【お試し公開】「隣のマリヤさん ~夫プロデュースによるロシア人巨乳妻寝取り計画~」②
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あらすじ
25歳サラリーマンの拓己は恋をしていた。しかしその相手マリヤは隣に住むロシアの「人妻」だった。
決して叶うことない恋にヤキモキした日々を送る拓己は、ある日近所のサウナでマリヤの夫ミハイルと出会う。そのミハイルから拓己はとんでもない依頼を受ける――うちのマリヤを口説いてくれないかと。
寝取らせ性癖を持つ白人夫からのまさかの寝取り依頼。しかしマリヤは夫の性癖のことを何も知らず、拓己のことも弟のように思っている。
夫“プロデュース”の巨乳人妻寝取り計画。果たして拓己は、憧れのマリヤを寝取ることができるのか――。
エピソード2
あのマリヤさんと夫婦生活を送るということがどういうことか、俺はよく夢想する。
具体的な年齢はわからないが、俺からすると「姉さん女房」という位置付けだろうか。面倒見がよく、お淑やかで、古風な言い方をすれば気立てがいい。
日本ではもはや絶滅危惧種だが、そんな大和撫子がロシア出身というところに隔世の感がある。もはや日本で大和撫子を探すよりも日本文化に興味がある海外の女性を探した方が早いんじゃないかと思うことすらある。
中身は大和撫子でありながら、見た目はバリバリの外国人で、背の高さもスタイルも日本人女性とは一線も二線も画している。いわゆる“グローバル”なスタイルの持ち主。もしそんな女性が奥さんだったら、休日平日を問わず“パコり”まくりだと思う。
あの聖女に対してそんな妄想を抱くのにはいささか躊躇いがある。でも人妻であるからにはそうなのだ。結婚するとはつまり、私たちは社会的な許可を得て合法的にセックスをしていますという意味でもあるのだから。
海外の女性は“激しい”と聞く。ああ見えてマリヤさんもそうなのだろうか。そう考えると逆に燃える。あんなお淑やかな女性が、夜は自分から激しく腰を振っているなんて。
不敬罪――。
あのマリヤさんでよからぬ妄想をすることを、俺は自戒の念を込めてそう呼んでいる。彼女が人様のものであるからというのもそうだが、そもそも彼女自身の抱く聖性が、男に想像させることすら躊躇わせる。おそらくキリスト教社会において聖母マ◯アとの◯淫を妄想するのが大罪であるのと同じように、心の奥底で自分自身が勝手に「これは罪だ」と思ってしまうのだ。
だから俺は一日一回に制限している。彼女との毎朝のやり取りでその御姿を目に焼き付けて、退勤して帰宅した後に一回だけ致す。それが俺が示せる彼女への信仰心でもあった。一回致したら終わり。以後のネタは適当な映像や画像で済ませる。一日二回以上彼女を○すことは何人たりとも許されないのだ。
言っていて虚しくなる。所詮は妄想なのだから何度でも致せばいいものを、なぜだか彼女を穢したくない自分がいた。言わばこれは初恋のようなものなのだ。もちろん本当の初恋はもっと幼少期に済ませているが、彼女には二度目以降ではなく、初めての恋心のようなものを抱いてしまっている。
憧れの人。
喩えるなら、幼稚園時代に担任の先生に“恋”をするようなものなのかもしれない。
母親への思いと異性への思いをないまぜにしたような、どっちつかずの感情。でも俺は幼稚園児ではなく立派なオスになってしまっているから、そんな憧れの人との劣情もちゃんと妄想できてしまう。
西村拓己(にしむらたくみ)、二十五歳。
彼女がいない歴イコール年齢ではないが、残念ながら「素人童貞」。プロのお姉さん以外と致したことは一度もない。恋人も恋人候補もいない、そんな悲しき独身サラリーマンである。
隣の芝生は青い。
昔の人はよく言ったものだ。俺の場合、隣家の芝は青どころかエメラルドグリーンかサファイアのごとく輝いている。手に入らないから魅力的に見える。マリヤさんの場合はどんな状況においても魅力的な女性だと思うが、やはり他人のものであるという口惜しさは尋常じゃない。
仮に可能性がゼロでも彼女が独身だったら違っていた。
俺みたいな普通の日本人、彼女のような恋愛ヒエラルキー最上位の女性には眼中にないかもしれない。無謀なのはわかっている。日本の女の子にすら大したモテないのに、上位人種である白人女性など“況やをや”である。
でもだからこそ夢を見られる。少なくとも彼女が嫁ぐまでは、彼女への淡い恋心と溢れんばかりの肉欲を楽しむことができた。言ってみれば宝くじを買うようなもの。万が一にも当たらないとわかっていても、当たる可能性が「ゼロ」ではないから夢を見られる。もし落選済みの宝くじだとわかっていたら、そんなものは紙くず同然だ。
しかし彼女は俺が出会った当初から「落選済みの宝くじ」だった。いやむしろ他人にとっての「当選済みの宝くじ」か。しかも年末ジャンボ一等級の当選くじ。それが同じ売り場から出たとあっては嫉妬心もひとしおだ。売り場の順番待ちがあと一人ズレていた俺が当たっていたかもしれないのに。そんな後悔を死ぬまで抱き続けるに違いない。
唯一慰めになるのは、彼女が旦那さんに付いてくる形で来日したという事実――因果関係。つまり彼女が旦那さんと結婚していなければ、そもそも俺とマリヤさんが出会うことはなかったのだ。俺に打つ手など最初からなかった。俺と彼女が結ばれる世界線など初めから存在しないのである。
でもやっぱり、恨めしいとは思うだろう。あのマリヤさんと結婚できた果報者のことを。俺みたいな非モテ男子にとって、あんな美人の、しかも聖女にも等しい女性を娶ることができた男など、公敵以外の何物でもない。
その“果報者”のことを、俺は二、三度目撃したことがある。
今朝のやり取りを見たらわかるように、マリヤさんは異国の地であってもそのコミュニケーション能力の高さを如何なく発揮している。人と話すことが好きなのだろうが、俺からしてみれば修道女に施しを受けている感覚である。女性日照りの冴えない男に、美人との一時の会話を。それだけでも十分なボランティア、ホスピタリティの極みである。
対する旦那さんは、端的に言えば寡黙である。俺だって異国の地で赴任することになったら現地の人とのコミュニケーションは極力避けてしまうかもしれない。文化も言語も、考え方すらも異なる相手なのだから。むしろ日本在住の欧米人としてはマリヤさんの方が特殊だと言える。
彼の素性はマリヤさんからぼんやりと聞いている。そんなことをわざわざ聞いたのは怖いもの見たさというか、興味本位に近かった。こんな美女と結婚できる人間はさぞかし有名な企業の社長か資産家だと思っていた。そうであれば俺の嫉妬心もある程度は和らぐからだ。でも実際は違った。
彼はどうやら大学の教授らしい。専門までは聞かなかったがいわゆる文化人というやつである。
男の魅力に学歴なんて関係ないとFラン大卒の俺は嘯いていたが、大学教授という職業が社会的に高い地位に位置することは疑いようがないだろう。博士論文を提出して助手や助教授をしているうちはまだ不安定な仕事というイメージがあるが、准教授や教授ともなれば明確な「成功者」である。貧乏生活とは無縁だし、そもそも世間から無条件で「先生」と呼ばれる立場の時点で社会的には勝ち組だ。
しかし助教授でも准教授でもなく「教授」というところに少しだけ引っ掛かるものがあるかもしれない。そのポジションは大学という場所においてはわりとトップに近い位置にあり、若造がおいそれとつける地位ではない。俺はあまり大学の事情には詳しくないが、一般企業で言えば部長や常務に匹敵するポジションではないだろうか。
つまり、彼はマリヤさんとは“同世代”ではないのだ。遠目から見ただけだからはっきりとした年齢はわからなかったが、一回りどころか二回り近く上である。パッと見では五十歳くらいといった印象である。いわゆる年の差婚というやつだ。
あんな“おっさん”と、マリヤさんが?
そんな失礼極まりないことを思ってしまったことも事実である。俺たち日本人にとって欧米圏の人は実年齢より老けて見えがちだし、実際はそんな年齢ではないのかもしれないが、少なくともマリヤさんが「娘」と言われても違和感がないような差があることは事実だ。
ロシアの男性ということもあってタッパはあるが、ガチムチとはかけ離れた痩身であり、それが余計に彼の年齢を感じさせた。眼鏡の似合う知的な印象はあるが、溌溂とした紳士という感じではなく、一般企業で言えば「窓際課」に配属されていそうな雰囲気すらあった。
俺の偏見増し増しの色眼鏡で想像していた、三十代にして外資系企業の重役にのしあがったガチムチのロシア人ジェントルマンとは実際のところ真逆に見えた。若くはないしイケメンでもないし、そこまでのお金持ちにも見えない。
でもだからこそマリヤさんの内面の良さが際立った。外見は関係ない。お金持ちでなくてもいい。愛さえあれば異国の地でも幸せに暮らせる。そんな彼女の人柄が表れているようだった。逆に言えば悔しいことに、旦那さんは彼女の求めるその「愛」を与えられる人物なのだろう。それでいて俺とは違い、社会的な地位も有している。
いっそ身長190センチの超絶イケメンロシア人だったらよかったのに。そんな風にすら思う。
絶対に敵わないと思える相手だからこそ諦めがつくというもの。でも年齢や見た目だけで「俺の方が勝っている」と思ってしまうこと自体に、人としての浅はかさが表れていて嫌だった。きっとあの旦那さんはマリヤさんが「美人で巨乳」だから妻として選んだわけではないのだろう。
マリヤさんの年齢はおそらく二十代半ばから後半くらい。世間一般でいう出産適齢期でもある。ただ二人に子供がいないところを見ると、作る気がないのか、あんまりこういうことを言うのは好ましくないが、ご主人が高齢すぎて「無理」なのだろう。
にも関わらずマリヤさんはご主人と一緒にいる。遠い異国の地でも、あんな風に幸せそうに暮らしている。
勝てないと、直感的に思う。もとより略奪婚などできると思ってないが、先程の宝くじの理論と同じで希望の欠片もないというのは虚しいものだ。俺はこんなにも彼女を魅力的に思っているのに、他でもない彼女自身が幸せなら手の出しようがないじゃないか。
叶わぬ恋、というぼんやりとした言葉でこの気持ちを鎮めてもいい。だが実際には「恋をする権利すらない」というのが実情である。
恋をしてはいけない、既に満たされている女性。マリヤ・ミローノヴナ・ペトロフスカヤさんは、俺にとってそういう存在だった。だからこそ俺は信仰にも似た気持ちを抱くのである。
「はぁ……」
仕事終わり、誰に聞かせるでもないのに、聞えよがしな溜息をつく。
会社の昼休みに、もったいなさすぎて三分の一しか食べられなかった手作りのお菓子。今日もまたマリヤさんに厚意を頂いてしまった。これが厚意ではなく好意だったら最高だったのに、彼女がホスピタリティの塊だと知っている俺はそんな安っぽい勘違いすら抱けない。
帰っていつもみたいに信仰心に満ち溢れたオナニーをするのもよい。マリヤさんが作ってくれたお菓子の匂いを嗅ぎながらという超絶不貞行為すら思いついていた。でもそんなことをしても虚しいだけなので、そういうときはいつも近所のスーパー銭湯に立ち寄ることにしている。
暑いサウナに入って、水風呂で体を“整え”て、飲食コーナーで冷たいビールを流し込む。それが今の俺のささやかな幸せだった。美人の奥さんがいなくても人生はこれだけで十分幸せじゃないかと言い張るのは、さすがに自分への慰めが過ぎるだろうか。
「はぁ」
再度ため息をつきながら、脱衣所で服を脱ぐ。日中の仕事で汗を吸ったパンツを下ろすと、自分の“相棒”がボロンと飛び出てくる。
自慢じゃないが、日本人の平均サイズは遥かに上回っている自信がある。だが残念ながら、“これ”に対して俺は良い思い出を持っていない。
高三のとき、初めてできた彼女との初エッチで、こんな大きいの絶対無理と涙目で拒否された。その子とはそれ以降気まずくなって、三ヶ月経たずに別れてしまった。
大学二年のときの二人目の彼女もそう。あの子とは一応“挿入”まではいったが、これ以上は無理と抽挿までは至れなかった。
不遇を見かねた大学の先輩に生まれて初めての風俗に連れて行ってもらったはいいものの、人生初めてを捧げたプロのお姉さんには行為直後、「“商売道具”が壊れるから君、出禁ね」と満面の笑みで追い出されてしまった。
ある日一緒に飲む機会のあった女性の先輩に「巨根信仰はあくまで男特有のものだから」と諭されて、俺はようやく自分の勘違いと思い上がりを実感した。
その先輩はわりと“オープン”な性格で知られる女性だった。「試しに見せてみ?」と面白半分に言われて、俺はアルコールの勢いに任せて、気付けばズボンを脱いでいた。ひょっとしたらこの先輩が俺の素人童貞を奪ってくれるのではないかという淡い期待もあった。しかしながら、
『さすがにこれは無理だわ。こんなん挿れたら割けるしw』
と苦笑しながら言われたことで、俺の期待は潰えた。恥ずかしい思いをさせたお詫びに手コキで抜いてもらったことは今となってはいい思い出だが、「このデカさで遅漏かよ」と文句を言われた後、先輩にはこんなことを言われた。
『これが“適正サイズ”なのは、普通に白人の女の人とかなんじゃない? いずれにせよこれは日本人用のサイズじゃないよ』
そんなこと言われても――というのが当時の正直な感想だった。俺はべつに白人の女性が好きというわけではないし、そもそも知り合いに白人もいない。興味本位でそういうお姉さんと“致せるお店”を探したこともあるが、その店に入るだけで「僕には白人コンプレックスがあります」と言っているようで結局は利用できなかった。
そもそも“白人用”というのは先輩が勝手に言っただけで、白人さんのプロにも日本人のプロと同じようなことを言われたら、俺はもう立ち直れない自信があった。だから「白人のプロのお姉さん」という線もそのときに潰えてしまったのである。
その三年後だった。俺がマリヤさんと出会ったのは。
もちろん名誉のために言うと、俺はマリヤさんが「白人だから」好きになったのではない。好きになった人がたまた白人だっただけだ。白人であるがゆえにめちゃくちゃ美人でスタイルが良くて、それで好きになったという面はあるが、マリヤさん以外の白人女性に安易に恋をしていたとは思わない。
俺が好きなのはあくまでもマリヤ・ミローノヴナ・ペトロフスカヤさん。そして残念ながら、彼女はれっきとした“他人のもの”である。
「はぁ……」
今日三度目のため息をつきながら、通い慣れたサウナのドアを開ける。とたんにむわっとした空間が肺の中に入ってくるが、心頭を滅却したいときはサウナが一番だと言い聞かせ、熱気の中を進む。
(ん?)
しかしそこに先客がいた。不人気なスーパー銭湯ではない。だいたい先客はいるものだが、今日の先客はちょっと変わった人物だった。
ミハイル・パーヴロヴィチ・ペトロフスキーさん。
うろ覚えだがたしかそんなフルネームだったろうか。件のマリヤさんの旦那さんである。
パッと見ではやはり五十代くらいの雰囲気の白人。金髪と白髪の中間くらいの短髪に、大柄ではあるが脂肪も筋肉もそこまでついていない痩躯。肉体や顔立ちの細部を見るとそこまで老け込んでいる感じはないが、少なくとも三十代ということはなさそうだ。
失礼だが、この人がマリヤさんを組み敷いている姿は想像がつかなかった。こんなことは余計なお世話だが、もしマリヤさんが本気で腰を振ったら腹上死するんじゃないかと心配をしてしまう。
なんて、これは俺のやっかみが見せる都合のいい想像だろう。仮に五十歳でも老人ではないのだし、二十歳以上の年の差婚なんて、俺のような一般人はともかく社会的地位の高い人間や富裕層にはよくあることだ。
ただどうしても、サウナという場所柄、とある“一点”に目が行ってしまう。
(……小さくね?)
もうこれは本当に失礼を承知の感想だ。恋に敗れた情けない男のやっかみだと捉えてほしい。せめて一つでも何か“勝ってる”要素がないと、俺みたいな負け組は精神が保てないんだ。
タオルの隙間からはみ出た旦那さんのものは、お世辞にも立派だとは言えなかった。
外国人の男性はみんな巨根であるという、勝手なイメージと偏見。その偏見とご主人のものには“いささか”ズレがあった。過度に小さいとは思わない。言ってみれば日本人男性の“平均”くらいはある。でも欧米の男性で日本人の平均サイズということは、もしかしたら向こうでは小さい部類なのかもしれない。
デカけりゃいいってもんじゃないことは俺が一番よく知っている。身に染みている。だってそうじゃないか。日本人の平均サイズだろうがこの人はあのマリヤさんとセックスしてるんだ。海外サイズだろうが誰ともセックスできない俺とどっちが上かなんて火を見るよりも明らかじゃないか。
張り合う必要はない。張り合ったってマリヤさんは彼のものなんだから仕方ないじゃないか。
そう自分に言い聞かせつつも、やっぱり俺はオスだった。せめての張り合い。虚栄心。俺はご主人に“見せつける”かのように、わざと腰に巻いたタオルをほどいて彼の横に腰掛けた。どうだ。俺様のモノは凄いだろう。あんたの“粗末なもの”に圧勝してるぞ、と。
…………虚しい。
これで勝ったとか思ってる自分が。
こんなことで虚栄心を満たして何になるのか。そもそも俺はホ◯じゃないんだ。こんなところで堂々とモノを晒して、これじゃまるで俺がご主人に“アピール”してるみたいじゃないか。
アホくさ。
心底自分が嫌になる。そもそもこの自慢のモノだって名刀“不抜”だし、使えない刀がいったい何になるのか。俺自身だって甚だ疑問である。
でも幸い、ご主人のことは俺が一方的に知っているだけ。遠巻きに何度か眺めただけだから、この人が俺の顔を見て「隣のアパートの青年だな」などと思うことはおそらくないだろう。ここは「変なやつ」認識される前にさっさとサウナを去るのが吉だ。
「君はもしかして、うちの隣のアパートに住んでる青年かな?」
「は?」
思わず失礼な反応をしてしまった。なんでこの人俺のこと知ってるの? いやご近所さんなんだから知られていてもおかしくないが、まさか認識されているとは。
「あ、え、え、えっと、どうも」
不意打ちすぎてどもってしまった。もう俺も社会人なんだからちゃんと名乗れよと突っ込みたくなったが、あまりにも突然のことすぎて上手く反応できなかった。というかご主人日本語うま。ほぼネイティブじゃん。まのマリヤさんの夫なんだから日本語が達者で何もおかしくないんだけど。というかこの人は日本の大学で教鞭を取ってるわけだし。
「突然すまない。君がうちのマリヤと話しているところをたまに窓から見ていたんだ。妻と懇意にしてくれていて礼を言うよ」
寡黙なタイプの人のせいか表情が読めない。え、これ本音? それとも嫌味で言ってる? 外国人の考えてることさっぱりわからん。
「い、いえ、マリヤさんに良くしてもらってるのは俺の方で、今日なんか、手作りのお菓子までもらっちゃって、ははは……」
バカか俺は。もし今のが嫌味だったら火に油じゃないか。他人様の女にお近づきして、手作りのお菓子を貰ったことまで報告するなんて。
「あれの趣味だよ。悪いが今後も試食相手になってくれ」
しかしご主人は至って落ち着いた表情で、いかにも大学教授然とした口調で言った。
え、怒ってない? それとも遠回しにまた嫌味? 少なくとも俺だったら自分の奥さんに近づく男は全員蹴り飛ばすが、この人はそうではないのかもしれない。
ある意味で年長者の余裕。妻帯者の余裕。俺みたいな若造がマリヤさんを奪うとは露ほども思わないのかもしれない。そして残念ながらその考えは正しい。俺がどんな行動をしてもマリヤさんが振り向くことはない。ご主人のことを心から愛していると、普段会話をしていてもひしひしと伝わってくるからだ。
俺がマリヤさんを“オナペット”にしていると知っても、この人は何も思わないかもしれない。いやさすがに苦言くらいは呈するかもしれないが、俺のことを“脅威”だなんて思わないだろう。
ホッとするような、それでいて屈辱のような、複雑な心境。
ハナから雌雄は決している。俺がこの人にライバル心を持つなんて、おこがましいにも程があった。
「いやぁ、あんな美人で若い奥さん、羨ましい限りです」
こっちは嫌味でも何でもなく、ただの羨望。あんな美人で巨乳の奥さんを貰えて、男として羨ましくない人間なんて多分いない。容姿やスタイルだけでなく性格も200点満点で、文句のつけどころが一つもない女性なのだ。
「君はマリヤみたいな女性がタイプかね?」
「い、いやぁ」
なんなんだこの人。なんでこんなことを聞いてくる。俺がマリヤさんがタイプですって言った瞬間、思い切り殴るんじゃないだろうな。
「タ、タイプじゃないと言ったら嘘になりますけど」
ご主人への警戒心もありつつ、俺は素直に本音を述べる。怒られる可能性もなくはなかったが、マリヤさんに対する自分の気持ちに嘘をつきたくなかった。それでも勇気のいることだ。他でもない夫に対して奥さんへの気持ちを懸想するなんて。
「不躾ですけど、奥さんとはどこで出会ったんですか?」
変に勘ぐられないように、できるだけ自然に会話を続けてみる。俺はべつにご主人のことを知りたいわけではないが、マリヤさんがどういう人生を歩んできたのかは大いに興味があった。それを知ることで失恋の傷口に塩を塗る可能性もあったが、結果的には好奇心が勝った。
「私はアメリカで中学校教師をしていてね。当時マリヤは十四歳だった」
「は?」と思わず言いかけてしまった。中学教師と生徒って思いっきり禁断の恋愛じゃねーか。よく十四歳の子供に欲情できたな!
「へ、へー……」
もちろんそんなことは口に出さなかった。あまり突っ込んでもロクなことがないと思ったからだ。仮に付き合っててもプラトニックな関係ならべつに問題ないし……いや、問題はありありかもしれないが。
しかし想像してしまう。あのマリヤさんが十四歳の頃を。
ロシア出身の女性は幼少期は天使で、大変失礼だが大人になると“劣化”すると聞く。しかしマリヤさんはアメリカ人の血が入っているためか、大人になっても女神のままだ。
そんな女神様の少女期。さぞかし天使だったことだろう。西洋絵画から飛び出してきたような美少女。それでいて中学生だから、ところどころは大人への階段を登り始めていて……ああいかん。なんだかロリコンに目覚めそうになってきた。もちろんマリヤさん限定の話ではあるが、もしマリヤさんの十四歳期が俺の想像通りなら、出来心で恋に落ちてしまう大人はいても不思議ではない。
「ちなみにですが、どちらからアプローチを……?」
そこが問題だった。中学校の変態教師が教え子に手を出したのか、大人の魅力にあてられがちな女子中学生が熱烈アプローチをしたのか。そのどちらかで世間の風当たりは大きく変わってくる。
「私がこんな話をしたとマリヤには黙っていてもらいたいが、当時マリヤがどこからか私のアパートの住所を聞きつけて、無理やり押し入られてしまったよ」
はははと照れくさそうに笑うご主人。ってことはがっつり“ヤッて”んじゃねーか。たとえマリヤさんからのアプローチでも重罪だぞ。
でも、マリヤさんにそんな一面があるとは思わなかった。たしかにただの大和撫子とは違い、芯はしっかりしてそうなイメージがある。意外と猪突猛進型なのかもしれない。でもそれは当時からマリヤさんがご主人に熱を上げていたという何よりの証拠でもあり、彼女に恋心を抱く俺の胸にはずきりとした確かな痛みが走った。
「私としては、なぜマリヤが私なんかを慕うのかがわからないんだ。歳は二十三も上だし、彼女の両親にも反対されたよ。でもああ見えてマリヤは一度言い出すと聞かないから、最終的には両親が根負けした。その結果、私の仕事の都合で彼女を日本にまで連れてきてしまったことは申し訳なく思ってるがね」
なんとなく、この人にも悩みがあることが見えてきた。
俺は今まで一方的に、あんな若くて綺麗な奥さんと結婚した果報者と断言してきたが、果報者には果報者なりの悩みがあったようだ。
すなわち、釣り合ってないのはではないか。
美人で若すぎる嫁を貰ったのはいいが、果たして彼女が自分に釣り合っているかどうか、彼は不安なのだ。
出会いが十四歳ということを考えると、おそらくもう十年以上。
それだけの恋人生活、夫婦生活を経ているのに、これだけの人生経験があるのに、この人は不安なんだ。
だがその気持ちは俺にもわかる。仮に俺がマリヤさんを嫁に貰ったとしたら、本当に俺でいいのかと思ってしまうだろう。ご主人の場合は年齢の差。俺の場合は人種の差。あんな美人で気立てのいい奥さん、絶対自分に釣り合っていないと感じるはずだ。
「正直に言おう。私は毎朝君と楽しそうに世間話をする妻の姿を見て、ひどく嫉妬している」
「え?」
あまりにも唐突な、負の感情の告白。しかしそれは俺を責める風ではなく、職業柄もあるせいか、ひどく理知的な言い方に聞こえた。
「不安に思うんだ。君のような若い男だったら、マリヤをもっと幸せにできるんじゃないかと。私だってまだ枯れたわけじゃないが、見ての通り若くはない。子供だって作ろうとしたがダメだった。マリヤと出会った三十代の頃の力強さが戻ってくるわけでもない」
一瞬、ご主人はもしかして俺とマリヤさんの浮気を疑ってるんじゃないかと思った。それだけ切実そうな口調だったのだ。でも俺にそんな度胸はないし、マリヤさんにだってその気はない。それは第三者から見れば明らかなことなのだが、夫の立場だとそうは見えないものなのだろうか。
「たとえば君の“それ”を見て、私にはひどい劣等感がある。こうして並べて見ても差は明らかじゃないか。君は顔を見るだけで嫉妬する対象だったが、それを見た今は嫉妬で気が狂いそうになっている」
まさかという思いだった。俺の一時の気の迷いでしかなかったあの“見せつけ”が、ご主人にとんでもないダメージを与えていたのだと。
たしかにただの近隣の青年というだけなら、多少の差を感じるだけで済んだかもしれない。
しかしそれが本人の中で密かに嫉妬の炎を燃やす対象だったら、敗北感はかなりのものだろう。大学の先輩は「巨根信仰は男のもの」と言っていたが、それだけ俺ら男にとって男根による“格付け”はコンプレックスになっているということだ。
いやただ、ご主人はとんでもない思い違いをしている。
だって俺とマリヤさんの間には何もない。何かが起きる気配すらない。もしご主人がそれを疑っているのならそれはとんでもない思い違いで、根も葉もない被害妄想だ。
「な、何言ってるんですか。マリヤさんが俺なんか眼中にあるわけないじゃないですか!」
自分でも言ってて悔しくなる。マリヤさんはご主人しか見ていない。それを日々思い知らされてきた俺が言うんだから間違いない。マリヤさんはミハイルさん一筋だ。
「たしかに今はそうだろう。マリヤが君に気があるとは思えない」
いや、言ってくれるなこのクソ親父。そんなことわかってるって言ってるだろ。改めて他人から言われると腹立つな。わかってるよ。俺に可能性がないくらい。あんたの嫁の話だろ。
「でも、将来的にはどうかわからない」
「は?」
いったいこの人は何を言ってるんだろうと思った。くだらない嫉妬のせいであのマリヤさんを疑ってるのか? 日々“マリヤ信仰”に勤しむ俺にとって、それはもう女神への冒涜である。
だが彼の疑心暗鬼は治らない。嫉妬とはそういうものだ。俺だって彼女がいる時期は横取りしようとしてくる男が出てこないか気が気でなかった。でもご主人の“これ”はちょっと度が過ぎているように思う。
「……不安なんだ。私はただただ安寧がほしい。マリヤが誰に口説かれても靡かないという確信が」
いやわかるけど。自分が釣り合わないと思っている嫁さんを貰った男の不安は。でもあまりにも現実味がないじゃないか。普通の女性ならまだわかるけど、相手はあの“聖女”だぞ。
ご主人は嫉妬に駆られてありえない世界を見てるのだと思った。
俺がマリヤさんとの距離を詰め、やがてマリヤさんがそれに応えるという妄想を。
正直、付き合ってはいられない。こっちはただでさえ叶わぬ恋で心が疲弊しているのに、よりによってその恋の“勝者”にありもしない可能性を説かれている。大学の教授には変人が多いと聞いていたが、まさかここまで変な人だとは。
「確かめようがないじゃないですか。不確定な未来の話なんて」
相手が大学教授というのもあって、精一杯背伸びをした発言をしてみる。ぶっちゃけ大したことは何も言えていないが、俺はこの言葉の中に、「俺にだって可能性はゼロじゃないぞ」というささやかな抵抗を含んでいた。それが、結果的にご主人を焚き付けたかどうかはわからない。
「確かめようがある。少なくとも君については」
「は?」
ぽかんと口を開けたまま俺。ご主人がそんな俺をまっすぐに見る。瞳の色はマリヤさんとほぼ同じで、やっぱりこの二人は同郷で、同人種で、夫婦なんだなと、そんなつまらないことにも嫉妬した。でも続くご主人の言葉は、そんな些細な嫉妬心をあっけなく吹き飛ばしたのだ。
「お願いがある。うちの妻を、口説いてもらえないだろうか?」