貧弱兄貴 2022/12/15 20:00

男攻め同人音声をつくる 0: まず15万円くらい貯めろ

 よくきたな。おれはサークル「貧弱兄貴」だ。おれは毎日すごい量のテキストを書いているが、誰にも読ませるつもりはない。だがおれはこの記事を書いた。何故か? それはおれのような男攻め同人音声制作サークルを増やし、少しでも兄貴たちの、そしておれの飢えを癒すためだ。



注:この記事は社会派コラムニスト(?)の逆噴射総一朗氏をリスペクトし、その特有の文体をめちゃくちゃナーフして書いています。もし興味が出たらミスター逆噴射聡一郎の記事を読もうね。
逆噴射聡一郎先生による映画「RRR」のネタバレなしレビュー



お前はやるべきことを確認しろ

 この記事では「同人音声を作り、DLsiteで売って、可能な限り赤字を回避する」ことを目標とする。おれが現在進行形でやっていることであり、一番教えやすいからだ。
 同人音声を売る上で作らねばならないデータは最低でも3つある。

  • 台本データ
  • 本編の音声データ
  • サムネイル画像データ

 この3つさえ作れば、それだけで同人音声になる。台本データを作品につけるか否かはサークルの自由だが、台本なしに音声データは得られないことを忘れるな。

 ここで、お前には実際に手を動かしてもらう。難しいことはさせない。おれは赤ん坊を補助輪のない自転車に乗せるようなあほではない。
 さっき説明した「作らねばならないデータ3つ」、それを完成させるためにお前はどんな順番で何をすればいいだろうか? 一度チラシの裏かメモアプリに書き出してみろ。分からなければググってもいいが、星マークでもつけて自分で考えた答えとカンニングで得た答えを区別できるようにはしておけ。





 答えの一例だ。アルファベットが振られているものは、同じ数字のもの同士で代替可能な選択肢であることを意味する。


○台本データ
1 サークルで作品の方向性(ジャンル、キャラの属性)を決める

2 サークルでプロットを組む

3a サークルメンバーが書く
3b シナリオライターに依頼する

※プロット組みもシナリオライターに丸投げできないわけじゃない。だが割高になる。

ーーー

○本編音声データ
0 完成した台本を用意する

1a サークルメンバーが演じる
1b 声の依頼を受け付けている人に依頼する

2a サークルメンバーが編集する
2b 音声編集者に依頼する

ーーー

○サムネイル画像データ
1 サークルでどんなイラストを発注するかを決める

2a サークルメンバーがイラストを描く
2b イラストレーターに依頼する

3a サークルメンバーがロゴ・サムネイルデザインをする
3b デザイナーに依頼する
3c イラストレーターにロゴなども併せて依頼する

※フリー素材+ロゴというドケチサムネイルも可能ではあるが、正直これだと見劣りする。
AIイラストを使うのも悪くはない。とはいえ好みは割れる。



 実際に手を動かしたお前は「あれ? 自分がやらなきゃいけないことって意外と少ないのかも?」と思うかもしれない。その通りだ。頭の中だけで考えていると目の前の問題が大きく複雑に見える。しかし一度書き出してみると、そこまで構成要素が多くないことに気づく。そしてお前は、必要以上に不安がることをやめる。
 お前は『とりあえず書き出してみる』というスキルを手に入れた。これは同人音声づくり以外においても有用だから覚えておけ。

他人を頼りすぎる奴は全員死ぬ

 これでお前はやるべきことと、取れる選択肢を把握した。あとは選ぶだけだ。しかしここからは『お前』ごとに状況が異なってくる。お前の持つスキルによって、どこからどこまでを外注すべきか変わってくるからだ。
 だいたいの零細同人音声サークルは、台本と音声編集を自前でやっている。おれもそうだ。逆に言えば、そこくらいしか自力でやれない。声とイラストとサムネデザインはそこらじゅうにプロが転がっており、チャンピオンロードみたいなことになっている。だからもしお前が捕まえたばかりのヨーテリーやマメパトだったら一撃で死ぬ。大人しく外注するのがおすすめだ。
 しかし、お前もプロでありオノノクスやジャローダであるなら話は別になる。その場合は自力でやれ。既にファンがついているだろうから、その宣伝力を大いに頼れ。売れないより売れる方が嬉しいし、2作目を作れる可能性も高くなる。

 もちろん全てを外注してしまうという手もないわけではない。いつ見ても最低1作品は予告ランキングに入っているあの強豪サークルたちは、台本・声・イラスト・サムネデザイン・編集を全て外注していることもある。しかしこれは金があるからできる芸当だ。
 ここで一度見積もりを立ててみる。おれの1作目『淫魔青年将校(以下略)』となるべく同じ条件で、シナリオと編集も外注したらどうなるだろうか?

 まずシナリオだ。成人向け作品の場合は最低でも1字あたり2円といったところだが、バイノーラル作品はもうちょっとかさむ。ここでは2.5円としておく。『淫魔青年将校(以下略)』本編は約2万字だったから、ここで5万円になる。
 次に声。出雲颯人氏に依頼した。成人向けバイノーラルで1字あたり3.5円だった(今は値上がりしていてもおかしくない)から、ここで7万円。
 イラストだ。目隠490氏に依頼している。最近1周年記念絵を依頼したが少し値上がりしていた。それを反映するなら5万円だ。
 サムネイルデザインは野谷亨氏に依頼しているのだが、2作目をお願いする頃にはこちらも値上がりしていた。こっちも反映して15000円
 最後に音声編集。仮にMas Audio Studio氏に依頼するなら、100分なので2時間プランを利用し15000円。これに手動ノイズ除去(1トラック)×4とSE・ BGM選定のオプションをつけて合計2万円。またSEを自前で用意する必要があるが、これは割引なしだと合計で約2800円だった。

 合算すると5万+7万+5万+1.5万+2万+2800=207800円。かなりの額になる。強豪サークルだとさらに高価格なところに依頼しているから、もしかしたら25万くらいは行ってるんじゃないだろうか?
 これを見たお前は恐怖のあまり失禁しているかもしれない。おれはそんなお前に気つけのスピリッツを差し出し、必要以上に恐れるなと言う。正直言ってこの見積もりには無駄がたくさんある。台本や編集を自力でやって、もっと低価格なところに依頼するだけでかなりスリムになるはずだ。

節約すべきところを見極めろ

 今度はもうちょっと現実的な予算帯を目指して見積もりをしよう。そのためには台本の文字数を減らし作品ボリュームを落とすことも検討する。最近(2022/12/10あたり)の男攻めは100分くらいが相場のように思われるが、これだと初心者には作業がキツいので60〜90分あたりを狙うのがいいだろう。ここではちょっとボリュームを出すため90分を目指す。

 まず台本は自力で書くのでタダ。当サークルだと特殊な指示を出さない限り1分あたり200字くらいなので、ト書きなし本編を18000字としよう。
 そして声は1字あたり3.5円が最低ラインという感覚がある。ちなみに2作目でお願いした太陽星輝氏もこの価格だった。ちょっと盛って4円とすると72000円
 イラストは同じく2作目で依頼したスキア氏(イラスト単体)で3万くらい。ロゴも同時にお願いできるイラストレーターがいたりするので、とりあえず4万円あればサムネは最低限なんとかなるだろう。
 最後に編集だが、当サークルはAdobe Auditionを使っている。お前に学割が使えるなら最初の1年はcreative cloudをおすすめしたい。Auditionだけをサブスクするより安いからだ。編集に5ヶ月かかったとして1738×5=8690円。もし学割がなくても素直にAudition単体(2728円)を買えば問題はない。SEについてはDLsiteの猫がタダで提供しているSE素材をベースとしつつアダルト使用OKのフリー音源サイトからなんとか見繕って、それでも足りない分は買うことにする。これで2000円くらいに収められるだろう。

 合計して7.2万+4万+8690+2000=122690円。さっきの見積もり額と比べておよそ40%オフになった。実際おれの1作目もこれくらいの予算で制作されており、現実的な見積もりだと思う。もちろんこれはかなりケチることを想定したものなので、依頼したい声優やイラストレーターがいるならもう少し予算は高くなる。リテイクが有料な依頼先もいたりするから、とりあえず15万くらいを見積もっておけばいい。


過酷な未来から目をそらすな

 お前が善行を積みたがる信仰心に篤い奴かどうしようもないあほでもない限り、出来上がった作品は有料で公開することになる。そして得た金銭で制作費用を回収し、残った利益を使って2作目以降を作る……そんな風に巡り巡る金は、同人音声サークルを生かす血液と呼んでもいい。だからお前は適切な価格をつけて、持続可能な発展をする必要がある。
 価格決定をするうえで必要な情報は「使った予算」「予想される売上本数」「価格と卸価格の相対表」、この3つだ。卸価格表はここにあるが、インボイス登録番号があろうとなかろうと実質的な利益の額は変わらない。


 ここでまた見積もりを立ててみる。15万の経費を回収するには、どの程度の価格をつければいいのだろうか?
 2022年12月に出た再生時間100分くらいの男攻め作品2つ、またおれの1作目(これも100分くらい)は税込1320円だ。これだと卸値は800円だから、15万÷800=187.5で188本売れれば赤字脱出となる。もし発売日から28日間のセールをするなら、もっとたくさん売る必要がある。20%オフにして価格を968円にすると卸価格は537円。これで15万の経費を賄うには280本売ればよしだ。
 しかしこれが案外高いハードルであることをお前は理解せねばならない。サークル1作目の『淫魔青年将校(以下略)』が11/26〜30の5日間で245本売り上げた一方、2年以上前に出た作品が80〜90DLあたり……というサークルもある。お前の作品売上がどうなるかは分からないから、赤字になる覚悟は決めておけ。おれはその過酷な未来をろくに知らないまま作品を出したあまあまちゃんなのであまりおれの言うことを信用してはならない。生存者バイアスがめちゃくちゃかかっているからだ。




 ここまで読んだお前は既に、作品完成までの大まかな道のりを理解しているはずだ。もっと細かい工程については自分でサイトを探したりすればいい。あとはお前自身の足で歩いていける。もちろん、これを読んだ上でサークル設立を断念しても構わない。かけた金が戻ってくるとは限らないし、学生にとって10万以上は大金だからだ。
 どちらにせよ、おれがお前に同人音声サークルのリアルを伝えたことに変わりはない。ここには照りつける太陽と、立ち昇る陽炎、そして誰も知らぬ冒険がある。そんな世界を生き抜くとお前が決めたならば、おれは場末のバーでテキーラ・ショットを掲げ、お前の旅路が幸福であることを祈るだけだ。



追伸:おれはたびたび男攻め作品をRTまたはいいねしているが、全ての作品を把握しているわけではない。お題箱にでも送ってくれれば認知するし、受け側の顔がモロに映っていないサムネであればRTする。

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