ギンコ・ビローバ+
~事務所~
P
「ちゅー〇、ちゅー〇、ちゃおちゅー〇ー♪」
円香
「……」
P
「お、円香。おはよう!」
円香
「そんなに歌うのがお好きなら、ご自分でアイドルをやられては? ミスター・ナルシスト」
P
「いやいや、すまん。ついな……差し入れに頂いたクッキーが、思いのほか美味しくて」
円香
「お金を入れたら歌う、貯金箱みたいな人」
P
「ははは……どうだ? 円香もひとつ」
円香
「……」
小さなバスケットに、クッキーが、残りふたつ――
円香
「あなたの食べかけなんて、いりません」
P
「いやいやいや、違うぞ? 他のユニットの子たちも食べて、これだけが残ったんだ」
円香
「……ふーん」
――ガチャッ!
めぐる
「おっはよーございまーすっ!」
P
「おう、めぐる。おはよう!」
円香
「おはようございます」
P
「差し入れに、クッキーを頂いたんだ。あと、ふたつだけど」
めぐる
「えーっ!! わっ、ほんとだっ! おいしそーっ☆」
円香
「……」
食レポにしか見えないけど、たぶん素。
めぐる
「だれにもらったの?」
P
「この前、番組で御一緒した――アイスキャンディの、アイスさんから……」
――スタスタスタ……
めぐる
「あっ、待って!」
円香
「……」
めぐる
「はい、あーん☆」
円香
「いらない」
めぐる
「えっ……」
円香
「…………」
めぐる
「あははっ、ごめんね? レッスン前には、食べたくない人もいるよね」
円香
「……。置いて、食べるから」
手のひらを広げる。
めぐる
「! はいっ、どーぞっ☆」
円香
「……」
めぐる
「はむっ☆」
円香
「ん……」
――サク、サク、サク、サク……
めぐる&円香
「!!??」
P
「どうした? 喉に詰まったか?」
めぐる
「……。いえ、なんでもありません。レッスンに行ってきます」
P
「……いや、なにを言ってるんだ? めぐるは、これから収録だろ?」
めぐる
「は? 私と彼女の、区別もつかないほど――!?」
なに――この声……。
円香
「わ、“わたし”がいる……!?」
P
「なんだ!? どうした!?」
めぐる
「っ……!?」
“私”がいる。
目の前に――
ドッペルゲンガー?
円香
「もしかして……円香?」
めぐる
「……ということは……」
下を向く。
足が見えない――
否、胸が見える。
“自分”の。
めぐる
「私が、八宮さんに……?」
*
~レッスン室~
――ガチャッ!
円香
「みんな~っ! おっはよーっ!」
小糸
「ぴぇっ!?」
透
「えっ……」
雛菜
「あはー♪ 円香せんぱい、バグったー♪」
円香
「あっ、ごめんごめんっ……! 説明しなきゃだよね――わたしは、八宮 めぐるです☆」
小糸
「????」
透
「ふふっ……宇宙猫」
雛菜
「やはー♪ 円香せんぱい、ラリったー♪」
円香
「あれ? 全然ダメ……? あのね、冗談じゃなくて……ほんとに、身体が入れ替わっちゃって」
――ガチャッ
P
「めぐる?」
円香
「あっ、プロデューサー。やっぱり、ダメだったよー」
小糸
「おっ、お疲れ様です」
透
「やばいよ、きょうの樋口……脳みそバーン」
雛菜
「んー……ほんとにー? ほんとに八宮さんー?」
円香
「ほんとほんとっ! あっ……イルミネの曲っ! 歌って踊るから――見ててっ☆」
《走り出すよ キミの未来が今》
《翼を手に入れたから》
《きらめく虹になれ》
――しゅたっ!
円香
「……どうかなっ??」
小糸
「すっ、すごい……!」
透
「イルミネの曲も、練習済みかー」
雛菜
「いっつも、“コソコソ練習”してるもんねー♪」
円香
「……あれっ?」
P
「駄目みたいだな……コホン。みんな、聞いてくれ……これは、ドッキリじゃない。ここにいるのは、確かに円香だが……中身は――」
円香
「めぐるだよーっ☆」
雛菜
「ねーねー、八宮さーん。もしかして、きょう……身体が軽いとかって、ありますー?」
円香
「っ! たしかに、言われてみれば……――なんか、“上半身”が軽い!」
雛菜
「あはー♪ 八宮さんだー♪」
小糸
「じっ、上半身……えっ、それって……」
P
「(察し)」
透
「うん。樋口、肩、凝らないし(断言)」
*
めぐる
「くしゅんっ!」
真乃
「ダイジョウブ? メグ――マドカチャン」
灯織
「ティッシュ、どうぞ。めぐ――円香さん」
めぐる
「平気」
あれよあれよという間に――
バラエティ番組の控え室。
あの人(P)には、至急、アイスなんちゃらとかいう元凶の元に――
クッキーの追加を、取りに行かせた。
めぐる(円香)
(たとえ、望み薄でも……今は、その可能性に、賭けてみるしか……)
番組スタッフ
「イルミネのみなさーん、お願いしまーす」
真乃
「ハ、ハーイ!」
灯織
「できるだけ、私と真乃で、カバーしますから……!」
めぐる
「……うん」
無理でしょ、この二人には。
~数十分後~
オカマ
「ん~~、ぢゃあ~、次はぁん~……三人のぉん、学校生活についてぇん♡ 真乃ちゃんからぁん♡」
真乃
「エッ、エットソノッ……ワタシ、オトモダチヲツクルノ……アンマリ、トクイデハナイノデ……」
オカマ
「あらぁん、そぉなのぉん? でも~、アイドルを始めてからぁん……前よりもぉん、色んな人からぁん……声、かけられるように、なったんぢゃなぁい?」
真乃
「ソッ、ソレハ……ソウナンデスケド……キンチョウ、シテシマッテ……」
オカマ
「いやぁ~ん♡ 真乃ちゃわん、カ♡ワ♡イ♡イ♡ チュッ♡(投げキッス)」
気色が悪い。
オカマ
「次はぁ~ん、灯織ちゃん♡ キャモオンッ♡」
灯織
「はっ、はいっ……私は……なんと言いますか……いっ、以前よりもっ、表情が柔らかくなったとっ、よく言われますっ!(裏返り)」
オカマ
「あ、ふーん」
ガチガチすぎる。
無論、アドリブなんて――最初から期待していない。
用意された衣装、用意された曲、用意されたトーク。
そういった、御膳立てという魔法に――ただ守られ、擁護される、か弱い存在。
それこそが――
めぐる
(本当……)
アイドルって、楽な商売。
オカマ
「ぢゃあ~、最後ぉん……めぐるちゃん♡」
めぐる
「…………。私にとっては……学校もアイドルも、変わりませんね」
オカマ
「! ふうむ(唸り)」
めぐる
「気がついたときには、そばにいて……いつも隣を歩いてる、仲間。そんな感じです」
真乃&灯織
「……!!」
オカマ
「……なるほどぉん。実はね、アタシ――イルミネの大ファンでぇん♡ 特にぃん、めぐるちゃん推しなのよぉん♡ うっふ~んっ♡」
めぐる
「ありがとうございます」
オカマ
「いや~んっ♡ あの、めぐるちゃんにぃ……ありがとウ〇ギ、されちゃったわぁんっ♡ ぴょん×2っ♡ しかもぉ、なんかきょうはぁん、いつもよりカッコよさ、5割増しぃいんっ♡」
めぐる
「……次の質問に行けって、カンペが」
オカマ
「えっ……やだ、も~ぉ♡ アタシのバカバカぁんっ♡ でもね、視聴者の方でぇん……まだ、《Ambitious~》と《シャイノ~》のイルミネVer.を、聴いてない人がいたらぁん♡」
カンペ
『巻きでお願いします』
オカマ
「あ゛? 抱かれてーのか? この野郎」
たぶんだけど。
八宮 めぐるが、全体曲のときに、ユニット曲とは歌い方を変えてる――
という話を、しようとしたんだろう。
オカマ
「んぢゃあね~、次はぁ~ん……恋バナよぉんっ♡ 理想の彼氏はぁん?」
真乃&灯織
「(身構え)」
めぐる
「…………」
ほんと、低俗な番組。
オカマ
「も♡ち♡ろ♡ん……アイドルに恋愛は、御法度……でも、もしも……みんなが、普通の女の子だったら――いやぁ~んっ♡ アタシ、今、絶対ぃん……耳、赤ぁ~いっ♡」
――スッ
オカマ
「あら、挙手してくれるのぉん? ぢゃあ、おひおちゃんっ♡」
灯織
「……。私はなにをするにも緊張しがちな性分なのでいつも穏やかな笑顔を見せてリラックスさせてくれるような方でしょうか(流暢)」
めぐる
「……」
今度は、スラスラと言葉が出てくる。
まぁ、アイドルとして、これを用意できてなければ――三流だ。
オカマ
「なるほどねぇん」
――スッ
オカマ
「やぁん♡ おまのちゃんも、イけちゃうん? どぉぞぉ♡」
真乃
「ハイ……ワタシハイツモ、マヨッテバカリデ。アレモコレモッテ、イツモ、メウツリバカリデ。ソンナトキ、オチツイテ、レイセイニ……ハンダンヲシテクレルヒトガ、イタラナッテ」
オカマ
「……灯織ちゃんみたいな?」
真乃
「ッ////」
灯織
「っ////」
オカマ
「灯織ちゃんが言ってたのも、真乃ちゃんのことよねぇ……? やっだぁ~♡ ふたりとも、両想いぃんっ♡」
灯織
「ちっ、違うんですっ! あれはっ、そのっ////」
真乃
「ゥゥゥ……////」
オカマ
「はいはい♡ ごちそぉさま♡ ……おめぐちゃんは?」
めぐる
「…………」
『ちゅー〇、ちゅー〇、ちゃおちゅー〇ー♪』
うるさい――
めぐる
「……私、恋愛感情とか、分からないので★」
\つづかない/