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純愛ルートの記事 (4)

遠蛮亭 2022/06/01 19:57

22-06-01.「くろてん」進捗

おつかれさまです!

昨日スワティイラスト描いて、今日は審査待ちだけだったのでその間に新しく組みなおした「くろてん」の進捗など。まずキャラ立ち絵の足から下を断ち切りにしました。TRP_skitの挙動的に足までのイラストを座標ずらして使っているとおかしくなる、というのがあるので、やむなく断ち切り。そして新規のシナリオ冒頭約5分…。

全体にそれほど変わった、ということはないですが、システム面でいろいろとシンプルにはなりました。あくまで動作確認用なので映り込まなくていい主人公のキャラチップが映ったままだったり、表情が1種類固定だったり、辰馬くんのほかにデフォルトの仲間キャラが残ってたり、あと遠蛮の責任ですがルーチェおばさん、2年近く前の絵なのでこれはあかんやろ、というレベルになつてたりしますが…。ルーチェおばさん登場させずに「学生寮に戻る」ルートの方がよかったかもしれないですね、こちらだと夕姫さん、繭さんとエーリカが登場します。こうやってADVパートだけで組んでみるとツクールって本当に汎用性高いなというか、なんでもできるシステムっていうのは奔騰だなと思います。このまま選択肢の結果の好感度プラスマイナスでお話を分岐させる紙芝居にしてもいいのですが、果たしてどうするか。くろてんでは売春システムも出産システムも使わないので、ゲーム性を追求するタイプのお話にしづらいのですよね。タクティカルコンバットとSLGプラグイン、この二つが完成しないとまだいろいろ、わからないんですが、ひとまずこのまま最後まで組んでみようかと思います。

それでは、おひさしぶりのくろてんでした!

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遠蛮亭 2022/05/04 08:53

22-05-04.くろてんリライトc5-8

おはようございます!

今日はくろてんリライト、最終回です! といっても物語としてはまだまだ途中。お話に一応の区切りがつく「ヒノミヤ事変篇」までにはあと1エピソード「竜の魔女篇」を挟みますし、消化してない設定もありで「ここで終わり?」みたいなところが少しあるのですが。ともかくも一応、ゲームくろてん第1幕1章はこんなふうです、という今作はこれにて完結。それではよろしくお願いします!

くろてんリライトc5-8

 サティアの猛襲。土地神を殺して得た女神の精髄、その力を持って増幅した速力でもって一気に接近し、光剣クラウ・ソラスを爆裂させて決着をつける。この戦闘スタイルに女神は絶対の自負を持っていたが。

当然、新羅辰馬には通用しない。

引き込み、躱し、打ち込みと光剣爆裂のタイミング差の間、膝蹴りを脇腹に打ち込む。

「かぅっ!? こ、この……!」
 虚を突かれ、蹈鞴を踏むサティアに今度はこちらから踏み込む辰馬。踏み込みと打ち込みは一挙動で同時、動きにつけいる隙を与えず、あご先への掌打、転じて肘打ち、さらに膝蹴りから、上段回し蹴り。洗練され研ぎ澄まされた、格闘の教本通りに無駄のない動き。歩を出したときにはすでに攻撃が終わっており、また打ち込みは常に対角線で最小限の動きにとどめる。

「格闘術……人間、ごときの……!!」
 サティアは強引に辰馬の攻撃のコンビネーションを割ろうとして、ふ、と辰馬が身を沈める。

「!?」
「シッ!!」
 両足をまとめて、なぎ払う掃腿。もちろん一撃で終わるはずがない。そこから跳ね上げの蹴りで高く打ち上げ、二段の回し蹴り、さらにだめ押しのかかと落としで地に叩き落とす! 一呼吸の間に瞬点の5連打。着地、残心。

「人間ごときの格闘術が、どーしたって?」
 そう言って挑発してのける。真なる創世の神シヴァ、魔王オディナの力と記憶を呼びだし自分のものとしながら、辰馬が拠って立つところは神魔のそれではなく人のそれ、新羅江南流。当然、神と魔王の力があって初めて女神サティアに匹敵できているのは間違いなく、それを使うことに躊躇もないが、辰馬は神魔の力というものに溺れない。それは自らの力に酔いしれ陶酔し耽溺したサティアとは完全なる真逆。

「く……ぁ、あ、痛い、痛いぃいいぃ! こ、こんな、ひどい、わたしは……女の子なのにいい~~~ぃっ!」
 突然、身をよじって苦しみ出すサティア。これまでの辰馬の行動パターンから、こう出れば隙を見せると踏んだ。

案の定、つかつかと寄ってくる辰馬にサティアは光剣を突き立て……ようとして空振り。その側頭部に掌底がたたき込まれる。

「あぐぁ……っ!?」
「バレバレなんだよ。演技するなら剣ぐらい置け、ばかたれ」
「く……」

 それでも。一応は心配して寄ってきた辰馬を間合いに入れたことで、この瞬間サティアは優位に立っていた。自身の神力を光剣クラウ・ソラスでさらに増幅、増幅した神力を地に打ち付けて、周囲に膨大なエネルギー波を巻き起こす!

「ち……」
 辰馬はその衝撃波を一人で背負い込む形になった。自分一人で戦っているならさておき、この近くには瑞穂や雫やエーリカや仲間たちがいる。それを巻き込まず今の一撃をしのぐには真っ向で受け止めるほかはなく、真っ向で受け止めたからには創世の神と魔王の力を持ってしても無事では済まない。

 片膝をついた。

「はは……ははは! 一時はどうなることかと思ったけれど……やっぱり! わたしの勝ちね!」

………………
 くそ……しくった……。

 辰馬はそのまま、力なくうなだれかけ。

『わたしの神奏とあなたの焉葬、ふたつを併せて焉奏』

 ? かーさんの、声?

 目の前に幻が見える。それはかつて17年前の魔王の記憶。女神グロリア・ファル・イーリスを打倒する力を求める「終焉の銀の魔王」オディナ・ウシュナハに、当時16才の聖女アーシェ・ユスティニアが啓示を与えた一つの鍵。

 あ、いかん。この先濡れ場になるわ。

 辰馬はそこで無理矢理に意識を覚醒させる。幻視の世界であれ実父と実母の濡れ場など見たくはない。

 まあ、「焉奏」のやりようはだいたい分かった。

 うし。

………………
「……今ので、立つの?」
 残党を始末しようときびすを返しかけたサティアは、ゆら、と立ち上がった辰馬に愕然とする。完璧に致命の威力だったはず。よしんば魔王の霊威が所有者を守るべく本能的に発動したのだとして、そうそう、簡単に動けるところまで回復するはずがない。

 これは辰馬が腕に巻く安っぽい腕輪の力だった。夏祭りの縁日で「みんな仲良くすること!」という初音の願いを受け、エーリカが買ってきた腕輪。これに辰馬はいつも霊力を注ぐ封石と同じ要領で力の一部を注ぎ、いざというときに自分のダメージの何%かを肩代わりできる霊具に、この玩具を仕立てていた。ここにはいない初音たちの力も、辰馬は背負っている。

「おれは一人で戦ってねーから……さあ、決着といこーや、サティア。もう一発、今のを打ってみろ。それを突き破って……おれが勝つ!」

 辰馬はここでようやく、氷の短刀・雪王丸と焔の短刀・女郎花を抜く。斬るべきは肉ではなくして魂。

「いいでしょう、死に損ない。今度こそ、引導を渡してあげる!」
「やってみろ!」
 サティアが仕掛ける。光剣クラウ・ソラスを起爆剤とした神力の超爆発、であれば名付ける名前はこれしかない。彼女自身が生まれ落ちた、その領域から。

「常若の神の国<ティル・ナ・ノーグ>!」

 辰馬は膨張する光の奔流に身を躍らせ、剣光二閃。

「嵐とともに来たれ! 焉奏、輪転聖王<ルドラ・チャクリン>!」
 ここに辰馬の中の神力と魔力が完全に融合、本当の意味での「盈力」となる。極限まで引き絞られた盈力の閃光は二つ絡み合って、金銀黒白、一条の曳光を引く。神力による「神奏」でもなく魔力による「焉葬」でもない、両者交わるところ故に「焉奏」。過去に存在した、そして未来に存在するありとあらゆるエネルギーを超越した大破壊力が、狭い空間の一点、辰馬とサテイアの激突し、交錯するその場に炸裂し。

 その日。

 天つく黒白の光の柱を、世界中の人々が見たという。

………………
 しばしの空白の後、新羅辰馬は目を覚ます。全力を使い果たし、すでに魔王の力も黒翼も消えている。が、一度手にした境地を忘れることはない。

「ふう……」
一仕事、やりきった思いでため息。と、そこに映り込むのはシンタこと上杉慎太郎のどアップ。キスできそうなくらいの距離にぎょっとして辰馬が飛び退くと、

「辰馬サン、ケツ触らせて!」
「あぁ゛ぁ゛!?」

 いきなりな言葉に、辰馬は疲労困憊から一瞬で回復、シンタの顔面に蹴りを入れる。

「げぶぅ!?」
「なにいってんだお前、ばかたれ!」
「いやだってオレ頑張ったんすよー?」
「やかましい! おれだって頑張ったわ!」

「主様、起きたでゴザルか」
 次にやってきたのは出水。いかにも疲れたという感じで、辰馬たちのそばにぐたりと腰を下ろす。

「おお、出水。結構無茶したか?」
「寿命が縮む思いでゴザルよ~、まあでも、新しい話のタネができたのでこれはこれで」
「そか。んで、大輔は?」
「筋肉ダルマでゴザルかー……」
「あー、あいつは……」
「? なんか、あったのか?」
「まあ、あったっちゃあったんスよ……」
「ちょ、もったいぶんな! なにがあった!?」

 心配で青ざめる辰馬。その正面に、

「彼女が出来ました」
 現れた大輔には女子大生くらいの少女がより添っていた。

「は?」
「いえ、見ての通りですが」
「……誰?」
「長尾早雪さんです。先ほどまでは神使ラティエルという名で」
「あ、あー……神使……」
「先ほどは、女神に操られてとはいえ大変、申し訳なく……」
 そう、頭を下げる早雪はこちらが恐縮するほどにしおらしい。実母アーシェしかり雫しかり、年上にどうにも弱い辰馬は一緒になって頭を下げるほかはなかった。

「いや、そらいーけど……へえー、大輔に……」
「まったく、なんでこのダルマがモテるんだよ、世の中不公平っスよねぇ」
「お前には林崎がいるだろーが」
「はあぁぁ!? 誰があんな貧乳! 辰馬サンなに言ってんスか!?」

「やははー、シンタくんも案外、素直じゃないとこあるよねー♪」
「シンタさあ、アンタ、バレバレなんだから正直になりなさいよ」
「上杉さん、おめでとうございます……」
 雫、エーリカ、瑞穂も登場して、シンタに生暖かい台詞を投げかける。シンタはのたうち回り、いかにも不愉快そうに呻いた。

「くああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~! なんでみんなして……!」

「まあ、それはどーでもいいとして。あいつだなぁ」
 辰馬は離れた場所に倒れる女神サティアを、あごで示す。

「あぁ……う……」
「幽世結界が、解けます」
 瑞穂の言葉が引き金になって。

ここ4年来、宮代の村を覆い尽くしてきた薄紫の天蓋が爆ぜて消えた。

「捕縛して司直に突き出すとして。こいつがまた悪さできんよーに神力封じるって、出来るのか?」
「ヒノミヤの祭儀府、呪術の神月家が蔵する封神符であれば」
「神月って……」
「はい。神月五十六、わたしの仇敵です……」
「……そか。なら、神月を倒さにゃならん理由が一個増えたな」
 痛ましげに言う瑞穂に返して、辰馬は意思を新たにする。戦いの日々は終わらない。瑞穂の仇、神月五十六を倒すまでは。

「にしても……エロい格好っスよねぇ、この女神」
 シンタが言って、

「で、ゴザルなあ」
 出水が応じる。

「お前たち、レディの前だぞ」
 大輔がたしなめるが、

「やっかましーんだよ、クソダルマ! 紳士ぶってんじゃねぇーぞエロ介!」
「おま……誤解を招くことを……っ!」
 逆に噛みつかれた。

「それで、この子どーすんの?」
「……殺し、なさい……」
 エーリカのつぶやきに、返ってくる力ない声。いつの間にか目覚めていたサティアは弱々しくそう言い、辰馬たちは一瞬、再戦かと身構えるがサティアにその力はない。輪転聖王の威力はサティアの女神としての霊威、威力、権能、それらを根こそぎに吹き飛ばしていた。もとの絶大な力を復活するまでには、数ヶ月から数年はかかるだろう。

「……この地で力を蓄え、母を超えるという望みも淡く潰えたいま、生きていても仕方がありません。殺しなさい」
「んー。簡単に死ねるとか思われてもな……」

 そこに。

「「「そのとおり!」」」
 突然割って入った、男たちの胴間声。村の男衆100人ばかりが、辰馬たちを囲むようにならぶ。

「簡単に死なせてなぞやるもんかよ! そのクソ女、メチャクチャにブチ犯して徹底的にわからしてやらんと気が済まんわ!」
 一人がそう気炎を上げると、ほかの連中もそうだ、そうだと追従する。
「復讐だ! ズタズタにして村の軒門に晒してやる!」
「あ゛ぁ!?」
 聞くに堪えない下品な野次に、辰馬がいらつきをあらわにすると、

「かばい立てする気か!? この女を倒してくれたことには礼を言うが、邪魔するなら貴様たちもただではすまさんぞ!」
「あんなぁ、おれはそーいう薄汚い感情のためにこいつ倒したんじゃねーんだよ。おまえらホントしばくぞ?」

「たぁくんマズいよ? この人たち本気だし、殺しちゃうわけにいかないでしょ?」
 雫が辰馬の袖をちょちょいと引いた。しかし辰馬は引かない。サテイア戦ですらまだどこかぼんやりしたところがあった表情には明確な怒気があった。この村人たちの他力本願と身勝手ぶりに、どうしようもなく怒りがこみ上げる。

「やかましーわ! つまんねーことガタガタ言うなら、一般人でも殺す! 報復とか復讐とか、お前ら理由つけて女犯したいだけやろーが!」
 雷鳴のごとき一喝に、男たちの気勢がそがれる。辰馬はその隙に乗じ、倒れるサティアを抱き起こすとぐいと思い切り抱き寄せた。

「こいつはおれの女だ、手ぇ出す奴ぁ殺す! 文句あるやつぁかかってこい、一瞬で塵にしてやる!」
 声高に叫ぶと、腕の中でサティアが顔を赤らめ、辰馬の薄い胸板に顔を埋めた……のだが、辰馬はそれに気づかない。

 先ほどの光の柱……輪転聖王を見せつけられて、村人たちも徹底的に高圧的には出られない。辰馬たちは感謝されるどころか恨みがましい瞳で睨まれながら、宮代を追い立てられることになった。

………………
「あー、クソが! なぁーにが報復だ、ばかたれ、ばかたれ、ばかちんが!」
 櫟まで戻り、汽車に乗っても辰馬の憤然は収まらない。普段のぽやーとした辰馬からすると信じられないほどの怒りようだった。

「たぁくん、静かに。汽車の中だからねー」
「だってなぁ……あげんこと言われると、なんのために戦ったのかわからんくなる……ホントに、守る価値あったんかな、人間……」
「それはたぁくんが決めることだけど。まぁ一面だけ見て決めちゃダメなんじゃないかなー」
「そら、そーか……。んで、サティア? おまえなに黙ってんの?」
「は……は、は……ひゃい……。あの……新羅、さん?」
「なんだよ」
「わたしのこと……『おれのもの』って……」
「あー……あれか。そーでもいわんとおさまりつかんかったからな。別に拘束するつもりじゃねーから、気にしないでいい。まあ、数年は罪を償って、牢屋暮らしになるとは思うが。その先は好きにすりゃいーんじゃねーの?」

「そ……そう、ですか……。はい……」
 何やら残念そうに縮こまるサティアに怪訝な視線を向けるも、辰馬は消耗と汽車の揺れに眠気を誘われ、眠りに落ちる。

………………
 そして、蒼月館男子寮・秋風庵で目覚めると。

 サティアがいた。

「おぉおぉあ!?」
「旦那様、大声を出されては傷に障ります」
 サティアは宮代での傲岸さはどこへやら、おとなしくしおらしく、それでいて積極的に辰馬に迫る。もともと女神だけに絶世の美女であるサティア、それに扇情的な衣装で迫られて、戦時でない辰馬は別の意味で興奮してしまう。辰馬の分身が固く高ぶりを感じ始めたのを確かめて、サティアはにこりとほほえんだ。

 その笑みに不穏なものを感じて、辰馬はすささとベッドの上を逃れようとするが。

 熱っぽい瞳のサティアはぐいぐい追ってくる。普通に全身と後じさりでは、どうやっても後じさりに分が悪い。

「あ、あの……サティ、ア……? これなに?」
「属神契約です♡」
「ぞくしん……?」
「はい♡ 旦那様の属神になって、一生従えていただきたく思います♡ そのために、契りを……、お情けを、下さいませんか?」

 夢見る乙女の顔でうっとり言って、最後は不安げに上目遣いのサティア。情けを乞うている態度なのだが、端々にどこか捕食者の雰囲気があって怖い。恐怖に震える辰馬の着衣をサティアは優しく脱がし、自分も扇情的なキトンを脱ぎ始め……、

「ちょ、待て待て、待って……ぅっぎゃーっ!?」

………………
…………
……

そうして、辰馬は女神との契約を果たした。

それはさておき。

………………
 その頃、アカツキ王城、柱天。
「お呼びでしょうか、宰相閣下」
「うむ。先刻、宮代の方角で発した光の柱は?」
「はい。わたしのほうでも観測しました。盈力です」
「新羅辰馬。魔王と聖女の子、か。蓮純の甥ということでこれまで放置していたが、あれほどの力を見せつけられてはほったらかしというわけにもいかん。猛獣には縄をかけておく必要があろう」
「はい。では、晦日美咲、引き続き内偵を続けます。いざという時は……」
「消せ」

 密偵少女が去った後。宰相と言われた男……アカツキ皇国宰相・本田馨綋は執務室の椅子に深く座り直し、眉間のしわをほぐした。
「アーシェ・ユスティニアの予言……、あれが世界を壊すことがなければ、それが一番よいのだが……」

………………
 さらに同じ頃。
 ラケシス・フィーネ・ロザリンドとアーシェ・ユスティニア・新羅は、宮代の方角で上がった光の柱に目を奪われた。

「きれい……なんて……神々しい……」
「あれは……あの人の……」

 聖女ふたりはそうして、盈力の奔流を神々しいものと受け止めるにもかかわらず。彼女らに随行するウェルス神聖騎士団の面々の受け取り方は明らかに違っていた。彼らにとってもっとも尊貴なるは女神グロリア・ファル・イーリスの「純粋な」神力の光。魔力と融合してなんとも知れない力になった神光など、邪悪の象徴としか感じない。

「やはり、魔王の皇子。我が剣にかけて、必ず討ち果たす……!」
 神聖騎士団団長・ホノリウスはそう言って、魔皇子討滅の誓いを女神に捧げる。

………………
さらにさらに同刻。
「女神様も案外、だらしなかったわねぇ。もっとも、盈力なんていうものがそもそものイレギュラー。仕方ないかも知れないけど」
 薄暗い玄室。
 赤毛の少女はそう言って、楽しげに嗤った。

 緋の瞳は竜眼、こめかみからは竜角、背中には竜翼。紛れもない竜の相。

「まあ、女神様の仇はあたしが討ちましょう。皆さんどうぞ、盛大に踊ってね。この魔女の旗の下に」
 竜の魔女、ニヌルタ。それが彼女の名であった。


 黒き翼の大天使・第1幕1章「女神サティア篇」了

ここまでになります!

このシナリオが共通ルートで、ゲーム版になるとシナリオ途中からヒロインごとに分岐させる必要があるのでこのまま、というわけではなくなると思いますがひとまずの完結。これからまずは「むらいつ」のシナリオやって自分の中の陵○成分をはき出したら、いよいよ「くろてん」に着手。「むらいつ」のぶんリリースは遅れることになって24年内ということになるかと思います。それでは今回これにて!

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遠蛮亭 2022/05/01 16:23

22-05-01.くろてんリライトc5-6

おつかれさまです!

お久しぶりの1日2回更新。まあ進捗とかあるわけではなく、くろてんリライトなんですけども。「むらいつ」のほうもシナリオ進めて、今日は晦日美咲さんの○問シーンを書きましたが……あまり○問っぽくならなかったので、どうしたものかなと。吊るして、鞭打ちして、鞭の柄で処女喪失させたあと獄吏のモノで……程度だとヌルすぎですよねぇと思うわけです。ソフトSМかよと。もーちょっと激しくせんとだめかなと。とはいえCG枚数は17枚が限度(でないと「くろてん」が厳しくなるので)なのでこっちは増やせませんし。文章だけでも満足いただけるよう、精進せねばなりません。
ともかくもこちら、くろてんリライトになります。

くろてんリライトc5-6

牢城雫とラティエル=長尾早雪。

かたや修練成果の肉体の力で、かたや女神から借り受けた天使の力で。

その力は伯仲する、かに見えた。

ラティエル=早雪が光弾を放ち、雫がそれを斬り捨てる。雫が間合いを詰めて斬撃、ラティエル=早雪は空間転移で雫の背後をとり、刺し貫こうとしたときにはまた、雫がラティエル=早雪の背後に回る。

二転三転。攻守めまぐるしく入れ替わり、留まることがない。

「ふむふむ。光弾と、空間転移。ほかにはー?」
「軽々に手の内を明かすはずがないでしょう。……けれど、お見せしましょう。剣の舞を!」
 ラティエル=早雪は雫からやや距離を置くと、剣を地に刺し動きを止める。

「んん?」
「微塵になりなさい、牢城雫!」
 次の瞬間、周囲を埋めつくす光の刃、刃、刃。数百数千におよぶ光の刃、それ自体に雫を殺傷する力はおそらくない。そもそもからして雫は魔力欠損症。よほど馬鹿らしい神力魔力で押し切られないかぎりは魔術が通用しないのだから。先ほどのラティエル=早雪の一撃にしても普通の人間なら致命傷のところ、雫が受けたのは魔力でというより衝撃波によるダメージだけだった。

 なので魔力塊をどれだけぶつけられようと脅威ではないのだが。

 今回ラティエル=早雪が宙を回せる光刃には、実態がある。おそらくは強力な念力による物体操作。砂鉄を操り刃にし、それを数百数千同時に、無軌道とも見える中、精緻にコントロールしてのける演算能力は天使と融合した神使ならでは。

「防げるものなら、防いでみなさい!」
 叫び声と同時に、雫へと殺到する数千万の刃を。

 雫は後退せず、前進。すべて叩き落すことは不可能と諦め、自分に致命傷を及ぼす恐れのある攻撃だけを薙ぎ払いつつ前に前に進む。
 ラティエル=早雪の脳裏に恐怖が過る。いくら致命傷を避けているといっても、恐怖と痛みは避けられないはず、身がすくみ動きが鈍るはずなのに、雫の動きにはそれがない。なぜか、と思ったそのときには雫の太刀の間合い。

「りゃっ♪」
 かわいらしい気合の声とは裏腹、ものすごい剣圧の胴薙ぎ。峰打ちでなかったならこの瞬間にラティエル=早雪は絶命しているはずであった。反対側まで吹っ飛ぶラティエル=早雪より先に、それこそ空間転移でもしているのかというほどの速力で先回りした雫が、さらに斬、その場でバウンドさせられたラティエル=早雪に断!

 一撃を食らうごとに、ラティエル=早雪は魂ごと裂かれるようなダメージ。対する雫は全身に擦り傷はおうものの、深刻なダメージはなし。役者が違った。

「さー、雫ちゃんおねーさんのおけーこはまだ終わんないよー? それとも降参しちゃうかー?」
「馬鹿な。この程度で降参するわけがないでしょう……とはいえ、ひとつ聞きましょうか。あなたの暴虎馮河、あれはどうした心の作用です?」
「んー、たぁくんが信じてここを任せてくれたし? 負けるわけにはいかないよねーってゆーか。まあ、わかりやすくゆーと」
「いうと?」
「愛の力!」
 どーよ、と言いたげに、胸をそらしてのける雫。ラティエル=早雪は数瞬、呆然と口を開けたが、すぐに笑い出した。その笑いはやがて狂笑と化す。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ! 愛だの恋だの、下らないんですよ! 愛で世界が救えますか!?」
 ラティエル=早雪は瞬時に神力を練り上げる。念力で地中の鉄を収集、それを巨大なひとつの塊……この世界でもっとも巨大な怪物、竜を形成。竜は鎌首をもたげて雫に襲い掛かり、しかし剣閃ひとつで斬り伏せられる。ラティエル=早雪は自分の失策を修正、大物量を一度にたたきつけるにもっと適したモノを想起し、その姿を取らせる。すなわち汽車の形を。

「ふふーん、来んさい、勝負してあげる」
「挽肉になりなさい!」
 念力に操られた汽車は一直線に雫目掛けて突進し。

 そして。

 真っ二つに裂かれて、形を保てず砂鉄に戻り、落ちる。

「そん……な……」
「決着だよ!」
 そのまま、前に突き進む雫。ラティエル=早雪はかろうじて防御、それを雫の太刀が押し崩して、二の太刀を浴びせ。そこから、切り下ろしの手首打ち、さらに胴薙ぎ、続いて反対からまた胴を薙ぎ上げ、中天に抜けた刃を天から切り下ろす! 瞬間に六斬撃を受けて、ラティエル=早雪は轟沈した。

「愛で救えないものはたくさんあるけど、愛でしか救えないものもたくさんあるんだよー、早雪ちゃん?」

………………
「くぁ……ち、このゾンビどもやったら強えぇ……」
 シンタが呻く。甘粕の斬撃を受けて、紙一重で回避したものの背筋が凍る。この4人のゾンビたち、もとの実力なのか女神に与えられた力なのか、およそ僻地の村に閑居するもと冒険者、というレベルを超えていた。京師太宰にもこれだけの使い手がどれだけいるか。

「強いのもアレだが……スタミナがバケモノだ。何度殴っても……」
 大輔が柿崎を殴り倒し。すぐに何事もなかったかのように立ち上がる相手に辟易する。これまで同じだけの手ごたえをすでに10発は与えているのに、向こうはまったく消耗がない。

「赤ザル、筋肉ダルマも、陣形崩すなでゴザルよ! 拙者がこれ、操りの糸を断つでゴザルから!」
「そーよアンタら! しっかりヒデちゃんの盾になりなさい!」
「盾とかゆーなガトンボ! とにかく、わかってっからさっさとやれよ、デブオタ! トロトロやってたら全滅だっての!」

シンタたち3人はかなりの苦戦中だった。相手が不死兵でなければすでに勝ちを決しているはずなのだが、相手が倒れてくれない、という時点で戦闘は通常のそれではなくなる。延々と、いつまでも敵と殴り合わなくてはならないのだから苦しいなんてものではない。
「……もーな、いっそこのダガーで刺し殺そーかなとか思う……ま、やらんけど」
「そーだな。俺も殴り殺したい気分になった。……当然、実際殺りはせんが」
 とは言いながら、精神的に蝕まれているのは間違いなかった。向こうが全力で殺しに来ているときに、こちらは力をセーブしなければならないというのは相当につらい。

 その間、出水は霊的根元を探る。女神サティアが直接に彼らを操っているとすれば、もはや殺す以外に手はないとして。

 おそらくそれはあり得ない。わざわざ末端にまで女神が目を光らせていられるのであれば、そもそももっと効果的に辰馬たちを殺しに来たはずである。ならば女神は完全ではなく、ここで不死兵を操っているのも、おなじ不死兵たちの一人。

 それを最初、出水は直江と見定めたがこれは空振り、霊視の眼を直江から宇佐美に移し、宇佐美から霊力の糸が仲間たちに伸びるのをみつける。そこから始まる、出水と宇佐美の霊力の綱引き。力は拮抗し、どちらかといえば宇佐美の側に優位であったが。

「シエルたん、力を貸してほしいでゴザル!」
「うん、いーよ……優しくしてね、ヒデちゃん♡」
 シエルの助けを得て、出水はぶよっとした丸顔に勝利の快哉を浮かべる。興奮で息が荒くなるのを感じながら、高らかに祝詞を上げる。

「八卦《はちがけ》、坤兌《こんだ》、地澤臨《ちたくりん》。肥沃の大地に澤、きらめきて、豊穣を乞い、幸運を願う! 誓願、天地の理、我が意のままになさしめよ!」
 出水秀規という男はただのデブではない。もともとが太宰の神職の血筋であり、将来を嘱望され天才児と呼ばれたこともあったのだ。あまりに強すぎる性欲の処理にエロ小説を書き散らかした結果家を追われた荒淫癖のバカではあるが、神力を持たない男にしてはかなりに高い霊力を備える。八掛法術は桃華帝国から流れてきた鬼道の流れをくむ、出水家家伝の技であり、出水の卦は坤卦すなわち大地の徴。そこに豊かな水の卦「兌」を掛け合わせることで導かれる地澤臨は豊かさと幸運を意味し、一時的に神がかり的な強運を出水に与える!

 宇佐美が怪訝げに片眉を上げる。それまで押していたはずの力の綱引き、その主導権を出水に握られつつあった。受ける強烈な霊力波に、女神の力を受けた宇佐美ですらその身を焼かれそうになる。

 翻って、出水自身の受けるダメージはもっと深刻だった。女神から力を授かった相手に真向の霊力勝負を挑むのだから当然と言えば当然だが、一瞬ごとに魂が焼き切れるほど、沸騰するほど。耐えがたい痛みと衝撃に泣き言を言いたくもなるが、そこを食いしばってこらえる。ここでへたれてはこの場にいる資格がない。

「截!」
 九字を切り、手刀で横薙ぎに払う。と、それまで重苦しく場を支配していた悪い気が、幸運の気に払われて霧散する。

「今でゴザルぞ、シンタ、大輔えぇ!」
「っしゃあ!」
「おお!」
 こうなってしまえば、シンタたちが負ける気づかいはなかった。それまでのうっ憤を晴らすかのように解き放たれた二人は再生力を失った4人をたちまち制圧、勝利を飾る。

「敵ではなし!」
「そうだな。もう一度やれと言われたら、ごめん被るが……」
「っけどさぁ~、このオッサンたち、このままだと死ぬんかな?」
「で、ゴザろうなぁ。女神の力の供給を断ったわけでゴザルから。一度死んだ連中は死ぬしかゴザらん」
「それって後味悪りぃよな……」
「確かに、な……」
 シンタと大輔が、続けて出水を見る。そしていまこの場に術者は出水以外いない。

「じゃあお前たち、アレ出すでゴザル!」
「アレ?」
「あれだろ、新羅さんから預かった、封石」
 シンタと大輔は出水に封石を渡し、出水はそれを開封。染み渡る辰馬の盈力は当然ながら、出水のキャパシティを超える。およそ常人術者の限界を超えた力に満たされながら、出水は力をふるう。

「魂が完全に壊されていたら主様にだって不可能なことでゴザルが、魂がこの体に残っていて、いまのこの力があれば拙者にもできるはず……女神の干渉力をはがして、肉体を賦活、精神力を活性化して……」
 手順を口述しながら、術を施す出水。「命を与える」系統の術は辰馬だって苦手とするところだが、今、凝縮された辰馬の盈力と出水の中にある神職の血と技能があることでそれを可能とした。四人の被害者は死者から血色を取り戻し、人間へと立ち戻る。

「あとは、少々衝撃を与えてやれば。筋肉ダルマ、ちょいと活を入れてやるでゴザるよ」
「おお。そんじゃ……ヌン!」
 大輔が宇佐美を座らせ、背に回ると活を入れる。

「うぐ!? ぅ……私、は……? 君たちは?」
「っしゃ、生き返った! どーでぇ見たかクソ女神!」
「ふう……気力体力精神力、あれだけつぎ込んで徒労だったらどうしようかと思ったでゴザルよ……」
「君らはなんなのだね? 私は……暴虐の女神を倒そうと、直江たちと……」
「覚えてねーならそのほーがいいでしょーよ。あとは辰馬サンに任せて」
「……よく、わからんが。村長と早雪さまは、無事なのかね……?」
「たぶん? 早雪って雫ちゃん先生とやり合ってるあの天使女だよな。まあこっちは大丈夫だとして、村長さんは……どーかな?」
「まあ、この先は新羅さんに任せようや」
「で、ゴザルなぁ。とりあえず、拙者はしばらく寝させてもらうでゴザルよ。疲れた……」
「そーだな。今、辰馬サンとこに駆けつけても、役に立てるわけじゃねーし」
「そういうことだな。ま」
 ここで三人、呼吸をそろえ。

「「「あの辰馬サン(新羅さん、主様)が、負けるわけねーし!」」」
 自信満々、そう言った。それは信仰にも近い絶対的な信頼の言葉であり、神魔というものが信仰と畏怖を糧にして力を増すものであるのならば、まちがいなく辰馬のもとへ届いた。

………………
 そして迷宮の果て、長尾邸。

 ここにたどり着いた新羅辰馬はガーディアンたる神使の群を撃退し、さらなる迷路になっている邸内を進む。

 そして。

 狭いはずの邸内を行くこと1時間ほど。

奥の間に到達した辰馬は、青い髪の女神に出会った。

辺境の小神とは絶対的に違う、神力の霊圧。そして女神は、美しい顔で美しい声で、こう言った。

「おはよう、ご同類」

ここまでになります!

ようやく、本章のタイトルである女神サティアと辰馬くんが初対面になりました。この先最終戦の話もすでに出来上がっているものを書き直すわけですが、結構変わることになりそうです。それでは!

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遠蛮亭 2022/04/25 09:03

22-04-25.くろてんリライトc5-4

おはようございます!

今日は今から山を下りて町のコンビニに水道代の支払いです。家が山奥で普段Amazon頼りの生活してると、ちょっと山を下りるのも冒険。というかおかんがいないならあちこち行けるんですけどね、おかん一人おいて家を空けるとなにするかわかんない、というのがありまして、もう半年くらい天神とか博多とか行ってないです。さておきまして、今日はくろてんリライトc5-4。前話で瑞穂さんとエーリカのパワーアップイベント(最終戦前イベント)だったので、今回雫おねーちゃんです。

くろてんリライトc5-4

 昼前に太宰から汽車に乗って、櫟につくのはもう夕方。辰馬たちは一夜の宿を求めて旅館を探す。

「こういうの、懐かしいです……」
「? 瑞穂っていつもヒノミヤの奥に押し込められてたんとちがうのか?」
「いえ、むしろ慰労や討伐といった任務でしばしば外に出ていました。思えばあれもわたしに経験を積ませるためのものだったんですね……」
「あぁ。修行してる真っ最中って修行してる意味がわからんかったりするよな。なんでこれやらされてんのかって」
 辰馬は応えて、街並みに目を向ける。ややうらぶれた町は霊穴・宮代をめざす観光客をもともとはあてこんでいたらしいが、近年宮代との連絡が絶えてこの4年でさびれ、廃れてしまったらしい。それでも町並みには宮代の守護神である鵜戸御社之媛神を模した人形など並んでいるのが、かえって物悲しくもあった。

「なーんか、しみったれたかんじの町よね。活力がない? ってゆーか」
「あんまし言ってやるなって。事情は人それぞれだ」
 賑やかなのが大好きなエーリカ的にも、この町はお気に召さないらしい。フンスと鼻を鳴らしつつ街並みを批評するのを窘めて。

「てきとーにここでいいか。たのもー」
「新羅さん、いつもの土地じゃないんですから……」
 今度は大輔に窘められつつ、適当に旅館に宿泊を決める。一晩の宿と夕食を頼むと、よほど久々の客だったのか受付に出た仲居さんは大喜びで破顔した。格安で広間も使わせてもらえる、ということでそちらも頼む。

「格安ってゆってもあたしのお財布かなりピンチだけどね~……」
 浴衣に着替えて宴会広間に集合、夕食となった一行。その中で雫がめずらしく、気弱げなへたれた声を出す。格安とはいえ2部屋(男女が大部屋1つずつ)と、食事は宴会用広間でというのは、2年目の新任教諭には少々厳しい。

「牢城センセ、だからアタシも出すって言ったのに」
「エーリカちゃんは生活費に、帰国費用も貯めないといけないでしょ? 使わせるわけにはいかないって!」
「んー……んじゃ、ありがと、センセ」
「……辰馬サン、おれたち、これってヒモですよね?」
「言うな。つーかしず姉、おれも多少持ってんだが」
 実のところ、辰馬は序列戦の優勝賞金と瑞穂救出の褒賞をほとんど手つかずで残している。なので自分のぶんくらいは出せなくもないのだが。

「たぁくんはそんなこと考えなくていーの! こーいうとき出してあげるのは年上の義務で甲斐性で特権なんだから!」
「うーん……」
 こういうとき雫はどうあっても金を受け取らないので、後日なんらかの形でお返しするとして。

「宴会場つーてもなんか見せてもらえるわけじゃなし、まあ全員こーして集まってられるのは助かるが」
「お? 宴会芸がご所望ならオレ、やるっスよ?」
 シンタがギター片手に立ち上がろうとするが。

「いや待て。お前の歌はな……」
「なんスか? なにか文句が?」
「いや、なぁ……お前の歌聞いてると寝るから……」
「なんでオレのロックが子守歌みてーになってんスか! いや、今日こそ! 寝かさねーから!」
 そうしてシンタはギターをケースから取り出し、「あ、あ゛~……」と調声。やおら歌い始めるのだが。

「ふああ……なんだか急に、眠く……くぅ……」
「シンタくんの歌ヤバいって、寝ちゃうから……すー……」
「シンタ、アンタなに歌って……んが~……」
「だから……おまえ歌ったら……ふぁ……すや~……」
 瑞穂、雫、エーリカ、辰馬と次々陥落。大輔と出水(と、シエル)に至っては瞬殺だった。

「んー、なんでこーなるんかなぁ……美声すぎんのかねぇ……」
 一曲、歌い上げてみんながすやすや寝ているのを見るとシンタはかぶりを振る。どうにも、シンタが歌うといつもそうなってしまうのだった。

「ん……んぅ……」
「む~」
「ふみゃ……」
 と、ほのかに色っぽい寝息を立てる浴衣少女たちにわずか、よこしまな感情がよぎりはするものの。シンタは脳裏に一人の少女を思い浮かべてその感情を打ち消す。

………………
「ふぁ……よく寝た。シンタの歌、ホント寝るな……」
 辰馬が目を覚ましたのは夜半。ほかのみんなはまだ眠っていて、さっきは一人起きていたシンタもふて寝しているから起きているのは辰馬一人……ではないようで、雫の姿がない。

「しず姉……、外か」
 気配が遠い。辰馬は急いで旅館を飛び出し、雫を追った。

………………
「やはは~、たぁくんこんばんは~……」
 山道の途中で雫に出会う。なんだかバツの悪そうな顔でほんのり笑って見せる雫に、辰馬は核心を問う。

「なに、一人で行こーとしてんの、しず姉」
「だ、だってー……創神? だっけ? たぁくん死んじゃうかもって思ったら、あたし一人で決着つけたほうがいーのかなって……」
 考えてみれば雫は過保護なところがあり。これまでは結局、学園抗争という子供のお遊びであったが、今回は本当に命の危険あり。となれば雫が黙って辰馬を先に進ませるはずがなかった。

「心配すんな。もー今のおれはしず姉より強いし」
「それでもおねーちゃんとしては心配だよ!」
「んー……ならどーすれば安心すんの、しず姉は?」
「それは、うーん……」
 たぶん雫が安心することは一生ないのだろう。雫にとって辰馬は永遠に年下で弟であり、そこが逆転しない限り雫の過保護が解消されることはない。

 考え込んだ雫と、答えを待つ辰馬。そこに夜風を裂いて、殺気が走る。

「しず姉?」
「うん。5人?」
「だな」
 あまりに物騒で露骨な気配は辰馬たちでなくとも気づくレベル。二人は素早く散開、そこに飛来する銃弾!

「銃!?」
 この国で銃の保有者はそう多くない。まず国軍の士官という線はない、となれば失踪した武蔵野伊織とその朋党が、頭をよぎる。

 続けてドッドッドドド、と。
 連装機関銃の轟音が、夜気を劈く。雫は俊敏に回避して、雫ほどの身体能力がない辰馬は「っ! バイラヴァ!」と氷を展開してやり過ごす。

 銃火が続く。執拗に足を狙われるのは辰馬より雫。辰馬がカバーに入ろうとするところを雫が珍しい判断ミス、辰馬を逆にかばおうと突き飛ばし、自分もバランスを崩し……超反射神経でかろうじて機関銃の猛火をかわしてのけるがそこでダウン。

 辰馬はもう一度バイラヴァの氷を展開。猛烈なブリザードは正面前方の木々を凍らせ、薙ぎ伐ち、打ち倒す。遮蔽物のなくなった襲撃者は顔を隠して逃げた。

「やっぱり、武蔵野か……なんか生気がなかったが操られてんのか。っと、しず姉?」
 立ち去り際に見えた横顔はまぎれもなく武蔵野伊織。しかしそれについて思いめぐらす暇もなく、いま優先させるべきは雫。倒れてしまった雫は足首を押え、苦悶する。

「しず姉、大丈夫か? 銃弾、当たってねーよな!?」
「う……うん。ちょっとドジって足首捻っただけ……やはは、あたしもまだまだだよね~……」
「そか……。んじゃ、ちょっと失礼するぞ」
「へ? へ? ふえぇ?」
 確認もそこそこに、辰馬は雫の首とおしりの下に手を差し入れ、持ち上げる。いわゆるお姫さま抱っこ。辰馬はこの体勢になんの感慨があるわけでもないボンクラだが、雫のほうは当然のようにお姫さま願望。年来、こうあればいいと願ってきた光景の実現、幸せすぎて狼狽える。

「ちょ、ちょちょちょ、たたたた、たぁくん!?」
「文句聞いてる暇はねー。大急ぎで旅館まで戻る。舌嚙まんよーにな」
「ははは、はいっ、はいぃ~……」
 そうして、二人大至急、旅館に戻り。

 瑞穂を起こして治療。通常の魔法では魔力欠損症の雫を回復させることはできないのだが、そこは規格外の神力を持つ斎姫。効率は悪いがどうにか雫の傷を悪化させることなく済ませた。

「ふう。心配させてくれんなよ、しず姉」
「うん……、ごめんね、たぁくん。おねーちゃん考えなしで」
「いや、それは構わんが。まーとにかく、宮代入りは6人で……」
「それは駄目」
「だめっつーてもな……心配するだろ?」
「だいじょーぶ。もうさっきみたいなドジ踏まないし。それにさっきのでたぁくんに惚れ直したおねーちゃんはぜひとも名誉挽回したい気分」
 雫はそう言って、じっと辰馬の目を見る。お姫様抱っこに目を回していたみっともないおねーちゃんの面影はもはやなく、その視線は研ぎ澄まされた戦士のそれ。瞳がこうして澄んでいるのなら、あとは体の具合のみ、ということになり。
 
「……そか。なら、いーんかな、瑞穂の見立てでは?」
「はい。無理に足を休ませるよりは普段通りに使った方がいいリハビリになるかと思います。休ませすぎると萎えてしまいますし……」
「わかった。ならつれてく。けど、無理はせんよーにな」
「うん!」

………………
 そして翌朝。
 辰馬たちは山を越え、宮代に向かった。

本日ここまでになります!

なんというかですね、このリライト、瑞穂さんルート想定してるはずなのに雫おねーちゃんルートなのでは? って自分で思うことが多々あります。雫おねーちゃんだけ独立単話でパワーアップイベントですしね。まあ、いろいろやむなし。この5章残り数話と、6章エピローグでひとまず終わりですが、最終的には瑞穂さんルート→ハーレムエンドになるよう調整します。それでは、本日これにて!

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