littleambtion 2021/11/10 13:47

【気まぐれ読み切り小説】兄はピンチの時こそ本領を発揮する

 目の前に迫る凶悪な光の奔流に新城優奈はもうダメだと思った。
 魔導防護服は完全に機能を失って、普段着に戻っている上に優奈自身もダメージが大きすぎて動けない。
 少し離れたところには自分を魔法の世界に導いたパートナーのアリスが倒れている。
 唯一の味方もやられて、優奈には打つ手が無かった。
「誰か…」
 助けを呼ぶ声も弱弱しい。
 まだ、まともに恋だってしてない。
 もっとこれから楽しい事があるはずなのに、ここで終わってしまうの?
 優奈は悔しさにきつく目を閉じる。
 その時、優奈は自分の前に誰かが降り立った気配を感じた。
「え?」
 誰かが自分の前にいる。
 その気配に顔を上げようとした。
「全く、世話が焼けるな。“アブソルート・フィールド”」
 聞きなれた声が聞こえた直後、優奈を飲み込むはずだった光は降り注がなかった。
 確かにアブソルート・フィールドと聞こえた。
 絶対防御領域魔法。防御魔法の最上位魔法だ。
 優奈はおろか、アリサさえ使えない。
 少なくとも上級魔法使いでなければ使えない魔法だ。
「優奈、大丈夫か?」
 その声に顔を上げると、あり得ない人物がそこにいた。
 目の前にいる人物は。
「う、うそ、お、お兄ちゃん?」
「そうだ」
 優奈の兄、隆之が薄く暗いドーム状の防御魔法アブソルート・フィールドを張って光を防いでいた。
 どうして兄がここにいるのか?
 優奈には分からない。
 そもそも魔法使いでもなかったはずなのだ。
 しかし、現実は目の前にある。
「な、何でここに?」
「いろいろと説明したいところだけど、ちょっと待っててくれ」
 疑問はもっともであるが、隆之の雰囲気から今はそれどころじゃないのが分かる。
 隆之は優奈から上空へと視線を向けた。
 その先にいるのは、黒い魔導防護服に身を包んだ魔法使いだ。
 名前はルシファーと名乗っていた。
 堕落した天使の名前である。
「新城隆之、貴様、引退したはずではなかったのか?」
 かなり上空にいるにも関わらず、傍にいるように聞こえる。
 それに対して隆之も返した。
「引退したさ。だけどよ、どっかの誰かさんが大暴れしてくれるおかげで先週、復帰要請が来ちまった」
「くくくっ。私のせいとでも言いたげだな」
「てめぇ以外に誰がいる?」
 二人のやりとりがあり得ないと優奈は思った。
 少し前まで優奈が追っていた魔法がある並行世界の違法魔法使い。
 並行世界の住民にして第一級テロリスト、そして地球の脅威となる人物だ。
 そしてそのルシファーと対等に話をしている兄に驚きを隠せなかった。
「い、今のうちに」
 優奈は兄がルシファーを相手してくれている内に、アリスの元へと這い寄る。
 ほとんど魔力は無いが、応急処置くらいなら出来る。
 治癒魔法をアリスに掛けながら、優奈は自身の兄を見守ることにした。  
 隆之とルシファーはまだ会話を続けている。
「なるほど、新城の名と魔力の性質が似ていると思ったらその娘はお前の妹だったか」
「そうだ。しかし、良くもまあ、ここまで妹を追い込んでくれたもんだ」
「貴様の妹が弱いからだ。だが、貴様なら私を満足してくれるだろう」
「俺はてめぇを満足させるために戻って来たんじゃねえから、な!」
 隆之がルシファーに手を向けた。
 ルシファーも同じようにする。
「今度こそ、てめぇをあの世に送ってやるよ」
「ブランクのある貴様に出来るか?」
 会話が途切れて、お互い魔法の発動に入った。
「くらえ“ブライト・キャノン”」
「これを受けれるか? “ダークネス・ファング”」
 光と闇の帯が同時に放たれる。
 ぶつかり合う光と闇、威力はほぼ互角。
 削りあう光と闇の間がまるで終わりを示すかのように全てを呑み込んでいる。
 凄い。
 優奈はその一言に尽きた。
 今まで、自分が戦ってきた違法魔法使いとはわけが違う。
 圧倒的にレベルが違うのだ。
「うっ……。こ、これは?」
 治癒魔法をかけ続けた甲斐があったのか、アリスが目を覚ますと目の前の状況に目を奪われていた。
 同時にルシファーと対峙している人物を見て更に驚く。
「た、隆之さん!」
「アリスちゃんも知らなかったんだね。そう、お兄ちゃんなんだ」
「一体、何がどうなってるわけ?」
「わたしにも分からない」
 アリスの問いに首を振る。
 今は待つしかないのだ。
 戦いが終わるのを。
 ルシファーは内心、舌打ちをしていた。
 想像以上に隆之の魔力が強いのだ。
 ブランクが空いているからと言っても、そう簡単には退けないとルシファーも踏んでいたからこそ自身が持つ最強の魔法を使った。
 だと言うのにどうだろうか?
 相手も同威力の魔法を放ち、ほぼ互角。
 魔力量もほぼ同じだけに、気が抜けない。
 しかし、それは隆之も同じだった。
「ちくしょうが……。腐っても魔王の名前を名乗るだけのことはあるよな」
 ルシファーが自分を相手に最強の魔法を放つだろうと踏んでいたからこそ、最強の魔法で向かい受けたのだ。
 当然、終わらせるつもりで。
 しかし、相手は隆之が引退してからも腕を磨いていた。
 五年前、隆之が戦った時はわずかに隆之の方が力を上回っていた。
 だからこそ、退ける事が出来たのだ。
 だが、今回はそうは行かなかった。
「怠けてたのが祟ったな。だが!」
 ほぼ互角なら、より魔力を込めるのみ。
 要は相手を押し切れればいいのだ。
 隆之は更に魔力を絞り出し、“ブライト・キャノン”に上乗せする。
「なに!」
 ルシファーが驚愕の表情に変わった。
 当たり前だろう、均衡を保っていた力のバランスが崩れたのだから。
 わずかに押され始め、ルシファーは顔を強張らせる。
「おのれ、まだこんな力があるのか……。ならば!」
 押し切られるわけには行かない。
 ルシファーも残った力を“ダークネス・ファング”に乗せる。
 光と闇が更に激しく食い尽くしあう。
 周りの大気も震え、余波で辺りの建物が崩れ始めた。
「レベルが違い過ぎる……」
 この光景を見て、アリスは呟いた。
 アリスとて自身が弱いだなんて思わない。
 優奈も同様に、魔法使い初心者なのにアリスの右腕に成れる程の力を持っている。
 攻撃力だけなら優奈の方が上と言っても過言じゃない。
 更に今までの敵も苦戦こそすれ、倒して来れたのだ。
 アリスにとって多少の自負があったが、目の前の戦いは度を過ぎていた。
「悔しいな……」
「え?」
 優奈は振り返るとアリスは二人の戦いを見つめながら下唇をかみしめている。
「隆之さんはこっちの世界の人じゃないのに、わたしたちじゃ手も足も出ない相手に互角なんて」
 ホントに悔しい。と。
 優奈は一度自分の兄の方を見て思う。
 引退していたのが呼び戻されたって言っていた。
 それは自分たちじゃ歯が立たないと認識されていたことに他ならない。
 確かに、それは悔しいと優菜も思った。

見たいシーンのみ書いたやつ

小説家になろうの執筆中から。
こう兄貴が突然現れたら的なものを書きたくて、でもプロローグから書く気が無くて書きたいシーンのみ書いて満足してたやつです。

簡単な設定

魔女狩りが行われた中世を境に分岐した二つの地球。
片方は魔法が当たり前になり、片方は魔法を世界から排除した世界。
物語の始まりは並行世界から違法魔法使いを追って地球へ来たアリスが事件に巻き込まれた新城優菜と出会い、外部協力者として共に違法魔法使いを取り締まる。

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