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2022年 09月の記事 (68)

遠蛮亭 2022/09/21 10:28

22-09-21.くろてん2幕3章7話.北げるに如かず

 おつかれさまです!

 さっそく「日之宮の齋王」第2話書き上げましたが、これどこに上げりゃいいんでしょう? さすがにエロが露骨でカクヨムさんとかには上げられないしなぁ~、とひとまずここだけの公開にしておくしかないのでしょうか。pixivという手もありますが、イラスト以外をあそこに投稿したことないのですこし怖いのですよね。

 さておきましてお絵描き1枚。

 伽耶の聖さん。辰馬くんのご先祖ですね。1200年前のアカツキ内戦で大活躍して、でも結局負けて皇帝人質にされて、ズタズタのボロボロに凌○されたという設定の人にしては少し生ぬるいかもしれません、この絵。この人とか山中伊織もですが、Slg版でアカツキ勢力なんですけど現行のアカツキの血筋って聖が使えた皇帝ではなくて勝者側の血筋なのですよ。だからどういう折り合いつけてあの勢力に落とし込むか。過去の英雄として召喚されるも皇帝のちんこに縛り付けられて逆らえないとかですかね、エロゲとしては。

 そして今度はくろてんです。今回はこっちもちょいエロ。晦日さんと文さんが辰馬くんに落ちます。あと肉体関係がないのはみのりんだけ。

………………
黒き翼の大天使.2幕3章7話、北(に)ぐるに如かず

 新羅邸に帰宅。といっても学生寮の隣なのだから学校に出入りしている感覚しかないのだが。

「おかえりー。たぁくん、何処いってたの~」

 なんかソファに横になってお菓子を食べながら、雫。最近になって流行りだした、ジャガイモを薄切りして油で揚げ、塩を振ったお菓子らしい。瑞穗も穣もこれが結構な好物であるのだが、二人は体脂肪的に体重が増えやすい弱点を持つため、切なげに目を伏せて顔を背けた。それを前に雫はバリボリとやる。こっちはなにしろ超一流アスリート、しっかり鍛えてある体+妖精の血は多少お菓子を口に入れたところでびくりともしない。

「ぷぁ。おいしーよねー、これ。あとはなんかジュース飲みたくなるけど」
「怠惰だなぁ、しず姉……」

 いかにも太平楽にぽや~んと笑う雫に、辰馬は苦笑。もう少し厳しく言いたかったところだが、雫の幸せそうな顔を見ていると厳しいいい様は出来なくなった。以前はもっと雫相手に手厳しかったはずの辰馬だが、なんか最近、だだ甘である。まあ、惚れてるとしっかり、口にしたことでもあるし。

「で? どこ言ってたのかなー、綺麗どころ二人侍らせてさー」
「なんかイヤな言い方すんな。兵法大会? の新人戦みたいなもんがあったんだよ」
「へぇ……もちろん、優勝? 優勝したよね?」
「いや、引き分けで4回戦敗退」
「えぇ~……そこは根性で勝とうよ、たぁくん?」
「その、手に付いた塩舐めながら人にダメだしすんのやめろや。相手も強かったんだよ。なんか桃華帝国の大物の弟子とかなんとかで」
「たぁくんだってアカツキの超大物の息子で孫で弟子でしょーが」
「それは関係ねーだろぉが。今回あくまで兵法比べだし。武芸とか魔術とかの出る幕じゃねーの」
「ふぅん。でもまぁ、たぁくんは勝ち誇ってる相手の喉元に切っ先突きつけて逆転とかやりそう」
「……え? あぁ、うん……あれ、なんでわかんの?」
「あ、やっぱやったんだ、それ。たぁくんのやりそーなシチュエーションだよねーって思ったんだけど」
「………………」

 辰馬は軽く頭をひねる。あの最終局面で戚凌雲の喉元に剣を突きつけたことは、瑞穗にも穣にも知られていない。おそらくは包囲殲滅が成功してそのまま別働隊の凌雲を撃破した、と思われているはずだが、天才軍師二人も思い至らないところを、雫は簡単に、単純に辰馬の性格から導いてみせた。やはり付き合いが長いと見抜かれる。

 おバカねーちゃんだと思ったら、案外……なんだよなぁ……。

 侮れない姉……姉的存在の雫と、実姉のクズノハという二人がいるために非常に、わかりづらくあるが……の卓見に、辰馬は想わずほぅと息を吐く。つきながら、椅子に座った。すぐさま美咲が簡単な食事を皿に出す。辰馬のぶんだけでなく、瑞穗と穣のぶんも。本当に、出来たメイドさんである。本人曰くメイドではなく侍従ですということだが、正直、辰馬はそこのところの区別がさっぱりわからない。

「ヒラメのムニエルと、緑黄色野菜のサラダになります。またすぐ夕食の時間ですので、軽く」
「あー……なんか悪いね、いつも」
「いえ。すべてはゆかさまの御為《おんため》ですから。問題はありません」

 忠義と仕事の鬼。まさにかくいうべしである。そもそもがゆかのためだけに本来仕える義理のないアカツキ政府……というより宰相・本田馨?に仕えて汚れ仕事をこなしてきたほどの女性である。主君に対する忠誠と覚悟において、比肩髄鞘《ひけんずいしょう》出来るものなどそうそう、ない。しかも武技においては雫に迫り、神力では聖女クラス。さらに家事全般を完全にこなし、新羅邸の事務関係に関しても……これについてはたぶん、エーリカのほうが有能なのだが、美咲は主さまのご側室に事務仕事などさせられませんと頑なに自分で背負い込み……すべてこなす。そのうえでゆかの遊び相手もやって、いつ寝ているのか心配にもなる。

「晦日さぁ……ちゃんと寝てるか?」
「はい。一日二時間ほどは、ちゃんと」
「二時間て! それ昼寝やんか!」

 久しぶりに、南方方言が飛び出した。いやだって、二時間て。辰馬が言ったとおり、それでは昼寝にしかならない。人間が正常に機能するためには、あまりにも足りなさすぎる。しかも美咲は精神的に実年齢より幼いゆかが夜泣きすると、その二時間すら擲って跳ね起きるのだ。どうしても寝不足と言わざるを得ない。

「んー……休めっていって休むタイプじゃねーしなぁ……」
「んじゃ、こーしよう。美咲ちゃん、今夜たぁくんの部屋に来なさい♪」
「は?」
「ハあァ!? なに言ってんだしず姉!」
「いやだってほら、ばっちりアレして疲れたらよく眠れるでしょ?」
「あの、あんたなにいってっか分かってっか? おれはあんたらを……」
「その「あんたら」の中に美咲ちゃんも入れちゃえばだいじょーぶ! 全然オッケー!」
「オッケー違うやろが、ばかたれ! わけわからんこと言ってんな! 晦日だって困るわ!」
「……わたしは、ご主君が伽をお求めなら、構いませんが」
「ほら! ほら……? って、えぇ!?」

 ためらいがちというかやや屈辱をかみしめつつというか、それでも美咲が毅然としていうと、そこに上階から、滑り落ちる勢いで駆け下りてくるのはもと男嫌いの学生会長・北嶺院文。そういえばこの文とゆかと、そしてこの場にはいないものの覇城家当主・瀬名で辰馬の周りにはアカツキ三大公家の当主あるいは相続人が勢揃いしていることになるが、さておき。

「話は聞かせて貰ったわ! それならわたしも!」
「だから! なに言ってんのお前ら!? 女の側からそーいうこと言わない! はしたないでしょーが!」

 どうせ男の側から言えと言われても言えない辰馬なのだが、ともかくもそう常識を叫ぶ。その横で穣がなんともいえない表情になっているが、彼女は「わたしは新羅辰馬のことが大嫌い」という名目を掲げているため、一緒になってやるぞー、とは言いたくても言えないのだった。

「まあ、おねーちゃんはたぁくんが大勢とえっちしても怒らないし。ただまぁ、知らないところで商売女とか、わけのわかんない子としてたら怒るけどね♪」

 雫はにっこり笑って理解があるというかなんというか、およそ教職にあるものの台詞とは思えないことを口にする。

 わけわからん相手かどーかはともかく、姉貴《クズノハ》とやったんだよな、このまえ……これは黙っとこ……。

 辰馬はうすら寒いものを感じてそう決心した。雫は自分の知り合いで可愛がってる女の子なら許すが、たぶんそれ以外に関して絶対に許さないだろうからうっかり刺激できない。

「まあ、アレだ。バカなこと言ってんな。バカ言ってっと病院連れてくぞ」
「病院って、今日、祝日だよ?」
「………………そーだっけ?」
「だから出かけたんでしょ。ていうか、必要なのはたぁくんの覚悟だけなんだから、さっさと決めろ♪」
「いやじゃボケぇ! 三人だけでも死にそうなんだよ! さらに増えるとかやってられるか!」

 往生際悪く、辰馬が激しく頭を振ると。

「あ、わたしもお願いします、ご主人さま」
「いや、定食屋のメニューみたいに簡単にううんじゃねーよサティア! お前、まだ身体万全じゃねーだろーが!」
「いやー、むしろ盈力を注いでいただいた方が、調子がよくなる? かも?」

 なんでこいつらこんなに積極的なわけよ? おかしーだろと辰馬は少女たちの積極性に懊悩する。そんなもん、辰馬が絶世の美少年で、ずっと見守ってきたり、恩人だったり、素うどんおごって貰ったりとそれぞれに理由がある。むしろ彼女らとしては辰馬に手を出されるのを今や遅しと待っていたわけで、今更辰馬の疑問など差し挟まれてもそれこそばかたれと返されかねない。そんななか美咲に関してだけは確かに、辰馬に抱かれる理由はないのだが、彼女はゆかへの恩寵が絶やされないために自分の身を捧げる決意を、すでに固めてしまっていた。

「それじゃ、今日は6人で。頑張ってねー、たぁくん?」
「無茶言うな! 死ぬわ!」

………………

 死にたくない辰馬は逃げを打つことにした。

 三十六計北《に》げるに如かず、ってな。

 夕方、食事を終えるや「勉強、集中すっから一人にしてくれ」と言い置き、そして速攻で逃亡準備を開始する。いつものだぶついた服ではいかん、ということてスウェット、それも夜闇に紛れる黒いやつに着替え、窓に油を流して音を立てずに空けるとそのまま、2階から躊躇なく飛び降りる。この程度でどうこうなる鍛え方ではなく、まずは脱出成功。追っ手が来る前に逃げ延びねば……!

 ということで。

「で? オレんトコっスか。うれしぃーですねぇ、辰馬サンがオレを頼ってくれるとか!」
「ほかにいねーんだよ。大輔は長尾のお嬢さんとどっかいってるし、出水はなんかイベント? とからしーし」
「まぁなんでもいーっス! この上杉慎太郎、命に代えても辰馬サンを守るッスよぉ!」

「じゃあ死ねーッ!」

 聞き慣れたかわいらしい声、疾駆する疾風、なびくピンクのポニーテール、そして翻る黒いもの。思い切り殴打されて、シンタは「ぶげぅ!?」と吹っ飛んだ。あまりの威力に、壁に奇怪なオブジェとして埋め込まれる。

 シンタを殴打したのは当然、雫。使ったブツは愛刀、白露の黒鞘。

「ふふふのふ。逃げられると思うなぁ! たぁくん? さ、いくよー」
「い、いやーっ! やめれ、やめーっ……!」
「美咲ちゃん、ゆかちゃんに聞かれたくないから、ホテルでしたいんだってさ。というわけで、ゴー!」
「やめろやめろやめろーっ! そんな、おかしいって!」

 辰馬はなりふり構わず、全力で抵抗する。しかし悲しいかな、自分より20㎝小さいこのお姉ちゃんのほうが、身体能力、身体運用技能、身体操作における先読み能力、そして単純な膂力、すべてにおいて辰馬を上回る。辰馬はあえなく引きずられるしかなかった。

「さ、連れてきたよー」
「うぅっ……もうどーにでもしろだ……こーなったらおれもメチャクチャにやっちゃる……」
「あ、今日はそれダメ。美咲ちゃん、実は初めてだから。優しくしてあげるよーに」
「初めてぇ!? 初めてで好きでもない男ととか、頭おかしーだろ! もっと自分を大事にしてくれ!」
「いえ、まぁ……。新羅さんのことは嫌いではないので、小日向の養女になって適当な貴族に嫁ぐよりはよほど……」

 さらっと重いことを言われると辰馬はぐうの音も出ない。そりゃ、ろくでもないクソ貴族につかまるよりはマシかも知れんが。

「……わかった。んじゃ、やるか……ハァ……」

 やる前から疲れた吐息を吐く辰馬。瑞穗、雫、エーリカはもとよりとして、この際の美咲の……その、何だ、とにかく具合が非常に良く。優しく、という念押しにもかかわらず叩きつけるような激しい行為をやってしまう。文とサティアもまあ、それはもうよかったのだが、とにかく美咲は別格。辰馬が思わず溺れてしまいかねない、魅力の持ち主だった。下手をすると瑞穗や雫、エーリカの三人すら食われかねない。

 翌朝、先日の瑞穗の全裸土下座とはまた別で。やりすぎた辰馬は美咲に土下座することになったのだが、まあそれは別の話。とはいえ睡眠不足だった美咲は朝まで六時間ぐっすり快眠し、むしろ晴れやかになりつつ、ただ、その心の中におそらく、生まれて初めて「ゆか様にもこのひとを渡したくない」という独占欲を湧かせるのだった。

………………
以上でした! それでは!

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遠蛮亭 2022/09/21 07:30

22-09-21.日之宮の齋王.01.呪装機人

おはようございます!

今朝はちょっといつもと違います。小説がくろてんじゃないんですね。もちろんくろてんの続きも上げていきますが、昨日からゲームのプロット切りとして作り始めた「むらいつ」の小説、タイトルはわかりやすく「日之宮の齋王」。これをしばらく書き進めます。午前中にこれやって、午後にくろてんを上げられたらいいなーと思いますが、それと「齋王」はこれエロ小説ですので、くろてんとちょっとだけ毛色が違います。まあ初回の小手調べ、あんまりエロくもないのですが。

その前にお絵描きが、昨日は実に5枚。

これがタイトルカットの完成図。広輪さまに提出して褒められた自信作…いや、上手いね、と言われたわけではなく描くの早いね、と言われただけなのですが…です。一枚絵の中にイラスト5枚、差分なし、背景はぼかしでというやつ。これを広輪さまにリファインしていただきます。

これが中央の。いろいろあって事後、というのを象徴する絵。

ほかは瑞穂さんがヒノミヤで受けることになる地獄なんですが、実際のゲーム画面には使われなかったりします。これは裸踊り。

ついで脱糞ショー。広輪さまから「タイトルで脱糞とは、攻めますね」とお褒めいただきました。この一枚あるせいでSNSとかに使いづらいですが、もともとTwitter上にエロ絵上げないので問題なし。

三本フェラ。もっと口いっぱいにちんぽ三本ねじ込まれてる感じにしたかったんですが、力量不足です。

ラスト、足舐め。ホントヒノミヤの連中って瑞穂さんを穢すことにかけて容赦がないなぁと痛感しますが、というかそれ書いてるの自分ですが、瑞穂さんはどうにもいじめたくなるオーラをビシバシと発しているのでいかんともしがたいのです。そんな瑞穂さんに押し倒されて泣かされるのが辰馬くんだったりしますが、「齋王」の長船はそんな気のやさしさはみじんにも持ち合わせてません。

それでは、日之宮の齋王、開幕です!

…………………
日之宮の齋王.01.呪装機人

 シーザリオン帝紀1816年、夏。
 長船言継はアカツキ皇国宗教特区ヒノミヤの呪装技術科が誇る大手術室から出た。

「ふぅ…」
 施術は問題なく終わったが、術後まもなくの呼び出しはさすがにだるい。麻酔が切れるや否やすぐさま紫宸殿に参内せよという軍師・磐座穣の指図に、言継はわずかにいらだちを感じた。

 長船言継、34歳。まずもって美形と言っていい顔立ちと長身で逞しい肉体の持ち主だが、無精ひげの顔立ちには野趣が強すぎ、また好色な性格を隠そうともしないため、このヒノミヤで彼に好意を抱く女性は限りなくゼロだ。呪具の扱いに長ける「呪具師」としての才能・適性からヒノミヤを二分する派閥の一つ、神月派の監査官にして武闘派集団「先手衆」の副長を務める彼は、その暴くことと取り締まることという職分からしてもまた、女性の嫌悪を買う。

 それでなくとも、このアカツキという国…もっと広義にアルティミシア大陸において男性の立場は悪い。創世の竜女神グロリア・ファル・イーリスが作りたもうた女神の現身…女性は女神の奇跡の片鱗、神力を使えるなどして女神の寵愛を受けるが、男性という欠損遺伝子体…その証拠に、天界に男神は存在しない…に女神の寵愛はなく、そのため諸国の女性には男性を見下すふうがある。中には男女平等を謳う女性もいなくはないがそれらは少数派だし、またそれら平等主義の女性がよって立つところは所詮、女性優位の今の立場あってこそだ。

 まあ、そーやってこっちを見下してる女を、ブチのめして泣きわめかせて命乞いさせて、容赦なく○すのがたまんねぇーんだけどなぁ…。

 廊下を歩きながら、クク、と含み笑い。近侍の巫女が怯えて道を開け、言継はそれを無視して進む。頭の中では男女平等を謳う神楽坂派の若当主・神楽坂瑞穂や、自分にキツくあたる上司でさらにそのまた上司、神月五十六の愛人である磐座穣を隷属させる妄想が渦巻いていた。股間の大逸物は隠しようもなく勃起して緋袴を押し上げているのだが、言継はそれをまったく頓着しない。

 紫宸殿の前にやってきて、深呼吸を一つ。ここの主、神月五十六は世界から絶えた男神の力を身に宿すといわれる超越存在。うっかり機嫌を損ねると消滅させられかねない。

 スパァン、と勢いよく襖を開ける。そこには臥所の布団の上に胡坐をかく、長髯の老美丈夫・神月五十六と、その傍らで五十六の手にするお猪口に瓶子から酒を注ぐ、軍師にして愛人の少女・磐座穣の姿があった。

「来たか、長船」
「ええまぁ。術後半日で呼び出されるってのはさすがに、イラッとしますがね…」
「長船、神月閣下に向かって無礼ですよ! あなたの施術が問題なく成功したことは報告済みです、にもかかわらず不満を述べますか!」
「…そーっスねぇ…」
 ややヒステリー気味に怒鳴ってくる穣に、言継はヘヘ、と薄笑いで返す。確かに手術は成功しているようだ。普段なら目の前にいるだけでプレッシャーの凄まじかった穣や、五十六に対する恐怖が自分で驚くほどに薄れている。

 言継が受けた施術は「呪装機兵化手術」。呪具師としての高い適性を持つ言継の体内に直接、複数の神話級呪具を埋め込み、一体化させるというもので、これにより試算値では言継は神力使いの女性術者である巫女たちをも凌駕するだけの力を手に入れたことになる。それのみならず、上位の巫女である穣に対しても脅威を感じず、先日まで威圧と恐怖しか感じなかった五十六を前にしても余裕があるというのは想定以上。埋め込んだ呪具との親和性がよほどに高かったらしい。

 これ、勝てるんじゃねぇーのかぁ?

 思わずそんな考えが浮かんでしまうほど、新しい体に眠る力は大きい。とはいえここは五十六のおひざ元。自分の能力についての把握も済まないまま、うっかり反逆してもあちこちに伏せられた神官兵によって取り押さえられ、処刑されるのは目に見えている。よって言継は自らの牙と野心をひた隠した。

「なるほど霊格が目に見えて上がっているな。それならばヒノミヤの最大戦力とも太刀打ちできるか…」
「最大戦力…?」
 酔眼の五十六に、言継も半眼で答える。この応酬で察したのか、穣が焦りを含んだ声を上げた。
「閣下、まさか…。その役目は兄さ…磐座上級監査官が…!」
「ワシもそのつもりだったがな。お行儀のいい遷より、一度旧弊を破壊し尽くすにはこの蛮人のようが向くやもしれんぞ、穣」
「蛮人ですいやせんねぇ…。で、ヒノミヤの最大戦力ってのは…、やっぱり」
「姫巫女よ」
「へへ、やっぱりそーかぁ…。神楽坂派の姫巫女っつーと、齋姫猊下と沼島寧々…。鷺宮蒼依はこの前こっちについたから、この2人か。齋姫と沼島をブチのめして犯して構わねぇ、ってことでいーんですかぃ?」
「構わん。徹底的に誇りと尊厳を打ち壊し、生まれてきたことを後悔させて絶対に裏切ることのない忠犬に仕立て上げよ。…ただし、壊さんようにな。きゃつらには今後、ワシがこのアカツキに覇を唱えるための手駒になってもらわねばならん」
「閣下! そのようなやり方は!」
 清流たらんとする穣が諫めようとするが、五十六は「黙れ」の一言で穣を黙らせる。そして臥所の奥から印璽と玉佩を取り出すと、言継に渡した。

「大神官印璽だ。おぬしの行動をワシの名でもって保証する。思うままに振る舞え」
「そいつぁ、ありがてぇ」
 遠慮なく受け取る言継。その軽薄顔を、穣が怖い瞳でねめつける。彼女はこれまで数多くの計略と献策をもって神月派の台頭に一役も二役も買ってきたが、それは女性を踏みにじり家畜とするためではない。むしろ穣は五十六のそばにあって女性たちを救うべく尽くしてきたのだが、五十六が言継という破壊者を使うと決めたからには今までの方針では立ち行かない。天才軍師と言われた磐座穣だが、なお五十六の心底は測りかねた。

 まあ、この女もいずれオレの腹の下でヨガらせるとして。まずは奥津城の齋姫をハメ殺すとするかね…。

 穣の内心を推し量って嘲りながら、言継はひとまず五十六に背を向け、紫宸殿を後にした。

………………
「♪ ……♪~」
 神楽坂瑞穂は上機嫌だった。

 ここはヒノミヤ内宮府と権力を二分する、神楽坂派の本拠地、奥津城。内宮府の紫宸殿のような豪奢さはなく、むしろ質素なつくりや調度が特徴の奥津城だが、質素ではあっても貧相ではない。むしろ上品な味わいは隠せず、玄人受けする雰囲気を醸す。

 その奥津城の邸で、瑞穂はトイレに屈んでいた。

 広いトイレにうんこ座りで、手紙を読んでいる。旧時代のとある戦国武将のようだが、ともかく領民からの要望や個人的なお手紙など、そういうものに目を通すのがトイレの時間であり。今年の正月に齋姫という、ヒノミヤ4000人の巫女衆の頂点に推戴された瑞穂を称える手紙が多々寄せられたのは半年が経過した今でも当然として、それが政治的な汚れに染まった大人たちではなく、無垢な子供たちからの手紙であったら、瑞穂にとってこんなにうれしいことはない。おかげで下ろしたぱんつを上げなおすタイミングを逸したまま、瑞穂はにまにま顔で手紙を読み耽っていた。

「んふふふ~、ありがとうございますぅ~♪」

 手紙にお礼を返して頭を下げると、柔らかく巨大な乳房がそれだけでだぷん、と激しく揺れて波打つ。ふふん、ふふふんと上機嫌の瑞穂だが、突然ガタガタ、という急な物音が聞こえ、身を固くした。ちなみにぱんつはまだ上げておらず、股間は露出したままである。

「誰、ですか? ネズミ?」
「ち、チューチュー…」
「ね、ネズネじゃないですよね!? 明らかに人の声じゃないですかぁ!? 采女、来て!侵入者です!」
「ぎゃー! 呼ぶな呼ぶな、あのババア呼ぶな!」
 瑞穂が宮女長の老女を呼ぼうとすると、トイレの物陰から少年が二人飛び出して瑞穂の口を押えた。かがんでいる瑞穂と大して差のない背丈からわかる通りに子供であり、奥津城神楽坂家の近くに住むヒノミヤ信徒の子であるが、残念なことに子供が須らく無垢であるというわけではない。裕福な信徒の息子であるこの二人から、瑞穂はこれまで数え切れないほどのセクハラ被害を被ってきた。

「ふ、ふむ゛~っ!?」
「瑞穂、大声出すなよ、ぶん殴るからな?」

 瑞穂がその気なら少年二人、塵芥同然なのだが、性格的なものだったり悪ガキ的な弟ぶんへの甘さだったりが邪魔をして瑞穂を冷徹な断罪者たらしめることができない。瑞穂はこくこくとうなずき、少年二人はふてぶてしい顔でトイレの中に瑞穂をおしこめる。

 この時点でも瑞穂はぱんつを上げておらず、股間は少年二人のいやらしい視線に晒されたまま。ただでさえ瑞穂の121㎝Pカップという驚異的バストやアイドル顔負けの可愛らしい顔立ち、ムッチリした腰や太ももの肉づきにいつも興奮している悪童二人は、やや毛深い股間の淫阜とその芳醇な香りに興奮して逸物を勃起させた。

「ひぅ!?」
 突然目の前で肥大化した逸物に、驚き怯えてすくみ上る瑞穂。悪童二人のうち一人は居心地悪げに肩身を狭くするが、もう一人はもっと積極的に大胆だった。

「あー、これまた発作が…、瑞穂、治してくれよ?」
「へ? 発作? 治す…って、これ、病気なんですか?」
「あー、メス臭さにあてられたらこーやって、膨れ上がるんだよ。お前のせいだぞ!?」
「た、大変ですね…じゃあ、神聖魔法で…」
「バカ! そんなもんきかねーよ!」
「え…」
「口で吸ってくれよ、瑞穂。お前のせーで溜まった毒、お前が吸い取るのがスジだろ?」
「ぇ…えぇ~っ!?」
 さすがに瑞穂もそこまで単純でも無垢でもない。この二人がロクデナシであることも理解しているから、またとんでもないことをさせようとしているのでは? という気にはなった。なったが、二人が揃って腹痛のふりをして苦しんでみせると、根本的に人がいい瑞穂は拒めない。

「わ、かわり、ました…します…」
「そーだよ、わかってんじゃねーか。お前が悪いんだからしゃぶるのが当然なんだよ!」
「は…はい…ん…、んちゅっ…」
 ムードもへったくれもない場所、好きでもない男を相手に、瑞穂はおずおずと突き出された逸物その先端をついばむ。最初は唇で触れるだけ、しかし少年たちがそれで満足するはずもなく、すぐに舌先でレロレロと淫売のようにしゃぶらされた。

「おっほぉぉ~♡」
 瑞穂の天然な口名器に、少年は夢見心地の声を上げる。瑞穂はなにかマズいことがあったかと口を離して上目遣いに少年の顔を見上げた。

「だ、大丈夫、ですか? もっと優しく舐めたほうが?」
「い、いや、激しくレロレロしろ。へへ…これが瑞穂の口…」
「は…はい、続けます…」
 少年はしばらく瑞穂に先端をしゃぶらせる。瑞穂は自分が騙されていることに半ば気づいていながら、生来の気弱と押しの弱さからこんな子供相手ですらも強い抵抗ができない。もし本当に病気だったらかわいそう、と自分を納得させ、結果としてびぢゃ、ぢゅぶぐ…といやらしい水音を立てて亀頭にしゃぶりつく。

やがて抑えがきかなくなった少年は逸物を瑞穂の口腔にねじ込んだ。まだ幼年学校を卒業もしていないような悪童の逸物はそれほど大きくはなく、亀頭全体が瑞穂の口腔内にすっぽり入るサイズでしかない。そして経験も少ない少年の逸物は瑞穂の口内粘膜に浸されて長く堪えることもできず、一度決壊すると連続で何度も何度も暴発した。若いだけに精液量は度外れており、瑞穂の可愛い鼻から白濁が逆流して花提灯を作るほどだ。

「代われ代われ! オレも! 瑞穂、オレの毒も吸えよ!」
 一人が幸せ顔で果てるともう一人の少年が奪うようにして交代、瑞穂に咥えさせる。瑞穂も濃い精液の味と匂いに酩酊したかのように突き出された逸物に抵抗なくぢゅぶっ、としゃぶりつき、むしろうっとりしたふうな瞳で舐めしゃぶる。このあたり、神楽坂瑞穂という少女には天性多淫の質がある。

「毒、吸わなきゃ…どく…んぢゅっ、ぢゅぷぷ、れちゅ、れろれろ…」
「あぁ~、きもちい~! これが齋姫のフェラチオかぁ、へへ…」
 わざと瑞穂が立場を思い出して羞恥を煽られるように言い放ち、少年は今更病気だ毒だという言い訳もかなぐり捨てて瑞穂の長い髪をがっしとわしづかみにした。そして激しく喉奥を○す勢いで腰を使い、さらに押さえつけた瑞穂の頭も前後に振りたてる。瑞穂の口の端から泡だった精液と涎のブレンド汁が吹きこぼれ、目の端からは涙の雫がしぶきとんだ。

「んぶっ、んぼぉっ、げぅ…っ! んっんっんっん…ずゅぶっ、ごふっ…!」
 オナホのように口を使われて、それでもけなげに奉仕する瑞穂。その従順さがまた少年たちを増長させ、嗜虐性を刺激する。少年は瑞穂の口腔、舌先に、喉に、歯ぐきに、頬たぶの裏側に亀頭を思うさまこすりつけ、何度も射精し、瑞穂が浅ましく喉を鳴らしてザーメンを嚥下する姿を見下して下卑た笑いを浮かべた。

 そうして。
 齋姫の口穴を堪能した二人の少年は、一人が萎えて休憩中は元気なもう一人が瑞穂の口を犯し、交代交代で口内に、喉奥に、顔面に、身体に、それこそ何十発という回数ぶっかけた。最後は左右から突き出した逸物を同時にしゃぶらせ、瑞穂の頭からたっぷりと精液をぶっかけ注いでトドメにした。

 さすがに顎と舌を使いすぎ、消耗でぐったりしている瑞穂に、少年の片方がなにやら大きめの機材を向ける。パシャ、という音がして精液まみれの瑞穂がけだるげに目を開けると、少年はいやらしい笑みを浮かべて勝ち誇った。

「写真、撮ったからな。あとで現像して見せてやるよ。ばらまかれたくなかったらこれから一生、オレたちに逆らうなよ、瑞穂!」
「そ…んな…」
「今日のところはこんくらいにしてやるけど、次はお前の処女いただくからなぁ!」

 少年たちが去り、瑞穂は精液にまみれてトイレですすり泣く。

‥‥……………

 そのころ、長船言継率いる精鋭部隊が、奥津城の境内を越えつつあった。

「隊長、攻撃準備整いましたぜェ。いつでも行けます!」
 副隊長、兼定玄斗が雄偉な体躯に見合った豪放な笑みを浮かべつつ、言継に報告する。もともと言継は磐座遷の副隊長だったのだが、今回の人事で隊長となった言継が左右の副将として抜擢したのが兼定玄斗、長谷部一幸の二人であった。

「おー。頼りにするぜ、玄斗?」
「任せてくだせぇや! 奥津城中のいい女、一人残らず便器の計だ、ゲヘヘ!」
「それも悪くねぇが、まあ一番いい女を逃がすわけにゃいかねーんでな。一幸、偵察どんな具合だ?」

 呼ばれた先にいるのは、半裸の女と絡み合う優男。いかにもな美男子であり、野趣が強すぎる言継やほとんどゴリラそのものである玄斗とは外見的な毛色が違う。しかし内面は同じ穴の狢であり、サディズムという点に関してはこの長谷部一幸が一番の外道かもしれない。

「…適当な女何人かに聞きましたが、奥津城の側は備えをしていないようです」
「? いや、当主の相模翁が内宮府に詰めてるとはいえ、齋姫が名代でいるだろ? いくらなんでもこれだけの兵力が越境してきて、気づかないなんてこたぁ…」
「罠か、もしくはこちらに気づけない理由があるのでしょう。どうします?」
「…ま、考えてもしゃーねえ。このまま前進! 罠ならそのまま食い破る!」

 長船言継は紫宸殿の将として、神楽坂派奥津城に目掛け進軍の号令をかけた…!

………………
以上でした! それでは!

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遠蛮亭 2022/09/20 07:02

22-09-20.くろてん2幕3章6話.テルシオvs包囲殲滅+アンケート結果とか

おはようございます!

今日は先日のアンケートの結果と、お絵描きと、くろてんです。

まずアンケート結果発表。
グループA、辰馬くんの身近な存在の中では瑞穂さん33%、雫おねーちゃん17%、みのりん17%、ラケシス8パーセント、夕姫さん8パーセント、繭さん17%でした。エーリカが0%…。なんとなく予想はできましたが、不憫。とりあえず上位3番手まで描こうかな(シナリオも書こうかなと)ということで瑞穂さんがまず確定、雫おねーちゃん、みのりん、繭さんで4人になりますが…まあここは頑張って4人描きましょうか。和姦と強○1枚ずつくらいならなんとか。

グループB、ライバル校から。ここは詠春11%芙蓉22%フミハウ33%初音11%佐藤さん11%鎌田さん11%、フミハウが圧倒的で、小説版にいっさいの出番がなかった芙蓉が2番手。佐藤さんと鎌田さんに票が入ったのは驚きでした。とりあえずここはフミハウ、芙蓉の2人で。

グループC、辰馬くん家族、+ボスキャラ枠。アーシェおかーさん13%ルーチェさん13%フィーリアママ38%聖さん13%伊織さん13%椎葉13%、ボスキャラ3人はゼロ。ウチのボスキャラつ憎たらしいのが多いからですかね、すがすがしいまでの結果でした。この枠からはフィーリアママ確定、あとはユスティニア姉妹か過去の英雄なんですが、ひとまず聖、伊織の二人を。

グループD、ヒノミヤ。寧々さん38%蒼さん13%杠葉さん13%櫻香38%。櫻香はちょっとロリ系なので人気でないんじゃないのかと思ってたんですが、そんなこともなかったです。なのでとりあえず寧々さんと櫻香で確定。いま寧々さんの凌○描いてるさなかなのでほかにどんなの描くかなーという気にちょっとなりますが。

グループE、女神勢。ロイア20%早雪20%シータ40%アルテア20%。シータ以外3人が横並び。シータを入れるとシュリーとナヒトも必然的に作ることになりそうなんですがまあやむなしとして、あと1人は他キャラと独立してるアルテアですかね。ロイアはラシャ、早雪はサティアとつながっているのでやりづらいです。

グループF、その他枠。エレアノーラ38%セアラ13%イシュクル13%法王ルクレツィア13%。エレアノーラ1強ですがエレアノーラとセアラとイシュクルは3人ともラース・イラ勢力で固まってるので、この三人採用ということで。

以上、アンケート結果でした。それでは次いでお絵描き。

まずこちら。寧々さんの立ち絵修正しました。袴をミニスカートにしてひたひれみたいなのをつけて、あと表情1個しかなかったのを16種作っただけですが。

こちら表情になります。最近ホントに寧々さんばっかり描いてるので寧々さんが主役な気分になりますが、実際はただ最初にやられて凌○お当番になるだけのキャラ。

寧々さんイベント2。実際の番手で行くとイベント3なんですが、1番が出産イベに使うやつなので別枠扱い。両手縛られ、すでにヤられまくって犯されることに期待と悦びしかない寧々さん。

舌突き出し。

正気に戻って泣き顔。

あきらめ。

放心。

以上です! 自分でもこんなに寧々さんへの思い入れができるとは思いませんでしたが。

そしてくろてん行きます!

………………
黒き翼の大天使.2幕3章6話.テルシオvs包囲殲滅

「さて。このあたりか。草原で適度な傾斜、そこらへんに自由な動きを阻害する岩場、そして風向き良し、と……」

 辰馬はそう言ってひとまず満足げに笑う。実際の戦争なら人を殺す、という罪悪感に自分がまず死にそうになるくらい心弱く脆い辰馬だが、今回の場合これはクズノハが作った隔離世結界、その応用だ。なんの心置きなく、ここまで学習してきた成果を出せる。

「ふぁ、ふう……荷車の中、たいへんです……くらくらして……」

 瑞穗が汗だくでワゴンから這い出し、へろんとよろけて膝をつく。確かにワゴン《荷車》は人間を輸送するためのものではないから、乗り心地がよいとはお世辞にも言えない。たいそう寒がりで暑いのにはそれなりに耐性がある瑞穗だったが、ワゴンで蒸され、揺られてかなりへろへろになっている。そしてフラフラするたびにやたらとデカい柔らかいものがふるふると揺れてどうにも、こちらの集中を削ぐ。

 なので、辰馬は穣のほうに目をやった。

「うん……落ち着く」
「なんですか、失礼な。言っておきますがわたしは小さくないですから。神楽坂さんが異常に大きいだけです。勘違いのないように」
「あー、うん、そーだよなぁ……瑞穗って昔からあんななの?」
「わたしが知る限り、神楽坂家に迎えられた時点で○女としては破格でした。だから相模さまが幼児愛好趣味に目覚めたとか、いろいろ物議を醸《かも》したものです」
「はー……いろいろ大変だな。会ったことねーけど、相模さんも苦労してんな」
「大神官ですから、苦労は当然です。もちろん真の意味でその地位に相応しいのは、五十六さまのほうですが」
「あのジジイなー……どんな罪になるやら。つーか牢屋で死ぬんじゃねーかなと想いもするけど。食事とか断りそうな……」
「あのかたは泥水をすすってでも生きて捲土重来を期すかたです。簡単に死を選ぶ惰弱ではありません、新羅とは違います」
「あ、そう……まぁ、とにかく場は整った、と。あとは敵を誘い出すだけ。だが……」

………………

「耿叡《こう・えい》には悪いが、そう簡単に出て行くわけにはいかないな。飛び道具の射程でこちらが劣ることに着目したのだろうが、それはこちらも織り込み済みだ。敢えて打ち合いにに応じることはない。耿叡がやられた2000、敗残兵の帰還を待っている時間はないとして、現状6000。大楯と長槍の4000を敵前に出して白兵を挑みつつ、残余の2000で敵陣に迂回突撃をかける!」

 戚凌雲《せき・りょううん》は今一人の参謀役、虎翻《こほん》に向けてそう言った。大楯を構えて敵の矢を防ぎ、長槍による刺突、あるいは投擲で敵を打破する戦術はいわゆるマケドニア・ファランクス。凌雲はその陣容を巧みに運用、槍を長柄のそれにし、密集の度を増しつつ攻防力を重厚なものとし、さらに烏銃……マスケット……は支給されていないので弩を集中させて強化火力とする。なのでこの戦法はファランクスというより、スペインのテルシオに近い……とはいえこの世界この時代、旧世界のマケドニアもスペインもほぼ人の記憶にないし、テルシオとはいってもそれは凌雲が過去の名将から借用したのではなく、彼の独創による。

………………

「そーだな。モード・アングレだけだと対策取られる可能性もあり、か。じゃ、予備兵を置いて前衛を左右両翼に展開、攻撃を加えつつ前進しつつで、上手いこと包囲……できればいいが」
「ちょ……それは!」

 さすがに瑞穗が顔色を変えた。服装のエロっちさとか気にしている場合ではなく、辰馬がぼそっと口にした戦法、それをあまりにもよく知るゆえに驚嘆、というか驚愕、むしろ端倪した。旧世界においてハンニバル、あるいはハーリド・イブヌル・ワリード、ただふたりだけが達成した兵法史上の最高峰、包囲殲滅。この世界に移ってからは新生ウェルス帝国の祖帝シーザリオンの親友で腹心だったコルブロス将軍だけが成し遂げた先例を残すのみの、天才のみに許される高度な戦術。そもそも実戦の中で敵をじわじわ気づかれないよう翼で包囲し、そして前進、叩きつつ、敵が算を乱すタイミングを確実に見澄まして予備兵力の突撃を敢行するという同時進行をなすということが、あまりにも難しく、困難を極める。だが新羅辰馬という少年は敵の凌雲がテルシオに到達したのと同様、完全な独創だけで包囲殲滅に到達した。瑞穗はそこに驚き瞠目し、穣と視線を交わしあい互いに頷く。これをやるからには、自分達は全力で辰馬の作戦を支援する必要がある。

 瑞穗と穣がとつぜん、大人しくなったのに対して、辰馬はやや不安げな表情になった。

「あれ……だめか、これ……?」
「いえ、ダメというか……もし成功すれば戦術史上の偉業です……まさか、独創で包囲殲滅にたどりつくなんて……」
「なんか、いかんのかな?」
「逆ですよ。癪ですが、あなたの才能、作戦能力は認めざるを得ません。ただし、作戦を立てただけでは画餅《がべい》。実際に兵を運用できて初めて成功です。……そこはまぁ、わたしと瑞穗さんに任せていただきますが」
「任せていーなら、頼むわ。おれは左右両翼の状況を見ながら中翼弓隊の指揮を執る。できればワゴンブルクを中翼の前に置いておきたいが、これは大丈夫か?」
「ワゴンブルク自体、そのルーツは農民が騎士に勝つための単純でわかりやすい戦闘法です。戦術史の中で洗練されて簡単なものではなくなりましたが、敵の騎兵を止める、その役割だけなら運用は簡単だと思います」
「ん。なら問題なし。さて、敵さんもそろそろかな……」

 草埃を上げて、近づいてくる敵兵。6000いるはずのそれがやや少ないこと、そして指揮官格の男が戚凌雲ではなく大兵、短髪、浅黒い肌のいかにも豪腕な武人……虎翻であるところから、まず辰馬は別働隊がこちらを衝く心づもりであることに気づく。となれば時間との闘い。こちらが敵の全面を殲滅するか、それともその前に側面からの一撃で粉砕されるか。

「ほんとなら向こうに仕掛けて欲しかったが、まあしゃーない……。弓兵、撃《て》ーっ!」

 辰馬の号令一下、中翼からの弓矢が一斉に放たれる。弓矢の威力というのはたいしたことがないと思われがちだが、実のところしっかり放物線を描き運動エネルギーを乗せた矢は鉄の盾をたやすく貫通する威力を誇る。ある意味、マスケットにも劣らない武器なのだ。……ただし、技能の熟練が必要なこと、引き絞り、狙いを定め、放つという性質上連射が難しいという欠点は、どうしてもあるが。

 よって、凌雲のテルシオも盾で被弾を避けるとはいえ、貫通してくるものまでは防げない。諸撃でかなりのダメージを、辰馬は虎翻に与えた。しかし虎翻もさるもので、矢で受けるダメージはそれとして二射目が発せられる前に突進、間を詰めてくる。こうなると至近、弓矢という武器は使いづらい。

「ならやっぱ、あっちの策か。頼むぜー、瑞穗、磐座」

 右翼には瑞穗が、左翼には穣が、それぞれ指揮官として出張っていた。そもそもからして公正を期すためなのか、最低限の人格しか付与されていない幻体兵士たちに高度な軍隊運用は不可能であり、瑞穗と穣がやる以外の選択肢はない。ここまでどんくささばかりが目立った二人の少女だが、その頭脳は二人ながらに天才。巧みに敵を誘引しつつ、円を描いてその中に敵兵を押し包んでいく。二人が優秀ゆえというのももちろんだが、虎翻という男は参謀役でありながらむしろ直情の武人肌であり、思慮に欠けるという欠点も大きい。

 そして、包囲が完成。ほぼ兵力を減らしていない辰馬の兵は予備兵2000を残して6000、凌雲の側は虎翻が4000、別働の凌雲が2000なので、包囲という形を取るまでもなく数では辰馬優位。この状態から全方位的に叩くのだから、虎翻としてはたまったものではない。さらにこれで終わりですら、ないのだ。

「予備兵突撃! 一挙殲滅せよ!」

 敵が崩れた機を逃さず、辰馬が声を限りに咆哮する。包囲状態からの全包囲攻撃、そして予備兵投入による波状攻撃に、虎翻は完全に崩れた。凌雲であればこれとても凌いだのかも知れないが、虎翻では役者が足りない。以前「戦争における死傷率は存外に低く、完全な殲滅などない」と記述したが、完全な包囲殲滅が決まった場合その限りではない。この一撃で辰馬は敵の半数を超す2300人を打ち倒すというほとんどわけのわからない数字を上げた。これで敵が呻きながら死んでいくと精神衛生上、非常に悪いのだが、今回のこれは幻体。よってあとくされなく消滅してくれるのみなのでやりやすい。

「ひとまずこっちはこれで……として……ッ」

 気を緩めたつもりは毛頭ない。しかしやはり無意識的な弛緩があったことは否めず、そこにとんでもない勢いでの猛突撃が、辰馬の中翼本隊を襲う。突然の自然災害にも似た猛突に、辰馬ですら支えることが難しい。

………………

 勝った!

 戚凌雲はそれを確信した。新羅辰馬がほぼ完璧な包囲殲滅をやってのけたのには驚いたが、まず虎翻がやられるのは織り込み済み。虎翻を倒して油断した辰馬、その一瞬を衝いて鎧袖一触《がいしゅういっしょく》とするつもりだった。

 のだが。

 どうにも、辰馬がしぶとい。瞬殺できない。辰馬は粘りに粘り、自身剣を取り奮闘する。今回使うのは家伝の銘刀・天桜ではなく普通の剣。一人二人を斬れば折れてしまうが、その都度、辰馬は敵の剣を奪って次の相手を斬り、さらに剣が折れては別の相手を斬って、修羅か羅刹のごとくに荒れ狂う。

「凄まじいな……網を!」

 投網が投擲され、辰馬を絡め取る。辰馬はどうにか抜けようと暴れるが、これはどうしようもない。そして凌雲の前に引き据えられた。

……
………
…………

「卿も相当のものだったが、私のほうが一枚、上手だったようだ」
「そりゃ、どーだろ」

 投網を絡みつかせたままに、辰馬は神速の踏み込みで間を詰める。次の刹那、凌雲の首元に切っ先を突きつけた。

「三軍も師《すい》を奪うべし、て言うんだよな? 逆転王手、この言葉だけは昔からよく知っててな。さ、どーする?」
「困ったな……私は呂将軍の威信にかけて、負けることを許されていないのだが……そすがにこの状況、こちらも打つ手がない。あの距離から一気に詰めてくる身体能力を侮っていたな」
「切っ先つきつけられてずいぶん冷静だなー。ま、実際殺すつもりもねーんだが……ま、ここは引き分けってことで」
「そうだな。本当の勝負は、わたしたちが正式な軍人になった後で」

 言い合って、辰馬と凌雲は固く握手を交わす。敵手ではあったが恨みのある相手ではない。むしろ人格の爽やかさに、互いが互いに対して好感を持った。のちに殺し合う運命だとしても、今、友誼を深めてはならない理由にはならない。

 ……と、そういうわけでアカツキaチームと桃華帝国チームの4回戦は両チームリーダーの話し合いにより、引き分けとなったのだが。

「おいおいふざけんなよ主公《との》! 俺はアンタの優勝に賭けてたんだぜ!?」
「知るかよばかたれ。主催者側がギャンブルとかやんな」
「あぁーあー……給料が、しばらくモヤシかー……」
「知ったことかよ。んで、姉貴もなんか言いたそうな」
「いえいえ、結構いい絵面だったわ~。美少年と美青年の友情。捗る!」
「魔王がヘンな妄想すんな! ブッ殺すぞ!」

 とまあ試合後、長船とクズノハからこんな言葉をいただいた。あと宰相から最優秀戦術賞としてトロフィーと盾と1万弊(10万円)を貰ったが、お金以外は実のところ、鬱陶しいだけなのでどうでもいい。金だけはもう、本の虫としてはいくらでも使うのであって困るものではないのだが。

………………
以上でした! それでは!

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遠蛮亭 2022/09/19 09:46

22-09-19.くろてん2幕3章5話.モード・アングレ

おはようございます! 今朝は昨夜の台風で夜通し起きてたので朝から寝て、すこし出遅れました。そのぶん夜中にお絵描きはできましたが、ここのところ眠れない日が多くて頭がガンガン言ってます。まあ、精神症のひどい状態である「頭蓋が外れて脳天から脊髄までがグシャッといく」ような痛みは最近ないので精神状態はそこそこ落ち着いてるかと思います。でも昨夜は台風への恐怖から呼吸困難になりましたが。

で、昨夜のお絵描きです。

瑞穂さん犯され。これで序盤の必要イラストはとりあえず揃いました。足抱え後背位って「犯してる」感があっていいと思うのです。この絵はもともと1年前に描いたやつのリライトなんですが、だいぶすっきりしたんではないかと。

表情差分、怒り。

差分、哀しみ。

差分、焦り。

差分、喘ぎ。

差分、快感。

差分、悲鳴。

差分、恐怖。

差分、アヘ顔。

以上です! 実際全部使うかそれともまだ表情足りないかというのはまあ、実際ゲームに組み込んでみないと分からないところがありますが。

あとアンケートの結果、まだ確認してないですがあとで確認して発表します。昨日確認した時点では投票7人くらいでしたが、どのくらいになっているやら。

そして今日もくろてんです。今日は第5幕を開幕させるので1話のみ。長弓でクロスボウに勝つ「イングランド式」です。

………………
黒き翼の大天使.2幕3章5話.モード・アングレ

「実質的に、辰馬と彼……戚凌雲? 二人の一騎打ち、ということになりそうね?」
「そーだな。ま、おれのご主君があんな若造にゃあ負けまいが……ってわけで、特別演出頼むぜ、先生さまよ?」
「まあいいけど。わたしはただの非常勤講師で、国軍に何の借りも責任もないのだけれど」
「そんじゃ、俺が抱いてやるよ。淫魔でもたまらねぇ夢見心地につれてってやるぜぇ?」
「いらないわね。わたしの好みは可愛い子だから。あなたみたいなむさいのはおよびでないわ」
「……新羅公とか、覇城の若君とか。ガキばっかじゃねぇか。ショタコンか?」
「まあ、違うともいいきれないわね。筋張った男臭い男はまあ、苦手よ」

 二人の人影が、そう言って語り合う。一人は審判員長・長船言継であり、いまひとりは長くつややかな銀髪に肉感的な肢体を漆黒のドレスに包んだ、金銀の瞳の絶世美女、葛葉保奈《くずのは・やすな》ことクズノハ。

「あの二人の盤面を仮想現実内に転送する。まあ、それほど難しくはないけれど。やるからには凝りたいわね。鳥の羽ばたきや水のせせらぎ、そういうものまで全部リアルに……」
「あんまし凝らなくていーぞ。とにかく二人の本来的な実力が見えればいいんだ」
「わたしに依頼したからにはわたしのやり方を貫かせて貰うわよ。まあ、とりあえずこんなものか……あとは適宜調整するとして……さて、あの子が驚く顔が見物ねぇ。ウチの弟はいちいち反応が可愛いから驚かせ甲斐があるわ……」
「あー……わかる。あのひとの反応見るとからかいたくなるよな」
「あら、なかなか話の分かること」
「まぁな。さて、そろそろ始まるか……」

……………

「……なんだ、これ?」

 新羅辰馬は草原にいた。
 なぜか蒼月館指定学生服でやってきたはずの服装は青基調のアカツキ軍服に代わっており、すぐそばに転移させられた瑞穗と穣の服装もやはり代えられていた。瑞穗のそれは修道服を露出高めにアレンジしたような代物に、上から白ローブという、まあ露出の激しさを除けばとりあえず一見してヒーラーに見えるもの。穣のそれは瑞穗とは正反対に露出を極限まで抑えた、出来る女のスーツっぽいもの。それを襟飾りや帽子、袖や袖によって「軍師らしさ」を演出している。その背後には数千に及ぶ兵とこれまた2千近い馬、そして荷駄が並ぶ……のだが、なんとなーく、その兵士たちに人格が感じられない。

「おい、お前、だいじょーぶか?」
「……はい、大丈夫であります」
「?」

 最低限の応答は出来るらしいが、自主的に動く能力はないらしい。ということは……。

「まあ、こんな特殊な隔離世を作るバカが誰かってなると一人ぐらいしか心当たりねーが……この兵士たちを使って実戦さながらの模擬戦をやれと?」
「そのようですね」

 穣も、事態を平然と受け入れ、順応する。順応というか自分のえろい服装に納得いかないのかなんなのか、非常に不本意そうなのが瑞穗で、事態がどうこう以前になんとも複雑な表情をしていた。

「あーいいじゃんよ。可愛い可愛い」
「そ、そうですか? 辰馬さまがそう言うなら……」
「まあ、新羅は誰にでも可愛いという不実な男ですが」
「……あのさ、なんでそーやって管巻くかな。おれがおまえになんかしたか?」
「それはもう、いろいろと。ヒノミヤを転覆させたという大罪、忘れて貰っては困ります」
「あれはおめーらが悪いんだろぉがよ!?」
「黙りなさい侵略者! ヒノミヤは開闢以来、自主独立を貫いてきたんです!」

 などと怒鳴り合っているところに、ひぅ、と風切り音が辰馬の耳を劈く。ほぼ常人の耳で捕えられない音域だが、辰馬の聴覚は尋常ではない。逆に耳が良すぎて神経症になりがちなところがあるくらいだ。超音波レベルの音も、微かながら聞き取れる人間というのは存在していて、辰馬はそれにあたる。

「ッ!?」

 咄嗟。飛来する細く研がれた箭を掴み取る。「細く研がれた」と言ったとおり、普通の箭の太さからはかなり考えられないほどに細く、おそらく弓で射て折れないぎりぎりの太さと目視しづらさを両立させた、暗殺用の矢。

「もうあちらさんは動いてる、って事か。動きが早いな……」

 暗殺され掛かったことよりも敵の機敏さに感心する。暗殺を仕掛けたとは言え、殺すつもりではなく挨拶代わりの一矢であったことはわかっている。それよりもまず、こちらの体勢を整えなければならない。

 とはいえ、先に形勢取られると間違いなく不利だ……。

 実際のところ、兵法というのは「事が始まる前に決する」技であり、事が推移している最中に自在に陣法を動かすなどと言うことは完全に幻想。多少のリカバーはともかく、千変万化の運用など実際にはそうそうあり得ない。ゆえに先に陣を固め、先手を取った側が圧倒的に優位に立つのは自明の理だ。そしてその優位をフルに活かすのは、桃華帝国征南将軍・呂燦の秘蔵っ子、戚凌雲。その冴えはさきに見せつけられた通り。初手から、辰馬たちはかなりの不利に立たされた。

「まず下がって陣を立て直す! このままだとやられるからな!」

 辰馬はやや自棄気味に叫んで後方に歩き出す。走りたいのだが、すぐ後ろにいる二人の少女が人並み外れた安定感の運痴であるために急げない。さらには数千からの兵士たちも、なんといえばいいのか、辰馬を主と認めてはいるが直接的な命令がないせいで、上手く機能せずこちらに付いてこない……というか一応、ついてくるものもいるはいるが、三々五々といった感じで軍隊としての統制がとれていない。

「確たる命令が必要なようです、辰馬さま。ここはひとつ!」

 瑞穗が期待に満ちた顔で辰馬を見上げる。なんかなー、恥ずかしいんだけどな、とか思いつつも幻体とはいえ一応は仲間の兵士。見殺しにも出来ない訳で辰馬はヒノミヤ事変以来、久しぶりに号令する。

「全軍、一時撤退! まず下がって陣を立て直す!」

 こう號すれば、兵士たちは「応!」と辰馬に従うのだった。

……
‥‥…
…………

「いったん引いた、か。なかなかいい判断だが、後手のままでは逆転の目はないぞ?」

 戚凌雲は間諜の報告に頷くと、静かに呟いた。

 現状、圧倒的に優位。軍師役のとりまき二人はこのまま一気呵成を進言するも、凌雲は軽く頭を振る。彼はネズミと思って踏んだ尾が猛虎のそれであった、ということがいくらでもあることを知っている。実戦経験こそ少ないが、呂燦の近侍《きんじ》として最も苛烈な戦場を体験してきた経験は彼に油断を許さない。

 まして相手は普通ではないからな。

 心中に呟いて、鋭い切れ長の秀麗な眉目をわずかに細める。これが兵法大会という趣旨である以上魔術を使ってくるとは思われないが、凌雲は辰馬をよく知るわけではないから、魔王の継嗣足るものいざとなればその圧倒的魔力を行使することを躊躇わないだろうぐらいには思っている。実のところ、辰馬が魔王の力を発言させると大陸全土に暗雲の光条と闇の王を言祝ぐ空のざわめき大地の震えが毎度、起こるのだが、実際に辰馬を相手にしたことのない凌雲は新羅辰馬=次代の魔王はかなり遠慮なしに魔王としての力を振るっているだろう、と思われている。結構な誤解ではあるのだが。

……
………
…………

 辰馬たちは猛スピードで疾走していた。

 瑞穗と穣、そして足の遅めな兵士は全員尽く荷駄車に乗せ、カート状で推して驀進する。荷駄車3000に兵6000がほぼ無理矢理に押し込まれ、そして騎乗できる2000はちょうど、2000頭の乗馬に跨がる。こうすることで歩兵という、兵科的に重要だがどうしても足の遅くなるものを考慮に入れる必要なく、猛スピードで辰馬たちは進んだ。

「こんくらい進めばいいか。ここで陣を敷く! 磐座、敵の陣形、分かるか?」
「わたしを都合のいいレーダーみたいに使うの、やめてくれませんか? まあ、いいですけど……敵勢もほぼ同数、8000。だいたいここと、ここ、そしてこの地点の三カ所に、魚鱗で布陣しています」
「魚鱗か……突破狙い? にしちゃあ一極集中ってわけでもない……ふむ……」
「将としての経験や才覚では完全に負けているんです。いつもの、天賦と直感でなんとかしてみたらどうですか?」
「うーん……まあ、そーか。まぁ、そーかもしれんが」

 辰馬はそこでいらんこと口げんかを買うようなバカでもない。今はそれどころではないし、まあ天賦と直感は認めて貰ったのだからよしとする。

「瑞穗、前回のあの戦法は?」
「ワゴンブルクはたぶん、使えません。あれは敵が騎兵主体の際にもっとも威力を発揮するもの。歩兵相手ではもとより、そもそも荷車要塞で止める突進力・衝突力がありませんから」
「あぁ……歩兵主体での戦法が必要、か……磐座にもう一度尋ねるけど、相手の弓ってどんなだった? 勢いは強かったけど、射程はそこまで長くなかったような……」
「玄弓(和弓)とは違いました。弩、いわゆるクロスボウですね。桃華帝国における兵制をそのままに模しているようです」
「ん。で、こっちは玄弓……よし、こりゃ勝てる。ある程度拓けた場所に、敵を引きずり出すぞ!」

 勝ち筋を見つけた辰馬は意気軒昂と高めの美声を張り上げる。つまりはこうこうことだ。向こうがこちらとおなじ玄弓……すなわちロングボウを使うのであれば、状況的にかなり不利だった。しかし敵の主武器は弩。威力は強いが、射程はロングボウに比べて遙かに劣り2分の1あるいは3分の1というところ。打ち合いになれば一方的にこちらが勝つ。穣の言う直感で着想しただけでなく、実際にそういう戦例があり、西方での戦争でロングボウがクロスボウを一方的に蹂躙したことを、辰馬は最近学習している。いわゆるモード・アングレ《イングランド式》という戦法だ。

 問題は、飛び道具の打ち合いになる距離をうまく保って、さらには敵が騎兵2000……両軍に支給されている突撃兵器……を投入してきたときの捌き方も問われるわけだが、まあ、いけると思っていけなかったことはない。

「ワゴンブルクも使おう。騎兵突撃を止める。で、後ろから玄弓で斉射。だいたいこれで勝てる。間合いさえ間違わなければな」
「その間合いを、あの呂燦将軍の秘蔵っ子が見誤るでしょうか?」
「そこをなんとかする。まず相手を焦らせるために、別働隊の一翼を叩く。まあそこの森に隠れながら潜んでる連中に、とりあえず突撃ぃッ!」

………

 戚凌雲の軍師というか副将格である耿?《こう・げい》は、一丸で突撃してくる新羅勢に愕然と驚嘆した。彼は騎兵隊を率いて爆速で逃げる辰馬たちに追いすがり、そして森の中に騎兵を乗り入れていた。ルールを破って大規模隠蔽魔術を使い、敵が油断した隙を突いて一気に森から飛び出す腹づもりが、完全に逆を突かれて辰馬の騎兵と試しの玄弓斉射に会って一気にズタズタに戦線を砕かれた。

「なぜだ? 俺の隠蔽は完璧だったはず。どうして、わかった?」
「鳥ですよ……でしょう?」

 辰馬に代わってそう告げたのは、穣。辰馬も「うん」と簡潔に頷いた。隠蔽は確かに完璧だったが、しかしそれでも鳥を怯えさせ、急いで羽ばたかせる不自然さは隠せなかったのである。

「そんな、些細なことで……?」
「いや、結構目立つぞ、あーいうの。さて、そんじゃお前さんには、人質になって貰うか……」

 普段ならそういう手段に訴えることのない辰馬だが、この先の人生、一度だって負けられないと決めた以上は人質も取る。まあ、模擬戦だし。

 こいつを餌にして、凌雲? だっけ。あいつを平地に引きずり出す!

 それがうまく嵌れば勝ちだ。それでもまあ、半々かなーと思いつつ、辰馬は8000の軍を平野に向け移動させ始めた。

………………

以上でした! このころは「むらいつ」主人公、長船が結構活躍してました。第3幕からまったく登場しなくなりますが。それではです!

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遠蛮亭 2022/09/18 18:52

22-09-18.くろてん2幕3章4話.兵は詭道なり+お絵描き1種5枚

おつかれさまです!

朝は久々に1時創作外でしたが、やはり自分はくろてんを書いてこそ。というわけでくろてん外篇むらいつの瑞穂さんイベ絵です。

敗北して全裸土下座の瑞穂さん。この前に玄斗からボコボコにされてひん剥かれてます。ついでに処女も奪われて股間からは精液ドロドロ。一番最初のくろてんの企画段階から一貫してボコボコと土下座はありまして、広輪さまから「土下座専用立ち絵を作りましょうか?」と言われたほど瑞穂さんと言えば土下座のイメージ。プライドとか気丈さとか、瑞穂さんにはあんましないからですね。誰かのためなら力を発揮できますが、むらいつではそういう拠り所になるキャラが登場しないので瑞穂さんは弱いまま。

驚き。長船の提示する条件に食いついた感じ。

あきらめ。条件受け入れ。

受け入れたにもかかわらず殴打される瑞穂さん。言葉だけでは信用できないとかそんな感じです。

卑屈な忠誠。この時点ではまだ本物の忠誠を誓うわけではないですが、恐怖から反抗を忘れる瑞穂さん。

以上5枚でした!

そして、遅くなりましたがくろてん2つ目。

………………
黒き翼の大天使.2幕3章4話.兵は詭道なり

盤上模擬戦はほぼ将棋に近いと言っていい。3人1チーム、リーダーが「将軍」、残る二人は「軍師」あるいは「参謀」として献言することを許されるが、直接に盤面を動かす権限はない。そして互いに盤上に兵符《へいふ》という実際に戦闘を行う符と、伏符《ふせふだ》といういわゆる隠した策略を提示しておく札を配置、適宜それを動かし、最終的に敵の拠点を先んじておとした方の勝ち、というのが簡単なルールになる。

 2回戦まで圧倒的突破力を見せた辰馬たちヒノミヤaチーム(主催国なので2チーム存在)だったが、戚凌雲《せき・りょううん》とレンナート・バーネルの対決はやはりというか、格が違った。

 互いに攻めを凌ぎ、巧みに罠へと誘引し、さらに罠を奇策で返し、その当意即妙千変万化なること互いに食み合う竜と虎。とくにレンナートは不細工デブでただのヤラレキャラという予想を大きく上回り、むしろ盤面の推移は桃華《とうか》帝國の名将・呂燦《りょ・さん》の秘蔵っ子を凌いでいるようにすら見える。現に凌雲の軍師……というか実質ただのとりまきで、凌雲にせよレンナートにせよほぼ独力で戦っているが……二人は全幅の信を置くリーダーの劣勢に、顔を青ざめさせている。ただまったく顔色を動かしていないのは、戚凌雲そのひと。

「なるほど、川を避けて森に近づいたところで、伏兵。なかなか上手い」
「冷静ぶってますが、相当ピンチなんじゃないですかぁ? そちらの手はもうだいたい、看破し切っていますからねぇ……。兵法鼻祖《ひょうほうびそ》の国、などと言っても、所詮は過去の栄光。傭兵の国クーベルシュルトは、連年戦争に明け暮れているのですよ!」
「そうだな……だが、所詮というなら所詮、浅いのはそちらだ」

 凌雲は静謐に、なんの気負いも衒いもなく言ってのけると兵符を動かす。それは凌雲の兵とレンナートの主力が激戦を繰り広げている隙、複数の予備兵をちらつかせることで集中を散漫にさせた。そして劣勢を装ってレンナートの傲りを誘い、その心理的陥穽を突いて密かに隠蔽しつつ川を遡上、一気にレンナートの拠点を直撃した!

「……な!?」
「兵は詭道《きどう》なり、ゆえに能なるもこれを不能にし、用なるもこれに不用を示し、近くとも遠きを示し、遠くともこれに近きを示し、利にしてこれを誘い、乱にしてこれを取り、実にしてこれへ備え、強にしてこれを避け、怒にしてこれを撓《みだ》し、卑にしてこれを驕らせ、佚にしてこれを労し、親にしてこれを離す。その無備を攻め、その不意に出ず。これ兵家の勝にして、先には伝うべからざるなり、だ」

 静かに、滔々と、凌雲は謳うように兵法書の一節を言い上げる。勝っているにもかかわらず負けていると見せかけ、敵を驕らせ、備えなき本陣を直撃する。まさに『兵は詭道』の本道をやってのけた。

 そしていきなり、まるで天兵が川を越えてきたかのような事態に、レンナートは声を詰まらせる。完璧なまでの王手詰み。喉元に匕首をつきつけられたようなもので、ことここに至ってはどうしようもない……が、簡単に降参の白旗を揚げるのは、レンナート・バーネルのクーベルシュルトの次代を担うプライドが許さない。彼とても一国の代表であり、簡単に負けることは国の威信に賭けて許されていなかった。

 かくてレンナートは陣地一帯を焼き討ち、焦土戦術と徹底したゲリラ戦法を駆使して、凌雲を苦しめる。その技量は相当のもので、かつて世界を席巻した草原の王、ウガスティアのアミール・ナーディル・ティメルラン(現在のラース・イラ南方と、クールマ・ガルバ北部から起こり世界を席巻した草原国家の王。天才的軍略家で、騎兵の衝撃力は速力×重量ということに最初に着目した。新羅辰馬の尊敬する歴史人物であるがそれは天才的軍人であるというよりむしろ将棋が好きだった、という同好ゆえだったりする。彼に息子が生まれたとき、ちょうど将棋を指していたナーディルは「シャー・ルフ(王手)と呟き、それが皇子の名前になったという言い伝えがあるくらいで、辰馬が勝利確信の際にシャー・ルフと叫ぶのはここにあやかる)のが派遣した大軍を三度にわたり大破した、南クールマ・ガルパ内の小国クルクシェートラのチャン・ドゥン・トゥエ将軍のそれにも匹敵する。

 正兵の凌雲に、奇兵のレンナート。レンナートはかなりに凌雲を苦しめたものの、やはり状況を覆すには2手3手足りない。形勢決してなお数十分の間、両者は戦い続けたが、ついにレンナートはうなだれ、投了を告げる。

「負けました」
「ああ。驚かされた。なかなかのものだったよ、西方の兵法と侮っていたなら、負けていたかも知れない」
「ご謙遜。あなたまだ、本気を見せていないでしょう? 見せたくない相手がいる、というわけですか……」
「まあ、な。一見ただの茫漠《ぼうばく》だが、どこか計り知れん、あの男は」
「確かに、そういう所はありますな……だが、わたしに勝った以上、あなたには勝っていただかなくては困る」
「むろん、負けるつもりはないが。まずあちらの3回戦か……」

……
………
…………

 というわけで。

 新羅辰馬、3回戦。
 相手はヴェスローディアの、ディートリヒ・フォン・サガンおよび軍師二人。凌雲やレンナートほどではないが、これもなかなか、油断できそうにはない相手。そもそも辰馬は兵法初心者であり、まず独力では勝てない自分を弁えている。瑞穗と穣に頼るつもり満々だし、そもそもそれが許されるルールなので問題ない。

 そのはずなのだが。

 辰馬が適当に兵符を配置していくと、「へぇ……」と穣が呟き、瑞穗も「はぁ……」と詠嘆した。「……?」辰馬は二人のもとヒノミヤ巫女に怪訝な顔をするのだが、ほとんど直感だけでの兵の配置が、攻撃的な傾きはあるにせよまず、理想的になっていることに驚かれる。これで兵学初心者と言うのだから信じられないところだ。

 伏符も置いていく。わかりやすいところにあちこち見え見えの伏兵を置き、それを敵が避けたところで、本命の毒針を突き立てるような配置。これもまた、初心者のやりようではない。辰馬の普段の性格における善良さとはうらはらに、とんでもなく悪辣でえげつない罠の仕掛けだった。

 こうして始まった第3試合。ディートリヒはバカではないが、それゆえにやはり伏兵と悟ると嘲笑ってそれを避ける。そして避けたところには、辰馬がさらに隠した本命の伏兵が牙を剥き、そこから逃げればまた先に伏兵、さらに逃げてもそこにも伏兵と、果てしない連鎖で敵を食い尽くすすさまじさ。

「十面埋伏……」
「まさか、初心者の新羅がこんな真似をやってのけるなんて……」

 瑞穗と穣の視線が、やや潤んだ感じに熱い。軍師役の二人が、ほとんど口を差し挟む用がなかった。なんか知らんが自分が適当にやった布陣で油断できないはずの相手に完勝した辰馬、これでいーのかねぇ、と思いつつ、4回戦出場。

……
………
…………

「やはり、彼が勝ち上がったか……」

 戚凌雲は呟き、賓客用に出された茶の味に顔をしかめる。本場・桃華帝国の人間としては、アカツキのまずい茶に納得いかない。

 といって、彼は上流階級の出身というわけでもないのだが。もともと寒門……乞食とまでは行かないがあまり富裕ではない桃華帝国の、庶民の子である。才のある子弟を集め教育を施す、呂燦将軍の薫陶のおかげで貧しさから救われたが、もともとの貧困を忘れたことはない。だからこそ、呂燦への恩義を返すため、こんなところで挫敗しているわけにはいかない。

「それにしても……十面埋伏とは恐れ入る。やはりただの凡庸とは違うらしい」

 とりあえずは茶を飲み干して、凌雲はそう独りごちた。

……………………
以上でした、それでは!

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