勿忘草 2023/02/12 14:52

小説文芸部シリーズ カフェ『ヴィヨレ』の謎 解決編です!

勿忘草です。

今回は新作短編ミステリー小説を公開します。

読者への挑戦状に是非ご挑戦頂きたいです!

短編なので読みやすいと思います。
文末に伏線のヒントも特別に記載しました。


前回私の挑戦状にご回答頂いた方本当にありがとうございました!

沢山の方にメッセージ頂き本当に嬉しいです!

とても独創的なご回答もあり素晴らしいご発想力だと感心致しました。

複数の方が正解されました!!
最初に見事にご正解されたのはタランボ様です!!!
おめでとうございました!
小説初公開記念の名探偵特別賞を授与させて頂きました。

私の小説を読んで頂いた方に心から感謝を申し上げます。


今回あらためて全編を公開しますので読んで頂けると幸いです。
解決編は15分あれば読めると思います。

またバレンタインデーに特別懸賞挑戦状の2回目を実施する予定です。
また是非ご挑戦くださいませ。
次回は先着順ではありませんのでお時間ある時に挑戦をお待ちしています!

勿忘草の短編ミステリー小説

私の小説は日常系ミステリー小説です。
推理小説なので何気ない描写や会話に真相の伏線があります。

推理小説は読者が真相究明が出来るヒントが伏線としてあります。
この伏線がフェアであるのが大切です。
真相究明への伏線に気がつかれるか?
ここがミステリー小説の醍醐味なので伏線に気をつけて読んで頂けると楽しめると思います。

ご意見を参考に修正したいのでよろしくお願いします。
表現また文章で不自然な点があれば是非ご指摘くださいませ。

前回もご指摘頂きとても参考になりました。
アドバイス頂いた方に心から感謝しています。
前回の文章を修正致しました。
小説投稿サイト公開の前にご意見をお聞きしたいのでご協力頂けると幸いです。

短編ミステリー小説を全部公開します。

読者への挑戦状是非ご挑戦ください!

そしてこのミステリーには実はもう1つの謎があります。

………………………………………………

作品に登場する作品や作家は実在します。

この小説はフィクションですが登場する作品と作家は実在します。
この小説は主人公の男子が高校に入学する春から始まっています。
今回公開するのは夏の物語です。
短編なので単話で問題なく読むことが出来ます。
主人公は高校生の男の子です。

真相に気がつかれるか?

お楽しみ頂けると幸いです。


カフェ『ヴィヨレ』の謎

………………………………………………

登場人物

葵まこと 主人公 読書が好きな男子 高校一年 文芸部

本仮屋真由 読書が苦手な寡黙な少女 高校一年 文芸部

佐倉彩花 ツインテールの美少女 高校一年 文芸部

佐倉耕一 カフェ「ヴィオレ」のオーナー店長


小野真理子 高校三年生 文芸部部長

………………………………………………

カフェ『ヴィヨレ』


2時35分、真夏の太陽がまぶしい。

街のアスファルトが熱い。

美少女とこれから逢うと思うと更に身体が熱い。
しかも2人の美少女だ。

おしゃれな美容院。

その横には不動産会社。
沢山の物件情報が貼られた大きな窓の2階は音楽教室。
音符のマークの看板のイラストが可愛い。

さらに隣は古風な骨董店の看板が見える。
不動産会社の対面が、目的の喫茶店だ。

初めての場所なので、早く来たけど、約束の時間より10分も早く着いてしまった。
なにせこの喫茶店は、今どきSNSどころかホームページもない。
グルメサイトにも情報がないので、探すのに苦労すると思ったのだけど。

カフェ『ヴィヨレ』の横の雑貨店のホームページと、スマホのグーグルマップを確認したので、間違いようないのも当然かもしれない。

しかし真面目な本仮屋のことだ。
おそらく約束の時間より早く来ていることだろう。
佐倉はあの性格だから遅刻しそうだけど。

街の中心街から、少し離れたカフェ『ヴィヨレ』だ。
木製の看板を確認して、僕は少し立ち止まる。
真夏の暑い屋外は、とても苦手だ。

喫茶店の扉を開けると、突然声をかけられて驚いた。
窓から差し込む、真夏の眩しい日差しの中に少女がいる。

「あんたずいぶん早いじゃない」


佐倉彩花が、ピンク色のタンクトップとスカートで立っていた。

おいおいスカート短過ぎるだろ!!
青いデニムのミニスカートからすらっとした脚の露出が……

「なに私の脚見てるの?」

見せてるのはお前だろ!と反論したい言葉を押さえて返す。
「久しぶり。ずいぶん早く来たんだな佐倉」

「私の太股見てないで、そこの席座ったら?」

「いらっしゃいませ。葵くんだね?」
 無精髭の整った顔立ちの男性が声をかけてくる。

「はいそうですけど。この席座って良いのですか?」
 僕は四人用のテーブルを見ながら、見知らぬ男性に尋ねた。

「席を押さえたよ。そう言ってもお客様は殆どいないけどね」
 無精髭の男性が店内を見渡しながら答える。

確かに店内には、窓際に紫色の服の女性が1人いるだけだ。

「あんたぼっとしてないで早く座れば?」
 ツインテールを揺らして先に席に座った佐倉が手招きする。


「自己紹介がまだだね。私がこの店のオーナー店長の耕一です」
 席に座ると、無精髭の男性が立ったまま声をかけてくる。

「私の叔父さん。ちなみに従業員は耕一叔父さんだけだけどね」

佐倉と男性をあらためて見比べると、確かに似ているかも。

「僕は葵まことです。よろしくお願いします」

「こちらこそ宜しく。葵くんは礼儀正しいのだね」
 歳上の男性が、立ったまま深くお辞儀をして応えるので恐縮してしまう。

「イケメンだね葵くん。彩花ちゃんとデート出来るなんて」
 無精髭の男性が、いたずらに微笑みながら言った。

「はいはい!叔父さんは仕事しなさい」

「これは失礼。彩花ちゃんデートの邪魔だったね」
 そう言うと男性は笑いながら、奥の木造のカウンターに向かう。

「おじさんは仕事しなさい!ちなみにデートじゃないから」
 佐倉が怒って、歳上にも相変わらずの命令口調。

「あんた早いじゃない?どう私のミニスカート見たい?」
 佐倉は席から立ち上がると挑発的にスカートを……

その角度スカートの中が見えるだろ!ギリギリ見えないけど。

「からかうのはやめろ。それより本仮屋は遅いな」
 店内にあるアンティークの古時計の時刻は、2時50分になろうとしていた。

「真由が気になるの?大丈夫よ」
 佐倉が席に座りながら言う。

「しかしなんで2時45分なんて中途半端な時間なんだ?」

「それはあんたの夏の思い出のためじゃない?」
 佐倉が両手を上げて、伸びをしながら答える。

学校で有名な美少女の脇は、白く綺麗に整っていた。

「なに?あんた脇好きなの?私のワキが気になるの?」
 佐倉が敢えて、ノースリーブで露出した白い脇を見せつける。

「本仮屋は、確か方向音痴だと言ってたな」
 佐倉の白い脇から瞳を反らして、僕は応える。

「なかなかない機会でしょ。超絶美少女と2人で喫茶店なんて」
 佐倉は腕を下ろして言った。

おいおい自分で超絶美少女と言うか?
確かに佐倉彩花は、学校でも有名な美少女だ。
1学期だけで、何人も佐倉に告白して断られたと言う噂は、友達がいない自分でも知っている。
こんな美少女と2人で喫茶店にいるのは、夢のようかもしれない。
いや美少女以前に、女の子と喫茶店で向き合うのは僕には初めての体験だった。

「私と真由とどっちが好きなの?」
 佐倉が瞳を真っ直ぐ覗きこみながら聞いて来る。

佐倉は華やかな美少女だ。

しかしなぜ本仮屋真由が気になるのか……
本仮屋は、いつも俯いているのでわからないが美少女だ。
とても地味で全く目立たないけど、ふとした瞬間に妖精のように美しいと思うのは、自分だけなのだろうか?

「別に答えなくていいけど」
 佐倉が不服そうに瞳を反らす。

「しかし、本仮屋が遅刻するのは珍しいな」
 あらためて店内を見渡すと、窓際の女性が読んでいる本を閉じた。

なんの本を読んだいるとだろう。
30代に見える女性の読んでいる本は、確か数年前の芥川賞受賞作品だ。

「へーあんた!歳上の女性がタイプなんだ?」

「違うって。女性の読んでいる本が気になって……」

「確かに、紫色の洋服の女性が読んでいるのは偶然だけど」

その芥川賞受賞の小説は『むらさきのスカートの女』だった。

「佐倉は読んだのか?自分は読んだけど」

「もちろん読んだわよ。だって百合作品だもの」
 佐倉が、紫色の服の女性を眺めながら応える。

紫色の洋服の女性は、本を鞄に閉まって財布を取り出す。
財布も鞄もルイ・ヴィトンだ。
可愛いマスコットのストラップがとてもミスマッチだった。
マスコットは、確か有名なウサギのキャラクターだ。
ブランドに全く関心がない僕も、ルイ・ヴィトンは一目で分かる。

紫色の服の女性は、席を立ってカウンターに向かった。

「ありがとうございました。またお待ちしています」
店長さんが声をかけると、会計を終えて女性は店を出て行く。

「珈琲ごちそう様。また来ますね」
 そう言葉を残しながら。


「そんなに歳上の女性が気になる?目の前に美少女がいるのに」
 佐倉が不服そうに声をあげた。

「それにしても本仮屋は遅いな?3時過ぎるぞ」
 店内のアンティーク時計を見ながら、僕は応える。

「大丈夫よ。迷ったらスマホに連絡来るから」
 スマートフォンをテーブルに置きながら佐倉が言った。

「本仮屋が遅刻するのは珍しいと思って……」

「遅刻していないわよ。集合時間は3時だもの」

「3時なのか?2時45分と言ったろ?」

「あんただけ15分早いのよ。美少女と2人の思い出のために」

「だから中途半端な時間なのか?!」

「良かったじゃない。高校時代の夏休みに思い出が出来て」
 佐倉が美しい小悪魔のように微笑みながら言う。

「ご……ご…ごめんなさい」
 その時ちょうど白いワンピースの少女が、店に入って来た。

本仮屋真由
真っ黒なロングヘアに、白いワンピースがとても印象的だ。

「大丈夫よ真由。文芸部の集合時間は3時だもの」

「ご……ごめんなさい…集合時間前に来れなくて…少し迷って」
 本仮屋は何度もお辞儀をしながら言った。

「真由ちゃんいらっしゃい。何度も来てるのに迷ったの?」
 無精髭の店長が、人数分のコップの水とおしぼりを持って来て優しく声をかけた。
「いつも私と一緒だからよね。1人で来たの初めてだもん真由」

「真由ちゃんはどうする?珈琲は苦手なのだよね」

「私はアイスコーヒー真由は?真由ここ座って」
 佐倉が隣の席に手招きして、本仮屋を誘う。

「わ……わたしもアイスコーヒーで…お願いいたします」
 本仮屋がまたお辞儀をしてから、佐倉の横の席に座った。

「真由はミルク入れないとコーヒー飲めないから。あんたは?」
佐倉がメニュー表も見ていないのにそう急かす。

「申し訳ない。この店は珈琲専門店なんだよ」
 店長が申し訳なさそうに言う。

「自分はブレンド珈琲でお願いします」

「あんたこの暑いのにホットコーヒー飲むんだ?」
 呆れたように佐倉が言った。

「個人的に、アイスコーヒーは邪道だと思っている」
 さほど冷房が効いていない店内だ。しかしこれは失言だと背の高い店長を見上げて申し訳なく思う。

「確かに葵くんの言う通りだよ。世界でも氷入りのアイスコーヒーを飲む日本が珍しいのは事実だよ」
 感心するように店長は頷いて、注文を確認する。

「叔父さん。カフェフラペチーノとかメニュー増やしたら?少しはお客さん増えるかもよ?」
 佐倉が少ないメニューを見ながら言う。

「それより彩花ちゃんがメイド服でバイトしてくれると、お客様増えると思うよ」
 店長はカウンターに向かいながらそう言った。


本仮屋屋は俯いたまま黙っている。
「久しぶりだね。本仮屋」
 声をかけると、本仮屋は俯いた顔を上げた。

「2週間ぶりですよね。葵さん……」
 本仮屋が少しだけ微笑みながら応える。

「じゃ注文も済んだし、部会始める?」
 佐倉がメニュー表を置いて言う。

今日は文芸部の夏休み中の部会だ。

全員集合する数少ない夏休みの部会は来週なのだけれど……
1年生の3人だけで集まると決めた日だ。

本仮屋は、佐倉の横で俯いて座っている。
相変わらずの黒いロングヘアーは、夏に暑くないのだろうか?
良く見ると白いワンピースの襟元だけが黒い。
長い前髪の間から、キラキラした瞳が少しだけ見える。

2人とも夏なのに肌が白い。
しかしこうして並ぶと本仮屋の肌の白さが際立つ。

「なに真由のことじろじろ見てるの?」

「2人とも日焼けしてないね?」

「なに?私も真由も海とかプールに行くと思うの」
 佐倉がツインテールを揺らして応えた。

「そうじゃなくて、外出するだけで少しは日焼けするだろ?」

「真由の水着姿が見たいなら、海にでも誘って見たら?私も一緒に行くから、ビキニ姿が見れるかもよ」
 佐倉が椅子から立ち上がり顔を近付けて言う。

「わ……わ…私は泳げませんから…」
 本仮屋が真っ赤になって、下を向きながら小さな声を出した。

「ち……ち…違うそんなこと思っていないから」
 まてまて海なんて行きたくもないが、海に誘えば本仮屋と佐倉のビキニ姿が見れるのか?!いやいや本仮屋は、ビキニ水着はない。ワンピースタイプだろう。

「そう?夏休みに、真由のこと海に誘わないんだ」
 椅子に座った佐倉がイタズラな表情でつぶやく。

「じゃそろそろ初める?秋の文化祭の文芸誌の打ち合わせ。流石にページ数決めないと先輩達に迷惑でしょ」
 佐倉は椅子にかけた赤い鞄から、ノートを取り出しながら言葉を続けた。



紫の服の女


「本仮屋が、ページ数を決められないのは仕方ないよ」
 僕は飲み終わった珈琲カップを置きながら言った。

店内のアンティーク時計は3時半を過ぎている。

「ご……ごめんなさい」
 本仮屋が俯いて応える。

「そうよ真由が人生で初めて書く小説でしょ?書いてみないとページ数が分からなくてあたりまえよ」
 飲み終わったアイスコーヒーのグラスを、佐倉はストローでかき混ぜながら頷いた。

「しかし文芸誌で佐倉のアニメのレビューは駄目じゃないか?」
 そう敢えて佐倉に反論覚悟で質問を投げる。

「書きたいことだったら、何でも良いって部長の小野先輩が言ってたでしょ?ちなみに私のレビューはアニメでなく百合作品だし」
 佐倉がストローをかき混ぜる手を止めて言う。

「わかったよ。それじゃ、佐倉がレビュー2頁、自分が5頁だ。本仮屋は小説2頁から10頁、来週の部会で報告しよう」
 優しい小野先輩が、上手くまとめてくれる事を期待するのを内心申し訳ないと思いながら、僕はそう言った。本を読む事が出来ない本仮屋が、小説を執筆するだけでも奇跡的だけど。


「話し合いは終わった?良かったら葵くんの横に座ってもいいかな?」
 突然店長さんが声をかけてきた。手には珈琲カップを持っている。

「叔父さんいいの?仕事しなくて」

「大丈夫だよ。この時間はお客様いないしカフェは開店休業。それにせっかく葵くんと話せる貴重な機会だからね。いいかな?」
 無精髭の店長が、空いている隣の席を指さす。

「どうぞ……」
 そう自分が答えると、店長は一礼して隣に座って続ける。

「葵くんに相談に乗って欲しいのだけど、迷惑かな?」
 店長は珈琲カップを木製のテーブルに静かにお置きながら続ける。

この喫茶店の経営は大丈夫なのか?
まてまて、この店の経営の相談なら高校生の自分には無理だ。
表通りから離れているから、せめて場所がわかるホームページが必要だとアドバイスするとか……

「相談ってなに?叔父さん?この喫茶店の経営改善とか」
 佐倉が、店長と3人以外いない店内を見回しながら聞いた。

「ははっ!違うよ。これでも仕事は結構忙しいんだよ」
 店長は声を上げて笑いながら応える。

とてもこの喫茶店が忙しいとは思えない。

「葵くんにある不思議な謎を解いて欲しいんだよ。葵くんはミステリーや本格推理小説が好きだと聞いてね」
 店長が珈琲を一口飲みながら続ける。
「葵くんはどんな推理小説を読むのかな?」

「僕はそうですね……ドイルに始まってクイーンやクリスティですね。カーも読みました。最近は相沢沙呼先生を読んでいます。傑作推理小説はだいたい読んでいますよ。国内の本格派なら島田荘司先生が好きです」

「なるほど彩花ちゃんのいう通りだね。高校生でそれだけ読んでいるのは凄いね」
 店長が感心するように答える。

「それで叔父さんその不思議な謎ってなんなの?」
 あまり興味なさそうに佐倉が聞いた。

不思議な謎と言われると、僕は興味があるけど。

「実は僕も本格推理小説が大好きなんだよ。ホームズは全巻読んだし、ポワロと金田一探偵も好きだよ。また一時期、松本清張は良く読んだな。ガストン・ルルーの古典とピエール・ルメートルは翻訳版でなく原書で読んだよ。そう言えば真由ちゃんは、ミステリーが苦手なんだよね?」
 店長が本仮屋に声をかけた。

「ご……ごめんなさい」
 俯いていた本仮屋が更に下を向きながら答える。

「はは!謝ることなんてないよ。苦手な物は誰にでもあるよ」
 店長は本仮屋に気遣うように優しく声をかけた。

「だいたい推理小説なんて、人の不幸を題材にした娯楽作品には品性がないのよ。誰よりも優しい真由が、そんな本好きな訳ないじゃない」
 佐倉が不服そうに怒って答える。

いやいや、本仮屋はミステリーや推理小説以前にどんなジャンルの本も読めない。
文芸部の部員に全く相応しくないのだけれども。

「どんな謎なのです?推理小説が関係するのですか」
 話しを戻すように隣の店長に訪ねる。

「とても不思議で、気になっていることがあるんだよ。真由ちゃんが来る前の事だけどね。そこの窓際の席に、紫の服を着た女性のお客様がいらしたよね。覚えているかな?」
 店長が窓際の席を指さしながら答える。

「確かに紫色の服の女性がいました。覚えていますけど」

「それが不思議なんだよ。あのお客様はなぜか月曜日と木曜日にいらっしゃるんだよ。しかも必ず決まった時間に。ほぼ正確に午後2時から3時の間なんだよ」
 店長が意味深長にゆっくりと言葉を選ぶように語る。

「なんでそれが不思議な謎なの?たまたまじゃないの」
 佐倉が少し呆れたように応える。

「たまたまの偶然ではないよ彩花ちゃん。常連さんでも、必ず決まった曜日の同じ時間に来るお客様はいないからね。なぜ月曜日と木曜日の午後2時から3時に来るには理由があると思うんだよ」
 店長が佐倉に応える。

「確かに不思議と言えば不思議かもね……でもそんなに気になるなら直接本人に聞いたらいいじゃない?」
 佐倉が眉を寄せながら言うことももっともだけど……

「僕はお客様のプライベートに干渉しない主義なんだよ」
 店長が言葉を続ける。
「でも犯罪が関係している可能性もあるこの謎を、葵くんに解いて欲しくてね」

「まさか犯罪が関係しているのですか?」
 そう言いながら、僕はあらためて店内を見渡した。

壁の絵画は確かフランスの印象派モネの有名な『散歩、日傘をさす女性』だ。まさかこの歴史的に有名な絵画が本物とは思えない。どう見てもレプリカだから高価ではないだろう。

「そうと断定は出来ないけどね。何か深い意味がありそうでね。推理小説が好きな葵くんなら、この真相がわかるのではないかな?」
 そう店長は少しだけ声のトーンを上げて言った。

「…………」
 相変わらず本仮屋は俯いたまま黙っいる。

喫茶店はしばらく静寂が支配した。
アンティークの古時計の音が心なしか大きく聞こえる。


「また推理小説が好きな叔父さんの妄想でしよ?本当に馬鹿なんじゃない?犯罪が関係している訳ないでしょ」
 佐倉が呆れたように静寂を破った。

「それじゃ彩花ちゃんの意見を聞きたいな?」
 店長が一口珈琲を飲みながら、佐倉に聞く。

「いいわよ。私が解答を答えてあげるわ。簡単よ!その女性はこの近くで働いていて、休憩時間にこの喫茶店に来ているんじゃない」
 そう佐倉が言うのは確かに合理的な解釈だ。

「それはないな彩花ちゃん。このあたりのお店や会社の方とは顔見知りだからね。隣の雑貨屋さんも、不動産会社さんもその2階の音楽教室の方達とも顔見知りだよ。不動産会社の隣の骨董店の方とも、毎日のように挨拶するからね」
 店長が諭すように応える。

「近所に他のお店や会社もあるでしょ?」
 佐倉がさらに不服そうに言い返す。

「確かに彩花ちゃんの言う通りだね。しかしなぜ月曜日と木曜日の午後2時から3時なのかの説明にはならないよ。しかも必ずお一人様だしね。仕事の休憩時間なら、なぜ他の曜日には来ないのかの説明にはならないよ」

「それは、月曜日と木曜日しか働いていないからじゃない?」
 佐倉が腕を組みながらさらに店長に言い返した。


「いやそれは不自然だよ。店長さんが言う通り、同じ曜日で時間は、休憩時間にしては不自然だと思う。しかも1時間も休憩するは長過ぎると思うよ」
 僕は少し考えて、店長の意見に賛成して佐倉の意見に反対する。

「店長じゃなくて耕一でいいよ。葵くん」
 隣の店長さんは、嬉しそうに頷きながら応えた。

「1つお聞きしたいことがあるのですが?耕一さん」
 初対面で名前を呼ぶのも恥ずかしくもあるけど。

「葵くん。なんでも聞いてくれてかまわないよ」
 店長が飲みかけた珈琲カップを下ろしながら応える。

「その紫の服の女性は、いつからこのお店に来るようになったのですか?」

「とても良い質問だね!これは肝心なことを言い忘れていたよ。紫の服の女性が、このカフェに来るようになったのは7月の終わりからだよ。いま8月も中旬になるから3週間になるね」
 店長が天井を見上げながら思い出すよううに応える。

「もちろんいつも紫色の服ではないけどね。特に先週から気になって時刻は確認しているよ。その店内の時計で必ず午後2時にいらっしゃる。そして1時間後の3時には必ずお帰りになる」
 店長は店内のアンティークの古時計を指さして続けて言った。

「ここ3週間くらいのことなのね?なら近所のお店でも新人さんが入って働いてもわからないじゃない?そうね……美容院の新しい美容師さんとかじゃないの?」
 佐倉がツインテールの髪先を触りながら応える。これは佐倉が考え事をする時の癖だ。

「残念だけど不正解だよ彩花ちゃん。美容院ではないよ。確認したから。それにお昼頃ならまだしも、午後に1時間も1人で休憩は取らないと思うよ」
 店長は珈琲を一口飲み終わってから応えた。

「骨董店?古道具屋なら暇そうだし1時間くらい休憩するじゃない?」
 佐倉は相変わらずあくまでも負けず嫌いだ。

「……………」
 本仮屋は相変わらず俯いて黙っている。

「夏休みのアルバイトと言う年齢でもないですよね」
 紫色の服の女性が30代半ばのように見えた事を思い出しながら、僕は確認した。

「そうだね、しかもいつも私服だよ。不動産会社の社員さんの女性は制服だしね。この謎解き、真由ちゃんも手伝ってくれると嬉しいけど」
 店長は頷きながら、俯いた本仮屋に話しかける。

「わ……わ…私ですか?」
 本仮屋が顔を上げて、長い睫毛の瞳を丸くして驚いた。

「何か質問はあるかな?真由ちゃん」

「そ…そ…そうですね。ま…窓側の席は外が良く見えますよね?」
 本仮屋が窓際の席を見ながら小さな声で聞く。

「そうだね。確かに窓際の席からは、外が良く見えるね。その女性は必ず窓際の席に座るんだ。まあこの通りお客様は殆どいないから、どの席でもかまわないんだけど」
 店長は珈琲を飲み終えて、あらためて少し大きな声で続けた。

「葵くんに、この謎の真相を究明してもらいたくてね」




読者への挑戦状

以上で事件の真相を把握するに足るデータはすべて出ています。

そして私は勇気を振り絞り、ここで偉大な先人達に敬意を持ってあの有名な言葉をお伝えしたい。

私は読者に挑戦する。

貴方はすでに完璧な材料を得ています。
また謎を解くヒントが非常にあからさまな形で突きつけられていることもお忘れなく頂きたい。

私はつぎの設問に対する貴方の回答をおきかせ頂きたいのです。

この紫の服の女性がカフェ『ヴィヨレ』に訪れる理由は?

……………………………………………………………………


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