序章
「いやぁっっっ!!」
裂帛の声と共に自分の身長ほどもある大剣が横薙ぎに繰り出される。凄まじい勢いと力で振るわれた剣は、巨大なオークの群れを一瞬で刈り取ってしまった。
「ふぅ……。これで全部かな?」
そうつぶやいたのは見目麗しいドレスに身を包んだ金髪の女性であった。
彼女の名はロゼミーナ。文武を重んじ、あまた名のある武人を輩出してきたロミエール公国の第二公女にして、武人だ。
「こんなところに触手種のオークがこんなにいるなんて……やっぱりあのサキュバスの影響でしょうか……?」
大剣をぶんっと振って血とも粘液とも付かない物を払い落とすと、ロゼミーナはムムムと考え込む。
ロゼミーナが領土の辺境にある廃城に来たのは数時間前のことだ。近くの村を視察した際に『おとうさんがいなくなった』という子供の訴えを耳にし、騎士団に調査させたところ他の村、街でも同様の事件が起こっていたことが判明する。
更に詳しく調べたところ、件の廃城付近にある森で薬草やキノコなどを採取にいった後に戻らなくなっていたことがわかった。そこで魔術師や斥候を使って遠巻きに探らせたところ、なにやら女性型淫魔、いわゆるサキュバスと取り巻きらしき怪しげな怪物多数が巣くっているらしい。そこまで分かれば十分、おそらくサキュバスにさらわれたに違いない、と乗り込んだのである。
「しかしあのサキュバス、剣を合わせた感じではなかなかの手練れのようでしたが……。なぜわたくしになにもしなかったのでしょうか?」
先ほどの対決を思い出すロゼミーナ。
荒れた城の中に跋扈していたモンスター共を苦も無く斬り伏せ、サキュバスと対峙したのはおよそ一時間くらい前だったか。
『わたしはサキュバスだから女の子には興味ないんだけど……特別可愛い姫おねーさんみたいなのは特別。わたしコレクションにくわえてあげる♥』
といいながら、やけにボディラインにフィットしたとした黒ボンテージに身を包んだ淫魔が触手を放ってくる。大剣でそれを防ぎつつ間合いを詰めると、必殺の間合いに持ち込み一気呵成に首をはねた。
……が。
(手応えが軽い?)
「人間にしてはヤルほうだけど……、全然ダメ♥」
背後からやたら甘ったるいサキュバスの声が聞こえた。しかも妙に熱くて湿った吐息まで感じる。
(ダミーか!)
易々と背後を、しかもこんな近くにまで寄られた事に軽いショックを受けながらもすかさず剣の柄を持ち替え、後ろに突きを放つ。
だが、それは空を切った。二度目の攻撃を外した以上、痛撃が来るかも知れない。多少吹っ飛ばされてでも距離を取らなくては。そう覚悟した瞬間。
トン。
「!?」
何かがドレス越しの下腹部に触れる。漆黒の手袋に包まれたサキュバスの人差し指だ。
ロゼミーナは反射的に跳躍し、サキュバスと距離を取った。
「んふ♥ これで姫おねーさんはわたしのの物確定♥」
騎士姫は品のいい、しかし頑丈な手袋に包まれた手で自分の下腹部に触れる。
(なにもされていない……? 打撃を受けたわけでも魔法をかけられたわけでもない……?)
少なくとも見た目上では何も起こっていなかった。痛みも感じないし、それ以外のおかしな感触もまるでない。
「あなたの物ですって? わたくしには何も起こっていませんよ。攻撃をしくじったんじゃないですか?」
言いようのない不気味さを感じつつも言葉でけん制する。
「いーや、成功してるよぉ? お主のきれいな顔、デカくて柔らかそうなおっぱい。くびれた腰にお腹、ほっそりとした脚……。とぉってもエッチでイヤらしい身体、いずれわたしの物になるの♥」
確かにロゼミーナのボディは魅惑的だ普通の成人女性より格段に豊かな巨乳は、けれど日頃の訓練で引き締まった筋肉のおかげか全く垂れていない。動きやすさを優先した服は胸元が大きく開いており、二つの美乳が織りなす谷間は男性ならば誰しも目をやらずにいられまい。
腰もドレスのコルセット部で締められている事を加味しても細い。しかし病的なほどに細いというわけでもなく、ほどよく発育しておりこれからの女性としての成熟が期待出来る腰つきだ。
そして模様の入った黒にニーソックスに包まれたおみ足は、太ももはややムッチリめではあるが、そこから続くふくらはぎはしっかりと鍛えられて野ウサギのようなしなやかさを感じさせる。だがゴリゴリと筋張っているということもなく、野性味と女性の美を微妙なバランスで成立させている芸術品のような逸品である。
「品評するのは止めてください。不敬ですよ」
ロゼミーナはムッとほおをふくらませた。
自分の身体に女性的魅惑がないと考えたことはさすがに無いが、あからさまにスケベな目線でそう言われるとさすがに不愉快だ。
「だいいち、貴女の物になんてなりません」
「いーえ、なるの♥ 乳首をビンビンにしこらせて、早くいじってくださいって懇願するようになる♥ おまんこは乾く暇もないくらいいつもぐちょぐちょになるくらい感度を上げてあげようかな……♥ いえ、アナル狂いにして腸液だらだら、オークの極太でイキまくれるようにするのもよさそう♥」
淫魔はロゼミーナを前にしてうっとりした顔をしながら身体をくねらせる。
「おまんこ? あなる?」
そういわれたロゼミーナの方はきょとんとした顔をしてしまう。
「姫ねーさんは男の人とのエッチ知識も持ってないのぉ? 男の人を悦ばすために使う穴のことだよ♥ あぁ、子作りと排泄にも使える……かな?」
一瞬考えた後、ロゼミーナは顔をボフっと紅潮させて、問答無用で剣を振りかぶり、全力で淫魔のロリータボディを唐竹割りにぶった切った。
「ぶぶぶ無礼者!! 手打ちにしてくれます!!」
『した後で言われても。でも、そういう可愛いところもいいよね♥ そのぶりっこ顔が性の悦びに目覚め濡れたとき……どう変わるか楽しみだなー♥』
そう言うと淫魔はピンク色の霧と共に姿を消してしまった。
……それが三十分ほど前の話である。
「どのみち放ってはおけませんし……。退治しなくてはならない奴なのは間違いないですね。それに……」
ロゼミーナは出発前にパパがいなくなった、と訴えてきた少女の顔を思い出す。
「あの娘と約束しましたしね、お姉さんに任せて、って」
そうつぶやくと王女は大剣を再びかまえ直した。
「じゃあ、もうひと頑張り、しましょうか!」
ロゼミーナは薄暗い廃城の廊下を駆けだした。目指すは城の最深部、最も魔力の濃い場所だ。
再び戦いの火蓋が切って落とされた。
第一章・あるいは武人姫の敗北
「おりゃぁっっ! ふんっっっっ!! でぇぇぇいいいいっっ!!!」
ロゼミーナが斬り倒したゴブリン、ローパー、スライム、クモなどの類いはもはや数えてもいられないほどに上った。そのどれもがサキュバスの魔力を受けているのか十分な強敵ではあったが、公家の加護を受けている武人姫であるロゼミーナの相手ではない。
並み居るモンスターを打ち倒し、たどり着いた先は地下の牢獄であった。
今の王女になってから残虐な○問はすべて廃止されているのだが、ここには古びた○問器具がまだ残されているようだ。
「さぁ、次はどなたです、もうおしまいですか? ならわたくしは先に進ませていただきますよ?」
不敵な笑みを浮かべる姫の顔には全く疲労は感じられない。まだまだ余裕たっぷりだ。
『お、お、お前か? エリム様に逆らう、メ、メ、メスは?』
「おっ?」
ずしん、ずしん、と地下牢獄を振るわすような地響きを上げながら一匹の巨漢が姿を現した。
ロゼミーナは手にした魔法の灯りで相手を照らす。
(……大きいですね……。城の門くらいはありそうな巨漢ですか。見た目はただのオーク、ですけども……)
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