市街地 2024/04/05 07:50

【小説サンプル】境界の向こう側でマスターに愛され、囚われる

あらすじ

友達から半ば強引に譲り受けた「曰く付き」の人形——エルクが姿を消した。
その友人が面倒を押し付けた「お詫び」にと贈ってくれた飛行船のディナークルーズのさなかに気を失った私は、気がつけば蝋燭の火が照らす薄暗い部屋にいた。

怪しい魔法陣の上で手足を拘束されて、快楽に悶える。
混乱を極める状況で、私は消えた人形、エルクと再開を果たす。
クルーズ船のスタッフは、エルクが私の主人なのだと告げた。

この儀式はマスターが望んだ、必要な措置らしい。
問題なく『あちら側』へ渡るため。『あちら側』に私の意識を順応させるために——。
エルクが見守る視線の先で、私の体は自らの意思に反して淫らに作り替えられてく。

——そんな夢を見た。気がついたら朝になっていた。

ディナークルーズはとっくに終わっていて、私はひとり、船内に取り残されていた。
急いで家に帰ろうと、出口を探す船の中で、私は人の姿になったマスターと再会する。

マスターに連れられて、船から降りた。
港街の風景は日本のどこかにありそうな街並みに見えて、それでいて何かがおかしかった。

ここは境界を越えた先ある、あちら側。

不思議な世界。マスターのお屋敷で——
私は彼に囚われ、愛される。


全体を通したプレイ内容

無理矢理・拘束・連続絶頂・快楽堕ち・クリ責め・電マ・バイブ・ポルチオ責め・溺愛・甘々(後半)etc.

※ヒロインに名前のないネームレス小説です。
※文体はヒロイン視点の一人称です。
※モブキャラが人形になるなど、軽微なホラー要素があります。
※ヒーロー以外から快楽責めを受けるシーンがあります。



『境界の向こう側でマスターに愛され、囚われる』


鍵を回して扉を開けた時、家の中から風を感じた。

窓を閉め忘れて外出してしまったかと、自分の失敗が一番に頭を掠めたもののすぐにその考えは否定する。冬の寒さが終わりを迎え、一気に暖かくなった——つまり花粉の最盛期となるこの時期に、飛散量の多い日中に窓を開けるなんて絶対にしない。
嫌な予感を覚えつつ、あえて強めにドアを閉めた。

「ただいまー」

中に向かって大きく声を張り上げる。もしもの時のための、ほんの威嚇のつもりだった。

一人暮らしのマンションに、当然返ってくる声はない。恐る恐る廊下を進む。突き当たりのリビングへと続くドアが開けっぱなしなのはいつものことだ。しかし部屋の内部は、全然いつも通りではなかった。

ベランダへと続く大窓は全開となり、風ではためくカーテンを目の当たりにして頭からさっと血が引いた。

——まさか、空き巣……?

人の気配はもちろん、荒らされた形跡はない。しかし何者かが外出中に部屋に入ったことだけは明らかだった。用心しながらリビングに足を踏み入れ、あることに気づく。

「……エルクがいない」

チェストの上に飾ってあった、人形が姿を消している。
驚愕しながらも私はすぐにカバンからスマートフォンを取り出して警察に通報した。



現場検証の結果、盗みに入った犯人の指紋や靴跡等は一切採取されなかった。不審者などの目撃証言も得られず、盗まれた人形が戻ってくる可能性は限りなく低いという。

空き巣の侵入経路はベランダからだった。

ここはマンションの三階だけど、警察の人が言うに、慣れた者なら階下から簡単に侵入できるらしい。家の中に入られたのは、ベランダの鍵を開けたまま外出した私の落ち度ということになった。




数日後、居酒屋にて——。

「——いや……私、ベランダの鍵は掛けてたはずなのよ。前の日の夜に換気して、あんまり意識してなかったけど、忘れず戸締りはしたんだって……たぶん」

指差し確認とか、厳重にチェックしたわけじゃないから確証はない。しかし毎日のルーティーンがその日に限って抜け落ちてしまったとは思えず、なんだか腑に落ちない。

「でもよかったじゃない。それって偶然鍵が開いてたから、窓も割られずに済んだってことでしょう? しかも盗まれたのは『あの』人形だけとか……。ぶっちゃけ悪いことは一つも起きてない気がするんだけど」

「…………」

空き巣に入られたショックを一人で抱えていられず、専門学校時代からの友人——アザミに愚痴を聞いてもらっていたが、彼女は私の傷心を全く気に留めずハイボールを煽った。

「被害届は出したの?」

「……一応」

担当した警察官の態度から、盗まれた人形が戻る可能性が限りなくゼロに近いのは悟っていた。空き巣が盗んだのは人形一体。家中を確認したが、他の貴重品には一切手がつけられていなかった。

「人形が盗まれたのは事実だけど、痕跡はないとか……もしかしたら、あの人形が自分から出ていったんじゃないの?」

「やめてよ怖い」

酒のあてにタコわさを摘みながら冗談よとアザミは笑う。

「怖いって、今更じゃない? アンタ何年あの人形と過ごしてたのよ」

「だって……本当に普通の人形だったし……。月香が言ってたようなことは全く起こらなかったんだから」

月香とは、アザミと同じく専門学校で知り合った友人である。在学中は私とアザミと月香でよく一緒に行動していた。



空き巣に盗まれた人形——エルクは月香から半ば押し付けられる形で引き取った、曰く付きの人形だった。

エルクは全長が六○センチを超える、大きめの球体関節人形である。うねりのある金髪に、エメラルドグリーンの瞳が特徴的な、美しい顔立ちをした白い肌の青年だった。

ボディの裏側、腰の下あたりに、油性ペンで「エルク・バエル・カウスブルト」と書かれていたところから、私は勝手にエルクと呼んでいたが、もしかしたらこれは人形ではなく製作者の名前なのかもしれない。

もともとのエルクの持ち主——月香は彼に一目惚れをしたのをきっかけに、知り合いから勧められて手に入れたのだと言っていた。
しかしエルクを家に飾ったその日から、どうにもおかしな夢をみる。さらには家の中に自分以外の誰かの気配を感じるようになり、次第に人形が怖くなっていった。恐怖に駆られて人形を破棄しようとしたが、何度処分しても何故か家に戻って来てしまう——。

私とアザミがそんなベタすぎるホラーを月香から相談されたのは、専門学校を卒業してすぐのことだった。お互い社会人になったばかりで心細かったのもある。その頃はよく仕事帰りに三人で会ってファミレスで仕事の愚痴を言い合っていた。

作り話のような恐怖体験を真剣に語る友人の話に対しては半信半疑だった。アザミに至っては完全にスルーして、一人でビールを飲みまくっていたと記憶している。正直なところ、私も月香の話はあまり信じていなかった。

こんなはずじゃなかったと怖がる月香に、私が人形を捨てる以外に手放す具体的な方法——人形供養や骨董品店に売りにいく、オークションに出品するなど——を提案しても、でもでもだってで全く動こうとしないものだから、しまいには人形を買ったという事実そのものが嘘なのではと疑ったほどだ。

泣き言を漏らすだけで何もしない、可哀想な自分に酔う態度に私とアザミは苛立ち、その夜はギスギスした空気で月香と別れた。

その二日後、月香はなんと私の家に曰く付きの人形——エルクを送り付けてきたのだ。

すぐに電話で抗議をしたら「色々できるんだったらそっちでどうにかしてよ!」と訳のわからない逆ギレをされた挙句、私は着信拒否の仕打ちを受ける。
メッセージアプリもブロックされて、とどめとばかりに彼女は仕事を辞めて一人暮らしのマンションを引っ越し、行方をくらませた。

話を聞いて怒ったアザミに対しても、月香は同じ行動を取ったらしい。

そこまでするかと呆れ半分。人形をどうするかと最初は迷ったものの、結局私が引き取ることに決めた。

私自身、オカルト的なことはあまり信じないたちだったのと、友人が一目惚れするのも納得できるほどに、エルクが美しかったのが何よりの理由である。

くっきりとした目鼻立ち、すらりと伸びる手足。ボディには傷ひとつないのだけど、背面に油性ペンで書かれた手書きの名前が、唯一の残念な点となっていた。よりにもよってなぜこんなところにと、何度首を傾げたことか。

同時にこんなにも綺麗な人形を身勝手に押し付ける友人にも腹が立った。

何より許せなかったのが、友人が人形に服も着せずに裸のままにしていたことだ。
こういうのって、普通は専用サイズの服もセットで販売されてるものじゃないの?
なかったとしても、仮にも服飾専門学校で服作りの技術を学んだ身なのだから、ちょっとぐらいどうにかしてあげようよ……。

しかも月香は人形を自分の家で飾っていたと言っていた。まさかその時も裸のままだったってことは……ないと信じたい。

人形とはいえ、男性の裸体をそのまま放置するのは気が引けた。
胸部の筋肉や、股間の男性器など、無駄にリアルに造られているものだから気恥ずかしさに拍車がかかる。

私はリビングの直射日光が当たらないチェストの上をエルクの定位置にして、試行錯誤の末に完成させた自作の服を着せてみた。

一着作ると改善点がいくつも出てきて、もっとエルクに似合う服を作って着せたくなってくる。
そうこうしているうちに愛着が湧いてきて、エルクのためにドール専用の椅子を購入したり、季節ごとに新作の服を作ってみたりと、彼を着飾らせることにハマっていった。

最初こそ心配していたけど、私は月香が言うところのおかしな現象は全く体験しなかった。
エルクが家に来てから三年になるが、不自然な不幸も幸運もなく——本当に、いつも通りの普通の日常を送っていた。

——それが、ここにきての、これである。

「私もあんまり信じたくないけど……月香的解釈でいけば、待遇に不満があったから、人形は自分の意思で出ていったとかもあり得るのかなあって……」

冗談のつもりで言ったが、愛想笑いはぎこちないものになってしまう。

一切の痕跡を残さなかった空き巣。盗まれた物は、エルクだけ……。

穿った考え方をすると、エルクが自分で出ていったとも取れてしまう状況が出来上がっている。こんなこと警察に言えるはずもなく黙っていたが、私は今になって月香の怯える顔を鮮明に思い出していた。

「まあ……そんなわけないか。どうせ、空き巣した誰かが高値で売れると思ったから、持って行ったのだろうね」

現実なんてそんなものだ。肩を落として私もちびちびと梅酒を飲む。

「盗まれたのがそんなにショックなら、今度は自分で好みの人形を買ったら?」

「うーん……そこまでは……」

手にした経緯はどうであれ、私が大切にしたかったのはエルクだけだ。いなくなったからといって、新しい人形を迎えたいとは思えない。

これもオカルト的なことが好きだった月香に言わせれば「魅入られている」状態なんだろうけど……。

「今は盗んだ犯人が見つかって、人形が戻ってきたらラッキーぐらいに思ってる」

ないとは信じているが、もしも……本当にエルクが自分で出て行ったなら、もうお好きにしてくださいとしか言いようがない。

その場合は、エルクに帰ってきて欲しいとは……、さすがに思えなかった。




   ※省略




食事中も飛行船は進む。徐々に都会の明かりが遠ざかっていく。私はこのディナークルーズはどこかでUターンして、また係留地に戻るのだと思っていたが、食後になっても一向に進路を変える気配はなく、夜の空を飛び続けていた。

歓談スペースでひとりやることもなく外を眺める。都市の照明が完全に見えない距離に到達すると、今度は雲ひとつない夜空に無数の星が浮かび出した。

「……すごい」

間近に迫る天の川に感動して思わず声がこぼれた。

「でしょう? 百万ドルの夜景も素敵だけど、やっぱり夜空の旅はこうでなくちゃ」

いつの間にか隣には、ディナー時にお世話になった女性の姿があった。彼女に同意して、何度も頷く。

「そろそろ到着かしら」

「……え?」

ディナークルーズの予定表にはどこかに停泊するなんて書かれていなかったはずだ。陸地は遥か彼方だというのに、一体どこに到着するのだろう。

疑問に首を傾げた私の耳に、スタッフの案内放送が届く。

「間もなく中継地点に到着します。乗客の皆様は——」

「あ、あの……っ、中継地点とは、どういうことでしょうか?」

恥を忍んで女性に聞くと、彼女は嫌な顔ひとつせず答えをくれた。

「ああ、初めてだったら知らなくて当然ね。この空の旅は、途中から海の旅に切り替わるのよ」

それはつまり……行きは飛行船で、帰りは船に乗って陸地を目指すということか。

「ほら、あそこに停泊しているでしょう?」

いまいちピンと来ていない私に、女性は窓の外を指差した。彼女の示す先にある光の集まりは、飛行船が近づくにつれて大きくなっていく。

最初は陸地の夜景にも思えたそれが巨大な船舶であると判明した時、目を見開いて驚いた。一晩で飛行船と豪華客船を楽しむディナークルーズ……そりゃあ価格が十万円以上するはずだ。

でも、ここは海の真ん中だ。港もないのにどうやって乗り換えるんだろう……?

私が不思議に思っているうちに飛行船は高度を下げて、ゆっくりと着陸態勢に入った。



降り立ったのは、まさかの海の上だった。

いや、ちゃんと着陸地点としての舗装はされているのだろうけど、暗くて地面は見えないし、ちゃぷちゃぷと波の音が聞こえてきてどういった場所に飛行船が降りたのかが全くわからない。
しかも海の水音はしていても、波の揺れは一切感じない。どうなっているの?

不思議な現象に困惑する私を置いて、乗客たちは当然のように飛行船を後にしていく。

降り口の向こうには、真っ暗な海と、その先に煌びやかに光を灯すあの大きな船があった。

飛行船から船までは、歩道橋のような階段状の道になっているらしく、幾つもの小さな光が足元を照らしていた。こんなの見たことも聞いたこともないけど、おそらくこれは船舶への連結橋なんだと思う。

道はきっと、透明な筒状のもので上下左右が覆われているのだ。そうでなければこんな海の上、風も気にせずスタスタと歩けるはずがない。

あの女性も先に行ってしまい、私は飛行船の最後の客となった。

早くみんなに追いつかないと。焦る気持ちで出口をくぐる。降り口の階段の先に誘導灯はあるも、足元は真っ暗で身がすくんだ。

「……こわ……っ」

なかなか海の上に足をつける勇気が出ず、他の乗客たちとの距離は開く一方だ。

怖気付く私を見かねた飛行船のスタッフが、海の上の道に降りて私へと手を差し出した。

「お手をどうぞ。初めてではためらうのも無理もありません。怖いようでしたら、船内まで私がご案内いたします」

「……すみません」

スタッフに甘えて手を重ねる。

乗客はここを通った。彼も海の上に立っているのだから、絶対に道はあるのだ。そう自分に言い聞かせ、スタッフに手を引かれるまま降り口の階段から一歩を踏み出す。

「————っ!?」

真っ黒な地面に足をつけようとした私は、底なしの闇の中に落下して——意識を失った。







   ※省略





ぽつぽつと明かりが灯る暗い場所。薄らと壁と天井が見えるから、ここはどこかの部屋なのだろう。

明かりは電気を使用した証明ではなく、太い蝋燭やランプといった、火を使う器具で統一されていた。蝋燭は壁際に設置された棚やテーブルだけでなく、床のあちこちにも置かれている。

そんな部屋の中央で、私は横になっていた。

海に落ちた、はずだった。

私は助かったの? ここはどこ? どうしてこんなところに……?

「——っ!? な、に? ぇっ……んうっ!」

次から次へと浮かんでくる疑問は、胎内から湧き上がった強すぎる快楽によってたちまち流された。

「ひっ、いやっ、……なんで……っ!」

体の中から感じる振動に思考が搔き乱される。
確かめようとしたわけじゃない。
それでも私はソコを意識したのと同時に下腹部にぎゅっと力を込めてしまい、伝わってくる重い揺さぶりをありありと感じてしまった。

「あぅっ、んぅうっ……っ。やだっ、なにこれっ、……いや、……っいやぁっ!」

状況がわからないながらも快楽に悶える。

元凶となっている、膣奥に埋まる何かを取り出そうとするも、起き上がることができない。
唯一動く首を持ち上げて、自分の状況を確認する。

「なに……どうしてっ……」

暗い部屋の中。私は床の上で蝋燭に囲まれて、手足を大きく開いた大の字の形に固定されていた。服も、いつの間にか全部脱がされ裸の状態だ。

両手首と両足首は幅の広い厚めの革で拘束され、手足首を跨いだ革は床に鋲のようなもので打ち止めてある。いくら力を入れて身を捩っても、革の拘束から手を抜くことはできなかった。

服を脱がされて身動きができないなんて、一体誰がこんなことを……、海に落ちて、助けられたのではかったの?

「うっ、……んぐっ、うぅ……っ」

秘所の疼きに耐えながら、周囲を見渡す。快楽よりも狼狽が勝り、じっとしていられなかった。




   ※省略




自力ではどうにもならず、悶え苦しみどれだけの時間が過ぎただろう。

イキたい。……もっと強く責めてほしいと、頭の中が性的なことでいっぱいになった矢先、一筋の光が室内を照らした。

ぼやけた頭では、部屋の扉が開かれたのだと理解するのが遅れた。

「……っ、…………ぅっ」

眩しさに目を細める。二人の人間が入室して、扉はすぐに閉ざされた。

「これはこれは、お目覚めでしたか。遅くなって申し訳ございません」

丁寧な口調の、男性。この声には聞き覚えがあった。飛行船から船に乗り換える時、海の上に降りるのを渋っていた私に手を差し出してくれた、あのスタッフだ。

薄暗い部屋に慣れた目は、彼の顔を難なく見ることができた。さらさらの、癖のない黒い髪。狐のような細い目に、薄い唇。ダーク色のスーツに身を包んだその人は、裸で床に拘束された私を見下ろしながら、驚く様子は微塵もなく穏やかに微笑んでいた。

「——っ」

スタッフも加担している? 私は最初から騙されていたの?

沸き立つ怒りは唇を噛み締めて堪えた。腹は立つが、それ以上に入室した彼らは気味が悪く、恐ろしかった。

飛行船のスタッフと連れ立って入ったもう一人の男性は、俯いたままぴくりとも動かない。隙なくスーツを着こなすスタッフとは正反対に、こちらはジーパンにTシャツというラフな格好だった。髪もボサボサで、なぜか肘や手首といった関節部分に黒い横線が入っている。

不可解な点は他にもあった。飛行船のスタッフ——スーツ姿の彼はずっと、右手を胸の位置まで持ち上げていて、地面と並行になった腕には、なぜか人形が座っている。
しかも……私はその人形を知っていた。

「……エルク?」

一ヶ月前に盗難にあった、曰く付きの人形。猫っ毛の金髪に、蝋燭の日にゆらめく緑色の瞳。人形の着ている服は、私が彼のために仕立てたスーツだから、見間違えるはずがない。

「どうして、エルクがここに……?」

「ああ、それはいけませんね」

飛行船のスタッフは困り顔を向けてきた。

彼は部屋の隅においてあった人間用の椅子にエルクを丁寧に腰掛けさせ、壁際のチェストを白い手袋をした手で開き何かを取り出す。

私の頭上で片膝を付いた彼に、頬をするりと撫でられる。

「さあ……お口を開けましょうね」

「——んっ……ぅっ」

鼻の付け根を摘まれて、息ができない恐怖から口を開いたところに、無数に穴が空いたピンポン玉サイズの球体を、口内に押し込まれた。

「ふぅっ、ひゃぁ」

異物を舌で口から出そうとするも上手くいかず、彼は慣れた手つきで球体に付いたバンドを私の頭に回して固定した。

「うぃっ……ぃっ、……ぃんう」

「よくお似合いですよ。お辛いでしょうが、しばらくはこのまま頑張りましょうね」

よしよしと頭を撫でられても、全く慰められた気がしない。

「あちらの御方の名前を、あなたが呼ぶことは禁じられています。今後は主人については『マスター』とお呼びしましょう。わかりましたか?」

「んんっ……ふぅう、んぅっ」

わからない。理解できるはずがない。
どうして人形を「マスター」と呼ぶ必要があるの? 人形なのに、マスターなんて呼び方……まるで私が人形に服従しているみたい。

あり得ない。何もかもがおかしい。

何がどうなっているのか、説明を求めようにも口枷のせいで言葉が紡げない。代わりに力強く首を横に振る。これが精一杯の意思表示だった。

「それは困りましたね。承諾していただかない限り、これは外すことができませんよ?」

コツコツと、彼が私の口に押し込まれた穴だらけのボールを指先で小突く。

「——……そうですね。先に儀式を進めましょう」

エルクのほうをじっと見つめ、彼は深く頭を下げた。そして再び私を至近距離で見下ろして軽く頷く。

「ご心配なさらずとも、あなたもじきに意思を汲み取れるようになります。申し遅れましたが、わたくしはあなたの渡りの手助けをさせていただく、カロンカンパニーのオリヴァと申します。以後お見しおきを」

彼——オリヴァは片膝を床につけたまま、胸に手を当て私にも頭を下げた。





   ※省略





「……ぐっ、うっ……げほっ」

空気を吸い込んだ時に唾液が気管に入ってむせた。

「ああ、大丈夫ですか?」

すかさずオリヴァが私の口枷を外し、呼吸がしやすいようにと頭部に手を添えて顔を少し持ち上げて支えた。

「快楽を拒まず受け入れること。あの御方を、マスターとお呼びすること。この二つを了承いただけるなら、口はこのままにいたしましょう。約束を守っていただけますか?」

拒絶の選択肢ははなから浮かばず、頭上から顔を覗いてくるオリヴァに対し、小刻みに何度も頷いた。

「聞き分けがよくて助かります。では、一度練習しておきましょう」

オリヴァは後頭部を支える手の角度を変えて、エルクへと私の顔を向けた。

「あの御方があなたの主人です」

人間用の椅子の中央にちょこんと座るエルクは、こちらに顔を向けていた。そうなるようにオリヴァが調整していたかどうか、記憶が曖昧だ。

エルクと目が合ったような気がして、ドクリと心臓が強く鼓動する。

「主人をあなたは、なんとお呼びになりますか?」

どこからどう見てもエルクは無機質な人形だ。そんなものを主人などと認められるはずがないのに……。

おかしくなった私の頭はこれが偶像崇拝とかじゃないって理解してしまっていた。言葉にはできなくても、なんとなく、わかる。——エルクは、ただの人形ではない。

「……ぁっ、……マスター……?」

良く出来ましたと、オリヴァに頬を撫でられる。じわり……。私の中を、またひとつ新たな色が侵食した。

「その通りです。他の禁忌は後ほどでも問題ありません。この場において、あなたが絶対に守らなければならないのは、主人の名を口にしてはいけないという一点のみなので、しっかりと覚えましょうね。もう一度……あなたは主人をなんと呼びますか?」

「ぅんっ、ん……っ、マスターっ、ぁっ」

満足そうに深く頷き、オリヴァはそっと私の頭を床に預けた。

「良いでしょう。では、こちらも次の段階へと進めさせていただきます」

「ひんっ、んっ、んんっ……」

ローションでぬらぬらと光る下腹部をオリヴァに押される。腹の奥がキュンと疼き、無意識に膣が締まった。
ぐにぐにと腹部を揉まれるだけでじんわりと甘い感覚に襲われ体を捻った。
悩ましげな嬌声がひっきりなしに口から漏れる。体内に蓄積した快楽が弾けそうになったその時、オリヴァは人形から電マを取り上げた。

「……あっ……はぅ、ぅうー……」

絶頂をはぐらかされ、耐え切れず脚の内側に力が入る。足を開いた状態で拘束されては、もじもじと太腿を擦り合わせることも叶わない。

「んぁっ、あ……ィっ、イキたい、のに……っ」

「少しだけ辛抱ください。陰核は十分に、可愛く勃起できましたので、次は膣の様子を見ていきます」

カートを引いて脚元に移動したオリヴァは人形を後ろへと退け、私の大きく開いた脚の間に膝を付いた。

ぐじゅり……。

とろとろの愛液が溢れた秘裂をオリヴァがなぞる。

「こちらも、よくとろけてますね」

ぬかるんだ膣にするりと指が挿れられた。

「あっ……ゃ、ぁうっ」

オリヴァは膣道の具合を確かめるようにナカをまさぐり、膣奥の肉壁をコリコリと手袋越しに指先で揉み込んだ。

「あぁっ、やだ……、そこっ」

「体の発情に伴い、子宮も降りています。ポルチオでも快楽を得られているようで何よりです」

「いああぁっ、あっ! おく……っ、ぐにぐにするのっ、だめぇっ」

こしゅこしゅと執拗に子宮口をいじられ、腹の奥から深い快楽が湧き上がる。クリトリスの刺激の比ではない、強い絶頂を予感したものの、オリヴァはあっさりと膣から指を引き抜いた。

「……これは失礼。どうやら私が直接責めることは、あなたのマスターのお気に召さないようです。相変わらず、気難しいお人だ」

注文が多くて困ったものだと言いながらも、オリヴァは楽しげに笑う。そしてカートの上に置かれていた棒状の器具を掴み、体の向きを変えてエルクに見せるように掲げた。

「それでは、こちらでさせていただきます」

緩やかな曲線を描く、先端が丸く膨らんだ器具。大人の玩具——バイブであろうそれに、オリヴァがローションを垂らす。私の上半身に塗られたのと同じ、肌が熱くなるものだ。

「……っ、……いや、やめて」

それをどうするつもりなのか、安易に想像ができてしまい顔が引き攣った。

「大丈夫ですよ。膣の状態からして、この太さでしたら問題なく楽しめるでしょう」

「無理っ、……やだ、おねが————っ」

ずぬ……、ぬぐぐぐぅっ——。

「やぁっ、あああぁっ!」

静止を乞うも聞き入れられず、オリヴァは容赦なく膣奥までバイブを突き入れた。
ぞりゅぞりゅと膣壁を押し広げていく。
圧迫感はあっても、痛みは感じなかった。
それどころか、膣道は異物を歓迎するかのように纏わり付き、余すことなく快感を拾い上げてしまう。

強烈な刺激に、私は背中を弓なりにしならせて呆気なく達した。

「いっ……あぁんっ」

トチュン——と、奥を先端の突起が抉る。腹の奥から頭へと甘い痺れが突き抜けた。

「ひっ、やぁあ! ああっ、あんっ、あっ……やだっ! 止めっ……やめてぇっ!」

ズチュッ、ズチョリ……っ、ズチュ、ズチュッ、ズチャ……ッ。

バイブを容赦なく抜き挿しされて、膣がカッと熱くなる。

快楽に身悶える私の理性が、体内の熱によって溶けていく。また……自分の知らなかった「何か」がこの身に植え付けられる感覚に見舞われた。

「……っ? な、あっ……ぇ? もぅっ、あっああぁっ、あうっ、んんぅ」

わからない。わからないけど、何かがおかしい。

……いや、これまで普通じゃなかったことが、ようやく適応できている……?

まるで頭の中がシェイクされて、そこに私の知らないフレーバーが入り込み、知らない味に整えられるみたい。

壊されるのではなく、作り替えられているんだ。

そうしないと……私は、私でいられなくなるから……。

「い——っ、きゃあぁっ! あっ、うぉ……おっ、ぁっ……」

ぐにぃと奥を強く押されて目の前に火花が飛んだ。制御がきかず、全身がビクビクと痙攣する。
オリヴァがバイブによる膣責めを緩やかな動きに変えた。

「…………?」

余韻が落ち着き視線を下に向けるといつの間にか、オリヴァの隣にエルクが立っていた。

「——っ」

人形がひとりでに動いた。驚きに声を出しかけて、咄嗟に自分を律する。

エルクの首がゆっくりと回り、私を見た。無機質で、動かないはずの彼の顔——ほんのりと赤みを帯びた唇が、微かに笑った気がした。

「……ぁっ、あぁっ」

羞恥心がどっと押し寄せて耳まで熱くなる。心臓が高鳴り自分の感情がわからなくなる。

……私、こんな状況で、エルクにときめいているの……?

相手は人形だというのに、どうしてこんなにどきどきするのだろう。戸惑う私の内腿をエルクの小さな手が撫でる。私はそれに確かな安心を感じていた。

エルクが秘所へと手を伸ばす。目指したのは、バイブを咥えた膣の上、ツンと勃起したままになっているピンク色の肉芽だった。

「きゃうんっ!」

小さな小さな人形の手で、クリトリスを摘まれる。
神経の集中する裏筋を細い指で撫でられて体が仰け反った。ひとつひとつの指が繊細に動き、親指と中指で突き立つ肉芽を挟んで扱かれる。

「やあぁっ、それ、もっ……っ! ああっ、ああぁんっ、やだぁ……あうっ」

どれだけもがいても、エルクの手はクリトリスから外れない。敏感な箇所に与えられる刺激に連動して膣が収縮して、ナカのバイブを食い締める。
そしてまた、身に余る快楽が思考を埋めていく。

「気持ち良さそうで何よりです」

オリヴァはドア近くに控えていた大きな人形を呼び寄せバイブを持たせる。

「ゆっくりと動かしてあげてください。メインの快楽は、主人の施しがよろしいでしょう」

膣の責めを人形に任せ、黒の手袋を新しい物と交換したオリヴァが、その手で私の目を覆った。

「んんっ、はっ……ああぁん、あっ、……あぁ」

「感じる快楽はたくさんあるでしょうが、あなたはマスターの指に集中しましょう。……陰核は、どのように触れられているか、感覚でわかりますね」

「いぃんっ、あっ、はい……いっ、わ……わかっ……りゅ」

「よろしい。そのまま身を預けて……」
「うっ、ぃんっ……ぁ、あぁ……」

視界が真っ暗になっても、エルクがクリトリスを弄る手つきは鮮明に感じられた。

細い指が突起の上を滑り、優しく撫で上げてくる。決して激しくはない。強さの加減にいたわりを感じ、無意識にエルクの愛撫に身を任せようとした、その時——。

ヴウウウウゥゥン————っ。

重い振動に膣奥を叩かれ、電気ショックを受けたように大きく体が跳ねた。

「いやああああぁぁ——っ!!」

電源の入ったバイブにポルチオをゴリゴリと責められ、頭の中で神経が焼き切られていく。黒かったはずの目の前が真っ白に染まり、自分でも驚くほど大きな悲鳴をあげた。
エルクの手がクリトリスから離れる。
膣奥に押し付けられた振動が緩み、ガコンッと足元で物が崩れる音がした。

「きゃうっ、あっ! はぁっ、あぁっ、んぁ……ぁあっ」

バイブの責めが弱まっても、体の痙攣が止まらない。





   ※省略




「……っ、ぁっ……マスター……」

自分が変わっていく恐怖に耐えられず、エルクに縋る。

大丈夫だ、ここにいる——と。私を安心させようとするエルクの心が、手に取るように理解できてしまった。

膣内の振動が気持ちいい。頭がふわふわして、涙が止まらなかった。

しばらくそんな状態が続き、疲労が快楽を上回りかけたころ。

……ポーンと、どこからともなく電子音が聞こえてきた。

「——ご乗船の皆様にお知らせいたします。当船は間もなく、境界の上を通過します。繰り返します————。——皆様におかれましては……」

抑揚のない事務的な声の館内放送が聞こえてきたのは覚えている。

しかしスピーカーから響く案内を聞き終わる前に、私の意識は暗転した。





     *





「————っ!」

勢いよく身を起こすと、体に掛けられていた薄い羽毛布団がずれ落ちた。

「……ゆめ……?」

ベッドの上で、私は眠っていたようだ。

「…………ここは?」

周囲を見渡すが、記憶にない場所だ。
室内には二つのベッドが並び、チェストや鏡台、椅子にソファなどの家具も置かれているが、生活感がない。洋風の装いも相まって、高級なホテルみたいだった。

惑いながらも自分の手のひらを見る。私の手だ。身に纏っているのは、飛行船のディナークルーズのために新調したカクテルドレス。
間違っても、裸などという破廉恥な姿ではない。

体には異常がないようで、安堵感から大きく息を吐き出した。

とてもとても、淫らな夢を見ていた気がする。
飛行船とか、上流階級の人たちの中に入って食事をしたり……普段経験しないことに緊張しすぎて、頭がキャパオーバーになってしまったのだろう。
きっとそうに違いない。

自分に言い聞かせてベッドを降りる。
明るい日差しが差し込む大窓から外を覗くと、広場のような場所のさらに奥、大通りを挟んで民家やビルの並ぶ街が見えた。

全体像は把握できないけど、ここは船の上——なのだと思う。広場の先に建つ横長の施設には、二階のバルコニーの柵に「おかえりなさい! ようこそ! ×××港へ!」と大きく書かれた横断幕が掲げられていた。

港の名前は私の知らない漢字が使われていて、読むことができない。
横断幕を注意深く観察すると、おかえりの「り」と、ようこその「よ」と「こ」の文字が反転して鏡文字になっている。
これはあえてなのか、誤字なのか……。

「あっ……」

陸地に見知った人を見つけ、窓を開けてバルコニーに出た。

柵から身を乗り出して凝視すると、広場の芝生を歩く人たちも私に気づいたようで、振り返ってこちらに向かって手を振ってくれた。昨夜、飛行船で一緒に食事をした人たちだ。

ぺこりと頭を下げて、急いで部屋に戻る。
船はもう港に到着したのだ。私も早く降りなければいけない。

ソファに置かれたバッグからスマホを取り出して開くも電池が切れていた。昨日一日使って夜に充電していなかったのだから仕方がない。

行きもそうだったのだから、港から駅までシャトルバスは出ているはずだ。それで帰ろう。

幸いにも今日は土曜日。仕事もないからゆっくりできる。
部屋を出て、長い廊下を駆け足で進んだ。

しんと静まり返った船内には人の気配がなかった。
早く船から降りなきゃいけない。焦る気持ちはあっても、広い船内のどこに出口があるのかわからなくて困り果てた。せめて船の案内図が見つかればいいんだけど……。

少し歩いただけで足が重い。息切れも酷くて……きっと疲れているんだ。

とても船の中とは信じられない、大きな階段を上に行くか下に行くか悩んで立ち止まる。

階下からスーツ姿の男性が階段を登ってきた。
人がいた。ほっとできたのは一瞬だけで、一気に緊張が高まった。男性のスーツのデザインが、彼——オリヴァの着ていたものと同じだったから。

「どうかなされましたか?」

「あの……、出口がわからなくて……。すみません、船を降りるには、どちらに行けばいいのでしょうか?」

物腰穏やかに話しかけられたことで少しだけ安心して、恥を忍んで帰り道を聞いた。
男性は不思議そうに私を見下ろす。

「失礼ですが、お連れの方はどちらにいらっしゃいますか?」

「いえ、私は今回は一人で——」

——参加したと、言おうとしたのだ。

「ああ、ここにいたのか」

だけど背後からした声に遮られ、私の言葉は最後まで続かなかった。

振り返ると、青年が悠然とこちらに向かって歩いていた。

猫っ毛にうねる、綺麗な金色の髪をした、エメラルドグリーンの瞳の、美しい男性だった。
まるで物語の王子様が、現実に姿を現したみたい。
それほどまでに完璧な容姿の、まるで人形のような……。

近づいた彼は私よりも頭ひとつ分背が高かった。

「駄目じゃないか。勝手に先に行くなんて……部屋に戻ったら君がいなくて心配したよ」

その人は当然のように私の肩に手を回す。
上を向いて、至近距離でまじまじと見た彼の顔には既視感しかなくて。

ぐるぐる、ぐるぐると脳内が混乱を極めた。

「大丈夫?」

心配そうに、彼が私の顔を覗き込む。
人懐っこそうな優しい目つき、口や鼻といった顔のパーツ……彼はどれもが、エルクにそっくりで……。

「…………マスター?」

——エルク、と。呼ぼうとした私の口から、自然とその単語が溢れた。

私の呼びかけに、彼の口端がゆっくりと持ち上がる。

「うん、そうだよ? 何かあった?」

そう……だ。マスターで、いいんだ……。
——刹那、私の脳裏に淫らな記憶がどっとなだれ込んできた。

霞が晴れて、夜の出来事が鮮明になっていく。

あれは夢じゃなかった。

夢なんかじゃなくて……。

もう私にもわかる。——わかるように、なったのだ。

人形だった彼は、ここにいる。

この人が、私のマスター——。

パズルのピースが揃うように、頭の中で様々な情報が合致していく。

認識が深まるにつれて、秘部に耐えがたい疼きが蘇る。

どさりと、手首からバッグが滑り落ちた。

「おっと」

足に力が入らなくなって崩れ落ちる私を、——マスターが支えてくれた。

「……ぁっ」

彼の体温を肌で感じ、甘い吐息が漏れた。腰のあたりがゾクゾクと痺れてくる。
急な発情にうろたえることしかできない。

「な……んでっ……?」

「まだ不安定なんだから、無理もないよ」

マスターが軽々と私を横抱きにした。

「お待たせ。——さあ、うちに帰ろうか」

当然のように彼は言い放つ。
一体どこに帰るのかと、私はマスターに問いかけることができなかった。




    ※省略




マスターが私のカクテルドレスのファスナーを下ろす。光沢のある生地が肩からずれ落ちるのを、ぼんやりと見届けた。

「これはもういらないかな。ドレスも下着も、これからは君が身に付けるもの全ては僕が選ぶよ」

下着を外され、生まれたままの姿になっていく。恥ずかしさとか、心許なさはあるけど、嫌だとは思えない。
そんなことよりも、やっとマスターに可愛がってもらえる、期待のほうが大きかった。

ベッドの上でマスターに背中を預ける。後ろから脇腹を撫でられると、くすぐったさに吐息を漏らした。

「君の気持ちいいところはどこだろうね」

「ひんっ、……っあ……っ」

耳に流し込むように囁かれ、びくりと肩が跳ねる。首をすくめた私をクッと笑った彼に耳たぶを甘噛みされる。

「耳も弱い? 僕の声に感じるんだ」

中性的な響きが脳を揺らす。弾力のある舌が耳を押し舐め、いやらしい水音に聴覚が犯される。

「はぁっ……あっ、んぅう……っ」
淫らな音は子宮にまで響き、下腹部が疼く。マスターで満たされたいと望むものの、体が思うように動かない。

「マスター……っ、んゃあ……、あんっ、もぅ……っ」

「我慢できない?」

「うん……ぅぁあっ、も、ほし……ぃっあぁっ、……ナカ、寂しいの……あぅんっ」

言葉にしてしまうと、もう駄目だった。
触れられてもないのに膣口から蜜がとろりと零れていく。早くマスターに奥まで蹂躙して欲しい。身も心も、彼のものになりたいの。

「そうだね。ここもゆっくり慣らしていこうか」

マスターの手がぬかるんだ秘裂をなぞる。クチュリと愛液が絡み、滑りを纏った指先でクリトリスを撫でられた。

「あっ、ああぁっ、……んぅ——っ」

「こらこら、脚を閉じてしまったら可愛がれないよ?」

「あっ……ぁ」

指摘されておずおずと脚を開く。

「そう……いい子だね」

「んぁあ、ああっ、あうぅ……んっ」

マスターの長い二本の指が、膣内に侵入してきた。肉壁を探りながら、奥へ、奥へ——。

「君のナカはすごく温かいね。ヒクヒクして、健気に締め付けて……やっと、ここに僕の指で触れられる」

「ふぅんんっ」

最奥を一突きして、指は浅いところへとずらされる。ぐうぅとクリトリスの裏側を押され、快感に背中がしなった。

「んんぅ、あっ、はあぁん……っ、いぅっ」

敏感なポイントを優しく撫でさすられ、緩い快感に油断してくたりと力が抜けたタイミングで、強く肉壁を揉み込まれる。
変則的な動きに翻弄されて片時も休まらない。膣道はマスターの指を締め付けては少しでも快楽を享受しようとうねり、愛液を分泌し続けた。

掻き回される動きに合わせ、クチュクチュといやらしい水音が響いて羞恥心に襲われる。

「人形の体だとこんなことできなかったからね。君を可愛がるのは僕ひとりで十分だ。安心して……もう誰にも触れさせないよ」

とろとろの膣道をじっくりと余すことなく弄られる。

「はっぁあっ、んやぁ……っ、マス、タ……ぁっ」

感じる箇所を見つけては重点的に責められ、甘い声をあげてしまうのだけど、絶頂には至らない。

快楽と焦ったさに翻弄されるも、不思議と自分で欲求を解消しようとは考えられなかった。
マスターの楽しみを、私が邪魔してはいけないの……。




   ※省略




マスターが服を脱ぎ捨てる。引き締まった肉体——体のバランスに既視感を覚えるも、自分がどこでそれに近いものを見たのかは思い出せそうになかった。

それよりも、美しい彼の裸に期待が高まり、膣からどろりと精液が溢れた。

私に覆い被さったマスターは、精液をまた膣奥へと押し戻すように、肉棒を挿し入れる。

ヌチャ、ズヌヌウゥ——ドチュンッ!

「ああっ! あああぁっ——!!」

一気に奥まで捩じ込まれたペニスを膣壁が隙間なく包み込む。たったひと突きで絶頂に押し上げられた私は、腹の奥に感じる強い痺れに酔いしれて、無意識に腰をへこへこと動かしていた。

「いぇ……? へ、えぁっ……あ、おぅっ……っ」

さっきよりも、快感が深まったのは絶対に気のせいなんかじゃない。
口をパクパクして必死に息を吸い込み、全身を痙攣させる私に反して、マスターは快感を得ながらも余裕そうだった。額に汗を滲ませながら、私の目からこぼれた涙を舌で舐めた。

「あっ……あぁっん、マスター……ああっ、あうっ!」

「こうやって、ポルチオをぐにぐにと捏ねられるのと、さっきみたいに激しくピストンするのとじゃ、どっちが好き?」

「いぃんっ、あぁ、……どっちも、どっちも……すきぃ……いっ」

深い場所で味わう絶頂感は余韻が長く、なかなか降りることができない。落ち着く間もなく膣奥を責められ、子宮を揺さぶられてまたすぐにイッてしまう。

ズチュッ、ズチュン——ッ。ヌグッ、グゥ……、ググッ、グニグニィ——。

「おぁっ、あぅっ、ん……ぅ、うっ、ぐぅ、いっ……いぐ、ぁっ、ああぁ——っ!」

私が何度絶頂に至っても、マスターは腰を止めない。
彼は私の口から漏れる喘ぎに聞き入り、肉体の反応を観察して、膣壁の淫蕩なうねりを楽しんでいた。

「可愛いなぁ……。……不運で哀れな君が、愛おしくてたまらないよ」

「へぁ……、あっ、……? い……ぃあっ、ああっ」

マスターが話している。言葉に集中したいのに、ポルチオをズンズンされては快感でそれどころじゃなくなってしまう。




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