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2022年 11月の記事 (28)

時 自若 2022/11/25 08:53

今生のローダンセ 第31話 今の好感度のまま、好感度ゼロ対応して!

「どうかしましたか?」
「あっ、マリちゃん」
「お帰りにならないので?」
「そうね…」
「お母様、お父様には連絡はもうしましたから」
パタパタ
そこに彼女の姿を必死に探す式神の姿が。
見つけなかればクビか焼き鳥の危機に。
「一度は戻ってくださいね」
「わかったわよ」
彼女はそこで姿を消すつもりでもあったらしい。

「俺の愛のために切られてくれ」
「こいつ意味わからん」
手配中の魔法使いの最後の言葉はそれだった。
その手続きが終わり、マリからの連絡で、電話しても繋がらず、そこで式神を頼んだ。
式神は見つけ出さなかったら、食われるという危機を感じながら急いで飛んできたという。
命の危機から抜け出した後、マリからもらったら木の実を止まり木の上で、ポリポリと美味しいそうに食べている。


「いやになったのか?俺のこと」
怒るでもなく悲しむでもなく、彼は最初にそう聞いた。
「それは…」
「今の好感度のまま、好感度ゼロ対応でいうと?」
「よーし、じゃあ一緒に地獄に行こうか」
「はい!」
「何を言わせるんだ」
そして男はときめいている。
(相変わらず仲がよろしい)
「そんなのやりたくないからに決まってるでしょうに」
「でも好感度ゼロならば」
「捨て駒させるしか使い道ないものね」
「結構ひどいことをいっているけども、安心するよ、なんというか、優しすぎてそういうのを感じれないのかと思ってるから」
「ここで別々の道を行った方が幸せよ」
「忘れて、毎日泣いてやる」
「うわぁぁぁ」
「俺の手を握り返すことに、そんなに躊躇いがあるのか」
「あるよ」
「そうか、じゃあ俺は握っていよう」
「離してよ」
「イヤ」
「子供みたいに」
「君はどうせこの苦悩でさえも解決する、その時共にいないことを後悔するだろうし、一生の傷にする気か?」
「傷になるの?」
「加害者はいつもそういう、恋の痛みは…」
「あなたは優しいだけ、いや、私に甘いだけなのよ」
「甘くて何が悪いんだ?」
「示しというものが」
「俺の素ってこっちだぞ」
「知ってる、だからこそだよ」
「…」
「…」
「俺の気持ちは変わらない、むしろいない時はお前のことを考えてばかりだ、とりあえず運命を定めた神がいるならば切らなきゃなって思って」
「はっ?」
「いや、そりゃあ切るだろう、生涯の目標にしてた」
「いやいや、そんなことしなくても」
「十分だろ、俺から好きなものを奪うということは」
「駄々こねてもさ」
「駄々じゃないもの」
「この辺が駄々でしょうが」
「ラブだもん」
「まあ、感謝はしてる」
「お二人とも、寒くなって参りましたので、どうぞ室内へ、談話室をお使いください」

『あっはい』

「体、大丈夫じゃないのか」
「業を断ち切ったらなんかあるとは思っていたけども、結構持っていかれたわ、でもまあ、このぐらいなら」
ヒョイ
「えっ?」
「すまんが、布団を、妻が体を冷やしていてな」
「かしこまりました」
「妻じゃないよ」
「ま・だ・な」
減らず口というやつである。
「重いだろ」
「このぐらいは持てるぞ、試し石はもっと重い」
流派の高弟になるときに持ち上げる石。
「あれと一緒にされても困る」
「鍛えているから大丈夫さ、まあ、これからパパ修行もしなければならないと思ってる」
「パパ修行?」
「立派なお父さんになるための修行だ、奥さんだけの負担にならないような家庭生活を営むために」
「あっ、誰かと結婚するんだ、おめでとう」
「お前と結婚するんだよ」
「いいよ、そういうのは」
「嫌なのか」
「まっ、そうだね、結婚するとなると勝手が違うし、こう見えて我慢が好きじゃないんだ」
「そのわりには夜は」
「まあ、あなたは信頼おけるからな…ただまあ、結婚するならちゃんと奥さん大事にしなさいよ」
「はい、いや、お前だよ、奥さん」
「あなたと結婚すると揉めるしな」
「揉めごとがないならしてくれますか?」
「それはあなたが剣を捨てるぐらいの」
「お世話になったな、だが家庭円満のためには…」
「おい、やめろ、剣が泣く」
「いや、長い付き合いだし、わかってくれるんじゃないか?」
「バーカ、んなわけあるか、今あるもの大事にしろよ」
「本当にわかれるつもり、いや、相討ち覚悟で生きてたんだな」
「そうだね、あなたの愛はとても良かった」
「だからなんでそう別れの挨拶みたいなんだよ」
「ここで寝たら、そのままになりそうで」
「布団をお持ちしました、お医者様も呼びますから、寝かせてください」

「うん、健康だね、気落ちはあるから、ええっと旦那さん、このまま大事にしてあげてください」
「わかりました」
「あれ?健康、あんなに苦しんでいたのに、健康?健康ってなんだっけ?」
「リハビリだな、しっかり食べて、運動して、体を作っていかなければならない」
「なんでそうやる気なのよ」
「希望があるからだ、俺じゃどうしようもならないことが解決したから」
「ねえ、なんでさ、そんなに悲しそうな顔するのさ」
「悲しかったさ、悔しかったさ、俺じゃ助けることができないことが」
「そこまで悔しがることはないんじゃない?」
「好きな人が苦しんでいて、何とかしたいのに、どうにもならないよってずっと言われてたんだよ、それでも諦めなかったんだけども、俺が見つかる前に君が自分で何とかしてしまった、情けない俺」
「情けなくはないわよ、ごめんね、心配かけた、もう心配しなくていいから」
「野に帰れみたいに言われてもさ、嫌だよ、ずっと君のそばにいる」
「寿命来たらどうせ離れることになる」
「その間、共にいたことを無駄だとは思わない」
「思い出だけでお腹いっぱいよ」
「もっともっと幸せはあるんだよ」
「知るか」
(勝った)
ゴロゴロゴロ
甘えてきたが、彼は彼で疲れていたようで、彼女はそこで寝顔を見守ったいたのだが。
(はっ、いけない、情に絆されるところだった)
何かに気付いたのを察知した辺りで、彼は彼女のを手を握り、抱き寄せた。
「もう離してあげない」
「どうせ飽きるに決まってる」
しばらく二人にしてくれと、談話室受け付けに連絡が来るのはすぐ後のこととなる。

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時 自若 2022/11/23 21:35

今生のローダンセ 第30話 泰山バルヴェニー

彼女は一人、カートにお酒をつけて向かう場所がある。
中の島、神域。
「人霊なのによくやるな」
「ほら、油断するから、痛いの食らった」
こちらにおられますわ、この辺りの神である。
「失礼いたします」
「おお、これは、どうした?」
「美味しいお酒が出来ましたとありましたので、皆様に飲んでいただこうかと」
「感心、感心」
「懐かしい匂いがしておる」
「はい、最近では作られなくなったお酒の復刻だそうでして」
「酌はいらぬぞ、こういうときは手酌が良い」
瓶を並べていく。
「何種類か混ざっているのが心憎い」
「花のように香る酒はないか、今度川の精霊と飲みたくてな」
「ではこちらなんかどうでしょうか」
「おお、これは良い、三合瓶をもらおうか」
「わかりました」
「あまりこの娘をこちらに置くと亭主どのに怒られるでな」
「血錆を塗って切りつけに来るぞ」
「あ~怖いな」
「それで私めの業は今どのような」
「完全に余興と化してますよ」
「マリちゃん!」
「私のもてなしよりも、拳をくれてやると皆様が言われまして、それこそ、私がお相手をしている間に、お酒を献上したために、他の方々が興味を持ちましたので」

やけにいい匂いがする。
いい酒だな。

匂いでこの辺りの神々を酔わせ。
そこで紫陽花の精であるマリはいう。
「このお酒はあの人霊を閉じ込めてくれたということで、お礼としてもって参られました、お分けしてもよろしいのですが、代わりにあの人霊をここに縛り付けてください」
「よしわかった、俺が縛り付けてやろう」
紫陽花が風もないのに一輪揺れた。
「お酒を持ってこられた方のもとに、私の株分けをしたのですが、これからお酒を持ってくるといっておられます、株分けをした『うらく』からの連絡で、これまた美味しいお酒であるといっております」
「それはいいのぅ」
「どこの酒じゃ」
「それは来てからのお楽しみということで」
「憎いのぅ、憎いのぅ、つまりあれか、その人間は、あの業をこちらで相手していれば、ずっと酒を持ってきてくれるということか」
「ずっとは人ですから、それでも感謝し続けることは間違いありません」
「それもいいな」
そしてこの後、彼女は義理の兄弟姉妹と共に、国内外の銘酒を持ってきたのである。
「紫陽花の精よ、お主に奉られたその酒分けてくれぬか」
「匂いだけで我慢するのは」
「よろしいですが、それではお約束を、油断はあるかもしれませんが、ここからあれを出さぬこと」
「誓うぞ、もしも出たのならば追いかけよう」
そう約束した神に『蒼穹の雨』というワインを一本渡した。
「なんだこれ、葡萄の酒など酸っぱいと思ったのに」
「俺も誓うぞ、あやつが消えぬかぎり、睨みをきかせよう」
そこで泰山バルヴェニーというウィスキーを渡した。
あれだけあった酒もこうして、色んな神々の手に渡り。
「どのぐらい約束は果たしてくれるかはわかりませんが、何しろ神ですから、何日かでは気が変わりませんし、美味しいお酒をまた用意してくれれば…何故に泣いているんです?」
「ごめんね、自分の人生、もう諦めていたから、ここでなんとかなるって思わなかったのよ」
彼女は泣いたが、その意味が紫陽花の精が話を聞いてもわからずにいた。

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時 自若 2022/11/23 06:51

今生のローダンセ第29話 浄霊で町おこし

「ようこそ、おいでくださいました、私はこの屋敷を任されたものでございます」
美しい女性だ、主人は彼女をマリと呼んでいた。
「あらあら、行けませんわ、お客様、恨み辛みで撒き散らかしたままではありませんか」
するとどうだろうか、屋敷の内部が上下左右が歪んでいく。
「ご主人様が長らく訪れず、来訪してくださったお客様はとても良いかたでした、そのお方を追ってこちらにやってこられたのですね」
ふっふっと彼女は笑った。
「お仕事しなくてはいけません、招かれざるもののお相手をするのは久しぶりではありますが、根競べと参りましょうか」

「えっ?マリちゃんが、そんなことしてるの」
「はい、マリお姉さまからの連絡で、あとはこちらで何とかすると」
「…」
「どうかなさいましたか?」
「こんな方法で長年のものが解決するとは思わなかったんだけども」
「喜ばしいことでは」
「それはそうなんだけどもさ」
観光、彼氏がゾンビ退治のお仕事の後にデートしたいと行ったので、観光地にいきましたら、歴史ある建物に足を踏み込んだところ、その建物を守るマリという女性に出会う。
彼女はその屋敷の紫陽花、そのマリをマリお姉さまと呼ぶのは、株分けされ、彼氏の屋敷に植えられた紫陽花の「うらく」である。
「どうしよう、これ」
「招かれざる客を排除するのは、屋敷のものとして当然です」
「それはそうなんだけどもさ」
「ただいま」
「ああ、お帰りなさい」
「お帰りなさいませ、旦那様」
「うらくちゃん、いつも手伝ってくれてありがとう」
そういってお菓子をくれた。
「ありがとうございます、あの奥さまの業なのですが、マリお姉さまが今お屋敷で相手にされておりまして」
「ん?それは」
「これで頭を悩ませることはありませんね」
「えっ?えっ?それでいいのか?なんとかなるのか?」
「なんとかなればいいんだけども」
「なりますよ、絶対」
「こういうのは勝負がつくまでわからんからな」
「確かにそうなのですが、あの地の、地脈からも力を借りてますから」
「そうなるとどうなるんだ?」
「地脈だと、それこそ業の人霊は相手にするのは向こうの土地ってことになるわね」
簡単に図にしてみる。
「人霊由来ともなると、神格持ってない場合は、地脈相手では分が悪いな」
「逆に飲み込んで大蛇になるとか、悪い例もあるんだけども」
「水蛇となった場合は、矢で頭を射抜くそうです」
「射抜くのもマリちゃん?」
「いえ、あそこには神社があります、二手の社が、神事として弓の名手が毎年選ばれます、お祭りでは水蛇に見立てたものを撃ち抜いて、毎年盛り上がりますね」
「これ、本当にどうしたらいいんだろう」
「結果はいつわかるんだ」
「人間の感覚では計れないと思います、明日かもしれませんし、100年後かもしれません」
「マリちゃんが負けるとは思わないけども、怖いかな」
「何がだ?」
「負けたときにどうなっているのか、さらに恨みを重ねて、その時私は飲まれてしまうのか」
「それは考えすぎでは」
「ああ、ごめん」
「いや、こいつはそれだけ苦しんだから、怖いんだよ」
「怖いですか…」
「それはあるわね、とても怖いわ、自分の人生をめちゃくちゃにしてくれたものが、一旦は離れているのでしょうけども、もしもの場合がとても怖い」
「だから人を寄せ付けず、一人で死んでしまえばいいとか思ってるんだぞ」
「それは…どうしましょう、決着をつける、マリお姉さまじゃなくてもいいから、誰かが討ち取った方が安心するのですかね」
「安心はする、安心はするんだけどもね、怖いね」
「同じ言葉繰り返すときは、本当に怖い、不安なんだ、あれは何をするかわからない怖さと力がある」
「それは何としても吊し上げなければ…」
「吊し上げれるのならば、吊し上げてたさ、それが私ではできなかったから、苦しんだ、あれはそんなんだ」
「あの地域の他に暇しているものもみな、手伝ってはくれてはいるのですが」
「本当に嫌なのは、私が不安だと思えばそれも喜び力を増す、あなたたちが負けるのは嫌なんだけども、一番の敵は己の心にあるんだが」
「そこも俺の愛の力で大分ましになったぞ」
「さすがです、旦那様」
「自己嫌悪、後悔、そこら辺は本当に辛いものがある」
「昔ご主人様もそれらを抱えておりました、酒を浴びるほど飲んでおりましたし、それに比べると奥さまは健康的だと思います」
「そうなの?」
「酒に溺れるというのは大いな、理不尽さに耐えられないのだ」
「理不尽さは、確かに世の中にあるでしょうが、そこまで絶望することはないとは思う」
「強いですね、奥さまは」
「そうなの?そこは感心しちゃうの?それぐらいも出来なければダメだよねじゃないの」
「それは誰が言ってたんだ」
「えっ?うちの…あれ?あれ?」
「なるほど大分根っこは深いようだ」
「これはいけませんね、家族のことになるとどんなに悪でも慈悲深く接してしまうのは奥さまの悪いところどはないでしょうか」
「それは…あるな、ただこの辺は難しいんだ、俺は家族とはそうじゃないからかもしれないが」
「ああ、うちの主人は骨肉の争いの唯一の癒しがあの庵でしたから」
「そういえばそういう説明はパンフレットに載っていたな、そこから連休などではお茶会が開かれていたりするとかも」
「お抹茶お菓子がついて500円ですよ」
色んな流派のかたが持ち回りで開催してくれます。
「とりあえずゆっくり休ませて、いきなり業の相手をしてるから、私のところに向かってこなくなりましたって言われても、話についていけないから」
「それじゃあ、ゆっくりするか」
「旦那様も奥さまもご休憩ですね、後はこちらで片付けておきますからごゆっくり」
その観光地で手が空いてるものが、順繰りに当番と称して相手をしているというのだが。
「不安か?」
「まあね」
男に体を預けた後でも心の暗雲は消えず。
「じゃあ、そうだな…こういうときは、勝てるように勝ちに続くようなことをすればいい」
「後方支援ですか」
「そうだ、まあ、あそこの地域はそれこそ酔っぱらいのあしらいが上手いような地域だし、それこそ戦闘になってもいいというのならば容赦ないと思うぞ」

人霊と聞きましたが、これはこれはなかなかに面白い。
ここは湯が出る中の島、確かに歴史は浅いですが、人の汚れを流してた地であります。

「なんで浄化、清霊が町おこしになるんじゃねえから、頑張るかみたいになってるんだろ」
需要があると見たので、主人もお客もいない人を守るための善意を持つ種族が、彼女の業の相手をし始めた。
「これは…奉らないと、まずは義実家に報告かな」
彼女の想像もしない方向へ事は進んでいるようです。

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時 自若 2022/11/21 17:40

今生のローダンセ 第28話 へぇ~こんなんで気持ちよくなっちゃうんだ

じ~
彼女は彼の耳を見る。
「なんだ?」
「奥がいい感じで溜まってそう」
「そうか?」
「そうだよ、まあ、たぶん、勘だけどもね」
視線は耳に集まる。
(耳か…)
「後で綿棒で掃除するといいんじゃない?」
「耳掃除なんかはしてくれないのか?」
「あら、してもいいの?」
なんだろう、ここでゾクゾクっとしたものを感じた。
いいな、彼女にしてもらえたら、パリ、パリっと音が耳の中からしたら、さぞかし気持ちよかろう。
ニコッ
「はい、動いちゃダメよ、まずは耳の中を見させてね」
綿棒が、耳の外側を撫でると。
「やっぱり中も綺麗にした方がいいわね」
耳の中に綿棒が入ってきた。
最初はくすぐるように、しかし、何かを見つけたのか、拭き取るようになっていく。
「汚れだけじゃなくて、抜け毛もたくさんね」
(あっ)
耳の中に進むときは慎重というか、もどかしいのに、耳から去るときはもっといてほしいと思うぐらいさっさっといなくなる。
「あまり深くはやらないけども、耳かきをしましょう、綿棒だとちょっととれないわ」
そういいながらも、耳の中を丹念というか、これは性格なんだろう
(あっ)
耳かきをされると動いてしまいそうなそんな部分を見つけると、ニコッと一度微笑みを浮かべてから、同じ場所を掃除してくる。
(こういうSっ気って最高じゃありません?)
これは本当に誰にも言えないような嗜好である。
モゾッ
耳の中で音がした。
これは大きいのがある。
カリ…カリ…
勢いをつけて往復はせずに、あくまで竹の耳かきで削れるような、そんな力加減。
匙では垢をとらずに、綿棒で絡めとると、脱け殻のようなものが綿棒についていた。
「はい、お仕舞い」
「もっと深いところやってくれてもいいんだがな」
「そこまでなると私が怖いわよ」


「そういうことあったの覚えてる?」
「ええ、むしろあなたの方こそ覚えていただなんて」
「髪を切る際に耳掃除はしてもらっていたが、また、その~やってほしいなって」
「どれどれ」
耳の中を見られる。
ふぅ~
「あっ!」
息を吹き掛けられた。
「エッチな耳して」
「エッチじゃないよ、吐息かける方がエッチでしょうが」
「へぇ、こんなんで気持ちよくなっちゃうんだ」
なります!
なれます!
だから続きをお願いします!

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時 自若 2022/11/20 09:23

今生のローダンセ第27話 そこから夜を過ごすことになる

もしも十年近い別れがなかったらどうなっていたか。
「おはよう」
「あっ、おはようございます」
同じ屋根の下で再び生活は始めたのだが、何故か今朝は余所余所しいところがある。
「俺は何をやればいい?手伝うぞ」
「温めるだけですから、ああそうですね、お茶お願いします」
「わかった」
普通の朝ではあるが、男の心は色んなものが渦巻く…
彼女は最後に自分が消えてしまえば、全てが丸く収まるという考えを持っていたこと。
(だから未練も一つずつ切ってか)
そのために人からの優しさも断っていたところがあるのだが。
(あれ、それじゃあ、俺がく、口説いたときなんで)
口説いたとまとめたが、もう距離をつめるためにあれやこれやの行動その他すべて入れてのあれである。
思えばなんであんなに行動力があったのだろうか。
逃しはしない、逃したくはない、でも彼女は獲物などではない。
自分が剣を振り回して追いかけるわけではないのだが。
この男自分では気づいてはないかもしれないが、最初の方から怖くないよ、怖くないよと腹を見せる、あれだ、猫がごろんと転がって敵意はありませんとするやつ、ああいう動きをした。
彼は子供相手でも目線を下にして話をしていくのに、彼女の時はごろんと転がり、どや?なのである。
「そうですね、武器持っている方の中には、話を聞いてくれないかたもいますからね、話を聞いてくれるなら、毎回その人の方が話は早いですから」
「俺のこと最初はどう思っていたんだ?」
「儀礼通りに納刀してましたから、そういうのにはうるさいんだろうな、後珍しいですからね」
「あの刀納めは意味があるんだよ、なんだかんだで命を奪っているから、そこに儀礼を通すと精神的な磨耗しにくくなると、簡易礼でもみんなすればいいのにな」
これを重要に見てないと、そのまま酒や女遊びに行くのだが。
「精神を落ち着かせていかないと、失敗するから」
「そういうときは格好いいんですがね」
「もっと言って!」
「ええ、納刀の邪魔になるじゃないですか」
「それはそれ、これはたぶんこれ」
距離が近づくたびに、世間のイメージよりも子供っぽいところがわかる。
「イエーイ、おっぱいバブバブタイム」
「しません」
昨日も大変だったらしい。
「まあ、俺はお疲れ様でしたって帰れる仕事だが、依頼人はありがとうございましたって言った後からが忙しいからな」
「そこで忙しくないと、失ったぶんは取り戻すのは大変に難しいものですよ」
「そうか」
「はい」
「一緒の仕事を何回かしたけども、そういう感じだから、ラッキーとは思いつつも、食事にも誘えなかったからな」
「あれは慣れないところにいるから、気を使ったんじゃ」
「…それもあるが、話してると面白くてな、話す時間はいくらあっても足りないし、電話ひとつで舞い上がってたぞ」
「そこまで」
「電話のプラン変えたぐらい」
「いつの間に」
「まあ、あんまり使わなかったけどもね」
「初めてこの家を訪ねてきてから、暮らすの早かったもあるかな」
「古い家とかダメじゃないの?」
「きちんと手入れされているのならばすごいわよ」
「俺の力だけじゃないんだよ、俺だけじゃ出来ないし、けども、教えてもらったりするおかげで、一人でもできないこと減るし、仕事でな、家屋の破損なども起きたりするから、そういう手伝いなんかもできるしさ」
頭をかきながら話してくれる。
「ただその生活技能面では君の方が上だと思う」
砂利に絡まる落ち葉を、毛足の短いブラシを使ってかき集めていた。
「あれ、滅茶苦茶に早いよね」
「そうね、市販のブラシだと砂利まで巻き込むのよね。でもまあ、そういう問題があっても、どうやって解決していこうか、手早くやるかが大事なのであって、あなたでもできるわよ」
「君が思っているよりも、君の存在は大きいんだ、それがわかってほしいし、その証拠に俺は君が帰ってくるまでたまに泣いてた」
「新しい恋、出会いを探しにはいかなかったの?」
「君を忘れる恋なんてあると思う?」
「あると思うよ」
さすがにそう切り返されビックリするが。
「じゃあ、恋愛の達人に質問します、次の恋はどうやったら見つかるんですか?」
「そうね、諦めていたのよね」
「何を」
「全部、自分にはもうみんな、可能性というものがないと、そこまで折れたのはあなたと会ってからしばらくしてからだったわね」
「そんなことがあったの」
「耳鳴りかなって思ったら、そうではないと、病気ではないと言われてね、業は自分から不幸を招いているのに、決して自分が原因ではないと思っている、とんでもない存在なんだもん、あれは刺し違えてでもなんとかしないとって」
「それがどう変わったの?」
「最近よ、あなたが喪失感を知ってしまっていた、それがあればおそらく業は目をつけないだろうなとか思ったから」
血生臭く喪失感を纏えば業は同類だと思うのか、それともそういう相手は面白くないからよそに行くのか。
「愛とは本当に難しい、優しいあなたの手さえも困惑してしまう」
「詩人か何かか?」
「そのつもりはないんだけどもね、あれを止めなければ、あそこが原因で何かは傷つけられ、汚されるのは目に見えていたから、決定的な抑止力が見つかるか、見つからなければこのまま死ぬまで我慢かなってさ」
「何その人生」
「否定されても私の人生ってそうよ」
「じゃあ、俺のこと嫌い?」
「幸せになってね、私はなれないから」
「今日はどこ行く?家電量販店とか見たいんだけども」
「話聞いてる?」
「聞いてるさ、その上で言ってる」
「ああ、そうね、何か買うものあったの?」

現実を見てないわけではなかった。
ただ彼女を支える必要を感じている。

「一人でいるはずだったっていうなら、孤独であることに寂しいなんて顔するなよ…」

出会った当時の彼女は強い意思を持っている人だと思っていたんだ。
誰かがやらなければならないことを先回りして、止めにはいる。
そこに魅力を感じていたけども。

「救援は?」
「要請はしてますが」
「とりあえず離脱するぞ」
「はい」
要請はしても、出動はせず、彼が改めて要請して、やっと動くような仕事ばかりをしていた。
「あれは自分ならば無傷でやりとげれるからってことなんだが、見ている方の心は抉るわけよ、しかも内緒で動いてたか、すまないがもし見かけたら助けてやってくれないか」
「わかりました」
報告したところ義父からそういわれた。
「はっ、これは義父さんからの公認ってこと」
あわあわあわあわ
「末長くお願いします」
「えっ?あっ、すいません、よろしくお願いします」
ここから二人の時間は増え、どこかに出掛けたり、映画を見に行ったり。
「この人ならいっか、そう思ってくれたのが見えたので、次のステージに進むことにしました」
そこから夜も過ごすことになる

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