投稿記事

2022年 09月の記事 (68)

遠蛮亭 2022/09/15 09:58

22-09-15.くろてん2幕2章10話.覚悟の誓い+お絵描き1種10枚

おつかれさまです!

案外早くにお絵描きが完成したのでそれ上げて、そしていつものようにくろてんも上げるとします。


1枚目、つかまってるけど勇ましげな寧々さん。


2枚目、様子伺い。


3枚目、小鬼に挿入されて驚きと怯え。


4枚目、嫌悪感。


5枚目、射精されるやすぐさまボテ腹。呪具の効果でパチスロのように連続出産可能です。


6枚目、陣痛。


7枚目で泣きながら出産。


8枚目、子供たちに囲まれて放心。


9枚目、子供に犯され。表情嬉しそう。


10枚目、再び妊娠、ぐったりしてアヘ顔。

以上です。最初は瑞穂さんのみ出産ありにしようと思っていたのですが、どうせならこんなふうに全キャラ出産ありでいくかな、と予定中。生まれるモンスターごとに画像変えるとなると労力大変なのですが、そこまでやらないなら行けそうです。

で、くろてん。2幕2章最終話、辰馬くんが将来の展望を明確にするお話になります。

………………
黒き翼の大天使.2幕2章10話.覚悟の誓い

 盛春。草萌ゆる春。ついでにいうと虫が鬱陶しくもあるが、まず台風の夏や極寒の冬に比べれば極楽な時節。草花を愛でるような風流心はついぞ持ち合わせない辰馬だが、とりあえず過ごしやすいのはいい。ただまあ、風流心が豊かすぎる瑞穗があれやこれやと草花を持ってきては雄弁に説明……というか、講釈するのにはやや閉口するが。

 いろいろと吹っ切れた辰馬だが、心の中の悩みが完全に晴れたわけではない。普段はいつもの横柄なようで異常に繊細な辰馬のままだが、時折、バランスが崩れて繊細ですぎる辰馬が顔を出す。だいたいにおいてそれを鎮める役目は牢城雫なのだが、さておき、姉で教師と弟で禁断の愛を育んでいる場合でもない。辰馬はここのところ、ペーパーテストの成績が落ちているのだった。

 それで授業に身を入れるか、と、気張る辰馬だが。

「神力と魔力が本来、同根の力であることは最近知られるようになったことだと思うけれど、霊力も深く遠い根をたどればやっぱりおなじ祖にたどりつくのね。だからまあ、霊力しか使えない子……この学園の大抵の男の子はそうだと思うけれど、悲観せず研鑽《けんさん》を積めば、神力使いや魔力使いにも勝てるかもね」

 教壇に立つのは腰つきと尻だけでやったらめったら色っぽい、絶世美貌の銀髪美女。狐の耳はさすがに隠しているが、紛れもないクズノハ……人間名・葛葉保奈《くずのは・やすな》だった。

 あの姉貴、ホントに教師やってるし……。

 辰馬は軽く頭を抱える。前回の話の流れでアムドゥシアスに帰るのかなと思ったクズノハは、葛葉保奈として魔術論の非常勤講師を平然と務めている。しかもこれが、美人で胸が大きくて教え方も上手い、とあって、正規の常勤講師より人気があったりするのだ。辰馬としてはそいつ実年齢70過ぎのババアだぞ、といってやりたくもあるが、言えば焼殺されそうなのでちょっと言えない。

「……そう言う、霊力を極限まで極めて神域に達する力を、新羅くん? なんていう?」
「……ウチの流派だと天壌無窮《てんじょうむきゅう》、ですかね。ほかにもまあ、呼び名はあるんかもしれんけど」
「はい、良く出来ました。今のところアカツキでは新羅江南流中興の祖・新羅牛雄だけが達した境地ね」

 いや、しず姉もある意味そこにいるんだけど……まあ、いーか。

 とかいう、身内との授業という授業参観的恥ずかしさを乗り越えて。

……
‥‥…
…………

 4月末……もう5月に近い時期。辰馬は珍しく牢城家を訪れていた。なにやら大切な話があるとかで。

 牢城家の主、訓《とき》はもと貴族とは思えない気さくな人で、人に偏見や恨みを持つことのない雫の人格形成にこの父親が関わっていることは疑いない。ただ、人に優しすぎる性格は人を疑うことを知らず、騙されやすくもあるのだが。

「んで? 話ってなんスか、おじさん」

 まるで上杉慎太郎のように砕けすぎた態度で、辰馬が聞くと、訓はやや言いづらそうにしばらく、うつむいた。細君・フィーリア(雫に似た、雫がハーフなのに対して純血種のアールヴであるだけに超美女! どこでどうまちがって人間の、うだつのあがらぬ下級貴族と結婚したのか謎)がその肩に手を置き、励ましの言葉を書けると、訓は意を決したように顔を上げ、辰馬の目を見る。

「牢城の家はこの町を離れることになってね」
「はぁ……は?」
「それで、雫にも一緒についてきてもらうことに……」
「いやちょっと。それ、え? えぇ? それしず姉も知って……?」
「知っているし、了解もしているよ。本当のところは辰馬君と離れたくはないのだろうが、わたしたちを見放せないのだろう、優しい子だ……」
「そんな……ぁ、えー……と、あぁ? うん、いやちょっと……しず姉はおれと……」
「君が正式に、雫を妻に迎えるというのならそれでよかったのだが……君は本妻に小日向の姫を迎えているからね。雫の性格的に、側女《そばめ》や妾という立場では幸せになれまい」
「………………」

 そう言われるとぐうの音も出ない。確かに、国……というか宰相・本田馨?《ほんだ・きよつな》……から押しつけられただけの政略結婚とは言え、正式な形でゆかと結婚してしまっているのだ。この国の制度で重婚は認められていないし、いろいろとお目こぼしされてはいるが複数の女性との関係だって褒められたものではない。つまるところ、訓は辰馬の不実をなじっているわけだ。可愛い娘を妾扱いされている……実際、本人が不幸であるか否かは別で……のだから、子煩悩の父としては無理からぬことではある。

「分かり……ました……」

 前回とはまた違った意味ですっかりうちひしがれて、辰馬は退席する。雫と離れる? そう考えただけで胸が張り裂けそうになる。こういうとき相談できる相手……。牢城邸から川をはさんで、すぐ近くに実家がある。辰馬は父に相談すべく、新羅江南流講武所へと脚を向けた。

……
………
…………

「ってわけなんだけど」
「まぁ、複数の女性と肉体関係を持って責任をとらないのは、辰馬くんが悪いね」

 相談を持ちかけた瞬間、一刀両断のカウンターがきた。誠実無比の新羅狼牙。生まれてこの方妻、アーシェ以外に一切なびくことのなかった男は、そもそもが息子の放埒ぶりに少々、苦言を呈したいところだったので今回いい機会である。

「そもそも辰馬くん、キミには誠実さが足りない。誰が好きなのかもはっきりさせず、全員好きだから順番なんかつけられないとか、そんなのは子供の我が儘といっしょだ。早晩破綻するだろう。それはもし、キミが王侯にでもなって正式に複数の妻を抱えることを許される身にでもなればいいが、そんなことはまず無理だと理解しておきなさい。そのうえで雫くんがわたしから見ればキミに一番お似合いなわけだが……一番古くからキミの面倒を見てくれていたわけだし、あちらも純粋にお前を好いてくれているようだしね。しかしそれもキミが今の怠惰を改めなければ、どうしようもない。今のままなら、雫は訓さんらと一緒にこの町を去った方が幸せだろう」

 父の圧倒的正論に、涙がちょちょぎれそうになる。そしていつも女性陣から一方的に逆レされているのにもかかわらず、やっぱおれがみんなを押し倒してやりたいほーだいやってるみたいな認識が、皆にあるんだよなぁ……と心の中で深く深く、詠嘆。

 けど……王侯、王侯、か……。

 そうなれば複数人の女性を愛してもいいというのであれば、目指す価値はあるかも知れない。辰馬は頭の片隅でうす~くだが、そう考えるに至った。まさか後世の史家も、新羅辰馬が皇帝としての道を選んだ理由の最首《さいしゅ》がまさしくこれと知ったら幻滅するかも知れないが、人間の行動原理なんてものは概してこんなものだったりする。

 まーでも。王侯を目指すとして宰相にでもなるか、それか軍人か……どっちもいやだよなぁ~……ほんと。

「というわけだから、非情な決断と思えても本当に大切な相手以外はきっぱりと……辰馬くん、何処に行く? まだ話は……」
「いや、もーいいわ。なんとなーくだけど展望が見えた」
「……ふむ? それなら、いいが」

……
………
‥‥……

 翌日。
 蒼月館学舎、第2校舎のあまり使われていない廊下。

 このあたり、上手い具合に物陰になっており、男女がこっそり逢瀬《おうせ》を重ねるのに最適だったり、逆にチンピラが少女を連れ込んで乱暴に及ぶのにも絶好だったりする所。

 そこに牢城雫と覇城瀬名、縁続きでありながら飽くなき強い情欲を向ける少年と、それに困りつつもてあます女教師の姿があった。

「牢城家復爵《ふくしゃく》、おめでとうございます。そして覇城の故地への移住、実に重畳」

 瀬名は子供らしからぬ言いようでそう言うと、薄く酷薄に嗤う。雫は瀬名を嫌うわけではないが、この笑い方が生理的に苦手だった。毒蛇に睨まれるようないやな気分になるのだ。

 それでも、両親のためとか、結局辰馬が幸せになるためにとか、いろいろ考えると自分はこの町から離れた方がいいと、雫は思いつめる。両親からお前の存在が辰馬君を堕落させて、彼の可能性を潰しているのだと言われたときは頭にきてガツンと反論したが、冷静になって考えるともしかしてそうかもしれないと考えるようになった。

「覇城(この場合地名。覇城の大公家なので地名から取った姓である)に遷ったら即、祝言を挙げましょう。ボクはあなたを世界一幸せな花嫁にします。新羅辰馬なんて、あんな不実な男よりボクが勝ると言うこと、すぐに証明してあげますから。……結婚式は玄式と西方式、どちらがいいですか? 文金高島田も素敵ですが、ウエディングドレスもきっと雫さんに似合います……」
「うん……まぁ……はい……」

 ぺらぺら喋り倒す瀬名に対し、雫に普段の威勢はどこにもない。普段なら辰馬を馬鹿にされた時点でひっぱたくくらいするのだが、今日はそれもなかった。

 大人しくしおらしい雫に、瀬名の子供らしく無邪気で、それだけに邪悪な欲望が首をもたげる。この調子なら押し倒しても大丈夫じゃないか? 幸い、この場所は人気もなければ見つかる危険も少ない。

 そう思い、抱きつこうと脚を踏み出した、刹那に。

「そこまでンしとけよー、クソガキ」

 ソプラノ、というほどに甲高くもないが、男にしてはやや高い声。聞き間違えようもない仇敵の声に、瀬名は苦々しげに振り返る。

 新羅辰馬はやたら晴れやかな顔で立っていた。本当にまったく、ここのところの悩みが全部そぎ落とされたような。

「なんですか、蛮民。ボクはいま、雫さんと大事な話があるんですが」
「あぁ、うん。黙れよ、大公ごとき」
「……は?」
「たぁ……くん?」
「今はまぁ、学生だから無理として、だ。おれはこのガッコ出たらとりあえず軍隊に入る。で、手柄を立てて立てて立てまくって、最終的に新しい国を建てる。そして人間も魔族も、まぁあと、気にくわんけど神族も? 平等に暮らせる世界を作る。だからまあ、古い時代の既得権益貴族なんぞが、のちのち王になるおれにでかい態度取るなんざ片腹痛いわ。つーわけで、そんときに潰されたくなかったら。むしろお前が跪け、瀬名」
「たぁ……くん」

 辰馬のやたら気宇壮大な宣言に、雫は重ねておなじ言葉を呟く。最初の一回は懐疑、二度目は情愛きわまって。

「そんで、もうおれは自分の欲も隠さん。好きなもんは全部好きだし、誰にも渡さん。当然、しず姉だっておれの大事な、絶対に譲れない愛しい女だから、お前なんかに指一本触れさせねぇ。今後一切、おれの女にいらんちょっかいかけんな、権力振りかざすだけが能のチンピラ貴族が! わかったか、ばかたれぇ!」

 堂々と。新羅辰馬はここにきて自分の将来と、いままでうやむやにしていた少女たちとの関係を真っ向からの一太刀、快刀乱麻《かいとうらんま》を断つ勢いでぶった切ってのけた。それをみる瀬名の瞳は紛れもなくバカか狂人を見るそれであり、あきれ果ててものも言えないという風だが、雫の方はというともう嬉しくて嬉しくて、天にも昇る気持ちだった。ここまで辰馬からはっきりとした愛情表現を貰ったことはなく、そしてこの言葉を一生、雫は忘れることはないだろう。

「たぁくん、たぁくんたぁくんたぁく~ん? 好き好きぃ~? あたしもたぁくんのこと、世界で一番大好きだからねっ?」
「そんなこたぁ知ってるよ。うん……今まで煮え切らん態度取って悪かったな。ほかの皆にも、ちゃんと同じ事言わんと……」
「うん、そーだねっ♪」
「ちょ待ってくださいよ! そんなくだらない、夢想以下の与太話がなんになるんですか!? それに雫さん、あなたはご両親のために……」
「おとーさんもおかーさんも、きっとわかってくれるよ。だってあのひと、自分がおうちの掟を破って妖精と結婚したよーなひとだもん」

 晴れやかに、雫は笑う。完全敗北に、瀬名は膝を突き、そして辰馬を憎々しげに睨み付けた。

「あなたが王を目指すなら、ボクは徹底的にそれを邪魔してやりますよ。あなたの大事なものも全部壊して、そしてあなたの目の前で雫さんを奪ってやります。絶対にあなたが成功する未来は来ない!」
「おー、いくらでもやれ。ただし……やるからにはやり返される覚悟、しとけよ?」

 辰馬は気負いも衒いもなく、柔らかく笑う。しかしその柔和の中には圧倒的な自信と、自分が成し遂げることへの絶対的な確信があった。強烈無比の自負心。今まで繊細な気弱さに邪魔されていた新羅辰馬本来の資質が、ようやく目覚めつつある。

「そんじゃ、まずは勉強頑張らんとなー……」

 軽く腕を腕を上げ背伸びして、辰馬は言う。ここに、新羅辰馬という少年は確たる未来に向けて歩き出すことを誓った。

……………
以上でした! それでは早めに昼飯食って、昼からむらいつをやります! SLGプラグインの紹介サンプルプロジェクトも作る必要ありですが、今はやる気がエロに傾いてるのでむらいつで。

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/15 07:09

22-09-15.くろてん2幕2章9話.懊悩+お絵描き1種4枚

おはようございます!

昨日は新生むらいつスタート2日目、立ち絵と顔グラをそろえて、出産用にモンスターのグラフィックも可能なだけ増やしたいなぁとBoothのほうも探してみたりしました。シナリオも、一気に書き進めたというわけではないですがそこそこ順調。いっかなエロシーンに入らないくろてんと違い、むらいつでは初手からエロシーンです……とはいえ頃輪さま担当の3キャラではなく、遠蛮の担当する寧々さんですが。神楽坂派の寧々さんが神月派に引き抜かれ、それに長船がチャラく声かけて速攻でベッドイン、寧々さんは神眼という視線を合わせた相手を魅了する力を持ってるんですがこれを長船が反射し、寧々さんあっさりメロメロ、長船はやりたい放題暴行し、さらには「堕淫の妖種」という呪具の実験として寧々さんを孕み母胎に変える……、というところまでが昨日の作業でした。ほとんど忘れかけてましたが出産プラグインと娼館プラグイン、使わない手はないですからね。そのぶん、タクティカルコンバットは使うかどうか不明。SLGプラグインはまず使いません。ウチの裏ステータスは崩壊値、人気、淫乱、技巧、マゾ、体力の6種のみという簡素なものですが、これを娼館プラグインと連動、変数で、たとえばサドの客(マゾ好き)が来たら、高確率(4分の3くらいで)で高額が手に入る、というふうにしていきます。その都度テキスト打ち込む必要はありますが、テキスト描くのは実のところ苦ではないので大丈夫のはず。

では朝のお絵描き。

寧々さんと長船の初手イベントです。というかですね、一番最初に登場したヒロインはメインヒロインか特別扱いになる、というジンクスがありそうな気がするんですが、ここではそんなことにならんように。主役(嬲られ役)は瑞穂さんなのだからほかが主張してはいけません。

挿入、泣き顔。ちんこが適当ですがあんまりじっくり観察するものでもないので、よくわからないです。

射精、放心。

そしてアヘ顔。とりあえず最後はアヘらせて〆る、という癖がついてます。昼は寧々さん出産絵を描くとして、まずは今日のくろてん。

………………
黒き翼の大天使.2幕2章9話.懊悩

 数日が経った。

 辰馬は塞いでいた。人間による魔族の、道具としての狩猟と凌○。思い出すだけで吐き気がするし、頭の中で巨大な蠅が羽ばたくような強い耳鳴りに襲われる。食欲もなく、もとから細い身体が2、3キロほど痩せ、ほんわかしていた顔立ちにわずかな翳りと凄惨が落ちた。今の辰馬の方に魅力を感じる女性も多かろうが、少なくとも新羅邸の少女たちは普段通りのちょっとぼんやりだらけててなにかとばかたればかたれ言う威勢のいい辰馬が好きなのであって、今を許容し得ない。

「人間なんてものはこういうものよ。お父様もあなたも、人間との共存なんて幻想に惑わされているようだけれど。何処まで行ってもわたしたちは不倶戴天、決してわかり合うことなど出来ないわ」

 あのエステから立ち去る別れ際、クズノハが言い残した言葉は、辰馬の心を深く深く抉る。自分自身、幼少期からいろいろな偏見の目を向けられ、心ない言葉や虐めを受けてきただけに、そこのところの言葉を否定できない。人間が身勝手で度しがたいというのには、全面的に同意するほかなかった。

 自室の窓から外を見遣る。まだ夕方の、普段なら夕焼けが明るすぎるくらいの時間だが、今日は薄暗くしのつく初春の雨がしずしずと降り注ぎ、陰鬱な気分に拍車を掛ける。

「喉、渇いたな……」

 ここ数時間、堂々巡りの思考に振り回されて水の一滴も口にしていなかったことに、ようやく気づく。気づいてしまうとひどくカラカラな喉に、どうしようもなく水を欲する。台所に向かった。

 水道をひねって、直で水を飲む。あまりたくさん飲める気分ではなく、とりあえず喉をしめらす程度。そして蛇口を戻すと、はあぁ~……と盛大なため息が出た。

「また、たぁくんがよけーなこと考えてる」
「……あー、しず姉……」

 死んだ魚の目で、辰馬は横合いから現れた姉的存在にわずかな肯きを返す。なにか気の利いた言葉を口にする余裕もなく、名前を呼ぶだけですら億劫。今の辰馬は「人間の罪業を自分が背負って死ねばなんとかならんかな……」などとばかげたことを思ってしまっているので、いくら最愛の女性(の、一人。辰馬は博愛主義的と言えば聞こえのいい優柔不断なので、好意的女性の誰が一番か決められない)である雫お姉ちゃんが心配そうに顔をのぞき込んできてすら、ゾンビのような顔色を修正不能だった。実にとてつもない深刻さで、重症。

「あんなの、ハンターさんは普通にやってることだよ? みんな食べるために動物殺すんだし、たぁくんがそこまで気に病むことは……」
「食事のための狩りとは全然ちがうだろぉが!」

 怒声。本気の怒声。おそらく生まれてきてから16年……8月10日になれば17年だが……牢城雫相手に一度だって、発することのなかった憎悪すら含む怒りの発露。胆力ということに関しては人後に落ちない雫が、まさか辰馬に、という驚きと、単純に恐怖心から、ビクリと小さな身体を竦ませる。

「あーいうのはいかん……絶対にやっちゃだめなことだろ。そもそもおれはモンスターだから殺してもいいとか、そーいう考え方自体大嫌いなんだよ、知ってるだろ? それがモンスターどころか魔族で……おれン中にも魔族の血が入ってるわけでさ……」
「は……はい……」

 あまりに真摯で痛切すぎる言葉に、思わず雫の言葉が「お姉ちゃん」のそれでなくなる。しかし同時に思う。今の辰馬は危うすぎ、絶対に支えが必要であると。それにはだいぶ元気なところを見せるようになったがやはり万事控えめな瑞穗や、とかく姫君の我が儘で相手を従わせようとするエーリカでは無理だろう。となれば自分しかない。

 言葉では虚しい。雫はいつものように、ひょいと手を伸ばすと辰馬の頭をかき抱いて、胸元に抱える。

「……やめろや、しず姉。気分じゃねーんだわ」
「いーから。余計なこと考えないで、おねーちゃんに任せなさい。なにもたぁくんが背負うことないんだからね? 人間の罪は自分の罪とか、そんなの思い上がりだよ?」
「わかってるけどさ……それでも考えるんだよ、おれは。そーいう性格だからどうしようもない」
「うん。たぁくん優しいからねー。うんうん、いーこいーこ……」
「だから、気分じゃねーって」
「いーから。なんならここでえっちしよっか?」
「……なに言ってんだよ、ばかたれ……」

 雫の言葉に、辰馬は少しだけ。ごくごく薄く笑った。まさか本当にここで致すつもりでもないだろうが、そう言われた辰馬は微かに救われた。静かに、雫の腕の中から離れる。

「ありゃ」
「あんがとさん、しず姉」

 そう言って、辰馬は台所を後にした。

……
………
…………

 それからしばらく。
 新羅辰馬は1級市街区の中でも破格の巨大さと荘厳を誇る、王城に真っ向から喧嘩を売るような豪奢な邸宅の前にいた。

 覇城家別宅。本家ともなると本当に巨大城塞らしい。この屋敷の規模がすでに、辰馬から見れば十分、城だが。

 呼び鈴を鳴らす。すぐさま応対に出たメイドさんがやたらお姉さんっぽかったりするのはまず間違いなく、覇城瀬名の趣味。話は早かった。メイドさんに先導され迷宮ばりの大宮殿を歩くことしばし、壮麗無比の大扉の前に通される。

「若当主さまとご客人は、こちらにおられます……それでは」

 ……うし。

「たのもー!」

 いつものかけ声で、ドアを開け放つ。
 そこには11歳の子供が纏うにはあまりに不釣り合いなコートとガウンをまとった覇城家当主、覇城瀬名と、そして客人にして蒼月館非常勤講師・クズノハ……人間としては葛葉保奈《くずのは・やすな》を名乗る……が、待っていたとばかりに辰馬を迎えた。

「ようやく、踏ん切りがついたかしら?」
「わざわざ愚民を守って傷つく道を選ぶなんて、馬鹿のすることですからね。それで……あなたも優れた人間なら、選民としての道を歩むべきです、ええ、歓迎しますよ」

 二人は口々に言って、悪堕ちの辰馬を歓待する。辰馬は赤い大きな瞳を昏く伏せ、しかしこう口にした。

「おれの姉貴……つーてもアンタじゃないほうだけど……がまぁ、あんまり頭のいいひとじゃないんだけどさ。けどまぁ、なんかな……賢いんだわ。物事の理非をわきまえてるっつーか、学のあるなしじゃないところで、賢い。その姉貴がまぁ、言うんだよ。自分は特別だとか、自分が責任とってどーこーするとか、そんなのは思い上がりだって」
「あのピンクさん……余計なことを……」
「怒んなよ、姉貴。おかげでおれは救われたんだからさ」
「怒るわよ! 確実にあなたを人間から離反させられると思ったのに、それを邪魔されたのだから!」

 金銀の瞳を妖しく光らせ、いっそ辰馬に「蠱惑」の力を掛けようとするクズノハ。辰馬も意思を込めてにらみ返し、真っ向で術をはじき返す。

「……以前より、力が……? この短期間で?」
「3日会わざれば刮目して見よ、とか言うらしいよ。ま、実際3日じゃどーにもならんが、数ヶ月あればな」
「なにやってる、クズノハ? 本気でやれよ!」

 苛立ったように、瀬名。瀬名は瀬名で、クズノハを通して魔王・新羅辰馬を支配するという無謀極まりない野望を植え付けられていたために、それができそうにないとなると途端に癇癪を爆発させる。知恵長けてまた武術の技にも優れるとして、しかし覇城瀬名はやはりまだ子供でしかない。

「と、ゆーわけであんたらの誘いには乗れんわ。悪いな、姉貴」
「ふむ……まあ、今回は仕方ないか。あの子らを皆殺しにしても、辰馬を翻意させるどころか怒らせるだけみたいだし……それに、今の辰馬相手だと勝てるかどうか、怪しいしね」
「あぁ、納得してもらえると助かる。そんじゃ……」
「待ちなさい、新羅辰馬!」

 呼び止める、瀬名。その声には怒り。その表情には、憎悪。

「なんで、あなたが全部手に入れるんですか! 絶望して、うちひしがれて、皆を裏切るべきでしょう! そうしてあなたは雫さんから見放されるべきなんだ! それが、くだらない甘ちゃんの理屈で……!」

 かつてクズノハも言ったのと同じような怒りを、瀬名は辰馬にぶつける。だが辰馬は最初から全てを持っていた訳ではなく、およそ人が想像もつかない努力の結果として仲間や環境を手に入れたのに過ぎない。それを罵るのはお門違いというものだった。

「その甘ちゃんの理屈をくれたのは、しず姉だけどな。お前の言葉はしず姉を馬鹿にすることになるぞ?」
「く……とにかく! これまで通りの安穏とした生活など、ボクが許さない! 覇城の全権力を持って新羅家に圧力を……!」

 そこまで言って、凍った手で喉元を締め上げられたように、瀬名は目を剥き口をばくばくとさせる。新羅辰馬の向けた眼光、炯たる赤瞳の光、ただそれだけに射すくめられて、命の危険に震え上がった。

「やれるもんならやってみろ♪ だ。ただし、ウチは全力で反抗させて貰うけどな」

この瞬間に、覇城瀬名は自らの敗北を悟る。財力や権力で叩こうとして、叩けない相手がいると言うことを思い知らされた。

「そんじゃ、けーるわ」
「ええ。まぁ、わたしはまだまだ、諦めないけどね」
「あいよ。おれはその都度断るだけだ。じゃーな」

 そうして、新羅辰馬は迷いの晴れた顔で、覇城邸を後にした。

……
………
…………

「たぁくんがいないんだよ~! もしかしてもしかして、クズノハさんのところに?」
「落ち着きましょう、牢城センセ。ちょっと散歩のだけかもですし」

 いなくなった辰馬に、狼狽えに狼狽えまくる雫。とりあえず寮から新羅邸に遊びに来た朝比奈大輔は、普段頼りがいのあるおねーちゃん先生の狼狽ぶりに、むしろ新鮮な驚きすら覚えた。

 なにやってんだか新羅さんは……あの人に限って、人間を裏切るとかないとは思うけど……。

 辰馬に全幅の信頼を置く大輔としてはそこのところの心配は特にない。とにかく自分の女にいらん心配をさせている、という点で、辰馬への義憤が高まった。自分なら早雪を悲しませたりしない、と長尾早雪の顔を思い浮かべる彼女持ち、大輔である。

「見る目聞く耳で新羅の居場所を特定しました。覇城家別邸……。そしてそこにはあの魔皇女クズノハが同居中です」

 穣が談話室に飛び込んできてそう叫び、そして脚をもつれさせ盛大にこける。神楽坂瑞穗と並ぶヒノミヤの二大運痴は、安定の運動神経を誇った。

「ややや、やっぱりいぃ! 今すぐたぁくんを取り戻しに行くよッ!」

 一人で飛び出しかねない雫を、身体能力で彼女に追従しうる唯一の女性、晦日美咲が腕をとっておさえる。

「はーなーせ、はなしてー!」
「少し、落ち着いてください、先生。今、あなたは我々のリーダーなのですから」
「そ、そか。そーだよね、それじゃあ、全軍突撃ー!」

 完全におかしくなっている雫。本当にこのまま覇城別邸に突撃をかけることになる? というまさにそのとき。

「ただいまー」

 新羅辰馬、帰還。傘を差さずに出かけていたらしく、小雨とはいえかなり濡れているが、なにより一番嬉しいことはつい先ほどまであった顔の翳りが綺麗さっぱりうせていること。嬉しくなった雫は思い切り辰馬に抱きつき、そして情熱のままに唇を重ねる。一瞬、目を白黒させた辰馬も、実に珍しいことながら衆目の前で雫の身体に手を回し、唇を重ね返した。

………………
以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/14 10:56

22-09-14.むらいつシナリオ修正します

おつかれさまです!

まずこちら。


むらいつ用の瑞穂さん凌○絵。もろちんこれは仮組み。実際のゲームではあとあと広輪さまの絵に変わるのでご安心を。竜姦のはずなんですがドラゴンのいい素体がなく……、これだとリザードマンだなぁという感じですが。瑞穂さんの表情は向きからしてすごい書きづらかったですが、案外うまくいったかと思います。


射精されて「っっ!?」ってなってる表情。


精液浴びせられて放心。


ハート目。


さらにもう一回射精喰らって、アヘ顔。


そしてすっかり竜に気を許してにっこりな瑞穂さん。おっぱいが瑞穂さんならもっと大きいかもしれませんが、アレです、重力でつぶれてるんですたぶん。ともかく竜姦はこんな感じかなーという奴でした。

で、むらいつ自体のシナリオも練り直そうか、というか瑞穂さんが主人公だとやりづらいというか、女主人公がやりづらいというかがありまして。男がやりたい放題やって野心を満たす、というほうが性に合うわけです、なので、一度瑞穂さん主人公でシナリオは書き上げましたがあれは無効として、ざっと流れを書き出してみました。

1 長船が五十六から神楽坂派討伐の勅命を受ける。

2 子供たちに音楽を聞かせる瑞穂(歌唱、あるいは楽器。イベント01)瑞穂1

3 襲撃。長船勝利。封神符と義父の命を盾に脅し、瑞穂凌○第1段階ボコボコ(イベント02)瑞穂2

4 姫巫女、鷺宮蒼依の反乱。長船、瑞穂の調教をいったんあきらめ、内宮に戻る。

5 見習い巫女、杠葉楓撃破、凌○。杠葉1

6 見習い巫女、嵯峨野愛実撃破、凌○。嵯峨野1

7 姫巫女、鷺宮蒼依撃破、凌○。蒼依1

8 そのころ、長船から放置されヒノミヤ下級兵に犯される瑞穂。騎乗位で前後の穴を穿たれ、さらに3本フェラ強要(イベント03)瑞穂3

9 長船帰還。瑞穂を辺境区鹿ヶ谷に移し、調教2段階目。凌○後、首輪をつけて裸で練り歩き強要(イベント04)瑞穂4

10 晦日美咲、鹿ヶ谷内偵中腕利きに敗北。獄につながれ凌○を受ける(イベント05)美咲1

11 そのころヒノミヤ内宮紫宸殿、穣を押し倒し喘がせる神月五十六(イベント06)穣1

12 穣、五十六に長船への警戒を進言。五十六、姫巫女沼島寧々を派遣

13 杠葉楓、嵯峨野愛実、鷺宮蒼依、五十六に全裸奉仕。嵯峨野、杠葉、蒼依2

14 寧々の軍勢迫る中長船は瑞穂凌○調教3回目、土下座足舐めで忠誠を誓わせ(イベント07)、ここで瑞穂がプレイアブルに。この時点から出産可(イベント08)。瑞穂5、6

15 ぼろぞーきんの晦日美咲を犯して忠誠を誓わせる(イベント09)、美咲プレイアブルに。美咲2

16 寧々を撃破、凌○。寧々1

17 五十六に反旗を翻す長船。配下の軍勢に奴○齋姫、瑞穂を使わせ、士気を上げる(イベント10)瑞穂7

17 ま〇こに太棹の棒を突き立てられ、反乱軍の旗として掲揚される瑞穂(イベント11)瑞穂8

18 長船、鬼族と交渉。瑞穂を大小数々の鬼たちに抱かせ、鬼族を味方に(イベント12)瑞穂9

19 降参したてで忠誠の低い沼島寧々を激しく犯し、屈服させる長船。寧々2

20 闇妖精(デックアールヴ)の森を通過、先遣の杠葉楓、嵯峨野愛実、闇妖精にとらわれ凌○。嵯峨野、杠葉3

21 瑞穂、嵯峨野と杠葉を返してもらうべく闇妖精と交渉、闇妖精の飼う食糞スライムにひたすらアナル責め(イベント13)瑞穂10

22 竜洞の巨竜に助力を乞う長船。瑞穂と美咲を差し出し、デカパイとちっばいでWパイズリフェラ(イベント14)瑞穂11、美咲2

↓	→巨竜に気に入られた瑞穂は巨根でひたすら犯されて快楽におぼれる(イベント15)。長船は瑞穂を取り返そうと竜に挑むも敗北、ゲームオーバー。瑞穂12
↓

23 決戦前の士気高揚、瑞穂の裸踊り(イベント16)瑞穂13

24 敗北するも、敵軍師磐座穣を捕縛。穣を徹底凌○して(イベント17)五十六のアマツミカボシ、その力を与えている存在「櫻香」の情報を知る。穣1

↓	→勝利の場合は以下飛ばしてエンディングへ

25 瑞穂、穣を○問、ヒノミヤの古伝承から櫻香の居場所を突き止める(イベント18)穣2

26 櫻香と対戦、勝利、消滅に怯える女神を手ひどく○す。櫻香1

27 櫻香レ○プ2.性に疎かった女神を快楽のことしか考えられない豚に。櫻香2

28 五十六の力の根源を破壊させ、用済みとなった櫻香は兵士たちに適当に輪○させる。櫻香3

29 五十六勢と戦闘。神威那琴を大将に牛頭兵を並べて軍を進める五十六勢

30 瑞穂に牛頭たちを誘惑(イベント19)させ、その間にこれまで味方につけた鬼や竜を駆使して長船勝利。瑞穂14

31 神威那琴レ○プ。

32 那琴レ○プ2。反抗的な大神官の孫娘に鬼たちをけしかけ、泣きわめかせる。

33 那琴レ○プ3。泣きながら許しを請うばかりの肉人形となった那琴。

34 対五十六。

↓	→敗北end、瑞穂と穣は五十六のペットとなり、老いてなお盛んな熱い迸りを毎日その身に受けることを喜びとする(イベント20)瑞穂15、穣3

35 勝利エンド。ヒノミヤの王となった長船は齋姫・瑞穂と天才軍師・穣を抱き合わせ、思うさま貫く(イベント21)。瑞穂16、穣4

36 後日譚。長船は瑞穂にあっさり飽き、兵士たちにポイ捨て。兵士たちは瑞穂を羽交い絞めして犯し、パイズリフェラを強要し、脱糞させ、裸踊りさせ、使いたい放題犯してヤリ捨てる(イベント22)瑞穂16
その他
37 出産で産み落とした怪物の幼体に犯される瑞穂(イベント23)
38 出産母胎、瑞穂に執着し、ねちっこく○す触手(イベント24)
39 エンディングアナザー。 触手の苗床となり、触手の海の中で腰を振り股を締めるだけの玩具に堕ちた瑞穂(イベント25)
40 タイトルカット(イベント26)

……これでたぶん足りる、と思います。足ることを知らずして苦しむ、となるのは難儀なのでここで足りる、と区切りましょう。先日お見せしたものと文面で見るとだいぶ変わりはしたものの、必要な絵としてはそこまで変わってないです。

お昼からはシナリオ書きを頑張るとします、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/14 07:03

22-09-14.くろてん2幕2章8話.罪咎と報復

おはようございます!

今日はゴリアテ主人公「しろばん」の進捗があります。嘉神狩人さまにイベント絵75枚をお願いしているわけですが、そのうち10枚ほど上がってきましたのでうち3枚をご紹介。

まずこれは物語冒頭の戦火凌○シーン、ゴリアテ山賊団の無慈悲な凌○にあう名もなき少女。

ついでエリン。魔王から逃れ暗黒大陸アムドゥシアスからアルティミシア大陸にやってきた淫魔の姫は平穏な暮らしが望みでしたが、果たされず。

山賊団を討伐にやってきた聖女アイオーン、かえりうちにあって犯されたうえ触手で徹底的に嬲られます。

まあ、Slgプラグインとむらいつで現在手いっぱいなのでむらいつを進めるのは当面、無理なのですが。余裕ができたらこっちもやります、ということで。

そしてくろてん2幕。エステティックサロン最上最後の日です。ちなみに最上とその開花6人の名前は山形の最上氏からとりました。この時期名前考える余裕がなかったので、適当に戦国武将から取ろう、とやった覚えがあります。そういえば1幕サティア篇の宇佐美とか直江とか柿崎とか甘粕なんてのは上杉家家臣団でした。

………………
黒き翼の大天使.2幕2章8話.罪咎と報復

 どれだけ巧妙な隠蔽技術を駆使しようが、磐座穣の「見る目聞く耳」から逃れるすべなどない。密儀団のアジトは1級市街区のなかでもいやゆる山の手の高級住宅街、その大邸宅にあった。表にはエステティックサロン最上《もがみ》と洒脱な字体で書いてあり、墨痕淋漓《ぼっこんりんり》、迫力蒼然たる新羅家の看板とは印象が全然違う。

「なーにがエステだばかたれが。どーせ女集めて乱交パーティーとかやってんだろーが、今日をもって永遠に閉鎖だ、閉鎖」

 まるでエステなるものに恨みを含むかのように、辰馬は唾棄するごとくに言い捨てて門をくぐ……ろうとし、そして瞬間、迫る熱線から飛びのいて身を躱す。

 赤外線レーザー。これもほぼヴェスローディアの独占技術で、アカツキではまず、お目にかかれないものだ。覇城家のセキュリティには当然のごとく導入されており、だから瀬名には辰馬が熱線に焼き切られる未来が見えていたのだが、わかっていて黙る。

 目をこらす。常人の目には赤外線など映るものではないが、辰馬の紅い瞳はもともと魔族のそれであり、人間の視力の限界を超える。凝視しているうち、網の目のように張り巡らされる赤外線の蜘蛛糸が視界に入るようになる。その十重二十重の厳重なること、いかにもやましいことがありますと言っているようで辰馬の闘志に火をつけた。

「これが見えるのってたぶん、おれと……」
「あたしは見えるよ。なーんか赤い線」
「さすがしず姉。通れる?」
「ん。へーきへーき。あんくらいよゆーだよ」

 辰馬でも結構ギリギリなのだが、身体能力において雫は辰馬の数等上をいく。出来ると言ったら実際、できるのだろう。

「わたしも、見えますけど……たぶん無理です。どんくさいのでお役に立てそうもありません……」

 瑞穗が申し訳なさそうに挙手する。まあ、身体の一部(いわゆるところの121)がやたらと重たいせいで鈍重な瑞穗である。運痴でもある以上、最初からこういうときの戦力には数えられない。

「わたしは……無理か。聖女っていっても出来損ないだからね」

 エーリカは少し悔しげに、そう言って目を眇めるがやはり彼女の目には赤外線を目視する力はない。わたしの国の技術なんでしょーが、姫に秘めるってどーゆーことよ! と憤慨するも、やはりどうしようもなかった。

「んじゃ、おれとしず姉二人か。ま、じゅーぶん……」
「いえ、三人です。わたしにも見えますし、通れますので」

 晦日美咲は冷静にそう言うと、ごく自然に辰馬に並んだ。彼女も人造とは言え、聖女。本物でないとは言え、資質としては出来損ないのエーリカより勝るらしい。美咲の冒険着は白ブラウスにディアンドルふうメイド服というもので、当然、魔法防御を施されてはいるが一見ではあまり、冒険向きではない。しかし彼女は基本的にこの姿でこれまで、困難な密偵としての任務を遂行しているのだ。雫がかつて驚嘆したように、雫に匹敵するか、それは無理としてもかなり近いレベルにあるのは確かであり、下手をすると辰馬より身体能力に勝る。

「んじゃ、行くか。おれらがぶっ叩くから、お前らは逃げ出したクソバカどもをたたきのめせ。囲みの一カ所、あえて開くとして、今回、逃げた相手を一人たりとも許さん」

 辰馬が言うのは兵法に言う「囲師は必ず闕く」というやつで、包囲した敵に逃げ道を残す、というもの。瑞穗や、あとあいつにはあまり聞きたくないが勝手に指南に来る長船言継らに仕込まれてその程度のことは辰馬も理解するようになっている。ただ、本来この兵法は死兵となって抵抗する敵を相手にせず逃がすやりようなのだが、辰馬はこの際、死兵だろうがなんだろうが全員ぶちのめすつもりでいる。なにぶんにも叔父夫婦の家庭不和がかかっているので、怒りのボルテージは相当に高い。

「では、外堀の指揮はボクがとりましょう」
「あ゛ぁ!?」

 当然のこととばかりいう瀬名に、シンタが猛然とガラの悪い絡み方で異を唱える。それは他の皆もおおむね、同意であり、瀬名をリーダーにするという選択肢は誰の頭にも全くない。根本的に、覇城瀬名という少年は金と権力を盾にとらないとカリスマがまったくなかった。

「北嶺院先輩でいいんじゃねーか、もと、とはいえ会長だし」
「ま、なんだ。サティアがいたらあいつ、わたし神様だし、って言いそうだけどまあ、この場にいねぇーからなぁ」

 「もと」創世神サティア・エル・ファリスは創世神から失墜して半神的な存在になっており、力を回復させるために多大な休養を要する。辰馬の従属神としてそばにいれば力の回復は早いが全快には程遠く、中途半端な状態で随行しては足手まといにしかならない。また学生としての学籍もない……一度とったが竜の魔女に半殺しにされたあのとき、実質的に一度死んだということで剥奪……ためにあまり辰馬のそばにいられないという、最初は本当に悪辣な女神だったが今は少々、可哀想な立場にある。

「北嶺院がボクに指示を……? 嗤わせないでくださいよ?」

 鼻で笑った。その邪笑《わら》いの形の、いかにも憎たらしいこと。これが11歳の子供だからまだゆるされるのであって、大人だったら刺し殺されてもおかしくはない。それくらいに小憎たらしい。

 ともかく、覇城の主としては家格に劣る……実質、名目的には同等なのだが、抑える土地、従える士人、そして元老院に抑える議席などあらゆる面で覇城と北嶺院では圧倒的な格差があり、生まれたときから「お前は特別に選ばれた唯一無二」と育てられた瀬名にとって、北嶺院の主ですらない小娘に従うなどあり得ることではないのだった。

「しかたねー、瀬名の言うこと聞いてやれ。そーせんとこいつ、譲らんだろ」
「でもなぁ~、なんか、なーんかイヤなんスけど」
「でも金払いはいいでゴザルよ?」

 さっき氷菓の使いっ走りに行かされて釣り銭を懐に入れた出水は、瀬名の味方だった。なんというか、貧乏人は現金である。

「いーからやっとけ。おれの指図だと思え。んじゃ、行ってくる」

……
………
…………

「店長、本日もこれだけの寄進が……」

 ホクホク顔で、幹部のひとり氏家ははしゃいで見せた。六人の幹部……志村、鮭延、野辺沢、楯岡、里見と氏家自身を含めて六人……のなかでも年かさの、やや脂ぎった頭の薄い中年だが、幹部たちの中でも一番頭が切れる軍師格と評判だ。実際、この「エステティックサロン最上」を盛況に導いた手腕は間違いがない。

 とはいえそれはこの規模の店舗経営を成功させるには十分として、たとえば半独立国家の宗教特区を切り盛りするような大才とはまったく、訳が違うのだが、氏家はそこのところを勘違いして、自分は相当の才覚と思い込んでしまっている。それで多角経営に手を出し、失敗し、失敗を補うために詐欺の手口に手を染めて、若い娘たちをターゲットにエステなのか新興宗教なのかよくわからんことをやっているわけだが。ともかく教主含め、六人の幹部がその女性たちから金を搾取しているうえ、肉体関係にまで手を出している時点で有罪確定ではある。

「そぉーうかぁ」

 ニッコリ不気味な笑顔で振り向くオールバックの、筋肉質な中年。薄手のトレーニングウェアが汗で蒸れてぐしょぐしょになっているのも意に介さず、その男、最上義陽《もがみ・よしひ》は会員という名目の信徒から集めたひと財産を目に細い目をさらに糸のごとく細めた。そして意味もなくポージング。はっきりいって気持ち悪いのだが、なぜかこの筋肉中年が若奥様がたに大人気だから不思議だ。

「つーかキモい」

 突然、背中から。いつどこから潜入したのか、まるで気取らせることなく入ってきた新羅辰馬は、心底うんざりした顔で最上のケツに蹴りをくれた。

「つーかさー……おばさん、これのどこがいいわけ?」

 叔母の美的感覚がわからん、と頭を抱える辰馬。その美貌ぶりを美少女と勘違いしたか、勧誘係のチャラ男代表、志村と鮭延の二人が辰馬の首にチャララ~ん♪ と腕をかけようとして、あっさり捻り上げられる。新羅の技は打撃主体、確かに関節技の技量ではアカツキ古流に及ばないのだが、それでもこの程度の相手を悶絶させるくらいの技ならいくらでもだ。

「あぐぐぐぐぎひいぃぃぃ~っ!」
「腕が、腕があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「やかましーわ、ばかたれ。おれは特にお前らに文句があんだよ。あんな。ルーチェ・ユスティニア・十六夜に手を出してみろ……そんときは本当に、生きてるのがイヤになるくらいの痛みと苦しみを味あわせるからな!」

 辰馬、めっちゃ怒ってた。この連中が叔母になれなれしくしていたのも、叔母がなれなれしいこいつらにまんざらでもない風な態度だったのも、どちらもイヤになるほど腹が立っていた。なので、半殺しくらいはいーかなーと思ったのだが、まあ小悪党。そこまですることもなさそうな。

 この時期になって、店内スタッフが蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。辰馬は外で張る瀬名を信じて追わず、幹部だけに狙いを定める。辰馬から突き飛ばされた鮭延が、ナイフを抜いて雫を人質に取ろうと……して刀も抜かない雫から一本背負いに極められる。

 店長、最上と参謀の氏家は、明らかになにか狼狽えていた。

「里見、野辺沢! こいつらを叩け!」

 暴力沙汰担当、里見と野辺沢がいかにもの巨躯……まるで大鬼のような……で拳を振り上げる。辰馬も雫も、退屈そうにそれを見た。はっきり言って問題にならなすぎる。

 ずっ……!

 左右両腕二人分、都合4本が、美咲の鋼糸に斬り落とされて無残に転がる。里見も野辺沢も一瞬、なにごとかを認識することが出来ず「?」を浮かべ、そして理解が追いつくやいなや爆発的な勢いで泣きわめいた。

 その隙に、最上と氏家は逃げ果たそうとして……そこに一人の女性が立ちはだかった。瑞穗のワケのわからんサイズの胸にも匹敵する爆乳に図らずも顔を埋める形になった最上は狼狽えつつも嬉しげな表情を浮かべたが、やがて相手の金銀に輝く瞳と、妖狐の耳を見て声にならない叫びを上げる。

「あぁ! ………あ、あぁぁ…………あっ、あぁ!?」

 その恐慌ぶりが、あまりに尋常ではない。いかにも「魔族である相手に知られてはならないことがある」ような。

「あなたたちが生け贄に使っている子ね、あの子たちはわたしの同胞なの。人間どものつまらない美容道具なんかに使わせていいものでは、ないのよね」

 金銀の瞳と狐の耳、そして白の二ッとセーターの上から白衣を羽織るクズノハは、そう言うと軽く腕を振るう。

 燐火が散った。

 彼女本来の力にしてみれば、100分の1にも満たない。しかし最上や氏家を焼き尽くすには、十分すぎた。

「ちょ、姉貴!」
「なに?」

 いつもならもっと辰馬との交流を深めたがるクズノハが、今日は異様なほど素っ気ない。というより、冷たい。あきらかに怒り、苛立っていた。

「いきなりそんな、殺すこと……」
「彼らはわたしの同胞を殺したわ」

 そう、冷然と言われて、辰馬は言葉に詰まる。さきの話にも出た、最上たちが同胞を殺して、美容道具にしたという話……。

「まあ、ちょうどいい、か。ついて来なさい。ここの連中の罪を、見せてあげる」

 硬く冷たい口調のままにクズノハはそう言い、確固たる足取りで歩き出す。辰馬たちがそれを追うと、迷いない足取りでいくつもの隠し扉を開いてやがて、屋敷深奥に。

「つまりは、こういうことよ」

 扉が、開かれる。
 そこには酸鼻《さんび》極まる光景があった。裸で寝台に寝かされた、おそらく妖狐の眷属であろう少女、彼女の身体には、皮膚がなかった。さんざん嬲られ弄ばれたあとで、生きたまま生皮を剥がれたのであろう、崩壊した精神はまともな言葉を紡ぐことすら許さず、かろうじて「殺して……殺して……」とおぼしき言葉を繰り返す。クズノハによれば妖狐のまとう精気は若返りの効果があり、古来こうして狙われることがあるのだという。

「それを商売にして、わたしの眷属を大々的に攫《さら》ってくれるとは思っていなかったけれど……一度殺したくらいでは収まらないわね」

 憤懣やるかたない、というクズノハ。それに対して辰馬は「……」と返す言葉を持たない。人間というものの汚さも綺麗さも受け入れて生きる、そう決めているはずなのに、いざひとの邪悪に触れると辰馬はどうしようもなく、受け入れがたいのだ。

「たぁくん、ヘンな気起こしちゃいけないよ?」
「あー……わかってる。わかってるけど、いま話しかけんでくれ」

 どうしようもなく純粋すぎ、心弱すぎる天才、新羅辰馬。クズノハは姉として辰馬の胸中を慮り、この少年を魔王として立つ自分の腹心として抱き込むことを、画策し始めた。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2022/09/13 16:15

22-09-13.くろてん2幕2章7話.邪教

お疲れ様です!

2時ごろ、出先から帰りました。今日はなんだか風が強くて、出かけるのやめとけばよかったかと思いますがいろいろとやることもありますからね、出かけないわけにも。

そして2時からのお絵描き。

むらいつ用、杠葉楓さんイベ絵。ガニ股吊るしプレイです。この人の髪色、こんな茶色じゃなくもっとからし色っぽい感じだったのですが、自分で再現できなかったのでこっち。

挿入されて表情半蕩け。ちんこが緑色なのはバケモノ想定してます。

感じ過ぎて舌突き出しハート目。こういう表情好き。

最終的にアヘ顔で終わり。朝の嵯峨野さんに比べて差分少なめでした。

でもってもう一枚。

30分くらいでささーっと描いた瑞穂さん。所要時間の割にはそこそこいい感じに描けた、とは思うんですが、去年の頭に描いた絵に比べるとまだまだ。

これですけど、いまだにこれ以上かわいく瑞穂さんを描いてあげられたためしがないです。当時まだ手書きアナログでデジ絵とかわかりませんの時期でしたが、これだけは別格にうまく描けたと思ってます。なのでこれを越えないと上達した、とはまだ言えません。

さて、それではくろてんです。2幕2章7話、ルーチェおばさんが怪しげな宗教エステにひっかかるお話。

………………
黒き翼の大天使.2幕2章7話.邪教

「つーわけで。今日のクエストはガキのお守りのおまけつきだ」

 辰馬がうんざりしつつ言うと、大輔たちも露骨にイヤそうな顔をする。博愛精神と献身性の瑞穗はともかくとして一番の当事者である雫がなんとも複雑そうに苦笑いしているし、エーリカはそもそも辰馬にたてつく相手、というだけで瀬名に対して敵愾心が凄まじい。この、元来の新羅一行に加えて北嶺院文、磐座穣、晦日美咲の三人が新規で加入しており、三人それぞれに大公家の若い……というか幼い……当主に視線を投げる。穣ははっきりいってどうでもいいとばかりにほとんど無視だが、そうは行かないのは同じく三大公家の一角、北嶺院の娘である文と小日向家の侍従長である美咲である。一応同格、ということにはなっているものの、覇城家の家格は他の二家を圧倒的に凌ぐ。文や美咲から見れば対等でも瀬名から見れば彼女たちは塵芥でしかなく、そしてそれを裏付けるだけの権力を持つだけにうっかり反抗的なことを言うわけにも行かない。

 そして三大公家の二家代表を黙らせたという実績に、瀬名は満足げに鼻を鳴らして椅子にふんぞり返る。辰馬は特別ながら基本まだ男嫌いの抜けていない文はカッとして腰を浮かしかけたが、瀬名が冷たく冷徹な視線を向けると悔しげに座り直した。

「だからさー、そーやって偉ぶるのやめろや、ばかたれ」

 ばしーんと。辰馬の平手が隣に座す瀬名の後頭部を張る。大した力を込めたようにも見えない一撃はしかし鞭のようなしなりでもって瀬名を痛打し、瀬名は顔面から学食のテーブルに突っ伏した。

「……痛いですね! そうやってすぐ暴力を振るうから、蛮民は……!」
「おまえさ、大概自分を棚上げするのやめよーな?」
「なにがです? 話をすりかえないでもらえますか?」

 いや、すり替えてねーんだが……辰馬はそう言いたかったが、相手の瞳が何処までも本気だったので諦めた。覇城瀬名という少年の中ではまったくもって一切の罪悪感も悪気もないらしい。

 権力者になる人間がそれだと、困るんだけどな……。

 いちおう、歴史好き。辰馬は無知な権力者が暴君暗君昏君となって国を傾ける話をそれはもういくらでも読んできた。瀬名の希望がどうなのか知らないが、そんなことはお構いなく彼は政治の枢要《すうよう》に参画する立場に身を置くことになるはずであり、そのときになにをやっても自分は間違ってない、などという人間では困る。

 とはいえ、おれが教育してやるのもなー……とことん嫌われてるし……。

 辰馬はそこまで考えて、盛大にため息を吐いた。もう考えるだけで疲れる。最初からこのガキとの接点がなければ困ることもなかったのだが、強○的に接点を作られて雫を盗るぞ、と脅迫されている以上は無視することも出来ない。

「こーいうときはまあ、蓮っさんだな」

 考えつくのは義理の叔父。もとアカツキ王宮の宰補だった蓮純なら、このクソバカ自己中ばかたれガキをどうにかしてくれるかもしれないと、他力本願だがそう思う。コネを使うのだって実力のうちじゃボケぇ! と、なかばやけくそ気味に内心で息巻いた。

「そんじゃ、行くか」

 辰馬はそう言って一気にメロンソーダを呷り、立ち上がる。

「まあ待って下さいよ。ボクはあなたのように野蛮には動けませんので」
「いーから立てや! ホントしばくぞお前!」
「だから、そういうところが蛮民なんですよ、あなたは。新羅家に突然、多額の負債がかかることになってもいいんですよ、ボクとしては?」
「……ッ、ホントに最悪だな、お前」
「使える権利を存分に使う、当然でしょう? あなたがたのような賎民には、できもしないことですが」

 パァン!

 そこで瀬名の頬が激しく張られる。辰馬ではない。平手をかましたのは雫だった。

「瀬名くん……そーいうのは駄目だって言ったじゃん。人の痛みがわかんない子は、あたしは嫌いかなー……」
「ぁ、ぅ……も、もちろん冗談ですよ! ボクがそんな、権力を濫用するゴミ政治家のような真似をするはずが……」
「おー、しず姉に対してはあったら素直な、お前。ずっとその調子で頼むわ」
「……黙ってくださいよ、新羅辰馬!」
「いや、黙ってもいーんだが、お前の人生の先行き考えるとなー……ちょっと心配にもなるし……」
「知ったことじゃないでしょう!」
「瀬名くん?」
「ぅ……はい……」

……
……
………

 というわけで。

 久しぶりにギルド「緋想院蓮華堂」。

「たのもー!」

 いつもの挨拶で派手にドアを開け放つ辰馬。太宰でもラジオが置いてある場所は珍しいわけだが、もはや蒼月館にはあちこちにテレビ(白黒ではあるが)が置かれている時代である。ラジオ放送ごとき驚くにも値しない。

「やあ、辰馬くん。しばらくぶりです」

 乳白色の蓬髪《ほうはつ》に白面、切れ長の瞳、ネクタイを緩めやや着崩した焦げ茶のスーツ姿という、いつもの姿で辰馬を出迎えたのは十六夜蓮純。普段なら受付嬢兼看板娘(もう32歳だってのにな(笑)=辰馬談)であるルーチェ・ユスティニア・十六夜が応対に出るはずだが、今日は珍しく夫の出番だった。

「あー、蓮っさん? おばさんは?」
「買い物に行っているよ。ついでにエステとか……」
「エステえぇ!?」

 素っ頓狂な声が出た。新羅辰馬の血筋でもあるユスティニア家の血統に、エステほど似合わないというか、不要なものはない。ルーチェだって正月にちょっと顔を合わしたときからして、まだ見た感じ20代の若さである。エステとか、どう考えても必要ない。

「女性はいつだって美しくありたいものですからね。だが、そのせいで二人の時間がなかなかとれず……ルーチェさんの自由を奪いたくはありませんが、さりとて二人の時間も失いたくない。わたしはどうすればいいのか……」
「いや……おれに言われても知らんが……」

 瀬名の政教育をおねがいしたい所だったが、魔王殺しの勇者のひとり、十六夜蓮純はまさかのグロッキー状態でとても人に教えを垂れられる状態になかった。

「まあ、元気出せ。つーことで、仕事は?」
「あぁ、うん。いくつかあるよ……少し、待ってださい」

 フラフラした足取りで、奥の資料室に入っていく蓮純。なんらかの精神疾患を抱えた人間に特有のふらつき具合であり、見ていて実に危なっかしい。十六夜蓮純という男は愛妻が過ぎて、ルーチェがいないと馬鹿みたいにぽんこつだった。

「あの、新羅さん? 蓮っさんてあんな人でしたっけ?」
「言うな。おれも叔父貴の悪口を言いたくない」
「そんなことより。とりあえず、ジュースくらい出ないんですか、この店は?」
「出ねーよ。水ならそこに水道がある。テキトーに飲め」
「水道水なんか飲めると思うんですか? ボクは最低でも蒸留させた水でないと……」
「だからさー、そーいう特権意識捨てろって」
「特権帰属が特権意識を放棄すること自体問題でしょう!」
「開き直んな!」
「そこの太いの。外で氷菓でも買ってきて下さい。ボクのぶんと、雫さんのぶん。おつりはあげます」

 200弊硬貨(2000円札相当)を放られた出水は「はっ、了解でゴザル!」とプライドのかけらもなく、喜んで買い物に出かけた。太いの、とか言われて平気なんかお前はといいたいが、本人が気にしていないのでなんとも言えない。

「……お待たせしました。それで、今日依頼したい仕事ですが……」

 蓮純がいくつかのファイルをかかえて戻ってくる。その悪役めいてはいるが端麗な美貌は妻という飼い主に捨てられた飼い犬のようであり、悲愴で見るに堪えない。誰がといって辰馬にとってこの叔父は世界で一番尊敬する人間のひとりであり、こんな憔悴したサマを見たくなかった。

「ん……邪教密儀《じゃきょうみつぎ》組織の根絶、か。うし、これにする」
「結構な危険度ですが……まあ、ヒノミヤの神月五十六を倒した辰馬くんなら大丈夫でしょう……。とはいえ、今回相手は基本的に普通の人間、倒せますか?」
「まあ、たぶん? 大丈夫じゃねーかな……うん」

 相手が人間となると途端に鋭鋒が鈍る……というか人間相手で戦うとその心の醜さに触れて気分が悪くなる辰馬だが、これ以上叔父を心配もさせられん。とにかくファイルをとって花押(かおう=サイン)を記し、依頼を受ける。

……
………
…………

「あれ、辰馬?」
「ありゃ、おばさん」

 蓮華堂を出たところで、ルーチェに出くわした。なにやらチャラけた感じの雰囲気悪い男二人と一緒なのがそこはかとなくいやな感じだったが、まずそのことを責めるのもなんだ。

「蓮っさんが泣いてるから。さっさと帰ってやんな」
「わかってるわよー。あの人ほんとに、あたしがいないと駄目よね~♪ それじゃ、志村さん、鮭延さん?」
「……はい、どうもです、奥さん♪ それではまた?」

 イラッ、ときた。亭主がほとんど鬱になるほど悲しんでいるときに、この叔母はなにやってんだという気になる。

「おいおばさん、そいつらは?」
「えー? 蓮純から聞いてない? エステティックサロンのスタッフさん」
「知るかよ! あんたなにやってんだばかたれ!」
「? なに怒ってるのよ、辰馬」
「なんもかんもアンタ……今蓮っさんが……!」
「あのひとはちゃーんとわかってくれてるの。辰馬がどうこう言う必要ないわ」

 本当かよと頭が痛くなる。しかし話が成立するような状態でもなく、辰馬としては諦めるほかない。とりあえず浮気だけはしてないで欲しいもんだと思いつつ、叔母と別れてクエスト資料に目を通す。

「ふむ……密儀が行われてるのは間違いないとして、場所やらメンバーは謎、と。磐座、頼めるか?」
「別にいいですけど。わたしを都合のいい情報収集機械とでも思ってません?」
「……あとでなんかおごる」
「では、水籠庵《すいろうあん》のあんみつで」

 いきなり高級品の要求が来た。水籠庵はアカツキ、ヒノミヤの境、山道の入り口にあるアカツキ屈指の名店で、創業200年、お値段の方も歴史に比例して高い。

「まあ、いーや。頼んだ」
「はい。では」

 穣は口訣を呟き、「見る目聞く耳」を発動させる。毎日祝詞を上げているおかげで、彼女らに神讃という手順は不要。すぐさま周囲半径40キロメートルの全ての情報が穣の脳内にダイレクトに飛び込み、常人なら発狂もののこの情報を穣はすべて完璧により分け、選別し、優先順位をつけて整理し一つのデータベースとして完成させる。ヒノミヤの天才軍師としての能力は未だ、いっさいの衰えを知らなかった。

「だいたい、わかりましたが……どうもルーチェさん? 彼女、騙されているようですね」
「あぁー……やっぱか。それで、あの馬鹿叔母と密儀団が繋がってるって?」
「はい。間違いなく……。あぁ、それとまだ肉体関係には及んでいないようです。そこはご安心を」
「……ん、安心した」

 本当に、安心した。もし不義密通なんてことがあったら、蓮純が自殺する。

「そんじゃ、叔父さんと、ついでにおばさんのためにも。クソの密儀団をつぶしに行くとすっか!」

 辰馬はそう言って気勢を上げる。一同いつものように辰馬のカリスマに引っ張られる形で一緒に声を上げたが、一人だけ、覇城瀬名は冷めた表情で彼らを眺めていた。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

4 5 6 7 8 9 10

月別アーカイブ

記事を検索