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2023年 04月の記事 (53)

遠蛮亭 2023/04/17 12:14

23-04-17.お絵かき(フミハウ_非エロ)

こんにちわです!

さきほど市役所から戻りました。それで出かける前に描いてTwitterに上げましたイラストがこちら。


コタンヌのフミハウ。確か設定上バスト93とかのはずなんですが、その割にあんましおっぱい大きくない気が。それ以上に首長く伸ばしすぎな気が。でもまあ全体としてはまあまあかなと思います。黒髪の髪の毛黒で描くとベタになっちゃうのでこの部分だけ線を灰色にしました。あと今気づきましたが腰帯を描き忘れ。模様ももっとカッチリ入れないといかんなぁと思います。こうして気づいたところ全部すぐに修正出来たらいいんですが、なかなかそうはいかないのがダメなところ。まあ、精進あるのみです!

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2023/04/17 06:39

23-04-17.「くろてん」小説再掲1幕3章2話

おはようございます!

昨日は「日輪宮」をずーっとやってました。通しでエンディングまでちゃんと行けるようになって、あとは瑞穂さん敗北後の闘技場イベントというのは先日も言いましたかと思いますが、これも少しずつ形がまとまりつつあります。ただ問題は出産プラグインのエラーで、例えば出産直後はレベル9のホブゴブリンがもう一度「出産」コマンドを選択した瞬間1レベルに落ちてしまうというのが現状頭の痛いところです。この状態だと瑞穂さん相手にどうしても敵わないですからね……、まあ、勝ってもそんなにエロくはないんです、凌○というより瑞穂さんがゴブリンたちを喰っちゃう感じになるので、このシーン必要なければ「ゲーム終了」コマンドで終われます。ここをクリアするメリットも特にないですし、なんとなればこのシーン自体なくてもいいんですが。まあ出産プラグインと娼館プラグインのテストとして差し込んでいるだけなので。

なんにせよ出産プラグインの修正が為されないとどうにもならないわけですが、その前に今日は市役所に、家屋売却関係の書類取りに行かなくてはなりません。作業はその後ということになりますが、ともかく今日も「くろてん」小説再掲です。第3章からは少しお話のテイストが変わって、「冒険者・新羅辰馬」から「軍人・新羅辰馬」ふうになっていきます。カクヨムさんではこのせいで読者様が離れましたが。

黒き翼の大天使.1幕3章2話.大鵬展翅

「しず姉……しず姉が……」

 うわごとのように、呟く辰馬。牢城雫、不在。そのことが齋す精神的作用は思った以上に大きかった。普段は鬱陶しいだのなんだのぞんざいに扱っていたが、そこはやはり姉弟同然。絆の強さは余人に計れるものではなく、その絆が突然に断たれたときのショックたるや途方もない。

 緋想院蓮華洞の一室にマーキングされた、転移術式専用の一室。もともと移動、転移系の術に特化した能力者ではない瑞穂や美咲にとっての保険。あらかじめマーキングした地点をたどっての、限定空間転移。

 それがなされた後、辰馬は呆然と呟き続け、狭い室内から出ようともしない。

「あー……牢城センセがブラコンなのはもうわかってたけど、たつまはたつまでシスコンだったのね……」

 重症ぶりに、エーリカがあきれて口に上せる。その口ぶりには多少の妬心も混ざっているわけで、もしいなくなったのが自分だったとしたら、辰馬はこれほどに悲しんだだろうかと。

「まあ、辰馬サンと雫ちゃんセンセーは辰馬サンが生まれたときからの関係だからなー、オレらにゃわかんね、そこらへんはよ」

 そういうシンタの声音に苦いものがあるのは、おそらく下級貴族の4男として父や兄とのしがらみがある身ゆえ。普段3バカの中でも一番脳天気に振る舞うシンタだが、本当の性質…性格は振る舞いに見えるほど奔放ではない。

「とはいえ、悲しみに浸っている時間はありません」

 進み出た美咲が、腕を振り上げる。

 ぱん、と容赦なく張った。

「……いてーわ……はぁ……」

 ぼんやり、そういうだけで。また、沈思黙考。暗く沈む辰馬。

「こーいうとき笑い飛ばしてくれるのが牢城先生だったわけだが……さてどうするか……」

 お手上げだとばかりに肩をすくめる大輔。新羅辰馬という少年は皆の求心力、太陽であり、辰馬が沈んでいるとその影響下にある連中の顔も曇る。まだ組んで間もない美咲や焔、厷でさえも、等しくその失意の恩恵に与った。


……
………

 そのころ。

「うー、うまー! おいしい、これほんとにおいしいよ、ガラハドさん!? ヒノミヤのお客っていつもこんないいもの食べてんの?」

 新羅辰馬の心配をよそに、牢城雫はヒノミヤの豪勢な食事を大いに楽しんでいた。最上級の肉懐石、舌の上でとろけるような牛肉がたまらない。

「あー、おいしい。ほんとおいしい以外の感想でてこないわ、これ。……あと、残ったぶんお持ち帰りできないかな? たぁくんにおみやげ……」
「それは無理だ。君は捕虜であって、客人ではない。解放するわけにはいかないのでね」
「むー、ケチだなぁ。ちょっと戻るくらいいーんじゃない?」

 およそ生け捕った将と生け捕られた捕虜の会話ではないが、そこが牢城雫の真骨頂。いかなる逆境も順境に変えてしまうしたたかさが、彼女にはある。ガラハドとしても苦笑するばかりだった。

「ま、たまには助けを待つお姫様の立場もいーか。ガラハドさん、次のたぁくんは強いよー?」

「わかっている。あれは叩けば叩いただけ強くなる質(たち)の男だ。本来あそこで斬っておくべきだったが……」

 ガラハドは言葉を切り、わずかに逡巡する。

 斬って禍根を断つべきであり、転移魔術の発動の瞬間、ガラハドなら無理を押して辰馬の首を獲ることは決して不可能ではなかった。

 しかしそれをしなかったのは、友誼による。将の責務は別として否定したはずの、友としての情が世界最強の剣を鈍らせたのだとしたら、新羅辰馬の、真に恐るべきは戦闘力以上にその人誑しの才か。


……
………

 長船言継(おさふね・ときつぐ)にとって、この戦役はじつに風向きのよいものだった。

先手衆(さきてしゅう)の次席とはいえ神月五十六の私兵に過ぎず、生来の神職でもない言継を侮るものもヒノミヤには多かったが、アカツキとの交戦で傷ついた巫女の4位、アイドル巫女こと沼島寧々のかわりに右翼の指揮をとった言継の用兵は冴えに冴えた。もともと、若い頃は軍学校に籍を置き、用兵学において秀才の名をほしいままにした男である。全局面中唯一押されムードだった右翼を立て直し、押し返すことに成功した。結果寧々の名声は失墜し、それに比して劣勢を逆転させた言継の名は顕揚される。

 くく、そうすればこうして、余録もあるしな……。

 薄く酷薄に笑う言継、その腹下には、薄桃色の巫女服をまとった前任者、アイドル巫女沼島寧々が喘いでいた。寧々は激しい言継の動きに休憩を乞うも、言継は寧々の今日の失策をあげつらい、罵って、責任をとれと恫喝、さらに激しい動きでもって、寧々を責め立てる。経験皆無の姫巫女など言継にとって与しやすい相手でしかなく、必死で嬌声をこらえる寧々の精神を打ち崩すのは勝利の決まった遊びでしかない。

 先代の齋姫さまも、生きて落ち延びられたようで実に幸い……へへ、またとっ捕まえて、あの極上の身体を徹底的に嬲り抜いてやるぜ……。

「まってろぁ、瑞穂ぉっ!!」

 そう吼えて、長船言継は寧々の子宮へと、遠慮なく精を放つ。ようやく終わり、と安堵する寧々を改めて組み伏せた言継はなにを言ってると再び組み伏せ、夜が白むまでその媚肉を味わい尽くした。


……
………

 翌朝。

 新羅辰馬は珍しく寝坊をした。

 昨夜はほとんど寝ていない。雫がヒノミヤの悪神官どもに汚されているいやな想像ばかりがちらついて、その想像で動悸が加速、かっと沸騰した血が頭に上り、心臓が破れんばかりだった。直接に自分がその肢体を味わった経験故か、奪われる想像がいやになまなましく、心をさいなむ。実際にはガラハドの客分扱いでのんびりゆったりお迎えを待っているわけだが、そのあたり辰馬にはわからない。自在通でなんとかのぞき見しようかとも考えたが、多重に張り巡らされたヒノミヤの封神結界の前に、辰馬の盈力といえど数分保たない。

 今朝は瑞穂もエーリカも、忍び込んではこない。まさか昨日のテンションで忍ばれても困るわけだが、気を遣われているというのもなんだか居心地はよろしくなかった。

 とりあず、着替え。

 パジャマの前を肌蹴て、上半身裸になる。天上の最も美しい宝石をすべて集めたよりもなお美しい、すさまじくも可憐なる裸身。ありとあらゆる工芸家が、この美を造出しようと苦心惨憺して果たせず絶命するであろう美身を、辰馬はくんくんと嗅いで。

 あー、昨日風呂はいってねーや……。

 そのままシャワーに入り、ざっと2日分の汗を流す。風呂は長い方ではなく、カラスの行水だが、一応叔母譲りの美しい銀髪のケアだけは丹念にやる。髪留めの封石を外し、ほどくと、腰までの銀髪がふわりと広がる。ふだんショートに束ね髪、という姿でいるからともかくとして。こうしてしまうと辰馬は本当に、凶悪すぎるほどに美少女だ。どこからどう見ようが、まず男だとは思われない。絶対無二の美しさ。

 身を禊ぎ終えて、灰色のスウェットに着替えた辰馬は、適当に洗い物をこなす。普段こういうことは全部雫がやってくれていたので、辰馬の手際は悪い。不得要領に、なんとかこなし、手持ちぶさたになった辰馬はおもむろに逆立ち。

 大輔もほむやんもできるわけだし。こんくらい、できるよーにならんとな。

 まず三点倒立。そこから頭を浮かし、倒立。その状態から掌を浮かし、五指で逆立ちを支える。ここまではまずできる。

 そこから。

 小指を離す。ついで薬指、中指、親指も浮かして、両手人差し指のみで立つ。一指禅。

 これも、余裕として。

 こっからだーなー……。

 体重を沈める。人差し指の先端部に、極端に負荷がかかる。これまでこの過負荷に耐えきれず、そこそこのウエイトができていればそれ以上の筋肉は不要、と辰馬は一指禅からの屈伸を避けてきたが。どうにもその程度の錬磨では足りないらしい。少なくともガラハドには、遠く及ばない。

 一朝一夕でどうなるもんでも、ないけどなっ!

 まずは軽く500回。それをこなすと今度は左手を全部浮かし、片手一指で全身を支える。創作物によくある鍛錬風景だが、なかなか、これをこなす人間はそういない。筋肉だけでなく、バランス感覚においても超人的なものが必要になってくるからだ。本物の技芸的サーカス員などの特異な能力者に求められる資質。逆説的に、これを完璧にこなせるようになったとき、辰馬のバランス感覚は飛躍的に増すことになる。

 とはいえ、500回ぐらいじゃなぁ~……足りんわ。

 軽く2時間ほど筋トレとイメトレをやって、少し気を紛らわすと、小腹が空いた。学生服に着替え、寮を出る。食事なら寮の食堂でもできるが、どうせなら美味いものが食いたい。蒼月館本校舎の学食に向かう。長期休みだろうと、クエスト任務中の学生たちのために蒼月館の学食は8時から19時、年中無休である。

「あ、たつま」

 エーリカに出くわした。この子はいつでも、学食では素うどんしか食わない。それだけ過去辰馬に奢られた味を忘れがたいわけだが、残念なことに当の辰馬のほうでその思い出はあまり鮮烈でなかった。なんとなーく、いつもうどん食ってんな、という印象。

「お、ちっとはマシな顔になったじゃねーすか、新羅サン」

 すぐ奥手の席に、大輔、シンタ、出水、そして瑞穂。少し離れて美咲も、席二つを空けて待っている。ひとつは辰馬のものだとして、もう一つは……決まっている。

「迎えにいかにゃーならんよなぁ。なんつーか、勝手に帰ってきそうな気もするけど、しず姉にはいつも助けてもらってばっかなわけだし」

思ってもいない強がりを、口にした。すぐさま舎弟たちが軽口をたたく。

「そらそーでしょ。ここで雫ちゃん先生見捨てたら辰馬サン、殺されるっスよ?」
「そういう話も面白くはあるでゴザルが、主さま向けではないでゴザルなぁ~、シエルたん?」

 シンタが意を得たり、と肯き、出水が妖精に水を向けるとシエルも当然と胸を張る。
瑞穂に目を向けると、なにも言わず目でうなずいた。

「明染さんたちに連絡しました。艾川・ヒノミヤ交差点路に20分」

 小型無線機を操作した美咲が事務的に告げるが、彼女が事務的なだけでない情義を持つことはわかっている。

「あんがとさん。そんじゃ、行くか」

 再起を期して、新羅辰馬は再び挑戦する。一度落ちた鵬が、再び翼を展く。

 いざ。ヒノミヤへ。

……………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2023/04/16 06:34

23-04-16.「くろてん」小説再掲1幕3章1話

おはようございます!

昨日まで「日輪宮」のゲーム途中、3章で「戦闘開始!」のコマンドから突然瑞穂さん敗北ルートに飛んでしまうというバグがあったのですが、昨日1日かけてこれを修正しました。すべてをコモンイベントで賄っていた部分、とくに戦闘から戦闘のつながり部分をマップ移動させることで「コモンイベントの呼び合い連続によるエラー」を回避、ひとつのイベントの中に戦闘とその後の凌○シーンをまとめていたのを2つのイベントに分割するなどして、通しでエンディングまでプレイしてみたところまず大きな問題はなく。ときどきタクティカルコンバット上で倒した敵の姿が消えてくれなかったり、牛頭天王と眷属のグラフィックが入れ替わってたりしますが、致命的なことはありません。なのでまあ、あとはゲーム終了後のゴブリン闘技場部分です。出産、娼館のセリフとゴブリン敗北シーンを作って、しかるのち細かい調整をして完成。できることなら「回復するHPに応じて必要金額が変わる宿屋」というようなシステムを使いたいのですが、今回は一律金500弊で。

それでは、今日も「くろてん」小説再掲です。今話から1幕3章。今後ともよろしくお願いいたします!

黒き翼の大天使.1幕3章1話.雲雨の交わり

「おはよー!」
「来てやったわよ、たつま!」
「あの……おはよう、ございます……」

 ホントに……三人で来た……。

 早暁。

 新羅辰馬はシーツの中で頭を抱える。自分の知り合いの女性は全員、どこか頭がおかしいと思ってはいたが、ここまでトンチキだとは思っていなかった。

 三人とも勝負服ということなのか、いつもとは装いがちがう。雫は普段の活動的レオタード+ショートパンツといういでたちを捨て、ひらひら、ふわふわの純白ワンピース。妖精種の血を引くだけあって、そういう清楚な恰好をすると異常なほどに嵌る。これで中身がまともならな、と辰馬は眉間に皺を寄せた。

 エーリカはスタジオから借用してきたのだろう、淡い青と緑と白をベースにした、胸空きドレス姿。貧乏暮らしにあまんじているとはいえさすがに本物のお姫様だけあり、ドレスの着こなしは見事の一言につきる。これで常識わきまえてくれればな、と辰馬は眉間の皺を揉んだ。

 瑞穂は……一番どえらい変化球でやってきた。淫魔=サキュバスのコスプレ。ほとんど裸に近い露出過多のレオタード? に、蝙蝠の翼を模した腕飾り、脚飾り。ヤギの角も忘れず装備という、念の入りようである。あー、この子だけはまともだと信じたかった……辰馬は眉間を押さえていた手で、そのまま頭を抱えた。

「ふふふ、どーよお姉ちゃんのこの装い? かわいーでしょ?」

「お帰りください」

 シーツを頭までかぶって、かかわりを拒絶。すかさず引っ剥がされる。

「うひぃ!?」

 気分はほとんど夜盗に襲われる乙女のそれ。ワキワキとにじり寄る雫に、辰馬はせめてもの抵抗で足を払う。もちろん、辰馬と雫の技量差。通用しない。軽くいなされて「おいたはダメだなぁ」と口実を与えてしまい、辰馬は自分の失策を呪った。

 組み伏せられる。

「たぁくーん、えへへ、たぁくーん、あーもうっ、かわいーなぁぁ♡」
「あーっ! 牢城センセズルい! センセーばっかり!」
「ええ、と……わたしも、なにかしたほうがいいでしょうか……?」

 辰馬に頬を擦り寄せる雫と、雫を押しのけて場所を代わろうとするエーリカ、そして控えめながらにいらんこと張り合おうとする瑞穂。

「うあーっ、やめろ、離れろ、退け!」

 と、いくら叫ぼうが バタつこうが、雫の拘束は小揺るぎもしない。達人は指一本でたやすく相手の死命を制すというが、雫の技はまさにその域に達していた。

 その域の技をこんなことに使わんでくれるかな!?

 ほとんど泣き顔の辰馬を見て、雫はゾクゾクっと体の芯を振るわせた。可愛い弟が見せるか弱さに、もうほんとどうしようもなく、嗜虐的な愉悦で心が満たされてしまう。

 もう我慢できないとばかり雫は辰馬の唇へと自分のそれを近づけ。

「ちょ、待て待て、ホントにこれ以上はマズ……んっんぶふうぅぅっ……? んぅ……んっ……ん……んく……」

「ぷぁ……それじゃ、いただきます♡」

 そのままなし崩し的に事が始まり。


……
………

 事が終わった時、辰馬はこんな流されやすくておれはどーすりゃいいのかと途方に暮れた。

「ふあぁ……まだ痛いや……まあこれも? 幸せな痛みってやつ♡」

「あー、そーな……」

 睦言にささやく雫に、おざなりに返す。実際始まってしまうと案外に燃えてしまう自分もいて、無理矢理搾られるばかりでもなく楽しんでしまったこともあり、やかましーわばかたれ、とは言えない。

「たつまって案外激しいよね。瑞穂は? いつもあんなだったの?」

 同じようにそばに寝そべるエーリカが、さらにその隣の瑞穂に尋ねる。瑞穂は少しためらってから、

「は、はい……その、ご主人さまは多少強引なのがお好きだと、思います……でもちゃんと労わってくれますよ?」

 そういって辰馬の無自覚なSっ気を指摘した。

 そーいう批評本人の前でやってほしくないなぁ……。つーかおれってSなんか……。

 などと思いつ、立ち上がる。三人満足させるために精魂使い果たして、喉が乾いていた。いらんものを大量に出したせいで、頭もくらくらする。水道口を開き、コップに水を注ぐと一気に呷った。美味くはないが、染み渡る。続けてもう一杯干し、最後にばしゃっと顔を洗う。自分の匂いが立ち込める寝所で着替える気分でもなく、この場で服を着替えた。


……
………

 そして、昼。

「なーんか、ダルそうっスね、辰馬サン」

「あー、まーなぁ……」

 朝のアレが尾を引いて、すでに昼の時点で体力が限界に近い。もともと読書と寝るのが楽しみという自堕落少年である辰馬としてはさっさと自室にかえって惰眠をむさぼりたいところだが、今日は対ヒノミヤ戦の初日である。さすがにサボれない。最近勤勉すぎて、辰馬の精神は失調をきたしかねないところだ。

「……ヒノミヤには封神符を利した術の無効結界が各所にあります。この戦い、術はほとんど意味をなさないと思っておいてください」

 図南の間、12師詰所では、美咲がベテランの冒険者/傭兵たちにヒノミヤ戦の注意点をレクチャーしていた。学生の身で師団長らしい。たいしたもんだねー、とは思いつつ、絶対、めんどくさそーだから代わりたくはねーなーと思うのが新羅辰馬である。

 ……それにしても、神力無効か……。神力も魔力も同根の力、一次元上の力になってるとはいえ、盈力であっても相当に制限されるか……向こうは封神符の効果を無効化する護符持ってるってことで、かなり一方的になるな……。こっちもしっかり作戦立てていかんと。

「瑞穂、ヒノミヤの内情について聞きたい。だいじょーぶか?」

「はい。ご心配いただきありがとうございます、大丈夫ですよ。……ヒノミヤ中核のうち、気をつけるべきはまず神月五十六(こうづき・いそろく)と磐座(いわくら)三兄妹、そして神月直属の先手衆(さきてしゅう)になります。そして五位の姫巫女。一番脅威になるとすれば、まず間違いなく磐座穣(いわくら・みのり)さん……姫巫女の三位、だと思います。敵を料ること神のごとし、といわれた天才で、ヒノミヤのほぼすべてを彼女が総括しているといえばどれだけの才能か分かるかと」

「……ヒノミヤって、言ってみりゃひとつの独立国を個人の才能で動かしてんのか。それは……欲しいな」

「え?」
「は?」
「たぁくん?」

「……なに? 三人ともいきなりなんか、怖い顔して」

「それは、ご主人さまがいきなり浮気とか……」
「まったく、今朝いたしたばっかでしょーが、あんたは」
「まあ、おねーちゃんとしてはたぁくんが浮気しても構わないんだけどね。最後に帰ってくるなら」

「そーいう欲しいと違うわ。味方に欲しいってだけで、なに怒ってんだよお前ら……いやまぁ、いーや。それで? その磐座の穣さんの智謀を躱してどこに出るべきか、瑞穂の見立ては?」

「わたし如きが、あの磐座さんの頭脳を出し抜けるはずもないんですが……それでもどうにか考えるとすれば……」

 正面は激戦区。迂回して左右の側翼も、すでにおそらく対策済み。となるとどうすればいいかということで。


……
………

 辰馬たちは細く切立った断崖を、一列で渡っていた。

「これ、落ちたら死ぬよな……」
「まず助からんでゴザルな……」
「なんでオレら、こんなとこ歩いてんだよ……」

「だから、磐座穣の裏をかけるルートがほかにないんだって」

 さすがに辰馬と雫、軍属である美咲と、1級冒険者である焔、武人には余裕がある。しかしエーリカと3バカ、そして言い出しっぺの瑞穂は、すでにしてかなり危険そうだ。とくに一番どんくさい瑞穂は、足元の危うさに恐恐としている。

「瑞穂、手ぇつないどけ」
「は、はいぃ……」
「ちょ、みずほちゃんまたズルいぃ!」
「ズルくねーわ。しず姉はエーリカの手、引いてやれ」
「むー、しよーがないなぁ……」


……
………

「難道は抜けたか……これで待ち伏せされてたらホント、泣くが……」

「では、泣いてもらおう」

 男の声。

 2時間以上かけて越山、隠し通路を衝くというルートをとってなお、向こうが上手を行くというのか。

「とんでもねーな、磐座穣ってやつの智謀は……」

「いや? ミス・磐座もここは想定の外だったようだよ。彼女は天才だが、まだ経験が足りない。だが私は地図を見てここが急所と気づいたのでね。単騎で待ち伏せさせてもらった……まさか辰馬、君と当たることになるとはな……」

 そういって姿を現したのは。

 ガラハド・ガラドリエル・ガラティーン。

 央国ラース・イラの騎士団長。

 そして。

 世界最強の、騎士。

 それが馬腹を蹴った。

 佩剣を抜く。

 風より疾く、間を詰める。狙うは辰馬の首!

「ち!」

 辰馬も天桜を抜いた。蛇腹刀を叩きつけるが、武器の性質、重さ、そして上から下へ打ち下ろす勢いと、下から上を跳ね上げる勢いの差が如実に出る。支えきれない。押し切られて頭をたたき割られる寸前で、飛びのきざま馬を狙う。

 汚いとか動物虐○とか言ってられるか、まず機動力を削ぐ!

 蛇腹を収め、短刀にして馬腹に突き。しかしガラハドは驚異的な馬術の冴えを見せ、人馬一体、跳躍して躱す。

 躱した先に焔の拳、厷の刃。軽く数号合わせて、練達の二人をガラハドは余裕で圧倒する!

 雫が鯉口を切った。

「牢城雫、行くよ! ガラハドさん、一手ご指南!」

 踏み込み、撃ち合う。切り結ぶ、切り結ぶ! ほかの誰とも隔絶したレベルの、まるで舞の手のような激突。しかしそれでもガラハド有利。これまでの戦いで一度の挫敗も経験したことのない雫が、1対1の剣技勝負で圧倒される!

 呆けていた辰馬が、立ち直って天桜を取り直す。撃ち合う二人の間に、割って入った。ガラハドとの実力差は歴然、それでも雫と息を合わせることにおいては、辰馬以上の適任はいない。

「俺らもやんで、武人!」
「了解です。ふふっ、最強の騎士に引導を渡す。最高の役回りだ!」

 辰馬の天桜が払われる。

 鋭い毒蛇のごとき突き。それをかいくぐって雫が白露の斬撃を打ち込む。なお余裕あるガラハド、そこに焔の拳と厷の剣が加わるも、さらになお精彩あるのはガラハドのほう。あまりにも、あまりにも圧倒的。天と地より広い、力の差。

 隙と見て、美咲が鋼糸を放つ。ほぼ不可視と言っていいそれを、ガラハドは空中でみじんに寸断。

「つーかさぁ、なんでおれらがあんたと闘わないといけないんだよ!? 友人だろ?」

「友誼は友誼、将としての責務はまた別!」

 辰馬の言葉を鋭く切り裂き、斬撃が襲う。雫が辰馬をカバー、果たせない。雫が斬られる寸前で割って入ったエーリカが、修復されたアンドヴァラナウトで止める。ガラハドの鋭鋒がエーリカに向く。その注意をそらすべく、瑞穂が弓を引き搾りガラハドの横顔を射る。ほぼ銃弾と同等の速度で奔る矢を、ガラハドはなんなく掴みとめた。


……
………

 そのころ。

 ヒノミヤ内宮府正門前第一防衛線。

 1師から7師までの、ほぼ討伐隊の全力と言っていい戦力は、ヒノミヤの勢を前に覆滅されつつあった。白雲連峰盎山山麓からアカツキ京師太宰の境内、艾川上流の戦い。

 兵力から言えばアカツキ4万、ヒノミヤ側は1万2千ほどなのだが。

「こちらの動きが……見えているのか?」

 指揮官級の一人が、戦慄とともに呟く。敵はこちらの動きをことごとく読み切って、そのうえで一枚上を行く。隙とも思えないようなわずかなほころびを見つけてこちらが仕掛ければ瞬時に散開、こちらを引きずり込み、打撃。

 そしていいようにこちらを翻弄した相手が、兵力の差から退く。こちらはすわ反撃だと襲いかかるが、しっかり帰師を守るべく配された伏兵が、やはりこちらに出血を強いる。そして離脱を考えたとき、すでに彼らは敵の掌の上。艾川沿いに追い立てられ、士気も低いまま背水の陣を強いられてまともな指揮官もないまま押し切られ、足場を確保できず鏖殺される。艾川に無数の死体が流れた。

 この半日で、4万の兵は2万を切り。アカツキの勢は軍を退く。

 磐座穣は引き揚げる敵兵を見やりながら、軽く息を吐いた。

「お疲れ様だ、穣」

 そう言う、黒衣の巫女は姫御子の第2位、神威那琴。神楽坂瑞穂廃位とともに繰り上げで齋姫になるはずだった彼女だが、祖父であり大神官である神月五十六はどこかから連れてきた山南交喙(やまなみ・いすか)という少女に齋姫を継がせた。そこに穣の恣意がなかったはずはないのだが、そのあたりについて那琴が追求することはない。実直なのだった。

「それで、逃げる敵を追わなくて、いいのか?」

 那琴がやったのは、穣が命じたタイミングで兵を吶喊させる、あるいは撤退させることだけだ。実のところどうやって敵が敗勢に至ったのか、彼女にはわかっていないところが大きい。

「ええ。「帰師は囲むべからず」。窮鼠となって牙をむく可能性がありますから」
「そういうものか。私にはよくわからんが」
「かまいません。策を立てるのはわたしの仕事、実戦部隊の指揮は那琴さんの仕事。分担していきましょう」


……
………

 一番の地獄は左翼であった。

 突撃につぐ突撃を敢行する指揮官。その面前で、投入すればするだけ兵が吹き飛ばされていく。

 この方面を守る、ヒノミヤの手勢は数千。

 というか、実質少女が一人。

 薄緑の着物に燃え立つような赤い髪の少女は、名を山南交喙(やまなみ・いすか)。

戦場に張り巡らされた封神結界のせいで、大規模魔術はほとんど用をなさないが。

 その中にあって彼女一人が、封神の効果など完全に無視して、砲台となってド派手な炎を打ちまくる。その殺傷力たるや凄絶そのものであり、万余の突撃を一人で押し返すに足りた。

「交喙、首尾はどうじゃな?」

 神月五十六が現れると、交喙の無表情な鉄面皮に血色がともる。それは思慕の情、恋情とはまた違う、孫が祖父に抱く感情に近い。

「やりました。いっぱい倒しましたよ!」
 高慢で冷徹な少女が、この老人に対しては年相応の娘に戻る。五十六は軽く笑むと交喙の赤毛を撫でた。

「ふふ、よしよし。明日も頑張ってくれよ、おまえが頼みじゃ」
「はい! 頑張ります!」


……
………

 新羅辰馬一行は、壊滅した。

 ガラハドに手も足も出ず、一方的に叩き伏せられた。

「これは……逃げるほかないですね。神楽坂さん!」
「はい!」

 美咲と瑞穂が、転移の術式に入る。そのために必要な時間を、ガラハドは見逃さない。三軍も帥を奪うべし、一番の求心力たる辰馬を倒してしまえば、この戦いヒノミヤが勝つ!

「たぁくんっ!」

 雫が、辰馬を庇った。拍子に、瑞穂たちの設定した術の効果範囲を、雫が越える。辰馬が手を伸ばすが、憔悴困憊の身体では及ばない。光の粒子に包まれて消える辰馬たち、後に残されるのはガラハドと、雫。

「あー、やはは……どうしましょ?」
「とりあえずは捕虜、ということに。君には新羅辰馬を釣る餌としての価値がある。である以上、まず不具合を感じさせることはないと、約束しよう」

……………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2023/04/15 06:51

23-04-15.「くろてん」小説再掲1幕2章19話

おはようございます!

昨日はツクールを起動してないので少し焦燥感ありますが……、その間を使ってお絵描き3枚やりました。瑞穂さんゴブリン姦用のやつです。

突き出された巨根のサイズに圧倒されるも実際始まってしまえば気持ちよく、ニッコリ笑顔でゴブリンセックスに励む瑞穂さん。当初はもっと泣きわめいて嫌がる瑞穂さんを想定してたんですが相手ゴブリンとはいえ自分の子供たちだし、瑞穂さんの性格ならむしろ喜んで受け入れるかなーということで。イベント1で精液まみれになったので2番以降も全部精液まみれです。

それでは、続いて「くろてん」小説再掲。今話で1幕2章完結、次話からようやく瑞穂さんの復讐戦「ヒノミヤ事変」篇に入ります!

黒き翼の大天使.1幕2章19話.開戦

「……以上が、竜の魔女事件に関する報告となります」

 跪き、晦日美咲は厳粛に言う。蒼月館の制服姿であればそうでもないが、こうして軍諜報部の薄黒い隠密装束に身を纏うと彼女が明らかに、一般人とは一線を画すということがはっきりとする。

 ここはアカツキ京城柱天、小会議室翡翠の間。筆頭宰相…本田馨綋(ほんだ・きよつな)は座椅子に座り、盤面に碁石を打っていきながら報告書をめくった。老人ながら背筋の伸びた、美髯の偉丈夫、しかしその眼光は蛇のように鋭く、油断ない。彼が、味方には頼もしい支援者だが一度敵と見定めた相手に対してどこまで執拗で残忍であるか、それを知る美咲としては、竜の魔女などより馨綋のほうが百倍怖い。なんといっても、美咲の主家である小日向家を潰す権限を持っているのだ。その時点で死命を制せられているといってよい。

「で、新羅の小倅は?」

「……特に申し上げるべきことはないかと。彼にみずからの力を積極的に振るう野心はありません。危惧するようなことはないかと存じ上げます」

「ふむ……では、魔王の力を我が国のものとして使えるかどうかは?」

「それは……難しいかと。彼は彼の正義に従います。おそらくは誰の掣肘(せいちゅう)も受けないかと」

「それは困るな。これから忙しくなるというのに、このままではどうしようと駒が足らぬ」

 ぴし、と碁石を打ち。盤上が美しくなかったのか、不快げな顔になる。


……
………

 7月20日、1学期終業の放課後。

 明日から夏休みとはいえ、蒼月館の学生たちに休みはない。むしろ学業に裂かれる時間がなくなる分、クエストに出る生徒の比率は高くなる。新羅辰馬たち一行もご多分に漏れずで、彼らの姿はギルド「蓮華堂」にあった。

「みずほちゃん、ズルくないかなぁ!」

「アタシもそー思う!」

「あ゛? なんよお前ら?」

「あの……すみません、先生、エーリカさま……」

 蓮華洞の待合にて。突然声を張り上げる雫と、それに追従(ついしょう)するエーリカ。なにを言ってるのか分からない辰馬はとりあえず聞き返し、なにを言われているにせよオドオドした瑞穂はとりあえず謝る。

「だからー、なーんでたぁくんと一人だけえっちするかなーって」

「うんうん。全くそのとーり!」

「……いや、そんなもん必要だからだろ。好きでやってるわけと違うわ」

「ぁ……はい、そうです、よね……ごめんなさい」

 正直なところ、好きでやっている部分が9割を占める瑞穂は身の置き所なく縮こまる。

「まあ? 事情はわかります。先生としてもね、怒りたくはないんだけど。でもたぁくんと一番つきあいが長いのはあたしなんだなー、これが!」

 ズババン、と胸を張る雫。ここにいる女子連中の中で一番小ぶりなはずなのだが、背丈が144㎝と非常に小柄であるため、実質プロポーション的にはエーリカにも負けていない。ジャケットの下は直にオレンジのレオタードであり、よくよく見れば非常に煽情的でもあるその姿を雫は、ことさら辰馬に見せつけるようにして迫る。

「やめれやめれやめれ! そーいうのはナシで!」

「いんや、今日という今日はうやむやにさせないと決めたんだよ! ねー、エーリカちゃん?」

「そーよ。だいたいあんた、いっつも思わせぶりな態度とっときながら手ぇ出さないから、こっちとしては生殺しなのよ!」

「グルかよ! つーか、んなこと言われても知らん! だいたい、女のほうからそんな、はしたないと思わんのかしず姉もエーリカも!」

「はしたないって今さら。そんじゃ聞くけど、みずほちゃんは?」

「ぁう……はしたないです、すみません……」

「と、ゆーわけで。これからは三人仲良く相手をするよーに。いい?」

「いや……なんかおかしいだろ、それ……法的にとか倫理的にとか」

「法とか倫理とか、そんなもん知らん! たぁくんはあたしたちをしあわせーにすればいーの!」

 侃々諤々の議論。辰馬は理性的に反論しようと務めるも、雫とエーリカは半歩たりとも譲らない。自分たちとしないのであれば瑞穂ともするなと言われ、窮した辰馬の顳顬を冷や汗が伝う。

 いや……まずいだろ……。瑞穂はまぁ、やむに已まれぬ事情だけど。しず姉はほとんど本物の姉貴だし、エーリカなんかよその国のお姫様だし。いろいろ問題あるわー……。

「おれ、ちょっと大輔たちのほう行ってくる……」

「だから、今日は逃がさないって!」

「今日はアタシたちの覚悟が違うのよ、たつま! 観念なさい!」

 少女たちは必死の形相で辰馬に迫るが、突然、頭の中がピンクに染まったわけではない。

 先日の「竜の魔女」事件以来、新羅辰馬という存在がいつ消えていなくなってもおかしくないことを思い知った彼女らが、ならばどうにかして辰馬をつなぎとめておきたいと思うに至ったのは、むしろ当然なことでもあった。そのための手段がどこか、間違っている気はしなくもないが。

「辰馬! ちょっと来て。みんなも!」

ドアをバァン! とあけ放ち、ルーチェが駆けこみ、「ん?」と甥たちの狂態を見やって……「乱交、か……。ほどほどにね」とやや冷たいトーンで言い放つ。身内にいらん姿を見られた辰馬は自殺ものの羞恥にかられるも、とりあえずそれよりも。

「なに、おばさん」

「おばさんじゃないでしょーが。あぁ、それより。政府が……」

 ルーチェはそういうと受付に戻り、一台しかないラジオの音量を上げる。あまり音質の良くないスピーカーから、名前も知らない政府高官の読み上げる文言が聞こえてきた。

 曰く。

 ヒノミヤの神官長代理(神官長とは言わなかった)、大神官・神月五十六が正統の斎姫…神楽坂瑞穂を追放して専権をほしいままにしていること、神月の野心と数々の謀略(その一つとして「竜の魔女」事件の使嗾も数えられた)、そして彼の狙う国家転覆計画などが数えられ。

 最終的な結論として。

 アカツキのヒノミヤに対する宣戦布告が告げられた。

「ついに、か……くるべきものが来た、って感じだな……」

 このひと月。牙を研いできたのはひとえにこのときのため。独力でヒノミヤという組織に抗しえないなら、ヒノミヤ討伐隊の一員として参加する。その選抜に通るべく、力を鍛えてきた。

「ようやく……お義父さまの、仇が……」

瑞穂にとっては誰よりも感慨深いはず。なにせ義父の仇であり、自分に陵虐の爪痕を刻んだ悪党への反撃が、始まるのだから。

「うし、こんなとこにいる場合じゃねーや。城に行くか」


……
………

 そして京城、柱天(ちゅうてん)城、図南(となん)練兵場。

 翼を広げた鵬を模したとされる広場には、数千からの冒険者、傭兵らが列をなし、人いきれがすごい。

「うぁ……酔った……」

 辰馬は口を押えてふらつく。あまり人の騒々しい場の雰囲気が得意ではない。肝が太いわりに、自律神経系が弱いのかもしれない。

 その点、大輔たち3バカは舞台度胸が違う。大輔は中等学校まで有名な闘技大会荒らしだったし、自称ミュージシャンのシンタはつい最近まで暇があれば路上ライブ、一応作家先生(エロ小説というジャンルはともかく)の出水はセミプロながら、即売会経験で慣れたものである。惰弱な辰馬とはモノが違った。

「主様、酔い止めあるでゴザルが?」

「ああ、飲む……って水がねーわ……」

 口に含んだ後で気づく。薬が顆粒状であることがまた、どうにも地獄だった。口の中で、行き場のない粉末が喉にこびりつき、猛威を振るう。

「こふ、げほっ……ぶふ……!」

 盛大に噎せ返る辰馬。それとみた傭兵風の男が、小馬鹿にした態度で寄ってくる。

「おいおい、なにやってんだぁお嬢ちゃん? ここが何の会場か、わかってんのかぁ?」

「けふ……って、あ゛? なんだよ、おまえら」

 明らかに相手は年長であり、この場にみずから志願してやってきているということは実力も実績もあるはず。しかし辰馬はだからといって遠慮も会釈も自重もしない。無造作に、そこらへんのヤンキーを相手にする感覚で一瞥すると、鼻を鳴らす。

 この態度が相手の癇に障った。

「このガキ……俺が誰か分かってんのか? 女じゃなかったら一発殴ってるとこだぜ……かわいい顔に産んでくれたかーちゃんに感謝しろよ、かわいこちゃんよぉ?」

 そういって弄う男の頭が、水平にぐわん、と傾ぎ、倒れる。辰馬の速度に慣れているご一行にはその挙動もばっちり追えているわけだが、常人レベル、に過ぎない傭兵の仲間たちにはやはり、辰馬の動きは見えなかったようで。突然倒れた仲間に、残りの連中は慌てふためく。

「だれがかわいこちゃんか……しばくぞ!」

低く抑えた声で(といっても、辰馬の声は基本的にソプラノで、高いが)、不機嫌に唸る辰馬。そこで傭兵たちは辰馬を犯人と認め、身構える。

「あー、たぁくん気が立っちゃってる……」

「こんなところで暴れていいんですか? 止めないと……」

 やれやれと呟く雫に、ハラハラ慌てる瑞穂。エーリカはよその国のことだし、分からんという顔。3バカのほうはというと「新羅さん(辰馬サン、主様)がやるなら、やるよ?」とむしろやる気である。

 魔王継嗣で若手冒険者の新羅辰馬がいろいろやっている、という噂はそこそこ著名なはずではあるのだが、辰馬の容姿を知るものはほとんどいない。いたとして、その勇ましい武勲譚といまこの場にある辰馬のぽや~んとした容姿をつなげて考えることは無理があるというものだろう。よって、容姿や名前だけで人を圧伏するには、至らない。

 とはいえ。ここは国の最枢要の一角。私闘は厳禁。辰馬や3バカにそのルールは知ったことではないが、一触即発のムードはすぐさま駆け付けた衛兵により分けられる。この場はそれだけのこと、で収まるはずだったのだがそれで終わらず。

「あぁぁ!? い、齋姫さま!! ど、どうもうちの息子がご無礼を……!!」

 衛兵隊長らしき初老のおっさんが、瑞穂を見るなり半狂乱の恐縮を見せた。瑞穂に、このおっさんとの面識は間違いなくない。しかし向こうは瑞穂のことを知っているようで、何度も何度も、五体投地しそうな勢いで頭を下げた。

「ぁ……あの、なんでしょう? 謝られる理由が、わかりません……」

「いえその……私、長船と申しまして……」

「おさ……ふね……!?」

 瑞穂の脳裏に、一人の男の人影が去来する。必死に押し込めて、辰馬にすがることで忘れることにしていた男の顔。それは神月五十六を筆頭とした凌○者の数々であり、もっとも多くの時間と回数をかけて、瑞穂を汚した男、それが上級神官兵団『先手衆(さきてしゅう)』の二番手、長船言継(おさふね…ときつぐ)。

 ふら、と。瑞穂の足元がよろめく。顔は真っ青になり、息が荒い。過呼吸になっている瑞穂の腰帯と首輪を、雫が手早く緩めた。この状態、背中をさすったりしても感覚過敏で余計に悪くしたりするし、できることは少ない。

「それで、あんたはあの人の娘さんか? ルーチェ、とか言ったか。私は16年前、この国で最初にあの人に会ったんだ。案外に生意気な娘さんだったなぁ」

「あー……、うん。それうちのおばさん。おれはそっちじゃなくて、新羅の……」

「新羅!?」

 ここにきて、辰馬の名前に周囲が反応する。いったん名前さえ出てしまえば、それは雷鳴の威。もっともそれは新羅辰馬というより【魔王退治の勇者】新羅狼牙に対する畏敬であり、辰馬本人に対するものではないが。

「あれが、新羅……」

 誰かが辰馬の物腰を油断なく盗み見る。注視してみれば、辰馬はただのぼんやりおっとりした少年ではない。寸分の隙もない、達人の身ごなし。要注意、と彼らは認める。

 別の誰かもまた、辰馬に注目した。豪奢で瀟洒で華奢な顔立ちはどう見ても美少女、物腰可憐にして可憫であり、すらりとしなやかな四肢もまた男の厳つさとは無縁。新羅の息子、というが実は女の子だったのか、お近づきになりたい! と彼は断じた。

「……?」

 なんだか寒気を感じて、辰馬はわずかに身震いするが。さておき。

 そうこうする間に、高楼から一人の人影が姿を現す。

 アカツキ皇国皇帝、永安帝(えいあんてい)、暁政國(あかつき・まさくに)。

 恰幅のいい、そこそこの美丈夫。60に近いはずだが白髪は少なく、健康状態もいいのだろう、血色の良さもあって10歳ばかり若く見える。皇帝はやけに自信満々な、鷹揚な態度で注目を集めると、小さくためをつくって口を開いた。

「よくぞ集まった、敢闘の諸士よ! いま、本邦(わがくに)は危急にさらされている。西方ラース・イラ、北の桃華帝国、しかして一番の憂いはなにか? 内憂、すなわち宗教特区ヒノミヤの猖獗(しょうけつ)である!
 ヒノミヤ大神官、神月家当主神月五十六は、あろうことか新官長・神楽坂相模に無実の罪をかぶせて殺し、その嫡女・齋姫たる神楽坂瑞穂猊下をも陥れてヒノミヤを逐い、みずから彼らに代わって神官長を僭称、さらには勝手に新たな齋姫を立て、ほしいままに神事を統括する不遜! 女神ホノアカの信徒たちよ、この無軌道を許すべきや否や? 断じて否なり! かの者たちに断罪の裁きあるべし!
 諸君らにはこの聖戦のための志士となり、粉骨砕身、働いてもらう! むろん功績には賞をもって報いる! 財も官位も望むままだ! ヒノミヤをその軍靴で踏み潰し、蹂躙し、破壊しつくし! わが目の前に神月の首を捧げよ! 我こそと思うものは待機の受付員に……待て待て、まだ孤(わし)の言葉は……」

 ノリノリでスピーチを続ける永安帝。しかし楼下の人々はもうそちらを向いていない。永安帝の言葉と同時に降りてきた受付員に、群衆が殺到する。

 辰馬たちはあまりの勢いに、茫然と立ち尽くす。

 それが結果として、人々の命を救った。

 ぞくりとして上を見る。横目で雫を確認。雫も頷いた。気のせいではない。

 空中。柱天城の天守よりはるか高くに、人。

 おそらく、着物姿。女。

 髪が、紅蓮の赤。

 腕を、振った。

「んげ!?」

 猛然。超高熱量を帯びて空気すら燃やす炎が、巨大ならせんを描いて天から降り注ぐ! それも一本や二本ではない、数十本が、同時。

「く……輪転聖王(ルドラ…チャクリン)ッッ!!」

 反応が間に合ったのは、唯一辰馬一人。高エネルギー体には高エネルギー体で相殺。しかし神讃なしでは本来の威力に遠く及ばず、全てのらせんをなぎ払うには役不足。それでも半分以上は消したのだから上出来は上出来だが、完全に守れなかったとしたらそれは辰馬の気分的に守れなかったのと道義。市街区に炎がまかれたのを見て、辰馬は歯噛みする。

 人影が、言葉した。

「我は、ホノアカ。この国統べる女神にして、至高の創造主グロリア・ファル・イーリスの娘神が一人。蒙昧(もうまい)の民たち、平服して自らの罪に震えるがよい。あえて牙をむくというのなら……わが神焔で万象悉く灰燼に帰さん」

 静かに淡々と。感情の乗らない声でそう言った相手は、突然現れたかと思えば忽然と消える。

 本物か偽物か、女神ホノアカを名乗る相手の襲撃。場は騒然となり、その神焔を見て受付を取り消す冒険者も少なからずいた。大概の冒険者は命知らずであるから、残った人数のほうが脱落者より多いのは幸いだったが。

 かくして。

 アルティミシア9国史「赤の章」における山場の一つ、「ヒノミヤ事変」が幕を開けることとなる。


……
………

「第12師詰所……ここだな。また人のことを女とか言うばかたれがいなきゃいーが」

「いやまあ、辰馬サン初見で男だと思うほーがおかしいっスよ?」

 シンタの言葉に、女性陣が無言でうんうん頷く。

「……」

辰馬は屈辱に耐えながら、ドアをあけ放った。

「おう、来よったな、辰馬」

 そこに待つのは雄偉な巨漢。

 身にまとうは藍染の袖なしジージャンと、同じく袖なしのシャツ。ボトムスもやはり藍染のジーンズで、圧倒的な筋肉のために服がぱんぱんに腫れあがっている。髪は顎先にかかるほどのすだれ髪で、半分型隠れている顔立ちは端正ながら、この夏場に暑苦しい感は否めない。

 リンゴを軽く手に持ち、人差し指で穿って割り、ひょいぱく、と口にする。これをやるために必要な握力は100キロ以上を要し、それをたやすくこなすということはこの男の握力は最低でも100やそこら。

 浮かべるは獰猛な笑み。まるで野生の虎を思わせる。大輔も虎の気風だが、格が全然違った。大虎と赤ちゃん虎の差がある。

 まあ、ぶっちゃけて知り合いなわけで、先日も共闘した明染焔(みょうぜん…ほむら)なのだが。あれから大輔を鍛えながら、自分も相当に鍛え上げたようで以前とは気の質が画然と違う。蛟(みずち)が変じて竜となったかのごとしだ。

「よー、ほむやん。レベル上げたなー」

「おう。狭所やと闘えませんとか、そないなことゆーてられんからな。今回こそ本領発揮やで」

「うんうん。前回、おまえなんのためにいんの? みたいな役回りだったからなー。心配してた」

「ぐっ!」

 辰馬の、悪気のない無邪気な一言の痛みに、焔は肺腑をえぐられる。このガキしばいたろかと思いつつ、すぐ後ろに雫がいると思うとそういう真似もできない。相変わらず、明染焔は雫への免疫がゼロだった。

 そこに。

「先輩、いつまでもつまらん漫才をしていないで俺の紹介を」

 クールそのものの声が、焔の脇から躍り出た。

 身の丈は180そこそこ。たぶん辰馬の父、狼牙とどっこいか、ややこちらの方が長身。髪はいわゆる緑の黒髪、涼やかな目元に描いたような眉。鼻梁はすらりと通り、きゅっと意志の強さを感じさせて引き結ばれた唇はほのかに朱い。姿貌すぐれる、とはまさにこのことというべきの整った美男子で、体躯はほどよく引き締まり剽悍、同じ美少年でも「女の子みたい、人形みたい、かわいー」でみんなからかわいがられる辰馬とは、印象がまったく違う。

 学生服のような軍服のような黒スーツの上下をまとい、左手に携えるは藍鞘に収められた一口の太刀。拵えから言って、雫の「白露」に劣らぬ名刀であり、そして白露と違って霊力を帯びる。

「あー、こいつ厷(かいな)」

 それだけしか言わない焔にやれやれと頭を振ると、厷といわれた少年は辰馬たちの前に立ち、口を開く。

「厷武人(かいな…たけひと)。勁風館の三年。来年には勁風館を卒業して正式に明染先輩と組む予定だ。……新羅辰馬、おまえが現在のクエスト達成実績ナンバー1らしいが、来年からはその場所は俺と先輩のものだ、お前の居場所はない」

 胸先に指を突きつけてそういう武人。普段ならこういう態度の相手はばかたれと文字通りに一蹴するはずの辰馬だが、なんとなく、相手からライバル心はあっても敵愾心が感じられず、毒気を抜かれる。

「……はあ」

 んー、なーんかな。なんか妙に嫌われて……るって感じでもないが、うーん、まあ、いっか。さておき。

「ほかの連中はぱっとしない、か。まあ、おれらにほむやんもいりゃあ、ほかはどーでもなる、かな」

「わたしも同道しますよ」

 そういって最後にやってきたのは。

 鮮やかに赤い長髪をひとまとめにシニヨンでまとめた、太陽も熱を失い月もため息をつくほどの美少女。すなわち人造聖女、晦日美咲(つごもり・みさき)。あのあとしばらく蒼月館を休校していたが、こちらの仕事が忙しかったらしい。

「おう、晦日。この前はあんがとさん」

「いえ。わたしは特になにも。それより、今度の戦いは個人ではなく対組織。覚悟はできていますか?」

「んー、たぶん。それより飯にしよーぜ。頭数もそろったことだし、ちょっとぱーっと食いたいよな」

「新羅さん、金ないでしょ」

「……出水。今度おまえの本買うから……」

「駄目でゴザル」

「辰馬サン、オレオレ、オレに聞いて! お金あるよー!」

「おめーはイヤだ。またケツ触らせろとかゆーだろーが!」

「えぇ-、いーじゃないスかケツぐらい。……あぁ、辰馬サンがイヤならまぁ、瑞穂ねーさんのケツ、いやチチでも……」

「ははは、シンタぁ。おまえ、殺すぞ?」

 とかなんとかありつつ。

 結局誰よりも辰馬に甘い雫が「たぁくんのぶんくらいあたしが出すよー」といって場をおさめ。

 一行は桃華料理の高級店に入って大散財。辰馬も人の金だというのに遠慮なく食い散らかし、その日は解散となった。

「んふふ~、たぁくーん? 明日の朝、起こしにいくからね、3人で。まさかおねーちゃんのお金でたっぷり飲み食いしといて、逃げられるとか……思ってないよねぇ?」

 寮の前で別れしな、そう言われて、辰馬は一気に胃が重くなるのを感じる。

 あー、どーしよ……。

 とはいえどーもこーもなく、夜は明けて。また一日が始まるのだった。

……………

以上でした、それでは!

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遠蛮亭 2023/04/14 06:52

23-04-14.「くろてん」小説再掲1幕2章18話

おはようございます!

「日輪宮」敗北ルート後のミニゲーム制作入りました! まあ本編の方にまだいくつかエラーがあったりしますが、それは村人Aさまにお願いするとして。出産させて、出産費用が足りなくなったら娼館で稼がせて、稼いだお金で体力回復して、最終的には産み落としたゴブリンズで瑞穂さん撃破という簡単なゲームの骨子はほぼ出来上がりました。あとは出産、娼館のメッセージを作って、それと現状戦闘前に瑞穂さんを外してゴブリンだけにするとエラーが出るのとゴブリンのレベルが150とか設定外の数値になっちゃうのでこれも修正していただいて、それで完成になります。

そして昨日のお絵描き。

ゴブリン勝利時のイラスト、すでに存在するものを流用の予定でしたが文章入れていくとこれは新規で描かないと足りないな……ということで描き。一番最初のシーン、瑞穂さんがまたボコられてフェラさせられるところです。瑞穂さん、この時点でもうひどい淫乱になり果ててる状態ですが、殴られるのはやっぱり苦手。でも殴られると身体は反応するという難儀なところです。

それでは今日も「くろてん」小説再掲参ります。1幕第2章「竜の魔女」篇はあと1話になりました、今後ともよろしくお願いいたします!

黒き翼の大天使.1幕2章18話.竜攘虎搏

 竜洞の最奥。

 魔王継嗣、新羅辰馬と。

 竜の魔女、ニヌルタが。

 睨み合う。互いの視線に込められる力が、相手を屈服させるべく応酬する。

 もはや互いに油断はなく、この時点で相手に対する決定力にはなりえない。だがだからこそ、互いに軽々には動けず、状況は膠着(こうちゃく)に傾く。

 その状況下、ニヌルタにはほかのコマはなく、辰馬には仲間がいる。

「ぼさっとしてんなぁ!!」

 シンタの突撃。ニヌルタは無造作に腕を振り、それをいなすが、その影から夕姫。二本のダガーで、先ほどシンタが傷つけた部位を正確に斬りつける。傷口への攻撃を嫌ったニヌルタは受けずに躱し、半歩下がる。

 間がずれたことで、均衡が崩れる。フリーになった辰馬は両手を天に腕をかざし、神讃の詠唱。それと見て、ニヌルタも半瞬遅れ、詠唱に入る。

「神(デーヴァ)にしてまた魔(アスラ)の王、大暗黒(マハーカーラ)の主なる、破壊神にして自在天! 汝、燃える男根より生まれし者! 世界を遍く照らす三眼! 偉大なる神(マハーデーヴァ)にして悪鬼の王(ブーテーシュヴァラ)! 破壊者(ハリ)にして創造者(ハラ)! 1000の名を持つ王、その霊威を示せ!! 嵐とともに来たれ!!」

「天に蒼穹(そうきゅう)、地に金床! 万古(ばんこ)の闇より分かれ出でし、汝ら万象の根元! 巨人殺しの神の大鋸、わが手に降りて万障(ばんしょう)を絶て!!」

 互いに全力。詠唱の時点で、両者の間にすさまじい力場。周りの皆がたまらず伏せる。

「輪転聖王(ルドラ・チャクリン)ッッ!!」

「天地分かつ開闢の剣(ウルクリムミ)ッ!!」

 轟、と。

 天衝き坂巻く黒き光の柱と、万象を絶つ紅き闇の刃が、激突し、相殺する。輪転聖王はウルクリムミを完全に貫くも、広範囲に広がるウルクリムミは波状的にこちらを飲み込み、結果として両者相殺し合って終わり、中空で消滅。術者としての力量は辰馬もニヌルタも互角といって良かった。

 互角か……あれで抜けないのは……つらいな……。

 辰馬は胸中、苦く呟く。無理をして強がってはいるが、ニヌルタの支配から脱するためにシンタたちへ自分の意思を渡した先ほどの術でかなり精神的に損耗している。精神感応系能力者がこの世界にほとんどいないのはそのためで、「魔王から継承した巨大な精神力」を保有する辰馬であっても消耗が大きすぎる。基本的に送信とは違う受信のみの使用とはいえ、瑞穂はよくもまあ、使いこなせるものだと感心させられる。

 相当消耗しているはずが、まだ互角……ここにきてまだ伸びるというの?

 ニヌルタのほうはニヌルタのほうで、驚きを禁じ得ない。魔了による支配を振りほどくのに、常人なら精神が砕けるほどの力を振り絞ったはずだ。それで力が衰えるどころか、信じられないことに跳ね上がりを見せている。ニヌルタの背筋を、冷たいものが伝った。

 冷や汗。

 それ、と認識するのにわずかな時間がかかった。冷や汗など、恐怖などとうの昔に脱したはずの感情。それが戻ってきたことに、ニヌルタはわずかにたじろぐ。

 が。

 すぐに恐怖は愉悦に変わる。

 ふふ、そうね、闘争とはかくあるべき! 久しくなかった血の高揚、楽しませてくださいな、王子さま!

 ニヌルタは竜爪を構えて、地を蹴った。

 辰馬も天桜を構えなおし、応じる。

 紅蓮の竜爪と氷雪の神刀、秒間10合を超える応酬が繰り出されるが、互いに互いの攻撃すべてを受け、いなし、捌き、決定打たりえない。辰馬の新羅江南流と対等に撃ち合う、ニヌルタのそれは聖域に伝わる竜闘技。ニヌルタは四肢に加え竜の翼と、尻尾も駆使して、辰馬の隙を狙う。なれない変則的な攻撃に、辰馬がやや圧される。

 そのわずかな間隙を、ニヌルタは見逃さない。崩しをかけた。辰馬は崩しと知って外そうとするも、ニヌルタは外しにかかる力を逆に利して一気に崩す。辰馬がバックステップで回避をはかるも、間に合わない。

 掌底が、辰馬の薄い胸板を打ち、

 蹂躙する衝撃。辰馬の全身を駆け巡る。

 竜勁。辰馬のお家芸である発勁打撃の、お株を奪う。

 血を吐き膝をつく辰馬。その頭を、ニヌルタは思い切り踏みにじった。竜の膂力による踏みつけが頭蓋を軋ませるが、辰馬はかまわず即反撃、踏みつける脚の、アキレス腱へ中高一本拳。サティアが足をどけて、半歩退く。辰馬は起き上がりざま半屈状態での掃腿。遠心力を使ってそのまま後ろ回し蹴りにつなぐ。ニヌルタはその蹴りを、間合いをつぶして回避すると同時に辰馬の脇腹へもう一発竜勁。これは辰馬が回避し、ぼふっ、と空を劈(つんざ)く音。超近接状態での打撃の応酬が続く。

 参るな……この間合いにはかなり、自信あったんだが……

 ニヌルタの驚異的技量に、辰馬は舌を巻く。術者としての技量、神力……人間のそれよりさらに竜女帝…創世の女神グロリア…ファル…イーリスに近い、竜気ともいうべきもの……の保有量が絶大なのは分かっていたことだが、薄打の技量でここまでやられるのは予想外。短期決戦、一気に圧倒してしまう算段が狂う。

 スタミナであれば人間ベースの辰馬より竜種のニヌルタであり。時間をかければかけるほど、辰馬にとって状況は不利に傾く。

 んー、このままだとまずいかー……一人だと、限界だぁな。

 ニヌルタ必殺の一撃、竜爪が襲うその寸前。カバーに入ったエーリカが、敢然とそれを止める。

 破砕されたアンドヴァラナウト、その破片にして精髄たる、大粒の紅玉(ルビー)によって。

「ち……、羽虫!」

 いらだちまぎれに、長く強靭な尻尾でエーリカを殴打、それを今度はシンタが、短刀で縫い止める。

「うらあぁっ、砕破(サイファ)!」

 流し込まれる波動。ニヌルタともあろうものが、あの一度喰らった砕破の破壊力に怯えをなした。打ち込まれる前に、短刀を抜く。緊急回避。それは反射的、本能的な行動であり、最短距離をとるゆえに最も読みやすく、カウンターを当てやすい。

「っ!!」

 辰馬が先読みの連撃を、ニヌルタのよける先に置く。熟練の狩人が仕掛ける罠のように、正確に巧妙に。

 左拳、右肘、靠法、そして、打ちぬいた肘からの、天桜の抜き打ち。ついにようやく、まともに入る!

 たたらを踏んで下がるニヌルタ。間合いが広がる。中距離。術者にとってこの距離は打撃ではなく、魔術の間合い。

 顕現。三対六枚の光の黒翼。

「神(デーヴァ)にしてまた魔(アスラ)の王、大暗黒(マハーカーラ)の主なる、破壊神にして自在天! 汝、燃える男根より生まれし者! 世界を遍く照らす三眼! 偉大なる神(マハーデーヴァ)にして悪鬼の王(ブーテーシュヴァラ)! 破壊者(ハリ)にして創造者(ハラ)! 1000の名を持つ王、その霊威を示せ!! 嵐とともに来たれ!! 輪転聖王(ルドラ・チャクリン)ッッッ!!」

奔騰する世界、光る暗闇。ニヌルタの幽世結界そのものをぶちぬく勢いで、光の柱が天を衝く! 盈力の圧倒的威力は結界にひびを入れ、穿ち、ついには砕く。

「あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

それはまさしく光の暴嵐(ルドラ)。ニヌルタが絶叫して嵐の檻から逃れようともがくが、完璧に決まった輪転聖王は絶対の威力。いかに竜の魔女といえど、止められない。

「はぁ……はぁっ……!」

 いまので……全力使った……。さすがにこれで……、倒れろ!!

 光が、やむ。

 ニヌルタはかろうじて、五体満足で立つ。破壊された幽世結界、あれの制御を自分の周囲を守る障壁に転換、身を守り、どうにか体力を残す。

「愉しませて……くれたけれど……。最後に勝つのは誰か、やっぱり最初から、決まっていたようね」

 勝ち誇るニヌルタ。

「そーだな、おれたちの、勝ちだ」

 脱力、全ては終わったと、辰馬は力を抜く。次の瞬間、ニヌルタの首筋に、白刃がつきつけられる。

「そーゆーこと。動いたら首、落とすから。たぁくんたちにはできないことでも、あたしはやっちゃうよー。先生だからね!」

「新羅さん、お待たせです!」

 雫がかわいらしく凄み、大輔が辰馬へと敬礼。

「魔女ニヌルタ、あなたの身柄はアカツキ政府が保護します。追捕(ついぶ)であるあなたの姉、イナンナにより、聖域の奥へ封印されることとなるでしょう。……竜種による人間社会転覆を狙った魔女の処遇にしては、いささか軽い気もしますが」

 ニヌルタの前に立ち、そう言った美咲の首を、ニヌルタが乱暴に掴んだ。消耗ゆえにさしたる力は出ないが、人質を取るという意味は十分。

「……さらに罪を重ねますか。度し難い……」

 美咲はあわてず騒がず。

 つ。

 銀閃がひらめき。

 ごとりと。なにかが落ちた。

ニヌルタの、竜鱗に覆われた腕が、まったくなんの障害もなくすとんと輪切りに斬り落とされた。

「ぁ? あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」

「あなたは天才だったのかもしれませんが。力を誇る前に、まず痛みを知るべきでした」

 まったく何でもないように、美咲は静かに言い放つ。

「あれ……美咲ちゃんの力って、強化(バフ)なんじゃ……」

「今の技、ですか? これは神力とは別の技術です。これを使って……」

 と、見せるのはほとんど目にも見えないような、極薄の長い糸。

「強度はタングステンの100倍。修練には多少の困難を要しますが、熟練すれば竜の鱗といえど、斬れないものはありません」

「……はー」

 感嘆する雫。達人ゆえに分かることだが、雫が「多少の困難」といった修行の練度はおそらく想像を絶する。本気で戦って、もしかすると雫が勝てるかどうかというところだ。純粋な戦闘者として魔術抜きでの技量は、おそらく辰馬に勝る。世間の広さにうなる雫をよそに、美咲はテキパキとニヌルタに手当を施し、拘束していく。腕を斬り落とされて消沈したのか、ニヌルタは別人のようにおとなしくなり、美咲に目を合わせない。

「ともあれ、一件落着か……」

「辰馬、今回わたしたち、あんたにすっっっっっごい迷惑、かけられたから。今度学食の素うどん、奢りなさいよ!」

「えー……まぁ、素うどんぐらいならいーか……」

「そーだよなぁ、辰馬サン、ケツ触らしてもらっていーっスか?」

「あー……って、いーわけねーだろーが! お前は大概で、おれのケツを狙うのやめろや!!」

「まぁ今の辰馬サン相手なら、無理やりにでもいけそーな……」

「いやほんとやめろ勘弁してくれ怖いからホントに。お前男に襲われる男の気分ってわかんないだろーけどすごく……うあぁぁ!?」

 がばり、シンタは疲労困憊の辰馬を押し倒し、その引きしまった尻をぐにぐにと揉みしだく。辰馬はぎゃーとわめくが、ここをチャンスとみたシンタは攻撃の手を緩めない。

「辰馬さん鍛えてんのにやーらかいっスよね、うははー♡」

「やめろって、殺すぞ! つーかお前ら助けろ!」

「まあそれどころじゃなくて。サティアちゃんの調子は?」

 そう問う雫の言葉に、瑞穂は小さくうなず返す程度の余裕しかない。額には珠の汗がにじみ、その集中の度を物語る。時軸(ときじく)による時間遡航が奏功しているのは間違いないようでねじ曲げられた四肢やつぶれた喉はもとにもどっているが、まだ極限まで嬲られた生命力と精神の修復には至っていない。

「まずは寮に戻りましょう。処置はそれから。今回の、学生会騒乱の事後処理もあります」

「そーだねー。んじゃ。たぁくん、シンタくんもじゃれてないで。こっち来んさい」

「じゃれてねーわばかたれ! どこを見てんだしず姉!」

「いやー、堪能堪能。たっぷり触った。満足」

「シンタおまえあとでしばく……」

 そして、帰ってきたその日の夜。

 なんとかサティアを回復させた瑞穂は、疲れ切った身体を癒すために辰馬の部屋に忍び込み。

 サティアが肉体を得て辰馬への憑依から離れた=もはや誰はばかることもない、ということで。それはもう大いに乱れ。干からびるほど、辰馬から搾り取った。

………………

以上でした、それでは!

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