好きなアルバムについて紹介させてください(インスト中心)
シナリオ書いてる人はCi-enで好きなアルバム紹介していいって
聞いたので、執筆中よく聞くインスト系アルバムをいくつか紹介します。
著者がにわかなので有名作品ばかり並びます。ご容赦
各画像はリンク先Amazon.co.jpからの引用です。
エリック・サティ:新・ピアノ作品集
エリック・サティはよく聴き比べをするのですが、個人的にはいまのところ一番しっくり来た演奏です。
代表曲のジムノペディなんかは長年色々な演奏を聞いてますが、いまだに曲の感情がよくわからない。弾く人によっては水中に沈んでいく綿毛のような緻密な情景があるのですが、そういう曲なのかと問われるとだいぶ違うような気がします。
高橋悠治の作る音は『変化のない部屋』のようなものを感じさせます。不自然に長い板張りの廊下や、まったく音がない秋の草原のような情景です。自身がその空間へ入っていくときと出るときで、こちらはその前後に何の変化も強要されない。たったいま自分はそこを通り抜けたのだという、ただそれだけの事実が手元に残っている。
自分という存在が消えてなくなる日には、こんな音が流れていて欲しいと切に願います。
Hubris
ピアノソロジャズです。と一応紹介してみたところで、おそらくその字面から想像されるような曲は、このアルバムには含まれていないでしょう。
透明標本のような音です。たとえば猫が歩いている。ぱっと見にはさして度し難い光景ではないのですが、その毛皮のうちではグロテスクな肉と骨と神経の相互作用が絶妙なバランスでなりたっている。
ある情緒的なモチーフを技工的かつ高速な音の羅列で一瞬のうちに分解し、次の瞬間には元通りの見た目を再構成していて、つまり猫が歩いている。その猫はじっと無言のうちにこちらを見つめている。
シニカルと呼ぶには感情的すぎる操作です。もしかしたら本気で、その肉塊を美しいと思っているのかもしれません。
Trasnoche
こちらもピアノジャズですが、比較的理解しやすい音です。どこかおとぎ話めいた、夜にだけ語られるべき在りし日の繁栄です。
言ってしまえば肉欲に過ぎない艶やかさを、冷たいワイングラスのふちを指先でなぞるような優雅さに置き換えて、それを薔薇の花弁の内側に隠されたものと称するような気取った嫌らしさがあります。
美しさというものは本来、世界の成り立ちから遠く離れて独立しうるのだと思い出します。
vent
エレクトロニカ。どこかで聞いたことある音ですが、成長するうちにいつの間にか失われてしまった物置の陽だまりです。
使ってる音がアコースティック寄り、ドラムがジャズ寄りで、あまり電子感はないのですが割りかしピコピコしてます。童話と木靴。苔むした水桶。
子どもの想像力というのは、成長途中のアンバランスな柔軟さに依るものなのではないかと思います。手に掴んだものをとりあえず口に含んでみるような危うさです。何の役にも立たない積み木の一欠片です。
以上。