時 自若 2022/04/24 14:40

浜薔薇の耳掃除62話 「いい塩梅」

きちんと毎日ブラッシングの時間は取れているだろうか?
もしも行っていないのならば、浜薔薇に任せるのもありかもしれない。
「時間はあります?」
「もちろん」
「じゃあ、ブラッシングもしっかりしますね」
それこそマッサージブラシというやつである。
頭皮の血行がよくなるように、しっかりとブラッシングする。
「ブラッシングって大事なんですよ、きちんとした後のシャンプーって最高なんですよ」
「それはちょっと興味あるね」
もちろん力任せではいけない。
何事にもいい塩梅というものが必要で、そこは蘆根は心得たものである。
「やっぱりさ、忙しくなるとブラッシングというかさ、簡単に決まるようなカットを、ここでしてもらうとブラッシングしなくなる」
「朝起きてすぐに出掛けられるようなカットは便利ではあるんですがね」
「なかなか難しいよ、もっと体に気を付けたいというのはあるんだけどもね」
「それはそうですね、それが両輪みたいなところってありません?楽になることも大事だし、苦労はするけども糧にしていることも必要だし、今のままじゃそのうち戦力にならなくなる、お払い箱になるのかなって」
「怖いこと言わないでよ、結構それ気にしているんだよね」
「どういうこと最近してます?」
「そうだね…」
この辺の話術も蘆根の武器の一つかもしれない。
「蘆根さんは話上手いよね」
「そうですかね?」
「そうだよ、俺さ、仕事であんまり話す人といないんだよね、だから話していると、俺はこんなことを考えていたんだなって気づくわけよ」
「今なんか気づいたこととかあったんですか?」
「ライブ行きたい、フェスで騒ぎたい」
「ああそれは…」
「結構さ、そこを我慢してたね、来年があるさ、次があるさって思ってたの、
そしたらね、好きなところが解散したり、脱退したり、あの時の自分の好きな音が体感できないのか…って気づいたら、俺は何でこの仕事してんだろうなって」
気づかれてしまいましたか…
「転職したい、出来ればこういうライブの抽選の日は休めるような」
ライブ当日ではなく、抽選日に休もうとするファンの鑑とも言えた。
「俺さ、かなり頑張ってきたよ、そりゃあもうよ、それでこの結果は悲しいなって思いながらも、仕事柄そこからまたうまくやる方法を考えなきゃって、自分を圧し殺してわけよ、まあ、そういう考えがないと、上手くいかないんだけどもさ、今回は抑圧が長すぎた、俺はライブに行くために頑張ってるのであった、仕事を押し付けられたり、増やされたりするためにいるわけじゃないのよって」
「自分でやりたいことはやった方がいいですよ」
「蘆根さんが言うと説得力があるよ」
「そうですかね」
熱中しすぎてこうなった人生が蘆根である。
「俺ね、何かあると回りが見えなくなるっていうか、昔はそれこそ、体壊して止まるよう」
「それは体に悪すぎ」
「電池が切れたように眠るタイプでした」
「そんな蘆根さんから今の蘆根さんになった理由ってなにさ!」
「それこそ、マッサージじゃないですか?自分の体で練習するっていうのを、勉強の最初の方に習って、マッサージの勉強は一日じゃ上手くなりにくいところがあるから、最初はね、なんでクリームあるのかもわからなかったんですよ」
「えっ?そうなの」
「そうですね、まあ、必要な理由がよくわかりましたけどもね」
クリームがあると、密着するので、指でツボを押すと的確に圧力を与えれたり。
「軽く流す動き、これで老廃物流れるのをサポートするんですけども、体を補えるようになるんですよ、今でもたまにそういうのを理解するようにクリームなしでちょっとやってみてから、クリームつけて同じ動きとかやってますね」
おそらくイツモが家にいなかったら、ひたすらそういう練習しかしないであろうというのがすごく見えるエピソードである。
「お客さんとしては蘆根さんのやってくれていることは嬉しいよ」
「うち家族も、その道を志すなら本気でやれっていうので」
「ああ、それなら言えることは体に気を付けてってしか言えない」
「それ、言われました」
「そうでしょ、そら、まともな家族なら心配するでしょ」
「でもああいう修行はよくできてますよ、真面目にやる意味っていうのは、取得したあとにわかるんですよ、この動きは無駄なように見えたんだけども、めちゃくちゃな、それこそ自己流でやってしまうと、後で取り返しがつかないことになるっていうのは痛いほどわかりましたね」
何回か出たがハサミの話のようなもので。
「同じところばかり使うと、一人前になる前に必ず悪くなるというか、そこまで負担をかけないようにして技術を取得させるための仕組みがきちんとできているんだなと」
「労災は怖いぞ」
「それは本当に思いますよ、ダマシダマシに来て、いきなりダメになる、それは自分にとって一番怖いかなって、仕事に打ち込みすぎてるって言われますけども、そんな自分が仕事から戦力外ですっていわれたら、泣きますよ」
「大袈裟だな」
いや、これは過小である。
蘆根はそうなったら泣くというよりも、この世を儚んでしまうかもしれない。
(もしもそうなったらお嬢ちゃん呼ぶか)
タモツはそう思っていた。
今のところそれが一番効くのは間違いなかった。

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