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ドラゴンクエスト8呪われし姫君 ~馬になった姫~

プロローグ


かつて王国「アルディス」は、平和と繁栄に満ち溢れていた。その中心には美しき姫「ミーティア」と、民に慕われる王「トロデ」がいた。しかし、ある日、王国に暗い影が忍び寄った。嫉妬に狂った邪悪な魔術師が、王家に呪いをかけたのだ。


ミーティアは、その呪いにより、か弱き人間の姿を失い、誰もが憧れる白馬の姿へと変えられてしまった。立派な黒いたてがみ、純白の毛並み。だがその美しさは、彼女の失われた自由を象徴するものにすぎない。そして、王「トロデ」もまた、その呪いに囚われ、かつての尊厳を奪われた。彼は子供の背丈ほどの醜いモンスターとなり、薄緑色の肌と短い手足、曲がった背中に苦しむ。だが、その鋭い眼光と王家の誇りだけは失っていなかった。


二人を救うため、呪いを解く鍵を握る王国騎士「エイト」という若者が冒険に出ることとなった。エイトは、アルディスの片田舎で育ったが、運命の糸に導かれ、王家の呪いを解くための唯一の希望となる。
















夜の森は、月光の微かな光で薄く照らされていた。風は冷たく、木々のざわめきが森の奥深くからかすかに聞こえてくる。エイトは重く疲れた体をゆっくりとキャンプの粗末な丸太に沈めた。彼の背筋は固く張り詰め、目の下には深いクマが浮かんでいた。焚き火のぱちぱちと燃える音が、無情に静寂を切り裂き、その光が彼の険しい表情を赤く照らす。


美しい白馬「ミーティア」は彼の隣に立ち、優雅に首を低く下げていた。彼女の光を反射する艶やかなたてがみが風に揺れ、月光を受けたその瞳には、まるで人間のような知性と深い感情が宿っているかのようだった。彼女の胸がゆっくりと上下し、エイトの疲れを感じ取るかのように、そっと鼻を鳴らす。エイトはその温もりに一瞬だけ心を預け、目を閉じた。


「姫が…どうして、こんな目に…」彼は自分に問いかけたが、答えは見つからない。エイトは剣の柄を握りしめたまま、疲れた手がわずかに震えているのを感じた。ミーティアの静かな視線が、その全てを見透かしているかのように彼をじっと見つめ、まるで言葉を超えた理解が彼女の中にあるように思えた。


焚き火の反対側には、醜い小さなモンスターがうずくまっていた。トロデ王、その小さな体は薄緑色で、頭に対して異様に細く伸びた手足が不自然にぶら下がっていた。かつて堂々とした姿を持っていた王の面影は、今や背中の湾曲と共に見る影もなく、だが、その目だけは鋭く光り続けていた。彼の目には、まだ失っていない威厳と決意が渦巻いていた。


「…ワシたちに残された時間は少ない。」トロデは低く、かすれた声で言った。その声には、かつて王として命令を下していた頃の力強さの残滓が感じられるが、今はその小さな体が言葉に説得力を欠いていた。「邪悪な魔術師が次に何を仕掛けてくるかわからん。だが、ワシたちは負けるわけにはいかんのだ。」


トロデの言葉が重く響く中、エイトは焚き火をじっと見つめ、炎の揺らぎに心を委ねた。彼の体の中に燃え上がる決意と恐怖が、同時に彼を動かしていた。ゆっくりと彼は立ち上がり、腰に下げた剣をゆるく握った。剣の冷たい金属の感触が手のひらに伝わり、次なる戦いが迫っていることを無言で告げていた。


「やるべきことは分かっています。」彼は低く決意を込めて言った。「呪いを解く方法を見つけ出して、姫を元に戻す。」


エイトの声に、ミーティアは静かに首を振り、その澄んだ瞳で彼を見つめた。まるで「ありがとう」と言っているかのような、温かい感情が彼女の中に満ちていた。


エイトとトロデは、荒れた道を数日間歩き続け、ようやく小さな村に辿り着いた。村は山間にひっそりと佇み、夕方になると人々は家に帰り、暖かい光が窓から漏れ出している。旅の疲れが二人に重くのしかかっていた。


「ここで一晩、休ませてもらうのも悪くないな。」トロデが低く呟き、背中を伸ばした。


エイトも頷き、ミーティアの首を軽く叩いた。「そうですね、ミーティア姫にもゆっくり休んで欲しい。」


村の入り口近くには、簡素な牧場があり、木の柵で囲われた広い草地には何頭かの馬が放牧されていた。エイトは村の宿に泊まるために、ミーティアをここに預けることに決めた。牧場主である中年の男が、彼らを出迎える。彼は日焼けした肌と粗末な衣服を纏い、長年馬を扱ってきたであろう落ち着きのある態度を見せていた。


「おお、白馬か。いい馬を連れてるな。」牧場主はミーティアの顔を見て、感心したように口元を緩めた。


「この方を一晩、ここに預かってもらえますか?」エイトは問いかけた。


「『この方』?おかしな言い方をするんだな。まぁいいさ、もちろんだべ。ここには他の馬もいるが、みんな穏やかな性格だ。暴れたりする心配はねぇべ。」牧場主は自信を持って答えた。


しかし、トロデはその言葉に若干の不安を感じた。「…本当に大丈夫なのか?大切な馬なんだぞ。」


「心配はいらんよ。」牧場主は軽く笑って答えた。「あんたの馬はいい性格をしている。ここにいる雄馬たちも、仲良くやれるさ。危害を加えることは絶対にねぇって。」


エイトはその言葉に安心し、ミーティアのたてがみを撫でた。「姫も少しの間、ゆっくりしてください。」


ミーティアは彼の手に応えるように静かに鼻を鳴らし、その目には少し疲れが見えた。彼女もまた、旅の長さと疲労を感じているのだろう。


エイトとトロデは宿へ向かい、村の家々の並ぶ小道を歩いた。背後で牧場主がミーティアを優しく導き、柵の内側へ連れて行くのが見えた。村の宿は簡素ながらも居心地がよく、暖かな灯りと木の香りが二人を迎え入れた。彼らは疲れ切った体をベッドに沈め、すぐに眠りについた。


広い草地を見渡しながら、月光が彼女の白い体を淡く照らし、静かに草を食んでいた。しかし、彼女の目の端に何かが動いたのを感じた。背後から迫る足音、地面を踏みしめる重い響きが、徐々に近づいてくる。彼女は顔を上げ、薄暗い牧場の中、筋肉質で大きな牡馬がじっと自分を見つめていることに気付く。



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