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2022年 09月の記事 (68)

遠蛮亭 2022/09/28 07:12

22-09-28.くろてん2幕4章5話.魔人の慈悲

おはようございます!
おとといから体調が悪く、一応いろいろ進めてはおりますが進みが遅いです。ゲーム制作の方はプラグインが8/31のものだと使えるけど9-13のものだとエラーが出るとかありましてまた滞りますし。まあ今やるべきことは脚本小説執筆。まずは「日之宮の齋王」、たぶん15話くらいで完了すると思いますが、これを完成させること。くろてんは脚本できてますからシステムができあがって絵が揃えば問題なしですからしばらく放置として、おまつりSLGの脚本小説も書かないといけません。その合間でくろてんと、くろてん完結後の他のアルティミシア九国史…。やること広げすぎですかね?

さておきまして、今日のお絵描き。

瑞穂さんパイズリフェラ。最近パイフェラ絵何度か書きましたけども、たぶんこれが一番うまく行った感じ。あとは広輪さまに托します。

表情差分、ドヤ。

ウィンク。

泣き顔鼻筋延ばし。

以上です! それでは今日のくろてん。どちらかというとここ(Ci-en)では「齋王」のほうが受けそうなのでそっちを頑張りたいのですが、今日書けるかどうか怪しいところ。

‥‥‥…………
黒き翼の大天使.2幕4章5話.魔人の慈悲

 ビシィ!

 拳、交錯。

 拳速ではやや辰馬、しかし拳技の練りは明らかに、五十六に分があった。

 このジジイ、やっぱ強えぇ……。

 そう思わざるを得ない。なにが凄いと言って粘勁《ねんけい》の巧緻。実際密着し貼り付いての粘勁ではなく、絶妙のポジショニングによってこちらの力を巧みに殺し、自分の一撃の威力を高めてくる。

 そして、わずかでも間が離れれば。

「ぬぅん!」

 必殺の空間削撃。これが、とっくに魔王化している今の辰馬の障壁結界、それを簡単に突き抜ける威力。はっきり言って天津甕星《アマツミカボシ》を降ろした神月五十六という男は尋常ではない。それこそまさに魔王格と言ってしまっていいだけの実力と、そして実力をさらに底上げする技量を持ち合わせている。辟易するほどの相手だが、今の辰馬にとっては望むところ。この男を倒せれば、まず少なくともオリエには勝てるという確信がある。

 まあ、勝てれば、なのだが。

「お前らぼけーっと見てんな! おれだけ戦わせてどーすんだ!」
「いや、でも……」
「レベル違いすぎるっつーか……」
「正直、足手まといにしかならんでゴザルよ~……」
「んなことねーから安心しろ! お前らは十分、強い!」

 辰馬ががなるようにして吼えると、大輔たちも意を決して戦線に参加。大輔は大砲の如き「虎食み」の一撃を、シンタは砕波の紫電一閃。出水は足下に泥濘《でいねい》を喚んで動きをわずかでも阻害しつつ、五十六とミカボシのリンクを断とうとするが三者とも、それらの攻撃は軽くはじかれる。

 しかし注意力を一瞬、逸らすには十分。

 辰馬が踏み込む。

 まずは右フック、これは軽くいなされる。いなされるのは織り込み済みで、相手が受けたそこを起点に次の打撃を乗せる。左ストレート。五十六は首を軽く傾けて回避。辰馬は打ち込んだ腕を鉄槌にして、横凪ぎに払いさらに頭部狙い。辟易した五十六は固い額でそれを受け止めつつ、膝蹴りで辰馬との間を離そうとするが、これこそ辰馬の狙い。

 とびだした膝を抱え込むようにして、素速く関節を決め、横倒しにひねり、回転しながらみ倒れて膝をねじり上げる。わかりやすくプロレス技で言うならばDDD。ただこの国のプロレス界にまだそんな技の使い手はいないので、辰馬の独創ということになるが。先日の覇城瀬名との一閃で「まあ、打撃技が華拳繍腿《かけんしゅうたい》ってのもあながち、ではあるよなぁ……」と関節を鍛え直した成果。

 一撃で膝を破壊……の筈であり、まず五十六が怪物であってもこれは必殺、のつもりだったが。

「なかなかやる。だが、ワシの本職を忘れて貰っては困るな……」

 ぽぅ、と淡く暖かな光。異界からの神の力を借りた、瞬時にして絶無の治癒。ヒノミヤ神官長+荒神にとって、即死でなければまずほとんどの傷は傷にあたらない。しかも○問に対して見せた痛みへの耐性からして、痛みによる集中力の低下もほとんど見込めないという完璧ぶり。この壁を越えるのはあまりにも難しい。

「……まぁ、そーでないと困る。あんまし簡単に勝てちゃあ修行にならんし」
「ほぅ。そうか……ではこれも、修行だ!」

 五十六は巨蛇《きょだ》のごとき空間削撃の技を、同時に7つ、一斉に放つ、それはまさしく伝承に言う八岐大蛇《ヤマタノオロチ》が、一度に首をもたげて得物を狩るがごとく!

 辰馬も魔王の霊威を全開にする。12枚の光の羽根は熾《も》えるがごとく。全身を金銀黒白の盈力が鎧となって護る。それでもしかし及ばない、届かない。7頭の巨蛇は辰馬の障壁結界を、着実に、むさぼるように食い破って進む。

 しかしこのとき、流石に五十六の集中は辰馬のみに向いており。

 三バカたちの動向に気づくということがなかった。

「うらぁ!」

 シーフの得意技、物陰からの一撃《バックスタブ》! チンピラのように腰だめの耐性からダガーを突き刺して、そして砕破を炸裂させる!

 それだけで終わらない。わずかにかしいだ五十六を、巨大な虎口《ここう》の闘気が飲み込み、かみ砕く。もちろんこれは大輔の虎食み。

 さらに、出水の「八卦石陣」。忽然《こつぜん》、現れた石柱が、忽《たちま》ちに五十六《いそろく》を飲み込んで動きを封殺。これを破られる前にと大輔、シンタは一気呵成の猛攻をかける。

「ボコボコにしたるぁあ!」
「打ち抜けえぇっ!」

 嵐のような乱打。まさか五十六も出水程度の術者に石化などと言う超高等魔術が使えると思っていなかったから、完全に油断があった。そしてこの二人の打撃力! 一発一発の重さなら、新羅辰馬に負けていない。

 面白い。

 ヌン、と気合いを込めるや、あっさり石化が解ける。それでもやはり肉体へのダメージは蓄積させれているし、二度も再生の時間を待ってやるほど、辰馬たちはお人好しではない。天桜を抜いて7首大蛇を切り伏せた辰馬も、五十六に躍りかかる!

 それを、空間削撃をまとった腕でパァリング《受け》の五十六。あまりに鮮やかな手並み。そしてまとうものがものだけに、打ち込んだ辰馬たちの腕が逆に、血しぶきを上げることになる。

「っ……!」
「お前たちの中で治癒魔術の使い手は、お前一人か……それもさして得意ではない。となるとこれで勝敗、決したか?」

 弄《いら》って嗤《わら》う。

「ばかたれ、この程度……って……」

 虚勢を張って立つも、ふらつく。おもに手首……動脈からの大量失血だ。この時点ですでに意識も命も危ない。しかも治癒術を使う時間は与えてもらえないっぽい。状況は非常に、分が悪いと言わざるを得ない。

 ばさ、と。

 制服の袖を切って束にし、手首に巻き付ける。即席の包帯。本物の包帯ほどの止血力はどうあってものぞめないが、仕方ない。ないよりはマシ。

 辰馬がやるのを見て、大輔とシンタも同じように服を裂き、傷に巻く。出水だけは近接戦闘型でないために傷を受けておらず、その必要がないが。

 今、出水は慚愧の念に駆られている。自分がちゃんと、敷かれたレール通りの人生を送って神官としての修行を続けていれば、ここで辰馬たちの傷を癒やせるのにと。

 だが今それを言っても詮無きこと。とにかく手持ちの戦力で戦うしかなく、それは辰馬の好きな将棋とおなじ事だ。不利なら不利なりの戦い方をするまで。

 とはいえ……実力上手の相手からああいう戦い方をされるとな……。

 五十六はまったく油断も慢心もしていない。どう戦えば確実に辰馬たちを追い詰め、確実に倒せるか。それを冷静冷徹に考え抜き、着実に最適解を選択している。対する辰馬はどうかというと、最適解を導く「観自在法」これがあるはずなのになかなか、上手く働いてくれていない。いや、むしろ最適解の行動を取った上でこの実力差か。

「どーします、新羅さん?」
「もうこーなったらどんな命令でも聞くッスよ、偏将《へんしょう》?」
「確かに、死ぬらなら主様《ぬしさま》のご下命で散りたいでゴザルなぁ……」
「ちょい待て、考える。30秒、どーにか時間稼いでくれ、頼んだ!」

 辰馬が頭を下げる。それに三人は一瞬、あっけにとられ、そして破顔する。

「辰馬サンに頭下げられちゃーねぇ……気張るか!」
「「応ッ!」」

 三人は一斉、五十六へと挑みかかる。蹴散らされ、蹴散らされても、泥臭くしぶとく執念深く、ひたすらに食い下がる。

 その間、辰馬は頭をフル回転させる。いつもの兵法練談なら2分だが、今回はそれを30秒でやる必要がある。それも、素人の辰馬が。

 まず、五十六の武器は空間削撃と能力模倣《のうりょくもほう》、そして収奪《しゅうだつ》能力。模倣はこっちが奥の手出したときに使うつもりなのかも知れんが、収奪を使わないのはなんでだ……? なんのかんのでアレを使えば簡単に勝てるはず。いまこっちに解呪能力者もおらんわけだし……実は負けたい? このジジイが? なんか腑に落ちないが、そう考えるほかにない……。と、いうことは空間削撃を破ってみろ、ってことか? だとするなら……隔離世結界で空間削撃の「空間」を包む……?

 30秒でここまで考えると、天才はあっても蓋世の天才ではない辰馬はかなり疲れる。しかし予測したとおりならば、五十六は空間削撃という力を破らせることで辰馬たちに新しい戦い方を教えようとしていることになる。

 それなら応えなくてはなるまい。いつも使い慣れたものではない、初めてバイパスをつなぐ神が相手であり、しかも辰馬が魔王という、神に仇なす存在であるがゆえにつなぐのは難しいが、それでもやるしかない。

「空《アーカーシャ》を支配せし、天なる父、汝の名ディヤウス。また蒼穹《そうきゅう》の主なる、天雷司る魔神殺しの武神、金剛杵に索《さく=投網》を持ちたるはインドラ。水天にして法の守護者、咎人戒めるヴァルナ。そして天の網もて全ての罪人を裁くは、原初の人にして閻魔天ヤマ! 貴公ら4天に誓願《せいがん》奉る! 貴公ら悉《ことごと》く裁きの投網持たれる4柱、我が前に立つ敵の持物《じぶつ》を縛り、姦悪を裁かれんことを!」

 長い神讃。4柱の神に誓願する=四重詠唱。辰馬の叫びに応じて、空が歪む。歪んだ空は収束して二カ所、五十六の両手首にまとわりつき、そして空間削撃という能力を完全に封じ込める。

 五十六が、薄くフ、と笑った……ような気がした。

 だがここは問い詰める場ではない。辰馬が、珍しく無構えではなく構えを取る。新羅江南流の入門者が最初に教わる構え。辰馬のレベルに達せばもはや構えは動きの自由性を阻害するものでしかないが、今の、失血激しい辰馬には無構えから鋭敏に、が不可能……それともう一つ言うのなら、敬意を表するという意味もあり、あえて構えた。

「来い、小僧!」
「そろそろ退場しろや、ジジイ!」

 打撃の応酬。速力もキレも落ちている辰馬に、五十六はなお余力十分。なにせ力のひとつを封殺されただけでしかない、まだまだ十分に力はある、が。

 その足に腰に、出水と大輔とシンタが組み付く。まるでラグビーのスクラムのように。

「漢同士の一騎打ちに、水を差すな!」

 弾き飛ばす。弾き飛ばしたからこそ良かった。巻き込まないで済む。そして弾き飛ばした瞬間に出来た隙が、また絶妙によく。

「嵐とともに来たれ、輪転聖王《ルドラ・チャクリン》ッ!」

 辰馬の最大火力、天衝く金銀黒白が、五十六を飲み込んで天井をぶち抜く。そのまま上の階もその上の階もずっとずっとぶち抜いて、真っ暗な牢屋《ろうおく》から晴れた蒼穹が除くようになる。さしもの魔人、神月五十六もその身に宿す天津甕星《アマツミカボシ》もこの一撃に耐えうるだけの力はなく、ついに仰向けに倒れ、ミカボシとのリンクが途絶えたかまた、若者から老人に戻る。

「ほらな。大輔もシンタも出水も……お前らがいたから、おれは勝てるんだよ

この言葉は大輔たちにとって、辰馬の想像力ではおよそ想像も付かない福音を与えた。神力も魔力も使えない、霊力使いとしてはかなり限界近く鍛えはしたものの、瑞穗や雫太刀に比べいつだって足手まといだと自分を卑下していいた彼らにとって、本人から「お前たちはおれの大事な仲間なんだよ」と言ってもらえたのだ、それは感動もする。

「……大した……ものだ……」
「アンタもな。……手加減してくれて、どーも」
「さて? なんのことか……」
「なら、それでいーや。そんじゃーな」
「ああ。また会いに来るがいい。そのときワシがまだ、生きておればな……」
「あー……そんじゃ、今度磐座連れてくるわ」
「穣か……あの娘には、大層負担を負わせた。幼少期に仕込んだ暗示のせいでワシを盲愛するよう仕込んでな……今にして思えば、あの娘にはほかの生き方もあったろうに」
「ま、今更だな。たぶん本人、そんなに恨んでないし。問題ねーわ」
「なら、よいが……」

 そうして、辰馬たちは地下から上がり、宰相の間に戻り、女性陣から歓呼で迎えられるのだが。

「今の先頭で破壊した城の修繕費、とりあえず1000000弊《約1000万円》」

 宰相・本田馨?に言われ、辰馬は天を仰ぐしかなかった。

「いや、だって。勝たにゃいかんかったし?」
「関係ないな。これでも安めの設定なんじゃ」
「ジジイてめー、おれと晦日《つごもり》が仲いいからって……」
「か、関係ないわァ! とにかく、来月までに100万弊、耳を揃えて持ってこい!」

 どうやら半分図星らしいが、まかることはなさそうだった。100万ねぇ~……大変だ。辰馬はその困難を思い、深く深く、詠嘆した。

………………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2022/09/27 10:52

22-09-27.くろてん2幕4章4話.牢獄の天津甕星

おつかれさまです!

くろてんアップするにはとりあえず、なんでもいーから絵がいるよなぁということでお絵描き1枚。

新羅辰馬くん女装。辰馬くんの絵は1か月前ぶりなんですが、1月前の絵も女装ものでした。そもそもこの子は女の子だと思って描くので女の子な格好になんらの違和感がないです。でもたまには男らしい格好もさせてあげないといかんかなぁと、さすがに女装ばっかさせてると思いますが。まあ今回は前話でちょうど辰馬くん、女装回だったので問題ないかと。

では、くろてんです。こっちは第4幕まで完成してるので推敲だけですが、「日之宮の齋王」の方は4,5日に1度ペースでしか上げられなさそう。ゲーム制作も同時進行なのでですね。

‥‥‥………
黒き翼の大天使.2幕4章4話.牢獄の天津甕星

「いやもー無理。あーいうのもう無理だから。もう金輪際、絶対女装とかしねーし……つーかなんでおれ、女ってことになってるかなぁ!?」

 新羅辰馬は切なく獅子吼した。大概のことでは揺るがぬ精神を培い、覇城瀬名主導の新羅家撃滅作戦に逆ねじを喰らわせた辰馬だが、代償は大きかった。偶像としてあちこちに駆り出され、「きゃぴっ?」と可愛くポーズを取る自分のポスターを見るたび、辰馬のメンタルは急速度で削られていく。いやもうホント死にたくなる。

 あの後、やたらと両親や叔母夫婦に感謝されたのには参った。なにせ自分の力だけでどうにかできたわけではないし、瑞穗や雫やエーリカや美咲やゆかや文、穣、そしてなにより上杉慎太郎のひそかな助力あってこその勝利であって、あまり恐縮されるとこちらとしてもなんというか、困る。

 しかも未だに各方面から「男装やめて女の子に戻って下さいよぉ~」という、意味不明な声がガンガンにかかるのが辰馬の精神衛生上本当に宜しくない。あまりの過負荷で吐きたくなる。

「おれぁ正真正銘、男だし、トイレにも行くしクソだってするんだよ、勘違いすんな、ばかたれ!」

 と、怒鳴っても聞く耳が持たれないほど周囲は辰馬を美少女と盲信している。晦日美咲の情報操作の方が辰馬本人の申告よりはるかに説得力を持っており、どれだけ否定しようが新羅辰馬は「男として育てられた女の子」「ちょっと粗野なところもカワイイ」とか、そんな風に扱われるのが怖い。なにが怖いってそれまで蒼月館の体育で当然、男子更衣室を使っていたのが、女子更衣室に行くよう通達されたのが凄絶無比に怖い。なんでそげんことになるとや《どうしてそんなことになるんだよ》? という気分ではあるが、世論の形成というものはここでもとんでもない力を発揮していた。

「やはー、たぁくん、ホントに胸ちっちゃいよねー。さすが男の子として育てられただけある♪」
「おいコラ、ばかたれ教師」
「んー……なーにかなー? あんまりあたしに逆らわない方がよくない? もし、本当のことがバレたら……ここにいる女の子全員、敵に回すことになるよねぇ? いや、もしかしたら全員のお相手させられちゃうかも?」
「……っ、この、あんた可愛い恋人を脅す気かよ?」
「いやいや~、可愛い子はイジメ甲斐があるよねぇ~♪」
「くそ、しばくぞ……」
「あっれれぇ~、そんな態度取っちゃっていーのかなぁ~?」

 牢城雫にあとで泣かす、と心に決めつつ、たぶんあとでいろいろな意味で泣かされるのは辰馬なのだがとにかく、セクハラという精神凌○を受けた辰馬の心に刻まれた傷は深い。今までも周囲に玩具《おもちゃ》扱いされることは多い……というよりほとんどいつでも玩具扱い……辰馬だったが、この環境になってイジられ具合が本当に、どうしようもなく酷くなり、もー大概にしてくれと言いたい。だがなにを言おうとしようと、辰馬はひたすらにいじり倒される宿命にあった。

「新羅くん……てゆーか、さんか。ごめんね、まだ男の子だと思ってた頃の癖が抜けなくて。まぁ、そりゃ。こんな可愛い女の子が、男「なんか」のわけないよねぇ」
「は……はは……そーな……」

 女子の一人……下着姿……があっけらかんと言うと、皆が一斉に「そーそー」と笑う。辰馬にしてみれば死ぬほど屈辱だったが、ここで事実をバラせば社会的に殺されるのは自分だ。ホント、たまったものではない。

「それで、結局雫ちゃん先生とか、瑞穗ちゃんとか、エーリカさんとか他にも他にも? あの関係って、やっぱり百合百合的な?」
「……、……、……」

 だから。なんて答えろと。

 辰馬は絶望と悲嘆に暮れて天を仰いだ。上には見たくもない女体がいないから助かるが、その首根っこを雫が抱きすくめる。ついでに端っこで121㎝を隠すようにして着替えていた瑞穗と、手近で化粧品がどーたらとかファッション話に花を咲かせていたエーリカをも抱き寄せて、「そりゃもー、百合百合も百合百合! たぁくん、男の子で育ってるからあっちも激しくて!」とか言ってのける。

「あ゛ァ!?」
「こらたぁくん、そんな声出さない」

 ……ホント大概しばくからな、と、思いつつも雫相手に太刀打ちできない辰馬。そして脳裏をよぎるのはその雫ですら手も足も出なかった、新魔王クズノハの側近オリエ。魔術の弓技で辰馬を圧し、短刀術では雫を圧倒。しかもあれが最終的にはラスボス前の四天王とか、そのうちの一人に過ぎないわけで、どう対処すればいいのかということになるがそんなもん、鍛錬と克己、これしかないのはいつものこと。

 つーても、もはや親父たちでも太刀打ちできないレベルの相手だもんなぁ……。

 普通の修行では、まずどうにもならない。アレとまともに戦うとしたら、まずあの男と真っ向勝負できる程度の力が必要になるだろう。アマツミカボシを降ろした、若返り状態の神月五十六。ヒノミヤ事変においては結局、油断の隙に瑞穗のトキジク炸裂でどうにか、時間を進ませて撃破したわけだが、オリエを倒すにはまずあの男と正面切って完勝するレベルが求められる。

 なので。

「神月五十六に会えないかな」
「無理ですね、それは」

 再開した緋想院蓮華洞《ひそういんれんげどう》。叔父にしてギルドマスター、十六夜蓮純にとりあえず訊いてみたら、あっさりと否定された。

「辰馬くんには恩もできたし、大概のことは聞いてあげたいですが、彼は国家反逆罪の大逆人。私程度の権限でそうそう、会えるものではありませんよ」
「うーん……、そこをなんとか!」
「なりません」
「役ン立たねぇ叔父だなぁ。マジでどーにかならんの?」
「どうにか、というなら。宰相様に聞いてみますか?」
「……アレか。あの親バカ」
「宰相には息子さんがいますが、あまり優秀ではないのですよ。そのせいで晦日さんへの期待と愛情がああいうことになっているらしく……私が魔王討伐から帰国した頃、バカみたいに毎日赤ん坊の彼女を見せびらかしにきたものです。今でもそれが治っていないのは、さすがに…ですが」
「筋金入りだな」
「まぁね。しかし、悪人ではありません……善人でもありませんが、新魔王討伐のために必要とあれば、神月五十六と対戦、させてくれるかも知れません」
「あんましあのジジイに会いたくねーけど、まぁしかたねーか……行くわ」

‥‥……………

 で、京城、柱天《ちゅうてん》。

「だから、そう簡単に宰相様にお取り次ぎできるはずがないでしょーが!」

 門番、長船奉文(長船言継の父親。16年前にルーチェと最初にあったひと)は、怒気すら込めて声を荒げた。ちなみに息子、言継は先日の若手模擬戦大会以来、現在桃華帝国へまた出征中。まあ、あいつがいると瑞穗が異常に萎縮するので邪魔なだけではある。ともかく、今現在の時点で国一番のアイドルだろうが、宗教都市のもと姫巫女様だろうが、世界的アスリートだろうが、外つ国《とつくに》の姫君だろうと、門番のダイヤモンドをしのぐ意志を翻すことはできなかったのだが……。

「邪魔しますね」

 青い髪と瞳に豊かな乳房、その豊乳をキトンでくるんだ、やらしー見た目の少女がやってくるに及んで長船のダイヤモンドはパァン! と砕け散った。信仰心篤い男なのである。そんなもんホノアカに代わるアカツキの新祭神・サティア・エル・ファリス様みずからのご登壇《とうだん》とあれば道を空けざるを得ない。瑞穗には一礼もしなかった男は、女神の前ではぺこりぺこりと頭を下げる。

「旦那様、たまにはサティアも役に立つでしょう?」
「あー、サンキュ。この門番さん頭固すぎ……知り合いだっつーてるのにまったく耳かさんし」
「いえ、それはまあ、門番としては……大変失礼致しました!」
「いや、そら仕事に忠実なのはいいんだけどな。まぁ……いーや。そんじゃジジイに会うか……」

‥‥‥……

「ダメじゃな」
「あ゛? だから、必要なことだって……」
「そんなことはわかっとるわ! 問題はここに美咲ちゅわんまで一緒に来ておる事! 貴様まさか、あの殺人鬼と美咲ちゅわんを戦わせる気か!?」
「そりゃ、ウチの戦力の中でも上位だし」
「はははははは! 死ね小僧ォ!」

 いきなり、手筒《ピストル》が火を噴いた。正確無比のヘッドショット。正確無比ゆえに狙われた瞬間、回避できたが、普通ならまず頭を吹っ飛ばされている。なにするかこのジジイ。

「女というのはな、男に指示を出してどんと構えておくものよ。そして実際前戦で戦うのは、下等な男で構わんのだ。そうじゃろ、北嶺院の?」
「は、はい、宰相閣下……いえ、その感覚はもう、古いかと……」

 以前なら国のトップが女尊男卑思想の持ち主と知って欣喜雀躍したであろう文だが、彼女も蒼月館卒業前後のいろいろで変わった。女尊男卑を絶対とは思えなくなり、男女同権かなぁとそんなふうにリベラルに考えられるようになったのを当時の副会長・現会長である聖女ラシケスが見たら感動で涙するかも知れない。とにもかくにも、人は変わる。

「古いも新しいもないわ! とにかく美咲ちゅわんはダメ! 美咲ちゅわん意外はどうでもいいと言いたいが、他の娘たちも危ない! というわけで、お前たち4人でなら、あわせてやるが?」
「あー……なんだ。そんなことか。うん、それでいい」
「え゛、辰馬サン、本気スか?」
「俺たちだけで、あのわけわからん相手と……?」
「流石に少し、胃が痛くなるでゴザルよぉ~……」
「いーからついてこい。さすがにおれ一人だと難しいが、お前らだっておれの信頼に足る腹心たちだろーが」

 腹心。その言葉にピクク、と三バカは耳を峙《そばだ》たせる。

「腹心……そーいわれちゃあ、ねぇ……」
「まあ、やりますか。腹心だし」
「そりゃ、主様を見捨てて腹心が逃げるわけに、いかんでゴザルからなァ~」
「つーわけだ。いくぞ」

「了解(了解です/了解でゴザル)!」

‥‥‥…………

 日の当たることのない地下牢。

 日々繰り返される尋問という名の○問。

 すでに70に近い老齢であるならば、簡単に心折れ罪を認めるのが相場。

 しかしこの老人はなお意気横溢にして覇気にあふれ、鍛え上げられた肉体は鉄?《てっかん》による殴打すらものともしないどころか、逆に鉄?を打ち砕いてしまう。炯々たる眼光は獄吏を射すくめ萎縮させ、かつて神楽坂相模を追い落とし、その娘瑞穗を凌○してヒノミヤに君臨した覇王は今なお健在であった。獄吏の方が滝汗を?き、五十六はまったく涼しい顔でいるのだからとんでもない。

 現状、五十六に荒神・天津甕星《アマツミカボシ》は憑いていない。憑いていれば一瞬で状況どころかこの国を覆しうる。しかしそれでも自前の肉体と精神の力、神力とも魔力とも違う普通の霊力だけで、五十六は毅然たる自分を保っていた。

 しかしそれも今日まで、明日からは○問の専門家、串刺し公といわれる男が来るとかなんとか。さすがに尻穴からとがった杭で突き刺されては、五十六だろうとどうしようもない。自白させるのが困難に過ぎ、いよいよ殺しに来た、ということか。

 まあ、構うまい。ワシは相模を倒し、瑞穗を犯して神楽坂の家を制した。それだけ果たせただけでも、十分この命に価値はあったわ……。

「というわけで、よぉ」
「? 新羅の小僧ッ子……!?」
「ま、腹心の、オレらもいるんだけど」
「雑魚はどうでもいいわ、なにをしにきた、小僧!?」
「いや、おれらの修行相手が欲しくて……あんたくらいしかおらんのだわ」

 そこで五十六は初めて、新魔王の登壇《とうだん》を知る。五十六とて神職にあった身であり、魔族への嫌悪は頗るに強い。

「だが、今のワシにミカボシの力はないぞ?」
「あー、借りてきた」

 荒神封じの封石を、辰馬はあっけらかんと制服の胸ポケットから取り出してみせる。

「ほう……わかっておるとは思うが……もしワシが勝てば、ミカボシを宿したワシはこんなところで大人しくはしておらんぞ?」
「だいじょーぶだろ、おれら、勝つし」
「よう言うた。なれば、寄越せ!」

 辰馬が差し出した封石を、五十六はかっさらうようにして受け取る。そしてなにか、およそこの地上にあることばとはどこか異質な神讃《しんさん》は、おそらくミカボシが星辰の果てより来た異界の存在ゆえ。

 神讃が終わる。刹那。噴きあふれる神力。魔王すら威圧する霊威。かつて新羅辰馬を絶体絶命に追い詰め、魔王化状態ではなかった、とはいえ結局実力では叶わなかった相手が、そのままにここに顕現する! 老いさらばえた肉体は若く、全盛期のそれ。蓬髪は短く整い、伸び放題のあごひげはまばらな薄いものへと変わる。相変わらず、若返った状態での五十六は相当なハンサムであり、一言付け加えるなら野性的で野心的なハンサムであった。

「さぁ、始めるぞ小僧ども! なんならワシが、お前たちに代わって魔王殺しの勇者の役を担ってやっても、よいかも知れんなァ!」

白い歯を剥いて、吼える。

「望むところ! 今日ここでアンタに、本当の意味で勝つ!」

 もう、瑞穗を巡っての遺恨はない。新羅辰馬と神月五十六は、ただ純粋に力を競い合うふたりの羅刹として、互いに対峙した。

………………
以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2022/09/27 08:38

22-09-27.中国史-前漢の李広

おはようございます!

昨日は帰ってきてからずっとエロ小説を書いておりまして、それ以外なんにもせず一気に2万文字とか書きました。一日の平均執筆量が4000文字なので半日でその5倍ですが、そのせいでゲーム制作とかお絵描きとかくろてん第5幕とかは進みませんでした。完全に趣味のものなのでここにお見せできるようなもんでもないんですが。なので今朝はなにも上げるものがないかなぁと思ったのですが、こういうときのための歴史書翻訳。ひとまず当座しのぎとしてこちらを。前漢の飛将軍、李広。「岩に立つ矢」の故事の将軍です。霍去病との対比で割を食っちゃってるひとですが、人の苦労がわからないタイプの天才である霍去病より個人的には苦労人の李広が好き。本当ならもっと出世できるはずの人物なんですが、漢朝では当然の賄賂を贈ったりとか考えもしないので出世できなかったのですよね。

…………………
李広(り・こう)
 李広は隴西成紀の人である。祖先の李信は秦の時代の将軍で、燕の太子・丹を擒えたものである。李の家は代々射術に習熟した将門であり、孝文帝の十四年、匈奴が大挙?関を侵すと、李広は良家の子弟たちによる軍を率いて匈奴に抗撃、よく射て虜を殺すこと多数。戦後、郎、騎常侍とされた。しばしば文帝の射猟に随い、あるとき猛獣と格闘してこれを殺す。文帝は「惜しむべし、李広は生まれるべき時を誤った。高祖の御世なら万戸侯にもなれたであろうに!」と痛惜した。

 景帝が即位すると騎郎将。呉楚七王の乱において驍騎都尉を任され、大将・周亜父に随い昌邑の戦いで名を揚げる。梁王は李広に将軍の印璽を授けたが還っても褒章が出ることはなかった。のち上谷太守となり、匈奴としばしば交戦。典属国の公孫昆邪は哭いて言うに「李広の才気は天下に二つとなし。その能を自負ししばしば敵と勝敗するが、恐るべきはこれ犠牲の数なり」のち昇遷して上郡太守となる。

 匈奴が上郡を侵すと、皇上は中貴人(それなりの貴人?)数人を派遣し李広に随わせて匈奴との戦闘を学ばせる。中貴人は数十騎ではせ参じ、匈奴三人と出会ってこれと戦う。匈奴は矢を射て中貴人を射、その騎するところを悉く殺す。生き残った中貴人は李広のもとに奔って、李広曰く「これまさに射鵰(特に射撃を得意とするもの)の者に違いない」百騎を従え三人を追う。三人は馬を失い徒歩で歩いていたから、李広は三箭をもってこれに射かけ、二人を殺し一人を擒える。果たして匈奴射鵰の物であったから、縛り上げて山に登り、匈奴数千騎を睥睨して、はたしてもって騎虜を誘う。匈奴は山の上の要地を取った李広に驚いた。李広曰く「我が大軍数十里のところにあってかくのごとく敗走し、匈奴の追射を受け命ともし火。今我が留まらば匈奴は必ず我が後ろに大軍ありと察し、我を撃つことなし」そこで李広曰く「前へ!」匈奴の陣からおよそ二百里離れたところで止まり、令して曰く「みな下馬して鞍を解け」と言えば騎兵応えて「虜は多くかくのごとし。今鞍を解いては緊急に即応できませぬ。どういうことでありますか?」李広曰く「かの虜衆を謀にかけるため、鞍を解いたと見せるのだ。今鞍を解いて走れずと見れば、虜賊はその堅陣を解くであろう」まさに匈奴は迂闊に攻撃せず。しかして匈奴に白馬の将領あって出撃したので、李広は裸馬にまたがり、十余騎を従えてこれを射て、白馬の将を討ち取り、さらに軍を回頭させ百騎をもって本陣に当たり、鞍を解き、全軍馬を開放せよと令す。時まさに日暮れ、匈奴はついに最後までこれを怪しみ、敢えて進まず。夜半、匈奴は漢の伏兵部隊あるを知り、全軍を還す。翌日晨、李広はその大部隊に帰属した。戦後、隴西・北地・雁門・雲中太守となる。

 武帝即位すると左右の近臣たちが李広の名将であることを告げたので、未央衛尉とされる。程不識もまた長楽衛尉。程不識は李広とともに辺境を守る太守であり、屯田して辺境を守る。匈奴が侵犯してきたとき、李広の軍には厳格な規律などと言うものはなく、隊列も陣勢も良い水草が茂るところに屯し、往々に停留し、人おのずから便じ、夜になれば誰かが自主的に巡回した。府省の文章などというものもなく、軍はおのずから動く。程不職曰く「李将軍は至極簡便、しかるに虜卒に対するに禁ずるところなく、またその士卒また逸楽であって、これ死を恐れず。わが軍は煩擾(厳しく軍律を定めている)といえども、虜卒相手にここまで放縦にはやれぬ」このとき漢の辺郡の守りと言えば李広、程不職が名将と知られ、匈奴は特に李広を畏れた。士卒の多くは李広の放縦を喜び程不職に従うを苦としたからである。程不職は孝景帝のときしばしば直言諫言して、太中大夫となり、人となり清廉で法令に厳しかった。

 のち漢朝は馬邑城に単于を誘う。大軍を馬邑の路傍に伏せ、李広を驍騎将軍、属護軍将軍となした。単于はこれを気取り逃げたので、漢軍はみな功がなかった。のち四年、李広は衛尉から将軍に遷され、雁門から出て匈奴を討つ。匈奴は大軍であったため李広は敗北し、生捕られる。単于はもとより李広の賢者であることを聞いていたので、令して曰く「李広よ必生の道を取れ」と。虜衆は騎兵をもって李広を擒えたので、李広はその当時傷を負い、彼らは二頭の馬で李広を挟んで護送した。兜にもって繋ぐ縄で李広をふんじばった。李広は走ること十里、死んだふりをし、傍らにやってきた一少年の馬を奪って奔ること数十里、ようやくその余軍と合流する。匈奴は百騎でこれを追い、李広は少年から奪い取った弓でこれを射殺し、難を脱す。これにより漢朝は李広を下吏に落し、法廷の裁判で人馬をいたずらに失い、自らは捕まったという不名誉により、斬首となるところ罪一等を免じて庶人とされる。

 数年後、李広と藍田県のさきの潁陰侯・灌強は、しばしば山中に猟りに出た。またまた一騎で出かけて夜をすごしたとき、他の人と田間で酒を飲んだ。覇陵亭に戻り、覇陵の尉が酒を飲んでいるのを見て、怒鳴って止めさせる。「俺は昔名をとどろかせた李将軍だ」と名乗れば尉、応答して「今なお将軍が夜で先に進めないなどということがあるだろうか、いかに!」ということで李広は覇陵亭の下に拘留された。しばらく経って、匈奴が西の遼西に攻め入り、太守を殺し、韓将軍を敗った。韓将軍はのち右北平に遷り、死ぬ。ここにおいて皇上は李広を召し、李広は右北平太守を拝す。李広は請うて覇陵尉とともに往くことを願い、軍中に至ってこれを斬り殺した。上奏して謝罪の文を述べたが、武帝は応えるに「将軍とは国家の爪牙なり。『司馬法』に言うではないか、『車に乗って式せず、喪に遭って服さず、旅を振るわせて師を撫し、征をもって服さず。三軍を率いるの心、戦士将門の力、ゆえに怒りを形にして千里を竦ませ、威を振るってすなわち万物を伏す。これ名声を夷貉によって穢され、威稜隣国に轟くなり』と。ますらおが忿に報いて害を除くは、残酷と屠殺をもってすべし。朕の図るところそれ将軍においてや。もし蹉跌して冠を免じ、頽廃の罪を請うならば、あに朕の指さすところかな! 将軍は師を率いて東を征し、辺境を安定さす。のぞむは以て右北平盛秋の戦門」として不問に付した。李広は辺境の郡に在って匈奴の号して曰く「漢の飛将軍」と。匈奴これを避け、数年境内に入ることなし。

 李広は猟りに出て、叢の中に石を見る。これを虎と見違えて弓弦を挽けば矢は石に刺さり、改めて見るに虎ではなく石であった。他日同じ石を射ても矢が刺さることはなかったという。石を虎と見違えることで人間の集中力と膂力の限界に達していたのであろう。李広は郡内に虎ありと聞けば、常に自らこれを射て殺した。右北平で大虎を射たときは、虎に傷を受けながらもやはりまたこれを射殺す。

 石建が没すると武帝は李広を召して後任の郎中令に据えた。元朔六年、李広はまた将軍となり、大将軍(衛青)に随い定襄郡から匈奴を伐つ。諸将の多くが虜を斬り擒えて功により侯に封ぜられる中、李広は一人戦功がなかった。これは匈奴が飛将軍を畏れて避けたためで本来李広の不名誉ではないのだが。三年後、李広は郎中令として四千騎を率い、博望侯・張騫とともに右北平から塞外に出て道を分かつ。往くこと数百里、匈奴の左賢王は四万騎をもって李広を囲んだ。李広の軍卒みな恐れ、李広は息子の李敢に向けて救援要請の手紙を出す。李敢は精鋭数十騎を率いてただちに虜衆に突撃、左右に斬って道を開く。李広に向けて「胡虜の相手など簡単なものです」と言ったから、軍士たちはみな安らいだ。李広は円形陣を形成したところに虜賊の急襲が湧き起こり、矢の降る事雨の如しで漢兵の過半が死に、漢軍の矢は悉く尽く。李広は将士に令して把弓を開かせ、不要の物を射掛けさせた。李広も自ら大黄の弩を敵の副将に発し、殺すこと数人。匈奴ようやく囲みを解き、あたかも天は闇黒、吏士みな顔色を失うが、李広は神気横溢として平素と変わらず、軍はきわめて治まり勇気百倍。翌日、戦闘継続。博望侯の軍至り、匈奴遂に軍を解いて去る。漢軍は疲労困憊の極にあり、追撃は不可能であった。このとき李広の軍の全員が覆滅、薨されて帰る。漢朝の法律では戦闘終局直前まで間に合わなかった博望侯は死罪だが金をはたいて罪を減じ、平民とされた。李広も自軍を全滅させたとして功罪相半ばし、よって賞与はなし。

 はじめ、李広と従弟の李蔡はともに郎となり、文帝に仕えたが、景帝のとき、李蔡は二千石。さらに武帝の元朔中、軽車将軍として大将軍とともに右賢王を討った。功績により中率、楽安侯。元狩二年、公孫弘が丞相になったころには、李蔡は名声では李広に遠く及ばないものの、官爵九卿では李広を大きくしのいだ。李広の軍の軍吏と士卒は(この分なら自分が李広をしのいで)あるいは封侯を取れるかもしれんと思った。李広は仲の良い王朔に曰く、「漢から匈奴への遠征、李広はいまだかつてその中に居ないことがなかったが、妄りに動く諸校尉や、自分に才能の及ばぬものが軍功を取って侯となるのを何十人と見てきた。吾は彼らの後塵を拝し、しかるについに寸尺の功も封邑も得ることなく終わるのだろうか、何ぞや? 吾には侯になるだけの実力がないのだろうか」王朔応えて「将軍自ら念じてあにかつて恨むものありや?」李広曰く「吾は隴西を守った際、羌族の反逆八百人を降し、詐って同日これを殺した。今怨み事があるとすればこの一事のみ」王朔曰く「すでに降りしものを大いに殺して禍いなし、これ将軍が侯になれぬ所以なり」と。

 李広は七郡の太守として前後四十四年、得た賞与はすべて部下に分配し、食事は士卒とともに摂った。家に余財はなく、一生ついに産業や不動産を語らなかった。李広は身長高く、腕長く、これよき射手の天稟であり、子孫や他人が彼に射術を学んでも決してその高みに到達することはなかった。李広は口数少なく、あまり余人と語りたがらず、軍略の計も地図さえあればそこを射るのみで、もっぱら射術に没頭した。将兵に水が足りず、士卒の水が尽くと、自ら水を近づけず、糧が尽きればやはり自分も食べなかった。寛厚な性格で部下を虐めることがなく、士卒から非常に愛される。彼の射術は敵人を見るや数十歩の距離でも的を外さず、発すれば必ず敵を斃した。しかし兵を帯びての作戦では困辱を受けること多く、しばしば猛獣を射倒しては無聊を慰めたという。

 元狩四年、大将軍と驃騎将軍(霍去病)による大挙兵に李広は自らも随行をしばしば請うたが、武帝は李広も年なのだから、といって許さなかった。しばらくしてようやく許され、前将軍とされる。

 大将軍は出寨に際して、捕虜から単于の居場所を探知し、自ら精兵をもってこれに向かう。李広は右将軍の軍とともに山東道を進む。東道をやや迂回しつつ、大軍で水草少ない道をゆき、その勢は衆を集めての行進に向かぬ。李広は辞して曰く「臣は前将軍となり、今大将軍とは違う路を進んでおりますが、いわんや結髪(元服)の時の匈奴戦のごとく、今一度単于と相対したいもの。願わくば臣を前将軍の任から解き、先鋒として単于の前に死したいものであります。」大将軍は密かに皇上の内意を受けており、李広と雖ももはや老年であり単于の軍に当たるべからず、恐れるは彼の意を汲まぬようにと。このとき公孫敖が新失侯、中将軍となっており、大将軍は彼を単于の主力に充てるつもりであった。なので李広の進言は徒労に終わる。李広はこれを知り、硬い決心をもって大将軍に単于との対決を求めるが、大将軍はあくまで聴かず、長史に令して封書し李広を彼の幕府に引き下がらせる。封書には「急ぎ部をもって詣られよ、書の如く」とあり、李広は感謝するどころか大いに怒りを発して右将軍部の趙食其と合し東道をゆき、そして道に迷った。あとから進発した大将軍は単于と接戦してこれを退走させ、良く戦果を挙げて還る。大軍を南して向かった李広の前将軍部と右将軍部はようやく砂漠に出た。李広は大将軍がすでに勝利を得て還るのを見て兵を合す。大将軍の長史は酒と食事をもって李広に給わり、趙食其が道を間違えた件について「衛青は天子に報告し、貴方を戦場から遠ざけるためにこうしたのです」と言われれば李広に還す言葉もはやなし。さらに大将軍部の長史は李広の幕府に人員帳簿がないことを責める。李広は悄然と「校尉たちは無罪である。これすなわち我が自ら道を失ったのみのこと。今自ら帳簿を為さん」と語った。

 幕府に還り麾下に謂いて曰く「李広は結髪以来匈奴と立戦うこと大小七十余、今幸いにして大将軍が単于の兵に接し、大将軍はいたずらに李広の部隊を遠ざけ道に迷わしめた。これなんぞ天命に非ずや! 李広は齢六十余といえど、最後は刀筆の吏に裁かれまい!」と言ってついに刀を抜き自ら首刎ねた。百姓(民衆)これを聞き武帝の認識の不是を嘆き、老壮みな涙を流したという。ちなみに右将軍・趙食其の下吏は死罪が確定したが、金を払って庶人に落された。

………………
以上です! それでは!

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遠蛮亭 2022/09/26 18:05

22-09-26.くろてん2幕4章3話.反撃の偶像聖女

おつかれさまです!

ただいま病院から帰宅しました、ホント疲れた…。お昼の薬を忘れたので大学病院の中で体調をガタガタにしてしまい、骨折(右肩粉砕)の経過のレントゲン中にうぅー、ぐぁーと呻いてました。そのあと精神病院のほうでも精神性の身体症状で半身不随、足を引きずるというブザマをさらしてしまいました。いつも体調いいわけじゃないんですが、今日は格別。まあその辛さも帰宅してしまえばひと段落です。今から1日分取り戻すとして、その前に昨日のお絵描きとくろてん。

まず、瑞穂さんのフェラ。昨日の昼頃のやつがひょっとこになってなかったので、こっちのほうがいいかなーと夕方に描きなおしたもの。鼻の下に線をひいただけでひょっとこっぽさはあんましないのですが。

ついでこちら、瑞穂さん触手凌○。ゲーム「齋王」用の仮組絵です。これ昔描いた絵のリライトだったりするのですよね、時間がないのでぱぱーっと昔の絵の線を引きなおして塗り直して1280*960に直したわけですが、案外いい感じな気が。

瑞穂さん3本フェラシーンですが、騎乗位3本フェラという自分の指定にもかかわらず騎乗位ではなくなってしまったのでなんか違う…ということに。

ラスト、騎乗位3本フェラ。これは最高にいい感じに描けましたが、これは昔描いた絵のリライトである上にネット上で拾ったよさげな絵の模写…トレスではないとはいえ…なのであまり胸を張ることができないのが残念なところ。

以上でした! 「むらいつ」だったり「齋王」だったり瑞穂さんメインの凌○モノだけあって、最近瑞穂さんをイジメる絵ばっかり描いてます。でもこれも愛情表現。

では、続けてくろてんです!

…………………
黒き翼の大天使.2幕4章3話.反撃の偶像聖女

 新羅辰馬と会うことがなくなり、数日。上杉慎太郎はぼけーっと、学園中庭のテレビを見ていた。

 まだ導入されたばかりでいわゆる国営放送(N○K的な)が主流ゆえに、こちらの世界におけるバラエティやドラマや歌番組などはほとんど、なく。あまり面白いものでもないが、それでも今、シンタはなにもできないからぼーっとテレビを見ている。

 オレが親父に掛け合えば、ちったぁ変わるか? でもなぁ……。

 自分の父の妹、すなわち叔母が山内家の山内真尋《やまのうち・まひろ》であり、覇城瀬名の実母であることはわかっている。そこにつけこむ隙はないか……と、考えるのだが、シンタは少し怖いのだった。

 おれが余計なことして、辰馬サンから余計な真似すんな、とか言われたらなぁ……立ち直れんし……。

 このあたり、非常に悩ましい。かつて辰馬に「バケモノ」と言ってしまったシンタは、表向きはともかく内心でひどく辰馬に嫌われることを恐れた。世界中の誰に嫌われてもいいから辰馬にだけは嫌われたくなく、にもかかわらず辰馬のためになにかをしようとする踏ん切りをつけることも、邪魔と思われたら怖いという思いからなかなかできない。

 そもそもシンタ……上杉慎太郎が新羅辰馬に出会ったきっかけはなんだったかというと、まだ蒼月館に入る前、中等学校時代にちょうどギターを買った頃だった。当時最新鋭の楽器を手に入れた……家の金ではなく、自分でバイトして買った……ものがたまらなく嬉しくてもう、いても立ってもいられずストリートに出て、弾き語り。実のところ今だってシンタの演奏も、歌も、大して上手くはなく。そこのところ一応学生エロ作家として成功している出水や、拳闘部はやめたものの辰馬を守る拳としての確かなプライドがある大輔とは大きな差がある。貴族上杉子爵家の息子という立場にありながら彼は末弟だし、根本的なところで自分に自信がない。だからこそ、おなじく自分に信をおけていない辰馬にご同類の臭いをかぎつけて、懐いたのかも知れないが。

 ともかくもシンタは夜を徹して歌いまくり、手厳しい客からはうるせー、とか、温かい人からはがんばれよ兄ちゃん、とか言われてまあまぁいい気分になっていたのだが。

 いきなり黒服の一団に囲まれた。

 シンタが歌っていた場所はいわゆる地回りの縄張りで、シンタは縄張り荒らしのふてぇ野郎、ということでとっ捕まる。あの時期に今の戦闘力があれば難を逃れたのだろうが、当時のシンタにそれはない。

 なわけで、連行されたシンタは拘束され、ボコられた。腹や顔を殴られるのはまあ、我慢できた。ナイフで脅されても父親・上杉子爵の一睨みに比べれば怖いものでもなかったが、宝物であるギターをへし折るとか、二度と演奏できなくなるように指を砕くとか言われるともう我慢できなくなった。みっともないことだがシンタは泣きわめき媚びへつらってでも助かろうとし、それでも許されず指とギターを破壊されるその寸前で、新羅辰馬はやってきた。

「……ん、そこの、確かおれとおなじガッコのやつなんで。連れて帰るわ」

 地回り連中は30人以上いたのだが、辰馬は当時からやはり辰馬で。なんの気負いもなくそう言うとシンタの前までツカツカと歩み寄る。当時シンタにとって新羅辰馬は「女みてーなツラして、オカマかよ、クソが!」という嫉妬と羨望の対象でしかなかったし、辰馬が新羅江南流という古武術道場の息子と言うことも知らなかったし、さらに言えば辰馬が魔族の血を引いているということで積極的に忌避すらしていた。

「帰るぞー、上杉《シンタ》」

 このとき初めて、上杉慎太郎はシンタという名前を自分として認識する。それは単に地回りたちに本名を聞かせると面倒という、たいしたこともない配慮だったのだが、シンタの中でそのあだ名は、強く胸に刻まれた。

 当然、自分達を無視する辰馬に地回りたちは「ボコボコにすんぞこのアマァ!」「元に戻らなくなるくらいヤりまくってから、娼館に売り飛ばしてやるよ!」などと咆哮したが。この詳細をわざわざ書くまでもないとは思う。当然のごとくに辰馬は地回りたちを壊滅させ、ついでにその晩、地回りの元締めの屋敷に乗り込んでそこも壊滅させるという、やはり辰馬は当時から辰馬、というだけの活躍をやってのけた。

「だいじょーぶかー……て、んなわけねーな、その傷で。ちっと待て、あんまし得意じゃねーんだけど……」

 青痣だらけで顔もほとんど原形とどめないほどに腫れ上がったシンタを横たえると、辰馬は腕まくりしてやや集中。掌を中心に、全身が淡い金銀黒白の光を帯びる。

「あんまし、西方の神との相性は良くないんで全治ってわけにゃあいかんと思うが……いと高き神、その名を呼ぶことを憚られる方よ、御身の民の言葉に耳を傾けたまえ。我が病のつらさに苦しむときは、どうか病を鎮めたまい、我が傷の痛みに呻くなら、どうかこの傷を塞ぎ給え。この願い、聞き届けられるのならば、我は供物と信仰を御身に捧げましょう……」

 神讃《しんさん》というものをシンタは初めて耳にした。神や魔族と精神をつなげて自らを神霊存在と同体化させ、奇蹟に等しい力を行使する御業。それは聖女様や、この国では齋姫《いつきひめ》と五位の姫巫女、そして優れた資質ある女性たちのもので、男である辰馬がそれを使うことを、シンタは驚嘆のまなざしで見上げ、そして見上げたときには全ての傷や腫れや痛みがすっすり消えていた。

 その日、ひねくれ者のシンタはすっかり辰馬に魅了されはしながらも「頼んでねーよ」と逃げるように帰ったのだが。

 翌日、辰馬が学校を休む。

 その次も、その翌日も休んだ。

 さすがに気になったシンタが新羅家……中等学校時代、まだ寮生活ではなかったから……を訪れると、辰馬は真っ青な顔で病臥していた。普段から細身の体は、そぎ落としたようにげっそりしている。

「お前、なんで?」
「あー、上杉か。いや、ほら……このまえアドナイのやろーから借力しただろ? あいつ、ちゃーんと供物と信仰を捧げんと怒るのな。で、今はそのぶんの代償支払い中」

 シンタには「アドナイ」も「借力」もよくわからなかったが、分かったことは辰馬が自分を助けるために、自分を犠牲にしたと言うことだ。大してよく知る相手でもない、ただの同級生のために、こんなにやせ衰えてまで。

「新羅……辰馬サン」
「あ?」
「オレ、あんたに惚れたっス! 一生ついて行きます!」
「? なに言ってんのお前……まあ、いーや。そんじゃ、よろしく頼むわ……」

……………

 ということがあり、現在に至る訳だが。そういう大恩があって、シンタは辰馬のことを大好きだーとか、ケツ触らしてくださーい、とか、なんかやっぱりひねくれたままというか素直に「尊敬してます」とは言えない感じで好意を表現するのである。別に本当にホモなワケではない。まあ、「ウチの辰馬サンほどかぁーいい人はいねーけど」と、それは本気で思っており、ヒノミヤ事変における自分の辰馬女装プロデュース、あれは最高傑作、国宝級だったと自負している。

 なのだが。

 その辰馬のピンチに駆けつける勇気が。どうしても出せずにここでこうしてテレビを見ている。新羅家の関係者が各方面からいろんな理由をつけては叩かれる姿ばかり写るのは、実にいい気分ではない。というか人間の汚さに反吐が出る。ならおめぇーらがかわりに戦えんのかよ、と。

 そのとき画面が急に切り替わった。

「えーと、わたしはエーリカ、エーリカ・リスティ・ヴェスローディア。ヴェスローディア王国の第四王女なんだけど、わけあってこの国でアイドルやってまーす、いえー♪」
「はァ!?」

 目を剥き、アゴが外れるほどに驚く。エーリカあいつ、辰馬サンがこんな大変なときにテレビとか……そんなに芸能活動大事かよ……?

 そんな義憤も、続けて登場する二人に打ち消され、ぶち壊される。

「そして、今日は特別ゲストォ! 多分みんなもよぉくご存じ、あの! ヒノミヤの齋姫様、神楽坂瑞穗さんと、8,9,10年前に煌玉展覧武術会《こうぎょくてんらんぶじゅつかい》三連覇、牢城雫おねーさん24才行き遅れだァ!」
「ちょ、誰が行き遅れだよー? まあ、実際そうなんだけど、やははー」
「か、神楽坂瑞穗と申します……。どうぞ皆様、本日はよろしくお願いしますね?」

開いた口がふさがらない。

 なにこれ、雫ちゃん先生までなにやってんの?

「さてそれでは。最近ちまたを騒がせている魔王復活……と、いうか、17年前の魔王戦役で先代魔王を倒した勇者様たちが不当に叩かれていますが、この国の信仰とスポーツ、二つの柱を司るご両名のご意見をお聞きしたくッ!」
「あれは……非道いと思います。そももそ現在の平和は勇者様のご活躍によるもの。それを皆さん、勇者様に魔族の血が流れているからと掌を返して叩くのは、ヒノミヤの代表として大変悲しいことだと思います」
「うんうん。っていうかあたしのプロフィール調べたことある人は知ってるからわかるんだけど、あたしってその新羅狼牙さんの弟子なんだよね~。で、実はろーがさんが初恋だったり」

 ざわざわと。二人の人気者(エーリカもまあ、ぽっと出ながら人気者と言えば人気者か)の言葉に、スタジオの人々の風向きが変わるのをシンタは見て取った。

 あー、これが狙いか……それならやっぱ、オレも!

 シンタは跳ね起き、走り出す。目指すは実家、上杉子爵家。

 ………………

 同じ頃。

 晦日美咲に支えられた小日向ゆかと、北嶺院文も記者たちの前で敢然と「魔王殺しの勇者」擁護の声を張り上げる。とくにゆかとしては「おにーちゃんのテキはわたしのテキー!」と、慕う辰馬とその家族をなじるマスコミどもを千切っては投げの大奮闘。子供が粋がるな、と言いたい記者も「あれは小日向の公主様だぞ……」と言われれば恐懼して黙るしかなく、それでもなお賢しく論破しようとするものは美咲からさらに冷徹で完璧な論破を喰らう。

………………

そして、ヒノミヤでは祭主・鷺宮蒼依が新しいご祭神を迎える遷座《せんざ》の儀式を執り行っていた。新たな祭神として嚆矢《こうし》が立ったのはもちろん、サティア・エル・ファリスであり、女神への期待で一気に流れ込んでくる信仰の力はすぐさま彼女の神力となってご満悦。古代ウェルスの正式衣装であるキトンに対し「それにしても、新しい女神様の格好はやらしーなぁ」「いや、西の方ではあれが最新鋭のふぁっしょんなんだとよ」などという言葉には少々、イラッと来るが、まあ良いでしょうと寛容に。この新祭神擁立の青写真を書いたのは宰相・本田馨紘であり、実務に関する一切を担当したのは当然、磐座穣以外になしえない。穣としてはすでに実体滅び神力の残滓《ざんし》がのこるだけのホノアカではあっても青髪に半乳だしの異国女神よりマシ、だとは思っているのだが、一応、辰馬はどうでもいいとしてもと同僚の瑞穂であったり、かつて魔王を討伐してくださった尊崇すべき勇者一行であったりを守るためならやぶさかではなかった……という理由付けをしないと、穣は辰馬のために動けないのだから難儀な性格である。

…………………

 それから数日。

 新羅家一門への風当たりは、何者かが恣意的にそれをやめさせたかというようにぴたりと已む。

「くそ、新羅辰馬……それに、上杉慎太郎とか言ったか、チンピラ子爵家の分際で……母様を動かすとか卑怯じゃないか!」

 ダン、と机を激しく叩き、覇城瀬名は気勢を荒げる。世論に負けて日和った母・真尋にいさめられた瀬名、近親者を強く愛する彼は当然、マザコンということでもあり。母から厳しく諫言されて泣く泣く、あと一歩で新羅家の命脈を絶ちきる寸前でそれを諦めるしかなかった。

 というわけで新羅家最大の危機はこうして免れたのだが。

「聖女サマー、こっち、視線こっちに!」
「はーい♪ きゃはっ?」
「今度はこっち、ポーズつけて!」
「もぉ、要求多すぎっ? でも頑張っちゃう?」

 新羅辰馬はすっかりと聖女サマ効果で名を挙げてしまい、今日も今日とて撮影会。これが終わるとサイン会であり、さらに握手会と、プラス毎日の奉仕活動(決していかがわしい意味ではない)における優秀者20名との会食会が待っている。

 ……うぇ、吐きそう……。もともとおれってこーいう性格じゃねぇんだからさー……いやもう、そろそろバレてもいいんじゃねーかな……。

 そうは思う辰馬だが、もとの素材があまりに女装向き、というよりそのものズバリ女顔であるうえ、新羅邸女性陣総掛かりで「辰馬を最高に可愛くしよう!」と化粧を施した結果、本当にどう考えても今の新羅辰馬サンは世界一の美女であること間違いなしですどうもありがとうございました、な状態になっている。「でも、聖者様って胸ないよな……」「バッカお前、そこがいーんだろ!」などと殴り合いを始める連中も一人二人ではなかった。

 自分でバラすとなんか、変態みたいな気もするしなぁ……だれか気付け。

 と、思うものの誰一人気づかず。さらに美咲がアカツキ諜報部の総力を挙げて改竄した辰馬のプロフィール「性別:女。ただし事情により男として育てられた」の一文により、それまで辰馬を男と信じて疑わなかった連中までが辰馬を「やっぱ、新羅って女!?」と信じ込む始末。この先、辰馬が蒼月館を卒業、軍学校も出て正規の軍人になった際、身体検査の結果ようやく誤解がとけるまで、ほぼアカツキの全人口が「聖女・新羅辰馬=女」と信じることになる。まあそう言う話。

 で、いろいろ済ませて会食会の打ち上げで。

「あたし、今度軍学校の試験受けまーす! 応援してね♪」

 辰馬は心で泣きつつ、表向き超ポジティブな元気少女を装うのだった。

………………
以上でした! それではこれから皆様の記事を読ませていただきに伺って、それから創作に移ります!

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遠蛮亭 2022/09/25 15:26

22-09-25.日之宮の齋王.4.母胎の巫女

おつかれさまです!

今日もくろてんのみにして創作頑張るつもりでしたが、結局その創作が「齋王」なのでこちらに上げます。瑞穂さん、くろてんとは違って本当に容赦なく使い倒されちゃいますね。まあパラレルなのでくろてんにおける瑞穂さんとは一切関係がないのですが。

そして広輪さまにイベント絵のラフ提出を開始しました。いまのところ1番、タイトルから5蛮、瑞穂さん土下座までと15番.アナルスライム、16番.ハエに犯される瑞穂さんの7枚のみ。あと何枚か使える絵がある気がしましたが…。

ともかくとして、今日の「日之宮の齋王」です。

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日之宮の齋王.4.母胎の巫女

 奥津城における齋姫陥落の報は山を隔てて隣の同盟領、日奈沢に届けられた。日奈沢を統治する姫巫女は沼島寧々。年齢は二十でほかの姫巫女たちよりすこし年上だが、気さくで明るく良い意味でぽややんとした性格から瑞穂やほかの見目尊の間に隔意はない。瑞穂のことを実の妹のように思っていた寧々は、瑞穂が受けた凄惨な凌○の知らせを受けるとヒノミヤ内宮府・紫宸殿の将・長船言継に強い敵意を燃やした。

 とはいえ、向こうは3万か…。兵力が足りないわねぇ・・・。

 口元に手をやり、考える。日奈沢の動員兵力は頑張っても12000、10万と号し実数3万の言継に対抗するのは、少々厳しい。

 いざとなればわたしの力を解放するけれど…。あまり、使いたくはないわねぇ…。

 沼島寧々の神力は「視線をかわした相手の精神を支配する」というもので、この能力の強力なところは敵が一度に数百数千であろうと寧々の目を見た相手をまとめて精神掌握可能であることと、そしてなにより強烈なのは通常の瞳術と違い、相手が目を閉じようと「意識の目」が自分を向いているならお構いなしで支配力を発揮すること。消耗が激しいことと人の精神や尊厳というものを蹂躙する力であるためにできることなら使いたくはない力だが、長船言継を打倒し瑞穂を奪還するためならその禁を破ることもやむない仕儀と、寧々は覚悟を決める。

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 そのころ奥津城。

神楽坂瑞穂は長船言継の逸物を咥え、みっともないひょっとこ面をさらしながら唇の輪と舌先で言継の巨根をしゃぶり上げていた。

「んっ…んじゅ、ぢゅぷっ…♡ ぐぢゅぶ、ちゅるっ、れろれろ、ぢゅぶぅ♡ くちゅ、ずゅぶっ、じゅぶーぅっ、れろれろ、ちゅぱぁつ、れろ、れろ、れろぉっ♡ じゅばばぁっ、ずじゅびゅぅ~っ♡」
「くく…姫さまの口もなかなか、熟れてきたじゃねーか…」
「じゅぶっ…は、ふぁひっ♡ ありがひょふごじゃひまふ、言継しゃまぁ♡」
 瑞穂の熱意と誠意にあふれるフェラ。言継の巨人クラスの巨根に手古摺りながらも必死でしゃぶって奉仕する齋姫に、言継は満足げにふふんと淫笑う。

「ぢゅぶっ♡ じゅぶぶぅ♡ ずゅぶっ♡ んっんっんっんっ♡ んふぅっ、んぐぶうぅっ、ずじゅぶぅ~っ♡ ぢゅぽぢゅぽぢゅぶぶうっ♡」
 もともと多淫でありながらも性知識が少ないという、染め上げるのに理想的な資質を備えていた瑞穂は調教の結果、男に犯されることに対する忌避感の薄い売女、卑女に成り下がっていた。まだ技巧的に完成されてはいないものの、男が要求を告げれば可能な限りそれを実現し、男を喜ばせようとする。自分がなにものでなんのために奥津城の鎮護を担っていたのか、男性原理の神月派に対する抑止力としての自分、そうした本来の自己の存在意義は粉砕され、そちらに目を向ければ心が軋み痛みを訴えるため、瑞穂は意識的にそこから目を背ける。

 それでも時折、戦わなくてはと齋姫本来の気概が回復する瞬間もあるのだが、それはその都度、快楽の波に押し流されてしまう。瑞穂はあまりにも子宮の疼きに対して無力すぎ、言継の逸物は破格過ぎた。

「さぁて、そろそろブチ込んでやっかぁ。オラ、口はもーいい、さっさとケツ向けて突き上げろ」
「ふぁ…ふぁひっ♡ あぁっ、言継様のおチンポさま…♡ 雌犬の瑞穂を後ろから串刺しにしてくださいぃ~♡」

 口に溜まった涎と精液をぬぐう間も惜しく、命ぜられた通り四つん這いになると大きな丸いお尻を突き上げる瑞穂。まったく惨めな雌犬の姿だったが、そのことを哀れだ惨めだと儚むような意識はいまの瑞穂にはない。挿入していただける、その期待だけですでに腰をヒクヒクと痙攣させ、秘裂からは愛液がとめどなく滴って布団にシミを作る。言継は満足げに顎をしゃくり、瑞穂の尻を掴んで一発パシィン、と尻タブをひっぱたくと、「きゃうっ!?」と悲鳴を上げた瑞穂の秘裂に巨根を突き刺した。

「あおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ♡ はへつ♡ あへ♡ あひぃぃっ♡」
「3万人に輪○させたってのに締まりが衰えねーなぁ、お前は! なかなかいーぜぇ!」
「はぁっ、はひっ! あ、ありがとうございますっ! 言継様のおチンポさまに気持ちよくなっていただけるなら、それ以上の幸せはありませんっ!」
「なに言ってやがる、オレのチンポよりテメーのマンコが喜んでんだろぉが!? 責任転嫁してんじゃねーよ、クズ豚便器が!」
 ズシュ、ズシュズブッ! 咎めるように、言継は瑞穂の膣癖を擦り立て、子宮口を連打する。一瞬で瑞穂は余裕を失い、「ああ、ああ!」と喘ぐばかりになった。

「あっああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ♡ す、すみませんもうしわけありませんごめんなさいぃっ! そ、その通りです、わたしはおマンコのことしか考えてないエロ豚便器です゛うぅ゛っ♡♡♡」
「あんまり舐めた口きいてっとナカダシしてやんねぇぞ?」
「あぁっ、そ、そんなあぁ!?」
 先日の初凌○以来、瑞穂は膣内射精狂いに成り下がっいてた。性欲旺盛ではあるがまだ性知識に疎いままであり、膣内射精が子供を孕む危険性をはらむという事実を教えられていない瑞穂にとって、膣内射精はただ外出しより格段に気持ちいい行為という認識でしかない。

しかし言継の非情はそれだけにとどまらない。一戦終えた言継は瑞穂を魔物兵の兵舎に連行、すでに当初の地獄輪○で魔物兵たちとの行為も経験されている瑞穂だが、言継はただこのバケモノたちに瑞穂を犯させるのではなく事前、とある錠剤をのませる。それは『堕淫の妖種』といわれる呪薬であり、服用した女の胎内を作り変えてあらゆる異種との交配を可能とさせる。これから先の戦いにおいて強い兵士はいくらいても足りないぐらいであり、言継は瑞穂の腹を使って錬金術的に魔物を増やそうとしていた。

「ってわけで、魔物を産んでもらうぜぇ?」
「そ…んな…、言継さま、ウソ、ですよね…怪物の赤ちゃんなんて、そんな…」
「そーいうお決まりのセリフもまあ、滾るんで必要ではあるがな。けど、いーからヤられてこい。強い兵を産めよー」
「そんな…そんな、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~ッ!!」
 この瞬間、瑞穂の精神を覆っていた陶酔と恍惚の靄が晴れる。長船言継という男は邪悪の権化であり、けっして相いれる存在ではなく倒さなくてはならない。そう確信するに至った瑞穂は言継から飛びのき、必殺の術式、時間を操る「トキジク」の秘術を放とうとする。

「フン…この期に及んで正気付いたかよ。ま、いーや。呪装機人としての性能テストといくかぁ」
 呪装機人化している言継の身体には複数の呪具が埋め込まれているが、その中でも特に別格のものは呪具【封神符】と、その常時発動効果だ。さきの奥津城攻防戦、兼定玄斗との戦いで瑞穂がトキジクを使わなかったのは時間的余裕がなかったこともあるが、言継の封神結界の影響を受けて神力を阻害されたことも大きい。その封神結界を、言継はフルパワーで発動させる。神力が周囲から奪われて、世界の精彩がわずかにくすんだ。

「封神…結界…?」
 神力を練り上げることができず、トキジクを発動させられない瑞穂。言継の周囲の時間を数百年早送りして灰燼と帰すつもりだった瑞穂の思惑は、完全に外れる。

「反抗的な豚にはしっかりしつけをしねぇといけねーからなぁ。幻影十絶陣!」
 言継の方がさきに叫んで、必殺の術を放つ。瑞穂の周囲に暗い幻の檻が生成され、十本の幻剣が矢継ぎ早に瑞穂の全身を切り刻む。直接肉体にダメージを与えるのではなく、精神を切り刻む刃ゆえに遠慮呵責の必要はなし。瑞穂は切り刻まれるたび聞くに堪えないような悲鳴の叫びをあげ、「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~~ッ!?と」涙を流し失禁すらして倒れ伏した。

「フン…思い知ったかァ、クソザコぉ!?」
 ダウンする瑞穂の頭や脇やおなかにつま先蹴りを入れる言継。ボコボコにされながら、幻影十絶陣の超威力に翻弄された瑞穂はろくに身じろぎすることもできない。

「は…ひぃ…っ、やめ…もう、許してぇぇ…」
「許すわけねーだろ。さっさと孕んでこいや、豚」
「そんな…いや…いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~…っ」

 そうして豚面人身の妖鬼、并封に犯された瑞穂はたちまちにおなかをぶっくり膨らまされ、その日のうちに強力な紅并封を産まされる。何匹もビチビチと瑞穂の秘裂を逆流して犯しながら生まれた紅并封の兄弟はすぐさま母胎にのしかかり、瑞穂を徹底的に凌○、瑞穂はハイライトの消えた瞳で「ゆるして、許して…」と呟き続けた。

‥‥‥…………
 ヒノミヤ神官長にして神楽坂派当主、奥津城の主・神楽坂相模は兵を率いて内宮府から奥津城に向かったが、愛娘の敗北を聞いて直接、奥津城に向かうことをやめた。相模の率いる兵員は約8000、うち400が通常兵士に10倍する戦闘力を謳われる戦巫女であり、よつて戦闘力においては12600といっていい。しかしこの戦力でも現在、奥津城を占拠している長船言継の30000には拮抗しがたく、また、相模は瑞穂が負けたという情報から、長文侮るべからずと慎重になった。よって北上し、日奈沢に向かう。沼島寧々は神楽坂派であり、情報を共有し戦力を貸与してくれるはずであった。

「神楽坂翁、ようこそ参られました!」
 寧々はわずかに慌てて応接に出る。相模来訪の意図はすでに承知、力を貸すことにも問題はなし。寧々は日奈沢の兵力12000を動員、相模と轡を並べて奥津城へと進軍する。が、7月に入り長雨。水と泥濘は山がちな奥津城をさらに難攻不落のものと変えた。

‥‥‥…………
「相模のジジイと沼島が攻めてきたか…」
「敵には戦巫女があって戦闘力は侮りがたいものがあるかと」
「おー。確かに真向でやりあうとめんどくさそうだなァ…」
「隊長、なんか作戦がありやすか!?」
「作戦ってほどのモンでもねぇーが。いま日奈沢はがら空きなんだよなぁ? 魏を囲んで趙を救う、といくか?」
 魏を囲んで趙を救う。敵の大軍が味方に攻撃を加えてきたとき、その味方に援軍を送るのではなく敵の本拠地を叩くことで囲みを解かせる、という戦術である。もとアカツキ軍学校の学生で戦史と戦術に関して造形深い言継はそう言って、玄斗と長谷部に細かい作戦内容を伝える。

「まあ、オレはここにいねぇと策を見破られっからなぁ、別動隊の指揮官を選抜する必要があるが…」
「そんじゃ、オレ様が!」
「いや、玄斗はさきの一戦で活躍しただろう。今度は私だ…」
「いや、もっと適任でしかもおもしれー指揮官がいるわ。…瑞穂を使う」
「……大丈夫ですか? 一度叛いたとのことですが?」
「一度叛いたからこそ、徹底的に力の差を分からせたからよォ。絶対的な恐怖で抑え込まれてる限り、あの豚便器は逆らえねぇーよ」

 かくて。神楽坂瑞穂は長船言継の軍の出産母胎にされたうえ、さらには言継の武将として義父と、姉同然の姫巫女を陥れる作戦に従事させられることなった。

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以上でした! 瑞穂さんのフェラがひょっとこのはずなのにふつーのフェラになってて、あーこれいかんわ、失敗だわと思いました。これはあとで描き直して広輪さまに提出します。それでは!

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