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2019年 10月の記事 (47)

whisp 2019/10/25 22:23

2019日々姫誕生祝SS 「ふたりっきりの誕生日」 (進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!
今日! 2019/10/25は日々姫ちゃんのお誕生日!

ということで、記念日動画が公開されまして~!!!
https://twitter.com/maitetsu_ps/status/1187694643267305472?s=20

その上さらに! わたくしも!!! お祝いの書き下ろしショートストーリーなど執筆いたしました!

上記、記念日動画の、その夜のお話です!!
動画をチェックされてない方におかれましては、ぜひぜひ御覧の上ご確認いただけますとうれしいです!

それでは――どぞです!!!!


////////////////////////


2019日々姫誕生祝SS 「ふたりっきりの誕生日」
2019/10/25 進行豹

(コンコン)
「入るぞ?」
「あ、にぃに!? あの――待って。ちょっとだけ待って」
「うむ」

ガサゴソと、音。
のろのろとした、重い音。

「はい。です。どうぞ。入ってください」
「うむ」

部屋に入れば日々姫の匂い。
甘ったるい、熱のこもった汗の匂い。

「……寒くはないか? 大丈夫そうなら、少し換気をしたほうがいい」
「あ、うん。平気。風邪とかじゃ多分、ないけん――」

体調がよほど悪いのか、日々姫の顔色は最悪だ。
表情も、スケッチブックに黒のインクをぶちまけてしまったときと同じくらいに優れない。

「ただの、単なる……知恵熱みたいなもんやけん」
「そうか? が、いずれにしても熱があるとき体を冷やすのはよろしくなかろう。布団をしっかりかぶっておけ」
「……うん」

僕を迎えるそのためにだけ起こしたのだろう半身を、日々姫はふたたびゆっくり横たえ、布団にもぐる。

(ガララララっ)

窓を開ければ、晩秋の夜の空気が流れ込んでくる。
――晩秋、というか、もはや冬の匂いの方が濃いかもしれない、冷たい空気が。

「にぃには寒くなかと? その……あの……寒いようなら、おふとん……えと」
「平気だ。ついさっきまで火をつかっていたしな……っと」

ドアの向こうに、お盆を置きっぱなしにしてしまっていた。
あわてて取りにもどって小テーブルの上におき――

「あ、土鍋。にぃに、もしかしてお粥さんつくってくれたと?」
「もしかしなくてもそのとおりだ。真闇姉の絶品粥とは比較にもならんが、まぁ、ないよりはいいだろう」
「そんなん! にぃにが私に、私のためにつくってくれたお粥さんやもん。他のなにより、わたしにとっては一番やけん!」
「そうか。それならば冷めないうちに食べてくれ」
「うん!」
「と、その前に窓をしめるか」

(ガララララっ)

窓を閉めれば日々姫は再び体を起こす。
ひな鳥のごとく、もはやその口をあけている。

「ん~~~~っ」
「まぁ待て、ふーふーしてからだ。(ふーーーっ)(ふーーーーっ)(ふーーーーっ)。こんなもんかな? ほら、『あ~ん』は、もうしているか」
「ん~~~(はむっ!) あひゅっ! ん……ん――ん…………(もきゅもきゅっ)――こくっ。ぷあっ! 卵粥! 上手、おいしか~」
「そうか」

本当に口にあったらしい。
泥水のようだった日々姫の顔色に、健康的な赤味が戻る。

「ならばよかった。ではもうひとくち」
「あ! にぃに! あのね? おくち、ちょこっとだけ熱かったけん――あの……お水、コップに一杯あると」
「あ! だよな、熱々の粥だものな。すまん、全く気がきかないで。すぐにとってくる」
「あ、ううんっ!? わたしの方こそわがままいうて」
「こんなもの、わがままのうちにも入らんさ。他になにかあれば、遠慮なくいってくれ」
「ううん――いまは――いまは、平気。お水、だけで」
「そうか」

一階へ下り、コップの水を用意する。
この程度、どうして最初から気づかんものか自分で自分が情けない。が――

「……弱気な顔を見せてはいかんな。日々姫を不安にしてはいけない」

――気合をしかと入れ直し、再び静かに階段を上がる。

「おまたせ。水だ。自分で飲めるか?」
「うん――あっ!? ううん! あの……ちょっと不安かも。にぃにに飲ませて貰えたほうが……安心、かも」
「そうか」

汰斗さんの晩年には、僕も介護を手伝った。
っと、そうだ――

「飲ませるのであれば吸い飲みを」
「あ!? そんなおおげさじゃなくてよかとよ! コップで平気」
「そうか? なら――よっ」
「あ」

日々姫の背中に回り込み、こぼさぬように軽く小さな体を支え――

「ほら、ゆっくり、な? 慌てなくていいから」
「う、うん。――いただきます――ん――(こくっ――こくっ――こくっ――こくっ)」

日々姫の喉が動くたび、その振動が背中をつたい、僕にもゆるく響いてくる。
……心地よい。どこか安心してしまう。
油断大敵とはわかっているが、この元気さなら一晩寝れば、熱もひくのではなかろうか?

「ん――ふぅ。ごちそうさま。おいしかった」
「もうごちそうさまか? お粥は」
「あ! 食べる! もちろん!! せっかくのにぃにの手作りやもん」
「無理はしなくていいぞ? 食べられるだけ、な?」
「うん! わかった。ね? そしたらにぃに――『あーん』」
「うむ。『あ~~ん』」

……うん。食欲もしっかりある。

「ふぁ。ごちそうさま~ おいしかったー」
「おそまつさま。だ。ふふっ、随分元気がもどったようだな」
「うん! もうね、完全ににぃにのおかげ!!」

完食をしてもらえたことも嬉しいが、その何倍も、笑顔が戻ったことが嬉しい。
頬が真っ赤でだるそうで、熱を測って38.6度と出たときは、本当に死にそうな顔をしていただけに。

「せっかくのねぇねの誕生日プレゼントやったのに、はしゃぎすぎて熱でちゃうとか。まっこと、自分のバカさに後悔しまくりだったけど~」
「ああ、真闇姉は誕生日プレゼントをもう置いていってくれていたのか」

日々姫の誕生日だというのに、ハチロクをつれ酒造組合の研修旅行に出かけるなどと、真闇姉にらしくもないように思えて、いささか心配していたのだが――

「さすがは真闇姉だな。いったい、何をもらったのだ」
「え!? あ――それは……その――この時間っていうか――ううんっ!? やっぱり! やっぱり秘密! にぃにには内緒ばい!」
「そうか。詳しいことはわからんが、日々姫がそんな表情をみせるくらいだ。よほど素敵な品なのだろうな」
「それはもう! この上なかとよ! やけん、無駄にしちゃったんじゃないかって、わたし、後悔しまくりだったばってん――」
「ばってん?」
「えへへ。熱が出たのもよかったのかも!! 今ね? とーってもしあわせやけん」
「そうか。それならばなによりだ。僕からもプレゼントとケーキがあるが……熱が下がってから渡すのでもかまわんか?」
「うん! そうしてもらえたほうがうれしか! それに、えへへ~」

日々姫が体を擦り寄せてくる。
少しべちゃつく――ああ、そうか。おかゆを食べて汗がでたのか。

「プレゼントなら、いままさに現在進行形で、さいっこーなのもらってるけん」
「ふむ? お粥がそれほど気に入ったのなら、おかわりを」
「あ、おかわりはよかと! それより、あの……にぃに?」
「うむ?」

日々姫が大きく息を吸い込む。

「あの、ね? わたし――汗、かいちゃったけん。体、吹くの――えと、背中」
「ああ、無論、手伝おう。体を冷やしてはいかんしな。というか、さくさくやろう。汗をふいたらすぐねるのだぞ?」
「あ、うん。すぐ寝る――あ! あの、にぃに、あのね? あとひとつだけ」
「なんだ。ひとつといわず、ふたつでもみっつでも構わんぞ?」
「いまは、ええと……ひとつでよかと――えと」
「む」

日々姫が甘えて、僕の胸板におでこをつける。
……大きくなったと思ったが、病気で不安になってしまえば、まだまだ子供で可愛らしい。

「すぐに、ね? 安心して眠れるように……私が寝入るまで、手――にぃににつないでいてもらえると」
「お安い御用だ。くまくま先生のお手伝いをして、日々姫の眠りを、僕も今夜はまもらせてもらおう」
「うん!!!! ありがと、にぃに!!!」
「!!?」

日々姫の笑顔がはじけた瞬間、僕の鼓動も跳ね上がる。
顔まで熱いような気がする。なんだ、これは――日々姫の熱を、うつされたのか?

「にぃに?」
「ああいや――なんでもない、その」

今は日々姫の看病だ。真闇姉もハチロクも不在なのだし、僕が倒れるわけにはいかない。

「まずは、汗だな、拭いてしまおう」
「はぁい」

日々姫が僕に背中を向ける。
もぞもぞとパジャマを脱げば、真っ白な肌が目に飛び込んでくる。

「えと……その――お願い、にぃに」
「ああ、うむ」

いかん、どうやら本格的に熱をうつされてしまったようだ。
指先までが震えてしまいそうだから、ぎゅうっと強く、タオルを握る。


;おしまい

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whisp 2019/10/25 20:00

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whisp 2019/10/24 22:56

2017/06 キャララ朗読劇台本『日々姫せんせーのお絵描き教室!』(進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!
今日は「レイルロオド・マニアックス」書こうと思ってたのですが、
なんだかあれこれバタバタしちゃって全然無理でした!!

のですが、二日続けてなんもかかないのもあれなので、
過去の台本から、2017年6月! ゲストはヒマリさんでお送りしましたキャララ! 内朗読劇、
『日々姫せんせーのお絵描き教室!』の台本を公開させていただきます!!!


お絵かき教室、楽しかった!!!

残念ながらそのときご一緒いただけなかった方におかれましても!
ぜひ、台本でどぞどぞです!!!!

///////////////////


キャララ六月朗読劇台本
「日々姫せんせーのお絵描き教室!」

                                               2017/05/28  進行豹 

;備品:
;クリップペンシル、ハガキサイズ用紙・各三百(来場ノベルティ配布時にあわせて配布)


;SE 開幕ブザー
;(ブーっ)


【日々姫】
「にぃににくっついて憧れの帝都!
やーっとこれた!! って思うたばってん~」

【日々姫】
「にぃに、帝大時代のお友だちにお呼ばれだとか!
しかも、そのお友だちのバイトの穴埋めで、私、お絵かき教室の臨時の先生だとか~」

【日々姫】
「先生なんて、私絶対むいてなかとよ! しかも――しかも秋葉原の教室!」

【日々姫】
「みぃんな絶対、わたしより絵、うまかとよー!
毎日毎日エッチな絵ば描いて、それを薄い本にまとめて、
夏とか冬とか売りまくってるにきまっとるんだから!」

【日々姫】
「にげたい~ 投げたい~ 御一夜に帰りたかとよ~!!」

【日々姫】
「ばってん、にぃにに頼まれたけんねー。
『すまん。日々姫。助けてくれ。この埋め合わせは必ず、近いうちに』って!」

【日々姫】
「にぃにぃそぎゃんと言われたら断れんし~。 それに、それに――埋め合わせ!
にぃに、『この埋め合わせは必ず、近いうちに』
に続く言葉はやっぱり『僕の体で』だし、きっと! きゃーーーーー!!」

【日々姫】
「わわ!? わたしこんな大通りで寄声ばあげちゃって!
って……あれれ? 誰も気にしとらんと?」

【日々姫】
「はー、さすが大都会。さすが秋葉原ばい!って、そろそろお絵かき教室いかんと!」
【日々姫】
「えーと、『キャララお絵かき教室』――って、ここか!」

【日々姫】
「中の様子は~~ こそ~っと――
あ! なぁんだ! ちびっこばっかり!」

【日々姫】
「ちびっこなら怖くなかとよ!
レールショップやなんやらで、わたし、ちびっこに結構人気あるけんね!」

【日々姫】
「いけるいける! よしっ―― (こほん)
『みなさん、こんにちわー!』」

【日々姫】
「あれれ? お返事ちいさいな。『みなさん、こんにちわー!!』」

【日々姫】
「うん! いいお返事!
今日は、いつもの先生に代わって、わたし、右田日々姫。
日々姫先生が、みんなにお絵描きを教えちゃいます!」

【日々姫】
「ええと、この中に――お絵かき大好き! っていうこ、どのくらいいるかな~? 
手をあげて!」

【日々姫】
「うんうん。それじゃあ、そのなかで、
『薄い本出してるよ』ってこは、どのくらい? こっそりでいいから、手をあげて?」

【日々姫】
「ほうほうなるほど~。
それじゃ、その薄い本、あとで先生にも見せてね!」

【日々姫】
「で、今日のお絵かき教室は――
みんながどのくらい描けるかとか全然わからないから、
[速描'そくびょう]――クロッキーをやります」

【日々姫】
「日々姫先生が、一分間をカウントするから、
その間に、先生が指示したものを描いてください!」

【日々姫】
「モデルを描く――だとちょっと難しいかもだから、最初は指ならしもかねて、
みんなが知ってる動物を、思い出しながら描いてみよー!」

【日々姫】
「みんなが知ってて描けそうな動物……」

【謎の観客】
「サーバルキャット!」

【日々姫】
「サーバルキャット!? そぎゃんとマイナーな動物――
あれ? みんな、『サーバルちゃんなら描ける』って顔してるね、
すごーい!」

【日々姫】
「けど、一分だと厳しいかもだから……ええと、最初はキリンさん! キリンさんの絵、
描いてみよー!」

【日々姫】
「じゃ、一分カウントするからねー。 3,2,1――スタート!」

;実際、1分クロッキーさせる

【日々姫】
「残り10秒,9、8――――はい! おしまい!!」

【日々姫】
「みんな、描けたー? それじゃ、日々姫先生に見せてみて~」

;お客さんの絵みて、いじってあげてください

【日々姫】
「うんうん。なかなかいいね。それじゃあ、次は――ネコさん描いてみよー!
さっきリクエストがあった、サーバルキャットでもおっけーだよ!」

【日々姫】
「また一分! いっくよー! 3,2,1、スタート!」

;また一分クロッキー

【日々姫】
「残り10、9,8――――はーい、おしまーい!」


【日々姫】
「じゃ、また日々姫せんせーにみせてみよー!
ほうほう、なるほどなるほど――んんん~?」

【日々姫】
「なんでかな? キリンさんのときとくらべて、全体的に線の勢いが――――え?
あ、そっか、ねむたくなっちゃったのかー」

【日々姫】
「あー、いっつもだったら今はお昼寝の時間? そかそか、それなら――んん?
『お昼寝のときは先生が読み聞かせしてくれてる』の?」

【日々姫】
「そっか。よかとよ! 今日は私が先生やけんね!
読み聞かせも、ちゃーんとしてあげる!」

【日々姫】
「それじゃあ、日々姫せんせーの想い出のお話し、
読み聞かせてあげるとね――こほん」

【日々姫】
「長靴をはいたネコ」

//////////


『貧しい粉屋が、貧乏なまま、死にました』

『残されたのは、三人の息子と、粉をひくための水車小屋と、
引いた粉を運ぶためのロバと、
粉を狙うネズミを退治するためのネコだけでした』
『長男は、水車小屋をもらいました。
次男は、ロバをもらいました。
末っ子には、ネコしか残りませんでした』

『兄さんたちから追い払われた末っ子は、とほうにくれてしまいました。
「ネコをもらってもパンも買えない。僕はどうやって食べていこう」』

『末っ子が思い悩んでいると、
ネコがひょこひょこやってきました。
「ご主人様には私の他に、何も財産がないのですか?」』

『「着ている服と、冬の服。
はいている靴と、長靴ひとつ。
それから袋。ちいさいのと大きいのがひとつずつ」』

『「長靴だったらちょうどいい。私に譲ってくださいな。
おまけに袋もつけてくれたら、
このネコがなかなか役にたつところ、きっとご覧にいれましょう」』

『「どのみちこのままじゃ餓え死にだ。長靴と袋をネコにあげるよ」』

『末っ子と別れたネコは、長靴をカポカポ鳴らして、
大きな野原までやってきます』

『「今日はすばらしいお天気だ。
うかれたウサギが、遊びに出るにちがいない」』

『ネコはふくろを大きく広げて、
オオバコとハハコグサ、それからアザミのやわらかいところを、
つみとって中へ入れました』

『ネコはそのまま姿を隠し、のんびり待っておりますと、
クンクン鼻を鳴らしたうさぎが、袋の中に入ります』

『「はい、ご苦労さん」
袋の口をしめて捕まえ、ネコはウサギの入った袋をかつぎます』

『「ウサギだったらちょうどいい」
ネコは長靴をカポカポ鳴らして、
大通りをまっすぐまっすぐ、王様のお城までやってきます』
『「[衛兵'えいへい]、衛兵、王様に取次を願い出る。
私は長靴をはいたネコ。カラバ[公爵'こうしゃく]様のお使いだ」』

『「長靴をはいたネコとは珍しい。
カラバ公爵なる人物は、面白い使者を仕立てたものだ」
面会を許してもらえたネコは、王様の前でかしこまります』。

『「王様、初めてお目にかかります。私は長靴をはいたネコ。
こちらは、カラバ公爵様からの贈り物です」』

『「やわらかそうな野ウサギだ。受け取ろう。
カラバ公爵殿に、[御礼'おんれい]申し伝えてくれ」
「必ずお伝え申し上げます」』

『次の日にはうずらを捕まえ、
その次の日にはつぐみを捕まえ、
次の次の次の日にはまた野ウサギを捕まえて。
一週間、毎日毎日、ネコは王様に贈り物をしました。』

『「野生の美味を、これほど毎日、生け捕りにしてお贈りくださるとは。
カラバ公爵殿は、狩猟を得意とされているのか?」』

『「カラバ公爵様のご領地は、見回りに一週間かかります。
そのあいだの食べ物をまかなうために、狩りもお上手になりました」』

『「なんと、それほどに広い領地を持つのか。
カラバ公爵にお会いしたい。ご都合はいつがよろしいか」』

『「今はご領地の見回り中です。
戻られましたら、必ずお伝えいたします」』

『王様とわかれお城を出ると、ネコは末っ子に会いにいきました。
末っ子は、やっと見つけたパン屋の仕事になじみ始めているようでした』

『「ご主人様ご主人様。
あなたはパン屋と公爵と、どちらの仕事をやりたいですか?」』

『「やれるのだったら公爵がいい。
僕にできるかわからないけど」』

『「さて忙しい!」
末っ子の返事をきいて、
ネコはふたたび、外へ飛び出していきました』

『お城とは反対の方角へ、長靴カポカポ歩いて歩いて、
知らないところまでやってきます。
そこでは痩せた農夫たちが、麦をつくっておりました』

『「私は長靴をはいたネコ。カラバ公爵様のお使いだ。
このあたりを今おさめているのはいったい誰だ?」』

『農夫の一人が、頭を下げて答えます。
「このあたりを今おさめているのは、人食いのオーガにございます」』

『「それでは聞くが、カラバ公爵様と人食いのオーガ、
どちらにここをおさめて欲しい?」
「人食いのオーガはごめんです。カラバ公爵ならありがたい」
「人食いのオーガがごめんなら、なぜ追い払ってしまわない?」』

『「人食いのオーガは、変身の術が自慢です。
熊になったり、ライオンになったり。あれには誰もかなわない」』

『「カラバ公爵様ならかなう。
だから、これよりここはカラバ公爵様のご領地だ。
誰かに尋ねられたのならば、そう答えなさい」
「わかりました。これからここは、カラバ公爵様のご領地です」』

『行く先行く先で、人に合うたびそのやりとりを繰り返し、
やがてネコは、古いお城につきました』

『「どうやらここが、人食いのオーガのお城だな。
衛兵のひとりもいやしない。きっと端から食べたんだろうな」』

『ネコは勝手にお城に入り、大声で人食いのオーガを呼び出します。
「私は長靴をはいたネコ。カラバ公爵様のお使いだ。
ここは今日からカラバ公爵様のお城だ! 荷物をまとめてさっさと出て行け!」』

『「なにをぬかすかこのネコめ!!」
怒り狂ったった人食いのオーガは、立派なライオンに化けました。
「長靴ごとぺろりと食べてやる」』
『怖がるどころか、ネコは安心した様子。
ライオンの爪をひらりとかわし、ヒゲの形を整えます』

『「ごじまんの変身の術がその程度ならちょうどいい。
象に化けるカラバ公爵の相手ではない」
「なんと、象だと?」』

『ライオンでは象にかないません。
人食いのオーガは困ってしまい、ぴたりと動きを止めました』

『オーガを気にするふうもなく、ネコは安心しきっています。
「小さなものに化けられたなら怖かった。
この袋に入る生き物よりも小さなものには、カラバ公爵様は化けられないから」』

『「勝ったぞ! オレはもっと小さく化けられる」
人食いのオーガは喜びいさんでハツカネズミに化けました。
「はい、ご苦労さん」』

『ハツカネズミを頭から食べ、ネコは長靴カポカポいわせ、
いま来た道を戻ります』

『「人食いのオーガはカラバ公爵様がやっつけた。
お城にいって確かめてこい。
確かめてきたら明日のお昼に、お祝いの[宴'うたげ]を開くのだ」』

『来た道々で、会う人会う人にそういいつけて、
ネコはようやく、末っ子のもとに戻ります』

『「ここから西にいったところに橋があります。
明日のお昼に、その橋を、王様の馬車がわたります」』

『「王様の馬車のひづめの音が聞こえたら、
失礼することがないように、橋の下で、川の水で、体を洗ってくれませんか?」』


『「どうしてだい?」
「カラバ公爵になりたかったら、そうしてください。
パン屋の手伝いの方がよければ、しなくていいです」
「カラバ公爵になってみたいから、ネコに言われたとおりにするよ」』

『次の日です。朝からネコはお城に行きます。
王様の馬車の先頭にたって、案内します』

『知らない土地に来た王様は、
「このあたりは誰の領地か」と訪ねます。
会う人会う人「カラバ公爵様のご領地です」と答えます』

『「なるほどカラバ公爵殿は、
これほどのご領地をもっておるのか」』」

『感心しきりの王様を、ネコは橋まで案内します。
ついた途端に、しっぽをぴいんと逆立てます。
「なにかおかしい。私が様子を見てきます」』

『橋の下、川では約束したとおり、末っ子が水浴びをしています。
ネコは早口で訪ねます』

『「ご主人ご主人、
服を失くして領地を得るのと、
服はそのまま領地もなしと、いったいどちらがいいですか?」』

『「服は失くしても領地が欲しい」
「それならあと少しの我慢です」』

『そういうなり、ネコは末っ子の服を川に沈めてしまいます。
驚いた末っ子が声をあげると、ネコも大声で叫びます』

『「大変だ! カラバ公爵様が族に襲われてしまったようだ!
服も馬車も、なにもかも持っていかれてしまったぞ!!』

『声を聞きつけた王様は、おつきのものに命令し、
上等の服と気付けの酒とを届けさせました』

『驚く末っ子に、ネコはこっそりささやきかけます。
「おめでとうございます。
これでご主人は、カラバ公爵になれました」』

『ネコの言うままに服をきて、馬車に乗り込み、
人食いのオーガのものだった、カラバ公爵のお城につけば、
大歓迎の宴です』
『大喜びの王様を、王様のお城に送り届けて、
カラバ公爵になった末っ子は、自分のお城に戻ります』

『「やれやれ、これで当分は飢え死にせずにすみそうですね」
「ネコのおかげだ、ありがとう」
カラバ公爵になった末っ子は、ネコを撫で撫で、聞きました』

『「僕はお前の主人になって、カラバ公爵になった。
父さんもお前の主人だったのに、どうして公爵にならなかったの?」』

『「とても簡単なことです、ご主人」
前足を舐め、顔を洗って、ネコはのんびり、答えます』

『「前のご主人は、私に長靴をくれなかったんです」』

「――おしまい!」


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whisp 2019/10/24 21:53

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whisp 2019/10/21 20:16

記念日動画「10/21 あかりの日(日々姫)」台本 (進行豹

こんばんわです! 進行豹でございます!
10/21は「あかりの日」

夜に灯す、あの「あかり」の記念日でございます!
ありふれすぎて特に意識することもなくなってしまっているあかりについて、
日々姫、ひーちゃんがあたたかな語り口で聞かせてくれる記念日動画が公開されました!


https://twitter.com/maitetsu_ps/status/1186229065910378498?s=20

台本の方、以下に公開いたしますので、
とくに外国語話者の方の翻訳の助け等にご活用いただけましたらうれしいです!!!

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:10/21
【日々姫】
「十月二十一日は、あかりの日。
1879年、冥国の科学者、トマス・アルバ・エディソンによって、白熱電球が実用化されたことを記念する日……っていうお話と」

【日々姫】
「明かり、夜汽車ば走らせとるときには、まっこと綺麗に見えるとよ。
視界の悪い前方窓に、ぽ、ぽ、って現れては流れていくあかり。人のくらしのあかり。
目にすると、こころが柔らかになっていく気がするくらい――ほんとうに、綺麗」


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