市街地 2024/03/31 14:17

【小説サンプル】死にたがりの魔女と上位魔族・第1話ノーカット


『死にたがりの魔女と上位魔族』の第1話をノーカットで掲載しています。

あらすじ

大陸をさまよっていた魔女が上位魔族に気に入られ、執着される話。

全体を通したプレイ内容

人外(魔族)攻め・監禁・無理矢理・肉体開発・躾け・羞恥プレイ・子宮責め・快楽責め

・本編ではヒロインが攻め以外から性的な肉体開発を受けるシーンがあります。
・快楽責めによる躾けシーンはありますが、魔族側はヒロインに痛いことはしません。



【第一話 死にたがりの魔女と上位魔族】




瞬きをする間もなく、肌に触れる空気が変わった。

靴底の感触が硬い石から弾力のある柔らかな絨毯になり、寒空の下、壁の裂け目から容赦なく吹きつけていた風がぴたりと止んだ。

ユキが立っている場所はシープペコラの教会ではない。ガレキや焼け焦げた死体、割れたステンドグラスも——。あそこにあったものはどこにも見あたらない。

ただひとり、褐色の肌をした、紅い瞳の魔族を除いて……。

——ここはどこだ。

魔族に転移魔術を使われたことは理解できた。しかし術に入るための予備動作は確認できず、発動が速すぎて移動した方角や距離をユキは把握できなかった。

空間と空間を繋ぐには膨大な魔力が必要で、なおかつ目的の場所に正確に降り立つためには微細な魔力操作が求められる。転移魔術は単独で発動できないというのが、人間側の常識だ。それをこの魔族は、いとも簡単にやってのけた。

しかも術者本人だけでなく、他人をこうもあっさりと呪文もなしに同行させられるとは。魔族は保有する魔力量だけでなく、魔術の技量も人間をはるかに上回っているらしい。

ユキは魔族を詳しく知らない。

生まれ育った東方大陸に魔族がいなかったからだ。魔族については、強い魔力を有する長命な人型の種族が、西方大陸を挟んださらに先にある遠くの北の大陸に存在していると伝え聞いていた程度である。

ユキが実際に魔族をこの目で見たのは、西方大陸に渡ってからだった。

彼らの持つ魔力は人間とは比べ物にならないほど膨大で、敵にまわしていい種族じゃないと、当時物陰から一度見ただけで理解した。聖教会はこんな連中に喧嘩を売ったのだから、おろかとしか言いようがない。



そんな魔族が今、ユキの目の前にいる。
自らのテリトリーにユキを連れ込み、優雅な微笑みをたたえているのだ。

この男にはどんな手を使っても勝てる気がしない。

どうにもならない状況で、なかば諦めを抱きながらもユキは左右に視線を走らせた。

自分たちがいるのは重厚な雰囲気の、ダークブラウンを基調とした広い部屋だ。ソファとローテーブル、書物机に、ちらりと後ろをうかがえば天幕つきのベッドがあった。調度品はどれもが深みのある艶を帯びた木製で統一されていた。

部屋の壁際には淡い光を放つ球体が等間隔で浮遊する。こんな照明は人間の社会で見たことがない。

まさか……と、嫌な予感が脳裏をよぎる。

ユキは頭ひとつ高い位置にある魔族の顔を見上げ、慎重に口を開いた。

「……ここは?」

魔族——サファルは警戒心をあらわにするユキに悠然と答える。

「北の、私の屋敷です」

——北。そのひとことにユキは顔を青くした。

この魔族は本当に、一瞬で北方大陸まで移動したというのか。

カーテンが束ねられた大窓を横目に見た。窓の外には、よく晴れた月夜に高くそびえる無数の塔が並んでいた。窓の一面だけでは建物の全体像を把握しきれない。

ここは屋敷というよりも、ユキからすれば城に近い規模の建造物だ。

「私の屋敷」——つまり目の前の魔族はこの城の主人なのか。

部屋には窓がふたつ。扉もある。しかし出口を見つけたところで、とても部屋から逃げられるとは思えない。

「……目的は? なぜわたしをここに」

ユキの問いかけに魔族はわずかに首をかしげた。銀色のさらりとした男の髪が揺れる。

「なぜでしょう? 特別深くは考えていませんでした」

男から返ってきたのは非常に厄介な答えだった。

ただの気まぐれか、それとも暇つぶしか。明確な目的がないとなれば、これから受ける扱いが予測できない。

生かすも殺すもすべてが魔族の気分次第。先の不透明さをユキは何より嫌がった。

「そう怯えなくとも、いい子にしていれば悪いようにはしません」

サファルはユキの腰まである長い髪を掬い、唇を寄せた。

「……信用しろと?」

唸るように言い放ち、魔族と距離をとる。

髪を引けば、サファルは手を広げてあっさりとユキの髪を放した。

「人間の従順な駒がほしいなら、さっさと始末してほかをあたるべきだ。少なくとも、わたしはあなたの期待に応えられそうにない」

死は覚悟している。そうはっきり告げたユキへとサファルは静かに足を踏み出して距離を詰めた。指をユキの顎にかけ、上を向かせる。

「あなたが期待どおりか否か。それを判断するのはあなたでなく、私です」

ユキは抵抗しない。しかしサファルを見上げる藍色の瞳には反抗心を隠しきれていなかった。

近づくほどに魔族との力の差を痛感する。勝ち目がないどころの話ではない。サファルからしてみれば、ユキの非力さは赤子も同然だろう。

「聡明な子ですね。私も無駄なあがきは好みません」

「…………」

「名前を伺ってもよろしいですか」

「………………好きに呼べばいい」

おやおやと、困ったようにサファルが苦笑する。

「名付けによる支配は、できれば避けたいのですが……」

サファルの手がユキの頭部へとまわり、髪の流れにそってすくように撫でられる。

ユキは無反応を選択し、唇を噛みしめた。

抵抗は無意味だ。この男がそばにいるうちは逃げられない。ならば今は受け入れて、耐えるしかない。

いずれは飽きて殺してくれるだろう。

かつて東方大陸の戦場で生きていたユキの身体には、無数の傷痕があった。お世辞にも美しいとは言えない身。これを見れば魔族もすぐに興醒めするはず。

自死はしないと心に決めているが、終わり方にこれといったこだわりはない。

実験、玩具、陵○……、好きにすればいい。

諦めた様子のユキにサファルは目を細める。そして紳士的ともとれる所作でローブの袖口に隠れるユキの手を取った。

指先に唇を寄せ、手の甲をつぅ……と舐められる。

「……っ」

予想外のサファルの行動にユキの肩が小さく跳ねた。顔をしかめそうになるのを、下唇を噛んで我慢して、平静を装う。

そんな強がりを、サファルはふっと笑った。長旅で荒れたユキの手のひらに、魔族は大きな手を合わせ、見せつけるようにゆっくりと指を組んだ。

握られた手に熱がこもる。それだけではない。触れ合う箇所にじんと痺れを感じたユキは咄嗟に離れようと手を引くも、支配者は拒絶を許さなかった。

もう片方の手をユキの背中にまわし、サファルは華奢な身体を自らの元へ抱き寄せる。

「……どうして」

手のひらの痺れに当惑する。肌に感じるこれは、サファルの魔力だ。

ユキの手の節々にあったアカギレが消えていく。治療を受けていると理解できても、魔族の意図がわからない。

「働き者の手は好ましいですが、今後のあなたには不要ですので、治してしまいましょうね」

「なっ……」

だったら元から美しい手をした人間で遊べばいいものを。

この手は綺麗とは言い難いが、実用性には優れている。長年武器を持ち、要所の皮が硬くなった手をわざわざ戻すなど、まるでこれまでの生き方を否定されているようではないか。

言葉を失うユキにかまわず、サファルは好き勝手にことを進めた。

衣服の留め具が外される。ぱさりと床に落ちた黒いローブを目で追いうつむいたユキの耳元に、サファルは口を近づけた。

「顔を上げましょうか」

囁きが思考を揺さぶる。頭の中に霞がかかり、警戒心が和らいだ。

自分はここで何をしているのか。根本的なことすら曖昧になって混乱しかけるも、頭に触れる手の感触にはっとする。

そうだった。頭を、上げないと……。

見上げたすぐそこに、こちらを覗くふたつの紅い瞳があった。ユキは瞬きを忘れて宝石のような瞳を凝視する。

頭のどこかに違和感を覚えるが、それもこの美しさの前では無に等しい。

身体の力が抜けてよろめいた痩身をサファルは難なく抱きとめ、軽々と片腕で支えた。

ユキは自身の異常を自覚していた。しかし眼前にいるサファルが満足そうに微笑んでいるから、これで正しいのだと、すぐさま思考が上書きされる。

「どうやらとても相性がよさそうですね。人間の器でここまでとは。あなたほどの者は、魔族にもそういません」

「……あい、しょう……?」

「ええ、魔力の相性です」

うなずかれても、いまいちピンとこない。

きょとんと首をかしげたユキは、ふっと笑うようなかすかな吐息を聞いた。

「口を開けて」

疑問もなく言葉に従う。

小さく開かれたユキの口に、サファルが口付けを落とす。軽くユキの唇をついばみ、咥内で舌を絡め、唾液を送る。

うっとりとされるままになったユキは、喉の奥に溜まった唾液をこくりと嚥下した。

「……ふっ……、んっ」

鼻から息が抜ける。目を細めたサファルがますますキスを深めてくる。

口蓋を舌で舐められると、脳がとろけるようなむず痒さがして背中がしなった。飲み込んだ唾液が喉を通り、胃に落ちる。

身体の内側が熱を発している。この熱は、自分に由来するエネルギーじゃない……。

「……んぅっ、んんっ……!」

理性が溶けるのに比例して湧き上がった本能的な恐怖がユキを襲う。

おかしい。何かがおかしい——。

どくどくと心臓の鼓動が加速する。

脳裏に響く警鐘に、我に返ったユキは自身の置かれた状況を思い出す。

「……ぁっ…………、いやっ……」

心地よい流れに逆らい、深みに押し込められた自我を引っ張り出す。意地で顔を背けてキスから逃れた。

「……はぁ……はぁ。……なに、を……」

正気に戻ったユキを前にして、サファルは驚きに目を見開いた。しかしそれもほんの数秒のこと。男はすぐに表情を戻し、感心したように口を開く。

「これはこれは」

くっくっ……と。喉の奥で笑われてユキの頬がカッと熱くなる。手の甲できつく口をぬぐった。

魔力を使った精神干渉だ。しかも、魔術と呼べるほど精密な魔力操作が行われなかったにも関わらず、思考を奪われかけた。

たしかにサファルとユキの魔力の相性はいいのかもしれない。性質が同じだからこそ摩擦は起きず、より大きな力に流されてしまう。それはユキにとって、想定していなかった最悪の事態だった。

サファルの魔力のせいで力が抜ける。体内に入れられたのがたとえ少量であっても、ユキの力ではあらがえない。

魔族の有する魔力の純度は、人間の魔力と比べ物にならないぐらいに濃厚だった。

内側を他人に支配される。慣れない感覚によろめき、立っていられなくなったユキを男は支え、当然のようにベッドへと導いた。

「あなたなら自由に動けるまでに、そう時間はかからないでしょう」

ベッドのふちに座らされたユキは荒い呼吸を繰り返し、軽い眩暈に耐えながらも首を横に振る。

慣れるまでこの魔力に浸るなんて狂気の沙汰だ。

身を屈めたサファルが何をしているのか、確認する余裕はなかった。そうしているうちに足の締めつけがゆるみ、履いていたブーツが床に落ちた。

朦朧として抵抗できないあいだに、見せつけるように服を脱がされる。シャツのボタンを上から順に丁寧に外され、肩にかかった布が落ちた。

「や、め……」

なんとか阻止しようとするも身に力が入らず、男の行動を妨げるにはいたらない。

シャツの袖が腕から手首へとすべり落ちる。胸を押さえる下着の編み込みもほどかれた。

脱がせる工程は至極丁寧なのに、サファルは奪った衣服をユキの目の前で燃やし、跡形もなく消し去った。まるでお前に服など必要ないと言わんばかりの暴挙だ。

絶句していると肩を軽く押された。重力に逆らえず背中からベッドへと倒れる。ボトムスとショーツも同時に脱がされ生まれたままの姿になったユキを、サファルは横抱きにしてベッドの中央に寝かせた。

壁際に浮遊する光の玉がベッドの近くに集まってきた。明かりの下に裸体をさらしたユキは羞恥から横向けになって視線から逃れようとするも、肩に乗った大きな手に寝返りをはばまれる。

不意にサファルの顔から笑みが消えた。

「い、やっ……ぁ」

肉体に刻まれた傷跡を見れば遊びもそれまでだ——なんて。自分がいかに楽観的な予想をしていたかをユキは思い知らされる。

男に自分の裸を見られている。恥ずかしさから、堂々と開き直れない。自分はこんなにも弱かったのか。

口を閉ざしたサファルに見下ろされ、視線に居た堪れなさが込み上げる。

興醒めを期待していたが、男にその気配が感じられず、ユキはさらに戸惑う。

真顔のサファルに全身を観察される。落胆を見せない男が、次にどんな行動に出るのか予測できない。

身構えるユキの脇腹にサファルの指が這った。

「ずいぶんと深い傷ですが、誰がこれを?」

触れられた箇所を思い出す。

そこには……何があった?

そうだ。脇腹には刺し傷の痕が残ってる。

……けど、それをつけたのが誰かなんて——。

「……知らないっ」

サファルのかもす空気が冷たくなった。

身の内に流された魔力に不穏な気配がして、心臓が呼応するように鼓動を強めた。

「……そんなの、覚えてない。……たぶん、……わたしが、しくじっただけ……」

本当だ。身体にある傷ができた経緯なんて、いちいち記憶していない。

脇腹にある刺し傷にサファルが顔を近づけた。柔らかい舌で舐められ、じんじんとそこが熱くなる。

「な、にして……?」

魔力を通されているのだとわかっても、目的がわからない。

未知の恐怖に声を震わすユキに、支配者となる男は淡々と告げる。

「まずは全身の傷跡を消し去ります。この先あなたの身体に印をつけるのは、私だけでいい」

ぞっとした。そんなこと、してほしくない!

「い……っ、や!」

どうにかもがくユキの手を取り、サファルは手のひらに口付ける。マメやアカギレの影響で指の関節を動かすときにあった、ガサガサとした感触が瞬く間になくなった。

ユキの焦りが強くなる。

深窓の令嬢ならいざ知らず、薄い皮の手は脆弱すぎて不便でしかない。長年かけて生きるために身についた利便性を、この男の嗜好だけで簡単に消されるなんて。

抵抗は無駄。わかっているが、諦めて受け入れるわけにもいかなかった。

力の入らない身体でなおも逃げようとするユキに、サファルが覆い被さった。

治しかけだったもう片方の手をサファルが捕える。手の甲を舐められて背中がぞくりとした。

手の治療が終わると次は耳たぶを吸われた。耳の穴に柔らかい舌が押し入ろうとする。くちゅくちゅと水音がダイレクトに伝わり、肩に力が入った。

身を固くしたユキの胸元へ、サファルが手をかざす。

濃密な魔力がじわりと胸部から体内に染み込んできた。

「————っ!」

否、体内という表現では生ぬるい。

肉体のさらに内側。魂の器とも呼ばれる魔力の貯蔵部と、そこから魔力を全身に送るための魔力回路を侵食されかけて総毛立つ。

すでにボロボロな状態となっているユキの魔力回路が、外から加えられた魔力によって焼き切れる。——寸前で、サファルは魔力の流入をとめた。

「……やはり人間は脆い」

「かっ……ぁ、はっ、はぁっ……」

身体の最深部を引き裂かれる激痛が治まっていく。

あと少し遅ければ、サファルの魔力でユキは潰されていた。

「無理をさせましたね。契約なしに触れてよいところではありませんでした。次からは気をつけます」

傷ついた魔力回路では、魔族の持つ強力な魔力は受け入れられない。それほどまでに、人間と魔族では魔力の質が違いすぎた。

次なんてあってたまるか。どうせならそのまま殺してしまえばよかったのだ。

苦痛に喘ぎながらも恨みがましくサファルを睨むと、申し訳なさそうに微笑まれた。そんな顔は望んでいない。

呼吸を邪魔しないようにと唇の端にキスされて、頬に男の手がそえられる。

「来たる日のために、じっくりなじませていきましょう」

それはユキにとって、絶望的な宣告だった。





右の耳たぶの形がおかしいのは、過去にピアスを耳ごと引き千切られたから。左手首の裂傷は、放たれた攻撃をいなしきれず、とっさに顔を庇ったから。

たぶんそうだった。

傷を負わせたのは当時の葬るべき敵で、顔や名前まで把握していない。

「……っ、ぅ……」

深く刻まれた傷跡にサファルの魔力が流れるたびに緊張が走る。

依然として身体の自由はきかないが、時間の経過とともに鮮明な意識を維持できるようになってきた。それはたんにサファルが精神の支配を望んでいないだけだと、ユキもとっくに気づいている。

「魔力の浸透がとてもスムーズな、濁りのないよい身体です」

「んぅっ……っ」

耳元で囁かれ、びくりと全身が跳ねた。

過度な反応は相手を煽るだけだと、ユキは唇を噛んでやりすごそうとした。

痺れて動けない肉体がゆるやかに熱をもちはじめる。部屋の空気は冷たく、汗ばんだユキは寒さに身をすくませた。

ユキの華奢な身体をサファルがうつ伏せに返す。背中を目にして、男の動きが止まった。

自分で見る機会がない部位だが、ユキはかつての仲間が浴場で痛ましそうに顔を歪めていたのを覚えていた。いろいろと、残ってしまっているのだろう。

ユキの想像どおり、肩口には獣の噛み跡。そして彼女の背中全体には無数のミミズ腫れが痛々しく刻まれていた。

傷跡に、サファルはためらいなくじっとりと舌を這わせる。

「んっ、……っんぅ」

舐められた部分がぞくぞくと痺れた。

「これはどちらで?」

質問にユキは常に沈黙を選んだ。

過去をほじくられることは、未来を奪われるよりもユキにとっては苦痛だった。苦々しいかつての出来事など誰にも言いたくないし、思い出したくもない。

そのまま動かずにいると、サファルの吐いた息が背中にかかる。とろみのある液体が背中を流れるような錯覚が起こり、思わずシーツを握りしめた。

実際に流れたのは、液体ではなくサファルの魔力だ。

「これまでたいへんな苦労をされたようですが、それにしては……」

まるで検分するかのように背中に置いた手をゆっくりと移動させながら男は呟く。

「最近は魔力を得るために薬を使う人間が増えています。薬は一時的に使用者の魔力を増やしますが、そういった者の使用する魔術にはほころびが多く、崩れやすい。外から取り入れる魔力は、その身に合わなければ己の魔力を濁らせてしまう」

知っている。だから東方大陸では、誰もが魔力の譲渡に慎重だ。

一生を添い遂げる夫婦か、よほど相性がいい者同士でもなければ、魔力を渡すようなまねはしない。

「あなたのように、ここまで澄み切った肉体は珍しい。これなら私の魔力もすぐになじむでしょう」

「——っ、よ、けいなっ…………んっ……」

「人間の脆さは承知しています。心配なさらずとも、無理はさせません」

まったくもっていらない気遣いだ。優しさがありがた迷惑の領域に振り切れている。

そんな仕打ちを受けるぐらいなら、その桁違いな魔力でさっさと潰してくれたほうが百倍マシだ。全力で訴えたいのに、力の入らない身体は寝返りを打つこともままならない。

ユキのうなじに軽くキスをして身を起こしたサファルは、動かぬ身体に苦労する獲物の頭を慈悲深く撫でた。

くるりとユキの身が返される。眼前に現れた男の余裕綽々とした顔に、出かかった拒絶の言葉を飲み込んだ。ユキは代わりに大きく目を見開き、サファルの顔を凝視する。無意識に首を横に振ると、困り顔の苦笑が返ってきた。

サファルの施しは丁寧すぎた。

ユキの顔にかかった髪を払う手つきも、肌をすべる唇も。すべてが優しく、労わりに満ちている。

痛みのともなわない支配が、ユキにはつらかった。

与えられた魔力に身体がむずむずして落ち着かない。

サファルに胸の膨らみをゆるく揉まれる。乳首に指がかすめた。

返す反応がなくじっとしていたら、粒を指で摘まれて不快感に眉が寄った。かすかな痛みはそこまでとなり、サファルはすぐに胸をいじるのをやめた。

なるほどとうなずく男の態度が腹立たしくて、ユキは悔しそうに顔を背けた。

サファルがユキの足元へと移動する。

足首を掴まれ、持ち上げられた。ユキの視線を釘づけにして、サファルはつうっ……とふくらはぎの裂傷痕に舌を這わせた。

治療なら手でも十分できるだろうに。男はあえて口を使い、ユキの羞恥を煽ってくる。

「あぅっ……、くっ」

抑えようと我慢するも、吐息とともに声が漏れ出てしまう。

触れられているのは足だというのに、なぜか下腹部がじんとうずいた。

ユキの脚を割り開き、そこに陣取ったサファルが秘部に指を軽く沈める。

くちゅり……、ちゅく……。

膣口から聞こえてきた粘着質な音にユキが戸惑う。

「やっ……。な、んで……」

身体が発熱しているのは、他人の魔力の浸透が原因でもたらされる、いわば拒絶反応だ。間違っても性的な快楽と結びつくはずがない。

結びついて、いいはずがないのだ。

自由に動けないどころかおかしな反応をみせる、持ち主の言うことをきかない身体に不安が増幅する。

愕然とするユキに、サファルはさらなる衝撃を与えた。

脚のあいだに身を屈め、クリトリスに舌を這わせてきたのだ。

「んあっ、やめっ……、くっ、んぅっ」

信じられない。支配者として悠然と構える男がすることとはとても思えなかった。

「いやっ! そんなっ、んっ……!」

指で皮をむいて、ぷっくりと顔を出したピンクの肉芽を舌の先端で転がされる。

「んうっ、ん——っ」

ユキは気力で重たい手を持ち上げ自らの口を塞いだ。自分自身のよがる声なんて聞きたくなかった。

舌で刺激したクリトリスを唇で挟みちゅう……と吸われる。動けないはずの腰がびくびくと揺れた。

「…………っ」

ユキが親指の付け根を強く噛んだ。痛みで刺激を紛らわそうとしたのだ。

そんなユキを見てサファルはクリトリスから顔を上げた。

「それはいけませんね」

「…………?」

何がいけないというのか。口から手を離してかすかに首をかしげる。

そんなユキに倣うようにサファルも首を横に傾け、小さく微笑んだ。

「後ほど、教えて差し上げます」

言って再び、男はクリトリスを口で食む。

「あんっ、……んっ、うぅ……」

ツンと主張をはじめた肉芽を舌で丁寧にしごかれたと思えば、押しつぶすように舐められる。サファル自身の性処理が目的ではない、ただ獲物の肉欲を高めるだけの行為にユキの理解が及ばず、うろたえながらもひたすら耐えるしかなかった。

「あっ、んんっ! ……やあっ」

濡れた膣にサファルの指が難なく侵入をはたす。

ぬかるんだ膣道に違和感はあるも痛みは感じなかった。奥で軽く曲がった指が膣壁を押しながら抜けて出ていく。

何度も何度も、角度を変えて繰り返されるそれはまるで触診のようだ。

膣の中腹、腹側の肉壁を押されてユキは顔をしかめた。そこはユキの数少ない性交の経験において、唯一快感を得られた場所だった。

わずかな反応に目敏く気づいた男が、重点的にそこを攻める。指を二本に増やされ圧迫感が増した。

いつの間にか、サファルは身を起こしていた。

男はベッドに腰掛け、ユキの表情を観察しながら彼女の性感をたしかめる。

「んっ……、……っ」

三本の指が膣道を押し広げて侵入した際、ユキは引きつるような痛みに息を詰めた。

不快そうに睨んだユキに、サファルは愉悦的な笑みを浮かべた。

「処女ではないが、性行為に慣れるほどの経験はない、といったところでしょうか」

「……しらけたなら殺せばいい」

処女性を尊ぶならユキは完全に傷モノだ。かといって男を悦ばせるような経験や手練手管は持っていない。

「とんでもない」

否定しながらサファルは膣奥の壁をゆるく引っ掻く。

「教えがいがある身体、この先がとても楽しみです」

「なっ、んぅー……っ、ん、やぁっ」

三本の指が膣内でばらばらに動く。それに気を取られていたら、サファルが親指でクリトリスをいじりはじめた。

「あっ、あっ! んっ……、うぅ……っ!」

ぷっくりとした肉芽を軽く引っかかれる。もう片方の手がクリトリスを両サイドから摘み、強○的に立ち上がらせた頂を指の腹で転がしてきた。

強烈な刺激に膣を締めつけてしまい、ナカを蹂躙する指を嫌でも意識させられた。

「今はこちらが一番敏感なようですが、少しずつ感じられる場所を増やしていきましょう」

「い、やっ、……ぁんっ」

サファルが再びクリトリスへと顔を近づけた。窄めた口で吸い上げ、突出した肉芽を舌でしごく。

「ん、くぅ……っ、うっ、んんぅっ」

悔しそうに唇を噛み締めるユキに、男は楽しそうに目で笑った。

「んっ、ん、——っ!」

軽く絶頂したユキの腰がびくびくと揺れる。しかしサファルは責めるのを止めない。

ユキが落ち着くのを待たず、膣を埋める三本の指が抜き差しをはじめた。

「んっ、あっ、あぁっ。……やめ……っ、とめてっ」

終わるはずだった、その先へ。膣がきゅうきゅうとサファルの指を抑え込もうと道を狭める。そうしてユキは意図せず快楽を拾ってしまうのだ。

クリトリスの刺激と膣の快感を連動させようとするサファルの責めは執拗だった。

「——くっ……、ん……っ、んっ」

訴えは聞き入れられない。ユキは否定を口にするのを止めて、手の甲をきつく噛むことで快感に耐えた。

頼みの綱は自身がもたらす痛みだけ。快楽に流されたらどうなってしまうかわからない。

「んぅっ! ……はっ、あっ……ぁ」

ナカをいじっていた指が抜ける。同時にちゅっと短く吸い上げられたのを最後にクリトリスも解放された。

「あっ……、はっ、はぁ、……んっ」

サファルが余韻に打ち震えるユキの手を取る。ユキ自身がつけた歯型を支配者は指でさすった。

ユキの手をじんわりとした熱が包み、痛みが引いていく。

笑みを消した男の視線に身震いし、ユキは無意識に身を起こそうとした。

肉体の自由が戻りつつあると気づいたのはそのときだ。

サファルの魔力に、身体が慣れはじめている。

それがよいことなのか判断がつかないながらも、動かせるようになった手はサファルから逃れた。少しでも距離をあけようと、ユキはベッドをずり上がろうとする。

そんなユキに構わず、サファルは自身のボトムスを寛げた。

覆い被さるサファルの顔から腰へと視線を落としたユキは、みるみる顔色を青くした。

寛げたボトムスから取り出された、そそり立つペニス。人間のモノよりも長く、明らかに太いそれを目のあたりにし、血の気が引いた。

「…………どうして」

硬さを持ったペニスに、困惑を隠しきれない。男がこんな貧相な肉体に興奮しているなど、到底認められなかった。

ペニスに釘付けとなったユキの頬に、サファルが優しく手をかざす。ユキの視線がゆっくりと男の顔に戻った。

「そんな姿を見せられたら、こうなりますよ。快感に悶えるあなたはとてもいやらしく、素敵です」

顔を引きつらせ、ユキは必死に首を横に振る。

「……むり……、そんな……」

そんなの、入るはずがない。

「無理なことはありません。たしかにあなたのここはとても狭いですが、じっくり慣らして、ちゃんと受け入れられるように変えていきますので、安心なさい」

不穏な言葉に拒絶を示す余裕もない。

怯えるユキにサファルが口を寄せた。ついばむような浅い口付けが、徐々に深いものに変わっていく。

「ふっ、ぁ……」

途中にこぼれた吐息すらサファルに飲み込まれた。魔力が口腔を通して体内を駆け巡る。

再び力が抜けて持ち上げられなくなった頭の下に、柔らかい枕が差し込まれた。

サファルの舌がユキの舌に絡まる。飲み込みきれない唾液が口の端から顎をつたった。

「ふぅんっ……、はぁ……っ」

しだいに頭がぼうっとして、恐怖が薄まる。

キスが気持ちいい。他人の体温に心地よさを覚えるのと同時に、ユキは下腹部の甘い疼きを自覚した。

眼前にあるサファルの紅い瞳は、ユキを捕らえて離さない。キスの合間にサファルが見せる微笑みに、さらなる快楽を期待してしまう。

この男は、望みどおりに与えてくれるのか。

散々クリトリスの刺激で絶頂へと追いやられ、今もなお余韻が燻る下腹部が新たな快楽を求めだす。

脚が開いたのは無意識だった。

サファルのペニスがぬかるんだ秘裂をなぞった。熱を帯びた肉がゆるやかにクリトリスを擦る。

「んっ……、ふぅっ、んぁあっ」

ナカからじわりと蜜が溢れた。

さらなる快楽を期待するように、ゆるゆると腰が動いた。ユキの身体の力が抜けるのを見計らい、ペニスの先端を膣口に押し入れる。

「……ひっ、……っ! ぁ……いっ、やあっ!」

めりめりと膣道をこじ開けられる。快楽だけでは済まされない衝撃に、ユキは我に返った。

なけなしの力を振り絞り逃げようとするユキを落ち着けようと、サファルは額にそっと口付けを落とし、髪を撫でた。

どのみちユキは自由に動けない。ベッドと支配者に挟まれて、どこに逃げられるというのか。

サファルがじわじわと侵入する膣は、許容値を超えて大きく広がる感覚はあるものの、想定した痛みがまったくない。ナカが裂けることはなく、熱はゆっくりと奥へと進んだ。

ユキの額から口へと、サファルは唇を移動させた。口内に舌が差し入れられ、喉の奥に流し込まれた唾液を嚥下する。

じわりとサファルの魔力が体内に広がった。

「……ぅんっ……、んあっ」

溶けていく。

身体の中に、自分でないものが、たくさん。

「……そう。ゆっくりと、その身になじむ感覚を味わいなさい。内側から……変わっていくのが、わかるはずです」

「あんっ……」

また少し、膣道が開かれペニスが奥に進んだ。

口腔からの魔力付与にあわせて、下腹部にも手があてられた。

サファルは慎重にユキの腹部へ魔力を通し、己を受け入れやすい肉体へと作り替える。

おかしいと。ユキが気づいたころにはもう遅い。

自身の身体であるにも関わらず、支配者の魔力に主導権をいとも簡単に奪い去られる。

「やっ、いや……、……やめてっ、…………っ、変えないで……」

「はい。もう少し、がんばりましょうか」

懇願はあっさり流された。

痛みがほしい。ペニスに膣奥を広げられるたびにそう願わずにはいられなかった。

いっそただの肉人形として、こちらを気にせず容赦なく穿ってくれたほうが楽なのに。

ただサファルの享楽のための、消耗品として。ユキの肉体が壊れたら終わり。そんな扱いだったら、こんなに焦ることもなかった。

サファルは慎重にユキの身体を開発していく。無理のひとつもさせてくれない。

「……ぅうっ、くぅんっ、んんうっ」

膣奥の行き止まりにペニスが到達した。

腹の奥を内側から押し上げられているのに、痛みがない。中を広げる強烈な圧迫感があるだけだった。

膣壁が勝手に肉棒を締めつけて、熱さと大きさをユキに教えてくる。

じんわりと腹の底にくすぶる快楽に気づかぬよう、どうにか意識を逸らした。

早く——、早く満足して終わってほしい。

ユキの願いを知ってか知らずか、サファルは口付けを止めて上体を起こした。男の顔が遠ざかる。

「んっ、あっ……」

愛おしげに腹部を撫でられると、嫌でもナカに埋まる肉棒を意識してしまう。

ユキの腹の奥が不自然に痺れた。皮膚の上から腹を押す男の手が、かすかな光を発していた。

サファルは浮かべていた笑みを消し、真剣な表情で腹部を見下ろす。

ユキにぞっと悪寒が走った。どう考えても、喜ばしいことが起こるとは思えなかった。

腹部の表層にあった痺れが、腹の内部へと落ちてゆく。正確には、サファルがペニスで埋め尽くす、膣奥の先へ——。

「……な……に?」

熱を帯びた痺れは徐々に治まり、尾を引くような違和感だけが残った。

「痛みや苦しみは?」

「…………ない、けど……」

何かがおかしい。

肉体の内側の異変を上手く言葉にできず、ユキは困惑した。

「ならば問題ありません、続けましょう。初めてでこうもあっさりと浸透できるとは……あなたは本当に、優秀な子ですね」

ユキの腰を両手で掴んだサファルがゆっくりとペニスを引いた。膣口に亀頭が引っかかったところで、再びナカへと侵入してくる。

進む肉棒の熱は、膣の最奥に到達して止まった。

「んっ……、んう」

ゆっくりとした抽送が何度も続き慣れてきたころ、しだいに律動は膣奥に集中しだした。

抜き挿しの幅は狭まり、ぐ、ぐぅっ——と。ペニスが子宮口に加える力は徐々に強くなっていった。

「ぐっ、……うぅ、んっ」

最奥の肉壁への執拗な押し上げは、内臓全体が上へとずれる錯覚をもたらした。

ユキの腹の上を、サファルが指でつぅっとなぞる。肉棒の先端があろう位置だ。するとその部分に、突如として不可解な熱を感じた。

「え……あっ、……な、に……?」

膣と、そしてナカに埋まるペニスを覆うように、下腹部がじんわりとした温もりに包まれる。

ペニスは突き上げる動きを変え、ぐぅ……と亀頭が子宮口を押した。すると膣奥の壁が壁でなくなり、熱がさらに奥へと進む。

異様な感覚を受けて、目に見えない胎内の状態を、ユキの脳は勝手に想像した。

おかしい。だってその先にあるのは、男を受け入れる器官じゃない。

膣の奥、本来なら固く閉じているはずの入り口がこじ開けられている。

恐る恐るサファルを見上げれば、紅い瞳と目が合った。細められた目にユキは男の目的を確信し、焦った。

「いやっ! ……やめてっ。そこはっ」

なけなしの力を振り絞って暴れてもサファルはユキを離さない。

ペニスは突き上げる動きとこねまわす動きを繰り返し、ゆっくりと秘された場所を暴いていった。

「やだぁっ、……あっ、ぐっ、ぅ……」

やがて刺激を受けてゆるんだ子宮口は、サファルのペニスを自ら迎えはじめた。

接近にあわせて窄まった中心が口を開き、サファルが離れるその瞬間まで吸いつくようにペニスの先端にまとわりつこうとする。

心を置き去りにして、奥へ奥へと誘う。自らの内側で起こる動きにユキは打ちのめされる。

「あっ、うぅ……。どうして……? ちがうのに……、んぅ——っ!」

引くべき場所で引かず、サファルがぐぅ——とペニスを押し入れる。侵入する亀頭にそってゆっくりと子宮口が広がり、征服者を子宮へと招き入れた。

「う……そっ、……そん、なっ……」

「入りましたね」

腹の奥にあたる他者の熱に愕然とする。

痛みはない。最奥をこじ開けられる強い圧迫感があるだけだ。

「あ、うぅ……んっ」

心なしか膨れ上がった腹をサファルがさすり、ユキの意識をそこへと誘導する。

「短時間でここまで順応するとは、私も驚きです。痛みはないようですが……、苦しいですか?」

「うぅっ……、もっ、ぬい、てっ」

ゆるゆると子宮の肉壁を突き上げられる。

痛みや苦しみ以前に、ユキの理解が追いつかない。

いったいこの身体はどうなってしまったというのか。

「あぅっ、んぁっ……、それっ、やぁ!」

指でクリトリスをいじられると、否応にも膣が締まった。

征服された熱に悶え、逃げようとのたうつがサファルはゆるい抽送を止めようとしない。

「拒む余裕があるなら、問題なさそうですね」

子宮の壁にぐりぐりと熱が押しつけられた。

「うぅ——っ!」

痛覚はないが快感もない。ただ腹の奥がじんじんと痺れた。

サファルの魔力を、胎内に感じているのだ。

「いや……、いやっ! もっ……、やだあっ」

「まだここでは思うような快感は得られませんか。いずれは奥の刺激がほしくてたまらなくなります」

ありえない。そんなことあってたまるか。

ユキは子宮を押し広げる太い肉棒よりも、クリトリスにもたらされる刺激に追い詰められていた。

どちらにせよ、感じていることに変わりはない。

「あっ、あっ、……やぁ……、んっ、うぅ……」

こんな自分を、認めたくなかった。

与えられる快感から逃れるため、必死に気を紛らわせる痛みを探した。

両手で口を覆い、声を抑えながら、上に重ねた手で下の手の甲に爪を立てる。

「ふっ、ん……、……んぅっ」

責め苦は終わらない。サファルはどうにかこらえようとするユキを冷然と見下ろし、無駄な抵抗だと言わんばかりに絶頂へと導いてゆく。

クリトリスをキュッと摘まれ、投げ出した足が大きく跳ねた。同時に子宮を強く深く突き上げられる。背中が弓なりにしなった。

「あっん……、あぁ、はっ、ああっ、……も、やめてっ!」

「イキなさい」

「——っ、んぅ————っ」

声を上げまいと咄嗟に手の甲に噛みついた。

びくびくと腰が揺れる。

膣壁が痙攣し、締めつけにサファルも果てた。

熱い精液が子宮を満たす。

「……はぁ、はぁ、……んっ、やぁ……」

ペニスが埋まる子宮に痺れが走る。じんじんと、微弱な電流が流れているようだ。

サファルの魔力に内側が侵食されている。理解できてもなすすべがない。

子宮に溜まる精液により膨らんだ腹をサファルが愛おしそうに撫でた。

子宮口にみっちりと埋まるペニスが栓となり、精液はこぼれず胎内に留まり続ける。

身体の中心で、熱がとぐろを巻いていた。

「あっ、……うぅ……っ」

サファルがユキの手を取る。歯型に血が滲む皮膚を舐められ、治癒の魔力が手を覆った。

今さっき爪でつけた傷も念入りに。治ったあともしつこく舌が這う。

「んっ、んぅ……ぁっ」

ねっとりとした舌の感触に、膣壁が連動するようにうねった。絶頂の余韻が収まるより先に、サファルはユキの手を放した。

「あっ、うぅっ——!」

腰を掴まれる。互いの身体の密着が離れ、子宮が内側から下へと引っ張られた。

狭い子宮の入り口より、サファルがごぽりとペニスを外す。そのままずるずると肉壁を刺激しながら膣を通り、ペニスはユキのナカから引き抜かれた。





全身の痺れが頭にまで達し、思考が整わない。荒い呼吸を繰り返しながら、ユキは虚にサファルを見上げていた。

ベッドから降りた男を目で追う。ボタンを外し、まとう衣服を脱ぎだしたサファルに身が震えた。

恐怖だけではない。じんじんと熱を帯びる腹部に戸惑いながらも、男の素肌から目が離せない。

サファルの体格は、引き締まった無駄のない肉づきをしていた。魔族も人間と骨格は変わらないようだ。

褐色の肌に紅い瞳をした魔族は、裸体を食い入るように見つめるユキに微笑みかけ、再びベッドへと戻った。

まだ終わらない。察したユキは静かに瞳から涙をこぼした。

サファルはそれを優しくぬぐい、ユキの背中とシーツのあいだに手を差し入れる。

力の入らない身体はベッドに座るのも難しく、ユキはサファルの胸に身をあずける形となった。

「はぁ……、ぁ……、やっ」

サファルはユキを軽々と起こし、ベッドに座る自らの脚の上に乗せる。安定するように抱き寄せると、小さな身体はあからさまに怯えた。

あやすように大きな手が背中をさする。ユキの中に未だに燻るサファルの魔力は、元々の持ち主と肌を密着させることで暴れるのを止めた。痺れが消えて、徐々に安心感が強まる。

おずおずと、ユキが頭上にあるサファルの顔をうかがうと、紅い瞳と目が合った。

気まずくなりすぐに視線を逸らす。

忘れかけていた緊張を思い出し、身体がこわばった。同時に先ほどの行為を思い出し、下腹部に力がこもる。

「……んぅっ」

腹の奥に注がれた精液が、重力に従い膣道を下る。やがて膣口からこぼれ落ち、ユキは身を震わせた。

「ああ、気になりますか?」

サファルがユキの膣口を指でなぞる。浅い部分を抜き差しされるたびに、ちゅくちゅくと水音が嫌でも耳に入った。

「やめっ、んんっ」

液体が太腿をつたうのが不快で眉を寄せる。まるで粗相をしているみたいで、仕方なく膣口に力を込めようとするがサファルの指がそれを阻む。

「不快なら掻き出しましょうか」

「やっ……」

犯した張本人に世話をされるなど、どんな仕打ちだ。だったら自分でどうにかしたほうが遥かにマシだと、ユキは拒絶を示して首を振った。

「……そうですか」

困り顔で微笑んだサファルは、ユキの両脇に手を入れて痩身を持ち上げる。

そしてゆっくりと、未だに硬さを保ったペニスの上へとユキを落とした。

「なっ……、うぁ、あっ!」

膣口にあてがわれた肉棒が、自重で体内に沈む。

「ならば栓をしてしまいましょう」

精液と愛液でぬかるんだ膣は難なく征服者を迎え入れ、収縮を繰り返し奥へと導いてゆく。

「あ……、また、……なか、に」

膣壁が押し広げるのをダイレクトに感じてぞくぞくする。

いくら上体を捻って逃れようとしたところで、サファルはユキから手を離そうとしない。

「んんっ、あっ、やだ! ……——っ」

膣奥の壁にペニスの先端が到達する。うつむけばユキのナカに収まり切っていないサファルの肉棒が見えてしまい、言葉が消えた。

あれがすべて入ったとき、わたしの子宮に……。

歓喜か、期待か。本人の意思に関係なく、腹の奥がきゅんと疼いた。

「ちがう……、そんなの、やめてっ」

両脇から手を離し、サファルはユキの背中へと腕をまわす。ゆるい拘束のなかで、ユキは膣に広がる甘い快楽に身悶えた。腰が勝手に動き、ペニスが子宮口に押しつけられる。

ユキ自身の体重も合わさり、図らずしてぐりぐりと窄んだ奥の入り口に刺激を及ぼす。

「そう……、ゆっくりと、広がっていくのがわかりますか?」

「あっ、あぁ……、いや、いやぁ……」

身体が沈むにつれて、目線が下に落ちてゆく。

どうにかサファルの両肩にしがみつくも、焼け石に水だった。先ほどまでペニスを受け入れるために口を開いていた子宮口は、再びの訪問者を拒まずに通す。

その身のどこに力を入れても、そこを閉じることは叶わなかった。

亀頭の最も太い部分が子宮に侵入を果たすと、あとは早い。

「まって、いやっ。————あぁっ」

ずちゅりと子宮にペニスが埋まる。先ほどよりも抵抗が少なかったのは、おそらく気のせいではない。

子宮の内側の壁に直接熱を感じ、ユキの呼吸が浅くなった。

びく、びくっ……と。腰が跳ねるたびに貫かれた子宮口が揺さぶられ、振動は子宮にも及んだ。

ユキは男の腹部に手をついて、どうにかペニスを抜き去ろうと力を込めた。

そんなユキを跨らせたまま、サファルは上半身を後ろに倒してベッドへと肘をつく。

「あっ、んっ……、いゃっ」

下からのゆるい突き上げに、ユキの背中が丸くなった。それでもどうにかペニスを引き抜こうと膝に力を入れるが、亀頭が楔になって、窄まった子宮口につかえてしまう。

腰を上げようとするたびに内側が刺激され、無意識に膣を締めつけた。

圧迫感と痺れと熱が腹の中で混ざる。それらを徐々に快感だと身体がみなしはじめ、ユキはうろたえた。

「ゃだっ、あっ、あぁーっ、……んっ、やぁ……っ」

奥に嵌った楔は外せない。

湧き上がる多幸感を認めたくない一心で、強く首を横に振った。

ひとり淫蕩なダンスを踊っていたユキの脚は、疲労と快楽によって徐々に力が入らなくなっていった。

自重で子宮深くの肉壁にペニスが強く押しつけられ、感じた圧迫感に全身が総毛立つ。引き抜きたくても、足を立てて自分の身を自分で支える余裕がない。

「はっ、あ……。うぅ……」

やがて身を起こすのもままならなくなり、ユキの意識が朦朧とする。

ふらふらの身体は手首を掴んで少し引くだけで、簡単にサファルの胸へと倒れた。

「んっ、うぅ……っ」

ペニスが膣や子宮を刺激する位置を変える。呼吸で腹部がへこむたび、子宮を占領する熱を鮮明に思い知らされた。

「……はぁ、はっ、あっあぁ……っ」

どうして——。これに苦痛を感じていないどころか、下腹部を満たす熱さを受け入れはじめた自分に困惑する。

この身体はどうしてしまったのか。

上体を起こしたサファルがユキの顔にかかった髪を優しい手つきで避けた。

「うっ……あぁ」

ベッドの上でユキと向かいあって座った男は、ユキの顎に手をそえて上を向かせた。

目を潤ませるユキにサファルが口付ける。自然とユキの口が開き、自ら支配者を迎え入れた。

下からと上から。容赦なく注がれるサファルの魔力に頭が痺れ、無意識に下腹部に力が入った。

「んっ……、ふっ、うぅ、あ、あっ、あんっ」

キスのさなかも腰が揺れる。動きに合わせてサファルが突き上げるものだからたまらない。

「あぁ……、うんっ、ぁあ——……っ!」

悶える様子を紅い瞳に間近で見られていることに気づき、ふと正気に戻る。

流されずに残った理性が頭の中でがんがんと警鐘を鳴らし、猛烈な羞恥に襲われた。

「やっ……っ、んぅっ、——んっ」

サファルから逃れようと顔を背け、わずかに残った正気を保つために再び自分の手の甲に噛みつく。

「その癖は直しましょうか」

「んぅっ」

耳元で囁かれ、肩がびくりと跳ねた。

「——んあっ! うぅ——っ!」

サファルがユキの腰を持ち上げる。子宮口より亀頭が抜けかけたところで手を放した。

「うんぅ——っ!」

加わった衝撃に手の甲の皮膚を噛み切り、口の中に血の味が広がる。

サファルは手を止めなかった。何度も身体を縦に揺さぶられ、そのたびに子宮の最奥をペニスが叩きつける。

「うんっ、んっ、やあっ!」

突き上げが止まったかと思えば腰にまわった手に強く抱きしめられ、より互いが密着し、ぐりぐりと子宮の奥を刺激された。そこにもう片方の手がクリトリスをいじりだしたからたまらない。

「——っ、ん————っ!」

強○的に絶頂へと導かれたのと同時に、サファルも達した。再び熱い飛沫が子宮を満たす。

熱を帯びた腹が痺れ、魔力が全身を駆け巡る。

一連のサイクルでもたらされる、流れるような身体の書き換えに、回数を重ねるごとに順応していた。

「……いや……、もぅ……」

現実を受け止めきれずうつむくユキの手を、サファルが捕らえる。男はユキが自らの歯で傷つけた血の流れる手の甲を丁寧に舐めた。

「その程度の痛みでは、快楽からは逃げられません。無駄な抵抗はお止めなさい」

サファルが顔を上げたときにはもう、傷は完全に消えていた。

「……ぁ、……んぁっ、はぁ……」

血のついた唇にも舌を這わせる。薄く口を開けるユキは、もはや抵抗する気力が残っていなかった。




◇  ◇  ◇




「……うっ、あぁ…………」

ずるり……と、ペニスが膣を抜ける。ユキは背中をしならせて小さく鳴いた。

サファルはユキをベッドへ寝かせて頬に唇を寄せる。振り払う気力がないのか、ユキはぼんやりと視線を向けてくるだけだった。

すぎた快楽に混乱するが、発狂はしない。多少ひどく追い詰めたところで意識を失うこともない。

体中に残っていた傷から察するに、戦場か、それに準ずる命懸けの環境に身を置いた経験があるのだろう。自分を軽視し死にたがるのはいただけないが、脆そうに思えて、ユキの精神はしなやかで簡単には折れない。

窓の外では空が明るくなりだしていた。

「疲れたでしょう。眠りますか……?」

サファルが囁けば、ユキはいやいやと首を振って意識を保とうとする。

素直な肉体に反して精神はなかなかに頑固で反抗的だ。そこがまたおもしろく、サファルの興味を煽っているのだと、おそらく彼女は自覚していない。

苦笑してサファルはユキを撫でるのをやめた。

「お休みなさい」

手で目元を覆い、軽く誘導するだけでユキの意識はあっさりと落ちた。

とっくに限界を超えていたのだろう。ユキはサファルの支配を嫌がるが、魔族そのものへの嫌悪感は最初から見受けられなかった。

これは聖教会の勢力域に住む人間では考えられない価値観だ。

西方大陸の真っ只中で拾った猫は、いったいどこから迷い込んだのか。俄然として興味が湧いた。

本人の口から身の上を聞ければいいのだが……、彼女が懐くにはまだまだ時間がかかりそうだ。

ユキを愛でていたサファルだったが、ふいに手を止めた。

「サファル様」

音もなく部屋に現れたグラダロトは主人の前で跪き、首をたれる。

姿を見せたのはグラダロトひとりだが、部屋の外には複数の気配があった。

「全員、帰還が完了しました」

「ご苦労様です。報告は後ほど聞きましょう」

「はっ」

手早く去ろうとしたグラダロトをサファルがとめる。

「仕事の前に、この子に着るものを用意してあげてください」

サファルの言葉に応じ、グラダロトとは別の気配がすぐさま動いた。

「あと、……そうですね。鳥籠の準備もお願いします」

「承知いたしました」

胸に手をあて、深々と頭を下げたグラダロトは来たときと同様に音もなく消えた。部屋の外にあった気配もそれぞれに散った。



サファルはユキへと向き直り、そっと指で唇をなぞる。

まずはどうにかして自傷癖をやめさせなければ。たとえユキ自身であったとしても、この身に傷をつける行為を許すつもりはない。

どうやって教え込むかと思案したサファルは、ほんのりと色づくユキの頬を見て口の端を上げた。



遠征に赴いていた分の仕事が溜まっている。ちょうどいいからこの娘も一緒に連れて行くことにしよう。





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