投稿記事

ゲーム発売の記事 (18)

遠蛮亭 2023/06/09 07:12

23-06-09.くろてん再掲2幕1章8話+お絵かき(源初音)

おはようございます!

まずはこれ。

【黒き翼の大天使~日輪宮の齋姫】
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01064650.html

ついでこちら

源初音。「狐神さまの妹入り(仮)」用。選択肢で武術鍛錬を選んだ時に使おうと思ってます。あと昨日フォロワー様が10人ばかり一斉に去られまして、たぶん遠蛮が自分絵のゲームを制作すると宣言したことで広輪さまの絵による「聖鍵を求めて」の制作を放棄したと思われたのだと思いますが「狐神さま~」は「聖鍵~」の余り時間に趣味的に作るものですので「聖鍵~」をとりやめるものではありません。ご安心くださいませ。

それでは今日もくろてん再掲、こちらもよろしくお願いいたします!

………………
黒き翼の大天使.2幕1章8話.四重詠唱の公子

 超重量の崩落。
 クズノハの黒炎燐火や辰馬の輪転聖王なら降ってくる土礫《どれき》をなぎ払うことなど難しくないはずなのだが、今は二人とも消耗しきっているうえにいったんユエガから借り受けた力を取り立てられ、剥奪された状態。ほぼ、ひとなみの魔法使いと大差ないレベルにまで弱体化している。唯一ただの魔術師と違うのはその胸に燃やす意思の炎、その煌々炯々《こうこうけいけい》だが、なにごとも根性だけで切り抜けられるほど世の中は甘くない。
 つまりどういうことかというと。
 死ぬほどピンチ、ということだ。
 辰馬は落下してくる自分の身体の数倍もありそうな巨礫に、瑞穗や雫やエーリカや、あとついでにサティアにも謝りつつクズノハを強く抱きしめた。ここが人生の終焉になるとして、せめてただひとりの実姉を苦しませたくはなかった。

 ここで、都合良く潜在能力が覚醒するなんて展開ならいーんだが……この世界の摂理はそういうふーに出来てないよなぁ……。

 力の目覚めをほとんど投げやりに期待しながら、8割方は諦めて目を伏せる。

「ノイシュ、大丈夫よ。海魔たちが助けてくれる」
「?」

 辰馬の細く白い腕、華奢なクズノハよりなお繊弱そうな腕の中で、長らく求めて得られなかった肉親の愛情に触れ心満たされた……それだけでもなさそうに頬を上気させたクズノハ。その声に辰馬がまぶたを開けると、あのグロテスクなタコ頭の海魔たちが、二人を守ろうとするように肉のバリケードを成して巨礫を押し返す。単独ではあらがいえない巨礫だが、海魔たちはとにかくやたらと多く、そしてタフだ。工事現場の作業員が力尽くで万難を排すように、次々降ってくる土礫を押しのけ、はたき、殴り壊して辰馬を……というより間違いなく皇女クズノハを守る。やがて崩落が収まるまで彼らは忠実に女主人を守り抜いた。

「妖狐の持つ蠱惑の力。彼らの支配権をユエガから奪っておいて、正解だったわね……土壇場で裏切ってわたしたちを完全に陥れたつもりでしょうけど、向こうも自分の手駒がわたしに骨抜きにされていること、気づいていないのではないかしら。自分からしてわたしに籠絡《ろうらく》された経歴があるくせに、学習しない老爺《ろうや》」

 天井のすっかり抜けた水洞……もはや水洞と呼べるのか怪しいが……の床で、クズノハはまず報復を加えるべき相手の迂闊を嘲笑う。

「………………」
「どうしたの、ノイシュ?」
「……いや、助かってよかったんだけど……なんかおれ、バカみてーじゃん。勝手に覚悟決めて死ぬんだとか、せめて姉貴だけはとか……」
「あぁ……うん、そうね。……でも、うれしかったわよ、わたしは。女の子みたいな顔してても、やっぱりお父様の子ね」
「親父ゆわれてもな。おれは魔王と一言も交わしたことないんだが」
「それでも、あなたは似ているわ。強さも甘さも……優しさも」
「あ? って、なんか近い近い! 寄んな! 胸をすりつけんな、やめれ!」
「少しでも力を回復するために、房中の技もやっておくべきではない? まぁ、というのは建前で……可愛い弟を味見したくてたまらなくなったのだけど……?」
「ぅぎゃああーっ! ぃやーっ! おれのまわりの女はこーいうのばっかか!」

 一気にのしかかってマウントをとりにくるクズノハから、辰馬は這いずって逃げる。いつも雫にやられていることで、雫にやられると身体能力の差やなぜか逆らいがたい関係性やらのせいで抵抗できないわけだが今回の相手は雫ではない。というか雫にバレたら怖い気がして、辰馬は思う存分必死に抵抗した。さすがに暴力は振るえないが、新羅江南流体術の限りを尽くし、相手の動きの先を読んでフェイントにひっかけ、先をとらせて後先《ごせん》でかわし、ひたすら逃げに徹する。しばらく辰馬においすがろうとするクズノハだが、体術勝負では義弟にかなわない。やがて嘆息するとあきらめ、そしてこう言った。

「つまり、ノイシュとしてはあのピンクさんに操だてしてる、ってわけね」
「は……はあぁ? ピンクさんて……しず姉? ……はあああぁぁぁー?」
「違うの?」
「いや、だっておれが好きなのは……いや、あー、うん……まあ、しず姉も、好きっちゃあ好き……つーても姉弟みたいなもんでな? あんまし恋愛対象じゃねーわ。どっちかっつーと瑞穗とかエーリカのほうが……」

 でも一番つきあい長いのも確かなんだよなー、実のところおれのこと何でもわかってくれるし……いや、ここでしず姉が好きとか言ったらホントにおれがシスコンみたいになる。それは困る。

「じゃあ彼女を殺しても……」
「ざけんなばかたれ。しばくぞ」

 冗談めかしたクズノハの言葉にかぶせて、ものすごく強い声が出た。目つきの本気度がもう洒落になってない。その必死ぶりをみて、クズノハはくすくすと笑った。

「ほら、必死」
「ぁ……あああぁぁ! 違う! 違うって! だから! ……うあああああ!」


・・
・・・

 と、魔王の娘と息子姉弟が楽しくじゃれ合っている頃。

新羅辰馬の元祖お姉ちゃん、牢城雫は荘厳な宮殿にいた。

 水洞の海底宮殿のような間に合わせのものではない、間違いない長い歴史に裏打ちされた、欄干の一本、中庭の花一輪とっても重厚と華麗差を同時に醸すそれは世界にもまれなレベルでの極上品であることが誰の目にも明らかにわかる。

 ここは暗黒大陸アムドゥシアス、その王城、魔王宮。かつてオディナ・ウシュナハが君臨し、ついでクズノハの居城となった巨城は、今、覇城瀬名《はじょう・せな》の身を借りた海魔王ユエガがわがものとしている。

 瀬名=ユエガは雫と瑞穗、ふたりの腰に回した手を無遠慮に動かして乱暴ながらもきわめて技巧的になでまわす。辰馬の、逸物は大きいものの技巧としては毎度淡泊なテクニックしか経験したことのない二人にとって、瀬名=ユエガの老練の技はあらがいがたいものがあった。否応なしに性感をあぶられ、腰が砕けてしまう。ユエガはそれを見澄ますと、水着の中に手を入れ直で丸く大きく白い柔肉を揉みしだいた。雫はまだしも、ヒノミヤにおける諸事情できわめて感じやすくなっている瑞穗は、たちまち鼻に掛かった甘い声をあげてしまう。

「ああああぁー、ぅっ……くぅ……た、辰馬さん、助けてえぇ……」
「くぅ……好き勝手にしてくれちゃって……んあっ……ぁう……」
「くっくく……そらそら、もっと皇子を想っていいのだぞ、許す。せいぜい大声で皇子の名を呼び、叫ぶがいい。だが、その想いはもはや遂げられることはないがな、魔皇子ノイシュ・ウシュナハはあの水洞の崩落に巻き込まれて死んだ」
「「…………ッ!?」」

 あまりに巧みに急所を責められ、危うくトロかせかけた二人の瞳に、意思の光が戻る。辰馬が死んだ、そうつきつけられること以上の絶望は、雫にも瑞穗にもない。瀬名=ユエガは自分の言葉の効果に満足して二人の心情を嘲笑い、子供の体躯からは想像もつかない強力で二人を抱き寄せると、二人の美少女のやや青くなった頬にいやらしくべっとりと舌を這わせ、手を全部から乳房へと上げて遠慮なく力を込めて揉みしだいた。

「お、おねーちゃんを騙そうったって無駄だよっ……、あのたぁくんが死ぬはずないんだから……し、死ぬはず……死……や、やだあぁぁっ、たぁくん、たぁくんんっ!」

 23年の人生のうち8歳からの16年間、辰馬を護って生きることを自分の本願としてほかのことには目もくれず生きてきた雫である。辰馬が死んだ(かもしれない)という現実への絶望は、彼女にとってあまりに巨大すぎた。頭の中がぼんやりもやのかかったようになり、また同時に頭の中が強く熱を帯びて割れ鐘を刻む。涙は止めどなく浮かび、目に水分を全部持って行かれているかのように喉がカラカラに渇いた。胸はいやな意味でどきどきと激しい鼓動を打ち、手足に信じられないほど力が入らない。そんな雫をみて瀬名=ユエガは得たりと淫笑《わら》い、二人の美少女を連れて寝所に連れ込むと彼女らを抱き寄せたままベッドに押し倒し、いかにも慣れた手際で二人を全裸に剥いた。

「ぐはは、牛のようなデカ乳といい、引き締まった小柄にほどよい肉付きといい、どちらもたまらん極上の身体だわい。本来なら人間風情を魔王の后に迎えるなど考えられんが、ワシは寛容よ。お前たちのような下賎のクズ豚であっても、后に立てて寵を与えてやる。喜べ」

 好色淫蕩なるもと、魔王腹心ローカ・パーラの長。今は自称・魔王の老魔族・ユエガは瀬名の身体から離れ、その実体を顕現する。

 その本来の姿は不定形の粘液体、いわゆるスライム。ユエガという存在は根をたどれば海棲のスライムの一品種に過ぎなかった。それが数千数万年の時の中で知恵を持ち魔力を持ち、やがて時間を操るという大魔力を得てローカ・パーラの最古参に数えられるまでになったが、その根源である部分が原始的生殖本能に多くを負っているために元老となってもなおの荒淫癖なのである。スライム触手としての実体を顕したユエガは弩乳と巨乳、二人の美少女を飲み込み、全身を使って二人を凌○すべく触手の身体を動かしていく。時を支配し定められた運命すら変容させる能力者、しかしそれにもかかわらず臆病細心ゆえ常に万端を心がけるユエガにしては、このとき幾分舞い上がっていた。彼は配下の海魔たちが知らぬ間にクズノハになびいたことに気づかず、その陰をもって辰馬とクズノハが生き延びたことにまったく思い致すことがなかった。とはいえ今この事態にあって、雫たちの窮地に辰馬が都合良く間に合う目はまず、ない。

 なのでここにいる、ここまで利用されるだけ利用されてきた少年の奮起が、少女たちの命運を分ける。


・・
・・・

 覇城瀬名は……というより帝国最大貴族の門派である覇城家は、基本的に極端な純血主義である。婚儀は主に皇家暁か、一応は同格扱いの大公家小日向、北嶺院から迎えるのがならわしであり、近親結婚の弊害で血統的にやや狂性を孕んだ人間を生みやすい。瀬名もまたそうした、「覇城の狂公子」の系譜であった。

 父は大公覇城征人《はじょう・せいと》、母は伯爵令嬢山内真尋《やまのうち・まひろ》。ちなみに山内家は上杉子爵家……上杉慎太郎の実家……と従兄弟にあたるが、とりあえず今は関係ない。

 征人は歴史に名を残す精力家であり、瀬名の上に87人、下に5人の兄弟姉妹を作ったが、瀬名にとって幸運なのか不幸だったか、正妻である真尋が産んだ子は瀬名ただひとりであり、他家ならいざしらず覇城家のガチガチの血統主義によって瀬名はまぎれもなく疑いない覇城の跡取りとして生まれ落ち、育てられた。

 はやくも2歳からアカツキ古流集成の訓練に入る。天賦というものがあるとして、瀬名はまさにそれだった。稽古をはじめて半年で大の男を投げ飛ばす腕前を見せ、1年で師範と互角になった。そしてこの頃から、肉体を錬磨するほどに性欲をもてあますようになり、あちこちの娘を密かに狩り集めては淫行乱交にふけった。普通なら子女誘拐事件として事件になる規模だが、大公家の当主であり元老院筆頭でもある覇城征人の公認でやることである。事件になどなりようがなかった。

 瀬名が求めるのは母性が強く甘えさせてくれる、端的に言ってお姉ちゃんタイプの女性であった。瀬名は自分をまぎれない天才と自負してはいたがね権力の椅子に座るものが往々にして抱く「自分の存在意義、果たして自分には価値があるのか」という疑問と恐怖にはやはり囚われていたわけで、この恐怖から脱却できる安息を求めた。その結果としてお姉ちゃんタイプの女性を金や権力やあるいは暴力でねじふせ、自分に逆らえなくさせて○すのが瀬名の楽しみになった。……なのだが、ほとんどの相手は1度、よほど気に入った女でも3度抱けば飽いた。

 さすがに瀬名自身も自分の飽きっぽさに辟易し、原因を究明する。理屈は簡単にはわからなかったが、庶子である実姉のひとりを適当に犯したところ、気まぐれに押し倒しただけでそこまで好みでもなかったはずのこの姉を異様に気に入ってしまう。

 ただ、あまりこの姉の身体が強くなかったこととあまりに激しく求めすぎたせいで、姉は半年後に病死してしまう。初めての身内の死に瀬名がショックを受けたかといえばそんなことは全くなく、「肉親とのセックスは桁違いに気持ちいい」という真理にたどり着いて姉たちやいとこの少女たち、その中の美少女であり、お姉さん的な相手を次々と撫で切りにした。罪悪感などなく、ほとんど息をする感覚で近親者を犯しまくった。

 しかし心底瀬名を安心させてくれるほどの包容力の持ち主はついぞなく、苛立ち悶々とする日々を送る中で2年前の1814年、瀬名は「牢城雫」という少女に出会う。出会うと言っても覇城主催の武術大会のエキシビジョンに剣聖・牢城雫が招かれただけのこと。ただ、その最初の段階から瀬名は雫に対してよこしまな期待をギンギンにしていた。そもそも覇城の分家から奪爵《だっしゃく》された牢城家にとって覇城が本家筋だからといってオファーをきいてやる義理はない。普段一切のわだかまりを見せない雫だが、やはり多少の覇城への憤りとか嫌悪感はある。それを推して出場を乞い、企画の段階から参画したのが当時9才の瀬名である。色彩写真のあまり解像度の高くない画像を見た瞬間から雫の「お姉ちゃんオーラ」の虜になった瀬名は、もうどうあっても雫をモノにしたくてたまらなくなってしまう。だから牢城家に自ら足を運んで覇城の名代として奪爵の件についての謝罪を述べ、帝国最大貴族の、場合によっては皇帝すら凌ぐ権勢の持ち主が深々と頭を下げた。

「うんうん、ありがとねー♪ 瀬名くんかーいぃなぁ、あたしにもおとーと、いるんだけど、最近ちょっと生意気になっちゃって。でも、やっぱりたぁくんが世界一可愛いけどねぇ~?」

 当時は夏。大きな胸をぶかぶかのシャツに包んだだけの無防備な雫に、瀬名の情欲と歪んだ愛は止めどなく募った。同時に「たぁくん」とやらへの殺意の瞬間風速はすさまじいことになり、すぐに元老院お抱えのスパイ網を使って調べさせる。新羅辰馬、当時14才。天才だが克己心に欠け、基本的にだらだらしている……そういう報告に対して瀬名は勝利を確信した。なにせ武術の修練から学問から覇城家の政治の一部に関してまで、実地で修練を重ね結果を出している瀬名だ。そこらの、ちょっと才能があるだけの怠惰なゴミに負けるつもりは毛頭なかった。瀬名はそれなりの慧眼だが、まさかその怠惰な天才が後世、世界を統一する史上二人目の男になることも、自分がその膝下《しっか》に跪くことになることも想像だにできなかった。

 エキシビジョンは大いに成功し、覇城のビジネスとしても大成功。そこからの関係で瀬名は雫とつながりを作ったものの……あまりに雫に本気になってしまったためか、適当に脅し賺《すか》して○す、という出方ができなくなった。ありていにいって、嫌われるのが怖くなった。もう少し踏み込むなら雫に好きと言われたくなった。そうして2年間、折に触れ会食などの機会はもうけるものの、手を出すことができなかった。

 なので覇城瀬名にとって牢城雫という少女はあまりにも特別なのである。もし目の前で化け物に雫が犯されそうにでもなっていたら、命を掛けて守りたくなる程度には。

 なので。

 ユエガの憑依から離れて。牢城雫と神楽坂瑞穗、二人が正体を現した海魔王に粘液触手ドロドロ地獄責めされそうになっているのを見た瀬名の頭は沸騰した。

「魔族! そのひとから離れろッ!」

 幼年学生の子供とは思えない、裂帛の気迫とともに吼える。

「暗船《くらふね》の船頭、闇夜の蛇の頭を砕くもの、汝天空の王。
 天空の王の名を知りて、かの王を従えるは女王。汝は叡智なる豊穣の主
 王は死の神の前に朽ち果てるも、女王の祈りによりて死の門を越えて蘇りたる
 君臨する日輪、天空の箱船! 我が言葉を聞き入れ給え天の王!
 天に座す至高の主《アテン・ラー・アトゥム》!!」

 神讃。彼は魔王の格では当然、なく、その霊質も盈力どころか神力・魔力ですらない霊力である。この世界における優越種は男性より女性であり、瀬名は辰馬のようにそれを覆す能力を持つわけではない。

 だが。

 彼が今詠唱するのは「一つの神霊に捧げる」神讃ではない。天空の王《オシリス》と魔術の祖にして豊穣女神《イシス》、そして一度冬の死の神《モト》と、モトと戦って敗れるもイシスの魔術で蘇り、絶対神《アテン・ラー》の高みに至るオシリスの、連続にして複合の4重神讃詠唱。常人ならばこれだけ贅沢に力を使えば精神が焼き切れるところを、瀬名は並外れた精神力で歯を食いしばり、やってのける。

 呼び声に応じ、バイパスが確立される。解放される旧き神霊の力。霊力を媒介としながら、その術式が呼び起こす力は神威というに相応しい。

 ユエガもはっと気づく。雫らへの嬲るような執拗の愛撫をようやくにやめて、まず目障りで危険な小僧を始末すべく力を使う。

 このときユエガが時間を止めて、しかるのち停止した瀬名を殺すという通常の手段を取ったなら、王手詰み。辰馬の言い方ならシャー・ルフであった。が、瀬名の呼び出した力の意外すぎるほどの大きさが、ユエガに瀬名=盈力使いの可能性、を危惧させる。

 となれば時間というものの枠外にいる上位の神や盈力使いに、時間停止は完璧ではない。ユエガは「運命操作」というもう一つの力を選択した。則ち「複数存在してまだ確定していない未来」の一つを選択し、確定させる能力。結局は時間操作の一環としての能力であるわけだが、こちらを選び。それゆえに複数の未来を見定める、その時間分、瀬名の側に猶予が出来る。

 そして未来改変が瀬名を破滅させるより先に、「天に座す至高の主《アテン・ラー・アトゥム》」が炸裂する!

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/06/08 06:41

23-06-08.くろてん再掲2幕1章7話

おはようございます!

【黒き翼の大天使~日輪宮の齋姫】
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01064650.html

宜しくお願いします!

「狐神さまの妹入り(仮)」用、頭なでなでイベント。バストアップだけだと物足りない気もしますが、というか頭なでてるというよりズビシって叩いてるようにも見えますが。なぜかトチ狂っていつも使い慣れてる丸ペンを魔王鉛筆に変えてみたら、描きやすいんですけども線が少しザカザカした感じに。やっぱり丸ペンの方がいいのですかね。

さておきましてくろてん再掲、今日もよろしくお願いいたします!

………………
黒き翼の大天使.2幕1章7話.反逆の皇女

 魔皇女クズノハ、その出自はアカツキの守護神獣の一柱・妖狐閑葉《しずは》を母とし、魔王オディナ・ウシュナハを母とするまぎれもない魔王の系譜。生得《しょうとく》の術式はアカツキの旧き呪法『七曜昊天法《しちようこうてんほう》』だが、生まれ育った暗黒大陸アムドゥシアスがケルト系の古ユーグをベースとしながら魔術の二大潮流、インド系の流れであるサーマ・ヤジュルとエジプト系カーバ・ルァの文明を強く受けた世界であったため、複数の魔術流派についてきわめて高いレベルの素養を持つ。素質では辰馬と互角、しかし幼少からのそれらの素養と、積み重ねた年月、それは累乗の差となって、辰馬を圧した。そのうえでさらに、海魔の主ユエガから力を得て再度魔王化したとは言え、辰馬の力は十全にほど遠い。

「は!」
「ち……」

 軽くクズノハが手をかざすだけで、水洞に凄絶無比の爆炎が満ちる。辰馬としてはその威力から自分と仲間たちを逃すだけでほとんど全力を使わされる。純然たる魔力勝負で、新羅辰馬という少年が真っ向からここまで一方的に押されるのは初めてのことだった。これまでいつも辰馬が無双できないのにはなんらかの理由があって本来なら相手より上の実力を保持していたわけだが、今回はただ純粋に実力で負けているという以外の理由がない。

「ほら、どうしたの! 仮にもわたしの弟ならば! 少しはわたしを愉しませなさい!」
「うるせーばかたれ! 勝手に、弟ゆーな!」

 悪態にも精彩を欠く。それは仲間たちを守ることに力を割かれていることもあるが、力負けしている事に対する焦慮が絶大に大きい。

 くそ……このとんでもねーバカ魔力……こんなの支えるだけで精一杯だぞ……!

 竜のごとく踊る、狐火の黒炎は防護障壁をたやすく越えて辰馬の身をあぶる。片手間で繰り出される炎の乱舞は、それだけであまりにも絶無であり、絶対的に脅威であり、すさまじく圧倒的だった。おそらく現在の地上において、彼女に並びうる魔力の使い手は存在しない。

 かつてならば存在したであろう。ただひとり。

 すなわち、クズノハと辰馬、彼ら二人の共通の父である、魔王オディナ・ウシュナハ。

「銀腕の暴君」と言われた優しき魔王その人に限りなく近いほど、魔皇女クズノハは圧倒的だった。そして新羅辰馬はまだまだ、魔王の前に立ちうるほどの自分を確立していない。

 はっきり言って逃げたいけど……でもなぁ……。

 クズノハの妖眼を見据える。右が金色、左が銀色の瞳は圧倒的高みから狡兎を駆り立てる猟犬の悦びを帯びていたが、しかし辰馬の心を捕らえたのはそんなことではない。

 あいつ、なんやかや言いながら……泣いてるみたいに見えんだよな……。

 爆砕する業火の轟きに輪転聖王をぶつけて相殺、出力に劣るぶんを体術でどうにか補い、身をひねり、蜻蛉《とんぼ》を切り、空を?き、間を詰める。

 が。

「甘いわ」

 軽く指先を閃かすクズノハ。あと一歩に迫った辰馬の胸板に、爆炎が爆ぜた。

「か……は……!?」
「そんなものかしら? あの男がわたしを否定して渇望したものは」

 ただの一撃で。障壁を完膚なきまでブチ抜かれ、直撃を受ける辰馬。くずおれる義弟に向かって淡々と言うその瞳に込められるのは、失望と、そして狂おしいほどの寂寥。

 くそが……そんな目ぇされたら……ほっとけねーだろぉが!

 渾身を振り絞って、クズノハに抱きすがる。無様だろうが情けなかろうが関係なかった。どーにかせにゃあならん、その想いに突き動かされて、クズノハを押し倒す。

 押し倒されて、クズノハはぱちくりと金銀の瞳をしばたたかせる。

「あら、お姉ちゃんの身体がお望みかしら? 甘えん坊の弟ね」
「うるせー、ばかたれ……つまんねぇ意地張ってんじゃねぇぞ……」

 緋眼と金銀の瞳が交錯。そこまでで、新羅辰馬の意識は一瞬、途絶えた。


・・
・・・

「よく頑張った、閑葉」

 その男はそう言ってわたしを抱き上げた。

 嬉しそうな顔。でも心の底から晴れやかとは言えない顔。

 その顔は明らかに、こう言っていた。

「望んだ子とは違う」

そのときのわたしにはわからなかったけれど。すぐに理由はわかることになった。

 男は魔力と神力を融合させた一階梯上の力を求めていた。母が妻に選ばれたのも神獣由来という出自ゆえで、本当の意味で愛し合い睦みあった夫婦ではなかった。

「わたしは、いりませんでしたか?」

 5歳の時。そう言ったわたしを見つめ返したあの男の顔を、一生忘れることはないだろう。悲しげで、驚きに満ち、否定したくあり、しかし確然と否定しがたく正鵠を射られた顔。

 だからわたしは要らない子。否定された子。

 だからわたしもあの男を否定する。

“魔王”オディナ・ウシュナハを。

 成功するにせよ失敗するにせよ、反逆のチャンスは一度きり。だから10年間、従順な皇女のふりをして力を蓄えた。

 幸いにしてわたしには莫大な魔力と美貌とカリスマがあった。どちらも憎い魔王から受け継いだものだけれど、利用できるなら利用しなければ損だ。魔王宮に蔵された魔導書を片っ端から読んであらゆる魔法を習得し、ひそかに王宮の兵や将軍を蚕食して支配下に置いた。有力な手駒を手に入れるためなら自分から進んで股を開きすらした。大抵の男はわたしを満足させるより先に簡単に屈服して、果てたけれど。

ローカ・パーラ《八方守護神》といわれる魔王最腹心の魔神たちを切り崩すのはさすがに苦労した。魔王の魔力以上にそのカリスマに心酔している連中だから、これを離反させるのは難しい。

 だけどわたしに躊躇う理由はない。

 最初に目をつけたのは海魔王・ユエガ《瑜伽》。ローカ・パーラの中でも最古参の、わだつみと時の流れを司る魔神。けれどこの老翁はどうしようもないほどに好色で、わたしが誘いを掛ければこちらが拍子抜けするほど簡単に堕ちた。皇女という貴顕を抱けるというプレミアは意外と大きかったらしい。

 ユエガを落としたことで足がかりを得たわたしは、つぎつぎと切り崩しを進めた。ローカ・パーラといえど無謬《むびゅう》ではないし、弱みもある。ユエガが握るそれらの弱点を駆使して、彼らを脅し、賺《すか》し、あるいは籠絡《ろうらく》し、わたしは勢力を増していった。「銀腕の暴君」などと言われながら何処までも甘いあの魔王が、裏切り者をそれと知りながら処断せずにおいたこともわたしに有利に働いた。

 そして18歳のわたしの誕生日、ローカ・パーラ八人のうち半数におよぶ四人を傘下に引き入れたわたしは、10万の兵を率い満を持して魔王に弓を引いた。

 当初わたしとユエガらの勢いは明らかに魔王軍を圧した。ローカ・パーラの中でも瑜伽(ユガ=時)を操るユエガの戦力は絶無。さらに魔王が残り四人のローカ・パーラをアムドゥシアスの外、対人間界用に散開していたのもあって、緒戦の段階でわたしたちは面白いように魔王軍を撃破した。そうして傲り、思い上がり、油断しきったところで魔王軍の反転逆撃があることを予想もしなかった。

 結局、魔王オディナはこの反乱を鎮圧するのにローカ・パーラの一人も呼び戻すことをしなかった。驕兵となったわたしたちを蹴散らすことなど、魔王の力と軍略の才をもってすれば簡単な事だった。わたしたちは傲り、魔王の座を射止めたと思い込んで寡兵の魔王軍本隊に挑み、敵陣深く長蛇で引きずり込まれ、そこで精鋭部隊の伏兵によって徹底的に叩かれ、そして出御《しゅつぎょ》した魔王、個人の力の前に完膚なきまで敗れた。かつて女神グロリア・ファルに闇討ちされ失って以来、銀の義腕をつけるゆえにこの男は「銀腕の暴君《アーケツラーヴ》」二つ名の轟きはともかく所詮片腕と高をくくっていたわたしたちは、あまりにも次元の違いすぎる力の前に一瞬の百分の一の時間もかけず、敗北させられた。四人のローカ・パーラのうち死神ゲーデと嵐をはじめとする自然現象の支配者シは討ち取られ、死を量産し自然現象を遂行するだけの現象存在に落とされた。ユエガは魔王の勘気を恐れて自分の領域、海の底のさらに底へ逃れ、わたしの参謀であり恋人でもあった奔放な炎のローゲはあろうことかローカ・パーラの中でただひとり、明確な形でわたしを裏切り魔王につきだした。わたしが男というものを根本的に信じなくなったのはこのときからだ。

 縄打たれ目の前に突き出されたわたしを、魔王はどうしようもなく悲しい目で見つめた。屈辱だった。対等の敵手と見られていない。怒りがわたしに力を与え、月食む魔狼《フェンリル》すら拘束してのけたというグレ○プニルの魔縄すら引きちぎらせた。怒りのままに躍りかかる。数多習得した魔法の中でも、最も特異とする狐火の魔法。超新星爆発に数倍する超熱量を叩きつけた。星も撼《ふる》わすほどの威力を、しかし魔王は半歩も後ずさることなく真っ向で受け止める。

 戦い自体はこの一撃を凌がれた時点で決していた。それでもあきらめの悪いわたしはひたすらに魔術と、呪詛と、怨嗟のかぎりを叩きつけ、そしてその全てを完璧に封殺されて、絶望させられた。絶対に及ばない相手に挑んだのだと気づいた虚無感で動けなくなったわたしは、そのまま魔王宮の最奥に幽閉された。

 幽閉され、力を封印されたわたしが低俗な獄吏たちにうけた凌○について、あまり語りたくはないけれど。ただその醜悪な感情のゆえにわたしはひとつの希望をつなぐことができた。つまりは憎悪という名の希望。嬉々としてわたしを○す獄吏たちも、この仕打ちを知ってなお下等なゴミたちを処断しないどこまでも甘ちゃんな魔王も、すべて憎悪というひとつの感情の先に集約された。いつかすべて燃やし尽くす、そう思って数十年が過ぎた。それほどに焦がれる憎しみをもって解放の時を待ったのに、魔王はどこまでも勝手に、人間の勇者ごときに殺されていた。おそらくは、自分の勝手な贖罪《しょくざい》の念から死を望んで。

 だからわたしの憎しみの矛先は弟に向けられる。あの魔王が、母を捨て別の、人間の女に愛情を注いで作った息子。わたしが望んで得られなかった神力と魔力の融合、一階梯上の力「盈力」を持つ弟、ノイシュ・ウシュナハ。その名前を口にのぼせるだけで、ぞくぞくするほどの殺意と歓喜が背筋を這い上がる。

「ノイシュ、絶対に誰にも負けるのではないわよ。あなたはわたしが、殺すのだから」

 死の先に勝ち逃げした魔王のかわりに。わたしは弟を殺す。そうしなければ自分を、保てないから。


・・
・・・

 意識を失った刹那の一瞬、辰馬の精神に流れ込んだのはクズノハの記憶。その凄惨と陰惨と悲惨に触れて、辰馬ははらはらと落涙した。

「見た……わね?」
「ああ……。ホント、おまえばかたれだ。こんな辛いのひとりで抱えてんな」
「黙れ! 弱者からの同情なんかいらない! あなたはわたしを憐れむのではなく! わたしに圧倒され、屈服し、怯え、そして死ねばいい!」

 圧倒する紅蓮の燐火。

 しかし今度は。辰馬はそれをしっかり止める。クズノハの力が揺らいだためと、そして辰馬の中のクズノハを解放したいという意思力が、彼我の差を縮めた。

 とりあえず、まずは倒さんとどーにもならん、か。

 両手を天に翳す。

 十二枚の光の翼が、意思に答えて強く輝き、震える。

クズノハも、腕を肩に引き絞り、構えた。

 両者ともに魔王の格。神讃は必要ない。

 クズノハが腕を横に薙ぐ。
「七星罡天《しちせいこうてん》! 那由多無限之黒炎燐火《なゆたむげんのこくえんりんか》!」
舞い踊る、竜の如き黒炎。

 辰馬が腕を振り下ろす。
「嵐とともに来たれ! 輪転聖王《ルドラ・チャクリン》ッ!」
天を衝く、金銀黒白の閃光。

 二つの秘宗は拮抗する。両者の力量差が縮められたとはいえ、やはりまだクズノハに分がある。辰馬は圧倒される。一瞬、これでも負けるか、そうあきらめがよぎる。

 その刹那、思い出が弾けた。

 くじけそーになったときは、おねーちゃんの顔を思い出すよーに! おねーちゃんだけじゃなくて、たぁくんの大事なみんなのことを思えば。簡単に負けらんないって思うから!

 辰馬が新羅の技を継承すべく、修行を始めた当初。はっきり言って最初は新羅の技になんの思い入れもなく、厳しい修行に嫌気がさしてしょっちゅうサボっていた辰馬に、雫がそう言った。

 そのときからこの言葉は、辛いときの辰馬の支えであり続けた。今回も。

 あぁ、そーだわ。ひとりで背負ってるバカ姉に負けらんねぇよな、こっちはおれだけで戦ってんじゃねぇ。みんなでやってんだ……!

「うらあぁぁぁ!!」

 信念とか根性とかプライドとか、愛情とか全部ひっくるめて振り絞り、咆哮。
 押し負けていた光が、少しずつ少しずつ、黒炎を押し返す。予想外の底力に、クズノハが驚きの形に顔を歪めた。

「なんで……あの男も、あなたも! わたしより恵まれているんだから、せめてわたしに殺されなさいよおぉっ!!」
「そーいういらん意地を、ぶっ壊してやるよ!! ……いーかげん、一人だけで生きるのはやめろ!!」

 ついに金銀黒白が黒炎を打ち抜く。

「く……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!」
「はぁ……はぁ……まったく、とんでもねーわ、このバカ姉……もーいちど勝てとか言われても無理だぞ、実力では完全に負けてたし……にしても……ここ一番でしず姉の言葉を思い出すとか、おれ、シスコンなんかな……?」

 勝敗決した。盈力に打たれ倒れるクズノハを受け止めて、辰馬も膝を突く。ガス欠でふらふらだが、それにしても力の消耗が異常すぎる。ここまで弱るはずがないところまで衰弱して、そこに脳内へと低く深い老人の声が響く。

「借りたものは返していただなくてはなりませんな、皇子に皇女。まあ、多少の利子はつけさせていただきますが……それでは、ごきげんよう。魔王の座の空位はこの老臣が埋めますゆえ、安心してお眠り下さい、両閣下」
「今の……」
「ユエガ……! わたしたちに力を貸したのは、この状況で回収する目的で……!」

兄弟が視線を交わし合うなか、水洞が崩落を始める。どう考えても事態は最悪だった。


・・
・・・

 その頃。

 水洞を脱するべく邁進する辰馬の仲間たち一行の前に、小柄な少年が立ちはだかる。

「瀬名くん……」
 雫の言葉に、覇城瀬名《はじょう・せな》はどこまでも冷たく陰湿な笑みを返す。それは必死に自分を繕い、背伸びしていた瀬名の未熟とはどうしても重ならない、老成した邪悪さを醸す。雫は本能的に腰に手をやるが、やはり今彼女の腰にいつもの銘刀・白露はない。
「ふ……停止10秒、というところか」

 翳した右手にぽぅ、と力の兆しがともる。それに真っ先に反応したのは雫で、発現する力の意味を理解したのは瑞穗。

「……ッ!」

『動きを停止した』大輔の首を無造作にもごうとする瀬名の右手を、同じく雫の右手刀が阻む。「ちょ、みんなどーしたの!?」棒立ちの仲間たちに声を飛ばすものの、大輔たちは微動だにしない。「トキジクです。瀬名さん……いえ、瀬名さんに憑いたなにものかの魔力が、時間を止めています!」ただひとり、雫と同じ時間を共有できている瑞穗がそう言った。

「ほう……ワシと同質の力と……そちらの桃色髪は魔術の枠外か……面白い、ワシの復活の贄に相応しい娘どもよ。いや、食うのはもったいない。奴○として永遠に飼ってやろうではないか……くく、皇子の女を寝取る、なかなかに愉しい愉悦よ」

「ッ! このガキ、いつの間に!」
「大概鬱陶しいガキでゴザルな!」
「ふん、五月蠅い……停止30秒」

 動きを再開したシンタと大輔は、身構えようとした姿で再び停止する。

「男はいらぬ……娘ども、この童《わっぱ》どもを死なせたくなければおとなしくワシについてこい。それとも……、実力差を突きつけられんとわからんか? いいぞ、ズタズタに嬲ってやる。娘の柔肉を痛めつけるのも、なかなか愉しいものだからな……」

 傲然と言い放つ、瀬名。
 雫と瑞穗は視線を交わし合い、雫が頭《かぶり》を振る。おそらく、雫の手に白露があったとして、そして大輔たちの命を扼されていなかったとしても、このなにものかは天壌無窮を発動させた雫よりさらに強い。雫だけなら玉砕を選んだかも知れないが、瑞穗の身柄も考えなければならないとなればそれはできない。

「わかった、いうこと聞きます。みんなは助けて」
「くく、お前たちが従うのなら男どもに用はないわ。ついてこい。わしの宮殿でたっぷりと可愛がってやる」

 瀬名はこの上もなく邪悪に笑うと、雫と瑞穗の腰に両手を回し、腰と尻をなで回しながら歩き出した。他の皆を人質に取られている現状、抵抗も許されず、雫たちは辰馬の救出を信じて瀬名の誘いに従うしかない。

 信じてるからね、たぁくん。

ひとまず今は瀬名にいいようにされながら、雫は自分のピンチには必ず駆けつける最愛の弟の顔を、強く念じた。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/06/07 07:24

23-06-07.くろてん再掲2幕1章6話

おはようございます!

まずこちら。
【黒き翼の大天使~日輪宮の齋姫】
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01064650.html

昨日はゲーム序盤のダンジョンを半分がた完成させました。とはいえまだ敗北エロシーンは作ってませんが。48歩でクリアになる設計にして1歩ごとにランダムエンカウントするようにしてあるんですが、ただ、このエンカウント率が妙に低いのですよね。乱数1~100、1~8はモンスター1、9~16はモンスター2……という具合にやってるので普通ならもっと敵遭遇率は高くなるはずなんですが、なぜか10歩ずつくらいでしか敵が登場しない。12歩ごとの中ボス戦に至るまで一回もエンカウントしない、ということもあってこれはまずいかなぁと思ってます。これまでこのやり方で問題なかったはずなんですが……。ともかく1章ベルゼバブ教団篇は大枠で完了、つぎは2章聖なる森篇で雫おねーちゃん、フィーリアママ、初音ちんとフミハウの出番です。

2章と並行で瑞穂さんたちは《神国》ウェルスに向かい、《女神の徒》であるならず者ビッグスに狙われながら古く権威があり腐敗している大聖堂に挑むわけですが……この3章のシステムをどうするか現在悩み中。ダンジョンクリア→イベントオープンのやり方はちょっと違う気がするのです。3章はならず者・ビッグスを主人公にして、彼が瑞穂さんたちを脅したり騙したりして堕とす、という形にするのがベストなのでしょうが、この「脅したり騙したり」をゲーム的にやる手法がなかなか頭に浮かびません。adv的に選択肢で結果を反映させればいいのでしょうか……。そのあたりが確定しないのでまだ、広輪さまに提出するイベント案もまだ完成しません。

さておき、本日もくろてん再掲、本日もよろしくお願いいたします!

………………
黒き翼の大天使.2幕1章6話.姉二人

 船を出せ、そう言われて、商人・梁田篤《やなだ・あつし》はむしろ感激に震えた。忠臣・山中伊織《やまなか・いおり》の血筋である梁田にとって、主君・伽耶聖《かや・ひじり》の裔《すえ》である辰馬の無茶を聞いてやることは苦痛よりむしろ喜びでしかない。当然、この島にやってくるのに使った大船を出すわけにはいかないから、船は新規に現地調達。商人としての交渉力を十二分に発揮して、そこそこの中型船帆船を買い入れ。

 そして操舵を任されるのは百戦錬磨の傭兵隊長、ジョン・鷹森である。歩兵・騎兵戦のみならず、彼は船戦《ふないくさ》にも習熟して航海技術にも長ける。今の状況においてきわめて頼りになる人物であった。

「乗り込め、野郎ども!」

 鷹森のかけ声で一斉に乗り込む辰馬たちと、非戦闘員として雇われた10人ほどの水夫たち。普段なら真っ先に船酔いでぶったおれる辰馬だが、今は神経が昂ぶり先鋭化しているために酔うこともなく脳髄の先端をチリチリ言わせている。

「あの触手ヤローどものねぐらっスよね。何処なのかわかってんすか?」
「あぁ、あのクソ女の技が炎だったからな。海の中で水温が高くなってるところ……海底火山とか、その近辺だろーよ。何カ所か、当てずっぽうで当たるしかねーが」
「間に合いますかね……?」
「間に合わせるにきまってんだろーが! しず姉たちを触手の生け贄なんぞにさせてたまるか!」
「……ふーん」
「んぁ?」
「いや、雫ちゃん先生が最初に来るんだなーって思って……」
「……別に順番とか、大した意味ねーわ。しず姉も瑞穗もエーリカも、全員大事だ。晦日《つごもり》もゆかも会長も、ついでに磐座《いわくら》もな」

「敵影! 戦闘員、戦闘準備!!」
 鷹森が短い湾刀《カトラス》をかかげて敵影を指す。先刻戦ったタコ頭の魔族、その頭だけを20メートル級に巨大化させた大蛸のような化け物は、しかし無数の触手からして普通の大蛸ではありえない。

「あ゛ー、やっぱキモいな、これ……ひとまずお前らに任す」
「了解!」
「お任せあれ!」
「やってやるでゴザル!」


・・
・・・

 いっぽうその頃。
 遠洋の海底火山、そのひとつの地下洞に、魔皇女・妖狐クズノハはいた。
 眼下には石のベッド、その上に横たえられる、無数の少女たち。クズノハの手足として働くタコ頭の魔族たちがその少女たちにのしかかり、腰を動かす。悲鳴と嬌声、そして魔族たちの法悦めいたうめき声が、洞内に響いた。

 牢城雫、神楽坂瑞穗、エーリカ・リスティ・ヴェスローディア以下辰馬の側妾《そばめ》たちも、ここに運び込まれた。クズノハの絶大無比な魔力により、彼女らの霊的能力は抑制されている。

 周囲の状況を見るに、異形の海魔に犯されることで少女たちは力を奪われ、その力は魔皇女クズノハへと献じられるらしい。逆説的に言えば犯されない限りはまだチャンスがあるということだが、神力霊力を封印されている以上、旗色は非常に悪い。

「ゃ、やめ……やめて、ください……っ、くぁぁ、ん……っ、辰馬さま、辰馬さま助けてえぇ……っ!」
「やめなさいよ、この、バケモンッ! わたしを誰だと思って……んぶふぅぅっ!?」

 瑞穗とエーリカ、二人の胎上にのしかかった海魔は、泣き顔で拒絶する瑞穗の121㎝にむしゃぶりつき、あるいはわめき立てるエーリカの唇を奪って口腔内を蹂躙する。触手を駆使した愛撫の技に、瑞穗もエーリカも、望まざるとにかかわらず性感を昂ぶらされ、身をほてらせた。

「あがあぁっ、あぎ、んああああっ! 痛いっ、やめてぇ! わたしはもう女神じゃないのっ、だから許してぇぇ!」

もと創神・サティアには苛烈な○問のような行為が待っていた。両手を後ろ手に縛り上げられて冷たい石の三角木馬のようなものに跨がらせられ、触手の鞭で打ち据えられる姿は、敗北女神の惨めさを際立たせていた。

「や、やめなさい……わたし、わた……新羅くん、助けてぇぇ!」
「じょ、冗談じゃないですっ! こんな化け物に、わたしが……ぃ、いやあぁ! 新羅、助けなさい、助けてぇぇ!」

 少し離れて、北嶺院文《ほくれいいん・あや》と磐座穣《いわくら・みのり》もまた窮地にあった。蠕動《ぜんどう》する触手に愛撫され、分泌される媚薬的な粘液に理性がほんのすこしずつ、しかし確実に削られる。精神的にもっとも脆弱である文は、知らず自分から腰を揺らめかし始めた。

「ここ何処ー? このひとたちなんなのー、美咲? なんだか怖いよぉ……」
「ゆかさまには手を出さないで下さい! わたしがお相手しますから……んぶぅっ!?」

 主君の身の安全を願うあまり自分の身を捧げると約束した晦日美咲《つごもり・みさき》には大勢の海魔がのしかかり、獣欲を発散すべく口腔や両手、そして普段シニヨンにまとめているがほどくと長い赤毛に、汚い逸物をなすりつけた。彼らが本番行為に至らないのは主の魔皇女が許しを出さないためであり、ひとたび許可が出れば彼らは容赦なく瑞穗たちの純血を奪うだろう。

 そんな中、魔皇女クズノハがなぜ、一気に女たちを犯させないのかと言えば。

 どうぅっ!
 側面入り身、深く相手の制空権に踏み込んだ状態からの肘打ち。外門頂肘。強烈な打撃に吹っ飛んだクズノハは壁面にぶちあたって一瞬、白目を剥いた。

「魔皇女様ってこの程度? ぜーんぜん、たいしたことないねっ……ハァ、ハァ……ッ」

 煽《あお》るように、雫。魔力欠損症である彼女は、霊的拘束も受けることなくクズノハに相対していた。

「息が上がっているのはそちらだけどね。やはり人間のキャパシティじゃ、それが限界じゃない?」

 ほんの一瞬とは言え失神させられたクズノハだが、余裕が崩れることはない。空威張りというわけでなく、実のところ雫がどう頑張ったところで体力と魔力の絶対差はどう逆立ちしても埋められない。この勝負は最初から結果が見えているのだった。

 クズノハが勝てば雫を自分の魔徒・眷属に変える。かわりに雫が勝てたなら、この洞内に監禁した全ての少女たちを解放する。この条件を提示してやると、雫は一も二もなく飛びついた。

 勝負を前にして雫は、決着がつくまで海魔たちに本番は控えさせる、という条件を付け加え、かくて新羅辰馬の「血統上の」姉と「生活上の」姉の一騎打ちとなったわけだが。裸の雫に水着を着せてやる慈悲もなければ、彼女がいつも振るう銘刀「白露《しらつゆ》」もない。圧倒的に不利だったが、それでも戦うほかはない。

 クズノハとしても、魔力欠損症の敵を相手にするのは初めてではなかったが、ここまで純度の高い相手は初めてだった。外から打ち込む魔力はほぼ完全に無力化されるか、必殺の威力を込めたものは回避される。となれば接触して直接、体内に魔力を打ち込むしかないのだが、まあそれをいなし、捌く技術の卓越していること。

 逸材。天才と言うべき。是非ともわたしの眷属に欲しいわね。

 内心に呟くクズノハに、ふたたび雫が肉薄。

 あえて受ける。

「鏡面反射」

 短く口訣。神讃や魔契のたぐいではない、もっと単純かつ高等な、自分の力に指向性をもたせるためのもの。身体の形成要素を鏡と変えることで、打ち込まれた打撃・衝撃・攻撃をはじき返す。自分の打撃の威力で、雫の小柄な身体がはね飛ばされた。小柄な身体には不似合いに大きな乳房や尻肉が、弾んで揺れる。

 自分の全力をカウンターで返されたのも同じだ、さしもの雫も大ダメージにふらつき、立ち上がることおぼつかない。膝を笑わせながらもなお立ち上がってのけた意思力はさすがというべきだが、もうクズノハ相手に戦える状態ではなかった。

「ま……まだ……ッ! この程度で……!」
「諦めなさい」

 クズノハはふ、と陽炎のようにゆらめくと雫の真横に出現、精妙無比の手刀を延髄にたたき落とす。血気がたまっていた延髄は血流を阻害されて機能不全を起こし、雫の意識を刈り取った。

「さて……」
「クズノハ、他の女をどう扱おうと構わないが、彼女を眷属化することは許さないぞ。雫さんはボクの妻になるんだからな」
「……うるさい坊やねぇ……それなら貴方も眷属にしてあげましょうか? 夫婦でわたしに仕えればいいわ」
「覇城の主であるボクが、魔族風情の風下に? 馬鹿にするのも大概にしろ……ぐっ!?」
「契約者として今まで目こぼししていたけれど。あまり思い上がるものではないわよ、ニンゲン風情。用済みの玩具《おもちゃ》なんて、壊すのになんの躊躇《ためら》いもないのだから」

 黒い熱砂をまとう不可視の巨腕が、瀬名の首を締め上げて持ち上げる。しっかり頸動脈を極められて、瀬名はたちまち泡を吹き、4秒きっかり、酸欠で意識を失う。

「そしてここで、真打ち登場、ね」

 洞の外に目をやるクズノハ。

「そーいうこった。お前がおれの姉貴だとして、容赦なしでしばき倒すから覚悟しろよ、ばかたれ女」

 新羅辰馬と、やたらげんなりした舎弟三人組が、かろうじて間に合った。

「おほぉーっ、裸の群れ! 瑞穗ねーさんもエーリカも、あのクソ生意気な磐座もッ!」「いーからみんな助けてやれ。おれは……こいつとケリをつける」
「さっき一方的にやられたばかりで、今度は勝てるつもり? 世の中そんなに甘くないと思うけど?」
「まぁな。お前の力の源泉がわかんなかったら勝ち目なかったかもしれんが……先代魔王の側近、海の魔神ユエガ……この海底火山そのもの……に『次代の魔王』である自分を担保に力を借りてるんだろ、お前は」
「!?」
「おれらの船が座礁してな。運悪いなーと思ったが、ユエガと接触できたのは結果として幸運だったな。どっちが次の魔王に相応しいかわからんから、おれにも力貸してくれるってよ」

 そのおかげで、大輔、シンタ、出水の三人も一時的に強大な魔力を身に帯びている。ただその前の大海魔との戦いと、難破経験、そしてユエガから力を得るためどろりとした粘液を全身にあびせられてぐったりしてはいるが。

「さてと……そんじゃ」
 辰馬は高く腕をかざす。ぶぁ、と広がる12枚の光の羽根。全身を薄く強靱にまとう金銀黒白の光。掌にともる光も、いつも以上に力強く。

「ふん……弟が姉に勝てないと言うこと、教えてあげる。魔力を全部吸い上げたらわたしのペットにして、徹底的に調教してあげるわ!」
 クズノハも手を上げる。黒みを帯びた紅蓮は竜のごとくクズノハの黒衣にまとわりつき、凶暴な咆哮を上げる。

 咆哮を合図に、両者地を蹴った。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/06/06 09:28

23-06-06.お絵かき(源初音)

おつかれさまです!

【日輪宮の齋姫】
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01064650.html

「聖鍵」でサブキャラのお当番復活がなるかならないか今ちょっとわからない状況でして、なので祈願の源初音私服ver。広輪さまの私服ラフをもとに描かせていただきました。あのラフだと頭部にでっかい帽子がつくのですけども、描き忘れです。途中で気づいたので描き足せばよかったんですけどね、気力がまだ少し足りない。さすがに創作やめようかなとかいう先日の落胆ぶりは、もう払拭されてますが。

現在ゲーム仮組を進め、顔グラサイズ変更プラグインとエロステータスプラグインのみ入れた状態で立ち絵も表示せず第1章を制作中。敵は蠅王ベルゼバブとその信徒たちですが、古き大神にして魔王の一角とはいえ、力を失ってアカツキに流れてきたという話なのでそこまで強くはない設定です。お当番サブヒロインは敗北凌○1枚か2枚。ここで登場したエーリカたちはこの先お当番はありません。

それでは、以上でした!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

遠蛮亭 2023/06/06 06:45

23-06-06.くろてん再掲2幕1章5話

おはようございます!

まず「日輪宮」直リンク。

https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01064650.html

で、昨日はゲーム序盤部を作って最初のダンジョンボス戦以外まで組みましたが、どうも瑞穂・アーシェ・ラケシス・サティア以外のサブキャラにも1枚か2枚はイベントCGがあったほうが良いみたいです。ので、瑞穂25枚アーシェ15枚ラケシス15枚サティア10枚の65枚を45枚ほどに圧縮して、サブキャラにもお当番をふるべきかと思いました。最初のイベント、古き邪神ベルゼバブを奉ずる教団に瑞穂さん、エーリカ、文さん、みのりんが挑むのですけども、小ボス戦、中ボス戦1、中ボス戦2、大ボスでそれぞれ文さん、みのりん、エーリカ、瑞穂さんの敗北エロを入れたくなったのです。そしてこのお当番が済んだらエーリカたちのお当番イベントは終わり。それでいいと思います。まあ、今回は1年近く開発時間があるのでだいぶ余裕があるのですが、イラストのお願いはそろそろ確定させなくてはなりません。

それでは、今日もくろてん再掲、よろしくお願いいたします!

………………
黒き翼の大天使.2幕1章5話.皇子と皇女

「馬鹿にするなよ、平民風情が!」
「吼えんな、くだらん選民思想が」

 漆黒の颶風と、金銀黒白の閃光が激突し、打ち消されるのは颶風。瀬名は立て続けに黒風を放つも、それらは辰馬の銀髪をわずかにそよがせる程度にしかならない。

 いや、ホントは案外つらかったりするけどな。一日に二度も魔王化して、結構消耗はしてるわけだが……。

「シンタ、瑞穗。しず姉たち連れて避難しろ。いまからちっと、大きな力を使う!」
「は、はい! 雫先生、これを」
 瑞穗が自分の長いパレオを外して雫にかけたが、非力ゆえに小柄な雫を抱きかかえることもできない。「あーもう! わたしに代わって!」エーリカが横から割って入り、「どっせい!」と姫君らしからぬ気合いとともに雫をおぶっていく。

「雫ちゃん先生って小柄な割りにすげーカラダしてたんスね……うーん」
「その記憶は速やかに消せ。さっさと避難しねーと身の安全、保証できねぇぞ?」
「おっと、はいはい!」

「行かないよ!」
「お前の指図を聞く理由はねーんだよ、ばかたれ」

 魔力波で雫たちを阻もうとする瀬名だが、辰馬の盈力波《えいりょくは》が妨害を妨害する。その隙に、瑞穗たちはドタバタと階下に走り去っていった。

「残念だったな、クソガキ。しず姉はお前なんぞにやらねーし」
「そうですか……まずあなたを殺すのが最初でしたね!」
「ガキがすぐ殺すのなんのって。ちっとは命の重さとか考えろよー、バカガキ」
「うるさい! 死ね!」
「……力の格が全然違うって、わかるだろーが。どっちかってゆーとおれはお前を殺さんように手加減するのが大変なんだからな」
「知ったことか! 貴様さえ殺せば、雫さんはボクの……」
 肉薄して組技を仕掛けようとする瀬名。辰馬は受けて立ってやる。右腕をとって、引き崩し、入り身になって靠法《体当り》を打ち込み、その衝撃で浮いた辰馬を、肘関節を極めたまま頭から投げ落とす。

「ん。60点だな」

 辰馬は空いた左手で難なく着地するやそう言って、地擦り掃腿で瀬名の脚を勢いよくはじくと、無造作なほどの動作で浮いた瀬名の腰をひっつかむ。
「こーいうのはな、詰まるところが「恨天無把《こんてんむは》」だ!」

 乱雑に掴んだ瀬名の身体を、思い切り一気に、天をひっくり返すがごとくに引き倒して地に叩きつける。武術要諦「恨天無把」。またの名を「?天芸《とうてんげい》」ともいう。旧世界、つまりわれわれの世界における中国武術・心意六合拳の要訣のひとつであり、打ち込む、あるいは引き倒すに際して「天から地に落ちる力(落勁)」を利して一気に叩き折るかのようにして全身全霊で打つ。おなじ術理術式であっても、この要訣を理解しているかどうかで威力は10倍も100倍も変わる。

 果たして辰馬に引き倒された瀬名は激痛に苦悶し、悶絶した。外は魔力障壁で強化されていようと、内側からのダメージは軽減のしようがない。

「ぐぶ、げふっ……がは……!! き、貴様、ボクは覇城の……」
「知るかよばかたれ。あんましおれを怒らせてくれんな。ホント制御難しいんだから、これ」

辰馬はそう言って、掌の上に球体を生み出す。その中に渦巻き逆巻く盈力のあまりの密度を見せつけられて、瀬名は震え上がる。しかしまだ最後の意地で、全力の黒風を辰馬の顔面めがけ放つ。

「だから。おれには通用しねーって……とはいえ、この力は魔王格だよなぁ……。おれは魔王の腹心とか知らんが、お前の契約者ってまず間違いなくそのあたりだろ? ……ほら、ここまで見抜かれてんだしさっさと呼べよ、飼い主さんを、よ。……なっさけないことに、魔族に飼われる大貴族サマ?」
「ふ……はは、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!」
「ぅわ、驚いた。なんだよ突然。気色悪い」
「いえ、なに……魔王格……そうですね、確かに。魔王格、か。あなたは魔王が唯一自分だけと思っているようですが、どうして魔王オディナの子が自分一人と思い込んでいるのです?」
「は……? そんなもん、かーさんが魔王との間に産んだ子は一人だけで……いや、『贖罪《しょくざい》』として魔族たちに胎を貸したとか……おれの、兄弟?」
「それでは魔王のを継いだことにならないでしょう。アーシェ・ユスティニア以前にいたのですよ、魔王の妻が。そして今もいるのです、本来魔王の位を継ぐべき、あなたの異母姉がね……ッ! 来い、クズノハ!! 契約者のピンチだぞ、早く力を貸せ!!」

「はいはい。貴方も口ほどのことはなかったわね……」

 突然、室内が暗闇に包まれ。
 闇の中から……否、闇そのものが人の姿を具象化した。

 鴉羽《からすば》を思わせる、長い漆黒の濡れ髪。豊満だがみごとにくびれた芸術的肢体を、シースルーを多用した扇情的な黒のイブニングドレスに包んだその美女に、辰馬はどこか見覚えがあった。ひどくよく見た顔な気がするが、誰かわからない。実のところ辰馬自身とうり二つなわけだが、それを肯定する素直さを辰馬は持ち得ない。黒髪に狐を思わせる一対の耳を生やした美女は、薄く酷薄に笑うとす、と手を差し上げた。

「ッ!?」

 回避すればこのホテルが倒壊する。辰馬はとっさの判断で盈力の防御結界を展開した。

 黒き狐の妖女は、関係ないとばかり差し上げた腕を振り下ろす。

 燐光が爆ぜた。

 ズドゥゥッ!!

 一撃。一撃で、魔王化した辰馬の全力での防御結界が、紙でも裂くように打ち破られた。

「……これは、すげーな……」
「姉としてはね。弟に負けてられないのよ、ノイシュ」
「誰が誰の姉だよ。姉貴風ふかすのはしず姉だけで間に合ってら」
「瀬名の話を聞いていなかった? 私は紛れもなくあなたの姉。母親こそ違うけれど、真実間違いなく、魔王オディナの娘……そして、魔王の継嗣として認められなかった皇女!!」

 妖女の瞳の奥で、恚《いか》りの焔が爆ぜる。それだけで室内の温度が数十度も増した。およそ人が生きられる限界を超えた温度に、辰馬と瀬名は噎せ返る。

「は、バカ、クズノハ! ボクまで巻き込むつもりか!?」
「あら、ごめんなさい。まあ、予定通り弟に会えたことだし。貴方の存在価値はもう、特にないけれど」
「ふざけるなっ! 全てはボクがあれだけ根回ししてやったおかげだろうが! 最低限の恩は返せ!!」
「魔族に恩とか言われても……まあ、あなたはお気に入りだし、助けてあげる」

ぱちん、と指を鳴らすクズノハ。

 瞬時、熱が止み、かろうじて辰馬は呼吸を取り戻す。「かは、けふっ!」せき止められていた呼気の揺り返しで、軽く咳き込んだ。

 わずかな感情の発露、それだけでこれほどの熱量を操る魔族。これほどともなるとクズノハが魔王の娘、というのもあながちハッタリとは思えなくなる。

 魔王の嫁って、かーさんだけじゃなかったのかよ……なんか、不愉快になるな……。

 魔王が母以外の相手を愛したことも不愉快だし、自分が複数の異性と肉体関係を持ってそれをあまり不貞と思っていない精神性の理由を突きつけられた気がしてそれも気分が悪い。なによりクズノハが自分こそ正統といわんばかりの態度を見せて自分や母を妾や妾腹の子、と見なす振る舞いもむかつく。三重に腹が立ち、苛立ち、辰馬は紅い眼光をぎらつかせる。

「いい目。だけれど……わたしには及ばない!」

 人差し指を、辰馬の胸に突きつけるクズノハ。さっきまでのものは外からの灼熱。しかし今度のものは、辰馬の胸の中に強烈な熾火《おきび》を灼いて止まらない。解呪なりなんらかの対抗魔術を練り上げるだけの余裕も与えてもらえない。魔王化して無敵のはずの辰馬が、まったく一方的にやられてしまう。片膝ついて、まるで跪かされるような姿勢は辰馬にとって無上の屈辱だった。

「く……あぁ……ッ!!」

 なんとか意思力だけで、熾火の鎖を引きちぎり立ち上がる。すかさず腕を振り上げ、クズノハに目がけ、振り下ろした。全力全開の輪転聖王《ルドラ・チャクリン》。金銀黒白、天衝く光の柱は、しかし臣下が王を憚るようにクズノハを避け、左右に割れた。

「ッ!?」
「あなたの「意思」は認めなくても、「力」はわたしこそが王と認めているようね、ノイシュ。さあ、諦めなさい。そしてその力のすべて、お姉ちゃんに捧げなさい!」

「!!」
 お姉ちゃん、という言葉を耳にした瞬間、萎えかけた心に力が戻る。

「誰が、おれのおねーちゃんだ、ばかたれ!」

 意思を振るわせ、背筋を伸ばす。クズノハはそれとみて無慈悲に決着をつけようとしたが、

「クズノハ、こんな半死人、放っておけ。それより雫だ」
 覇城の当主たる少年が、そう言ってクズノハの気を逸らした。

「そうね……うん。じゃ、あの娘たちは連れて行くわ。まだ心が折れていないなら、追ってきなさい、ノイシュ」

 闇をまとって、クズノハと瀬名は消える。

 連れて行く……って、クソ……!

 辰馬は疲弊しきった身体に鞭打って部屋を飛び出し、大慌てで階下に降りる。部屋に飛び込むと、神妙な顔の大輔、シンタ、出水が膝をつき、辰馬を認めるなり土下座する。

「すんません、辰馬サン! オレらがついてながら、みんなをさらわれました!」
「このうえはどんな罰も……!」

「いーから取り返しに行くぞ。あのクソ女が触手のバケモンたちのボスだとして、なら外洋の大質量ってのもあいつの手下か、仲間だろ。梁田と鷹森に連絡! みんなが生け贄に捧げられる前に、巣穴を見つけて全部ぶちのめす!」

 そう吼える辰馬はもはや魔王化を維持できず、普段のままの状態に戻っている。魔王状態で手も足も出なかったクズノハにどう対抗するのか、鍛え直すだけの時間もないにもかかわらず、辰馬はいったん退くという選択肢を微塵にも頭に上せなかった。

 あんなクソガキにしず姉をいいよーにさせるわけにいかねぇし、触手のバケモンなんぞに瑞穗もエーリカも渡してたまるか! みてろよクソ女!

 消耗は激しいが、闘志はなお燃えさかる。魔皇子と魔皇女の喧嘩は、前哨を経て第2フェーズに移行しつつあった。

………………

以上でした、それでは!

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

1 2 3 4

月別アーカイブ

記事を検索