【お試し公開】「隣のマリヤさん ~夫プロデュースによるロシア人巨乳妻寝取り計画~」③
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あらすじ
25歳サラリーマンの拓己は恋をしていた。しかしその相手マリヤは隣に住むロシアの「人妻」だった。
決して叶うことない恋にヤキモキした日々を送る拓己は、ある日近所のサウナでマリヤの夫ミハイルと出会う。そのミハイルから拓己はとんでもない依頼を受ける――うちのマリヤを口説いてくれないかと。
寝取らせ性癖を持つ白人夫からのまさかの寝取り依頼。しかしマリヤは夫の性癖のことを何も知らず、拓己のことも弟のように思っている。
夫“プロデュース”の巨乳人妻寝取り計画。果たして拓己は、憧れのマリヤを寝取ることができるのか――。
エピソード3
いくら奥さんのことが心配だからって他の男に口説かせて反応を確かめるなんて、さすがに常軌を逸していると思う。たしかにマリヤさんはとんでもない美人だし、体つきも“恵まれている”方だから、心配になる気持ちもわかるけど。
「いや、何言ってるんですか。マリヤさんはあなたのことしか見てませんよ。そんなこと俺が保証します」
なんで俺は恋敵に塩を送るようなことを言っているのかわからない。でもこの人はあれほどまでにマリヤさんに愛されていて、それを「信じる」ことができないだなんて、あまりにも彼女に失礼だと思ってしまったのだ。
もちろん、君にマリヤの何がわかると言われたらそれまで。
だって俺は単なる“ご近所さん”でしかない。たしかに手作りのお菓子をもらったり、毎朝話しかけられたりしているが、それはべつに俺に限った話じゃない。マリヤさんは気さくな人だから俺以外にもたくさんの日本人に、それこそ老若男女問わず話しかけている。
でもだからこそ、夫だったらそんなマリヤさんの人柄もわかるんじゃないのか。あの人が何の打算もなしに近所の人たちに話しかけてるって、どうしてこの人はわからないのか。
嫉妬深いのは結構だが、あまりにもデリカシーがなさすぎる。そもそもこの人は俺がマリヤさんに気があるって知っててこんなことを言い出したんじゃないのか。だとしたらあまりに無礼だし、傲慢だ。そんな苛立ちも相俟って、俺は売り言葉に買い言葉もあって言ってしまう。
「もしそんなことして、俺が本当にマリヤさんのこと抱いちゃったらどうするんですか」
言ってから、これこそが思い上がりの発言だったと反省する。俺なんかがマリヤさんを“抱ける”わけがない。さっきも言ったように彼女は俺のことなんて眼中にないからだ。
でもこれぐらい言わないとこの人はわからない気がする。マリヤさんがそれだけミハイルさんのことを好きだって。奥さんの愛を確かめたい気持ちはわかるけど、確かめようとすることで二人の間に亀裂が生じることだってあるのだ。
そうだな。悪かった、今の言葉は忘れてくれ――てっきり俺はそう言われると思った。しかし、
「妻は君のことを……“弟”みたいだと言っていた」
「はぁ」
いったい何の話なのか。それって要するに可能性ゼロってことじゃないか。もしかして俺の傷心に追い打ちをかけるためにこんな突飛なこと言い出したんじゃないだろうな。だとしたら許さないからな。
「同郷の人間が滅多にいない異国の地で、気さくに話せる数少ない知人だと」
いや、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、やっぱりそれって「いい人」の範囲じゃんか。なんで妻が「弟みたい」って公言してる男に嫉妬すんだよ。
「私は興味本位で聞いてみた。もし私と出会っていなかったら、彼は“そういう対象”になりえたかと」
「はい?」
え、それマリヤさん本人に聞いちゃったの? さすがにデリカシーなさすぎるだろ。俺がマリヤさんでも怒るぞ。
「マリヤは何言ってるのと笑いつつも内心では怒っているようだった。私が普段あまりこういう冗談を言わない人間だから、怒りの割合の方が多かったかもしれない。だから妻は“仕返し”のつもりで言ったんだろう」
何を?
と俺は疑問に思った。ご主人とマリヤさんの夫婦としての距離感は知らないが、突飛なことを言い出した夫をマリヤさんが「懲らしめたい」と思ったことはなんとなく想像できる。その仕返しとやらがあくまで冗談であって、まったく本気ではないことも。
「結婚はわからないけど、お付き合いぐらいにはしてたかもねと、マリヤは言った。もちろん私を懲らしめるための冗談なのはわかっていた。だが……」
「え?」
俺は唖然とした。たった今旦那さんが言ったことにではない。マリヤさんが冗談でも俺と「お付き合い」してたかもと言ったことは普通に嬉しい。でもそれは今関係ない。俺が唖然としたのは、それを言った後の旦那さんの“反応”にである。
……もしかして、ちょっと勃ってる?
ありえないが、先程よりも明らかに“ボリューム”が増しているように思う。アホか。ここはスーパー銭湯のサウナ。紛れもない公共の場だぞ。
「私はその言葉で想像してしまった。まだ若い君と恋人同士になったマリヤが、毎晩のように――」
「え、ご主人!?」
その瞬間、ご主人の大柄の体がばたりと横に倒れた。最初は何かの演出かと思ったが、違うぞこれ。このおっさん、自分の話に夢中になりすぎてのぼせやがった!
「ちょ、誰か! 手を貸してくれ!」
俺は大声で助けを呼んだ。話の内容なんてどうでもよかった。幸いミハイルさんは無事意識を取り戻したのだが、
「本当にもうなんてお礼を言ったらいいのか……」
まだ足取りのおぼつかないご主人を自宅まで送り届けると、事情を知ったマリヤさんがとんでもなく申し訳なそうな顔で夫の体を引き受けた。この腰が低い感じとか憂いのある表情とか、本当にこの人は“大和撫子”なんだなと、俺は場違いなタイミングで感心してしまう。
「て、手伝います」
「ありがとうございます」
しかしいくらマリヤさんが高身長とはいえ、同じく高身長の旦那さんの体は重すぎる。俺はいったんはご主人の体を引き渡したものの、そのまま二人でご主人の体を支えて、寝室まで送り届けることにした。
マリヤさんとはもう何度も会話しているが、自宅に入るのは初めてだった。外から見てもわかる広い戸建て。入り口に海外のタペストリーやどこかの部族のお面などが飾ってあって、二人が旅行好きであることが伺い知れた。
寝室は二階ではなく一階にあった。ということはおそらく、二階自体をあまり使用していないのかもしれない。
普通に考えて、この家は夫婦二人には広すぎる。おそらく将来的に子供ができることを見越して買ったのだろうが、残念ながらその希望通りにはなっていない。だからこそ二人で頻繁に海外旅行もできるのだろうが。
……二人の夫婦生活は、上手くいっていないのだろうか。
いやそれはないだろう。二人は間違いなく仲睦まじい夫婦に見える。サウナで倒れた夫を心配する彼女の表情は、倦怠期を迎えた妻のそれにはとても見えない。
「少しサウナでのぼせただけみたいですから、水分を採って一晩安静にしてれば大丈夫だって、お医者さんが」
「本当に何から何までありがとうございます」
マリヤさんはさっきから恐縮しきりだった。実際俺がスーパー銭湯までタクシーを呼んでご主人を救急外来に送り届けて、再度タクシーを呼んでご主人を家まで送り届けたのは事実だ。ただこれは人として当然の行動で、致し方ないこと。正直タクシーの往復代は安月給のサラリーマンにはバカにならないが、ご主人がのぼせたのは俺が会話に夢中にさせてしまったせいもあるので、責任の一旦は感じている。
“Вы предпочитаете воду или чай?”
“Мне, пожалуйста, чаю...”
マリヤさんがダブルベッドに寝転んだご主人にロシア語で何かを聞いている。すぐさまキッチンの方に向かったところを見るに、おそらく飲み物についての会話だろう。残念ながらロシア語なので俺には詳細はさっぱりわからない。
ご主人は純粋なロシア人。しかし一時はアメリカで中学校教師をしていた。
マリヤさんは父親がロシア人で母親がアメリカ人。ミハイルさんと結婚してしばらくはロシアで暮らしていたが、やがてご主人の仕事の都合で来日した。そんなことを前に彼女が言っていた気がする。
普通に考えて、二人はロシア語と英語と日本語の“トリリンガル”ということになる。日本語の発音がこれだけ流暢なことを考えると、お互いにとって母語ではない方の言語もネイティブレベルと考えて差し支えないだろう。
あらためて、二人が異国の人間であることを実感する。二人が俺の知らない言葉で会話すること。それは俺では到底手に入れられないものを、この二人が共通しているということでもある。
ああ、夫婦なんだな。そんなことを当たり前ながら痛感する。というかここは夫婦の寝室なんだから、いわゆる“愛の巣”じゃんかよ。
(ということは、普段はここでマリヤさんが……)
病人を前にしてあれだが、そんなことも脳裏をよぎってしまう。一緒にご主人を抱きかかえたとき、マリヤさんからはすっごくいい匂いがした。ミハイルさんを支えるタイミングで何度か手も触れたし、そのすべすべの肌と繊細な指だけで三ヶ月は“おかず”に困らなさそうである。
しかし一点、気になることがある。ご主人が倒れる直前。その会話。ミハイルさんの“モノ”は。
……少しだけ、反応していた?
いや俺の見間違いかもしれないが、最初は「小さい」と思えたものが、普通サイズくらいになっていた。でも直前、俺とミハイルさんはそんなエロい話はしていない。マリヤさんがふざけて「俺の彼女になっていた可能性」について言及したことを話していただけだ。
結婚はわからないけど、お付き合いぐらいにはしてたかもね――。
いやないから。あくまでご主人を懲らしめるために言っただけだろ。だがそれだけのことなのに、自然とニヤつきそうになってしまう。もちろん病人の前だから表情には出さないけど、あらためて自分が“恋”をしてるのだと実感してしまう。惜しむらくはその相手が可能性絶無の人妻であることだが。
「すまない……会話に夢中になってしまって」
ベッドに仰向けになりながら、ミハイルさんが申し訳なさそうに謝罪する。なんであそこまで熱くなっていたのかは俺はわからないが、彼にとっては何か大事なことがあったのかもしれない。
「マリヤには言っておくから、居間でお茶でも飲んでいってくれ」
「え、さすがにこんな時間にお邪魔するわけには」
しかしミハイルさんは首を横に振る。テコでも俺を家まで帰さないつもりらしい。いや普通に徒歩15秒なんだけど。隣だし。アパートの外階段を上る時間を入れてもドアトゥドアで1分もかからない。もしかしたらロシアには「お世話になった知人を手ぶらで返してはいけない」みたいな風習があるかもしれないが、俺の脳裏にはもっと“別のこと”がよぎってしまう。
――お願いがある。うちの妻を、口説いてもらえないだろうか?
まさか口説けって言ってるの? この状況で? マリヤさんを?
いやいやいやありえないから。そんなことしたら俺が非常識すぎるし。明日だって仕事あるし。
しかしお茶を持って戻ってきたマリヤさんに、ご主人がロシア語で何かを告げると、人の良すぎるマリヤさんは、
「西村さん、せっかくだからお礼に夕食でも食べていってください。主人の看病でお夕飯食べてらっしゃらないんでしょう?」
本当にこの人は、相変わらず聖女すぎる。そんな奥さんを口説けなどというご主人の気がしれないが、折り悪く腹の虫が大きな音を立ててしまったので、俺は大人しくご厚意に甘えるしかなかったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「でも驚きました。まさか夫と西村さんが知り合いだったなんて。あの人、仕事以外ではほとんど書斎に籠もりっきりだから」
俺は結局、ペトロフスキー家(ペトロフスカヤ家?)の夕食にお呼ばれしていた。しかしそこにご主人の姿はなく、食卓にいるのは俺とマリヤさんの二人だけである。
なんとも不思議な光景。マリヤさんとの憧れの夫婦生活を疑似体験してると言えなくもないが、さすがに他所の家だし、何より目の前の聖女があまりにも美人すぎて緊張してしまう。しかも食卓に並べられた料理も見知らぬロシア料理ばかりで、正しい食べ方はおろかその名前すらもわからない。
「じ、実は今日初めてお話したんです。ご主人が僕のことを覚えてくださってて」
俺はありのままを話す。もちろん妻を口説いてくれ云々の話はオフレコで。てかこの人を口説けって無理だろ。美人すぎてあまりにも畏れ多いし、そもそも人妻なんだぞ。それに――。
聖女の手料理を前に、“料理以外のもの”に生唾を飲んでしまう。
食卓に腰掛けるマリヤさんは突然の訪問のせいもあり、ネグリジェ一枚とは言わないが寝間着姿だった。花柄のワンピース調のパジャマの上に、薄手のカーディガンを一枚だけ羽織っている。
しかしそのせいで、胸元のそれがいつもとは比べものにならないほど強調されていた。もちろん本人に強調する意図はないだろうが、これだけのサイズだと“勝手に”強調されてしまうものなのだろう。
単純に、重くないのだろうかと疑問に思ってしまうバスト。巨乳とかいうレベルじゃない。前にロシアの爆乳美女が出演するポルノビデオを見たことがあるが、まさにそれに匹敵する迫力だった。そしてボタンが閉まっているとはいえこのサイズだから、普段は絶対に見えないはずの胸の谷間が垣間見える。実はご主人を介抱するマリヤさんが屈んだ際に、そのとんでもなさすぎる巨乳胸チラを俺は思わず凝視してしまっていた。
(でかすぎんだろっ!!!)
というのが俺の素直な反応だった。
正直、カテゴリーが違う。日本人女性の「巨乳」と、白人女性の「巨乳」はまったくの別物だ。容積だけで言えば本当に三、四倍ある気がする。それだけの迫力の差がこの聖女の“お膨らみ”にはあったのだ。
こんな白人巨乳美女を口説くなんて、俺には無理。
というかこの状況で“勃たせない”ことだけでやっとである。マリヤさんのパジャマ姿エロすぎだろ。普通に今すぐ押し倒したいんだが。
「夫は日本だとあまり友達がいないんです。たまに学生の男の子たちを夕食に招待することはありますけど、同世代の人は全然。だから西村さんが夫のお友達になってくれると、妻としては安心できるんですけど」
「ははは……」
俺は笑って誤魔化すしかなかった。お友達どころかご主人には「うちの妻を口説いてくれ」とまで言われている。てか学生の「男の子たち」って……いや、さすがにそれはないよな。
「少し変わったご主人ですよね」
「変わり者ですよ。うちの夫は大学教授の中でもとくにそう。この前なんて大学の助教授さんたちを何人か家に連れてきて、宅飲みはいいんですけど、忘れ物したって言って、一人だけ大学に行っちゃったんですから」
呆れながら食卓に頬杖をつくマリヤさん。俺は「変わり者ですね」と笑って誤魔化すが、正直ひとつの“疑念”を拭いきれずにいた。
若い大学生の男の子たちを頻繁に夕食に招待する。
助教授数人(おそらく男だろう)と奥さんを残して一人だけ外出する。
俺はさりげなくリビングを見渡してみた。あくまでさりげなく、失礼のない範囲で。
幸い“それ”を見つけることはできなかったが、俺の中の疑念はまだ拭えない。
『私はその言葉で想像してしまった。まだ若い君と恋人同士になったマリヤが、毎晩のように――』
その続きはわからない。次の瞬間にご主人は倒れてしまったからだ。しかしご主人は想像したと言っていた。愛する妻と、赤の他人である俺との恋人生活を。
なんでそんなことを想像する必要がある。俺だったらそんなの絶対想像したくない。でも旦那さんは言った。うちの妻を“口説いて”ほしいと。
「ちょっとだけ夫の様子を見て来ますね」
マリヤさんが忙しなく席を立つ。そのはずみで大きく揺れたものは思わず二度見してしまったが、その隙に俺は席を立ち上がり、“それっぽい箇所”を探してみる。
いくつかの候補先を探して、そして見つけた。
テレビ台の上。録画用の外付けHDDを装っているが、明らかに一部“レンズ”らしきものが覗いている。
――隠しカメラ。
多分これの他にもあるだろう。家の中に“死角”を作らないように、至る所に張り巡らされている。
録画用なのか、リアルタイムで“中継”する用なのか、その両方なのかはわからない。でも間違いなく言えることは、この隠しカメラはご主人がマリヤさんを“監視”するために設置したものであるということだ。
愛する妻が浮気をしないか、見張るため。
だとしたら常軌を逸している。だが本当にそうか? この状況といい、大学生と助教授のことといい、ご主人はマリヤさんの浮気を防ぎたいんじゃなくて、
マリヤさんに、浮気“させたがってる”としか思えない。
そんな疑念が浮上してしまう。だって妻が他の男と一緒にいるのに、その間に職場なんて行くか?
ご主人の勤め先がどこかは知らないが、ここからは最寄りの大学でも往復一時間はかかる。そんな長時間、愛する妻と若い男を放置するか?
変わり者。
その言葉で済ませるのは、監視カメラはあまりにも生々しすぎる。だって今この瞬間すら、ご主人に監視されているかもしれないのだから。
過去に聞いたことがある。世の中には、愛する人を他の男に抱かせることに至上の興奮を覚える者がいると。
“寝取られ”性癖。または、“寝取らせ”性癖。
俺にはまったく理解できない。でもご主人のケースは、驚くほどそれに当てはまってしまう。
――そんなことして、俺が本当にマリヤさんのこと抱いちゃったらどうするんですか
ご主人がサウナでのぼせるほど会話に熱中してしまったのは、俺のあの言葉がきっかけだ。最初は単なるイタチっ屁というか、些細なプライドが動機だったけど、その言葉を合図にご主人はどんどん会話に熱を帯びさせていった。
――結婚はわからないけど、お付き合いぐらいにはしてたかもね
そして、かつての妻の言葉を回顧しながら、“反応”していた。ご主人の想像の中で俺とマリヤさんが“何を“していたのか、具体的にはわからない。でも概要くらいは、もう大人だからなんとなくわかってしまう。
「西村さん、すみません!」
マリヤさんがスリッパ音をパタパタと響かせながら寝室から戻ってきた。当然お胸の立派なものも揺らしながら。今さらだけどロシア夫婦の家庭なのに玄関では靴を脱ぐんだなと呑気なことを思っていたが、今考えると呑気すぎる話だ。マリヤさんが急いで戻ってきたということは、ミハイルさんの容態が急変した可能性だって考えられたのだから。
だがそれは取り越し苦労だった。ご主人が俺に話があるそうなので寝室に来てくれと言っているのだという。
よくわからないまま再度寝室に戻ると、ミハイルさんは思いのほか元気そうだった。そして上体だけをゆっくりと起こし、
「悪いが、私の書斎から物を取ってきてくれないか。二重式の本棚の奥にある。わからなければ“見てくる”だけでもいい」
「へ?」
いったい何のこっちゃと思った。当たり前だがそれを聞いたマリヤさんは「そんなの私が取ってくるのに」と文句を言っている。俺も同感だが、“変わり者”のミハイルさんはテコでも聞かなかった。
「ごめんなさいね……」
さっきから恐縮しっぱなしのマリヤさんをよそに、俺は「大丈夫ですよ」と二階にあるというミハイルさんの書斎に向かう。正直今夜はどんな雑用を頼まれようとマリヤさんのパジャマ姿だけで十分にお釣りが来る。むしろこっちがお金を払いたいくらいである。
階段を上って右に曲がって、突き当たりにある部屋。二階だけで五部屋くらいある。どんだけ大家族を想定してたんだよと思ったが、お金持ちが自分のお金をどう使おうが勝手なので構わない。それより今はご主人からの“指示”を遂行する。
なんとなく、本当になんとなくだが、ご主人の意図は感じ取れた。ミハイルさんは俺に何かを取ってきてもらいたいんじゃない。俺に見せたいものがあるのだ。
書斎のドアを開ける。電気を付けると、壁一面が本棚になった部屋があった。
さすがは大学教授の部屋。壁一面に書籍が敷き詰められている。背表紙が英語のものやロシア語(キリル文字?)のものもあるのでよくわからなかったが、日本語の文献も何冊もあって、「民俗学」とか「文化人類学」とかいう言葉が散見される。海外旅行のお土産は実益も兼ねてたんだなと思いつつ、俺はご主人が言っていた二重式の本棚を横にスライドした。
あった。
本棚一つ丸ごと、DVDやBDの背表紙が敷き詰められている。
こんなところに“隠されている”ことを考えると、つまりそういうことだろう。ここにあるのは、ミハイルさん秘蔵の“コレクションだ”。
あんな歳になって性欲は衰えないものなんだなと俺は非礼なことを思いつつ、そのうちに一つを引っ張り出す。ご主人が伝えたかった“意図”が、その表紙と文字列だけでなんとなくわかった。
【日本人が“パコる”】
【巨根日本男児で白人美女を征服し隊】
【白人巨乳美女喘がせ祭り】
パッケージには、日本人のAV男優が白人の巨乳美女と致す光景が印刷されていた。他のパッケージもそう。女優は全員が巨乳の白人女性だ。そして相手の男優は決まって日本人である。その手の映像作品としてはあまり売れ線ではない、いわゆるニッチジャンルだと思う。
おそらくこの一列が全部同じジャンル。視線を一段上げると、また別のジャンルらしき文字列が並んでいた。
【夫の前で腰を振られて】
【夫の上司に犯される妻】
【夫のいない間に輪○(まわ)されて喘ぐ巨乳人妻10選】
目がくらんだ。
つまり全部、“寝取られ”モノ。夫のいる奥さんが、望む望まないに関わらず、夫以外の男との性行為に励むものだ。中身の映像は見れられなくても、男子諸君は知っているように背表紙を見ればAVの内容はだいたいわかる。背表紙詐欺という言葉もあるから油断はできないけど、それは今重要じゃない。
さらに下の段に目をやると、一段目とだいたい同じだ。今度は中国人男性に白人のポルノ女優が犯されるDVDが並んでいる。しかもこれ、海外版だ。おそらく中国から直接仕入れている。
今さら疑いようがない。
これがご主人の伝えたかったこと。
ご主人の伝えたかった、妻には秘匿された“情報”。
……完全にクロだ。ご主人は、マリヤさんを他の男に“抱かせ”たがっている。
ご主人が多感な大学生男子たちを頻繁に自宅に招待するのも、部下である助教授たちを家に連れてくるのも、全部目的は同じ。“若い男”たちに奥さんを会わせるためだ。
そしてあわよくば、何か起これと思っている。監視カメラがそこらじゅうに張り巡らされていた自宅で、日本男児ならば誰もが垂涎の目で見るマリヤさんが夫のいない空間に放置されて、何かが起きないかどうか。
まったくもってバカげている。マリヤさんはあんなにも美人なのに。あんなにもご主人のことを愛しているのに。
だいたい、そんなことがあるわけがない。どんな状況があろうと、あのマリヤさんが、他の男に口説かれるなど。
でも、もしかしたら――。
俺の脳裏にあらぬ可能性がよぎる。だって彼女の意思は関係ない。もしマリヤさんがのっぴきならない状況に追い込まれて、無理やりそういうことをされそうになったら。
ご主人だったらまだいいんだ。夫なんだから。もしマリヤさんが旦那さんと激しいセックスをしたとしても、俺は断腸の思いで耐えられる。だって仕方ないから。夫婦とはそういうものだからだ。
でももし、“違う男”だったら。
たとえば大学の生徒たち。勝手に想像を補完してしまうが、もし屈強なラグビー部員たちがマリヤさんと家の中に放置され、劣情を抑えきれなくなったら――。
余裕でありうる話である。だって大人である俺がさっきは“ヤバかった”くらいなんだから。性欲という意味では猿にも等しい大学生たちが、マリヤさんを無理やり押し倒さないという保証がどこにある。
そう考えると、身震いがした。全身に鳥肌が立つのがわかる。そんなの許されるわけがない。絶対に許してはならない。
だが“あのご主人”と一緒にいたら、いつかそうなるかもしれない。性欲というのは底なしだ。どこかで箍が外れるかもしれない。マリヤさんが心に傷を追うようなことを、俺は黙って見過ごすわけにはいかない。
でもどうする? マリヤさんにこの本棚のことを伝えるか? そんなの絶対得策じゃない。もっと平和な方法があるはずだ。
俺が四六時中マリヤさんを見守る? そんなことはできない。俺だって社会人だ。平日は朝から夜まで仕事がある。
頭をフル稼働して考える。今決める必要はないかもしれないが、あの変わり者のご主人のことだ。俺が“使い物ににならない”とわかるとすぐさま次のターゲットに声を掛けてしまうかもしれない。それこそ俺よりも理性の効かない学生とか。
どうすればいい。他所様の家の、他人の書斎で頭を振り絞って考える。
俺は決して高学歴ではない。いわゆるFラン大の出身だ。ご主人のように理知的ではないし聡明でもない。こんな行動を取っているミハイルさんが果たして聡明かどうかは甚だ疑問だが、少なくとも俺の頭は大学教授になれるほど優れてない。
バカなりに考える。
マリヤさんが不幸にならない方法を。俺がつらい思いをしない方法を。
そんな必死の頭で思いついたのは、
「俺がマリヤさんを寝取るしかないじゃないか」
という、バカが一周回ったような結論だったのである。