょう?今ならたぶん、終電も間に合うし、間に合わなかったらタクシーでも拾うし」
「待ってください……!男の人でも、こんな時間に帰るのは危ないです!」
「心配してくれて、ありがとう。でも帰るよ。……正直言うと、ちょっとうぬぼれてたんだ。君が家に呼んでくれたのは、異性として、好意がある合図なのかなって」
「っ!?」
「まぁ、僕の勘違いだったんだけど」
せめて僕の気持ちは彼女に知ってもらいたい。
膝をついて、彼女との距離をつめる。
「僕は君のことが好きなんだ。だから、友達じゃなくて、恋人になりたいなって思ってる。さっき言いかけたのは、この件だよ」
「桐野さん……」
「君と一緒にいると、新しい楽しいことや好きなことがみつけられるんだ。もっと君と親しくなって、今以上に、幸せになれることを君と共有していきたい。……君が、迷惑じゃなければ、だけど」
僕の告白に彼女は困った顔のまま、動かなくなった。
「ちゃんと話せて、すっきりしたよ。そういうわけだから、このまま一緒にいると君を不安にさせてしまうだろうし、帰るね」
シャツを着るために、立ち上がろうとしたとき、彼女が僕の腕を片手で掴んだ。
「ま、待ってください!桐野さんのお気持ち、わかりました。私……ちゃんと考えます!今から、考えます!」
「っ!……それは……」
「だから、どうぞ、お風呂にお入りください!」
びしっと綺麗に指をさす姿が面白くて、吹きだしてしまった。
「?桐野さん……?」
「……わかった。それじゃあ、悪いけど、君は部屋に戻ってくれる?このままじゃ、服を全部、脱げないから」
「は、はいっ! 失礼しました……!」
彼女は頬を染めたまま、あたふたと部屋に戻っていく。
引き留めてくれてことがうれしくて、まだ良い返事をしてもらえたわけでもないのに、期待が高まってしまった。
携帯で仕事のメールを返していると、後からお風呂に入った彼女が、寝間着姿で戻ってきた。
「おかえり」
「あ、はい……。……き、桐野さん、さっきは本当に失礼しました」
「いいよ、気にしないで。こっちこそ、ごめんね」
「いえ、桐野さんは悪くないです!」
座った彼女と視線があう。ぱっと目をそらされて、気まずい空気が流れる。
「えっと……大丈夫?」
「な、な、なにが、でしょうか!?」
「いや……僕が告白してから、ずっと緊張してるみたいだから」
「してません……!いつも通りです……!」
あからさまに体を強ばらせている彼女を少しでも安心させたい。
僕はゆっくりと動いて、彼女の顔をのぞきこむ。
「さっきの返事、考えてくれるって君は言ってくれたけど、急がなくていいからね。……君とは趣味もあうし、振られても、できれば友人でいたいな」
「桐野さん……」
「好意をもってる人間の、友人でいたいなんて言葉、信用できないかもしれないけど」
「いえ、信用します……!まだ、お友達になってそれほど時間は経っていませんが、桐野さんは人を不安にさせたり、嘘はつかない人だって、わかります」
「…………」
きっぱりと言いきられて、じんわりと喜びがこみあげてきた。やっぱり、この子は良い子だな。好きになってよかったなと、改めて思う。
「ありがとう。信じてもらえてうれしい」
「……私、桐野さんに好きって言ってもらえて、うれしかったです」
「……うん」
「だから、私でよろしければ、桐野さんとおつきあいしたいです。こ、恋人に……なりたいです……!」
「君……」
「桐野さんのご期待にそえるかわかりませんが、精一杯がんばりますので、よろしくお願いいたします……!」
告白を受け入れてくれたことがうれしくて、思わず彼女の手を、そっと握ってしまう。
彼女は一瞬、びくっと肩を跳ねさせたけれど、なにも言わずに僕に笑いかけてくれた。
「本当にいいの?僕に気をつかって、無理に答えをだそうとしてない?」
「こんな大切なことに、気遣いなんてできません。私……桐野さんが……好きです」
「っ……ありがとう。すごく、うれしいよ」
本当は今すぐ抱きしめたいけれど、怖がらせてしまうだろうし、我慢しよう。
「じゃあ、これからは友達じゃなくて、恋人として、よろしくね」
「は、はいっ!よろしくお願いします……」
告白の件が解決して、ほっとしたのもの束の間。
なぜか彼女は、僕が動くたびに、びくっと体を強ばらせる。
「もしかして、僕になにかされると思ってる?」
「えっ!? そんなこと、お……思ってないです」
嘘だ。告白を受け入れた手前、なにか起こったらどうしようと、顔に書いてある。
「本当に?じゃあ、もっと肩の力を抜いてくれると嬉しいな」
「ぬ、抜いてます。すごく、ゆったりしてます……!」
全然、まったりしてない。さっきと違って、あからさまに僕を男として意識し始めている。
(怖がってるわけじゃない……みたいだな)
彼女の態度が可愛くて、なにもしないつもりだったのに、いたずらしたくなってしまった。
僕は彼女の肩に触れて、優しく笑いかける。
「安心して。恋人になったからって、すぐにそういうことはしないから」
「っ!」
「君と恋人同士になれて、すごく嬉しいんだ。だから君を怖がらせたり、不安になるようなことは絶対にしたくない。僕は君の信頼を裏切らないよ」
「桐野さん……」
「明日、僕のお気に入りのカフェに行かない? 恋人になったんだし、まずはデートしたいな」
「デート……ですか」
「うん。君もきっと気に入ってくれる場所だと思う」
「桐野さんの好きなもの、たくさん知りたいから、そのカフェに行くの楽しみです」
「よかった。それじゃあ、もう寝ようよ」
「……はい」
「君の寝室で一緒に寝ても大丈夫?」
「は、はい……!大丈夫です」
許可を得て、寝室に入り、布団を彼女のベッドの横に敷く。
「じゃあ、また明日、ゆっくり話そうね」
「はい、おやすみなさい」
ほっとした顔でベッドに入ろうとした彼女の肩を抱き、軽く唇を重ねる。
目を開けると、彼女は目をまんまるにして、穴があきそうなくらい僕をみつめている。
「……キスだけなら、君の考えてるそういうことにならないよね?」
答えを聞く前に、彼女の耳元で「おやすみ」とささやいてから、離れる。
僕が布団に横になると、彼女は我に返ったのだろう。
後ろから勢いよく毛布をかぶる音が聞こえてきて、口元がゆるんでしまう。
これからは恋人として彼女の新しい一面をみることができる。
それが楽しみで、うれしい。
僕は幸せな気分のまま、眠りにつくことができた。