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【小説】乳魔に手懐けられた勇者 後編

 ウルクスクの町を出立した勇者一行は、パーリ大陸の南端、船乗りの間で希望峰(ソロ・ラドゥ)と呼ばれる岬にある光の祠を目指して南進した。

 光の祠に三つ宝玉を捧げし時、魔の島への道差さん――。

 それが、偉大なる予言者アブドゥルの残した最後の言葉だった。

 ブルーオーブ、グリーンオーブ、レッドオーブの三つの宝玉はすでに揃っていた。これで、魔の島=悪鬼さえ狂う島(ブラブ・ヴァルジュ)へ乗り込める。魔王の居城へ攻め入ることができる――。

 パーティの紅一点、僧侶のガーベラは手袋の中がじっとりと汗ばんでいるのに気が付いた。現在、一行は鬱蒼たる叢林の只中を進んでいる。南方特有の高音湿潤な気候によって驚異的な育成を遂げた植物達が、むせ返るほど濃い草いきれを放って、蒸し暑いこと夥しい。だが、この汗はそれだけが理由ではないだろう。手に汗を握るというのは、緊張を表わす言葉だ。

 全ての魔族の頂点に立つ存在、ウルナの子たる9つの種族全ての敵――魔王。どれほど恐ろしく、おぞましい姿をしているのか。そして、どれほどの強さを持っているのか。魔王という名前だけは、世界中の人間が認知していたが、その実態は誰も知らない。運よく(運悪く?)それを知れた者がいたとしても、すでにクチナシだろう。ガーベラの背に、冷たい緊張が走る。

 勝てるのだろうか? 入念な準備をし、今以上に実力をつけるべきではないだろうか? 確かに、冒険者としてはこの4人それぞれの力は最高に近いだろう。だが、最高でも不十分な時だってある。

「大丈夫ですよ」

 ロイが心を読んだように、気楽な調子でそう述べた。先頭を歩いていたこの少年勇者は、いつの間にか最後尾のガーベラに歩調を合わせていた。

「大丈夫。僕らならやれますよ」

 至極落ち着いた口調で、少年は前を歩くワービーストの武闘家と、エルフの少年魔法使いを視線で示した。

「レイヴンとエドとガーベラさんと僕と……4人が揃っていれば、どんな地獄でも越えられます。そうでしょ?」

 まあ、僕はあんまり頼りにならないかもしれませんけど、とロイは冗談めかして鼻頭を掻いた。その笑顔は愛嬌があって可愛らしかった。

「そんなことない。あなたは――特に最近のロイはとても頼りになるもの」

 それは、ガーベラが本心から思っていることだった。近頃のロイの活躍は目覚ましい物があった。どんなに強い魔物を向こうにしても決して怯まず、勇猛果敢に立ち回ってみせるばかりか、周囲の状況や仲間の状態を冷静に捉え、効果的な指示を素早く出してくれるのである。今だってそうだ。わずかな仕草や表情の変化から心中の不安を読み取り、こうして声をかけてくれている。そして実際、不安な気持ちは和らいだ。それは、ガーベラがロイを信頼し、その言葉を丸呑みにできるからだった。

 ガーベラはレイヴンとエドを交互に見た。以前はしょっちゅういがみ合っていた二人も、ロイに諭されてからは大きな喧嘩をしなくなった(尤も、ことあるごとに悪口や皮肉を飛ばし合ってはいた。だが、これはロイに言わせれば彼らなりのコミュニケーションだそうだ)。二人とも以前から内心ではお互いのことを認めてはいたらしい。だが、それがなんとなく気恥ずかしく、戦闘時などを除いては反発を生んでいたようだった。

 レイヴンはウルフ族のワービーストらしく、群れのトップの命令だからと、エルフにしては珍しい実力主義のエドも――エルフの社会は一般的に封建的だ――ロイがそう言うのならと、共々に言い訳をし、渋々というふりをしながら、進んで力を合わせるようになった。

 パーティのチームワークは格段に上昇した。ロイの指示のもとで結束すれば、全員が100%以上の力を発揮できる。

(確かに、この四人なら――この小さな、けれど最高のリーダーに率いられた私達なら、どんな強大な敵が相手でも……)

 ガーベラは、少し前まで年の離れた弟のような存在だった少年を、心の底から頼もしく思った。

 ロイのリーダーとしての資質は前から垣間見えていた。それが開花したのだ。

 どのタイミングで、というのはハッキリと分かっている。間違いなくディーナールに初めて訪れたあの日の夜だろう。そこを境にロイは変わった。一皮むけたと言った所か、少しナヨナヨした所や優柔不断な面が消え、大人っぽい、落ち着いた男になっていた。おそらく誰かにしてもらったのだろう、大人の男に。

 加えて、その日からロイには度々宿を抜け出し、さっぱりとした顔で朝帰りするという習慣が出来た。何をしているのかは訊ねなくとも十分に悟れた。だが、ロイはそれを秘密にしているようだったので、ガーベラはあえて黙認することにした。レイヴンにもエドにも、特に秘密に触れないように言い含めて置いた。昼間立派にリーダーでいてくれるのだから、それくらいの息抜きは必要だ。女色に溺れ腑抜けになっている風ではなかったし、男の心の支えになれる性質のいい女の人に出会えたのだと嬉しく思いさえした。その相手が自分で無かったのは、少し残念だったが。

 一行はさらに蒸し暑い木々の合間を進んだ。祠へと通じる古い道を辿っているのだが、魔物が活発になった近頃では参拝する者も絶え、それがために草木が隆盛を極めたその道は、最早道と呼ぶのを憚られるほどの悪路になっていた。地面は草で覆われ、歩きにくいことこの上なく、植物をナイフや火で排除しなければ進めないようなところもあった。腐敗臭をまき散らす沼地に苔生した丸太を渡しただけという場所もあった。おまけに、蛭の雨が降るわ、得体のしれない鳥や獣の鳴き声があるわ、ムカデとサソリをかけあわせたような巨大な蟲の化物や、人間を丸ごと呑み込めそうな気味の悪いワームの仲間に遭遇するわと、大変な労を強いられた。しかし、これから魔の島へ渡り、魔王の居城へ乗り込もうというのだ。これくらいの苦労はまだまだ前哨戦に過ぎない。

 それでも、3時間以上も悪路を歩き通し、ようやっと木々の密度が薄れ、光の脚が降り、樹梢のざわめきに波の音が混じり始めと、一同ほっと安堵の息を吐いたものだった。

 やがて、完全に視界が開けた。鬱蒼たるジャングルが途切れ、草生い茂る肥沃な野原へ出たのだった。色鮮やかな花々が所々に散見される緑の先はカブス海が青々と、どこまでも広がっている。潮の香り、白波が岩に砕ける音。

「あれが、光りの祠……」

 ガーベラは、手の甲で汗をぬぐい、草原に孤立する古さびた石造りの祠を見た。ウルクルスで聞いた通り、叢林を抜ければ光りの祠は目と鼻の先だった。正確には、目と鼻の先にあるように見えた。というのも、祠のある希望峰ソロ・ラドゥというのは大陸の南端にある崖なのだが、その周囲の平地には今までの鬱蒼たる緑が幻であったかのように、熱帯性の常緑樹が生えていないのである。つまり、今まで幾重にも重なった緑に視界を遮られ距離感を狂わされていたために、視線が通る範囲にあるものなら手を伸ばせば届きそうだと、錯覚してしまうのだった。実際の距離としては、徒歩で五分と言った所だろう。やはり、いままでの道行きに比べれば、目と鼻の先か。

「あそこにオーブを捧げれば、魔王の巣食う悪鬼さえ狂う島ブラブ・ヴァルジュへ乗り込める」

 水平線のはるか向こうに魔の島を観想し、ロイはひとりごちた。幼さの影を残しながらも凛と引き締まった表情には、強い意思が漲っていた。

 一行は、光りの祠へと向かった。いや、正確には向おうとした。だが、先頭を行くロイが、一歩踏み出した瞬間に――。

「申し訳ありませんが、あなた方を魔王様の元へ参らせるわけにはいきません」

 上品で穏やかそうな女の声が聞こえた。全員が、声のした方――空へと視線を向ける。と、上空から一人の女がゆっくりと下りてきた。

 その女は母性的でありながら艶やかな雰囲気を併せ持った、女のガーベラが見惚れてしまいそうな程の絶世の美女だった。だが、明らかに人間ではなかった。紫色の髪の合間から黒い巻き角が覗き、背中には巨大なコウモリの翼を持ち、腰の辺りからは尖端がスペードの形になった尻尾が伸びている。全てが悪魔の象徴である。

 さらに、身に纏うピンクを基調とした衣服と言えば、いや、これは衣服と呼べるものではない。ほとんど下着同然、男の欲望を喚起するための淫らな格好である。女悪魔――いや、淫魔だ。しかも、通常の淫魔ではない。

 淫魔というのは本来、完璧に調和した女性美を持つものだ。なのに、目の前のそいつは、乳房だけが畸形と言って過言でない程に発達している。太腿や二の腕、そして腹周りの肉もむっちりと皮膚を張りつめさせていたし、長身であり、肩幅も広かったが、それでもそのバストは巨大に過ぎて、全体のバランスを大きく損なっていた。まるで、男の欲望のままにデフォルメされた戯画のようだ――。ガーベラの眼にはそんな風に見えた。

「わたくしは魔三将が一人、フレイアと申します……」

 ふわりと着地した淫魔は、柔らかい笑みをその美貌に浮かべ、恭しくお辞儀をした。

「へえ、淫魔ですか……」

「少し違いますわ可愛い魔法使いさん……正確には乳魔でございます……魔王様のご命令により……あなた方を殲滅しに参りました……降伏するのなら今の内ですわよ……坊や……そうすれば……乳魔のママが、このおっぱいで、たっぷりと可愛がってあげまちゅよ~」

 フレイアは嘲りをふんだんに含んだ赤ちゃん言葉で言うと、豊満すぎる実りを手で掬くって、ぷるん、と揺らして見せた。紐状の布で乳首を隠しているだけの、たわわな白い肉はそれだけで零れそうになる。


「へっ、胸だけじゃなくて言葉も大きくでたな。蟲や動物ばっかで飽き飽きしてたところだ、魔島へ乗り込む前の肩慣らしに丁度いい」

 レイヴンが指の関節をパキパキと鳴らし、獰猛な白い歯を見せて笑う。

「脳味噌まで筋肉が詰まった犬さんには分からないみたいなので、優秀なボクが教えてあげますが……あれ、三魔将って言うだけあって、ふざけた格好と態度の割に、相当魔力をもっているみたいですよ」

 エドがうんざりした様子で言った。三魔将を名乗る魔物とは、以前戦ったことがある。ゲールラートと言う四つ腕の巨大なケンタウロスだった。その壮絶な戦いは、ガーベラの記憶に今でも鮮明に残っている。波状攻撃を仕掛けてくる魔獣の大群。四本腕から繰り出される弓と双斧の威力。何もかもが脅威だった。それでも、いくつかの偶然と敵の慢心、そしてある戦士の命を賭した行動により、奇跡的に勝利を収めることが出来た。だが、全員が満身創痍だった。

 あのフレイアと言う乳魔の強さも、具体的には分からないが相当のものだ。きっと、駆け出しの冒険者なら対峙するだけで、その魅力に絡め取られてしまうだろう。

「とんがり耳小僧が偉そうに……強ええのがわかってるから、腕が鳴るんだよ。てめえこそ、ママ恋しさに、あのデカ乳に魅了されんじゃねえぞ」

「淫魔のチャームへの対処方法は一般的な物とオリジナルの物を合わせて7つほど用意してあるのでご心配なく、単純思考のあなたこそ、気を付けるべきだとボクは思いますが」

「けっ、口の減らねえガキだ。可愛くねえな」

「別に、あなたに可愛いと思われなくても結構です」

「二人共、そろそろ敵に集中しなさい。本当にあれは、普通の相手じゃないんだから」

 軽口をたたく二人を諌めはしたが、強大な敵を前にして余裕を見せられるエドとレイヴンが、ガーベラには頼もしく思えていた。以前に三魔将と戦った時よりも全員、確実にレベルアップしている。特に、ロイがリーダーとして成長したことにより、チームワークは格段に向上した。

(相手がどれほど強くても、私達は負けない。そして私は、もう誰も死なせない――)

 ガーベラは手にした杖を握りしめ、勇者の方に視線を転じた。だが――。

「……そんな……さん……どうして……」

 ロイは茫然とした様子で、乳魔を見つめていた。がっくりと落ちた肩がわなわなと震えている。独り言を繰り返していたが、何を言っているのかは分からなかった。

「ロイ?」

 その不自然な様子に、ガーベラが声をかけたのと、同時だった。

「うああああああああっ!」

 それは、ガーベラには、いや、仲間の三人にとって、あまりにも突然の出来事だった。あろうことか勇者は、仲間に何の指示も出さずに、剣を振り上げ、乳魔に向かって狂戦士バーサーカーさながらに突っ込んでいったのあった。


 

 どうして――。

 ロイの頭の中は、その言葉で一杯になっていた。

 信じられなかった。違う。信じたくなかった。

 上空から降りてきた淫魔は、ロイが良く知っている人物と瓜二つだった。

 だが、その人物には、黒い巻角もコウモリの翼も尖端が矢尻型になった尻尾も無い。髪の色も異なっている。あんな派手な紫色ではなかった。けれど、あの豊かなボリュームとふわふわとした質感は同一だ。

 何よりも。

 あの母性的であるのに、ゾッとする色気を感じさせる美貌は――。

 肉群ししむらの豊かなふっくらとした肢体は――
 極端に発達した巨大過ぎる胸の双丘は――。

 こんな豊饒の女神のような美女が、この世に二人といるとは思えない。

 けれど、ロイは他人の空似だと信じたかった。

 あの人であるはずがない。あって欲しくない。もし、そうだとしたら僕は――。

 ――だが。

「わたくしは魔三将が一人フレイアと申します……」

 その言葉を耳にした瞬間、ロイは足元がガラガラと崩れ去るような錯覚にとらわれた。

 目の前の淫魔は、ロイの心の支えになってくれていた、ディーナールの美女、フレイアだった。絶対に信じたくない。だが、微塵も疑う余地は無かった。

 ――娼婦に姿を変えて、近づいてきたのだ。勇者である僕に、偶然を装って。

 だが、一体何のために。目的はなんだ?
 わからなかった。

 命を奪うだけなら、何度でもチャンスはあったはずだった。なぜなら、ロイはあの淫魔の化けた娼婦の胸の中で、幾夜も安らかな寝息を立てていたのだから。

 力を奪おうというのでもないようだった。淫魔族の得意技、エナジードレインを使うチャンスだって、何度もあった。

 フレイアがロイにしたことといえば、ただ安らぎの一時を提供しただけなのである。

 わからない。わからないけれど、邪なことだと考えて間違い無いだろう。なにせ、淫魔の考えることだ。

 何にしても。つまり、僕は。

 僕は、騙されていたんだ――。

 それなのに僕ときたら、全く気が付かないで、あんな、淫魔なんかの胸に身を委ねて。その乳房の谷間に溺れて、甘えて、癒しを感じて、そして、あんなことまで――。

 熱いドロドロとしたものが、少年の中で渦巻き始める。だが、それがどんな感情によるものかは、彼には判別できなかった。怒り。悔悟。悲しみ。色々なものが、グルグルと渦巻いていた。混乱しているのである。予想外のタイミングで突きつけられた驚愕の真実を、少年勇者はまるで呑み込めずにいた。

「そんな……フレイアさん……どうして……」

 周りの声や音は、耳に入っていない。胸の拍動が、妙にハッキリと感じられる。激しい血流が、耳の奥でゴウゴウと音を立てる。

 そして。混乱は、ロイを突発的な行動にかりたてた。

「うわああああああっ!」

 勇者は宝剣フォルテを鞘から抜き、叫び声を上げ、たった一人で真っ直ぐに淫魔に向かって突貫した。

 仲間の三人の驚きの声が、背中から追いかけてくる。それは完全に錯乱した動物の行動だった。キレた、と言い換えても良いかもしれない。理由は定かではない。取り乱し過ぎて、ロイにさえなぜ自分が走り出しているのか説明がつかなかった。けれど、視線の先に居る淫魔、フレイアは敵である。なら、このまま切り捨ててしまえばいい。猪突の勢いに任せ、ロイは渾身の力を込めて剣を振り下ろした。

 だが――。

 英雄の名前を冠した剣は、乳魔を叩き斬れなかった。

「坊や、そんなオイタをしちゃ、だ~め」

 フレイアがそう言った瞬間、ロイの動きはピタリと止まってしまったのである。

「な……!? なんで……?」

 ロイの表情が、驚愕一色に染まる。まるで金縛りにあったみたいに、いきなり体が動かなくなっていた。分からないことだらけだ。

「そんな危ないもの振り回しちゃダメじゃない。おてて切っちゃうわよ?」

 混迷の度合いをますます深めるロイに、フレイアがニッコリと微笑みかける。

「それでママを攻撃するつもりだったの、坊や? ママ悲しいわ……」

「くぅ、誰がママだ。お前なんか……僕を騙して……」

「ママの正体が淫魔で驚いちゃった? ふふふ、手紙に書いたでしょ、再会は特別なものになるって……その時はママの全てを見せてあげるって……」

 ロイの脳裡にフレイアの置手紙の文面が想起される。確かにそんなような事が書いてあった。だが、それは魔王を倒した暁に、再び会いましょうと言う意味だと理解していた。全てを見せるというのも、セックスの比喩的表現だと、それ以外に、解釈のしようが無かった。あの聖母のように優しいフレイアの正体が、汚らわしい淫魔だったなんて――。

 今の今まで、夢にも思わなかった。

「うふふ、ねえ、そんな物騒なもの捨てて、いつもみたいにママのおっぱいに甘えて……ほら、おっぱい……好きでしょ? ボクちゃん……」

 刃が間近にあるというのに、フレイアは焦った様子もなく、腕をW字にして脇を締めた。たわわな乳房が深い魅惑の谷間を形作る。いつもの、自慢のおっぱいを強調する仕草だ。

「う、あ……そんなの、好きじゃない……」

「嘘ばっかり……坊やの視線はこのおっぱいに釘付けじゃない……」

 まるで条件反射のように、ロイの視線はフレイアの魔乳に吸い込まれてしまっていた。量感の夥しいその母性の白い実りを支えているのは、ブラジャーとすら呼べない、エナメル生地の紐のみだ。隠せているのは乳首だけ。本来衣服というのは、肌の露出を抑えるためのモノだというのに。その“乳バンド”は柔肉に食い込んで、その円やかな形をより卑猥に強調しているのである。谷間だけでなく、零れそうな横乳もロイの官能を否応も無く刺激してくる――。

「違う……そんな……」

 慌てて目を逸らす、だが、逸らした先にあるのはフレイアの下半身だ。程よく肉の余った腹部に、肉感的な腰回りにきゅっと食い込むエナメル生地の三角布。腿にぴっちりと張り付くストッキングとストッキングに締め付けられたむちむちの太腿。淫魔の本性を現したからか、フレイアの凝脂を洗うような肌は、いつもよりいっそう艶めかしさを視覚に訴えてくる。あまりにも魅力が溢れる肉体だった。思わず手を伸ばして触って見たくなる。この淫らなカラダに抱かれた時の気持ちよさは、嫌という程知っている――。

「あ、ああ……ダメ、なのに……こんな、敵の淫魔相手に、ダメなのに……」

気が付けば、下半身に大量の血液が流れ込んでいた。男の証が、ズボンの内側で痛いほどに隆起する。姿勢が自然と前屈みになる。これもまた、浅ましい条件反射の一つだった。エサを前に涎を垂らす、手懐けられた犬のような――。

「恥ずかしがらないで……坊や……本当はママのおっぱいで、むぎゅ、して欲しいんでしょ? だったら、ほら、その剣を捨ててしまいなさい」

 耳が濡れてしまいそうなほどの官能的な囁きが、甘く耳朶を震わせてくる。文字通り悪魔の囁きだ、絶対に従ってはいけない。妖しい言葉もろとも叩き斬らないといけない。その、筈なのに――。

 次の瞬間、ロイは振りかぶった剣を下ろし、草地の上に放り出していた。

「く……なんで!? 体が、勝手に……」

 ゾッとしたものが背筋を走る。自分の体が自分の意思を無視して動いたのである。フレイアの言葉に操られるように。

「はいよくできました、坊やはおりこうさんね~……」

 フレイアは満足そうに微笑むと、ロイの頬をそのしなやかな手でするりと撫でた。

「なんで、どうして……?」

「うふふ、勇者様はいくつの夜をわたくしの胸の中で過ごしたか、覚えていらっしゃいますか? 乳魔の魅力がたっぷりと詰まった乳房に溺れ、魔性のミルクをゴクゴクと飲んで……それで異変が起こらないはずはありませんわ……」

「あ、あ、ああ……」

 ロイの顔が引き攣る。甘い癒しの味に夢中になって、気が付かない内に取り返しのつかない過ちを犯してしまっていた。

「つまりね、坊やの体はね、もうママのものなの……」

 フレイアは目と口を弦月の形にしてニヤリと笑った。母性的な顔立ちに浮かんだその笑みは、あまりにも邪悪で、妖艶だった。きっとフレイアはいつもロイをその胸乳で飼い馴らしながら、慈愛に満ちた仮面の下でこんな風に笑っていたのだろう。

「そんな、そんなぁ……くそ、くそぉ……」

 ロイは自らの過ちを悔いた。だが、全てが手遅れだった。

「ロイっ! 何やってんだ! くそっ、あいつ魅了されちまったのか!?」

 レイヴンが大声で吠える。勇者の突然の暴走に虚を突かれ、しばし事の成り行きを見守るだけしか出来なかった仲間達はそれを切欠に我に返った。

「でもあの人が身に着けている防具は女神の加護を受けていて、あらゆる魔を祓う効果を持っているんですよ? そんなはずは……」

「頭でっかちのエルフっ子が! 現にああやって腑抜けにされちまってんだろうが! ガーベラ!」

「ええ、わかってます。いまアンチチャームを……」

「俺は直接あいつからロイを引っぺがす! エド、援護を頼む!」

「言われなくても、もう準備出来てます!」

 勇者の魅了状態を解除するために、三人は機敏に行動を開始した。

 僧侶のガーベラが杖を翳して天に祈りを捧げる。信仰体系に属する魔法は、神に祈りを捧げ、その奇跡の力を局所的に起こすものだ。そのための祈りの時間が必要で、他の系統の魔法よりも発動までに時間を要する。さらに、治癒系の魔法は対象者との距離が遠ければ満足な効果が得られないというネックもあった。だから、レイヴンはフレイアと勇者を引き離すために大きく前に出る。支援役のエドが後から続く格好だ。

「うふふ……」

 フレイアが天に向かって手を差し上げ、パチンと指を鳴らした。と、次の瞬間、周辺の地面に大小数多の魔法陣が描き出された。魔法陣が、怪しい赤い光を放つ。果たして、今まで何もなかった空間から、魔物が次々と出現し三人とフレイアの間に立ちはだかった。

「くっ……召喚魔法かよ、しゃらくせえっ!」

 壁のように目の前に立ちはだかった一つ目巨人の棍棒をかわし、がら空きの膝を蹴り砕きながらレイヴンが悪態を吐く。

「しかもこいつら、見たことも無い魔物です!」

 エドは獣人の武闘家を肉体強化の魔法で援護しつつ、ラミアの上位種と思しき半蛇の妖魔に火、雷、氷の魔法を矢継ぎ早に放つ。

「くっ、これじゃロイを助けられない……」

 ガーベラは詠唱の中断を余儀なくされた。黄金色のバフォメット、馬の半身を持つミノタウロス、右半身だけが異様に発達した非線対称の魔人など、新手の魔物達の種類は様々で、見たことが無いだけでなく、今まで戦ってきた魔物よりもはるかに頑丈かたく、疾はやく、剛つよい。数も多い。二人の援護に回らなければ、ロイを助けるどころの話ではない。

「残念だけど、わたくしは坊や一人で手一杯ですの。あなたたちの相手は……この子達にしてもらいますわ」

 フレイアは口に手を当ててコロコロと上品に笑うと、少年の両肩をそっと掴んだ。

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【小説】乳魔に手懐けられた勇者 中編

 ウスルクスの南東に広がるカブス海には、地方の言葉で悪鬼すら狂う島(ブラブ・ヴァルジュ)と呼ばれる島が存在している。その島の周囲には終わらない嵐が吹き荒れ、どんな船であろうとも揚陸することは出来ない。上空には巨大な暗雲が山脈のように重なっており、魔界の瘴気が満ちたその大地には、狂気の生態系が確立されており、力なき生命は10の秒を数えずに死に絶える。だから、カブス海を渡る荒くれ者たちでさえ、誰もこの島に近付いた者はいなかった。いや、過去にはいたという酒場伝説めいた話もある。だが、島に向かい、返ってきたという話は皆無だった。

 さて、その島の上空に垂れこめる暗雲を取り払い、1羽の鷹の眼で魔島を俯瞰したとしよう。すると、その鋭い眼は人界から隔絶された魔の地のちょうど真ん中に、不気味な城を見出すことが出来るだろう。それこそが、この世界を破壊と恐怖で脅かす魔王の居城である。

 勇者ロイ一行がディーナールへ到着する、数日前――。

 魔王城の最上階にある、謁見の間にこの城主の腹心達が一堂に会していた。寒気がするほどの美貌を誇る女悪魔、闇龍族の異端児、二本脚で這い回る魔獣、九つの頭を持つ虎、名状しがたい冒涜的なもの――様々な姿をした魔物達が、各々の眼や眼に当たる器官で、黒絹のヴェールが引かれた広間の奥を見つめていた。

 ヴェールの向こうでは、魔王が巨大な玉座に鎮座している。側近中の側近数名にしか、魔王はその姿を見せたことが無かった。直接姿を現さないことで、神秘性を高める計算だろうか? そう疑う者もいた。しかし、そんな考えはこの謁見の間に入ればたちどころに消え失せるだろう。黒いヴェールの隙間から漏れ出る瘴気のような魔力は、あらゆる悪魔に服従を強いるのに十分な王の威圧を孕んでいた。

「勇者の小僧が、二つ目のオーブを手に入れたそうだな」

 水を張ったような静寂の中に、呟くような魔王の声が渡った。しかし、誰も答えない。答える必要のない問いかけだと、皆理解していた。

「残るオーブは後一つ。ふぅ……ウルナの手先が我が大地を穢すなど、実に面白くない話だ。しかし――力でねじ伏せようにも、彼奴らのチームワークは侮れん。現に彼奴らはゲールラートとその部下を討った」

「あれは傲慢ですぐに調子にのる馬鹿だったけど、それでも魔三将の一翼を担っていたんだから、実力はあったもんねえ。ま、タイマンならあたしがひとひねりだけどね」

 青い肌を持ち、頭から鋭い3本の角を生やした悪魔の美少女が胸を反らして笑った。彼女は魔三将の一人ライラ、極限まで鍛え上げたしなやかな四肢を用いて、有形無形のあらゆるものを破壊することを至上の悦びとする、魔王軍随一の武闘家だ。

 しかし、と魔王はライラに取り合わずに話を進める。

「いざとなれば、余が動けばいい。それで彼奴らのそっ首は胴から離れる だが、それも趣の無い話だ。余の美学に反する」

「では、何かお考えがおありなのですね?」

 先を促すように口を挟んだのは、胸に巨大過ぎる果実を実らせた美貌の女悪魔――フレイアだった。彼女もまた魔三将の一人で、淫魔サキュバスの変種、乳魔である。彼女の最大の特徴は目を瞠るほど巨大な乳房と聖母のように優しげな美貌だ。その邪悪の母性に絡め取られた獲物の末路は憐れとしか言いようがなかった。今までにも数えきれないほどの屈強な冒険者が彼女の胸の谷間に溺れ、おぞましい形に心を作り変えられながら、練磨と苦痛の果てに培った全てを奪われていったのである。

「もちろん」

 魔王はくつくつと笑った。

「余の考えはこうだ。チームというものは、互いに互いを支え合い補完し合うことで均衡を保ち、それぞれの力を100%以上に発揮する。だが、それは裏を返せば、支え合う柱の一本をへし折れば、全てが脆く儚く崩れ去るということに他ならない……余は、その崩壊の様子を是非とも見て見たい」

 魔王はそこで、一呼吸置いてから続けた。

「さて、問題は――」

 そう言って指を鳴らすと、ヴェールの前の赤い絨毯が敷かれた床に魔法陣が4つ出現し、怪しい赤い光を放ち、魔法陣と同数の不気味な鏡の魔物が召喚された。縁に骨のアラベスクとでも言うような不気味な装飾が施されたそれぞれの鏡面が、石を投げこまれた水面のように歪み――やがて、人間の勇者、獣人の武闘家、エルフの魔法使い、人間の女僧侶のバストアップを映し出した。

「この四人の中の、誰を狙うか。その一点に尽きる」

 魔王はそこで言葉を切った。しばし、緊張感のある沈黙が場を支配した。無言の内に含まれた、誰か意見を述べよ、という命令が、自意識を持たない鏡の魔物以外の全員に伝わっていたからだ。

「魔王様、わたくしめに妙案がございます」

 やがて沈黙を割って声を上げたのはフレイアだった。彼女は下着同然の際どい服で強調されたたわわな実りを、殊更に誇示しながら一歩前に進み出た。

「ふん。フレイアか。申してみよ」

「はい。やはりここは、勇者ロイに狙いを絞るのが上策でしょう」

「その理由は?」

「当然、この少年がチームの司令塔であるからに他なりません。頭が潰えれば、集団というのは脆く崩れ去るものです」

「その通りだな。だが、常識的すぎてつまらん回答だ」

 魔王のシルエットが、心底うんざりした様子で玉座にふんぞり返った。

 フレイアは少しも慌てずに、

「加えて、もう一つ……勇者でなくてはならない理由があります」

「ほほう。なんだ?」

「勇者というのは、かつて暗黒龍を撃ち滅ぼした人間族の英雄――フォルテ――の魂を持った人物のことだというのはご承知ですね」

「無論だ。優れた魂の再利用など、如何にもあの小賢しい女神らしいやり口だ」

「ですから、勇者を殺しても、大地から生まれた全ての魂と同様に、ウルナの元へ還り、そしてまた別な――あるいはより適正な――肉体を与えられ、復活するだけです。それはすなわち、未来に芽吹く厄介の種を蒔くことに他なりません。しかし――」

 フレイアは言葉を区切って自信ありげに微笑んだ。

「わたくしの能力ちからで彼を籠絡し、永遠に飼い殺しにすれば……魂は輪廻の円環に加わることすら出来なくなります」

「ふん。馬鹿な。勇者を捕えさえすれば、魂を再生不可能なまでに破壊するなり、狭間の亡者共の慰み者にするなり、復活を阻止する方法はいくらでもある……飼い殺しなどと申すのは、フレイア、貴様の個人的な欲望だろう?」

「はい。異論はございません。個人的にこの少年には興味があるのです……彼は幼いころに、最愛の母を無くしています。そういう“憐れな”境遇にある坊やは、わたくし、放っておけませんので」

 自らの胸を悩ましく掻き抱き、フレイアは母性的な美貌に妖しい笑みを浮かべた。

「くっくっく……よいぞ、自らの欲望に忠実なのは淫魔族の素晴らしい美徳だ……生い立ちの話が本当ならば、この小僧を堕とすには、貴様はうってつけかも知れぬな……」

 魔王は愉快そうにくつくつと笑った。フレイアの答えに満足したようだった。

「よかろう。皆もフレイアの策に異論はないな」

 誰も声を発さない。魔王が認めた異常、意義を差し挟む者は一人としていないのである。

「では、魔三将が一人、乳魔フレイアに命ずる! 勇者ロイを堕落させ、目障りな勇者一行を壊滅に追いやるのだ!」

「御意のままに」

 フレイアは恭しく一礼すると、マントを翻し、ハイヒールの靴音を高らかに響かせて謁見の間から出て行った。勇者という極上の獲物をどんな風に手懐けようか――想像をめぐらせただけで、フレイアの口元には卑猥な笑みが零れた。

「面白くなってきた……勇者が乳魔の手に堕ちる様……しっかりと見せてもらおうか……くっくっくっくっ……はーっはっはっはっは!」

 魔王の邪悪な高笑いが、冷たい石の壁に反響した。

 セオドア地区、メイクシンク通り3番地、『マアベル商会』という看板が掲げられた店の前で勇者ロイは足を止めた。だが、蒐集(しゅうしゅう)家を自任する店主が世界各地から寄せ集めた珍奇な品々を扱う不思議な道具屋店に用があるのではない。用があるのは四階の部屋。このスイカズラの蔓延る細く縦長の建築物の中で、道具屋の店舗として使われているのは一階部分のみで、二階は店主の自宅兼倉庫であり、残った三階と四階はアパートとして人に貸し出されているのだった。

 本格的に夜が始まる直前のこの時刻、歓楽街へ続く通りには、一日の仕事を終えた者と、一日の仕事を始める者とが行き交い合っていた。ロイは人目を憚るようにキョロキョロと周囲を見回しながら、慌てたような足取りで店舗脇の階段へ向かった。

 階段を一段登る度に、少しずつ動悸が早くなり、息が荒くなる。もちろん、急な階段に息切れするような勇者ではない。この階段の先にある楽園を思うと、自然と体が昂ぶるのだった。歩き方も、若干前のめり、というより前屈みになっていた。

 だけど――。

 目的の部屋まで辿り着いた途端、ピンク色に染まった頭に、後ろめたさがよぎった。もし、今の自分の姿を誰かに見られたら。ましてやこれから、この部屋の中で晒す痴態を、仲間達、特に女僧侶のガーベラに知られたら――。

(彼女は聖職者らしく生真面目だから、僕は軽蔑されるのかな……)

 初めにココを訪れた時には、そう思ってノックを躊躇ったものだ。だが、今となってはその秘め事に付きまとう後ろめたさを、甘美なものとして受け入れるようになっていた。

 背徳感で背筋がゾクゾクとするのを感じながら、ロイは、トントン、トントン、と2回に分けて計4度ドアをノックした。それが、来訪を伝えるサインだった。

 果たして、返事はすぐにあった。それから、部屋の主が出てくるまでの数秒間は、ロイにとって何時間にも感じられた。

「いらっしゃい、勇者様……」

 木製の扉の向こうから現れた母性的な美女が、見るだけで癒されるような柔和な笑みで出迎えてくれた。

「こんばんは。フレイアさん……ま、また来ちゃいました……」

 顔を赤らめ、はにかんだように笑う。ロイはもうすでに、両手両足の指で数えて余るくらい、フレイアの元を訪問していた。

 最初にココを訪れたのは、あの偶然の出会いからちょうど一週間後だった。出会いの夜に味わった甘い癒しの一時が忘れられず、仲間が昼間の戦いで疲れて眠りこけているのを確認してから、ロイは移動呪文でザモン国内の別の町からディーナールまでやってきた。手渡された住所を頼りにこのアパートを探し当て、本当にココが彼女の住まいだと確認した時の喜びは、苦心の果てに宝玉を見つけ出した時のそれと同等だったと言っても過言ではない。

 そして、フレイアからの熱烈な歓迎、彼女の巣とも言うべき誰にも邪魔されない空間で、蕩けるような甘い時間をたっぷりと過ごした少年勇者に、秘密の習慣が出来たのは無理からぬことだろう。

 いつ訪れても、フレイアは嫌な顔一つせずに、優しく、温かく、少年を歓迎した。だからロイはどんどんその甘えの深みに入り込んでいった。初めの内は一週間に一度くらいの割合で、フレイアを尋ねていたのだが、逢瀬を重ねるうちに、一週間が五日になり、四日になり、今ではもう、二日とフレイアと会わずにはいられないようになっていた。ロイは完全に、彼女の母性とその象徴とも言うべき豊満な胸の虜になっていた。

「うふふ、さあどうぞ、お上がりください」

「は、はい。お邪魔します……」

 油の切れた機械人形のようなギクシャクとした動作で部屋の中に入ったロイをみて、フレイアはくすくすと微笑を零した。

「うふふ、内股でもじもじしちゃって……待ちきれないんですね、エッチな勇者様……」

「あう……」

 指摘を受けた勇者は、ますます赤くなった顔をさっと俯けた。だが、内股を直すことは出来そうになかった。

「まあ、十日ぶりだから仕方ない、か……じゃあ早速……ベッドへ行きましょうか」

「う、うん……」

 ロイはフレイアに手を引かれて、部屋の一番奥にある寝室へと連れて行かれた。いつもなら、お茶や食事をしながら話しあう時間があるのだが、今回はそんな余裕はなかった。何せ、フレイアの言う通り十日ぶりなのである。

 相変わらず清潔感の漂う部屋だった。壁際には年代物だが、センスのいい化粧台や衣装ダンスが並び、ベッドシーツは毎日洗い替えしているかのように真っ白だ。

 心を落ちつけようとして深呼吸をする。と、室内に漂う、どこかミルクを思わせる魅惑的な香りが鼻腔粘膜を心地よく刺激してきた。条件反射とでも言うのだろうか。この匂いは、フレイアとの甘い一時を象徴するものだと肉体が認識しているらしく、少年の股間のモノはますます硬くいきり立ってしまう。

(ふあぁ、イイ匂い……凄くリラックスするのに、興奮しちゃう……)

 何とかというアロマらしかったが、部屋内には香炉らしきものは無く、匂いがどこから発生しているのかは分からなかった。そのためロイは、この優しく、けれど妙に官能的な媚香は、フレイアの肌から匂い立っているのだと半ば希望のように信じていた。

 一人で使うには少し大きめのベッドの縁に、フレイアはゆったりと腰を掛け、すでに恍惚境の入り口に差し掛かっているロイに笑いかける。

「さあ坊や、先ずは着ている物を脱ぎ脱ぎしましょうか……」

 二人称代名詞が“勇者様”から“坊や”や“ボク”に代わる。それは、ある種のスイッチのようなものだった。

「パンツ履いたまま、お漏らししちゃうと、後で気持ち悪いもんね……」

「う、うん……わかったよ……」

 ロイはフレイアの体をチラチラと盗み見しながら、言われた通りにした。

 彼女が着ているニット生地の肩出しチュニックは、ゆったりとしているのに、胸の所だけ豊かな盛り上がりを見せていて、視線はどうしてもそこに行ってしまう。しかも、眼を惹くのはソコだけではない。大きめの肩とくっきりとした鎖骨や、黒いストッキングに包まれた長い足とむっちりと肉感的なふともも、全てが悩ましく視覚に訴えかけてくる。部屋着だというのに、より露出度の高いドレスや下着姿よりも、いやらしい感じがした。

 パンツを脱いだ途端、ガチガチに屹立した男の器官が跳ねた。閉じた皮の隙間に覗く真っ赤な亀頭から零れるトロリとした透明な粘液が、少年の欲情の程を如実に物語る。

「うふふ……おちんちんピクピクってなって……もう待ちきれないみたいだね……」

 そう言うと、フレイアはチュニックの裾をつまんで、おもむろにたくし上げた。下はタイトなスカートを穿いていたが、上半身にはブラしか着けていなかった。

 まるで絵画の中に描かれる美の女神のようなふくよかな肉体。爆乳と呼んで差支えない豊艶過ぎる双丘が黒いレースのブラジャーの中で、窮屈そうにたわむ。ロイの視線は、無意識の内に白い艶肌の中にある魅惑の谷間へと吸い込まれていた。

「ふふふ……いつも通りまずはパフパフから、しましょうか……」

 慣れた手つきでホックが外される。締め付けから解放された爆乳が、ぷるん、と揺れて下に垂れる。だが、だらしなく崩れたりはしない。凄まじいまでの量感と柔らかさを持ちながらも、適度な張りによって乳房としての形状と魅力は寸分たりとも損なわれないのである。その絶妙なバランスは、奇跡的とも言うべきものだった。

「くすくす……じっと見ちゃって……もうおっぱいに釘付けね……」

 フレイアは大人なブラを指先からベッドの上へするりと滑り落とした。そして、ボリューム感たっぷりのウェーブヘアーを、両手でそっと掻き上げた。たゆん、と音が聞こえそうな位大袈裟に、乳房が弾む。

「さあ、坊や……ママの胸に飛び込んでいらっしゃい……」

 ロイに向って両手を広げる。耳に染む甘い声音。悩殺的に潤んだ視線――。

「ふああぁ……ま、ママぁ……」

 ロイは幽鬼のような足取りで近づくと、フレイアの腰に手を回し、寛げられた脚の間に身を滑り込ませて膝立ちの姿勢を取った。と、フレイアの手が後頭部に回り、ロイの顔はその巨大な胸乳へ押し付けられた。極上の柔肌が、むにゅう……と顔全体を押し包んでくる。大柄で豊満なフレイアに抱かれる安堵感は、喩えようも無く素晴らしいもの。胸はもちろん、程よく肉の余ったお腹や、二の腕、ふともも、その全てにゆったりと包み込まれながら、全身が心地よくリラックスしていく。

 楽園の抱擁と濃縮された女の香りに陶酔しながら、ロイは甘えきった声音で叫んだ。

「おっぱい、やあらかいよぉ……ママ、ママぁ……」

 ママ。フレイアをそう呼ぶことが、ロイのスイッチが入った証拠だった。いつからそうなったのかは、少年自身にも定かではない。自分から口にしてしまったのか、それとも、言って欲しいとお願いされたのか――。

 いや、最早それはどちらでもいいことだ。そのママという短い言葉の持つ、柔らかい響きは、口にするだけで幸せな気分をもたらしてくれるのだから。

「ぱふぱふ……ぱふぱふ……ふふ、ママのおっぱい、気持ちいい?」

「あううぅ……気持ち、いいよぉ……最高だよぉ……」

 もちろん、初めの内はそう呼ぶことに少なからず抵抗を持っていた。亡き母のことを思い出してしまうからだった。だが、何度となくフレイアのことをママと呼ぶ内に――快楽に蕩かされたぼやけた意識で何度となく、ママ、ママと呼ぶ内に――亡き母の美しく優しい面影は、フレイアの母性的な美貌と重なり、抵抗感は薄れていった。

「ママ、ママぁ……ぱふぱふ、もっとしてぇ……ママぁ……」

 それが必要だった幼少期、実の母に甘えられなかった分を取り戻すように、ロイはフレイアに甘えた。そしてフレイアはロイの望むまま、その豊艶な乳房で少年を悦ばせた。無条件に愛してくれる、甘えさせてくれる、癒してくれる、大らかで、温かい存在、今のロイにとって、フレイアはまさに母の概念が結実した、理想の“ママ”だった。

「がっついちゃって可愛い……でも、今日来たってことは、この間ママに話してくれた、オーブっていうのを手に入れたのね?」

 少年を柔らかな乳肉でこねるように愛撫しながら、フレイアは優しく語りかける。そうされると、ロイは訊ねられるままに色々なことを答えてしまう。冒険の進捗やその辛さ、仲間のことや使う技のことなど、なんでも。

「う、うん……オーブがあるっていうダンジョンに行ってて……」

 その巨大な乳房に顔を挟まれ、幼子のようにあやしつけられながら、喋り方まで幼子のようになっているロイである。

「でね、それでね……そのダンジョンは、強い魔物がいっぱいいて……痛くて、怖くて……大変だったんだ……それなのにね、10日もママに会えなくて……僕、とっても寂しかったよぅ……」

 腰に手を回し、フレイアの爆乳の谷間にスリスリと頬ずりをする。この10日間は本当に辛く苦しかったのだと、それを訴えるように。

 実際、ダンジョンのモンスターや罠よりも、少年を苦しめたのは、フレイアの胸に甘えられないことへのストレスだった。気が狂いそうな程に、天国のぱふぱふを想い焦がれていた。言ってみればそれは、禁断症状だった。

 勇者として気丈に振舞うことを自己に強要していた少年は、誰かに頼るということを無意識的に遠ざけてきた。だがそれは、翻って言うと甘えに対する耐性が無いのと同じである。生まれつきの聾者の耳を3時間だけ聞こえるようにし、それからまた聴力を奪ったら、どうなるか想像してみればいいかもしれない。きっと、その聾者は音彩の無い世界に絶望し、命を絶つだろう。それと同様に、フレイアと会うまで甘えを知らなかった勇者が、その蕩けるような蜜の味に中毒するのは必然だった。ロイは完全に依存してしまっていた。好きなだけ甘えさせてくれる優しい“ママ”に――。

「あらあら……それは大変だったわね……それでも、オーブは手に入れられたんでしょう? 坊やは頑張り屋さんね……」

 言いながら、フレイアは乳肉の合間からかろうじて覗くロイの頭をそっと撫でた。

「ふああぁ……ママぁ……もっとよしよししてぇ……僕を褒めてぇ……」

「イイ子、イイ子……坊やはとってもイイ子よ……頑張った分だけ、ママに甘えていいんだからね……」

 心地いい。ホッとする。柔らかな乳房に顔を埋め、優しい手に髪を撫でつけられると、心中に安らかな気持ちがじわじわと込み上げてくる。

 いつまでもこうしていたい。だけど、それは叶わぬ願いだ。

「あのね、ママ……」

 ロイはフレイアの胸からそっと顔を上げて言った。

「僕、明日からまた、しばらくここに来れなくなっちゃうんだ……」

「あら、どうして?」

「ええと……光のオーブが3つそろったから、僕達は明日にでも悪鬼さえ狂う島ブラブ・ヴァルジュへ乗り込むつもりなんだ」

 悪鬼さえ狂う島(ラブ・ヴァルジュ)――そこはこの世界にあって、ウルナの眼さえ届かない島で、周囲に絶えず吹き荒れる嵐が近づく船を海の藻屑と変え、大地から吹き出す瘴気が魔に属さない命を悉く腐らせる、まさに魔境と呼ぶにふさわしい場所だ。そして、偉大なる預言者アブドゥルの話によれば、この悪鬼さえ狂う島に、魔王の居城があるのだという。

「まあ、それでは、ついに魔王を……」

「うん。だから、また……しばらく会えなくなっちゃうかもしれないんだ……」

 しかすれば、永遠に――。

 思っただけで、口にはしなかったが、まだ幼さの残るロイの顔に差した翳りによって、フレイアはその心中の不安を悟ったようだった。

「そっか……じゃあ、旅立ちの前にママがいっぱい元気づけてあげるわね……」

 そう言うと、フレイアは胸の上あたりまで捲り上げたチュニックの裾を掴み、そのまま一息に捲り下ろした。すると、顔面を乳肉に捕らわれたロイは当然のことながら、体を服の下に仕舞い込まれることになる。丁度、1つの服を二人で着ているような格好だ。

「ほーら、ぱふぱふ、ぱふぱふ……」

 その状態でフレイアは生地の上からたわわな胸をじっくりと捏ね回し始めた。2つの肉の塊が、左右からむにむにと頭や首をマッサージしてくる。

「ふあ、あ、ああぁ……何これ……溶けるううぅ……!?」

 あまりの気持ちよさに、ロイの口から腑抜けそのものの声が上がった。柔心地も優しい圧迫感も先程までと変わらない。だが、衣服の緩やかな締め付けが、いつも以上の密着感を生み出していた。汗で湿ったもち肌に顔全体を揉みくちゃにされながら、ロイは自分という存在がフレイアのおっぱいに取込まれていくような感覚に囚われた。

「うふふ……こうやって服で包んであげながら、ぱふぱふってされると……ママと一つになったみたいで、とってもいい気持ちでしょ?」

「あ、あああぁ……これ、すごおぉい……ふああぁ……たまんないよぉ……」

 さらに、気持ちいいのは肉との一体感だけでは無い。外気と隔絶されたことにより、服の内側で熱気とフレイアの体臭が籠るのである。むせ返りそうな位に濃密な媚香。呼吸をする度に痺れるような感覚と共に、脳がトロトロに溶かされていく。

(すっごい、いい匂い……ママ、ママの匂いぃ……)

 ロイはフレイアに縋り付き、顔を胸乳に押し付けて深呼吸を繰り返した。そうすることで、恍惚感で頭が一杯になる。気持ちいい。辛かった過去を忘れられる。未来に待ち受ける困難を忘れられる。刹那的な、けれど永遠に続くかのような甘え。

「ほうら、ほうら……ママのおっぱいで、シェイクしてあげる……」

 フレイアは両の手をWの字に開き、上半身を左右に振った。すると、豊かな双丘がばいんばいんと弾み、少年の頭部は衣服と爆乳の密閉空間で、玉のようにみたいに繰り返しバウンドさせられることになる。

「うふふ、逃げられない状態でおっぱいに目茶目茶にされるの、たまらないでしょ? ほうら、今度はまた、お顔をぎゅーってしてあげるわ……」

「はうぅ……あ、あああぁ……あ、ああああぁ……」

 女性の象徴にいいように翻弄されながら、少年は恍惚の声を上げてよがり狂う。他人の服に潜り込んでモゾモゾと身を揺するその様子は、傍目に何とも不格好でおかしかった。

「ああ、ふああぁ……ママ、ママぁ……もっと、もっとぱふぱふしてぇ……」

 もうそこにいるのは、勇者ではない。一人の甘えん坊の少年ロイだ。意地や立場や役割を放擲して、誰かに頼り切ることが、こんなにも安らかで、心地良いことだなんて――それは、フレイアと出会う前ならば、みっともない、だらしないと切り捨てたであろう甘えきった考えだった。だが、もうロイはその甘えの薬が無くては生きていかれない。だが、いかな薬も量が過ぎれば毒である。

「あああぁん……ママぁ……ママぁ……フレイアママぁ……おっぱいママぁ……」

 勇者は豊乳の狭間で揉みくちゃにされながら、声を上げて歓喜した。今の自分の姿を仲間が見たらどう思うだろうか。そんな“余計な”考えは、もう微塵も頭の中に残っていなかった。

「うっふふふふ……だいぶ脳味噌トロットロに溶けてきたわね……じゃあ、何も考えられなくなった坊やに最後の仕上げをしてあげましょうか……」

 ふ、と妖しい笑みを浮かべ、フレイアは再び服をめくり上げると、肩を押してロイの体を離した。

「ふえ? どうして……? ママぁ、もっとぱふぱふしたいよぉ……ぱふぱふで、いつもみたいに、白いのビューさせてぇ……」

 押し退けられる格好で、ぺたりと床の上に尻をつけた少年は、楽園から追い出されたような寂しさに、親とはぐれて途方に暮れる子供のような面持ちでフレイアを見上げた。その股間の雄は今にも弾けそうな位に張りつめ、先っぽから多量の先走り汁をダラダラと漏出させながら、ビクンビクンと淫らに脈打っていた。

「うふふ……とっても欲望に素直で可愛いおねだりだけど……ダ~メ……だって、今夜は、坊やにもっとイイコト教えてあげるつもりだから……」

「いいこと……?」

「うふふ、そう……とってもイイコト……」

 フレイアがそのセックスアピールの結晶を下から両手ですくい上げた。供物を捧げ持つような形、白魚の指が沈み込んで、柔乳が淫らに形状を変える。少年の視線は当然の如くに吸い込まれてしまう。

「ねえ、坊や……ママの、おっぱい……吸ってみたくなぁい?」

「ふえ?」

 ロイは間の抜けた声を上げた。それは、無理のない事だった。フレイアはその自慢の胸と肢体を用いたありとあらゆる方法で少年を悦ばせていたのだが、許していないことが2つだけあった。一つは男と女の交わり、そしていま一つが乳首を吸うことだった。

「おっぱい……赤ちゃんみたいにちゅぱちゅぱしてみたくなぁい?」

「い、いいの? ホントに……」

「ええ、もちろん……それでね、ママのおっぱいからはね……」

 フレイアは少し恥ずかしそうに頬を赤らめ、自らの乳房を搾るように強く揉んだ。するとどうだろう、硬くしこって上を向いたピンク色の突端から乳白色の液体がぷぴゅっ……と噴出し、ロイの顔に降り注いだ。

 熱くトロトロとした感触、そこから放たれる甘いミルクの匂い、ポカンと空いた口に飛び込んで来た極僅かな飛沫がもたらす、まろやかな味わい――。ロイは濃厚豊潤な母性の蜜を浴びながら、半ばぼんやりとした表情で驚きの声を上げた。

「え……お乳……!? ママって、子供が……」

「いいえ、違うわ。ママは子供を産んだことはないけど、こんな風に母乳が出る体質なの」

「体質……?」

「そう、体質……そういう女の人がいるって、聞いた事ない?」

「ううん……わかんないけど……えと、その……お乳が出るのって……なんだか、すっごい、エッチだよぉ……」

 思考をピンク色に染められた今のロイにとって、理屈などどうでも良かった。重要なのは大好きな“ママ”の乳首から母乳が出るという事実そのものだった。

「うふふ……坊やったら……でも、ママはね、こんな風に母乳が出るって知られるの、ちょっと恥ずかしいんだ……だから、今までは坊やに……ううん、どんな男の人にも、おっぱい吸わせたことなかったんだけど……」

 言いながら、フレイアはベッドに深く座り直した。大柄な彼女の重みで、ベッドが疲れたような軋みを上げた。

「でも、坊やはこれから苦しい戦いに行くんだもんね……だから、特別に……誰も飲んだことの無いママの母乳……飲ませてあげようとおもうの……ねえ、坊や……ママのおっぱい、飲みたいよね?」

「うん……うん……」

 ロイは鼻息を荒くしてコクコクと頷いた。興奮し過ぎたためか、異様に喉の渇きを感じる。この渇きを、ママの母乳で癒して欲しい――。

「じゃ、いつもみたいに、可愛くおねだり……して?」

「うん……えと、ママ……ママのおっぱい……おっぱいミルク……いっぱいいっぱい飲ませて……ママぁ……」

 ロイはフレイアにおねだりすることに、自らの欲望を幼児のように伝えることに、最早何の抵抗も抱いていなかった。それどころか、普段であればいやらしくて、恥ずかしくて口にできないようなおねだりをすることで、心の中に甘い充足感がじわりと広がるのを、ちゃんと理解していた。

「うふふふ……いいわよ……じゃあ、ママのお膝の上に、いらっしゃい……」

 ベッドに腰掛けたフレイアが、両手を広げる。そして、招かれるまま立ち上がったロイを、優しく腕に絡め取り、横向きの姿勢で膝の上に寝かせた。

「ふあ……」

 むちむちの太腿が少年の細い腰を柔らかく受け止めてくれる。女性にしては少し大きめの手が、後頭部にふわりと添えられた。

「はい、抱っこ……さあ、坊やおっぱいの時間ですよ……はい、お口あーん……」

「あ、あーん……」

 あんぐりと口を開いた途端、巨大な量感を誇る母性の塊が、ゆっくりと落ちてきた。雪花石膏のように白い肌の中の、楕円形のピンク色、綺麗な乳輪。先程のミルクの残滓が艶やかに絖光る魅惑的な乳首。それがどんどん、大きくなって、視界一杯に広がって――

「ああ、あぁ……むふあぁ……」

 右の乳房でむにゅ……と口を塞がれた瞬間、顔面全体が白い肉塊に覆い尽くされた。おっぱいというにはそれはあまりに大き過ぎだった。さらに、硬く充血した雌の突起が口の中に飛び込んでくる、媚びるように舌にコリコリと触れてくる。

「さあ坊や……遠慮しないで、ママのミルク、たくさんちゅっちゅしていいですからね……」

 促されると同時に、ロイは頬を窄めて硬く充血した乳首を吸い始めた。途端に口の中に流れ込む、温かい乳汁がトロトロと流れ込んでくる。豊潤な香りが鼻腔を満たし、甘い味が舌の上に広がっていく――。

(な、なにこれ……甘くて、おいし……ほっぺた、落ちちゃいそ……女の人の母乳って、こんなにおいしい物なんだ……!)

 フレイアの母性の蜜は、今まで口にしたどんな飲み物よりも美味だった。クリームを何十倍にも濃縮したように甘いのに、少しもしつこくなく、喉越しも爽やかなのである。それはまさに、天与の甘露、地上のものとは思えない極楽の妙味だった。一口飲む度に甘い恍惚感が心に充溢し、さらに次の一口が欲しくなる。

(甘くて、おいし……もっと、もっとおっぱい……パイパイ……)

 たちまちのうちに乳液の虜になった、少年はにゅうと腕を伸ばし、肉の果実を抱え込んでむしゃぶりついた。いや、フレイアの持ち物は少年の頭よりもずっと巨大であるから、その様子は乳房にむしゃぶりつくというより、一生懸命に縋り付いていると言った方が適切だった。

 文字通り、母に授乳される赤子の体勢だ。フレイアは慈愛に満ちた聖母の微笑を浮かべ、夢中でおっぱいを吸い立てる少年の頭を優しく撫でさする。

「うふふ、おっきな赤ちゃん……可愛いでちゅよ、坊や……よしよし、よしよし……ママのおっぱい、おいちいでちゅね~……」

 フレイアの口調が赤ちゃん言葉に代わる。ロイが行為にのめり込むと、彼女は必ずそうしてくれるのだった。

 赤ちゃん言葉には恥辱の響きがあって、普通であれば反感を覚えずにはいられない。だが、フレイアの優しく甘やかすような声によって紡がれるそれは、理性の障壁を無視して心を直接くすぐってくる魔法の言葉だった。

「ママに抱かれている間、坊やは何も考えなくていいんでちゅからね……何も心配しなくていいんでちゅからね……全部ママに任せ切って、気持ちよくなりまちょうね……」

 赤ちゃん言葉で囁かれる度に、じわじわと心が蕩けていく。いつもそうだった。フレイアに赤子のように扱われることが、自分にとって幸せなことなのだと、ロイは意識の深いレベルで、認識してしまっているのである。

 しかも今回はただ赤ちゃん言葉を使われているだけではない――。

(今の僕はママに甘えて、ママのおっぱい吸って……誰がどう見ても、赤ちゃんで――)

 自分が赤ちゃん同然だと認識すると、心地よさは加速度的に高まった。かくあるべしと無理矢理に作り上げた、勇者としての、リーダーとしての、男としてのロイが、甘い恍惚の中で溶けていく。

 ヨシヨシと頭を撫でられる度に、じわぁ……。

 おっぱいで顔全体をあやしつけられる度に、じわぁ……

 しこった胸の先っぽを舌でレロレロ転がす度に、じわぁ……。

 口の中に広がるミルクの甘さや匂いを感じる度に、じわぁ……。

 大事なはずの、だけど余計な心の殻が、溶けて無くなっていく。

 それが、快感。それが、心地いい。

(もっと溶けたい。もっと楽になりたい。もっと、もっとママのおっぱいが欲しい……もっと、ずっと……)

 夢見心地に浸りながら、ロイはたわわな肉果を貪った。溢れ出るミルクの果汁を口元から溢れさせながら、溺れる程に飲んで、飲んで、飲み下した。そして――。

「ぱふぁっ……えほっ、えほっ……」

 飲むところを間違えてしまった。咄嗟に乳首を離して、咳を繰り返す。

「あらあら、咽ちゃいまちたねえ……よしよし、よしよし……」

 そんな少年の背中を、フレイアは優しく撫でる。するとロイはすぐに落ち着きを取り戻し、ポーッと“ママ”を見上げた。ぽかんと締まりなく口を開け、飲み切れなかった母乳で顎をベトベトに汚し、微睡んだように眼を半分開いた、腑抜けそのものの表情だった。

「あ、あ……」

 ロイが、口をぱくぱくとさせる。ママにありがとうを言おうとしていた。ママにごめんなさいをしようとしていた。そして、もっとママにおっぱいをおねだりしようとしていた。だが、どれも出来なかった。思うことはできるし、言葉もわかっている。なのに、何も言えなかった。発音を忘れてしまったみたいだった。

「あう……あぶ、あぶ……」

 かろうじて出せたのは赤ちゃんの声だった。まるで、幼児に退行させられてしまったみたいだ――。背筋に冷たいモノが走った。何かがおかしい。脳の片隅で警鐘が鳴った。

 だが。

「坊やったらそんなに焦らなくても、大丈夫でちゅよ……ママもおっぱいも逃げたりなんかしまちぇんからね~……」

 再び胸乳に顔を押し付けられ、乳頭を口に含まされた瞬間、先程の刹那的な恐怖はどうでも良くなった。

(もっと、ミルク……もっと、ママに甘えたい……ママぁ……)

 ロイはフレイアの豊艶な乳房に吸い付き、んく、んく……と喉を鳴らす。すると、自然と全身の筋肉が弛緩する。おっぱいに縋り付く腕や手と、乳首を吸い立てる口の周りの筋肉も、必要最小限にしか力が入らない。自らの重さで、頭が後ろに落っこちそうになる。まるで、首の座らない子供のように。と、女性にしては少し大きな手が、頭を支えてくれた。

「うふふ、だいぶママのミルクが効いてきまちたね……坊やったらもう自分じゃなぁんにも出来ない、赤ちゃんみたいで……可愛い可愛いでちゅよぉ……」

 少年を抱く美女がその刹那に浮かべた微笑は、一見すれば慈愛に満ちて、聖母のように、けれどよく見れば妖しくて、淫らで。もし仮に邪悪な母性という概念が笑うとすれば、きっと同じ表情になっただろう、そんな笑みだった。

「じゃあ、そろそろ……気持ちいいお漏らし、させてあげまちゅね……」

 フレイアの左手が、ロイの股間に伸びる。ほっそりと長く白い指が、包茎ペニスに蛇のように絡み付く。

「坊やのおちんちん、捕まえた……うふふ、熱くて、ガッチガチ……ってあら――?」

「ぷはっ……あっ、んああっ……らめ、ママ……出ちゃうっ……!」

 柔らかな手のひらに軽く握り込まれた途端、ロイはビクッと腰を震わせ、切羽詰った声でそう叫んだ。睾丸が収縮し、包皮の中でカサが開く。そして次の瞬間、少年のささやかなペニスはフレイアの手の中で爆発した。

「ふあ、あ、あああぁ……」

 白濁した欲望の粘液が尿道を駆け上がる。絶頂の歓喜が背筋をゾクゾクと震わせる。目くるめく恍惚感に酔い痴れながら、少年は腰を慄かせて美女の手中に精を迸らせた。

「あらあら……ちょっと握って上げただけで、ぴゅーしちゃって……」

「あううぅ……ママ、ごめんなさい……」

 フレイアのくすくす笑いが、ロイの心に罪悪感を喚起した。だが、暴発は仕方の無いことだった。パフパフ責めと授乳の喜びによって、少年の包茎ペニスは握られる前から、閉じた皮の隙間から漏れる先走りで、ドロドロになっていた。喩えるならそれは、水を満杯に注いだコップ。表面張力によってどうにか臨界突破を誤魔化していたに過ぎないのである。そんな状態で、フレイアの手に触れられて、快楽が溢れ出さない方がおかしい。それでも、ロイ少年は謝らずにはいられなかった。大好きなママに、嫌われない、イイ子でいるために――。

「おもらししちゃって……ごめんなさい……ママぁ……」

「いいんでちゅよ……ママは全然怒ってまちぇんから……それどころか、ちゃんと言いつけ通り、射精する時にママ出ちゃう~って言えて……とっても、エライでちゅよ……」

 優しい微笑、後頭部を支える手が頭をよしよし撫でてくれる。ロイはうっとりと目を細めて、その温かな手を感じた。

「うん……だって、約束だもん……」

「それでも、坊やはエライエライ……」

 ロイの頭を撫でると同時に、フレイアは股間のモノにもイイコイイコをする。その慈しむに満ちたタッチに、射精後も尚も硬さを失わない小さな雄の器官が、悦びを露わにピクピクと跳ねた。

「ママのおてて……やあらかくて、スベスベで……あうぅ……いいよぉ……もっと、おちんちんてぇ……」

「うふふ、いいでちゅよ~……おちんちん、いっぱいシコシコしてあげまちゅ……ほら、おっぱい……おくち、あーん……」

「あーん……む、ふううぅ……んちゅ、ちゅううぅ……」

 ロイは差し出された乳房に一切の躊躇なくしゃぶりつき、その芳醇な母性のジュースを求めた。顔を包み込む極上の柔肉、瑞々しい艶肌、口に広がる甘い味。全身が心地よく弛緩し、けれど少年の肉体の中であの一部だけは硬さを増していた。

 勃起した幼い雄の証を優しく握り込み、上下に扱き立てながら、フレイアは聖母のように微笑みかける。

「坊やは何も考えず、ママのおっぱいちゅっちゅして、いればいいでちゅからね……ほら、し~こ~し~こ~し~こ~」

 リズミカルに口ずさみながらリング状にした指で包皮を剥き下ろし、そしてまた戻す。その度に、柔らかな手のひらが精液を潤滑油にして亀頭粘膜をヌルヌルと摩擦してくる。

 常時鞘に収まっているため敏感で、加えてさっき射精したばかりであるからより過敏になっている筈の男の弱点を刺激されているというのに、全然キツさを感じない。与えられるのは、ペニスの輪郭が無くなって、蕩け出してしまいそうな快感のみ。

「ん、んんっ……んちゅ、ちゅう、ちゅううぅ……」

 ペニスと口とから伝わる快美感が、全身に広がっていく。まるで魅了の魔法にかかったみたいに心身が恍惚となっていく。自分が口と性器だけになったような錯覚にとらわれながら、ロイは与えられる愛情と快楽を夢中で受け入れた。

(ママのおっぱい、おいしい……おちんちん、溶けそうなくらい、気持ち良い……)

 フレイアが与えてくれた他の種々の快楽と比べても、この授乳手コキは飛びぬけて素晴らしいものだと言えた。扱きはじめられて数分も経っていないというのに、少年の下半身は疼くような、痺れるような、熱が下半身に支配され始めた。

「あら、またおちんちん震えて……もうでちゃいそうでちゅね……授乳している時は、出ちゃうって言わなくてもいいでちゅからね……おっぱい吸ってたら、喋れないもんね……さあ、このまま気持ち良いしーしーしちゃいまちょうね……」

「ん、んんっ……んんんっ……」

 フレイアの囁き声と、その巧緻な手さばきに全てを委ね、ロイは腰を小刻みに震わせた。普段の激しく突き抜ける放出とは一味違った、トロトロと漏れ出すような射精。その天にも昇るような快感に陶酔しながら、ロイという名の大きな赤ちゃんはひっしとフレイアの乳房に縋り付き、乳首を転がし、漏れ出す母乳をねだるように啜り立てた。

(もっと……もっと、おっぱいと……しこしこ、してほしい……)

「わかってまちゅよ……もっとして欲しいんでちゅよね……何にも言わなくても、ママが坊やこと、全部面倒みてあげまちゅからね……」

 柔和な笑みを浮かべ、フレイアは精液でドロドロになったペニスをクチュクチュと扱き立ててくれる。その甘い快感に夢見心地になりながら、ロイは心の中で感激に打ち震えた。

 何も言わなくても、ママは本当に必要としているものを与えてくれる。ひな鳥のようにただ口を開けていればそれでいいのである。そんな自堕落な愛の実感が、心に安らぎをもたらしてくれる。ストレスに疲弊した心を、根本的な部分から癒してくれる。

 ただただ幸せだ。この世の中に、他にこんな幸せがあるだろうか――?
 あるわけがない。ママの胸の中だけが、楽園なのだ――。

(ママ、ママ……僕のママ、僕だけのママ……大好きな、ママ……)

 ロイは口の周りを母乳でベタベタにして、フレイアの母性に溺れた。

「うふふ、ピュッピュしちゃった分だけ、ママが補給してあげまちゅからね……だから、遠慮せずどんどんだしちゃいなちゃい……」

 淫らな音を立てて皮オナの要領でペニスを弄びつつ、滑り気を塗り拡げるみたいに親指の腹で亀頭をグリグリと撫で回された。性感帯への少し強めの刺激に、少年のモノはビクビクと脈動し、白濁した快楽の雫を漏出した。

「しーしー……しーしー……白いお漏らし、しーしーしー……」

 トロトロと滲みだすような、尾を引く射精に痙攣する肉棒を、慈しむように扱き上げられる。それがさらなる快感を生む。辛さなど少しも無い、甘く、身も心も蕩けるような快感だ。そして、トロトロ漏精が終わる頃には、次の絶頂が始まる。だから、ロイは天国のような心地よさに浸り続ける事が出来る。“ママ”の胸の中で、全てを委ね切っているだけで。

「しこしこ、しこしこ……ママの匂い、味、感触……しっかり頭に刻み込みながら、たくさん気持ち良くなりまちょうね……」

「ん、んんっ……ちゅ、んちゅうぅ……ん、んうぅぅ……」

 魂までも震えるような底なしの快美に溺れる。五感全てが“ママ”で満たされていく。

 甘美な絶頂感が絶え間なく続く。精液も絶え間なくとろ、とろ、とろり。我慢なんて必要なかった。出したいだけ、出せるだけ出せばよかった。ママが許してくれているのだからそれが当然だ。

(ママ……ママ、ママ……ママぁ……)

「ママのミルクで身体を一杯にして……ママへの想いで心を満たすの……そうしたら……ふふふ……坊やはもう、完全にママのもの……ママだけのものでちゅからね……うふふふふふふ……」

 “ママ”の抱擁という、世界で最も安らかな揺り籠。柔らかで豊かな肉が、あらゆるものから守ってくれる。そんな楽園の心地に浸りながら、女のミルクを求め、男のミルクを吐き出し続ける。それだけで、幸せだった。無限とも言うべき幸せに浸りながら、ロイの意識はうとうとと、安らかに、薄ぼやけていった――。

 朝目を覚ますと、ロイはベッドの中で温かな毛布にくるまって、一人きりだった。こんなことは、初めてだった。ロイにとってこの家での目覚めは、柔らかな肉布団に包まれて、という甘美極まるもの以外にありえなかった。不安になりながら部屋中を探したが、フレイアの姿はどこにもなかった。代わりに、リビングのテーブルの上に、まだ少し暖かいハムエッグとパンがあり、その皿の下に一葉の手紙が敷いてあった。

「勇者様へ。

 突然姿を消してしまい申し訳ございません。けれど、あなたと直接顔を合わせると、きっと別れがつらくなります。もしかしたら、勇者様をぐずぐずと引き留めてしまうことでしょう。そして、どこか平穏な所へ行って(そんな場所など、今の世界にあるはずもないのに!)二人で静かに暮らして下さいなどと、子供のような我がままを申すかもしれないわたくしなのです。

 どんな卑怯な手段に及ぶとも限りません。可惜あたら、女の焦がれる思いは、それだけ強い衝動なのです。身勝手なわたくしを、お許しください。

 ですが、わたくしはこれが今生の別れだとは少しも思っておりません。だから、こうして顔を合わせずに別れを告げ、そして再び会うことを望んでいます。

 再会は、きっと特別なものになるでしょう。

 その時、もし勇者様さえお嫌でなければ、わたくしは、わたくしの全てを見せようと思います」


 瞬間、ロイの胸はドクンと強く打った。全てを見せる。その意味は明白だった。魔王を倒した暁に、彼女は今まで許していなかった最後の行為を、許してくれようというのだ。昨夜、数えきれないほどの絶頂を味わったというのに、股間のモノに熱が集まるのを感じ、ロイは誰もいないのに少し恥ずかしくなった。

 そして手紙は、こんな他者へ送るためのエールで締めくくられていた。

「勇者様なら、きっと大丈夫です。頑張ってください         フレイア」

 朝食を平らげてから、ロイはすぐに仲間の元へと戻った。

 恩人との別れの挨拶は出来なかったが、その手紙を読んで、それはむしろ自分にとって好都合だったのだろうと考え、心中にフレイアに感謝した。もう2度と会えないかもしれない。そんな別れは辛いから。

(でも、僕は負けない。絶対に魔王を打倒して、フレイアさんと……)

 ロイは新たに決意を固め、再び戻ってくることを決意した。

 フレイアの胸の中という、少年の唯一の安らぎの園へ――。


 ツヅク。

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爆乳少女♡最後のお遊び 先行体験版その2

爆乳少女の新作体験版を有料プラン加入者向けに先行で公開します♡

今回はカウンセラーがおっぱいで誘惑されて……というような感じの内容です。
今回の分は正式な体験版にも入れる予定なので、早めに楽しみたい方のみ有料プランの加入オナシャス。100円からでもいけますがそれ以上でもいいんですよ……あとdlsiteポイントでも払える。自作の作業が終わらない=他のところの仕事が出来ず、お金が入ってこないのでしかたねえなって人はお金投げてやってください♡

それでは引き続き作業します。今月中には書く作業終える予定なので仕事ほしいなー♡

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爆乳少女体験版第一弾

先月頭に有料会員限定で公開した爆乳少女シリーズの新作「爆乳少女♡最後のお遊び」を全体公開するわぜ。

まだ有料プラン続けてくれている人もいるみたいなので、今月も途中の1シーンを有料で公開したいと思います。その分も正式に体験版が出せるようになったらdlsiteやpixivで公開するので待てる人は待っててね♡

まだ表紙とかは出来てないけど、文章自体は今月中に完成予定。なので今月か来月には販売にこぎつけられると思う。予定より文字数バーンと増えちゃったけど買ってね♡

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爆乳少女♡最後のお遊び

「ほら、恥ずかしがらずにさっさと脚開きなさい、みんなもケータ君のおちんちん見たがってるんだから♡」
 白峰聖蘭は嘲るような調子でそう言って緑川圭太の両脚を広げた。今にも弾けそうなくらい張り詰めた性器が幾人もの女子の視線に晒される。
「やだ~こいつまだなんもされてないのにもう硬くしてるし」
「みんなに見られてるのにビクビクさせて……マジ変態じゃん」
 机の上に座らされ、M字に開脚させられた格好で、少年は顔を真っ赤にし、もじもじと身を捩(よじ)ったが、それ以上の抵抗はしなかった。恐怖で竦んでいるわけではない。抵抗を諦めているわけでもない。その未成熟な雄の器官は何かを期待するように上下に打ち震えていた。
「もう待ちきれないみたいだねぇ、みんなの前で白いのぴゅっぴゅ~って出すところ想像しちゃってるのかなぁ? くすくす♡」
 聖蘭の悪戯な指先が少年の勃起をくすぐるように刺激する。同時にうなじの辺りに柔らかな塊をグイグイと押し当てていた。それは当然少女に備わっていなければならないものでありながら、全く異常な代物であった。
 聖蘭の上半身に豊かに実ったおっぱいである。それもバストサイズを売り物にしているグラビアアイドルを遥かに上回るサイズを誇る、まさに爆乳としか表現しようがない巨大なおっぱい――着ている薄手のシャツはサッカーボールを2つ詰め込んだみたいにパンパンに膨れていて、白い肉はV字に抉れたネックから零れ落ちんばかりの、けれどそこ以外の部分は成長途上の少女なのである。胸だけが極端に発達した少女体型は反道徳的なまでにアンバランスで、しかしそれ故に妖しく、艶めかしく、危険なほどに魅惑的だった。彼女が目の前を横切れば、どんな男でも目を奪われずにはいられないだろう。
 そして、彼女の胸はただ大きいだけではなく、ずっしりとした重量感と極上のふかふかの柔らかさを備えた、男を言いなりにするための最強の武器であった。そんなおっぱいの谷間に首筋と後頭部を埋められた圭太の口から、自然と「ああぁ……」とため息が漏れたのも無理はないだろう。股間の雄の証がぴくぴくとあからさまな反応を見せ、少女たちの嘲笑を誘ったが、それさえも気にならないくらい、少年は瞬間的に思考が蕩かされてしまっていた。
「あらら~せーらのおっぱい気持ちよくてとろ~ってなっちゃってるねえ♡ でも、すぐに出したらダメだからね~」
 極上の肉のクッションで頭を挟み込んだまま、聖蘭は少年の屹立を捕まえた。力は込めない、輪っかにした指が膨らんだ先端部に引っかかる程度に軽く握り込む。
「ほら、みんなよく見てね、ほとんどの男子はケータ君みたいに皮が余っちゃってるから、こうやって皮の上から指輪っかで扱いてあげるのがいいんだよ~」
 周囲の女子にそう説明しながら、聖蘭はゆっくりと手を上下させる。剥き下ろし過ぎないように加減しつつ、指の輪が包皮の上から出っ張ったカリの部分を優しくこすり上げる。繰り返される心地よい刺激に、少年の表情がますます弛緩していく。
「こうやって~ちゅこちゅこちゅこ~ってしてあげると、ほら透明なお汁が漏れて来たでしょ~?」
「知ってる知ってる♡ これ、我慢汁っていうんだよねえ」
「にちゃにちゃしてて、ヨダレみたいだね」
「すんすん……うえ、変な匂いするねこれ」
 頭を寄せて少年のモノを覗き込み、姦(かしま)しくはしゃぐ女生徒らはみんな聖蘭の後輩だ。
いうなればこれは実演だった。誰でも最初から達者なわけはない。経験の浅い彼女らに、やって見せ、言って聞かせてという式で、“男子の上手な扱い方”を伝授している最中なのである。
「ひあ……そ、そんな、じっくりみないで……はああぁ……ん」
 実演道具にされた男子生徒は、眼を固くつむって身を震わせ続ける。身体の内側まで覗かれているみたいで、女子たちの顔を見ることさえ恥ずかしかった。けれど、その股間のモノは一向に静まる気配はない。
 後から後から溢れ出すカウパーのぬめりを利用して、聖蘭の指先がリズミカルに上下する。余った皮が過敏な中身をヌルヌルと擦り上げる度に、熱く疼くような快感が少しずつペニスを支配していく。
「くちゅくちゅ、くちゅくちゅって、エッチな音出しちゃってやらしいんだぁ……んふふ、気持ちいいね~ケータ君……♡ おちんちん、皮でシコシコ気持ちいいねえ~……ほら、シコシコ気持ちいいって言ってみて~♡ そしたら、もっと気持ちよくなれるよ♡ くすくす」
 鼻にかかった媚声に耳朶をくすぐられ、理性はますます甘く蕩かされていく。
「ああぁ……あううぅ……し、しこしこ、気持ち、いいですうぅ……」
 だらしなく開いた口から勝手に声が漏れ出していた。弛緩しきった頭では、それを言うか言うまいか判断することなど不可能で、耳から入った言葉をそのまま垂れ流していた。
「ふふ、こんな風に、言葉でもおちんちん扱かれるのは気持ちいいんだ、って教えてあげると効果バツグンなんだよ、簡単でしょ?」
 聖蘭は胸を揺すって谷間で少年の頭を弄びながら、自信たっぷりに笑ってみせた。
「男子って単純なのね……」
「でも、これなんかすっごいやらしいよ、せーらちゃんの手の動きの感じとか……」
「ほんそれ。見てたらドキドキしてくるよね」
 周囲の少女達は目の前の実演に夢中になっていた。頬は赤く上気し、瞳には微かに嗜虐の光が宿っている。自分も男子にやってみたい――言葉にしなくても表情がそう訴えていた。
 聖蘭の説明や女子の会話は当然耳に届いていたが、圭太に気にする余裕などない。
 頭の中は下半身の快感で一杯だった。ただ指先でつまんで扱いているだけのはずなのに、自分自身でするよりもずっと気持ちがいい――。
 それも当たり前のことだった。白峰聖蘭という少女は今まで何人もの男子をこんな風に手懐けてきたのである。いや、男子だけではない。自分よりずっと年上の男性でさえ、手玉に取ってきた。そんな、いわば魔性の少女にとって、少年を快楽に染め上げるのは造作もないことだった。少年自身よりも男の身体について知り抜いているのである。
 ただ、つまんで扱いているだけに見えても、聖蘭の指は裏筋やカリ首を的確に押さえていたし、空いた手で内腿や脇腹をさわさわと撫でまわしているのである。爆乳による心地よい圧迫も効いていた。
 じっくりと、ねっとりと、しかし間断なく弄ばれ続けるうちに、腰の甘い疼きは徐々にはっきりとした感覚に変わっていく。突き上げるような射精感へと。
「ああぁ……あうううぅ……は、はあぁ、も、もう出ちゃいぞ……」
「ええ? もう出ちゃうんだ……でもだけど、まだ見せてあげなきゃいけないことがあるから、まだオアズケだよ」
 言いながら、聖蘭の手の動きはすでに変化していた。親指と人差し指と中指を、クレーンゲームのアームのような形にして、皮の上から膨らんだ先端部を掴んで、カリカリとひっかくように刺激を与えていく。
「男子がイきたそうにしてても、イかせてあげる必要はないんだ。射精の権利は女子が握ってるんだってことを、ちゃんと心と体に覚えさせてあげなきゃいけないの」
 可愛らしい指先がペニスの先っぽを執拗に責め立てる。カリ首を何度も擦り、亀頭全体に甘いマッサージを加えていく。
「ふあ、ああぁ……なにこれ……なんか、変な感じ……」
 気持ちよさに圭太の腰が勝手にくねる。けれど、その快感はどこか芯が外れていた。今にも射精してしまいそうなくらい肉棒は充血し膨れ上がっているのに、最後の一線が越えられないのである。
「んふふふふ、こうやって、おちんちんの先っちょだけ可愛がってあげると、男子って気持ちいいのにイけなくなっちゃうんだよ♡」
 楽しそうに解説する聖蘭の腕の中で、圭太は腰をヒクヒクと悶えさせ続ける。身体がイくことを求めて自然とそうなってしまうのである。
 その惨めなダンスは、周囲の女子の嘲笑を買った。
「ああぁ……ひいいぃ……は、はやく、出させてぇ……こんなの、変になるよぉ……」
恥ずかしさともどかしさに苛まれながら、祐樹は喘ぎ喘ぎ何度もお願いしたが、聖蘭はまるで聞こえていないかのように、解説と手の動きを止めなかった。
「皮が剥けてる子には、この刺激じゃ物足りないから、亀頭を磨くみたいに指先ですりすりして上げると効果的なんだよ」
 聖蘭の指先が皮の上から亀頭を撫で回す。限界寸前の少年にとってはそんなささやかな刺激さえたまらなかった。にもかかわらず、やはり放出は訪れなかった。普段であればもうイっているはずなのに、快感は限界を超えているはずなのに聖蘭の魔法の指技が射精を封じているのである。耐えがたいほどのもどかしさだった。
「ああぁ……ひいいいぃ……これ、だめぇ……お、おかしくなりそう……」
「あっははは♡ もうおかしくなってるし♡」
「ねえ? これそんなに辛いのかなぁ?」
 少年の痴態を少女たちが嘲笑する。中の一人はスマートフォンのレンズを向けて、その様子を録画してさえいた。
「うん、男子って射精するの大好きだからね、なんか、聞いたらおしっこを我慢してる時の何倍も辛いんだって♡ さ、ここからが大事なところだよ、みんなちゃんとせーらのやり方見ててね」
 少女らに笑顔を向けた唇を意地悪そうに歪め、聖蘭は甘ったるい声で少年に囁きかけた。
「ねえ、ケータ君……これさぁ……このパンパンになった先っちょ……」
 言いながら、念入りに亀頭部を撫でまわしもどかしい快感をさらに刻み付けていく。
「これ、ぐにぐにって揉んで、おちんちん根元から搾り上げてあげたら、どれだけ気持ちいいと思う?」
「あ、ああぁ……あ、そ、それ……ふぁ……」
 少年は想像してしまっていた。想像させられていた。その刺激を、麻薬のように依存性のある強烈な快感を。
「このパンパンおちんちんからぁ、どぴゅどぴゅどぴゅ……♡ って、白いの吐き出すの……ほら、想像してみて……おちんちんの奥から、精液昇ってくるところ♡ どぴゅどぴゅどぴゅ……♡ 考えただけで、頭のなかでイっちゃいそう……」
 聖蘭の甘い声に誘導されて、少年の頭の中は射精一色で染まっていく。
「ね? せーらの手で、イかせてほしいよね?」
「あ、あああぁ……イかせて、ほしい……イかせて、イかせてぇ……」
「それじゃあ、ちゃんとおねだりしようね♡ せーら様、射精させてください、ってみんなに聞こえるように。ほら早く。いいなさい」
 みんなに、という言葉に周囲の女子の視線を意識した少年は、一瞬言い澱んだ。しかし、それも一瞬だけのことだった。恥ずかしくても素直に従う以外にない。これ以上焦らされたら、ほんとに気が狂いそうだったから。
「せ、せーら様……しゃ、射精させてください……」
「ダメダメ、そんなちっさい声じゃ……もっと大きい声で」
 けれど、聖蘭は完全に屈服している少年をさらに追い詰める。そんな少女の顔には、サディスティックな愉悦が浮かんでいた。
「あああぁ……せーら様ぁ! 射精……射精させてくださいいいぃ……! 出させて、お願いしますぅ……射精、せーら様ぁ……」
 圭太は顔を真っ赤にしながら、泣きじゃくるように言った。
「マジで言ったし♡ 必死過ぎでしょ」
「でもちょっと可愛いかも、あたしもイジメたいなあ……」
 女子から軽蔑と好奇の入り混じった視線を向けられながら、圭太は背筋にゾクゾクと妖しい怖気を感じた。それがどういうことなのか、分からなかった。けれど、恥ずかしいのに、気持ちがいい――。
「はーい、よく言えました♡ ふふふ、それじゃあ、イかせてあげる♡ 一瞬で気持ちいいの弾けちゃうから、せーらの手でイかされたってことを、強く意識しながら精液お漏らししするんだよ♡」
 聖蘭は満足げに言うと、屹立を順手で握り込み、根元から亀頭にかけて、中身を搾るように、きゅっ、きゅっ、きゅっ……とリズミカルに扱き上げた。
「はい。射精♡」
「あ、あ、あああああああぁ~~~~~♡」
 ボタンを押したみたいに一瞬で聖蘭の手の中で快感が膨れ、弾けた。
 表面張力でコップ一杯に漲った水が、わずかな揺らぎで均衡を失ったように、とっくに許容量を超えていたはずの快感が、最後の一押しで一挙に身体の内側から溢れ出したのである。腰の奥から脳天に向かって絶頂感が突き上げる。背筋が弓なりに反って、頭がさらにおっぱいに埋まった。
 脈動と共に噴き上がった白濁液は、予め待ち構えていた聖蘭の掌に受け止められた。
「危ない危ない。そんな風にまき散らしたら女の子様を汚しちゃうからダメだよ~くすくす♡」
 勝ち誇ったように笑い、聖蘭は精液でドロドロになった手を圭太の目の前でひらひらと動かした。まるで、自分の手で搾り出したということを、しっかりと思い知らせるように。
 絶頂の余韻に浸りながら、圭太は聖蘭の胸の中で弛緩する。
「気持ちよすぎたからって、いつまでも蕩けちゃだめだよ。ほら、」
 聖蘭の言葉に圭太はぼんやりと前を向いた。3人の女子が、好奇心と興奮に瞳を輝かせて、まだ萎えずに硬いままのそれを覗き込んでいた。
「次はこの子らに可愛がってもらうんだから、しゃんとしないとね♡ みんなも、今教えたこと試してみたいでしょ?」
 女子達は同時に顔を見合わせ、聖蘭の方を向いてコクコクと頷いた。そして、爆乳のあわいで弛緩する圭太に三人同時に視線を落とした。緩んだ口元、膨らんだ鼻、悪戯な眼差し。ウズウズ、という擬音を表情にするとしたら、きっと今の少女らの顔に浮かんでいるのとそっくりになるに違いない。
いまから3人がかりで――そう思うと、不安と期待で圭太の首筋の毛が逆立った。疼きと共に小さく震えた少年の皮冠りの性器に、一人目の少女の手が伸びた。

「さぁて、次はどうしよっかな」
 聖蘭は手の汚れをウェットティッシュで拭いながら教室の様子を眺めた。
 放課後の教室のあちこちで、男子イジメが行われていた。
 ある男の子は足を椅子に縛り付けられ、後ろ手に拘束された状態で、何人もの女子からまるで玩具のようにペニスを弄られていた。
 3人の仲の良い男の子は女子の集団の目の前で、誰が一番早く射精に到達できるかを競わされている。
 床の上に転がされ、アイマスクで視界を奪われた一人の男子は、新しいローターやオナホールや、技術が得意な女子が作製した電動式の性具の実験台になっていた。
 女装をさせられて、疑似的なペニスを装着した幼馴染に肛門を貫かれる男子生徒もいた。
 プロレスごっこで完全に首を極められ窒息寸前の状態で太ももコキされる男子、お仕置きと称して電気あんまを30分以上も続けられ泣きながらごめんなさいを繰り返し精液を垂れ流す男子、年上の女の子に可愛らしいパンティを被せられ、後ろから抱きしめられながら両足でペニスを扱かれる男子――行われるすべてを書き出すことは出来ないが、女子達はめいめいに自分の好きな方法で男子に性的な虐○を加えているのだった。
 それは、世間一般の常識からは考えられないような異様な光景だった。しかし、“女子会”ではそれが当たり前の日常だった。
 女子会――といってもメディアで取り上げられるような女の子同士で集まって恋愛の話や仕事の愚痴を言い合う会ではない。男子をイジメ、可愛がり、躾け、弄び、玩具にし、奴○にし、ペットにする、そんな女子の集まりが彼女らにとっての女子会だった。といって、そう呼ぶようになったのはメディアの影響も多分にあった。よく耳にする、大人の世界の言葉を自分達の生活や遊びに取り入れる、成長期の習性の一つである。また、実際的な暗号的カムフラージュの役割もあった。日常生活で女子会が、と口にしたところでそれを聞き咎める大人は誰もいない。
 始めは男子イジメを発明した聖蘭と親しい友人だけの小さな集まりだった。そのうちに、誘いを受けたクラスの女子が参加し始め、徐々に別のクラスに、そして下の学年にも学年へ広がり、今や上級学年のほぼ全員が女子会に参加していた。
 経緯を考慮すれば、自ら進んで参加していない男子の場合、女子会に参加させられた、が正しいだろう。強○的に連れてこられた男子は当然のごとく抵抗する。しかし、少年であるからこそ大切にしてきた男としてのプライドと理性を被虐の快感で溶かされ、敗北と服従の愉悦を教え込まれ、やがては価値観を完全に作り変えられてしまう。
“女の子様”には絶対に逆らってはいけない――
“女の子様”を女神のように崇拝し、奉仕しなければならない――
“女の子様”にしていただくことは、どんなことでも悦びである――
“女の子様”の言うとおりにしている時だけ、男は幸せでいられる――
 そんな、女子に都合のいい考えを、無意識レベルにまで刷り込まれてしまうのである。
 女子の中には優しさや思いやりや臆病さから、男子にそんなことしたら可哀想だと言ったり、恥ずかしくて出来ないと訴えたりするも少なからずいた。けれど、そういった大人しい女子の価値観もまた、抵抗しながらも被虐の快感に堕ちてゆく男子と同調して変化し、芋虫が蛹の中で溶けて蝶になるが如く、嗜虐的な“女の子様”へと成長を遂げるのであった。
 今もこの教室だけでなく、隣接する2つのクラスで同じように男子イジメが行われているのである。学校側に生徒だけの勉強会として、許可を得ての居残りだった。
 女子会の言いなりに動く教師は一人や二人ではなかった。女子会に逆らう者は誰もいなかった。存在を知りながら、知らないふりを約束させられた教師もいた。とある新任の女の教師は、女子会の一員としてお気に入りの教え子を可愛がるようになっていた。
 白峰聖蘭は女子会――いや、この学校の女王だった。誰も彼女に逆らえなかった。大人の男におねだりすればなんでも簡単に手に入った。それが嬉しかった――と言っても物自体を喜んでいるのではなかった。彼女にとって金銭的な価値は無数に存在する基準の一つに過ぎなかった。それが、持ち主にとってどれだけ手放したくない物か、手に入れるのに苦労する物か、それがどんな意味を持つのかが真に重要なのだと知っていた。
 例えば、大切な人との思い出の品とか、苦労して手に入れたゲームのデータとか、絶対に譲れない勝利とか、愛する人であるとか、個人的な、しかし高い価値があるために絶対に手放したくない物を差し出させるのが快感だった。
 あるいは、先生からもらう学校のテストの問題用紙とか、真面目な会社員に万引きさせた商品とか、倫理やルールや法に抵触する贈り物をさせることも快感だった。
 相手が自分のためにどれだけのことが出来るのか――。
 自分が相手をどれほど深く強烈に支配しているのか――。
 そういったことを確認した時に悦びを感じるのだった。
 だから、女子会での支配者としての生活は、聖蘭にとって最高のものだった。
 けれど、何事にも終わりが来ることを聖蘭は知っている。そんな最高の生活のリミットはあと半年、卒業が待っているから明確だ。卒業すれば、みんなバラバラになってしまう。女子会も続けられるかもしれないが、自然と飽きてしまうかもしれない。そう考えた時、聖蘭は何とも言えない気持ちになるのだった。
「よお。なにぼんやりしてんだよ、せーら様」
 揶揄うような調子で声をかけてきたのは、女子会の初期メンバーの一人、縹悠李だ。体操着が良く似合う、ショートカットの活発な少女である。その健康的に色づいた瑞々しい肌は、じんわりと汗ばんでいた。大のプロレス好きで、現在は総合格闘技やボクシングに打ち込む彼女は今まで男子を練習台に様々な技を仕掛けていたのだった。
「なんだ、ユーリか。珍しいじゃない、放課後はジムなのに」
「なんだってそれ酷くね? 今日はお休み、オーバーワークは筋肉に悪影響なの」
 それよりもさ。と悠李は聖蘭の爆乳におもむろに手を伸ばして、
「なんかさっきしんみりした顔しちゃってたじゃん、どうかしたの?」
「真顔で何おっぱい揉んでんのよ。ばか。セクハラ」
 聖蘭は眉間に皺を寄せて腕を振り払ったが、本気で嫌がっているのではなく、悪戯に呆れた態度だった。
「いや、悪い悪い。聖蘭のおっぱい、あたしのと違って触ると気持ちよくってさ」
 おっぱいというより胸板と言った方が相応しい自分の胸を触って舌を出す、悠李もまるで悪びれた様子はない。同性の友人同士だから許されるスキンシップなのである。聖蘭もそれ以上抗議はせずに、問いかけに答えた。
「別に、どうもしないんだけど、あと半年もすれば卒業なんだなっておもったらさぁ……」
「おセンチ入っちゃった的な?」
「そんなんじゃないけどぉ……なんか、卒業ってさ変じゃない?」
「変?」
「今までずっと一緒に過ごしてたのに、ハイ卒業ってなったら、その今まであったものが消滅して、二度と元には戻らないんだよ」
 悠李は腕を組んで難しそうな表情でうーんと唸った。
「やっぱそれって寂しいってことじゃないの?」
「それは違う気がするんだって。なんと言うか、これで終わっちゃうのがもったいない、みたいな?」
「終わるとは限らないでしょ」
 悠李の代わりに答えたのは、濡羽橘花だった。彼女も女子会が活動する前からの聖蘭の友達だった。すらりと背の高い、大人びた雰囲気の少女は、腰まである長い黒髪をさらりとかき上げ、眼だけを動かして二人を交互に見た。
「みんなが同じ学校に進むわけじゃないけど、私達一人一人がいなくなるのでないでしょ? 今までだって続いて来たんだから、女子会はこれからも続くわ」
 表情一つ変えずに、理路整然と述べられた言葉には説得力があったが、聖蘭は直感的にそんなことは無いのだろう、と思った。
「そう簡単ならいいんだけどね……」
 離れ離れになるということの影響は、きっと想像以上に大きいだろう。なぜなら、女子会が習慣で無くなってしまうから。習慣で無くなった遊びはそれが好きだと思っていても、いつかはやらなくなってしまう。
 ゲームだってそうだ。やることが無くなったり、同じことの繰り返しだったりするから、飽きるのでは無い。ふとしたきっかけであるゲームを続けなくなって、別のゲームや別なやりたいことが取って代わった時に、後から振り返って、最初のゲームを飽きたと断定するだけなのである。
 本当は、ほとんどの時間退屈していても、それが習慣になってさえいればゲームは続けられる。ゲームだけではない、苦痛を含んだあらゆることを継続出来るのである。それが、習慣の持つ魔力だった。
 卒業しても、しばらく女子会は続くだろう。けれど、各々が理由をつけて来なくなりはじめて、やがて緩やかに終わってゆくのだろう。聖蘭にはそれが確実なことに思えた。
「あーあ、ずっと卒業なんてしなかったらいいのになぁ……」
 そうすれば、いつまでも男子や先生を玩具にする日々が続く。押し車は、中のハムスターが走り続けている限り、いつまでも回り続けるのである。
「そういうわけにはいかないでしょう」
 と、橘花がきっぱりと言い切った。冷然とした言い方だが、突き放しているのではなく、普段から感情の起伏に乏しいだけなのである。聖蘭もとくに気にした様子はない。
「分かってるわよ。分かってるから、そうなったらいいのになって」
「ってもさーやっぱそこはどうにもなんないって」
 悠李は頭を掻きながら言った。面倒なことはあんまり考えたくないとでもいうように。
「卒業した後のことは後になって考えたらいーんだよ。それよか、今を愉しもうぜ。ほら、可愛いボクちゃんもお待ちかねみたいだし」
 悠李に言われ、後ろを振り向くと、いつからそこにいたのか、くせっ毛の、背の小さい男子が困ったように腕をこまねいて立っていた。黄崎という、一つ下の少年は、甘えん坊で、聖蘭のお気に入りの一人であった。
「あの……せーらお姉ちゃん……」
 荒くなった吐息、ドキドキと心音が聞こえてきそうなくらい真っ赤になった頬、ちょっと前かがみになった姿勢と手で隠された股間、さっきから落ち着かなく瞬きを繰り返す眼はちらちらと聖蘭の胸元を盗み見ていた――すぐに聖蘭はある一つの約束を思い出した。けれど、あえてとぼけた調子を繕って、
「あら~ユーキ君、どうしたの~? おねーちゃんに何かご用?」
「あ、その……きょ、今日で、い、一週間……だから……約束の、あの……」
「約束? なんだったかなぁ~? おねーちゃん思い出せないから、ユーキ君から言って欲しいなぁ」
 顎先に指を添えて、大げさに首を傾げ、甘ったるい声でもったいぶる聖蘭に、祐樹の困惑は一層深くなって、悠李は呆れたように肩をすくめた。
「えと、あの……言われた通り、お、オナニーしてない……一週間、我慢……した、から……ぱ、ぱ、ぱ……パイズリ……」
「パイズリ? ふふふ、それなんだっけ? むずかしくって、おねえちゃんちょっと思い出せないから何をどうすることか、教えてくれるかなぁ♡」
 聖蘭にパイズリが分からないはずはない。何度もそれをしてきたし、何度もそれで男を骨抜きにしてきたのだから。ただ、揶揄って焦らして遊んでいるのである。
 それは遊ばれている啓太も承知していた。だが、それでも素直に言われたとおりにせざるを得ない。そうしなければ、いつまでも気持ちよくしてもらえないと、覚えさせられているから。啓太は今にも泣きだしそうな声で、
「せ、せーらおねーちゃんのおっぱいで、ぼ、僕のおちんちん挟んで……えと……むにゅむにゅって……」
「ふふふ、おねーちゃんのおっぱいで、おちんちん挟んで……」
 聖蘭は眼を糸のように細め、ニマニマと挑発的に笑いながら、服の上から自慢の爆乳を両手で持ち上げて、その行為のあからさまなジェスチャーを加えつつ、少年の言葉を反復する。
「むにゅむにゅ……ってして欲しいんだ……爆乳おっぱいお肉でむにゅむにゅごしごし……って皮ごと可愛がって欲しいんだ……♡」
 言葉に合わせておっぱいが上下する。まるで、その間に挟んだ何かを押しつぶし、扱き上げるみたいに。量感たっぷりの乳肉が波打つ、服の上からでもわかるその魅惑の揺動から、もう祐樹は目が離せない。艶を帯びた淫らな言葉が妄想と期待を掻き立てる。否応なしに高められる興奮。視覚と聴覚から入ってくる甘い刺激が、理性を蕩かしていく――。
「あ、ああぁ……せーらおねえちゃん……だめ、おちんちんでちゃ……」
「ふふふ……ほ~ら、ぷるるん♡」
 意地悪な笑み。ジップがサッと下ろされた。衣服の下にパンパンに詰まっていた爆乳が弾けるように零れ出た。真っ白い肌、重量感たっぷりの丸みを帯びた塊が二つ、ふくらみの頂点は桜色で、本来なら突出しているはずの乳頭の埋もれているのが見て取れた。サイズはPカップだ。ブラジャーをつけていないのは、特注で作ってもすぐにカップが合わなくなってしまうからだった。
「あくっ!!!」
 その魅惑の詰まった豊乳はいわば視覚を通して伝わってくる快感だった。
 それを眼にした瞬間、意識をすべて奪われた。その柔らかさを、その温かさを、記憶に刻み付けられたその気持ちよさが、瞬時に思い出された。拍動する心臓のポンプが、血と熱さを一気にくみ上げた。
 圭太は下腹部に不随意の収縮を感じた。きゅっと付け根の辺りが締め付けられるような感覚。それが何のきっかけか頭で理解するよりも早く体が動いていた。
「あああぁ……そんな、ダメ……待って、待って……ああ、あああぁ~~……」
 内またになって、慌てて股間を手で押さえたが、その情けない漏出は止めようがなかった。 足腰が震える。甘い放出感がパンツの内側に広がっていく。それは仕方のない反応だったのかもしれない。祐樹の中で、聖蘭の爆乳と快感とは離れがたく結びついていたし、我慢に我慢を重ね、興奮にはち切れそうな状態の欲望にとって、間近で見る生乳はあまりにも刺激が強すぎたのである。
「あれあれぇ? どうしたのぉ?」
 わざとらしく聖蘭が訊ねる。祐樹は恥ずかしさに顔を真っ赤にして、股間を抑えたまま直後につきものの脱力に身を任せるようにへなへなと床に膝をついた。
「あうううぅ……」
「あ、も・し・か・し・てぇ……せーらお姉ちゃんのおっぱい見ただけで、お漏らししちゃったとか?」
 聖蘭は周囲に聞こえるような大きな声で、大げさに驚いてみせた。教室にいた女子達が聖蘭と祐樹に注目する。
「えーうそ、ほんとにおっぱい見ただけでイったの?」
「やば~……それはそーろーすぎっしょ」
 好色な視線と揶揄う言葉に晒されながら、祐樹は顔を真っ赤にした。おっぱいを見た途端に射精してしまったのは紛れもない事実だった。恥ずかしさと情けなさと、喪失感と、居たたまれなさで胸がいっぱいだった。
 聖蘭は腰をかがめ、うなだれる少年の首に手をまわして頭を掻き抱いた。柔らかな谷間に顔が埋もれる。
「泣かなくたっていいんだよ~? ちょっとびっくりしちゃっただけだから♡ お姉ちゃんのおっぱいの気持ちよさ、おちんちんが覚えちゃってるから、今から気持ちよくしてもらえるって思ったら、興奮しすぎて我慢できなくなっちゃったんだよね~♡ くすくす♡」
 微笑しながら、聖蘭は少年の頭を撫でた。
 視界一杯に広がったおっぱいから温もりが伝わる。柔らかさが左右から押し寄せて来る。うっとりするような匂いがして、頭がほわほわとしてくる。祐樹はもっと、目の前のお姉ちゃんに惹かれていく。
「あうう……そう、だけど……でも、ごめんなさい……」
「うんうん、謝れて偉いぞ~♡ ほら、そんなとこ座り込んでたら汚れちゃうよ?」
 手を握って促され、祐樹はゆっくりと立ち上がった。周囲の女子達はまだ笑ったり、何かを囁き合ったりしていたが、祐樹には全く気にならなかった。
「せ、せーらお姉ちゃん……ありがと……」
「うんうん。どういたしまして」
 少しの間。言葉の接ぎ穂を探すように左見右見、祐樹は恥ずかしそうに手を揉みながら上目遣いで聖蘭を見た。
「あ……もう、これで……その……ぱ、パイズリ……もう今日は……」
「や~んほんと可愛い……♡ 今お漏らししたばっかりなのに、もう射精することしか頭にないんだ~♡」
 聖蘭は悪戯っぽい笑みを浮かべ、少年のズボンの膨らみを手でそっと包み込んだ。
「おちんちんも、もうガッチガチになってるし……まあ、一週間も我慢してきてくれたんだし……いいよ。してあげる♡ マジ可愛かったしね♡」
 そこに座って、と机に腰かけるよう促したその時だった。聖蘭のスマホに着信があった。担任の黒谷薫からだった。今日は職員会議があると言っていたはずだ。鬱陶しいから、女子会活動中は連絡を控えるように言っておいたはずなのに。祐樹を待たせてラインのアプリを立ち上げた瞬間、聖蘭の表情が曇った。メッセージはこのようなものだった。
「お忙しいところ失礼いたします。職員会議にて、男子イジメが議題に上がりました。女子会はもう続けられなくなるかもしれません」

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【小説】乳魔に手懐けられた勇者 前編

 石畳の敷かれた幅広の通りに軒を連ねる屋台の合間を赤ら顔の男達が行き交い、辻々で派手な化粧と衣装で身を飾った妖花が、艶然たる笑みを咲かせている。

 人いきれを嫌って酒場の扉を開けば、息をするだけで悪酔いしそうなくらいの酒精が芬々ふんぷんと鼻先にかぶさってくる。いい加減慣れはしたが、気分のいいものではない。客席に目をやると、円卓の一つでは小汚い衣服に身を纏った労働者が酒杯を片手にカードゲームに興じ、また別の卓では凶悪な得物を腰に下げた一団が金銀財宝を前に分け前の談義をしている。冒険者なのか、或いは盗賊か。どちらにしても関わり合いにはなりたくない類の連中である。

 ふと、カウンターに転じた視線が、性質の悪そうな壮年のバーテンダーのそれとぶつかった。もみあげまで繋がった濃いひげを蓄えたその口からお決まりの、ミルクは置いてないぜ(カウボーイは置いてあるのに、だ)、が飛び出す前にロイは回れ右して酒場から退散した。この聞き飽きた嘲弄に対して反応するのも馬鹿らしかった。

 通りに出て少し歩くと、扉の向こうからどっと笑い声が起こった。それだって、いかにもお決まりのパターンだった。

 冒険者が集う酒場は通念においても実際においても情報の宝庫である。この国にあると噂される光の宝玉の最後の一つの手がかりを得られるかもしれない。しかし、自分のような若輩者に対して非友好的な荒くれ達の態度を軟化させるためには、卑屈か、さもなくば少々乱暴な手続きを踏まなければならない場合がほとんどだと、少年は経験として知っていた。だが、今の気分は一暴れするにはくさくさし過ぎている。

「あら珍しい……可愛いボクちゃんね……こんなところに来ちゃダメじゃない。ママはどうしたのかしら?」

「迷子なんじゃないの? ねえ、ボクちゃん……今日は寒いわよ、お姉さん達がベッドで温めてあげましょうか?」

「それは言い考えね。添い寝して、ママみたいにおっぱい吸わせてあやしつけてあげるわよ♪」

 露出度の高いドレスで媚を振りまく女が、そのたわわな胸の果実を見せつけるように寄せて上げて、からかってくる。

 ロイはかっと赤らんだ顔を前に向け、そそくさと歩調を早めた。背中から女達のおかしそうな笑い声が追いかけてきた。

「うう……ああいうのは、苦手だなぁ……」

 長い旅の間に、ならずものや無頼漢を相手にするのは慣れてきたが、女にはなれない少年である。この歓楽街だって、情報集めをすると言い捨てて宿を飛び出してきたから、足を向けただけのこと。本来の目的を果たさない以上、早く宿に戻って、明日に備えるのが勇者としての、また、パーティのリーダーとしての正しい姿だろう。そう感じつつも、ロイは夜なお明るい街の中を漫ろ歩き続けた。

 千鳥足のお大尽をよけながら、ぼんやりと、宿を飛び出してきた時のことを考える。いつものようにパーティの最年長者と最年少者がいがみ合っていた。どうしてレイヴンはいちいちエドに突っかっていくのだろう。そしてエドはどうしてキツイ皮肉で反撃するのだろう。レイヴンはワービーストで人間基準では二十代前半の見た目をしているが、獣人は年の取り方が違い、実際は50を超えた武術の達人。一方のエドはエルフ族の貴族の名門、ペルルリーゼ家の7男で、年は冒険者としては若過ぎるとしばしば評されるロイより3つも下だが、その小さな体からは想像もつかない巨大な魔力を操る天才魔法使い。

 達人と天才、なるほど大袈裟な枕詞だが、二人ともそう評する他ないような、稀有の人材だった。

 しかし、それなのにというべきか、だからというべきか、二人はお互いに自分が出来ることが相手に全くできないことを、常々不満げに口にしていた。つまり、武闘家は魔法使いの体力のなさを、魔法使いは武闘家が呪文の一つとして使えないことをそれぞれ舌鋒鋭く非難するのである。

 肉弾戦担当と後方支援担当という、集団戦闘におけるそれぞれの役割を考えれば、双方の非難は幼稚でかつ的外れだ。持てるスキルを使って、足りない部分をカバーし合うのが、チームというものだろうに。

 そう言う意味のことを、言葉を変えて何度も言い聞かせたが、喧嘩はたびたび繰り返された。それで、フラストレーションがたまっていたのだろう。

 なぜわかってくれないのか。なぜ互いを認めないのか。戦い一つにも、全員の命がかかっている。エドと2つしか違わないのに、勇者というだけでリーダーを任された身にもなってくれ。僕の苦労を少しでも理解してくれ――蓄積した不満が爆発し、怒声と扉への八つ当たりとなって表れた。それは、つい一時間ほど前のことだった。

 声を張り上げて捲し立てるロイを見て、レイヴンも、エドも、ガーベラも、信じられないと言ったように目を丸くした。一しきり感情を露吐した後になって、ロイはしまったと臍を噛んだ。居た堪れなくなって、誤魔化すように宿を出た。そして、情報を求めるという言い訳を頼りに歓楽街にやってきた。

 愚かだと、冷静さを欠いた、リーダーにあるまじき稚拙で浅はかな爆発だったと、自責の念が消えない。苦労しているのは、ロイだけではないのだ。ガーベラ――パーティ唯一の女性で僧侶である彼女だって、仲裁役を買って出てくれた。二人きりになった時、相談に乗ってくれたこともあった。

 感情に手綱をつけて、しっかりと制御しなければならない。それが、大人になるということ、リーダーになるということ、勇者であるということだ。頭ではそう理解出来ても、心の靄はなかなか晴れてくれない。

 掌底たなそこを額に当て、長嘆息する。今の今、くよくよしているのだって、よくないことだ。さっさと宿に戻るべきだが、その気にはなれない。帰って、何を話せばいいのか、どんな言葉で切り出せばいいのか。わからない。いっそ、アルコールの霊験を借りようか。強い方ではないが、少しは勇気を得られるかもしれない。どこか、落ち着いて飲める店でもないものか――そう考え、キョロキョロと視線をあちこちへ向けながら、歩いていると、出し抜けに、顔面がむにゅっとしたクッションのようなものに埋もれた。その温かく柔らかな物体は、適度な反発力を持っていて、沈み込んだ顔はすぐにぽにょんと弾き返される。

「むわっ……!」

「きゃっ……!」

 弾力に押し返されたロイの間抜けな声と同時に、女の人の短い悲鳴が上がる。注意散漫のあまり、路地から出てきた誰かと鉢合わせしてしまったのだ。夜気に冷えた石畳の上に尻餅をついたロイは、反射的に謝ろうとした。

「ご、ごめんなさ――」

 だが、その語尾は驚きによって掠れた。ポカンと口を開けたまま、ロイはしばし固まった。視線は目の前の女性に釘付けになっていた。

 人がコミュニケーションをとる場合、最も意識するのは顔である。造作によって個体を識別し、表情によって感情をやりとりするためだ。だが、ロイが注視しているのは女性の顔ではない。そもそも、顔は見えなかった。路面に尻餅をついた少年の位置からは見えたのは、豊満過ぎる双丘だけだった。

(うわ、おっきいおっぱい……おっぱい、おっきい……)

 それは、今まで見たことも無いくらいに大きい――いや、その肉の果実は大きいとか豊かという範疇を越えた、爆乳としか言い表しようのない規格外のボリュームを備えていた。さらに、彼女が身に纏う臙脂色のロングドレスは、Vの字になった胸元が抉れるように開いた過激なくらいセクシーなものだった。衣服というよりも乳バンドと呼称する方が適切だろう。かろうじて乳輪を隠せてはいるけれど、布地の締め付けによって白い乳肉が緩やかにたわみ、あまりにも扇情的だ。そして、彼女の持ち物は見た目が素晴らしいだけではない。ビックリするほど柔らかさと張りを併せ持ったその最高の感触は、身を以て体験したばかりである。

「……ゴクッ」

 思わずロイは生唾を飲み込んでいた。見ているだけで、胸がドキドキする。男なら誰しも目を奪合われてしまうだろう、魅惑の結晶。それが、今、ゆっくりと落下してくる――
(さ、触ってみたい……)

 衝動に突き動かされるまま、ロイは近づいてくる乳房に右手を伸ばしかけた。

「ねえボク、大丈夫?」

「え……!? あ、あ、その……」

 突然の問いかけに、伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。緩くウェーブのかかったボリュームたっぷりの髪を腰まで伸ばした、どこか母性的な顔立ちの美女が、身を屈めてこちらを覗き込んできていた。思考停止に陥ったロイを気遣って声をかけてくれたのだ。不注意を咎めもせずに。

 ロイは、今自分が何をしようとしていたのか思い出し、顔がカッと熱くなるのを感じた。

「あ、えと……だ、大丈夫……です……」

 五秒ほど間を開けてから、ようやくへどもど答えた。焦りと恥ずかしさでごちゃごちゃになった頭では、それが精いっぱいだった。

「でも、坊やちょっとボーッ……ってなっちゃってたよ……転んだ拍子に、頭打ってたり、してないよね?」

 そう言ってお姉さんは頭を軽く撫でてきた。その僅かな動きにさえ、胸の巨大な果実はたゆんと弾む。初心な少年がますます泡を食ったのは言うまでもない。

「や! ちょ……だから、大丈夫……だから……!」

「うん。それだけ元気があれば、大丈夫そうだね」

 顔を真っ赤にしてジタジタと地面を掻いて後退った少年に、美女はくすりと口元を綻ばせた。

「でも、いつまでもそんなところに座ってたら、可愛いお尻が冷えちゃうわよ。はい」

「あ、ありがとうございます」

 どうにか平静を装い、差し出された右手を掴んで立ち上がった。美女はロンググローブを着けていたが、それは中指にひっかけるタイプのモノで、柔らかな手のひらに直接包まれた手がほのかに温かい。

(肌、スベスベだなぁ……ずっとこうして手を握っててほしい……)

 そんな心の声に応えるかのように、女はもう一方の手を甲の側に添えて、ロイの手を両手でそっと包み込むように握り直してきた。

 ドクン、と胸が高鳴った。包み込まれた手が、ジンジンと歓喜に痺れているようだった。ロイは再び言葉を失って、しばし目の前の優しげな美貌に見惚れた。美女は、そんなロイの様子に気が付かないで、申し訳なさそうに、

「本当にごめんなさいね、急に飛び出したりして……ケガが無くて幸い――あら?」

 いきなり、口元に手を当てて驚愕の声を上げた。

「このブレスレットって……もしかして、坊や……いいえ、あなたは勇者ロイ様では?」

 彼女は少年の手首に輝く腕輪をまじまじと見つめ、そう訊ねてきた。

「はい……そう、です……だけど、どうしてわかったの……?」

「だって、このブレスレットにはウルナ様の紋様が刻まれていますもの……これを身につけることが許されているのは、勇者様だけ……ちがいますか?」

「へえ、良くそんなこと知ってますね」

 ロイは感心したように眉を上げた。確かにその腕輪は、大地の女神ウルナを象徴する生と死の円環が精巧に意匠されているが、銅製のもので、一目見ただけではそんな凄い品だとは思えない造りなのである。それに、そもそもこの快楽の街で働く美女――おそらく、あの最も古くから続く職業に従事しているだろう美女――が女神の腕輪の存在を知っていることは意外も意外だった。

「だって……勇者様のことは噂や本を頼りに色々と調べましたから……」

「え?」

「年甲斐もない、はしたない女だと思われるかもしれませんが……その……わたくし、勇者様の……ふ、ファンなのです……」

 美女は年頃の娘が照れるように、赤らんだ頬を両手で押さえて顔を背けた。

「僕の……ファンって……お姉さんが?」

「ええ……小さな体で勇敢に魔物に立ち向かう……あなたのご活躍はこのディーナールの街にも届いていますよ。いつかお目にかかりたいと、夜毎の夢に見たものです」

「へ、へえ……そうなんだ……こんな遠くの街にまで……えへへ、なんか、照れちゃうな……」

 ロイは頭を掻き掻き、ヘラヘラと脂下がった笑みを零した。綺麗なお姉さん――しかも巨乳でスタイル抜群の――からの熱い憧憬の眼差しは、くさくさした気分を忘れさせてくれるほど心地の良い物だった。この勇者の実にだらしのない反応を、仲間の男二人が見たなら、きっと大いにからかわれたことだろう、もし、紅一点が見たなら、熱い肘鉄を脇腹に見舞われていたかもしれない。

「うふふ……そうだ……勇者様、これからお時間ございますか?」

「え?」

「ここで出会ったのも、何かの巡り合わせ……少なくとも、わたくしはそう感じるのです。ですから、もしこのあとのご予定が無いのなら、どこか落ち着ける場所で、お話したいのですが……」

 と、美女はロイの手をギュッと握って、顔を覗き込んで、おもねるような微笑で。

「ええと……その……」

 突然のお誘いに、ロイはどうしたものか判じかね、モゴモゴと答えた。すると、美女は少し残念そうな顔をして、

「もしかして、何か大事なご用の途中だったとか……?」

「いえ、特に何も……ただ、ブラブラしてただけですから……」

 ロイは少し躊躇ってから嘘を吐いた。宿に戻って仲間と顔を合わすには、もう少し時間が必要だろう。それに、こんな綺麗な人から誘われるなんて滅多にないことだ、勇者だって人間なのだし、たまには息抜きをしても、女神の瞋恚しんいを買うことはないだろう。

「うふ、それならよかった。では、こちらにいらしてください。近くにわたくしの行きつけの店がありますから」

 美女はロイの手を引いて、薄暗い路地の奥へと進んでいった。と、すぐに立ち止まって、

「ああ、申し訳ありません。わたくしとしたことが、舞い上がってしまっていたようで……まだ、名乗っておりませんでしたね。わたくしはフレイアと申します」

 手を握ったまま、軽く頭を下げた。

 フレイアに連れられて入った店は、表通りの安酒場とは打って変わって、小洒落ていて、落ち着いた雰囲気のバーだった。大人の世界、或いは隠れ家的、とでもいうのだろうか、テーブルにまばらに腰かけた客達は行儀よくそれぞれの酒かあるいは話し相手に向き合って、店中に胴間声を響かせるような手合いは一人としていなかった。

二人はカウンターに並んだ足の高い丸椅子に腰かけた。

 フレイアは勇者に興味があるらしく、あれやこれやと質問を浴びせてきた。しかし、それは会話の展開のためのもので、ほとんどの時間はロイが喋り、彼女は興味深そうに聞き入っているという状態だった。

 フレイアはいわゆる聞き上手という人種らしく、質問のしかたが的確で、相槌の呼吸も完璧、しかも話に聞き入っている時の、話者の言葉を頼りに、想像の世界へ意識を飛ばしているような、酒精と話しの両方に酔ったようなとろりとした眼差しが、ランプのほのかな明りの元、素晴らしく魅力的なのである。

 ロイは初対面の相手だというのに、気分よくペラペラと今までの冒険での驚きや感動、仲間への賞賛を口にした。フレイアに喜んでもらおうと一生懸命になっていた。長い旅の中で、こんなにも打ち解けて話せたのは、仲間以外では彼女が初めてだった。その内に話題は、今夜、歓楽街へ出てくるきっかけとなった、トラブル話へと移っていった。

「どうして、レイヴンとエドは喧嘩ばっかりするんだろう……この間なんて、街中で戦いを始めようとしちゃってさ……全く、間に立つ僕らの身にもなって欲しいよ……」

 長広舌に乾いた喉を湿すように、ロイは目の前のグラスを傾けた。その果実酒ベースのピンク色のカクテルは、フレイアの前に置かれたものと同一だった。酒の知識も飲み方もしらない少年は、薦められるまま同じものを頼んだのである。

「あらあら、勇者様も大変なのですね……まだお若いのに、リーダーとしての責務を果たそうとなさって……」

「あ、すいません……なんか、愚痴っぽくなっちゃって……変だな、関係ない人に、こんなこと話すべきじゃないってわかってるのに……」

 気恥ずかしそうに視線を落として、グラスの底を覗いた。このピンクのカクテルは、甘くて飲みやすいが、意外と度数が高そうだ。

「ふふ、構いませんよ。悩みというのは誰かに話すとスッキリしますから……いくらでもお話下さい」

「ありがとうございます、フレイアさん。だけど、僕は勇者だから……力の無い人たちに、頼られる存在だから……そんな風に誰かを頼っちゃ、いけないんです」

「勇者様……そう言う考え方は、立派だと思います、ですが――」

 フレイアは、ロイの手を優しく包み込むように両手で握った。

「全部自分で抱え込もうとしてはダメです……重い物を詰め込みすぎると、袋は破れます。心だって同じです。悩みを溜めこみすぎると、その重さで、いつか心の底に穴が空いてしまいます……」

 じっと顔を覗き込み、フレイアが語りかけてくる。嘘みたいに長いまつ毛に縁どられた、コバルトブルーの瞳が、熱っぽく潤んでいる。ぽってりとした唇は、ローズピンクの口紅で艶めいていて、言葉を紡ぐ度に、その隙間から真珠のように白い歯が垣間見えた。

(フレイアさん……近くで見ると、すごい、美人だな……)

 母性的でいながらも凄艶な美貌にロイはぼんやりと見惚れてしまう。

「袋はすぐに繕えますが、一度穴の開いた心は、そう簡単には回復しません……だから、穴の開く前に、ケアしてあげないとだめなのです……」

「そう、なのかな……?」

「そうなのです。ロイ様だって、勇者である前に、一人の人間でしょう? 自分に厳しくするばかりではいつか参ってしまいます……」

 手を握って、じっと眼を見つめながら、優しげな声音と口調で言い聞かせる。そんなフレイアの言葉が、ロイの耳からするりと入り込み、意識に溶けていく。

「そうなんだ……でも、だからって……どうしたらいいんだろう?」

「簡単なことですよ。心の殻を捨てて、思いっきり誰かに甘えるんです」

「でも、僕が甘えられる相手なんて……」

 ロイの脳裡に、ガーベラの聖女のような面差しが浮かぶ。彼女なら、屈託する自分をその胸に抱いて慰めてくれるかもしれない。だが、それは今以上に彼女に負担を強いるということだ。自分が潰れないために、別の誰かを潰してしまって、良いという道理はない。

「甘える相手がいないなら……わたくしでは如何でしょうか……?」

「えっ……!?」

 ぼんやりと逡巡していたロイは、突然の提案に飛び上るほど驚いた。フレイアはロイの手を握ったまま椅子をずらし、肩を寄せてきた。彼女自身の体臭と香水が混ざったものだろうか、少し甘ったるいような、けれど不快ではない芳しい香りが鼻腔をジンと痺れさせる。

「わたくしは、あなたを癒して差し上げたいのです。勇者様……今夜は、わたくしに甘えていただけませんか?」

 流石のロイにも、その言葉の意味するところは理解出来た。だが、どう返事をしていいのかは分からない。

「でも、えと……その……僕、そんなにお金持ってないんですが……」

「お金なんて頂きませんわ。確かにわたくしは日頃、それでお金を頂いておりますが、今夜は、わたくしがそうしたいのです。疲れてしまった勇者様を、癒してさしあげたいのです……この、自慢のおっぱいで……」

 そう言ってフレイアはキュッと脇を締め、自らのバストを強調した。セックスアピールの塊とも言うべき魅惑的な肉の果実が、ドレスの胸元の布地をパンパンに張りつめさせながら、互いに押し合い、媚を売るように揺れる。あまりに悩殺的な情景に、ロイは息を飲んで言葉を失った。男の本能なのか、視線が雪のように白い胸の谷間に、自然と吸い込まれてしまう。

「勇者様、おっぱいお好きですよね? 隠そうとしたって無駄です。話しをしている間、時々熱い視線を感じましたから」

「あ……その……ごめんなさい……」

 ロイは耳まで真っ赤にした顔を俯けて、モゴモゴと謝った。会話の途中、グラスを傾けたり、頬杖をついたりといった細かな動作をフレイアがする度に、過剰に開けた胸元から覗く豊満な乳肉が誘うように揺れるのだ。それをつい、ロイ少年は盗み見てしまっていた。何度も、何度も。男であれば目を奪われない方がおかしいが、そんなことは不躾の言い訳にならない。

 しかし、フレイアはニッコリと微笑して立ち上がり、

「怒ってるんじゃありません。男の人なら誰でも……わたくしのこの、大きいおっぱいに……見惚れてしまいますもの……勇者様も、わたくしのおっぱいの感触味わってみたいでしょう?」

 訊ねながら、後ろから覆いかぶさるようにして、ロイの体に自慢の胸を押し付けた。背面で柔らかくたわむ円やかな肉の感触は、あまりにも巨大で、量感の夥しく、ロイは全身を隈なくこの美女の妖艶な母性に取込まれてしまった心地して、赤面が一層の熱を帯びる。

「手で触れたり、もんでみたり、ほおずりしたり、してみたいのでしょう? 優しいおっぱいに、甘えたくありませんか?」

「あ、う……その……してみたい、です……」

 おっぱいの魔力に負け、ロイはとうとう欲望を口にしてしまった。

「ふふ……素直なお返事ですね……とっても、可愛いですよ……」

 フレイアは硬直する少年の首に後ろから手を回し、その肉厚な艶唇を耳元に寄せて、熱い息と共にうっとりと甘く、囁きかける。

「それじゃあ、上に行きましょうか……」

「え? 上って……何か、あるんですか?」

「ここの二階と三階のお部屋は簡易な休憩所になっているんです……仲良くなった男の人と女の人が、さっきから二階に上がっていってたの、気が付きませんでした?」

 つまりは、酒場と連れ込みが一体になった、曖昧宿というやつで。


 二階の部屋は意外にも清潔だった。上半分が漆喰で塗られた壁にはこれと言った装飾もなく、家具だって、ベッドの他には階下のバーにあっとものと同一のテーブルと椅子の2脚があるばかりだが、ベッドシーツは綺麗に洗濯され、ピンと皺なく伸びているし、床の上には塵一つ落ちていない。部屋を満たす空気が孕むのは饐すえた臭いでも埃の臭いでもなく、植物性の芳しい薫りで、不快さは一切感じられない。

 酒場の二階にある、セックスの為の部屋なんて、眉を顰めずにはいられない程不潔なのではないかというロイの予想は、いい意味で裏切られた。

「うふふ、綺麗で驚かれました?」

 室内灯に火をともしたフレイアが、室内の様子を珍しそうに見回すロイの心を読んだかのようにそう訊ねた。

「他人が使った後丸わかりな所でするのは、女も嫌なのです……こざっぱりしてて、あまり可愛らしい物が無いのがちょっと残念ですけど……」

「は、はい。そうですね……」

 どぎまぎと肯定したが、フレイアの言葉の半分も理解できていなかった。目の前でにこやかに微笑むグラマラスな美女とこれからすることを意識すると、平常でなど居られるはずは無かった。

「緊張されてますか? 女の人と、こういう所に来るのは、初めてですか?」

 フレイアが、肩に手を回して囁いてくる。ロイは黙って小さく頷いた。二つの問いの両方ともイエスだった。

「うふふ、可愛らしいですわ……勇者様っていうより、初心なボクちゃんって感じで……とってもわたくしの好みですわ……もしかして、キスもまだなのかしら?」

「は、はい……」

「うれしい……それじゃあ、ファーストキス……もらってもいいですか?」

「え……それって……フレイアさん、僕……まだ心の準備が――」

 うっとりと微笑しながら、フレイアはロイの赤面した顔を両手で挟み込み、少し上を向かせた。

 フレイアの方が、頭一つ分以上も背が高いため見下ろされる格好だ。だが、ロイは威圧感を全く覚えなかった。それどころか、その蠱惑的な青い瞳に見つめられていると、不思議な安心感が胸の内に満ちて、相手に全てを委ねたい気持ちにさえなってしまう。

「怖がらなくても大丈夫……わたくしが、全部してあげますから……勇者様はただ力を抜いて、されるがままになさってください……」

 柔和で妖艶なフレイアの美貌が、ゆっくりと近づいてくる――と、次の瞬間、ロイはぷるんとした瑞々しい感触に唇を奪われていた。

「んんっ……ん、あふうぅ……ん……」

 ぽってりと肉厚な唇が、唇とその周りの皮膚を優しく啄んでくる。柔らかく瑞々しい感触。興奮に熱を帯びた鼻息の産毛を撫でる感触。コロンと吐息の混ざった得も言われぬ香り。どれもが素晴らしく、気持ちが良い。

「んっ、んんんっ……!」

 快感に緩んだ唇と歯を割って、妖しく濡れそぼった舌が口内に侵入してきた。ナメクジを思わせるヌメヌメとした感触が舌にねっとりと絡み付いてくる。ざらついた粘膜が、唾液を潤滑油にして擦れ合う度に、頭の中に恍惚の火花が散った。

 さらに、フレイアは舌の根や口蓋をくすぐったり、歯茎を順繰りになぞったり、バリエーションに富んだ卑猥な、しかし優しい舌捌きを披露した。美女の卓越したテクニックの前に、少年はあっというまに夢見心地に浸らされた。

「ん、ふううぅ……んんぅ、んあ、んんん……」

 二人の身長差から、自然と流れ込んでくるドロっとした唾液を、ロイはまるで親からエサをもらうひな鳥のように何のためらいも無く喉を蠕動させて嚥下する。

「わたくしのヨダレ、おいしいですか? ん、んんっ……もっと飲ませてあげますね……」

 妖艶に微笑みながら、フレイアは咀嚼する時のように口をモゴモゴと動かした。唾液を溜めているのか――そう思った瞬間には、水飴のように糸を引く唾液の塊が垂らされていた。

「んふうぅ……ん、んんっ、んっ……」

 喉に絡み付く稠密な粘液を、溺れる程大量に口移しされ、ロイは慌てたように瞠目した。けれど、フレイアは狼狽する暇も与えてはくれず、唾液が溢れんばかりの口内を舌で優しく愛撫してくる。

 口いっぱいに広がる、濃厚な女の香りと粘膜の快美。唾液が撹拌されるヌチャヌチャという音は、脳内に直接響いてくるようだった。そのうちにロイは、拙いながらも舌をくねらせ、フレイアの舌使いに応えていた。

「ふふふっ……気持ちいいですか? あらあら……ココ、ガチガチじゃないですか……」

 フレイアの嫋たおやかな手が、ズボンの上からそっと少年の男を撫でた。ズボンをパンパンに張りつめさせるほどに隆起したそこへの不意打ちに、ロイは肩をビクッと跳ねさせ、勇者とは思えないほど切なげな喘ぎを爪弾いた。

「ひゃ……は、んはああぁ……」

「うっふふ、可愛い声……キスされながらここ触られると、凄いでしょう?」

「あ、ううぅ……き、気持ちいいです……も、もっと……触ってぇ……」

「あらあら、勇者様ったら……それじゃあ、今度は舌を出してみてください……もっと気持ちいいことしてあげますから」

 もっと気持ちいいこと。その魔法のようなワードに、少年は美女の言いなりになって、ピンク色の可憐な舌を可能な限り伸ばした。

「ふふ……イイ子ですね……じゃあ、舌……吸っちゃいますね……ん、ちゅう……」

「ん、んんんんっ……んんんっ……!」

 ローズピンクの艶やかな唇が、舌を捕えてちゅっ、と吸いついてきた。その想像を絶する甘美な吸引感に、ロイは目を白黒させた。ただちょっと舌を吸われただけなのに、脳が芯から痺れ、ゾクゾクとした官能の怖気が背骨の中心を走り抜けた。気持ち良過ぎて、口の中が溶けてしまいそうだ。

「んちゅ、ちゅうぅ……舌吸われるの、たまんないでしょ……んふふ、オチンチン……ピクンピクンって……反応してますよ……」

 片手で顎を押さえつけ、もう片方の手で股間を弄りながらの、濃厚過ぎる口付け。ズボンの上から指先で円を描くように亀頭をくすぐり、そうかと思えば逆手でサオをすりすりと扱き上げる。そんなフレイアの巧みな手技に、ただでさえ興奮に滾った若い雄が、我慢出来るはずは無かった。下半身にだんだんともどかしい熱を帯びてくる。

(あ、ああ……きもち、いい……もう、出しちゃいそう……)

 下腹部と口元から伝わってくる快感に夢中になりながら、ロイは腰から力を抜き、込み上げる射精衝動に身を任せた。が――

「んちゅ……はい、キスはここまで……」

 初めて会った二人がするにしては長すぎる口付けは、頂に登り詰める一歩手前で、無慈悲にも打ち切られた。同時にテントを撫でていた手も、引っ込んでしまう。

「え……!? そ、そんな……フレイアさぁん……」

 あと数秒続けてくれていたら、間違いなくイけたのに――ロイは、今にも泣きだしそうな顔つきで不満を訴えた。その甘ったれた子供みたいな膨れ面を見ても、誰も少年が勇者だとは信じないだろう。フレイアはくすくすと微笑みながら、唾液でベタベタになった少年の唇に人差し指を宛がった。

「そんな可愛い顔しても、ダーメ……気持ち良過ぎて、イっちゃいそうだったんでしょう?」

「うん……だから、その……」

「キスって言うのは、男女の睦言の挨拶なんですよ? 勇者様は、ただの挨拶だけでお漏らししちゃうんですか?」

 からかうような口調で言われ、ロイの中で膨らんだ羞恥心が劣情と拮抗した。

「あ、えと、その……そんなこと、しませんけど……僕は……」

「ですよね。それに、たったこれだけで漏らしちゃったら……この先愉しめませんよ? もっとじっくり、気持ちよくなりたいでしょう?」

「もっと……じっくり……」

 キスだけで骨抜きにされていたロイにとって、そのフレイアの言葉は、快楽を確約されたに等しかった。

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