せめて夢の中では1
眼鏡少女の繭には、誰にも言えない秘密があった。
学校でも介護用紙おむつをあてて生活している。
そんな繭はトイレに行くと――。
(次の授業は……体育なんだ)
ただでさえ昼休み前でお腹が減っているというのに、四時限目の体育というのは、それだけで憂鬱な気分になってしまう。
それに丈の長いスカートを穿いている繭のお尻を包み込んでいるのは、すでにおしっこでブヨブヨに膨らんでいる介護用のテープタイプの紙おむつなのだ。
おむつを外してブルマを穿くところを想像しただけで、気分が重たくなってしまう。
ショーツとブルマなんて、いつもおむつを充てている繭にとってみれば、あまりにも心許ない布切れだった。
しかも、あんな恥ずかしいものを穿いて運動しなければならないなんて。
(だけど、まさかおむつをあてて跳んだり跳ねたりするわけにもいかないし)
繭がどんなに嫌がっていても、ブルマに穿き替えなければならない。
ブルマを学校に普及させた奴は、とんでもないスケベで意地悪な奴なんだろうな、と繭はブルマを穿くたびに思っていた。
(おトイレ、行こ……)
繭は憂鬱げなため息をつくと、人知れずに教室を出る。
いつも着替えるときはトイレで着替えることにしていた。更衣室で着替えるよりも、トイレで着替えた方が色々と都合がいいのだ。
(私がおむつ穿いてるの、みんなに知られるわけにもいかないし、ね。恥ずかしすぎるよ……)
繭がおむつを充てていることを知っているのは、家族と、一部の教師だけ。
だから、この身体の秘密は決してクラスメートたちには知られてはならないのだ。
☆
「早く着替えないと、だね」
繭がやってきたのは、ピンクのタイルに囲まれた、女子トイレの個室だった。
ブレザーを脱いで、スカートも脱いで、露わになったのはレモン色に染め上げられたテープタイプの紙おむつだった。
「んっ、勝手に……でちゃう……」
じゅわり、
しゅいいいいい……。
個室に入った瞬間、すでにスイッチは入っていた。
ジンワリとした温もりが股間に広がり、おむつへと染みこんでいく。
弛緩しきった繭の尿道は、医師とは関係なしに小水を漏らしはじめていた。
「少ししか出ないけど……」
繭の尿道は、授業中は基本的に垂れ流し状態だった。
だからほとんど膀胱には残されてはいない。
それでも出しておかなければならないほど、繭の尿道はゆるゆるだったし、なによりも繭自身が安心するができる。
「……んっ、全部、出た……よね」
ブルルッ、
小刻みに身体を震わせると、
プシュ――、
レモネードの最後の一絞りを放って、繭のおむつへの放尿はひとまずの終わりを告げた。
「早く着替えないと」
ゆっくりと、紙おむつのテープへと指を引っかけて――、
バリバリバリッ。
どんなにゆっくりテープを剥がしても、恥ずかしい音が個室に響いてしまう。
(外にまで聞こえていませんように)
誰がくるか分からないから、できるだけ静かに、それでも手早くおむつのテープを外していくと――、
むわぁ。
おむつの裏側から、濃密なアンモニア臭が、湯気となって立ち昇ってきた。
その濃度たるや、繭自身の目に染みて涙が溢れ出してくるほどだった。
「ううっ、もう蒸れ蒸れだよぉ……」
両手で押さえながら、立ったままおむつを外していくと、紙おむつはザボンの皮のように分厚くなっていた。
「こんなに漏らしちゃってたんだ」
まだ昼前――。
これから四時限目の体育の授業前だというのに。
繭が充てていた紙おむつは、ずっしりと重たくなっていた。
「しっかり捨てておかないと、ね」
介護用のおむつは、丸めてビニール袋に入れてゴミ箱に捨てることにしていた。
さすがにこのおむつを体育の授業が終わったあとに穿く気にはなれないし。
「おまたとお尻を拭いてっと」
トイレットペーパーを手に取って、大事な部分を軽く拭いていく。
繭の大事な部分は、ツルンとした赤ん坊のようなパイパンだった。
それは繭のコンプレックスでもあった。
「赤ちゃんみたいにおまた緩いのに、おまたまでツルツルだなんて
……。こんなところ、誰にも見せられないよ」
呟きながら、大事な部分を拭き拭きしていく。
少女の汚れを清めたティッシュを水面へと沈め、体操袋から取り出したのは、紺色のブルマと厚手の白いシャツ。
それと――。
「このまえ買ったばかりの、紐パンツ……」
繭が手に取ったのは、ローライズな紐パンツだった。
白の生地に、おへそのところにはピンクの小さなリボンがついている。
それは、介護用の紙おむつと比べると、あまりにも大人っぽいデザインのように思えた。
……いや。
介護用のおむつのほうが大人びているのかも知れないけど、この際は深く考えないようにしておくとして。
「うんしょっ、と……」
繭は、体育の授業があるときは紐パンツを愛用していた。
可愛らしいデザインだし、ローライズのショーツを穿いていると、ちょっとだけ背伸びして大人になった気持ちになれる。
普段はもっさりとした紙おむつを充てているから、ショーツくらいは面積の少ないものを望んでいる……のかも知れない。
子供のころは、お腹を冷やさないようにふかふかのコットンショーツの方が好きだったけど。
それは、繭自身も戸惑う変化だった。
「せめてショーツくらいは背伸びしたいんだもん。ブルマと一緒に穿くから、お腹冷やすこともないしっ」
繭は、人知れずに大人への階段を登ろうと決心しながらも、紐パンツへと脚を通していく。
だけど。
「おしっこ、ちゃんと出したから大丈夫、だよね?」
紐パンツとブルマを穿いたところで、急に心許ない気分になってきてしまう。
「ブルマ穿いてるのに、なんだかお尻がスースーするし……。変なところ、ないよね……? ショーツ、はみ出してないよね?」
ブルマの足口に指を入れてパチンと正す。
うん。
たぶん大丈夫……だと思う。
「シャツもしっかり着てっと。裾は出しておくよ♪」
誰に言うでもなく繭は呟きながら、体操シャツを着ていく。
ブルマに裾をしまうと、途端に野暮ったくなってしまうから、てるてる坊主みたいに裾は出して。
「よしっ。この一時間を乗り越えたらお昼休みだもんね。しっかり頑張っていこう!」
大人への階段を必死に登ろうとしている思春期特有の、ぷりっとしたお尻をブルマに包み込み、繭はグラウンドへと急ぎ駆けていく。
この小説は、大決壊! 誰にも言えないに収録されている作品です。
フルカラーのイラストもありますので、気になった方は購入してもらえると創作活動の励みになります。