投稿記事

2023年 04月の記事 (53)

遠蛮亭 2023/04/25 07:01

23-04-25.「くろてん」小説再掲1幕3章10話+源初音立ち絵ラフ!

おはようございます!

昨日の朝に言いました通り、昨日は1日病院でした。帰ってきてすぐダウンしたので一切なにもしていませんが、その間に広輪さまの立ち絵ラフがまた上がりましたのでそちらを。賢修院学生会長にして狐神の少女、源初音です!

どうでしょうか!? サマーセーターを押し開けるおっぱい! 89㎝ってこんなにおっきいかなーとか、むしろ余計に大きく見えますが、この、学生会長でありながら風紀に取り締まられてそうな着こなしがまた良きです! なんとはなしに下半身もエロくて素敵。表情ちょっとロリっぽくなりましたがそれもまた良し、でした。初音もフミハウも可愛いのでイベント枚数4枚に増量、そのぶんみのりん、文さん、晦日さんを2枚に減らしてますがみのりんたちの出番はもっと後、今回はたぶんそれでいいんではないかなと。

そしてルーチェさんが右利きになってたのも修正いただきました。こちら。

というわけで、あとは今日も「くろてん」小説再掲、今回もよろしくお願いいたします!

黒き翼の大天使.1幕3章10話.竜鱗に攀じて鳳翼に付く

 アカツキ西方戦線、三条平野においては、10万単位の大会戦が行われていた。

 守るはアカツキ主力、大元帥、殿前都点検・本田為朝(ほんだ・ためとも)40万。

 攻めるはラース・イラ第二騎士団長、セタンタ・フィアン60万。

 兵力差1.5倍。都市の防衛戦ならまだ勝ち目のある数字だが、野戦でこれは相当に厳しい。術策を用いようにも三条平野周辺は特別な要害となる地形もない広大な平野であり、騎兵主体のラース・イラに圧倒的有利。ラース・イラ軍の士気は極めて高く、遠路かけてきた疲弊もほとんど見られない。とりあえず、ヒノミヤ戦線で騎兵突撃を撃破したという12師団師団長、晦日美咲(つごもり・みさき)が喚ばれその戦術を問われたが、馬防柵を立て、騎兵の突撃力を削いで引きつけ、鉄砲隊の斉射で斃す、という新羅辰馬のやりようを聞いた「誇り高い」アカツキ武士たちは怒り狂った。

「なんだその戦法は!? 落ち武者狩りの土民のやりようではないか! およそ武士たるものの戦い方ではない!」

 将官のだれかが、聞こえよがしに大声を上げた。平民以下、咎人の血を継ぐ美咲が宰相のごひいきであることが妬ましいのだろう、この手の野次には、美咲は慣れたものだ。

「ならば、ひとつ言わせてもらいます……死ぬなら一人で死んでください」

 あまりに怜悧な、氷を背筋に差し込むような言葉。相手の将官は怒りと屈辱で顔を土気色にし、ぱくぱくと口を開閉させた。

 そして殿前都点検、本田はさすがに百戦錬磨の陣巧者。短く切りそろえた白髭を撫でしごき、薄く瞑目するとうなずく。

「晦日戦隊長の言を容れる。異論がある者は代案を出せ!」

 誰より軍務経験の長い元勲にそう言われては、若手将官の出る幕などない。本田は早速に野戦陣の造営を兵たちに命じた。

「死ぬなら一人で死ね、大した啖呵でした」

 会議の席を辞した美咲にそう声をかけたのは、栗毛を三つ編みにまとめた、少女というか女性と言うべきか、その中間にあるような女性。理知的な顔立ちは十二分に端正、体つきはフラットきわまりない美咲が代わって欲しいほどに肉感的だが、この肢体といいどうにも自信なさげな雰囲気といい、美咲にある少女を想起させるに足る。

 本田姫沙良(ほんだ・きさら)。21才。元帥本田為朝の一人娘であり、軍学校においてきわめて優秀な成績をおさめた秀才。その軍才は父・為朝自身が「出藍!」とたたえたほどであり、軍学校卒後すぐに分隊長(大尉-西方的にはキャプテン)の地位にのぼっている。ちなみに美咲の「戦隊長」は大佐-コロネル相当であり姫沙良より三階級も上位だが、これは宰相の本田馨綋(ほんだ・きよつな)から大軍指揮のため便宜的に一時預かりした地位であって正式のものではない。

 というか宰相の本田と元帥の本田、二人とも本田で混乱するが、この二人の間に血縁関係はない。公爵にして宰相の本田馨綱は77才、30年近く前の時点ですでに筆頭宰相であり、その兄、本田馨(ほんだ・かおる)は30年前の元帥殿前都点検。その当時まだ皇子であった永安帝の目付役として出陣し、永安帝の無理な作戦に振り回されたあげく手腕を発揮できず、奇襲突撃に敗れて戦死した人物。本田為朝はその時期ようやく父から家督を継いだばかりで、馨戦死の時奮闘、大活躍して永安帝の覚えめでたく、戦死した馨の後任として……とはいえ、若手将官がすぐに元帥となれるはずもなく、10数年間の精勤を必要としたが……元帥となったことを考えれば、まんざら無関係な血統でもない。そしてこの宰相と元帥は、文治派の首魁と武断派の総領ではあるが妙に仲がいい。だから誰もが最初は、彼らを血縁だと勘違いする。

 そんな元帥令嬢は、実にうらやましげに美咲を見遣り、軽く嘆息した。立場上の息苦しさがあるのだろう、年の近い美咲に気安さを感じているらしい。

「私もあのように毅然とものが言えればよいのですが……」
「わたしの態度を真似されると無用に敵を作りますよ、希沙良様。御身を大事と思うなら、ひとまず自分を殺しておとなしく過ごされるのがよろしいかと」

 美咲が言いたいように意見を言えるのは後ろに宰相の威というものがあるからだと、自分で自覚している。宰相の子飼いがうっかり卑屈な態度を取ろうものなら宰相府そのものが侮られるわけで、そうならないために美咲はあえて相応の態度を取っているところがある。決して新羅辰馬のように野放図に放言している訳ではなく、あなたには気苦労がなくていいですね、というような態度を取られると少々、かちんと来る。

「それで、つまらない世間話がしたいわけではないでしょう。ご用件は?」

 突き放すように美咲は言う。傾国といってさえよい美貌の美咲が冷たい態度を取ると本当に冷然としたものがあり、姫沙良は気圧される。あまり関わってはくれるなという意思表明の態度だったが、そこは貴族特有の空気の読めなさ、姫沙良は意を決したように半歩踏み出し、朱唇を開く。

「貴方の、齋姫の“加護”を私の隊に、与えてはくださいませんでしょうか?」

 そう言った。

 少し微妙な顔になる。美咲の、人造の齋姫という秘密を知るものはそう多くはなく、また、あまり知られて気分の良いものでもない。極秘裏に接収した過去の齋姫の死体をばらしてその因子を抽出するという行為は生命に対する冒涜、禁忌であるからだ。しかし面前の女性はそんなことはまったくお構いなしに、無邪気に瞳を輝かせて『齋姫の奇蹟』による助力を願ってくる。それは美咲の能力……加護による力の飛躍的な底上げ……を受ければ、率いられる部隊は無類の強さを発揮するだろうが。

 普通なら嫌悪を抱くかも知れない無神経な態度だったが、しかし相手が初陣の恐怖と元帥の娘という責任感による重圧、それらをどうにかしようと必死でいることを考えると、なんだか怒るよりもほほえましさを感じてしまう。なんのかんので、晦日美咲という少女は他人に甘い。

 ここで元帥府と良好な関係を築いておけば、ゆかさまの御為にもなるでしょう……。

 主君のためにと胸中呟いて理由付けし、自分はお人好しではないと言い訳する。

「了解しました。では、希沙良様は第12師の隷下に」
「よければ統帥権は私が握った、ということに、名目上そうしていただけますでしょうか? 私が晦日さまの隷下に入ったとなるといろいろ声が上がるでしょうから……」

 意外に図々しい。そう思うも乗りかかった船だ、美咲は首肯し、受け入れた。


……
………

 最前線ではラース・イラ第2騎士団長、セタンタ・フィアンが大暴れしていた。

 アカツキの勢が弱いわけでは、決してない。彼らはよく鍛えられ、優れた指揮官の統率のもと統制のとれた動きで敵と渡り合っている。この戦が迎戦であり、侵略軍に対する国土の防衛ということもあって士気は高く、兵站もしっかりと行き渡っていて不安要素はない。

 にもかかわらず。

「せあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!」

 奔馬躍動。

 赤い鎧の騎士が敵中から突出、日の光を浴びて輝ききらめく長槍をしごいてぐるりと頭上で一回転、ぶんと投げると、大槍は光の速さで空を裂く。銘は神槍ブリューナク。その威力はかすっただけでも必殺であり、一撃で数百人をたやすく薙ぎ倒し、刈り斃す。そして殺戮を果たした神槍は、自動で所有者の手に戻った。

 ラース・イラが誇る「騎士団」の副団長、セタンタ・フィアン。その武威まさに鬼神であった。この男が最前線で武勇を誇り、そしてその効果はただ一武芸者の猪突と言うことに終わらない。最高指揮官が最高の武威を見せつけることでラース・イラの軍勢は士気異様に高く、アカツキのそれを圧倒、全体の戦局を撼(ゆる)がす。

 また、セタンタという男はただ個人的武芸のみで副団長にのぼった猪ではない。戦機を見通す眼力とそこに戦力を傾注する統率力、この二つにおいて傑出した才能を誇り、もしガラハド・ガラドリエル・ガラティーンという天才が存在しなかったなら間違いなくラース・イラの歴史に「最高の騎士にして名将」と名を残したに違いない傑物。その鷹の目が捉えた敵のひるみを逃さず、セタンタはブリューナクを指揮杖にして一斉突撃を敢行した。

 その目の前で、アカツキの工兵が野戦築城。陣を作るだけの暇は当然無く、馬防策だけ応急的に建てる。

 関係ない、そう断じてセタンタは突進。

 ラース・イラ主力の前に、馬防柵を挟んでざっと並べられる、アカツキ銃兵隊。

「撃ーっ!」

 ドドドフッ、パパァーンッ!!

 風嘯平の再現。なぎ倒されるラース・イラ勢。しかし半数が斃されても、セタンタは残り半数を率いて一切突撃の威力を殺さない! 馬防柵ごと突破、銃を捨て抜剣するアカツキ武士団を、無造作なほど簡単に狩り殺す。

「っハァ! 鉛玉でこのセタンタを殺せると思わないことだ!」

 獰猛に吼えるセタンタだが、突破するのに兵力を損耗したのは事実。ひとまずここに陣を移し、後続の兵員が集まるのを待つ。

 ともかくとして、これにより最前線の橋頭堡の一つが、ラース・イラに奪われることとなった。


……
………

 その頃、ヒノミヤ山上野戦陣。

「うし。そろそろいーか……反転、突撃ーっ!」

 兵を収束させて北げる1800、それを追う6000の先端1000ほどが先走って分断されたのを見て取った辰馬は、すかさず軍を反転させた。自ら先頭に立ち、突撃をしかける。優位をとったからと正面から挑まない。あくまで側翼、防御の弱い左手がわに回り、正攻法より擾乱を用い、自軍を一極集中、敵軍を各個撃破。

 その慎重謹慎な戦ぶりは新羅辰馬という少年の性格にそぐわない感もあるが、実のところ辰馬らしいとも言える。新羅辰馬はあくまでも「誰一人として殺したくない」というのが考えの基盤にある甘ちゃんであり、これまで女神サティア、竜の魔女ニヌルタという難敵を相手にしても、敵を殺すということを可能な限り避けてきた。今回戦争という状況で殺戮を避けられないにしても、せめて敵味方の被害は最小限に抑えたい。

 まず敵衆20000中の先鋒隊6000、さらにその最先陣1000を壊滅させた辰馬は、大輔たちに略奪暴行の禁止を厳命して将几……なんてものはないから、幕舎に置いたパイプ椅子にぐたりともたれる。

 あー疲れた。疲れる……。こんなん神経すり減るって……おれに軍人は無理だな。将来、軍人だけは絶対いやだ。

 将才がある=将帥に向く、というわけでは必ずしもなく。新羅辰馬という少年は根本的に優しすぎて神経の細いところがあり軍指揮官向きとはいえない。本人もその道をまったく望むことはなかったのだが、後世、アルティミシアの歴史上最大最高の君主にして将帥と言えば誰もが間違いなく赤帝…新羅辰馬の名を挙げることになると今の彼に伝えても信じることはまずないだろう。

 とはいえ先のことはさておき。

「瑞穂もしず姉もエーリカもいないとなると、えらい味気ないな……」
「女が欲しいなら世話しますぜ、新羅公。なに、お代はいりません。あとで神楽坂先代齋姫猊下を自由にさせてもらえればもう、いくらでも」
「させるわけねーだろぉが、ばかたれ! 殺すぞお前!」

 瑞穂への執着を隠そうともしない長船言継(おさふね・ときつぐ)に、辰馬は強い視線を向ける。長船は悪びれることもなく、平然とその眼光を受け止めた。

「つーか気になってたんですよ。あんたが神楽坂猊下……いや、瑞穂をそばに置く理由」
「あ?」
「そりゃ、瑞穂はあの器量とあの身体だ、大概の男なら簡単に溺れるでしょーが……あんたのそばの女はどれも、器量というなら瑞穂より美人だ。半妖精の剣聖しかり、外(と)つ国の姫君しかり。なのにあんたの一番の寵愛は瑞穂にある。どーいうことですかね?」

 三白眼をぎょろりと剥いて、長船は辰馬を誰何する。

 そんなもん知るかと辰馬は思ったし、そう答えるほかにない。実のところ別段な理由などなかったのだから、ほかに答えようがなかった。

「理由が言えねぇ程度のもんなら、あの女、俺にくださいよ」
「お前にはあんのかよ、理由が?」
「まあ、ね」

 長船は薄く酷薄に笑う。長船という男が瑞穂に執着する理由、それは瑞穂のもつ奴○気質……殴られ蹴られ罵られ、貶められることで輝くマゾヒズムと、それを支配して満たされる長船自身の昏い征服欲のゆえであり、歪んではいるが確かにこの男はこの男なりに、瑞穂を愛してはいるのだった。

 長船が心底を吐露したならば辰馬としては「その愛情の形は認められない」と突っぱねられたかも知れないが、あくまでも自信ありげに笑って見せただけの長船、その自信に対して拠って立つものを、辰馬は持てず、揺らぐ。

 おれが瑞穂を……好きな理由……?

 ここは戦場で、今考えることではないのかも知れないが。あるいは今考えなければ深く考える機会のないことかも知れなかった。

 可哀想な事情を抱えているから。

 違う。

 母アーシェにかぶるから。

 これも、なんか違う。

 ……まあ、なんだ。

「落ち着くから、かな」
「あ゛?」
「あいつがそばにいると落ち着く。気が楽になる。ほかに理由とかいらねーわ。おれはあいつがそばにいてくれねーとどうしようもない。……いやまあ、それはしず姉とかエーリカ相手でも同じ事で、瑞穂が特別ってわけでもないが……ま、そーいうことだから、お前にもほかの誰にも渡さん。手ぇ出したら殺す」

 神楽坂瑞穂、牢城雫、エーリカ…リスティ…ヴェスローディア。結局のところ新羅辰馬の人格の根幹は、この三人に依拠する。本人を前にしてお前が必要だとは恥ずかしくて絶対言えないところだが、彼女らがいないと人として立ちゆかないぐらい辰馬は瑞穂たちに依存しており、彼女らを奪われると考えただけで拒絶反応が出るほどだ。つまるところ新羅辰馬という少年はあまり事物に執着しないようでいて、いざこだわる相手には独占欲が異常に強い。

 辰馬の視線と、長船のそれが中空で絡み合い、火花を散らす。

 なんか憑きものの落ちた顔してやがるが……。瑞穂の身体に肉の悦びを刻んでやったのはこの俺だ。純愛気取ったガキに、現実の厳しさをわからせてやるよ。女は愛情なんかより、男の手管になびくもんだってことをな……。

 長船は心にごちて、視線をそらした。

「ま、了解しました。そんじゃ、次の策(て)を考えますか。まず1000を覆滅して、敵は残り19000。こっちはほぼ無傷の1800」
「あぁ……このくらいの兵力差、歴史上の名将なら簡単にどーにかするところなんだが……、おれには才能がないからな、頼むわ」

 心底そう思っての言葉に、長船は愕然と瞠目する。

 このガキ、本気……らしいな、とんでもねぇ。

 自分の才能に無自覚な天才に僻(ひが)みに似たものを覚え、しかしそれ以上に「この少年を育ててみたい」という自分らしくもない思いが、長船言継の心中に去来する。後世多くの人材が口をそろえて言い残す、「新羅辰馬という人には本当に、『おれが支えてやらないと駄目だから』と思わせる不思議さがあった」という魅力に、長船もが絡め取られた瞬間であった。

 このガキが竜なら……竜鱗に攀じて鳳翼に附く……ってこともありなのか?

 長船は自分が玉座に座す辰馬の師父として立つ未来を幻視して、かつてない興奮を覚えた。もしそれがありえるならば、なんという誉れか。

 よし。

 長船はその未来を現実にするべく力を尽くすことを決める。

 まあ、瑞穂のことはまた別だが。

「この近くに崖があります。そこに敵勢を落としましょう」

 そう進言する。この策の残酷さに辰馬が渋るとしても、自分が辰馬をして勝たせるために働く、そう決めた。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/04/24 06:36

23-04-24.「くろてん」小説再掲1幕3章9話

おはようございます!

昨日描いたのは瑞穂さん娼館セックスルート3枚でしたが、これは過去絵の流用なのでここに上げる必要もないかなと。あとはSMルート用ですが、SМってなに描けばいいのかよくわかんなかったりします。暴力レ○プとはまた違うわけで……。縄打ってればだいたいOKなのでしょうか。難しい。ともかく今日は病院、明日は市役所に出かける用事があるのでお絵描きは数日お休みですが。

それでは今日も「くろてん」小説再掲、本日もよろしくお願いいたします!

黒き翼の大天使.1幕3章9話.寡兵、衆をなし敵を撃つ

辰馬は腕も折れんばかりに指揮杖を振り、どうにか麾下1800を収斂、敵前の鋭鋒を避ける。もし出た先が狭隘だったら完全に詰みだったが、山脈交喙という少女の性格か、わざわざ口上を述べて広地での一大会戦で正面からたたきつぶそうとするやり方のゆえにこちらが術策を弄する余地ができた。

「とにかく引きずり回して一度に対する敵を減らす。こっちは集中して、分散した敵を撃つ。なんか兵法にそーいうやつあるよな!?」

 北(に)げながら巧みかつ適度な反撃で敵を引きつけつつ、辰馬は参謀、長船にほとんどがなるようにして訊く。

「まぁ、ありますな。(凡そ敵と戦うに、若し彼の衆多きは、則ち虚形を設けて以て其の勢を分かたば、彼敢えて兵を分かずば以て我に備えず。敵の勢既に分かたば、其の兵必ず寡し。我専ら一を為すさば、其の卒みずから衆し。衆を以て寡を撃たば、勝たざること有る無し)と」
「長い! 要点!」
「敵を分散させて相対的優位な形成で叩く、新羅公の今のやりようで問題なし、ということです。……あんたが進退窮まったところでこの形勢を造って恩を売るつもりだったんですが、簡単に最適解を出すからつまんねーじゃねぇですか。……ま、少しは働くとしましょう」

 長船はそういうと懐から、重そうな布袋を取り出した。

「人間ってのは結局、こいつに一番弱いんでね」

 隷侍の数人の女官に二、三言い含め、あらかじめこの状況を予測してかすでに用意の書信を添えて、敵中に忍ばせる。

「金か。こっち有利なら兎も角、こんな不利な今のおれたちに、寝返るやつがいるか?」
「そこはあんたが奮戦すればね。それに、実際寝返らなくとも、使者を迎えた時点で後ろめたさが出来、周囲の目が気になるようになり、自然鋭鋒は鈍る。それだけでも今の状況を好転させるには十分、でしょうよ」
「なるほど。そーいう効果ね……あんましスッキリしねーが……打てる手は全部打たんと死ぬからな、今の状況」


……
………

 山南交喙(やまなみ・いすか)は歯噛みしていた。

「なぜあんなちっぽけな敵を潰せない!? 貴様ら、手を抜いているのか!?」
「いえ、そんなことは……われわれとしても全力を持って攻勢に出ているのですが……、攻めれば攻めるほどなにか不可思議な術中にはまっていくようで……」

 ヒノミヤ内宮防衛隊総指揮官は交喙だが、彼女に特別な用兵の才はない。副官として片倉長親(かたくら・ながちか)という老練の将がつけられたのだが、神月五十六の前ではおとなしく片倉の副官任命を受けたものの交喙はこの慎重かつ口うるさい老人が苦手、というより積極的に嫌いであった。前線から呼び戻した老将を詰り、ののしり、理由をつけて斬ろうとする。

「黙れ、臆病者! これだけの大兵であれしきの寡兵に臆病風とは、怯惰のきわみ! お前たち、この無能を斬って首を軒門に掛けよ!」
「馬鹿な! 今この状況で将を斬っては衆心が動揺しますぞ、齋姫! 前線の状況はなお予断を許さず、今私を斬ることは敗北と同義! どうかご再考を!」
「黙れといっている、老耄(おいぼれ)! お前たちもなにをじっとしている、さっさとこの無能を斬り殺さないか!」

 周囲の女将たちすら、さすがに剛毅の老将をはばかって動けない。彼女らも片倉もうすうすと気づくのだが、この山南交喙という少女はアカツキ皇国皇帝……永安帝に似ていた。希薄な自分の才能を最高無上のものと信じ、自分の慮外、自分と違う考えはすべて排斥する。はっきり言ってしまえば将帥としてはまったく不適格な資質といってよい。

「齋姫倪下、今はヒノミヤ危急のとき。片倉老の責任は責任なれど、神聖な陣を味方の血で穢すのは不吉でもあり、ここはいったんの寛恕を。かわりに片倉老には今まで一層の奮戦を期待し、その上で失措あれば戦後、改めて処断するがよろしいかと」

 そう進言したのは巫女の5位、鷺宮碧依(さぎみや・あおい)。もともと神月派でも神楽坂派でもない彼女だが最近の神月五十六、その専横には吐き気がするほどの嫌悪感を抱いており、それでもなおヒノミヤを守ると言う使命感でここまで戦ってはきたもののぽっと出の交喙がまた五十六の代わりだとでも言うような態度にまた不快を感じ、もはやヒノミヤという組織への忠誠も失せた。このまま戦ってヒノミヤが勝ったとしても自分の居場所はないと断じた碧依は、老将を救ってアカツキ、新羅辰馬に降ることを決意する。


……
………

 いっぽう、山麓。

 荷車要塞(ワゴンブルク)で騎兵突撃を止め、一斉掃射。敵のことごとくを一網打尽……といいたいところだが、あいにく世界最強国家ラース・イラの精騎たちはまとう鎧も神聖魔法により強化されている。初撃、至近での一斉掃射はともかく、陣の2列目3列目になるとかすり傷、ほとんどダメージがない。数千の騎兵が、荷車要塞を踏みつぶそうと迫る。

 それも織り込み済みです。足場がこうなっているなら、まだこちらに有利!

 瑞穂は指揮杖を振るい、荷車要塞を展開。すぐさま歩兵隊が、空いた隙間から突出。鉄条網に足を取られ、なかなか坂を上って戻ることが出来ない敵兵の甲冑の上から重い斧や鉄槌(メイス)をたたきつける! 敵を歩兵ごとき、と侮っていたラース・イラ騎兵隊は、この戦法の前に次々と屠られていく。分厚い鎧だろうが魔法障壁だろうが、接戦の距離で重さに任せた槌の一撃に、鎧は耐えられてもなかの肉や骨が耐えられない。次から次と、治癒不可能な形に骨を潰されて騎士たちが転がる。

 ガラハド・ガラドリエル・ガラティーンにはこのとき、単騎突出して敵指揮官を仕留めるか、配下の騎士たちをまとめて陣を整え、正攻法で戦うかという二つの選択肢があり、おそらく前者が最適解であると識りつつ、彼は配下を見捨てることが出来ずに後者、陣戦をとった。

 この間、戻ってきた焔に瑞穂は指揮権を返上。みずから左翼騎兵隊300を率いて山岳路を大きく迂回する。ガラハドは瑞穂が迂回して後背を衝こうとしていることに気づいたものの、焔の指揮もなかなかに粘り強く、またエーリカが掲げる聖盾の加護にも護られて明染隊は予想以上の奮闘を見せる。ガラハドとしては後方の磐座遷との連携が不可欠だったが、瑞穂は先んじて遷の陣に使者を送り、ガラハドの裏切り、その証拠となる新羅辰馬との書信をそれらしくつかませる(証拠の根拠は瑞穂がガラハドの心から読み取った辰馬との友誼であり、あながち嘘で固めた情報でもなかった)ことで連携を封殺した。

 ガラハドは麾下の騎士たちに前後双方向への注意を喚起したが、衝撃はその予測を超えて側翼から錐のように突進してきた。迂回を果たした瑞穂はガラハド隊後方に簡易の陣を作り旌旗を立てて攻撃準備を整えているように見せかけ、その陣をからにして一気に側翼にまわり、陣を整えることもせず一挙、ガラハド隊の側面を衝いた。

 完全に慮外の方向から撃たれて、さしものガラハドが臍を噛む。ここまで持ちこたえたガラハドだが、この奇襲攻撃で完全に陣を摧され壊滅的打撃を受ける。もはや最強の騎士といえど敗勢挽回することあたわず、正騎士の一人がガラハドに「団長だけでも落ち延びなされませ」と進言、ガラハドは苦渋の面持ちも一瞬、再起を期して単騎、逃走にうつった。

 これを果敢に追撃したのが厷武人である。60騎で追いすがった厷は、騎上、名刀【燕(つばくろ)】を抜いてガラハドに肉薄、瞬時に6回斬りつけたが6たび防がれ、7太刀目にカウンターを食らう、これが厷の右腕を下から跳ね上げ、宙天に刎ね飛ばした。

「っあ!」

 驚くべきは厷の精神力で、右腕を斬り飛ばされなお追撃をやめない。ガラハドにしてみればこのしつこい追っ手を殺すことは造作もないことだったが、彼は勇者を愛する。ゆえに、厷の身体へ峰打ちの強打を与えて落馬させると、悠々と引き上げた。

 ヒノミヤ山岳前進防御戦、まず第一フェイズは神楽坂瑞穂の采配で、アカツキ方の勝利。しかしこの山を上るためには、なお1万の磐座遷勢がほぼ無傷で残る。

「荷車要塞、いつでも動けるようにしてください!」
「「「了解しました、姫君!」」」

 瑞穂の声に、輜重車担当の兵士たちはいかにも嬉しそう。彼ら本来の仕事と言えば兵站担当であり、軍務における最重要でありながらほとんど顧みられない。それが「荷車要塞(ワゴンブルク)」という戦局を変容させる戦法が導入されるや、今となっては華々しき騎兵たちより彼らが主役である。嬉しくないはずがなく、そしてそれを褒めてくれるのが絶世の、といってよい美少女で、弩級の巨乳で、ヒノミヤの正当な聖女……齋姫という付加価値までついてくるとあれば、男という単純な生き物が奮起しないはずもなかった。

 再び、逆落としに上から責め立てるヒノミヤ、磐座遷勢。

 瑞穂は指揮杖を振って、陣立てを急ぐ。第二フェイズが始まった。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/04/23 18:10

23-04-23.お絵描き(牢城雫_ちょいエロ)

こんばんわです!

今日もお絵描き。こちらになります。

雫おねーちゃん、デッサン人形をグラマーにしてムッチリした身体にしてみましたけども、キャラの特性ゆえか裸でもエロくないのがこのおねーちゃん。ゲーム「くろてん」のイベント枚数は瑞穂、雫、エーリカ3人とも通常、エロ、寝取られエロと同数ずつに設定してるんですが、雫おねーちゃんに関しては通常イベを増やしたほうがいいのかなと思うのはいつものことです。

それでは、以上でした!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/04/23 06:47

23-04-23.「くろてん」小説再掲1幕3章8話

おはようございます!

昨日は娼館イベントのチチモミ・パイズリ篇を描きました。

この3枚。あとは中年とのセックスと老人とのSMです。昨日も言ったかと思いますが最近画力が下がってるなぁと思うところなのでどうしようかなと思いますが、まあこのまま行くほかないので進めます。

それでは、本日も「くろてん」小説再掲。本日もよろしくお願いいたします!

黒き翼の大天使.1幕3章8話.変化して勝ちを取る者、神と言うべし

 アカツキからはるか西。

「央国」ラース…イラ。

 アルティミシア大陸9列国において、版図と国力、その両方においてまぎれもなく最強の国である。かつて栄華のすえに復古した二度目の神話の時代、最終勝者として覇を握ったのはユーグ、すなわちケルトの流れであり、根をたどれば今世の創世神グロリア・ファル・イーリスも魔王オディナ・ウシュナハもその流れをくむ。ラース・イラという国はその、ユーグの民(ティル・ナ・ノグ)の正統な末裔を称し、きわめて誇り高く自尊心が強い。

 その王中の王たるが座すことを許される、ケルト様式の大理石の玉座にかけるのは、年端もいかぬ可憐な少女。色素の薄い金髪はなかば白髪のようであり、細身の身体は触れただけではかなく消えてしまいそう。蒼き陽の国アカツキに対して紅き月の国といわれるこの国の象徴たる、金糸を散らして衣装を凝らした深紅のガウンは彼女の身体にはいささか重たげに見えるが、しかし彼女をただはかなくなよやかな嫋々(じょうじょう)たる手弱女(たおやめ)と見せないのはその瞳に宿る意思の力による。

 覇気や烈気、鋭気といった荒々しいものではない。むしろ静謐な、海の水面の凪を思わせる静かな包容力は、騎士の国といわれる央国の主にはふさわしくないかも知れない。しかし彼女に仕える騎士のことごとくがその瞳に無私にして無二の忠誠を捧げ、命をかえりみない勇敢を発揮することは事実である。

 美しき金髪の君……女王エレアノール・オルトリンデは静かに息を吐く。

 想うのはラース・イラが誇る最強の軍勢、「騎士団」の団長にして世界最強、そしてエレアノールに剣と命と誇りを捧げた騎士であるガラハド・ガラドリエル・ガラティーンのこと。単騎で一軍に匹敵する彼の戦闘力を心配することほど馬鹿らしいことはないのだが、それでも考えてしまうのだから仕方ない。なぜそんなことに煩悶するかといえば。

 そこまで考えて、目の前に立つ男に目をやる。

 ラース・イラの肌白き民ではなく、肌の色はアカツキや桃華帝国の黄色人種のそれ。年齢はまだ50歳かそこらのはずだが、これまでの人生でなめた辛酸ゆえか実年齢より軽く十歳は老けて見える。切れ長の瞳は炯々と鋭く、鼻は鷲鼻、ひげと髪は長く、灰色交じりの赤い長髪は後ろで束ねてある。

 宰相ハジル。

 かつて若かりし日のアカツキ皇帝…永安帝率いる20万の軍勢を数千の手勢で打ち破った、国境の小国テンゲリの王子。その後永安帝の報復によりテンゲリが滅ぼされると腹心たちが命と引き替えに彼を逃してこのラース・イラに逃げ延びさせたわけだが、彼にとって地獄がそこで終わったわけではなかった。白人至上主義国家において黄色人種であるというだけで彼は排斥され、一時は奴○同然の扱いを受けた。彼の半生を論じれば一作の長編ができあがるだろうが、それはこの際置くとしよう。

 ともかくアカツキへの復讐の念、それひとつでのし上がったハジルは今、世界最強の国ラース・イラの支配者階級、その最首たる宰相となっている。

「ガラハド卿には死んでもらいましょう。彼ならば恨みますまい、この一挙でアカツキを滅ぼせるとありますれば」

 平然と、感情を乗せることなく。ハジルは駒をひとつくれてやって国をとりましょう、と進言する。エレアノールの中に人種差別感情はないが、むしろこの男の性質の合理性が、黄色人種への嫌悪を喚起してしまいそうになる。

「その策は採れません。わたしは騎士の命を捨てて国を盗るというやりかたを看過できません」
「戯言を。いま、アカツキ内戦に介入しないという手はございますまい。ガラハド卿がここにいれば、自分ごとアカツキの背を撃てと言うでしょう」
「それでも、です」


……
………

 エレアノールとの平行線で実りない会話ののち、ハジルは騎士団副団長、セタンタ・フィアンを執務室に喚んだ。

 セタンタ・フィアン。42歳。巨躯に赤毛の騎士は第二騎士団の長であり、必中必殺、魔眼の魔神バロールの巨眼を射貫いて殺したといわれる魔槍ブリューナクの使い手。彼の魔力は身体強化という一見は地味なものだが、強化された肉体から十二分に魔力を込めて放たれたこの槍は決して外れず、確実に敵の命を刈り取るとされる。ユーグ(古ケルト)の伝承にはほかにもゲイ・ボルグ、フラガナッハなど「必中にして必殺」の武器が存在するが、武具としての出自において主神にして太陽神「長き腕の」ルーの武器とされるブリューナクに勝るものはほかにない。この、ガラハドに次ぐ第二の騎士は豪放なる戦闘狂であり、エレアノールへ無上の忠誠は別として、なによりも戦場を喜ぶ。ハジルが戦いの場を与えるというのなら、彼はよろこんで騎士団を率いる。

「アカツキ内戦の間隙を突く、ですか。戦線を拮抗させるために団長を派遣したとあれば、なかなかあくどい」
「問題があるかね、セタンタ」
「いえ。それでも国境の軍は十分に歯ごたえがありそうだ。宰相さま念願の勝利のために、よろこんで往きましょう」

 ラース・イラ国内の鉄道網はアカツキや西方諸国の多くに比べると、やや劣る。なぜかといえば、彼らの軍馬と騎乗技術は蒸気機関にたよるまでもなく圧倒的速力を誇るからだ。必要としないものが発達しないのは道理であり、この時代にあってなお鉄道というものを必要としないほどに、ラース・イラの軽騎はあらゆる戦場で見せつける。高地民族である彼らの馬術は、騎馬の民の末裔ハジルの教導を経て山岳や森林であってすらほとんど速力を落とさないレベルになっており、セタンタ・フィアン率いるラース・イラ60万の軍勢は、女王エレアノールの承認を得ぬままに王都を出陣、3日でアカツキ国境に迫った。


……
………

 ラース・イラ介入!

 この報せは、ヒノミヤ戦線の、とくに傭兵諸士に影響を与えた。彼らはなかなか戦果の上げられないヒノミヤ戦線をうち捨て、ラース・イラ国境戦で名をあげるべきと転身、それだけならまだ良かったが、彼らはヒノミヤ戦線に投ぜられた兵士20万の大多数をも自分の兵士として連れて行ってしまう。これによりアカツキ、ヒノミヤの戦力比は20万対8万から9万対7万ほどにまで下がった。

 後方でそういう動き。というのを密偵の報告で聞いた辰馬は、急遽晦日美咲(つごもり・みさき)からの増援4000を返すことを余儀なくされた。後方が抜かれたらこちらも正面を向いていられないのだから、やむない仕儀ではある。

「とはいえ、予定の兵数が減るのはキツいな……麓の前進防御はどんだけ数がいても足りないんだが……」

 銀髪をいじりそうぼやきながら、辰馬は兵の部署を割り振る。まずヒノミヤ内宮直撃ルート、この指揮官が辰馬、副官、朝比奈大輔、参謀、長船言継、以下参将上杉慎太郎、出水秀規。山麓前進防御陣営指揮官、明染焔。副官エーリカ・リスティ・ヴェスローディア、参謀、神楽坂瑞穂、参将厷武人。本来であれば瑞穂を自分の参謀として置きたかったが、どうにも反復常ない長船から目を離すわけに行かないために、この配置になる。


……
………

 情報戦の天才である磐座穣(いわくら・みのり)がこの報せにどう接したか。

 よし。

 小さく拳を握る。ラース・イラの介入はヒノミヤ20万がアカツキ100万を覆すのに絶対必要なピースであり、そもそもラース・イラ宰相ハジルにこの話をもちかけたのは穣その人であったから、驚くには値しない……むしろあちらが腰を上げるのが遅く、焦れたくらいだ。このまま挟撃、そしておそらくはヒノミヤまで征服したがるラース・イラ軍を、長駆疲れているところで叩いて退け有利な講和を結ぶ。磐座穣という少女はその先、ヒノミヤの倉廩が満ちていよいよ世界征服に乗り出すそこまでを見据えている。そのために今の時点で躓くわけにいかず、現状すべては彼女の手のひらの上に掌握されている。唯一の不確定要素は新羅辰馬……というかその麾下にいる神楽坂瑞穂の頭脳であり、彼女が本来の自分の才覚というものを自覚したなら穣の予測すらもしのがれるかも知れない。だが未だ伏竜は眠ったままであり、穣はそれを起こす暇を与えるつもりもなかった。


……
………

 山麓に布陣した明染焔以下の隊だが、初手からおおいに苦戦させられることになった。

「おぉ!!」

 咆哮一閃。逆落としに突っ込んでくる単機と、それに追従するラース・イラ騎兵1000。ガラハド・ガラドリエル・ガラティーンの圧倒的突破力を前に、野戦陣をたちまち突き崩される。こちらとしても地元民から聞き調べて入念に調査した隘路険要を選んでの布陣なのだが、地形の効果というものがほとんど関係ない。半壊する兵士たちを再集結させるための時間稼ぎに、焔たちは最前線に出てガラハドの前に立つ。

「あー、震えるわ。あんなバケモン、一生に何度も相手するもんやないで」
「今日こそ止める。最強の称号、いまでも欲しいままにはさせない!」
「なんとか時間稼ぐから。瑞穂、あんたの策が頼りだかんね!?」
「はい、了解しています!」

 瑞穂は焔、厷、エーリカの三人がかろうじて踏みとどまりガラハドを引きつける間に、陣立てを急ぐ。焔から委譲された指揮杖を振るい、全軍を動かしていくのだが、驚くべきはその統御の才。単に兵略を識るというだけでなく、用兵家としての才能で神楽坂瑞穂は敵衆を瞠目させる。敵前で陣形変更、これを敵につけいる隙を与えず実行する将器がどれほど希有か。

 そして、瑞穂が採った陣形は、輜重車を前衛に、その奥にマスケット銃兵。側翼に騎兵という一見、何を考えているかわからないもの。輜重車=荷車でしかなく、そんなものが防衛線としての機能を果たしうるか大いに疑問ではある。

「明染さん、エーリカさま、厷さん、下がって!」

 瑞穂が、声も限りに叫ぶ、焔たちは後退。これに勢いを得たラース・イラ騎兵と、それに続くヒノミヤ勢もまた、瑞穂の立てた急ごしらえの陣地へと猛襲をかける。兵とは勢い。ガラハドといえどその理を曲げてまで兵を御しきることはできず。

 突進はしかし、輜重車に施された装甲板やら足下に撒いた鉄条網、それらに阻まれて翕然、不自然なほどに勢いを殺された。後退しようにも高地から逆落としを仕掛けた彼らの後方は上り坂であり、転身に向かない。

 そこに。

「一斉射撃、撃ーっ!!」

 可憐な声が響き、つづけて銃砲が轟音を奏でる。今回のマスケットは風嘯平のように少なくない。一気に敵兵1000人近くの命を刈り取る。血と硝煙の臭いのなか、瑞穂は眉も動かさず、次の指示を出す。そもそもの瑞穂はかぎりなく気弱で、臆病な少女であり、およそ戦場に向くとはいえないのだが、新羅辰馬のために自分にできる限りのすべてのことをなす、そう心に定めた瑞穂は、辰馬のためなら心を殺して修羅になれた。

「敵が浮き足立っている、今が好機です! 騎兵隊、敵側翼に突撃ーっ!!」


……
………

 一方で新羅辰馬。
 
 こちらもなかなかに苦闘させられることになった。ガラハドとそれに追従する数千という構図はともかくとして、そちらへ移ったヒノミヤ勢が思いの外に寡い。なお磐座遷(いわくら・うつる)のもと1万近くがフリーで、こちらは1800、しかも巧みに側翼をたたかれる。先手衆首座、磐座遷という人物も、剣術だけの護衛官ではなくなかなか凡庸ではなかった。

「仕方ねぇ、輪転聖王(ルドラ・チャクリン)で……」
 虚ろの勾玉を握る辰馬を、長船が制す。この男の手にも、同じものがあった。あと一つは神楽坂瑞穂の手に。

「八雲立つ、耳目欺く影法師、朧に築く、その高楼(たかどの)を」

 瞬時にどこからか、無数の武装兵が沸き、敵を威嚇して辰馬たちを守る。「幻覚だ、恐れるな!」指揮官級のヒノミヤ士官がそう叫んだが、武装兵は果敢に敵へと斬りかかり、斬られた敵兵が激痛に悲鳴を上げると全軍に動揺が走った。幻覚じゃないじゃないか、あの数を相手に? おまえ掛かれ、おまえが先に行け! そういう感情がぶつかり合い、収集がつかなくなったところに辰馬たち1800が突撃、浮き足だった敵を切り崩し、退ける。

「幻、だよな? さっきのは?」
「あぁ、幻肢痛ってやつですよ。人間の心ってやつぁ実際に斬られてなくても「斬られた」って思うと実際と同じ痛みが走るものでね。そうやって使ってやれば、幻覚だって役に立つってわけです……くく、こいつは貸し1つってことで……」
「あぁ、まあ……確かに借り、だな。今のは……」

 いかんな、助かったけど……あんまし貸しを作ると瑞穂を差し出せとか言われる……。気ぃつけんと。

 そして磐座遷を振り切り、進んで山上。

「待っていたぞ、神敵」

 巨大な螺旋の砲炎が走る。

 それを。

「全軍伏せーッ!!」

 辰馬の短い号令、新兵とつい先日まで敵兵だった1800は熟練兵の動きで辰馬の手足のごとくに動き、総員すぐさま地に伏せる。辰馬も含め騎乗のものは取るものも取りあえず、馬上から飛び降りた。

 その頭上を駆け抜ける、紅蓮の炎。それは砲火に10倍する威力で猛然と直進し、背後の森に吸い込まれ、森を焼く。

「ふん、かわしたか……」

 そう呟く声。

 辰馬と兵士たちが立ち上がり、声の主を見た。桜をあしらった薄緑の着物、炎のように燃え立つ赤毛。

 ヒノミヤ内宮前、荒涼たる丘陵全体を満たすように広く陣された2万ほどの兵の前に立つ少女は、山南交喙(やまなみ・いすか)。女神ホノアカの御霊の器たる、新しい齋姫。

「まあいい、おまえたちはここで終わり……わが神の戦士たちよ! 眼前にあるは神敵、わが理想世界の顕現を阻む、邪悪の輩(ともがら)ども! いざ勇んで進め、一人殺せば功徳が増すぞ! もし討たれ倒されたとしても、わが火之緋(ホノアカ)の神名において卿らの魂の救済、神の庭に迎えることを約束しよう! 一切恐れることはなし!」

 交喙はおよそ人間性の欠けた、それこそ神が人間という虫けらを見る瞳でつぶやくと、下がりながら指揮杖を振る。すかさず、鍛えられた兵士たちが律動的に展開した。大兵に戦術なし、この戦力差で、新羅辰馬は敵を迎えることになる。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/04/22 18:19

23-04-22.お絵かき(エーリカ_非エロ)

こんばんわです!

昼の間に瑞穂さん娼館のチチモミ・パイズリ用イラスト3枚描きましたが、それは明日の朝にアップするとして。今日はこちらです。

エーリカ・リスティ・ヴェスローディア。ほとんど毎日描いてる瑞穂さんに比べ、エーリカを自分で描くのは実に半年ぶりでした。半年寝かせたわりに可愛く描いてあげることもできず、なんかすまんという気分なのですが、最近なんだか画力が低下している気がするから仕方ないのかなぁという気もしています。もちろん画力低下をよしとするわけはないので、教本とか読んでなにか上達のカギを掴みたいところですが。

それでは、以上でした!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

1 2 3 4 5 6 7

月別アーカイブ

記事を検索