投稿記事

2022年 09月の記事 (68)

遠蛮亭 2022/09/25 09:25

22-09-25.くろてん2幕4章2話.宰相の真実

昨日は夜通し起きてたので朝になって辛くなり、6時から2時間寝ました。オールナイトニッポン、最近のパーソナリティーはあんなふうか、とここの所聞くことがなかったので新鮮。朝になると宗教の番組ばっかりなんですこし気が滅入りますけども。

で、昨日は昼過ぎまでゲーム制作やって、そのあとくろてん5幕2話と3話を書いて、お絵描きで立ち絵3つほど描きました。ゲーム制作に集中するはずだったのですが、なかなか集中できず…ホントは「くろてん」か「齋王」をしっかりやるべきはずのところ、すこし滞ってます。まず「齋王」のリリースは来年2月末予定なので大丈夫のはずではありますが、シナリオ大枠はできていても細かいところまでは作り込んでないですからね、とりあえず小説版「齋王」を書いて詳細を詰めないとなりません。これが2日ほど止まってますが。

昨日のお絵描き。次回作候補「草原の覇者」アミール・ナーディル・ティムール。イスラム風ということで鎧は革っぽく、下半身は鎧なしで巻きスカートみたいなのを巻く、という感じにしてみました。草原と砂上における騎兵使いの天才です。年齢は20代後半から30代前半くらい?

こっちがターバン巻いたバージョン。ほかに自分用版権エロゲの立ち絵を描きましたが自分用のVBA・セレナとかあいみす・アナちゃんとかはここに上げる必要ないでしょうということでひとまずこれだけ。

では、くろてん行きます。新たな「聖女」と、宰相本田馨紘登場。

………………………
黒き翼の大天使.2幕4章2話.宰相の真実

 魔王復活、その報せが京師を震撼させると同時、太宰の町は甚大なダメージを受けていた。そこかしこで建物が倒壊、大地は避け、瀝青《れきせい=アスファルト》はめくれかえる。そしていつも青々と悠久をたたえていた艾川支流、京師中央を縦断する雛見川《ひなみがわ》は、魔王の力に怯えたかのように赤く染まるという天変地異を示した。

 実際にはクズノハは魔王ではない。魔王とは二人の創世神のうち、グロリア・ファル・イーリスの裏切りを受けて堕とされた存在を指すのであって、かのものの魂は常に転生を繰り返す。先代が死んだ瞬間からそれは辰馬の中にあるのだから、正統は辰馬にある。

 が。

 実際問題、その新羅辰馬も含めて先の魔王戦役を勝ち抜いた新羅狼牙以下「魔王殺しの勇者」たちがまったく、子供扱いとすらいえないような大敗を喫したのが報道される……間の悪いことに、テレビなどというものが普及をはじめた現在。一家に一台のテレビではないとは言え、家電店の店先だったりたとえば蒼月館の学園内各所には大画面カラーテレビが常設されており……にいたって、「勇者完敗」の報が「魔王復活」を猛スピードで追いかけるに至る。

 こうなると矢面に立つのはまず狼牙ということになる。「勇者が魔王を殺せないで、なにをのうのうと息をしている!?」まさにそういうことであり、しかもそこで狼牙の瞳の色が言及される。赤い瞳は魔族の血。当代の勇者は半魔である! それまでそのことを薄々とは察しつつ、一応功績に代えてお目こぼしされていた狼牙だが、これで彼を守る世論は完全にぬぐい去られ、商工会役員としての仕事も一瞬で奪われることになる。また聖女アーシェ・ユスティニア・新羅の過去についても何処の何者かわからない極秘諜報員により「自ら魔王に股を開き、さらにその配下の魔族とも寝た女」と大々的に報道された。

 ルーチェと蓮純は直接的に「聖女」「勇者」でなかったため風当たりはまた柔らかかったが、それでもギルド緋想院蓮華堂は当分、閉鎖を余儀なくされた。

 そして。

 新羅辰馬は。

「くそが! こんな、状況! 負けられっか、じょーとーだ、あのクソ姉!」

 いつもなら一番、凹んでしまうはずの辰馬は、父たちが敗北のショックと絶望的状況にうちひしがれる中、こうしてひとり気勢を上げていた。ツナギに着替え、滑り止めつきの手袋を装着、いつもは横垂らしの銀髪はポニーテールに結い上げて、復旧作業に奔走する。「あいつも魔族の子だろ?」「いや、ホントはあいつが魔王だって……」そんな声には一言で切り返す。それがどーした関係あるか。

「っ……せ!」

 重たい瓦礫の撤去作業は、見た目より相当に強いとは言えやはり、辰馬向きではない。だが辰馬にとって今回の状況は自分の姉が引き起こし、止めるべき自分が止められなかった事態。

「はいこっち終わり! 次は!」
「ぁ……あぁ……次は……」

 鬼気迫るスピードと手際で瓦礫を退かし、負傷者……あの戦いに巻き込まれての死傷者はゼロだったが、倒壊する建物やらなんやらに巻き込まれてのけが人は相当数にのぼった……たちを助けていく。そのひたむきな献身性を見てある人が「聖女だ……」と呟いた。その言葉の波及性のすさまじさと言ったら! とにかく魔王復活に希望潰え、誰もが縋るよすがを求める今である。辰馬の美貌と、そして馬車馬のように一途な献身はとんでもない勢いで人々の心を打った。いや、実のところ辰馬のことをよく知っている人間なら「いや、あいつ男だし。がさつだし。態度悪いし」というところだが、幸いにして辰馬のことを「深く、良く」というほど識っている人間はそうそう多くない。ヒノミヤの斎姫・瑞穗や全世界クラスのアスリート・雫らに比べれば、辰馬の人気など蒼月館ローカルでしかないのが幸いした。それでもやはり、新羅狼牙の息子、であったり魔王の継嗣、という事実が暴かれ、帰宅後の新羅邸は大いに報道陣と野次馬で賑わったが。

「あー、あたし、鍛え直さないと。全盛期からだいぶ、腕落ちてたね。やはは……」
「まぁ、そーだなー。おれもレベル上げていかんと。とはいえ、蓮っさんのところ……は無理だし。つーか一般のギルドがおれらに仕事をくれるかどーか……」
「てゆーか、今日一日であの報道陣の数っておかしくないかな? 誰かが前もって用意してたって気がしない?」
「そらまぁ、まず覇城のガキだなぁ。あいつはおれを潰したいつもり満々だし。おれを潰してしず姉盗れれば万々歳だろ。ま、あの姉貴とクソガキが手ぇ組んでんのか、それとも互いの行動を利用し合ってるだけなのか。そこまではわからんが」

 夕食後。辰馬と雫はベッドの上で一緒に語り合う。色事ではない。今日の所はあくまで仲の良い姉弟の語らい。そもそもが気丈に振る舞っていても、辰馬が今、誰よりも不安を抱えているのを知っている雫が、そこで野放図に肉欲に訴えるほどデリカシーなしでもない。普段の逆レふうセックスはあれで辰馬がまんざらでもないことをわかっているから、成立するのだ。

「どーする? 瀬名くんに頭下げる?」
「下げるかよ、あのばかたれ。逆に吠え面かかす。なんか知らんが、今おれは大人気人物らしいからな!」
「あー……うん。女の子として、だけどねー……」
「今更どーでもいーわ。利用するだけする! みんな大好き、献身の聖女様に喧嘩売ったら三大公家筆頭だろうが世論が黙ってねーだろ?」

 ずいぶんタフに状況を考えるようになった辰馬だが、やはり本当は不安だらけではある。自分が「魔王継嗣」として叩かれるくらいのことは昔から想定していたが、自分の周囲の、父や母、叔父叔母が戦闘だけでなく社会的に全滅させられたのだから無理からぬ事。しかし嘆いても事態が好転しないなら、剛毅に構えて自分で事態を動かす……これもまあ、瑞穗たちだったりさっき買った兵法書「兵論考」だったりの影響か。

「でも、世論だけじゃあ結局、押し負けるよね? 拮抗できる権力がないと」
「それはまあ。こっちには三大公家の残り二家の公主と、それに、大宰相秘蔵の天才侍従どのがいるからな。瑞穗の顔も出せば親ヒノミヤ派が動いてくれるだろーし、磐座はあれマジモンの天才だから作戦立案は任せよう。サティアとエーリカは……今回頼めることが少ないかも知れんが、ともかくみんなに協力して貰う」
「うんうん♪ こーいうのもいいねぇ、拳と拳の競い合いじゃないやつ!」
「まーな。そんな感じだが……勝たねぇと「悪くねぇ」とは言えねーわ」

‥‥………

 翌日、新羅辰馬は前日同様の作業をこなす。なにやら聖偶像《アイドル》化された辰馬には一日で何十万というわけのわからんファンがつき、そいつらが邪魔で作業が滞る場面もあったが、ここでブチ切れは好手ではない。

 よって。

「みんなー、あたしのために集まってくれてありがとねぇ~♪ きゃぴっ?」

 雫の真似してかわいらしくウィンク。ポーズをつけて体を反転させてみせるというサービスさえ見せる。阿諛追従《あゆついしょう》をなにより嫌う辰馬とは思えない行動だが、見据える勝利を掴むためなら泥水だって啜る。

 さてその日の作業終了後。

「辰馬さま、準備、よろしいですか?」
「おー……さすがに撮影会とか、泣けるわ……写真、今後ずっと残るんだよなぁ~……」
「まあ、そう嘆かずに。可愛かったですから」
「そーいうの、男としてはすごい傷つくからな、晦日?」
「それは失礼しました。てっきり楽しんでいるものと……」
「いや、案外最後は楽しくなってきて正直、自分が怖くなったが」

 シンタのように劣情を向けられると「しばくぞ!」としか思えないわけだが、純粋な好意でちやほや褒めそやされればそれは、気分が悪いはずもない。ある意味、追従する幇間《ほうかん=たいこもち》に持ち上げられて調子に乗る権力者の気分を疑似体験した辰馬だった。

 そうした権力者と辰馬の違いは、「これ以上調子に乗ったらいかんな」としっかり身を律せる自制心があることで、この精神力がある限り辰馬が為政者となって道を誤ることはなかろう。実際10数年後、新羅辰馬は「完全無欠の赤帝」として史上最高の名君の名を恣にするのだから。まあ実のところ、本当に完全無欠かと言われればそんなことは全然なく。人間的欠陥や弱点は多いほどで、むしろそれゆえに近臣や后妃や民草から愛されたが。

‥‥‥………

「久しいな、辰馬くん。ヒノミヤ事変では世話になった。なにせうちの昏君《こんくん》が最後の突撃を敢行するきっかけになってくれたのだから、本当に大功だ」
 宰相・本田馨紘《ほんだ・きよつな》はまずそう言った。

 ここはとある高級料亭。辰馬がAランクのクエストをこなしたとして、一間さんでは門もくぐれない程度にはお高い店。実質的にこの国を一人で動かしている豪腕の大宰相と、魔王の血統やらなんやら、祖父がもと禁軍武芸師範として当時まだ若手の馨?の上位にあったとはいえ、ともかく一布衣《いちほい》に過ぎない辰馬。それが王宮で対等に会話するわけにはいかないから、美咲がこの場をセッティングした。

「美咲もずいぶん表情が柔らかくなったようだ。君の影響だとすれば父代わりとして、非常に嬉しい」

 ……なんか、思ってたのと違うのな。

 本田馨紘という老人は血も涙もなくゆかを人質にとって無理矢理に美咲を働かせていたのだというイメージがあったわけだが、どうにも。なんだか子煩悩というか、親バカな父親に見える。まあ、実のところこの老人、ときたま新羅家に来るとかつての上官、新羅牛雄と一緒に吐くほど飲み倒して、ついでに裸踊りの安来節《やすきぶし》を踊っていくぐらいのヘンな祖父さんだから、美咲の語るイメージとはなんだか違うとは前々から、思っていたのだが。

「宰相! わたしのことはいいんです! つまらないこと言っていないで辰馬さまのお話を聞いてあげてください!」
「はは、「辰馬さま」か。この子がまさか、他人を名前で……このクソガキいぃぃっ!!」
「うあぁ!? びっくりしたぁ!」
「貴様まさかウチの娘に手は出しておらんだろうなぁ!? もしそうなら、そうなら新羅閣下の孫といえど……ブチ殺すぞ!」

 ダメだこの爺。完全なバカ親じゃねーか……。

「罪人の、墓守の家系だった晦日《つごもり》家に小日向の家宰としての任を与え、救済したのはこのワシ! つまりワシこそが美咲ちゅわんの白馬の王子様なのぉ! だからお前なんかぺぺぺぺぺーっ!!」
「唾飛ばすな、汚ぇ! アンタほんとに仕事できんのか、そんなんで?」
「仕事ぉ? 仕事なんぞ寝ててもこなせるわ。そんなことより美咲ちゅわんとの関係は……」
「そんなことより。アンタなら覇城大公家を押さえ込める、そう思ったんだが」
「覇城。フム……クソガキ、お前のもとには小日向と、北嶺院の公主がおるな」
「ああ。いるなぁ。ゆかはアンタに無理矢理推し着けられたんだが」
「そして、名声では比類ない神楽坂の姫と、あの半妖精の娘」
「うん」
「それに現在、ヒノミヤ敗北で急速に信仰衰えつつあるこの国の信仰の象徴となり得る、新しい創世の女神」
「ぁ……あぁ」

 まさかサティアのことにまで言及されると思っていなかったから、辰馬はやや鼻白む。とはいえもともと、馨紘が本格的に辰馬を監視するようになったのはサティア戦の頃からなのだから、知っていて当然。

「さらに。いま人気絶好調のアイドル、しかも正真正銘の姫君、エーリカ・リスティ・ヴェスローディア」
「アンタうちにスパイでも飼ってんのか?」
「いえ、スパイってわたしです。すみません……」

 思わずキレのいい突っ込みを飛ばす辰馬に、美咲が当たり前と言えば当たり前の言葉で返す。そういえばこの少女の仕事は密偵だったと、辰馬は今更に思い直す。

「とまぁ、これだけ手札が揃っておれば覇城の洟《はな》垂れを泣かすくらいは簡単じゃろ……とは、思うが。まあ新羅閣下の孫だ。少しは手を貸してやる」
「あ……、あー、うん。助かる!」
「ただぁし! 美咲ちゅわんには手を出すなよ、殺すからな!?」
「お……おう……」

 すでにいたした後である、などとは口が裂けても言えそうにない。辰馬はこの秘密は墓まで持っていくことを、固く心に誓った。

‥‥‥…………
以上でした! それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/24 07:10

22-09-24.くろてん2幕4章1話.君臨する魔王

おはようございます!

昨日怠かった…。昼から頑張るつもりでしたがなかなか進まず。一応、ゲーム「日之宮の齋王」のイベント1番五十六とみのりん、イベント2番瑞穂さんおしっこ→ショタチンポフェラまで組みましたが、その先、戦闘を挟んでのイベント3~5を進めることができませんでした。時間はあったんですが身体が重く…、やっぱり病気だしなぁと痛感です。元気な時はそのぶん頑張らんと。

今日はそういうわけなので今から頑張ります。戦闘部分飛ばしてイベントのほう、先に進めようかなと。くろてん以外の時代のアルティミシア九国史についても小説化してゲーム化してしたいですが、ひとまずは「齋王」をやります。ついでお祭りSlgの予定でしたが、その前に祖帝シーザリオン、蛮王ゴリアテ、剣王アータル、草原の覇者ティメルランの物語を別個に作りましょうかねと思います。くろてんの辰馬くんまで5人の覇王の話を全部描いて、それからお祭りにしようかなと。すごい時間かかりそうですが。

さておいて今日のお絵描き、これです。

瑞穂さんハエ姦。舌突き出し。

差分。嫌悪感。

差分、絶叫。

差分、恐怖。

差分、アヘ顔。

さすがに毎日1話ずつ書くことは不可能なので今日は「齋王」の更新ないんですが。このハエ姦も「齋王」で広輪さまにリファインしていただきます。少女とバケモンの組み合わせっていいです。美少年と美少女の正統派的な組み合わせも大好きですが。

それでは本日のくろてん。

………………
黒き翼の大天使.2幕4章1話.君臨する魔王

「魔王って、必要だと思う?」

 感情の読めない笑顔で、クズノハ……魔皇女はそう言った。

まさか。

 とは思う。

 当面、人間に敵対するつもりはない、そう言ったのはそう遠い過去の話ではない。それを突然翻す理由も……考えられるとすれば先日の、瀬名のやりようか。

「あーいうのはあのバカガキだけだぞ? いや、そりゃ許せんかもしれんが……」
「そう。許せないのよ、わたしは。同胞を遊び半分に殺されて、それでまた、バカみたいに笑ってられるほど気長ではないのよねー」

 相変わらずの、読めない笑顔。しかし急速に、圧が高まる。気弱な人間なら彼女のそばに近づいただけで失神しかねないほどの魔力。まだ魔王化はしていないにもかかわらず、その魔力の凄絶なこと、圧倒的。なにせ本気の新羅辰馬が、実力同士を真っ向からぶつかり合わせる機会をえてそれでも押し負ける相手だ。この場で戦うのは絶対に避けたい。

 雫と視線を交わす。さすが姉弟同然にして恋人、互いに意思交換は完璧。二人とも、どうにかクズノハの怒りをやり過ごす、で合致した。

「まあ、店ん中だし、落ち着けって」
「ふふ……いきなりこの国が地図から消えたら、流石に人間たちも思い知るかしら?」

 宥め賺す辰馬に、まったくクズノハは耳を貸さない。そして魔力の圧はぐんぐんと天井知らずに高まっていく。魔王化。腕を左肩に引き絞り、なぎ払う!

「七星?天《しちせいこうてん》! 那由多無限之黒炎燐火《なゆたむげんのこくえんりんか》!」
「嵐とともに来たれ! 輪転聖王《ルドラ・チャクリン》ッ!」

 辰馬も同時に、掲げた両手を振り下ろす! 互いの最大火力、漆黒の竜炎と金銀黒白の光の柱が、同時にぶつかり合い、相殺する。

 だがやはり辰馬に分が悪い。素の魔力が、あまりにも違う。盈力は神力魔力を超える一線画した力だが、それは威力に勝るとかいうことではなく創世神を殺しうる刃、としての意味。純粋な威力比べで、盈力が魔力を上回るという意味では、決してない。そして素質なら辰馬が勝るとして、向こうには70年分の研鑽があるのだ、それは勝てる道理がなかった。

 とはいえ辰馬にも矜持がある。守れる限りありとあらゆる命を守護するという義務感があり、それがなんとか周囲一帯を焦土と化すことを免れさせた。とはいえ、ファストフードショップはまずまず壊滅、咄嗟の守護結界で全部の客を無傷に守り抜いたのはほとんど偶然か、もしくはクズノハが手を抜いたか。

「まあ、今の辰馬じゃこんなものか……大した遊びにもならない、かな」
「遊びでこんなことすんなって……おれだって怒る……!」
「わたしもね。何十年も監禁されてたし、実際退屈してるのよ。だからもう、あの瀬名の態度にも腹が立ったことだし、人間界、滅ぼしちゃおっかなって」
「だから、そーゆーのやめろって! 瀬名とおなじ事することになるだろーが!」
「うん、まあ、今のままじゃあ辰馬、退屈しのぎにもなってくれないからね。ひとまずは、引くわ。ちょっと腕を上げなさい……というわけで、オリエ」

 す、と。

 雫にすら察知させず、小柄……とはいえ流石に、雫よりはだいぶ大きい……な褐色肌の少女が姿を現す。右手には大ぶりの強弓、褐色肌を際立たせる灰色ベースの衣服に、弓道のそれのような緑の胸当てと、両腕には紫の手甲。そして、赤い瞳。

 概して瞳の赤さが濃いければ濃いほど、魔族としての純度、格は高いとされる。今まで辰馬が見てきた魔族としてはクズノハと、そしてやはりローカ・パーラの一角だったユエガが別格。あと一人、辰馬の義父である新羅狼牙もまたかなり強力な魔族の血を引いているが。この褐色肌の少女は最低限、狼牙以上程度には魔族としての格が高い。下手をすると、本気の辰馬や雫がかなわないほどの相手。それですらもクズノハにしてみれば、「ここは見逃してやるからこの子程度には勝ちなさい」でしかない。

 褐色肌にとがった妖精耳。すなわちデック・アールヴ(闇妖精)である少女は、まず、辰馬に一礼。

「お初にお目に掛かります、皇子。そして、残念ながらお別れです」

 次の瞬間には必殺の矢が、嵐のごとく注ぐ。魔法で生み出された無尽の矢、凍気を帯び、雷を帯まとい、燃えさかる、巌の如き矢の嵐はまさに幾星霜。またも近隣さんにご被害が、と辰馬は全力振り絞って障壁。しかし障壁を創造するその隙に、辰馬の体に避けきれない矢が数十本単位で突き刺さる!

「っあ!?」

 瞬時に体に痺れが走る。地水火風四重詠唱どころではない、さらに毒や麻痺、脱力や気力減退など、あらゆるバッドステータスを付与してくる。辰馬の戦闘力は一合の打ち合いであっという間にほぼ完全に削がれた。

 くそ、すぐに解呪せにゃ……

「たぁくん!」

 それまでクズノハとにらみ合って牽制し合っていた雫も、衢地《くち》に落ちた辰馬を救うべくクズノハから目を離す。すかさず抜刀、抜き打ちの一閃、当然のように躱され当然のように二の太刀、指先狙い。これも避けられるが、詰めて三の太刀、脇の付け根に刺突。一撃で終わらない。回避されたら二突、三突。雫の必殺、流石にこれは不可避の筈だったが、それをさらに超越した身体能力で褐色の闇妖精……オリエは回避してのける!

「ちょ……うそ……?」

 達人なればこそ、斬り結んだだけで互いの力量はだいたい、わかろうというもの。そして雫がえた確信は……信じがたいことに、このデックアールヴへの少女は、武技だけでおそらく「竜の魔女」ニヌルタや「最強の騎士」ガラハド・ガラドリエル・ガラティーンを凌ぐ。

 信じられないことながら、これが「魔王の側近」たるものに求められる、最低レベルだとするのなら。本気のクズノハにはいったい、何処までレベルを上げれば歯が立つようになるのか。

 近接、ということでオリエは長弓を亜空間に収納……これも隔離世結界の応用……すると、短刀を抜いて軽く猫背気味に構える。

「しっ!」
「っ!?」

 辰馬を仕留めるより、雫を強敵と判断したか。狙われたのは雫。猿臂通臂《えんぴつうひ》というべき異様な腕の伸びから、まぶたの上を恐ろしい正確さで狙ってくる。かろうじて、雫は愛刀・白露で受けたが、もし雫の身体能力でなければ、まずまぶたを切られて脂で視力を奪われ、そのままなぶり殺しになってしまったところだ。どれだけ精神を研ぎ澄ませようと、人間が視力に依存する度は絶対的に大きいのだから、まずそれを奪う、というオリエの戦法がいかに実戦向きに洗練されているか分かる。

 ちっ、ききん、きんっ!

 打ち合う、打ち合う! 火花が散って雫が圧倒される。下から、分厚い短刀が雫の刀を強引に跳ね上げ、そして一瞬、ガラ空きになったどてっ腹に靴底で痛烈に蹴り!

「ぁぐ……ッ!」
「まずはお前から。死になさい、アールヴ」

 オリエの底冷えする声が、雫の耳に痛烈に響く。ダメージを受けること自体久しぶりだった雫は、自分が意外なほど耐久力を衰えさせていたことに驚きつつ、見下すオリエをにらみ返した。自分に普通の魔術は効かない。なら、なんらかの肉体的術式を行使する筈。そこにどうにかしてカウンターをあわせる!

その決意も固まらぬ前に、短刀が目にとまらぬ疾さで凪がれた。

しかし、雫の首が落ちることはない。一人の男の指が、人差し指と親指の間にがっちり刃をはさんで止めていた。膂力も凄いのだろうが、なにより凄いのは力の使い方だ。どこに力点を置いて作用させれば動きが止まるかを、完全に理解していなければこうはいかない。

「そこまでにしてもらおうか。ぼくの可愛い息子と、愛弟子をこれ以上傷つけさせるわけにはいかないのでね」
「わたしも、わたしたちの子に危害を加えるあなたを、許しません」
「助けに来てやったわよ、辰馬。おねーさんに感謝しなさい!」
「魔王の娘……ですか。アーシェさま以外に魔王の后がいたとはね……」

 やや潰れた感じにハスキーな美声は、もちろん魔王退治の勇者、新羅狼牙。そしてその妻にして魔王の后でもあったアーシェ・ユスティニア・新羅と、アーシェの妹、この物語の発端である魔王退治の旅を始めた人物ルーチェ・ユスティニア・十六夜、最後にルーチェの良人《おっと》、もとアカツキ皇国宰補にして人理を超えた人理魔術……すなわち天壌無窮の境地に到達しているこの国にただ三人のうちの一人、十六夜蓮純。かつて世界を救済した勇者たちと、その勇者に救われた聖女が、一堂に会す。

「へぇ……あなたが、わたしの父の仇、ってわけ? 確かに辰馬よりは遊べそう……でも無理ね。所詮、お父様のお情けで勝ちを拾った程度の男では。わたしを熱く焦がすには到底、足りない!」

 再度、燐火を熾すクズノハ。しかしその炎はたちまちに萎み、薄れる。

「……ふぅん、そっちの乳白色の髪の……どちらかというと、あなたが危険、か……」
「退きなさい、魔皇女。人と魔の間にふたたび諍《いさか》いを起こす必要はありますまい」
「理由は、そうね。特にないけど。退屈だから滅ぼす、気にくわないから滅ぼす。それはあなたたち人間がわたしたち魔族にやってきたことではなくて?」
「それに関しては人間を代表して謝罪します。しかし遺恨に遺恨を返すのは……」
「うるさい」

 燐火が力を増した。蓮純の使う煙草の魔術、強ければ強い力ほど多くを奪い取り、そして任意の仲間に還元する力。それに大きく力を吸い取られてなお、クズノハの魔力は過去に魔王を倒したはずの勇者一行を圧する!

 ズム! と想い爆裂音。そしてじぅ……ぐしゅ……と肉の焼け焦げる音。妻を庇った新羅狼牙は、胸板に大きなやけどを負った。しかしそれだけで済んだのはアーシェが障壁結界を展開したからで、逆説的にいうと聖女の結界があってすらクズノハの一撃は圧倒的だったわけだが。

「っ……とにかく、早々に決める必要がありそうだ。ルーチェ!」
「諒解ッ!」

 新羅狼牙とルーチェ・ユスティニア・十六夜は同時に神讃に入る。かつて魔王を屠った一撃、それをもう一度現出する!

「暗涯(あんがい)の冥主! 兜率(とそつ)の主を喰らうもの、餓(かつ)えの毒竜ヴリトラ! 汝の毒の牙もちて、不死なる天主に死を与えん!」
「書、宝輪、角笛、杖、盾、天秤、炎の剣! 顕現して神敵を討つべし、神の使徒たる七位の天使!」

 沸き起こるは魔力と神力。この二つを同時に放つことで、彼らは擬似的に盈力とおなじ、「神力と魔力の融和して一線を画した力」を行使する。創世神のかたわれでもあった魔王を倒しえたのも、まさにそのため。雷帯びる魔の重力塊と、どこまでも清廉にして激しい光の波が、同時に高まり、そして放たれる。

「焉葬(えんそう)・天楼絶禍(てんろうぜつか)!!/神奏・七天熾天使(セプティムス・セーラフィーム)!」

 轟音とともに、炸裂。一極のみに絞った破壊の暴嵐に耐えうるものはまず、存在しえないはずであり。それ故に、彼ら彼女らは驚嘆に目を剥くことになる。

「ふむ……まぁ、70点というところ?」

 片手で爆風を薙ぎ払い。まるでダメージの様子もなく。クズノハはそう言ってのける。

「やっぱり帰るわ。いまのあなたたちじゃ全然、熱くなれないから。辰馬が強くなるまで待ってあげる。……聞こえてるよね、辰馬。あなたが人間を守れるか、わたしが人間を滅ぼすか、競争よ」

 ふざけろバカ……競争じゃねー、それ狂騒やんか……。

 毒と麻痺とその他諸々によってまだ動けない辰馬。心の中にそう毒づいた。

 そして。

 これから先の時代。もはやかつての勇者、狼牙たちを頼ることは、出来ないらしい。

「ひとまず帰るわよ、オリエ。じゃーね、みなさん、そして……辰馬♪」

 将来の楽しみを見つけた、とやや嬉しげに。クズノハはそう言うと転移魔術で倒壊したファストフードショップから姿を消した。

……………

 以上でした! 今日は集中して作業するので、ほかの更新はナシです!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/23 11:59

22-09-23.中国史-郭子儀

おつかれさまです!

9時からゲーム制作をやりたかったのですが、昨夜眠れなかったツケで2時間ばかり眠ってきました。とりあえず制作に関してはタクティカルコンバットやSlgプラグインと競合せず、いろいろと効果を発揮するプラグインを入れて動作検証しました。ステートAの状態(騎乗状態)でしか使えないスキル(騎兵突撃)とか、合体攻撃スキルとか、いくつかのスキルを作っておいてスキル2を覚えたらスキル1を忘れるようにとか、ほかには味方を殴ったり敵を支援したりできるように。今回入れたプラグインは砂川赳さまのものです。他にも使いたいものが多くあるのですが、村人Aさまのプラグインと競合するので全部は入れられません。タクティカルコンバットを入れてカブト割80(攻撃力5倍)をつけないと長船の「呪装機人」としての戦力が発揮できないからですね。通常戦闘でもタクティカルパッシブは解除スイッチ入れてなければ有効なので、打撃力が顕著に上がります。というかパッシブつけないとダメージが15くらいしか出ない現状。

齋姫とか姫巫女たちに関しては魔力と魔防の数値をなん倍かするようにしてらいいかなと思ってます。アルティミシアでは女性が男性の倍強いとして、さらに巫女がその1.5倍、姫巫女が1.5倍、齋姫が1.5倍とすると瑞穂さんは通常の6.75倍…、これはさすがに数字がわけわかんないことになりますから、瑞穂さんで4倍というところでしょうか。瑞穂さんのスキルは気軽に使える神焔以外、すべて時間のかかる隙の大きいものであること、そして長船の能力が神力の一番強力な部分阻害する限定的な封神結界を秘めているので、スキルを「神力」ひとつではなく「神力」「上位神力」に分けて上位神力だけ封印するように作れば原作準拠になるかなと。Slgプラグインはまだわかりませんが、今回必要ないかもしれません。今の状態だと裏ステータスがタクティカルコンバットと競合してステータス表示できないので、それも修正お願いしてます。

ゲーム制作の話はこの程度にして、以下名将伝。本日は中国唐代、中興の名将郭子儀です。

………………

郭子儀(かく・しぎ。697-781)
郭子儀は華州鄭県の人である。父・郭敬之は綏・渭・桂・寿・泗の五州刺史であった。その息子郭子儀は長ずると身の丈六尺余り、体躯逞しく容姿衆に優れ、はじめ武挙で優れた成績を示し補左衛長史に任ぜられる。一生の間に則天武后、中宗、叡宗、玄宗、粛宗、代宗、徳宗の七代に仕え、その間60年余を軍旅に過ごし、その中でも天下の安危を一身に担うこと20余年。郭子儀はしばしば軍事の要職を任され、何度も重大な叛乱戦争平定の指揮をとった。彼は唐朝中期の著名な大将であり、傑出した軍事的才覚の持ち主であった。

 天宝十四年十一月、范陽節度使・安禄山叛く。十五万の叛軍を率いて范陽から大挙南下し、一か月にして河北各郡と河南栄陽、洛陽を落した。翌年正月、安禄山は洛陽に在って大燕皇帝を自称し、唐朝危急存亡。この危急に際して玄宗李隆基は郭子儀を朔方節度使に任じた。郭子儀は兵を率いて東に叛軍を討たんとする。四月、郭子儀は雲中、馬邑の両郡を回復したのち、井?から出て河東節度使・李光弼の部隊と会合、一挙攻勢に出て史思明の守る九門、藁城両県を四十数日で抜く。ここに至り常山軍の九県はことごとく唐朝の手に帰し、安禄山、史思明の叛軍は後方に強大な威嚇勢力を迎えることとなる。

 安禄山の後方基地は平戸と范陽の両鎮である。安禄山は洛陽を占領したのち急ぎ西進して帝を称し、ついで後方基地を確保した。河北各郡は洛陽から范陽に至るために必経の地であり、この後ろを扼されるということは退路を断たれるに等しい。そして実際河北の守りは失われ、安禄山はまさにすぐ後方を断たれ困境に立った。これよりのち、顔真卿、顔杲卿が挙兵して安禄山に反抗し、安禄山はすぐさま主将たる史思明に数万の兵を授けて河北回復に向かわせる。この状況下において郭子儀と李光弼は井?から出兵、史思明の後方を攻め、この一戦の戦略は李光弼が指導し、きわめて正確な策で史思明の軍を破った。

 郭子儀、李光弼の両軍は九門、藁城の両県を占領したのち、兵を率いて常山に下る。史思明は人馬を整えてこれを追った。郭子儀は史思明の軍を見遣って「我ら行けば賊もまた行き、我ら止まれば賊もまた止まる」と喝破し、一計を案じて精騎五百を派遣、彼らに挑発させて史思明の軍を誘導させる。史思明はそれと知らず三日三晩これを追い、唐県に至って人馬困窮。砂河で休養しているところに郭子儀らの本隊が襲い掛かり、疲労している史思明軍を強襲して大いに史思明軍を破る。安禄山は史思明が苦境にあると聞くや蔡希徳に増援の騎兵二万、また范陽から牛廷?に歩兵一万を授けて増援に向かわせた。河北地区の叛軍は五万人を超えた。

 郭子儀の率いるところの兵力は叛軍に及ばないと言えども、彼はただひたすらに速戦を求めるのではなく、策を弄して敵の疲労を待った。郭子儀率いる唐軍は沙河より北走し、叛軍に追撃を誘う。史思明は兵力大増して再び顧みることなく、これを追撃。郭子儀は恒陽に到達後、城池を堅牢にし、“賊来たらば守り、賊退けば追う”の戦術を採り、5万におよぶ叛軍が正攻法での戦いを求めるも受けなかった。賊は疲労状態の中撤退することもできず、六月末、郭子儀は史思明率いる幾万の兵馬が疲労耐えがたい状態にあることを見抜くと、大規模な攻勢に出ることを決定した。彼は李光弼の軍と連合して十万余の兵力を確保し、嘉山に五万の叛軍と一大会戦を展開する。郭子儀軍は勝利し、結果叛軍の死者4万余、俘虜1千以上を得た。叛軍の首領・史思明は馬上から打ち落とされ、鎧を壊され槍を折られ、狼狽して営中に逃れて急ぎ残部を収集して博陵へ退去した。郭子儀、李光弼は勝ちに乗じて軍をすすめ、博陵を囲む。

 嘉山の一戦で唐軍の威勢は大いに振るった。河北十余郡では紛々として叛軍の守将たちを殺し、次々唐朝に帰順を願う。安禄山は後方基地を徹底的に遮断され、往来を行き来する使者もみな唐軍に捕獲される。洛陽の叛軍は家族范陽、平廬にあり、退路を断たれて人心倉皇、軍心動揺した。加えてその上、唐の将軍・哥舒翰が堅守する潼関を攻めねば安禄山西に進むを得ず、北に帰るも得ずして地位揺らぐ。彼は非常に恐慌して狗頭軍師、高尚をもって自負する厳荘を招いた。厳荘を罵って曰く「貴公は我らに造反を教唆し、万に一つの失敗もないと言った。今事を起こして幾月が過ぎ、我は?、鄭幾州を得たがいま、この形勢は唐軍の挟撃を受ける状況にある。これのどこが万一の失敗もないというのか」と。ここに叛軍は商議して洛陽を棄て、范陽に退く。

 この一大好局を作り上げたのは郭子儀と李光弼の連合作戦の結果であった。もっともそれは郭子儀が敵の疲労を誘う戦術を採った故であり、本来郭子儀、李光弼の両軍をあわせれば10万余人あって5万の敵の頽勢を圧倒したのは当然の帰結である。しかもこれは郭子儀が戦術の上道を採り謹慎とした態度を取り、偽って逃走して見せ、敵軍を疲労の極地に追い込んでから出戦し、嘉山の戦いで敵の退路を断ち、戦闘の形勢を整えての一大殲滅戦を行い、その上での勝利であった。このとき、唐王は郭子儀と李光弼の提出する潼関堅守の策を採取し、北に范陽を攻めさせ、安禄山、史思明の勢力を黄河以南から滅ぼさんと命ずる。ただこのとき唐の帝は驕傲にして凡庸なる昏君、唐玄宗であり、戦局を精確に把握せず現場の声に耳を傾けず、哥舒翰率いて堅守する潼関守備軍に出戦しての反攻戦略を脅迫、哥舒翰はこの不自然な策に無理強いされる形で唐軍を率い出戦、安禄山軍の前に覆滅された。叛軍はすぐさま西に潼関を抜き、長安に攻め入り、玄宗は倉皇として成都に逃げ走る。唐王朝の東、西の両京は均しく叛軍に占領され、戦局は急速に悪化の一途をたどった。

 天宝末年7月、太子李亨が霊武にて登極、年号を至徳とし、粛宗に即位した。郭子儀は命を奉じて朔方軍5万を率いて駕前に赴き、1年間の準備期間をおいて唐軍を終結、朔方軍を増強する。叛軍はこの時期内紛が続出し、安禄山は息子の安慶緒に殺され、史思明は范陽にこもったきり安慶緒と足並みを揃えず。これらの状況を踏まえ、粛宗は一大反攻戦略を決策、まず両京の回復を目的とする。至徳2年4月、粛宗は息子の李保を天下兵馬元帥に、郭子儀を副元帥に任じ、洛陽および長安の回復任務を授ける。李保には寸毫の軍事的才覚もなく、実際に軍を率い責任を担うのは郭子儀の役目であった。

 5月、郭子儀は軍を率いて鳳翔から東に進み、長安略取の準備を整える中で城西、清渠を守る安守忠、李帰仁の軍隊と遭遇する。両軍対峙すること七日、安守忠と李帰仁は偽装退却で郭子儀を誘い、郭子儀はそれを罠と見抜けず追撃した。安守忠、李帰仁は即時騎兵九千をもって長蛇の陣を布き、郭子儀がその中腹を衝いたところを首尾の両翼が挟撃、城側は歩兵をも投入して唐軍を撃ち、結果として唐軍は大敗を喫す。郭子儀は潰走する軍を整然と収集してまとめ、それによってかろうじて面目をほどこした。

 清渠の戦いの敗戦以来、郭子儀の指揮は不当である、精騎に対する経験が欠乏している、これは長安回復の機が熟していない証左であるという声が軍中に流れていったん退却する。9月12日、唐軍は3、4か月をかけて兵力を補充した後、再び李保を総大将、郭子儀を副将とした15万の大軍を編成し、再び長安攻略に打って出た。9月27日、唐軍はまたも長安西面にて安守忠、李帰仁と張通儒率いる10万の軍勢と対陣する。

 郭子儀は清渠の戦いにおいて叛軍の精騎部隊の突撃によって壊乱させられたことを訓戒とし、軍を縦深の形に構え防備を固める。また自ら中軍を率い、李嗣業に前軍、王恩礼に後軍を任せ、同時に側翼の防護を強化した。交戦開始ののち、叛軍の李帰仁が真っ先に唐軍に挑戦、李嗣業すぐさま前軍をもって出撃し、李帰仁を撃退する。しかし叛軍はすぐさま部隊を再編すると、兵力を集中して李嗣業の前軍に吶喊、唐軍を撃滅する。李嗣業は勝ちにおごり武器を奪い物資を奪う叛軍に乗じ、隊伍を整頓し陣形を調整して再び猛攻、李嗣業が士卒に先んじ槍を振るって奮戦することで、戦場の形勢を好転させた。

叛軍は正面突撃では先がないとみて、騎兵隊を出陣させ迂回して唐軍の東に回らせ、右翼からの奇襲を企図する。郭子儀はこの戦況を見てすぐさまウイグル鉄勒部の領袖、僕固懐恩に四千のウイグル騎兵で迎撃させる。このウイグル騎兵こそ郭子儀が叛軍の騎兵に対抗すべく特に粛宗に建議してウイグルの懐仁可汗より借り受けた部隊であり、数は少ないとはいえその戦闘力はきわめてすぐれたものがあった。事実、叛軍の騎兵はたちまちのうちに消滅させられる。しかるのち、郭子儀はまた彼らに命令を下して叛軍の後方に迂回突撃を仕掛けさせ、同時に前軍と中軍を指揮して猛攻勢を発動、唐軍は両面からの挟撃を受けながらも、ついに叛軍を潰走させるに至る。半日の激戦で唐軍が殲した敵の数は6万余人にのぼる。叛軍は残余の兵を収集して長安城に籠った。このとき本来であれば唐軍は勝ちに乗じて敵の退路を截つべきであったが、元帥・李保の疲労ゆえ兵を収めることとなり、郭子儀らの主張する追撃は棄却された。結果として安守忠、李帰仁、張通儒の三人は夜陰に乗じて長安を放棄し、東に撤退する。

三日ののち、郭子儀は兵を率いて東進を継続する。唐軍の行動は遅延に過ぎ、叛軍はその間に新しい部隊を増新する時間を得た。洛陽を確保する安慶緒は厳荘に洛陽防衛の主力を授け、西上させ長安からの退歩軍と会合し、合力して唐軍を阻めと命じた。このとき、叛軍の総兵力は15万に達している。

10月15日、郭子儀は新店にあって叛軍の主力と遭遇。叛軍は山を背に陣を連ねた。郭子儀はまず正面攻勢を仕掛け、またウイグル騎兵たちによる側面強襲を仕掛ける。正面攻勢は利なくして終わるも、僕固懐恩率いるウイグル騎兵は南山に至って叛軍の側翼に猛烈な沖撃を加えた。叛軍はウイグル騎兵に恐懼し、矢を見てはこれウイグル騎兵の矢なりとおびえ、たちまち壊乱する。郭子儀はこの機に乗じて大軍による猛攻を仕掛け、正面と側面からの挟撃を形成し、大いに叛軍を破る。厳荘ら叛軍の将らは残余の兵をまとめて東へとのがれた。10月16日夜、安慶緒は主力の惨敗を聞き大いに驚き慌て、騎兵300騎と歩兵1000人を率いて洛陽を逃れ、?城に逃れる。18日、唐軍は東都洛陽に入り、これを回復。郭子儀は両京回復の大功により代国公に封ぜられた。粛宗は詔を下して「我が国家と言えども、それを再造したのは実に卿の働きである」と讃嘆した。郭子儀の名声、大いに振るう。

その実、郭子儀の両京回復における作戦指揮は十全十美とはいえなかったが、彼は叛軍の精騎隊の精悍に対して巧妙な陣立てを組み、両面挟撃戦術を採り、ウイグル騎兵の勇猛果敢を十二分に発揮させて敵騎を破り、敵軍の側翼を衝き、それらがすべて的に当たった。しかるに、彼は自己の力量に拠らず、ウイグルの力を借りるという道を取った。それは上策ではありえない。しかし凡庸なる昏君粛宗は大喜びで「克城の日、土地、士庶は唐に帰れ、金帛、子女は皆ウイグルに帰せよ」と無恥の条件を飲み、のちに千年の後患を残した。また、長安、洛陽攻略戦において唐軍は10幾万の兵力を一極に集中させ、他の路を完全に無視したので、いまだよく叛軍を全滅させるには至らなかった。

乾元元年9月、郭子儀と李光弼は詔を報じて九路節度軍を率い、20万の兵を統べて、安慶緒討伐に出た。粛宗の失誤は郭子儀と李光弼、どちらもが元勲であってどちらを上位に置くということをせず、結果として元帥職を置かなかったことにある。宦官の魚朝恩が観察容宣慰処置使となったが、実質彼が軍中における最高権力者となった。

郭子儀は兵を帯びて杏園を渡り、衛州を囲む。安慶緒は7万の軍を3路に分けて、衛州の増援に向かわせた。郭子儀は陣を厳にしてこれを待ち受け、3000名の弓の名手を土台の上に布いて彼らに曰く「敵軍至らば我は装って撤す。敵兵必然これを追う。その時汝らは一斉に起ってこれを射殺せ」交戦の時至り、郭子儀は偽って敗走、叛軍は果然としてこれを追い、土台に至る。埋伏の士兵一斉に起って矢を放ち、まさに矢の降る事雨のごとく、敵兵の大半が死す。郭子儀は転進して反撃、殺して回り、安慶緒は危機を感じて?城に撤退、人を遣わして史思明に助けを求める。史思明は范陽から30万の大軍を率いて来援しながらも敢えて正面からぶつからず、人馬1万の先遣隊を?陽に送り出し、勝鬨を上げた。

乾元2年2月、唐軍は?城を重々に包囲し、城墻をふさぎ?河からの水灌城を切って落とした。城中に遍満する水流。冬から翌年の春までの間、安慶緒は堅守して城門から出ることがなかったが、城内糧尽き肉も野菜もなく、樹皮を削ってそれを喰うありさま。ネズミの肉に銭4千の値がつけられたこともあった。唐軍は城殞ちることを確信し、叛軍の中にも投降の気風が満ちた。しかし唐軍には統一的統率者がおらず、宦官・魚朝恩は軍事に不慣れ、ゆえに進退の機微を逃し、城を囲む日々が空しく過ぎて成功ならず。史思明はその機に乗じて?城に逼り、各路の兵馬を印新、?城から50里の限りにおいて四面の営を置き、それぞれに軍鼓300個を配備し、互いに鼓を鳴らして呼応、それぞれの営から500騎の精騎が出撃して、毎日唐軍を襲い、唐軍が出撃すると巧みに鋭鋒を避けて本営に退く。これが連日に続けられ、唐軍は日に日に損失を重ねる。史思明はまた一軍を派遣して唐の運糧車を襲い、これによって唐軍の食糧欠乏、軍心動揺するに至った。

3月、唐軍の屯兵60万は安陽河北において史思明自ら率いる5万の精兵に戦いを挑む。唐軍にとってこれは遊兵を狩るていどのことであって、簡単に揉み潰せるはずであった。しかしながら史思明は機略縦横、大軍を前にして奮撃し、いよいよ交戦激しくなるや凶風たち起こり砂は飛び石走り、天は昏く地も暗く、相手を尺る事あたわず。天変地異を前に彼我双方大乱となり、唐軍は南に向かって潰走、叛軍は北に奔る。唐軍の損失はことさらひどく、各路の兵馬は皆荒涼として本鎮への撤退を願った。

宦官・魚朝恩は平素より郭子儀の功労を忌み妬んでいたので、?城の失利に乗じて皇帝に郭子儀の誣告を上奏した。7月、昏君粛宗は郭子儀を召し返し、突如として李光弼に指揮権を委ねる。衆将泣き暮れ、みな道が絶えるまで哭きながら郭子儀を見送った。郭子儀は将士一人一人を励まし、馬上の人となって去る。

上元2年、李光弼が河陽の守りを失うと、郭子儀は新たに再び起用され、河東に出兵、いくつかの大きな勝利を得る。しかし新たに新帝代宗が即位するとその疑いを受けるところとなり、またもや兵権を解除され、閑職を与えられて飼い殺しとされた。宝応3年、吐蕃が20万の大軍をもって長安に攻め入ると、代宗は陝州に逃れ、ここでまた郭子儀が起用されて関内副元帥とされる。彼は4千余の勇猛剽悍なる散兵を収集してこれを指揮し、疑兵の計を用いて偽りの声勢を張り、吐蕃軍を退けて長安を回復した。これより、彼は代宗の非常な信頼と重用を受けるようになる。

 広徳2年、郭子儀は部下の大将率いる僕固懐恩の朔方軍と河東にあり、唐朝の謝礼を受けた。その7日後、郭子儀は朔方節度使を奉命して詔を受け出征する。朔方の兵はみな郭子儀の古くからの部下であり、郭子儀来たれりと聞くと僕固懐恩から離れて郭子儀を歓迎した。僕固懐恩は300の親兵を率いて霊武に逃れ、ウイグル、吐蕃の人馬10万を誘引し、連合軍は?州を過ぎて奉天に逼った。代宗は郭子儀を派遣、郭子儀が兵を率いて防御に出陣すると、ウイグル、吐蕃の衆は畏れ戦わずして退いた。

 永泰元年(765)9月、僕固懐恩は再びウイグル、吐蕃、吐谷渾、タングートらの諸部族30万余で唐に侵攻。唐朝はまたも国都長安を脅かされる。郭子儀はすぐさま代宗に建議して出陣し、要地を扼守。自ら兵馬1万を率いて?陽を堅守し、長安を保全した。

 10月、郭子儀はひたすらに涇陽を堅守、吐蕃、ウイグル連合軍10万余に団々囲まれ、形勢は非常に危急。10倍の強敵と相対して郭子儀は泰然自若、毫たりとも慌てず。彼はまず衆将に防備を密にするよう厳に命じ、堅守して闘わず、また密偵を放って密に敵軍の動向を監視させる。

 まもなく、郭子儀は敵の間隙を見抜いた。元来、ウイグルと吐蕃の出兵は唐の叛将・僕固懐恩の誘引によるものだったが、これが鳴沙にて急病、没。吐蕃はこの機に乗じてウイグル軍を統括しようとする。ウイグル軍を率いる主将、懐仁可汗の弟たる薬葛羅はこれに対して吐蕃の併呑工作に防備を固め、兵営を涇陽城北から城の西に屯を移す。郭子儀はかつて安史の乱の両京回復においてウイグル軍と肩を並べて戦った経験からウイグルの将士の威望をよく知り、いったん城から逃れてウイグル軍に反攻の一撃を与えんと衆将に説いた。同時に親兵、李光?を城から出してウイグルの幕舎に派遣する。

 李光?はウイグルの主将薬葛羅にまみえたのち、郭子儀の言葉を薬葛羅に伝えて敵対する理由なし、と伝える。薬葛羅はその腹中懐疑にまみれ、「郭令公の言葉は確実に信じられるのか? 貴公は我らを欺こうとはしていないか? 僕固懐恩は汝らの背信を我らに告訴し、郭令公に詰問せんとしたが既に死したり。いかでか確実に和睦を求めるなら、郭令公みずから我らの幕舎に来て談ぜよ。」と返した。

 李光?は城に帰って郭子儀に薬葛羅の言葉を伝えた。郭子儀はすぐさま衆将を招集して対策を商議する。郭子儀曰く、「現在敵は我らの10倍、死力を尽くしたとて勝ちを得ることは難しい。しからば我はウイグルの将士と親密な関係を結ぶため、我自ら彼らの幕舎に向かい、彼らと談話しようと思う。これのみが戦わずしてウイグル軍を退ける方策であろう」と。多くの将士は郭子儀の意見に同意し、500人の精騎を選抜して郭子儀に随行させ、大将の安全を保全せんとする。しかし郭子儀は「和睦の使者に兵はいらぬ、人多かれば彼らの懐疑を増し、会懐の大事を壊す」と言ってそれを断った。

 会議ののち、郭子儀は数名の従者を従え、戦馬にまたがってウイグルの幕舎に出発する。郭子儀の三男、郭晞は大慌てで奔り、郭子儀の馬前に跪き地に慟哭して曰く、「ウイグルの軍はこれ一様に虎狼のごとき敵人、父上は堂々たる大唐の元帥であられ、これが敵中に入って擒われ俘虜となれば、その身を喪う羽目になり軍は瓦解いたします」と。郭子儀これに答え「現在敵は強く我らは弱く、形勢は危急。いかでか交戦すれば我ら親子ともに死することは必定、滅亡の憂き目にあうであろう。我今前進するは誠をもって相対し、談判を成功させんため。これあに四海の黎民に洪福をもたらさんがためである! ただ国家社稷を保全するために我の命で足りるのだ。平和のために親子の関係などどれほどのものというのか?」しかし郭晞は聞かず、苦々として阻まんとする。郭子儀は大いに怒り、「道を開けよ!」と一喝するや鞭を一振りし、打擲するや部下に命じて捕縛させると、自らは馬を走らせ西門から城を出た。

 出城ののち、郭子儀は放漫な速度で馬を走らせ、幾名かの従者に命令して大声を上げて道をゆく。「郭令公来たり、郭令公来たれり……」と。薬葛羅はこれを聞き、この真偽を疑い、唐軍の詐謀かと惧れ、すぐさま陣立てを開いて形勢を整え、蛮弓を構えさせ、陣立てを厳にしてこれを待った。郭子儀はこれを一見して明白にウイグルが自分を疑っていることを知る。しかれども毅然として兜を外し、鎧甲を脱ぎ捨て、刀槍を放り、馬策を外し、粛々としてウイグルの陣に入った。

 薬葛羅およびその主酋長たちは唐将が幾名の従者だけを従えて、甲冑も衝けず徒手空拳でやってきたのを見て、下心あってやってきたという疑念を棄てた。彼らは仔細に弁識し、果たして郭子儀の信義を知る。郭子儀がウイグルの陣前に至ると、ウイグルの大小酋長らおよび薬葛羅率いる領袖たちは一斉に下馬し、倒地して郭子儀を拝し歓迎の意思を表す。郭子儀もまた身をひるがえして馬を降りると、薬葛羅を助け起こし、各位の酋長たちも起こし拱手して挨拶を交わした。

 寒喧の時が過ぎると、郭子儀は緊々の地で薬葛羅の手により保護され、ウイグルの侵犯を責めて「貴公らウイグルの軍隊は唐朝江山の戦いで大功あり、朝廷もあなた方の力に感謝しているのである。しかるになぜ貴公らは旧約に背き、大軍を動員して唐朝の京師を囲んだか? 僕固懐恩が朝廷に背いたのは自らの母親を遺棄するも同然、貴公らがこれに同調したのは前功を棄て新たに怨仇を結ぶに等しく、唐に背反して叛臣を幇助する愚蠢なる行動といえよう! 我は今天に身を挺してここに来て、このいささかなる道理を説明している。貴公らはいつでも我を殺せる状況ではあるが、ただしその場合、我が将士は貴公らと決死の戦いを繰り広げるであろう。」薬葛羅はこれを聞いて慙愧の念に囚われ、また害を懼れ、郭子儀に語りて曰く「郭令公よ許されよ、我らは騙されていたのだ。僕固懐恩は天可汗(中華皇帝)の駕すでに崩じ、令公もまたすでに死し、中原に主なく、我ら今こそ兵を起こすべしと。今天可汗長安にあり、令公もまた兵を統べてここにある。僕固懐恩は不義によって天に殺されたところ、我らはまた大将軍に従いその敵を討たん!」

 郭子儀は薬葛羅に再び唐を攻めないという同意をとりつけ、十分な成果を上げ、なおこの機に乗じて薬葛羅に説き「吐蕃は背信して義を棄て、中原の内乱に乗じ、朝廷の甥舅の親であることを顧みず、しばしば兵を興して辺境を○す。内地に侵入し、いたるところ焼き殺し剽掠す。貴公は何ぞ機に乗じずして反戈の一撃を加えんか? はたしてかくのごとく、貴公は吐蕃を撃敗しその財物を奪うべし。これをもって唐朝との友好を継続させれば、一挙両得、その美両全なり。これ天の与える貴公らへの良機であろうぞ!」と。薬葛羅はこれを訊いて同意を表明し、「我らは僕固懐恩に騙されここまで至り、今令公にまみえて罪ありと知る。我ら令公のために力を振るい、吐蕃を攻打しその功をもって罪を雪がん。」

 郭子儀の談判は成功し、双方合力して吐蕃の計劇を討つことを決す。しかるのち、郭子儀と薬葛羅は酒を酌み交わし、ともに請願して「大唐の天子万歳! ウイグルの可汗万歳! 両国の将相万歳! 唐回両軍、合して吐蕃を撃ち、違約者あらば戦塵に死し、九族滅びるであろう!」と。

吐蕃軍はウイグルが転じて唐軍と盟を結んだことを知り、大勢危急を感じて連夜撤兵、西に奔る。郭子儀はすぐに朔方の兵馬使白雲光率いる精鋭と薬葛羅を会合させ追撃。自らはまた大軍を率いて後に続く。連合軍は霊台西原赤山峰まで追い、大いに吐蕃軍を破って斬首5万余、俘虜万余、吐蕃軍に奪われていた工匠、婦女4000人、牛羊駱駝馬万余を獲得する。吐蕃の残党は狼狽して逃走し、その路上唐の人馬の蹄鉄を聞いて風声鶴唳、怯えて退いた。この一戦で郭子儀の名声はさらに朝野に轟いた。単騎兵を退かせる、は千古に伝わる高名な逸話である。

大歴元年(767)、吐蕃が連年内地を侵す。郭子儀はまた副元帥として河中、?州の承担備御の任を授かる。大軍を大歴14年(779)5月、徳宗李?が即位、郭子儀は朝廷に召し返され、山陵使、主管代宗安葬事宜に任ぜられ、尚父の號を賜り大尉、中書令の位に進んで副元帥、所兼節度使の職から免ぜられた。建元2年(781)、郭子儀逝去。享年85歳であった。

郭子儀の一生は軍旅の一生であった。まず安史の乱を平定し、ついで吐蕃、ウイグルの叛軍を抵御して京師を確保し、戦功はきわめて高く、威は四方を震わせ、敵は郭子儀出征と聞けば常に風声鶴唳、逃げ出した。彼は軍を治めるに寛厚であり、深く人心を得、将士は彼を見ること父母のごとく、戦場ではみな死力を尽くした。彼は人材の発見と育成にも才能を発揮し、のちに彼に見いだされた数十人の人材が将相の位にのぼった。

郭子儀は一心に朝廷につかえ、忠義は無双。安史の乱ののち、なお節度使が兵権を握ることを許した朝廷に反対したが、朝廷の命令とあっては強硬に反対しなかった。郭子儀は功高くとも驕慢にならず、重兵の兵権を掌握しても異心を抱くことがなく、賞罰で懲されても毫たりと怨み言を言うことがなかった。

大歴2年(767)12月、郭子儀の父の塚に窃盗犯が入った。人々はみな宦官・魚朝恩の仕業であると知り、朝廷は郭子儀の怒りを懼れ叛乱を恐れて恐懼した。郭子儀は入朝したとき代宗とこの事件について談義したが、郭子儀は「わたくしは兵を率いて征戦すること多年、部下の将士は多くが野外に屍をさらしております。わが家のことは天が我を譴責したこと、わたくしの不徳の致すところであります」と言って朝廷を安心させた。

家にあって、郭子儀は子女たちに厳格な生活を要求した。郭子儀の6番目の息子、郭暖は昇平公主を妻に迎えたが、あるとき「お前は父親が今上の皇帝だといって偉そうなことを言うが、わたしの父はお前の父を恐れる必要などないのだぞ」と言った。昇平公主は非常に怒り狂って父に郭暖の言葉を直訴する。郭子儀は家に帰った時この話を聞いて大いに怒り、郭暖を叩き起こして入朝し代宗に謝罪した。代宗は郭子儀に対して「貴公が我が恩人であることは事実ではないか? “痴らず聾かず、家に翁のためになさず。”わが娘らは自分を誇るが、我らが今あるは貴公のおかげであろう?」と寛容を示したが、郭子儀は帰宅後、郭暖を杖刑40打の刑罰に処した。

史書に言う郭子儀の評価がある。「功は天下を蓋うも主これを疑わず、位人身を極るも衆これを妬まず」と。

………………
以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/23 07:01

22-09-23.くろてん2幕3章10話.想い

 おつかれさまです!

 さっきに続けて今度はくろてん。2幕3章まで終わりまして、あと10話で2幕完了ですがその前に。

この子はノエル・リウィウス。辰馬くんの「くろてん」から1800年前、祖帝シーザリオンの次代の、祖帝の妃の一人です。初描きというのもあって服装が瑞穂さんと変わらないような感じになってるので、要リライトですが。ロムルス、ウェルス、リウィウスという三都市国家が覇を競い合っていたウェルスの、都市国家リウィウスの姫さまで神術兵部隊の指揮官です。

もうひとり、マルクス・ルキウス・サマエル。サマエルとか言うとサタンの本名みたいですが、そういうキャラではないです。祖帝の配下の武将の一人で、若手の成長株。ちなみにもう一人双璧と言われる人は酒好きギャンブル好き酒好きで借金返すために犯罪沙汰を○すとか言う、ちょつとナポレオン麾下のマッセナっぽい人。

………………
黒き翼の大天使.2幕3章10話.想い

 あのあと、数日かけて魔物たちと、魔族を討伐し……瀬名には強○的にひっこんでいただきまず概ねは殺さずに済ませ……仲間たちと分けてもなお、ちょっとした一財産になるお金を得た辰馬。

 けどなぁ……これ、家の維持費やらなんやらでほとんど飛ぶんよ……。

 まだ16歳にして、そんなことを考えさせられるのも結婚などさせられたからで、別にゆかにたいして恨み節はないもののこの婚儀を考えついた宰相・本田馨綋は憎い。いろいろと言いたいことはあるし会おうと思えばもと宰補の蓮純経由で会えないこともない……というかあの宰相、たまに正月とか新羅家に来て、牛雄に頭下げて帰って行く……のだが、ああいうタイプの人間になにいっても無駄なので黙る。ホントいろいろ口に出してぶちまけたいが。

 などと考えながら、辰馬は本屋にいた。書店にせよ古書肆にせよ、本屋の独特な空気感が好きだ。紙の臭いに絶頂感を感じるとか言ったら変態かと笑われるが、あながち大げさなことでもない。なぜか知らんが書店に入るとトイレに行きたくなると言うヘンな癖が発動するのだけは如何なものかと思うが。

 まあ、あんまし高い本は買えんか……つーかこの店、いつも思うけどこの配置はよ。

 まじめでお堅い歴史書コーナーのすぐ裏手に、きわどい……というか有り体に言ってエロ本コーナーがあるのである。ここ一年で写真の精度も上がり、世の中大富豪家ならテレビすらある時代。エーリカ・リスティ・ヴェスローディアの水着グラビアも、去年なら白黒に彩色師が着色したどこか嘘くさいものもだったが、今ではもうカラーの陰影バッチリである。普段からエーリカの裸なんぞ見慣れている辰馬だが、やはりそれでもこんな場で知人の媚びた水着姿なんぞ見るといたたまれなくなる。

 兵学関係だと歴史書の一番端だから、ホント困る、この配置……。

 はたから今の辰馬を見るとやけに熱心な顔でエロ本コーナーを物色している銀髪美貌の貧乳美少女、という風情であり、見た目に面白い絵面ではあるが本人的に笑ってられる状況ではない。本当に心の底から困る。

 店員に言わんとな、配置変えろって。

 やや憤然とそう考えて、辰馬は開き直って本を手に取る。もちろん、エーリカ表紙のグラビア誌ではなく、「兵論考《へいろんこう》」という本。瑞穗から「本やさんにあれば読んでおいた方がいいです」と勧められたヤツだ。過去の兵法についての考察と、それぞれの詳細な戦例が戦図つきで載っている。過去において戦図というのは長特秘事項で、こんな書店に並ぶ書籍に収載されることはありえなかったのだが。現在、アルティミシアの大国9王家が覇を競い、アカツキも北は桃華帝国、西にラース・イラの二正面作戦を強いられているとは言え、やはり言論と表現の自由が守られる程度に、かつてより平和にはなっているらしい。

 うし、これ買っていくか!

 軍学校の入校試験は10月、あと3ヶ月ちょっとあるとはいえ、余裕あるスケジュールとはなかなか、いえない。辰馬の場合新羅邸の少女たちに求められて逆レ○プされて時間を空費してしまうこともありだから、その辺も考えて時間を作っておく必要がある。

 ま、なんだな。アンチョコ使うみたいでちょっと、アレだが……

 書店から出るなり包装紙から取り出して、大判サイズの「兵論考」を開く。本の内容はおもに「東方」と「西方」に別れ、東方での有名どころというか兵法鼻祖《ひょうほうびそ》は馮媛《ふう・えん》という人物。最初彼女が仕えた王は惨めに敗北するのだが、馮媛は捲土重来を期して主君に臥薪嘗胆を薦め、そして敵王に美姫と財宝を贈り油断させ、その美姫を間諜として常に王の身辺の情報を採り、そして敵王の油断に乗じて挙兵、敵の王都まで7戦7勝し、8戦目で敵国を滅ぼした。しかしその後、安楽に溺れてかつての苦労を忘れた王に疎まれ死を賜るのだが、その死に際、この国が滅ぶさまが見たいから我が目をくりぬき京師の門前に懸けよ、と口にする。そして実際、馮媛死後の愚王は圧政に耐えかねた民衆の反乱と、北からの異民族に板挟みにされ、今一度敵の足を舐めて生き延びようとするが、結局許されず首を刎ねられた。まあそういう、悲劇性もあって人気が高いし、「馮媛兵法」という書があってこれがだいたい、現在まで続く兵法のもとになっている。

辰馬の祖先、伽耶聖《かや・ひじり》についてもやはり載っていた。アカツキ最大の名将とはいえ割かれているページ数はそう多くはない。アカツキ内戦……この言葉は今後、ヒノミヤ事変を意味することにもなるのでいろいろ面倒だが、東西戦争のときのことで……における局地的活躍はともかく、結局主君を勝たせることが出来なかったために評価で劣るらしい。あと知略のみならず武芸に秀でていたのも事実だが、まさか実際、900何人を一人で殺したというのも嘘だろう。あれは西方の有名な騎士王の伝説に仮託しているらしい。

 西方にもウェルスの祖帝シーザリオンの盟友で将軍のコルブロス、当然というかクーベルシュルトの祖で女神凌○の蛮王ゴリアテ、草原の覇者アミール・ナーディル・テイメルラン、剣奴から王となりラース・イラを大陸最強に導いた剣王アータルなど開国4皇(コルブロスは王ではなく、その右腕だが)と言われる男たちはやはり名将・名軍師であり、ほかにもウェルス皇帝11代ウィティゲス・ヘラクリオスや、ナーディルの軍に3度、挫敗を味あわせたクルクシェートラのチャン・ドゥン・トゥエの名も名高い。近々の人間としてつい先日、辰馬が手合わせした戚凌雲の師父・呂燦やレンナートの師匠マウリッツもまた、高名な軍事家、軍事理論家として名声を確立している。

 西方でもっとも凄まじいのはフス・ウィクリフという男で、彼はもともとウェルス……東辺の、現在ではラース・イラ領の地方であるが……神学者であったのだが、教会の堕落に失望し絶望し、そこから敢然と立ち上がった。そこから彼は当時まだ大陸の覇者であった神国ウェルスを相手に、互角以上の戦いを敢行する。竜騎兵連隊……軽甲銃騎兵隊という意味ではなく、「神域」に住まう本物の竜《ドラゴン》に騎乗するウェルスの最精鋭部隊ですら、彼の前に手も足も出なかった。そのとき彼が使った新兵器をピーシャチャラ《笛》といい、いわゆる現在のマスケットのモデル。そして彼がしばしば使った戦法こそが、ヒノミヤ事変でヒノミヤ突騎隊相手に神楽坂瑞穗が駆使して見せた戦術、すなわちワゴンブルク。彼はそれまで物資輸送の道具でしかなかった荷車を可動要塞として駆使し、そして敵の突撃を止めるや足下には縄や古着を撒いて足を絡め取り、そしてピーシャチャラの斉射で仕留めた。さらにバルーンを使った空挺爆撃戦術も使い、空に逃げた竜すらこれで仕留めてしまう。そしてほぼ神国ウェルスおよび神教会に対して完全勝利を決定したのだが、和平の場に誘い出されて暗殺される。このときフスは自分の運命をすべて分かっていたが、すでに自分の歴史的役割は終えたと、従容と笑って和平会場に向かったとされる。なんにせよ世界名将10傑の確実に首座を射止めていい人物なのだが、実のところ名声がそこまで高くないのは神教会に弓引いた反逆者ゆえか。しかしまあ、彼の戦い方に敬意を表しその戦術を継承する、瑞穗のような少女もいたりするわけだ。

ここまで読んできて思うのは、軍事において魔術を同時に駆使することが非常に少ないと言うこと。まあ大規模魔術自体非常に困難だし、消耗も激しいのでそれも理由のひとつなのだろうが、これまでの時代の戦争において「純粋に兵略を競い合う場に、魔術などと言うものを持ち込むのは無粋」という考え方が根付いていたからにほかならない。しかしこれからの時代は総力戦が主になる予感。各国大規模魔術の使い手を動員して、戦場に火の玉や氷の刃が飛び交うことも珍しくはなくなるだろう。それはつまり旧時代におけるナポレオン戦争以降、第一、第二次大戦と大量虐殺兵器が量産されていったのと似たような流れであり、辰馬の心を暗澹とさせる。

 兵法ならそれだけで勝負しよーぜ、まったく……。

 そうごちて適当に、ファストフード店に入ってポテトとオレンジジュースだけ頼む。あの炭酸の黒いのは辰馬的にどうしても苦手だ。シンタあたりは大喜びでぐいぐい飲んでゲップしていたりするが。

「あら、辰馬」
「……たぁ、くん……」

 先客がいた。それも姉二人。実姉クズノハと、育ての姉雫。まあ辰馬にとってクズノハはどーでもいいわけで、なにやら沈んでいる雫が気になる。「どーしたよ?」とりあえず相席しつつ問いかけるが、雫は暗い顔で頭《かぶり》を振るばかりだった。非常に、らしくない。

「あたし、やっぱたぁくんに邪魔かなー……」
「は? なに言ってんだばかたれ。そんなわけ絶対ねーだろーが」
「でも、美咲ちゃんがいればあたしいらないよね? お料理も洗濯もお裁縫も、ぜーんぶ出来るし。あたしの取り柄だった戦闘力だってまけないくらい美咲ちゃんにはあるし、しかも一応聖女さまだし、大公家の侍従長でお国の宰相のお気に入りだし……もうねー、役立たずのあたしは身を引いて瀬名くんとでも結婚しちゃおうかなーって……」
「……ハァ、ばかたれ」
「……なんだよう、こっちはまじめに話してるの! ばかたればかたれせからしか!」

 実に珍しいことに、雫まで南方方言で言い返した。ちなみに「せからしか」は「やかましい」で、意訳すると「バカバカ言いやがって、うっせーんじゃ!」というほどの意味だが、雫が方言を使うのは実に珍しい。それくらい、心理的余裕がないということでもあるだろうが。

「あのさー、もしあのガキにしず姉盗られたら、おれは自殺するぞ?」
「へ?」
「なんか、今までしず姉がそんな自信なさげにしてるとこ見たことなかったから気づかんかったけど。なんか勘違いしてるよな。……しず姉がおれを好きなんじゃなくて、おれがしず姉を好きなの。わかったか? 二度言わせんなよ? だから、おれから離れるとか、自分が邪魔とか、そーいうこと言うな。諒解?」
「う……うん……うん! やはは、まさかたぁくんからそんなふーに……」
「あんまり思い返すな。今のはこの場だけの……」
「ダメダメ。何度だって思い出してにやにやするもーん♪」
「調子、戻ったみたいね。先輩」
「うん! そりゃもう、たぁくんにあれだけ言われたら! クズノハさんもありがとー!」
「まあ、それはいいんだけどね。……さて、次はわたしの悩みか……」
「ん?」

 一泊、軽く間を置いて。本当に何でもないことのように。

「実のところ、魔王って必要あると思う?」

 魔王にもっとも近きもの、魔皇女クズノハはそう言った。

‥‥…………
以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/23 06:40

22-09-23.日之宮の齋王.3.隷属

 おはようございます!

 昨夜は眠れなかったのでその時間を使って「日之宮の齋王」3話を書きました。ゲームくろてんの一番最初、凌○ルートで瑞穂さんが受けた受難のシーンとほぼ同一です。というかくろてんでエロつくるのにこのシーンを外すわけにはいかないのです。純愛ゲー版のほうではこういう成分完全に抜きますけども。

………………
日之宮の齋王.3.隷属

 どごぉっ、ガスッ!!

「あぁっ、ぎゃぶぅ!?」

 玄斗の拳が瑞穂の顔面に、無慈悲に何度も打ち込まれる。白く穢れのない肌はたちまち青痣だられになり、可憐な顔立ちは痛みと恐怖に歪む。瑞穂は6才まで貧民街区で明日をも知れない生活を送っていたが、そんな日々すらも今の直接的で純粋な暴力に比べれば霞んでしまう。

「あああああぁ~っ、ひいぃ!!」

 殴打されるたび、楽器ででもあるかのように声を響かせる瑞穂。ガッチリ組み伏せられて身動きを封じられた身体で、121㎝Pカップの超乳がブルルンと揺れて観衆の目を楽しませる。神御衣の上からでも雄の下半身と獣欲を炙るに十分すぎる視覚効果だが、玄斗は瑞穂の顔面を右手でボコボコにしながら左手で神御衣を剥ぎ、薄灰色のインナーも思い切りめくりあげて柔乳を露出させた。

「へへ、ガキのくせにたまんねぇ極上のいいカラダしてやがるぜぇ…さーて、たっぷり痛めつけてプライドバキバキにヘシ折って、自分から穴ぼこにぶち込んで下さいって言わせてやっからなぁ~!」
 歯をむいて淫笑う玄斗に、瑞穂は心の底から震えあがる。その竦んだ瑞穂の揺れる瞳に気をよくした玄斗はさらにボコボコに瑞穂を殴打しつつ、むき出しとなった白柔デカ乳をぐにゅ、と揉みしだく。すさまじい握力で瑞穂の乳房がいびつにゆがむ。

「あああああああ! 痛い、痛いですうぅっ!!」
「うるせーよ、豚が! 負け犬の分際で、殺されないだけ幸せだろぉが!? それとも死ぬかぁ?」

 痛みを訴える瑞穂を心底鬱陶しそうに睨めつけ、玄斗は瑞穂の髪をわしづかみにして左右を見渡させるとそこらに転がる死体や凌○の現実を見せつける。それは瑞穂にとって自分の弱さゆえに守れなかった民の姿であり、激しい自責が瑞穂をさいなんだ。自分だけが痛いだの苦しいだの、言っている場合ではない。現実を見せつけることは齋姫の少女の心を頑なにし、意志を堅固にした。

「あぁ!? なーんか、目つきが生意気になったぞ!? テメーは怯えて震えて泣きわめいてろや、負け犬ブタがよぉ!」
「………………っ!」
 玄斗の言葉に、瑞穂は応えない。焦れた玄斗がさらに実力行使で顔面や乳房を殴打しても瑞穂は唇をつよく引き結んで耐えた。言継の幻剣で精神力を削り取られ神力を練ることができないにもかかわらず、この単純ゆえに強力な蛮勇に抗う意志と勇気、やはり齋姫の精神力は尋常ではない。

 だが、相手が反応しないからやる気をなくすというほど、玄斗もその後ろに控える言継たちも恬淡ではなかった。泣かぬなら泣かせてみようの精神で執拗に瑞穂を痛めつけ、そしてデカ乳を揉み、乳首を転がし、痛みと快感の両面作戦で瑞穂に声を上げさせようとする。瑞穂は前述のとおり、初心ではあるがその肉体は多淫であり、力任せに見えて性に百戦錬磨な玄斗の指技に、意志力だけで抗うのは難しい。痛みなら耐えられるが、硬軟取り混ぜて乳房をマッサージして柔肉の奥のツボを巧みに按摩してくる玄斗の手技に次第に感じ始め、息が荒くなりはじめた。

「あおっ…ぁ…あぅ…くっ…」
「へへ、感じてきたかぁ? 遠慮しねーで大声上げろや! ついでに拳も、くれてやらぁ!」

 ぐに、くにゅっ…、ドゴオォッ!!

 巧みなチチモミから、さらに強烈な顔面殴打。快楽で精神防壁が弱り始めたところに顔面がえぐれるかと思うほどの強打を喰らって、瑞穂はたまらず「かはぁ!? ひ…ひっ…」と哀れな悲鳴を上げてしまう。玄斗はそのほころびを見逃さなかった。追撃とばかりタコ殴りにすると、瑞穂は声をこらえることが難しくなってしまう。なお我慢しようと臍下に力を籠めるが、もはや崩壊は時間の問題だった。玄斗が最強握力でデカ乳を揉みしだき、両の乳首をつぶれんばかりに摘まみあげる。

「あぁーーーーーーーーっ!!」
 ついに甲高い、嬌声なのか悲鳴なのか判然としない声が奥津城の空に谺する。それは瑞穂の敗北をなにより雄弁に物語る、敗北宣言、負け犬の遠吠えだった。

「ゆ…許して…、もう、許して、下さい…」
「くく、無駄な抵抗ご苦労さんだったなァ。そんじゃ、改めてこのデカ乳、使わせてもらうぜェ…」
 玄斗は緋袴を脱ぐと瑞穂の胸の谷間に腰を進める。そして巨根をデカ乳の谷間に割り入れると、しっとりと汗を含んだ柔乳はまるで膣内のように肉竿に絡みつく。前後に腰を叩きつけるとぬるっとして重量感たっぷりな乳房はいよいよっとり絡みつき、玄斗の快楽中枢を直撃した。

「ぐへへへぇ~、なかなか具合いいぜぇ、エロガキ!!」

 ドゴォ! ガス、グチッ!

 一方的にパイズリさせて一方的に快楽を貪りながら、さらに殴打を咥える玄斗。もはや精神防壁を完全に破壊された瑞穂はひぃひぃと泣きわめくしかできず、その悲鳴がまた玄斗を興奮させた。

 ズシュ、ズシュッと両乳を掴んで寄せ、圧を強くして男根をしごきたてる玄斗。瑞穂にはこれが何を意味する行為なのかわからないながら、なんらか性的な行為であり、このままでは自分は犯されてしまうということはわかる。しかしもはや抵抗する気力もない瑞穂は、痛めつけられるよりは男たちに媚びて難を避けることを選んだ。処女喪失の痛みがどれほどのものか知らないために、瑞穂は諂いさえすればこれ以上痛い目に遭うことはないと踏んだ。

「あァ~、この乳マンコ最高だぜぇ、こんなんすぐ射精ちまわぁ!」

 瑞穂の乳肉穴はじつに極上だった。パイズリは実際大して気持ちよくない、という話もあるが、瑞穂の超ド級の柔肉の圧と、しつとり汗ばんで肉竿に亀頭に絡みつく感触はまつたく得難い悦楽を玄斗に与える。なにより圧倒的超ド級の乳房の視覚的支配感、征服感が大きい。

「はぁ、ぁ…ぁうっ…」
「イくぞオラァ!」

 熱い白濁のマグマを、玄斗が堪える理由も必要もない。大きく腰を突き出して瑞穂の顔面に亀頭を突き付けると、至近距離での接射で特濃ザーメンを瑞穂の、青あざだらけになってなお美しい顔にぶちまけた。

……………

「ふぃ……。なかなかだったぜぇ、メ○ガキ」

 満足げにそう言って、玄斗が離れる。精液の量と匂いにあてられて腰を抜かし、かつ股間を濡らしてしまった瑞穂を、今度は言継が乱暴に引き起こし、立たせると無造作にショーツを膝まで引きずり下ろした。

「ひぃ!?」
「少しは熟(こな)れたかぁ? あんまり手間かけさすんじゃねーぜぇ」
 言継は瑞穂のほのかに濡れた股間に無造作にを差し伸ばし、くちゅ、くり…と軽く弄る。それだけで瑞穂はおとがいをそらし、舌を突き出して悶えた。

「ひいぃ~ッッ!? あひ、あひ、あひひぃっ、あっあぁ~~~ッ!!」
 言継の技巧は玄斗のそれと比べても比較にならない。指先で入口を軽くなぞられただけで瑞穂は背徳的で絶望的な快楽に溺れさせられてしまい、圧倒的に過ぎる快感を攻めて少しでも排出しようとかぶりを振るが、それは涙と涎と汗と愛液のしぶきを飛ばすだけの結果にしかならず、さらに言継が指先を少しく動かすとブシッ、ブシッと潮を噴いた。この程度の、言継にしてみれば前戯にも満たない下ごしらえ以下の行為で、瑞穂は支えなしでは足腰が立てないほどに膝をガクガク言わせてしまう。気が狂うのではないかと思うほどに脳神経が震えた。

「こんだけ濡れてりゃいーか。挿入れるぜぇ」
 ずぶぅ! なんの感慨も前置きもなく、瑞穂が濡れているのを見るや言継はバックからぞんざいに貫く。玄斗のものも巨大だったが、言継のそれはけた違いすぎる。処女穴にはあまりにもオーバーサイズが過ぎたが、そんなことは言継の斟酌するところではない。

「ひ…ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~ッッ!!?」
 めりめりと、肉ひだをかき分けて処女穴を刺し貫く言継。60センチ級の巨根が処女の膣をいっさいの遠慮なしで突き刺し、蹂躙するのだから、たまったものではなかった。ぎちぎちと肉が引き裂け、そして剛直が奥に達してなにかがブチリと永遠に切れた。秘裂の入り口からぼたりと鮮血が滴り、瑞穂が間違いなく処女であったことを証明する。

「ふーん、まあまあか」
 瑞穂の膣は処女ということを抜きにしても極上だったが、言継は恬淡というとやはり恬淡に腰を使いだす。3桁を超える女を泣かせてきた性豪、長船言継にしてみれば瑞穂程度の穴ぼこはいくらでも経験があり、特別感動するようなものでもない。むしろ処女穴は肉がほぐれておらず、硬さ青さが目立ち、十分にぬっちゃりと絡みついてくる感覚が足りない。並みの男なら瞬殺のはずの名器であったが、言継にとっては瑞穂がヒノミヤの最高権威、姫巫女の最高位・齋姫であるというプレミアがあってはじめて興奮が煽られるものでしかなかった。

「ああぅっ、はひぃ! あひーっ、ひぃーっ! ぬ、抜いてえぇ! 抜いて、下さいっ…!」
「はいはい。抜いてやるって。ナカでな」
「中でって…中いやぁ! 痛い、痛いのぉっ! お願いですから抜いてくださいっ、もう許してぇ~っ!」
「そら、無理な相談。負けたんだから黙って抱かれろって。すぐに気持ちよくなっからよ」

 言継は軽く言いつつ、巧妙執拗な技巧で腰を動かす。瑞穂の尻肉を掴み、太鼓をたたくように尻肉を叩きながら、膣壁のひだを刮ぐようにして亀頭でこすりたてる。それだけで瑞穂は痛みより快感を感じてしまった。あまりにも悪魔的な言継の技巧に瑞穂は気持ちいいと思うより先に、堕落させられることへの恐怖におびえた。しかし抵抗はあまりにも無力であり、瞳をトロかせて腰をヘコ振りしてしまう。

「あう~ぅっ♡ あひ♡ あはぁっ♡ あへ、あんっ、あぁん♡ あぉっ、あほぉっ、はへ♡」
「気分出してるトコ悪いが、こっちゃあんまし気持ちよくねぇんだよなぁ…よっと」

 嬌声の止まらない瑞穂、しかしながらその程度の締まりでは言継を感じさせるに至らない。言継は瑞穂の片足を抱えて肩にかけると、膣肉がぎゅく、と締まった。「おー、いい具合」そう言って、言継はパンパンと律動的に腰を使いだす。

「ひあぁ~♡ あひぃ、あひぃ、あひ~っ♡ しょ、そんなあぁ、こんな、こんな、気持ちいいっ…♡ あひぃ~っ♡」
「そんじゃ、そろそろ本気でいくぜぇ。ブッ壊れんなよ、瑞穂」
 すさまじい勢いで腰を叩きつける言継。瑞穂は堕落に怯えながら、しかし与えられる快楽に抗いえない。言継の腰遣いに舌を突き出し喘ぎながら腰を合わせ、早くも娼婦のようなテクニックを発揮し始める。ぬちゃぬちゃと絡みついてくる瑞穂の牝穴。これには言継が瞠目し、思わぬ拾い物と口の端を吊り上げる。

「あぁっ、長船さま、言継さまあぁっ♡ 好きです、好きぃ♡ あーっ、きもちいいっ、もっとぉ、もっと気持ちよくしてぇ~っ♡」

 挿入から10分と経たず、完全に言継の逸物と技前の軍門に降る瑞穂。敗北の白旗とばかり尻を振りたて、腰を振る姿はまったくもって淫蕩な淫売であり、さっきまで処女だったとは到底思えない。瑞穂の頭の中には民が同胞が殺された事実が消えることなく残り、しかしながら悦楽を与えてくれる言継に対する絶対服従は魂の深さで刻み付けられている。脳内で、瑞穂にとっての新秩序が急速に形成されつつあった。

………
……

「さぁて、そんじゃそろそろナカダシといくかね」
「な、なかだしぃ?」
「実演で教えてやるよ。そら!」

 ズム! と言継の逸物が一番深くに穿たれる。おなかのかたちが変わるほどの一撃で子宮を激震され、そのしびれに瑞穂は涎を垂らし、半白目をむいて一瞬、意識を飛ばしかける。そこに追撃、今日二回目の灼熱のマグマが、今度は瑞穂の膣内で爆発した。それは一瞬で膨れ上がり、広がり、瑞穂の引き締まった腹部を無様な疑似ボテ腹に変えてしまう。

「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~ッ♡♡♡」
 生まれて初めて膣内で味わう精液の威力と熱さと美味に、瑞穂は今度こそ完全に心から、屈服を思い知った。中出しが生殖行為であることがまだわかっていない瑞穂は膣内にたたきつける奔流をひたすら気持ちいいと思うばかりであり、続けての睦みあいに自分から足を絡めて言継を求めてしまう。

………………
 そして。
数十発に及ぶ行為を終えて、瑞穂は長船言継にひれ伏し、土下座していた。股間から逆流して滴る大量の精液が痛々しいが、瑞穂の心情的にはむしろ晴れやかだった。民のためとか義父の帰る場所だとか、そんなことは今やどうでもよかった。肉の愉悦こそがすべてであり、最高の快楽を与えてくれる言継こそは瑞穂にとって神にすら等しい存在だった。

「瑞穂、お前はなんだ?」
「はぁ…ぁう…♡ わたしは、長船さまの家畜です…♡ 一生の忠誠を誓います、どんなご命令にも従いますから、どうぞ瑞穂の牝穴を、いつでもお好きにお使いください♡」
「よしよし。その言葉、忘れんなよ、豚」

 長船言継は満足して瑞穂の頭を踏みにじると、配下の兼定玄斗、長谷部一幸、そして30000の兵士たちに瑞穂を輪○させる。ヒノミヤ最強戦力たる姫巫女の一位・齋姫・神楽坂瑞穂を掌中に収めることは神月五十六の指令通りであったが、予想以上に戦えるに至った自分の力と、瑞穂を手駒に加えたことで、言継は五十六を打倒してヒノミヤの王になる野心を燃やし始めるのだった。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

1 2 3 4 5 6 7

月別アーカイブ

記事を検索