みなさん今晩は、シナリオ担当のオーマです。
@twilightjack000 ← Twitterもやってます、お気軽に話しかけてくださいね。
毎週水曜日は、私の記事で情報発信を行っています。
さて、今回の記事ですが完全に読み物回となります。
ですので、完全文章オンリーになりますことご容赦ください。
ではどんな内容化と言いますと
コスプレイヤーズクエスト前日譚
となります!
主人公のころもちゃんが、どういった経緯でコスプレに興味を持ったのかを彼女視点で書き起こしました。
ころもちゃんがどんな人物で、どんなこと考えてるのか?
楽しんでいただければ幸いです!
■私の世界 ~コスプレイヤーズクエスト前日譚
買い物帰りに見上げた空は、揺らめく夕日の輝きで蘇芳から深く深い群青に染まって行く。暮れていく陽の光が空の境界をぼかすころ、そこかしらの建物を煤で汚れた様に影らせていく。ほんの少し先の風景すらも、よく目を凝らさなければ曖昧にしか見えない。
私はこの黄昏の時間が、ほんの数十分しか見る事の出来ないこの光景が一番好きだ。
町中の喧騒も、公園で遊ぶ子供の声も、このほんの一瞬この時間だけはシンッと静まり返る。聞こえてくる音は、虫のリンとした鳴き声と、時代錯誤な豆腐屋さんのラッパの音。ほんの数分の違いだけで、町は大きく表情を変える。この不可思議な雰囲気に、胸が弾むのは私だけなのだろうか?
なぜ胸が弾むのかは良くわからないけれど、意味づけてしまうとするのなら、それはきっと空高く輝く陽の光が私には眩しすぎるからなのかもしれない。
真っ青に広がる空を見上げるのは好きだし、そこに流れる大きな入道雲を見ては色んな事を思い浮かべたりもする。きっとあの積乱雲の中には、雷鳴轟く嵐に守られた古の天空の城があるんじゃないか? とか。雲の向こうのアステロイドの河には、未確認の文明の跡があったりだとか。
空想に想いを馳せることは多い。
でもそれは、誰とでも共有できるものじゃない。
クラスの女の子はコスメやファッションの話に夢中で、どう考えても私とは話が合わないし、男の子の方が私にとっては興味深い話をしている。だからと言って、その輪の中に入る勇気は私にはない。
みんな各々、眩しく輝いていて……。
ほんの一歩踏み出す勇気を持てない私は、輝かしい青春を歩んでいるとはとても言い難い。
私から歩み寄らなければ、何も変わらない事は十分わかってるつもりだ。それでもそれが出来ないのは、拒絶されるのが怖いからだ。傷つくのが怖いからだ。傷つけるのが怖いからだ。
いつか何かの本に書いてあった。
「出会いとは別れの始まりである」
私にはとても寂しく、とても悲観的な言葉に思えた。それと同時に、物事の心理的なモノを感じた。
当たり前のことだからこそ深く考えなければならないし、当たり前のことだからこそ大切にしなければならない。
おじいちゃんも似たようなことを言っていた。
「形あるものはいつか崩れるものだ。だかこそ、道具と言うものは一生物だと思い大切に扱うんだ」
「大切に使えば魂が宿り、磨いてやれば心を宿す。これが大事にすると言う事だ」
世界の心理と言うものは、案外簡単な言葉で出来ているのかもしれない。
難しい言葉で自分を取り繕って、言い訳しながら自分の気持ちに目を背けている私は客観的にみて何がしたいのか分からない。そんな半端な気持ちで誰かと関わっても……多分、上手くやっていけない。
何より、誰と、何を話したらいいの?
そんな簡単なことですら、無意味に深く考え込んでしまう。
だってそうだ。
みんなが他の話題で盛り上がっているのに別の話題で私が唐突に横やりを入れるのは、単に私は空気が読めない痛い子になってしまうだけ。そんな事態は誰もが望んでないだろうし、私も望んでいない。
だから私は、教室で静かに読書をしているのが正解なんだ。
そんなだから、この年になっても友達の一人も出来たためしがない。
昔はもっと、誰かとお話だなんて簡単に出来てたはずなのに……昔の私はどうやって友達と話していたんだろうか?
そもそも、あの頃の友達は友達と果たして言えるのだろうか? 今となっては、誰一人連絡も取ってないし、何ならその後の消息を知ってる人なんていやしない。
私の記憶が正しければ、一緒に何か同じ遊びをしていたのかすら怪しいレベルだ。
……思い返せば思い返す程、鬱な気分になる。
「はぁ……」
私は私の曖昧な心の空模様に大きくタメ息をつく。
同じ曖昧な空模様でも、相反する二色が交じり合う夕闇の空は見とれてしまう程に美しく、儚く、心惹かれるというのに、私の心の空模様はどんよりとした曇天そのものだ。
「よぉ、デカいタメ息ついてどうした?」
聞き覚えのある野太い声が、私の後ろから聞こえてくる。
振り返るとそこには、筋骨隆々で黒い短髪をツンツンに逆立てたボディービルダー……ではないと思うけど、それは見事な胸筋をピクピクと動かす笑顔の男性が立っていた。
彼は「流 紘一(ながれこういち)」
私の家の近所に住んでいる大学生のお兄さんで、子供のころから良く遊んでもらったりしていた気さくなお兄さんだ。一人っ子の私には本当の兄の様な存在で、マンガやラノベの貸し借りやおススメのゲームの話題で盛り上がれる唯一の人物だ。
筋トレが趣味でボディービルダーみたいな見た目をしているし、目つきが非常に悪いので色々と勘違いされそうなものだけど、彼の笑顔はその全てを打ち消してしまう程に清々しい。
「流のおにいちゃん」
「何か悩み事か?」
「いや、別にそんなんじゃないけど」
「そうか? まぁ、ネガティブになるくらいなら、取り合えず笑っとけばいいぞ」
「そればっかだね」
「だが事実だ。意外とそれで何とかなるもんだ」
「うーん、それはどうかな?」
流のお兄ちゃんの持論は多分間違ってないとは思う。この人はこう見えても意外と切れ者だし、理系男子でもある。きっと何か根拠があっての考えだとも思える。
故に、文系である私には稀に理解できない発想や答えを導き出す。
……まぁ多分、それは私だけが感じる事じゃないのかもしれないけど。
とにかく、良い人である事には変わりがない。実際、友人も多いみたいだし、流のおにいちゃんの家には留学生がホームステイしているみたいだし、一家全員が気さくで面倒見が良いときている。
見習うべき良い人物なんだと思う。
ただ、一つ欠点をあげるとしたら……。
それは、えっちな本を堂々と部屋に散乱させていることだ。
たまにゲームしに遊びに行くと、目のやり場に非常に困ってしまう。そんな私の反応をニヤニヤしながら「何だ? 興味あるのか? もうそんな年頃か~」と、悪びれるどころかセクハラまがいな発言をしてからかってくる。
そんな危ない人じゃないのというのは分かっているけど、からかわれるのは未だに馴れない。
この前貸してくれたマンガも……えっちな描写が多くて正直どう読めば良いか理解に苦しんだ。そんな私を見透かした様に感想を聞いてくるものだから、困った性格をしている。
おかげさまで、知識だけは備えた耳年魔になってしまった。
自分としても実に嘆かわしいことだけど、この知識が必要になる事態が訪れる目途は残念なことに立っていないというのも……それはそれで嘆かわしいのかもしれない。
そんなことを考えると、自然とまたタメ息がこぼれてしまう。
「はぁ……」
「今日はえらくタメ息が出るじゃないか」
「……半分は流のお兄ちゃんのせいでもあります」
「おいおい、俺はまだ何もしてないぞ?」
少し頬を膨らませて睨みつけてみる。
そんな私の態度に、流のお兄ちゃんは何吹く風よと笑顔を崩さない。この人のこう言った、変なところ大人な部分は随分と卑怯だ。彼からしたら、遥か年下の女の子に嫌味を言われた所で、それは可愛らしい反抗の様なものだ。
……それがもし、同じ立場の人間からだったらどんな反応をするんだろう。どんな反応をすべきなのだろう?
私にはそんな相手がいないから、良く分からない。
同年代の、同じ志の、共通の趣味の。
友達、仲間。
いつかそんな相手が出来たのなら、少しは大人な考えが身に着くのだろうか? 夢を語って、ケンカして、一つの事に取り組むことが出来たのなら、少しは変わることが出来るのだろうか?
「そうだ、ほらコレ今週の奴」
ぼんやり考え事をしながら歩く私に、流のお兄ちゃんは雑誌を手渡してきた。
彼が手渡してきたマンガ雑誌は、今流行っているアニメの原作マンガが掲載されていて、私もそのアニメとマンガのファンであったことから、流のお兄ちゃんは折角ならと毎週読み終えると私に回してくれるのであった。
「あ、ありがとう」
「今週の展開は熱いからな、震えちまうぞ?」
「本当に? 流のおにいちゃん、結構盛るからな~」
「いや、今回はスゲー良い展開だったぞ。伏線回収もあるからな」
「ネタバレはダメだよ」
「おっと、じゃあ楽しみに読めよ」
いつの間にか自宅の前までたどり着いた私は、「じゃあ」と手を振り背を向ける彼を見送った。
ふと空を見上げると、夜のしじまを称える様に星々がキラキラと瞬いていた。
部屋に戻った私はベッドに飛び込むと、先ほど流のおにいちゃんに貰った雑誌を手に取る。表紙を眺めるとそこには、マンガのヒロインのコスプレをしたグラビアアイドルが大きく映し出されていた。
「ん? コスプレ?」
「雑誌間違えたのかな?」
表紙に書かれた名前を読み返す。どうやら雑誌に間違えはないみたいだ。
「この雑誌って、こんな企画もするんだ」
ページをめくり雑誌を読み始める。
まず目に飛び込んできたのは、表紙の女の子のグラビア特集であった。
「コスプレかぁ……やってる人は凄いなぁ」
コスプレというもの自体は流石に知っていた。
何なら、コスプレイヤーたちが集まるイベント何かもあって、そこではコスプレイヤーさんたちが交流を深めたり、「合わせ」と呼ばれるオフ会を打ち合わせたり主催したりと様々な活動が行われている。
私に言わせてみれば、とんでもなく華やかな世界だ。
そんな世界の人たちとは、住む世界が違うなとずっと線を引いて眺めていた。
そう思っていたはずなのに。
掲載されているコスプレグラビアを眺める程に、そんな思いが打ち消されて行った。
自身の着丈に合わせた衣装、細かく作り込まれた装飾品、一切の妥協を見せない作りの武器。
そのどれもが私の心を釘付けにして行く。
メイク一つとっても、キャラクターの雰囲気に寄せるために現実ではありえない手法を取り入れ、ポージングや写真映りの角度もしっかり計算し撮影されていて、その写真一枚にかける情熱と手間に思わず見とれてしまった。
そして最後につづられたインタビューに、私は深く感銘を受けてしまった。
「コスプレは私にとって人生そのものです」
「苦しいことも嫌なことも一杯ありましたが」
「何者でもなかった私を、本当の意味で変身させてくれました」
「この活動で出来た仲間が、思い出が、全て私の宝物なんです」
決して、このレイヤーさんの宝物を羨んだわけじゃない。
この人に、この人生観に私は憧れてしまった。
「私にはそんな相手がいないから、良く分からない」
「同年代の、同じ志の、共通の趣味の」
「友達、仲間」
望んだ所で、羨んだ所で、都合よくそんなものは目の前に現れてはくれない。
自分から何かやってみなければ。
「何者でもなかった私を、本当の意味で変身させてくれました」
私の心の曇天に、一筋光が差した様にも思えた。
「本当の意味での変身……」
気づくと私は、スマホを片手にコスプレについての情報を検索していた。
ざっくり調べてみたイメージではやっぱり色々な意味で敷居は高そうには感じたけれど、私は幸いにも裁縫は得意だったこともあり、まずは一歩、衣装についてはどうにか出来るかもしれない。
もっと情報と資料を……技術を。
憧れた人がいる世界、憧れの人が人生と言う世界。
その世界に踏み出せば、私も変わることが出来るかもしれない。
私の世界が少しだけ動いたのかもしれない。
今はまだ曇天なのかもしれないけれど、いつか見た夕暮れの様に陽が落ち、夜のとばりを越え、晴れやかな朝日が昇るかもしれない。
そのどれもが思い出になる日が来る、本気でそう思えた。
ほんの少し先の風景は、まだまだ目を凝らさないと曖昧にしか見えないけれど。
進みたい道は、ハッキリと見えた気がした。
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如何でしたか?
今回は本編が始まる前のころもちゃんのお話でした。
それでは、今日はこの辺で終わりといたします。
次回更新は、金曜日にぽてが更新します!
では、また次回の水曜日にお会いしましょう。
追伸:サムネ用に申し訳程度の使いまわし画像を入れさせてください。
やはり画像がないと寂しいですからね!