三紋昨夏 2024/06/30 09:00

【短編小説】幼竜ショタにNTRれた女騎士団長

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完全敗北した爆乳巨尻の人妻騎士、夫を殺したブラックドラゴンの仇胤で孕まされる


「――ハアァァッ!!」

 女騎士は凜々しい叫び声を上げ、身の丈ほどの大剣を振るう。必殺の一撃が敵の急所を捉えた。刃の切っ先が魔物の分厚い皮膚に食い込む。
 軟弱な斬撃を弾き返す鋼の表皮。だが、剛力を誇る女騎士は勢いそのままに、大剣を振り抜いた。

「ぐぎゃぁ! ぎゃあぁあああぁあっ⋯⋯! あぁぐぅっ⋯⋯!!」

 血吹雪が咲き乱れる。女騎士は巨鬼の腹部を掻っ捌き、真っ二つに両断した。

「このオレが⋯⋯! 脆弱な人間の女なんかにぃっ⋯⋯!!」

 口から血泡を吹いて魔物は倒れ伏す。人間を脆弱な生き物だと蔑んでいた巨鬼は、最期の瞬間に思い知った。自分が狩られる側――圧倒的弱者であった事実を。

「ふんっ⋯⋯! たわいない!」

 巨鬼を斬り伏せた女騎士は不服そうだった。刃に付着した血を払う。周りを取り囲む小鬼達は動揺を隠せていない。

「こんな雑魚が荒れ野の主だと? 肩慣らしにもならないな。所詮はこの程度か⋯⋯!」

 女騎士は大剣を天に掲げた。生き残りの魔物を挑発する。だが、襲いかかってくる様子はない。みっともなく後退りして、逃げ腰だった。

「さあ、貴様らはどうする!? 頭目の巨鬼はこの通りだぞ? 臆して声すら出せんのか? 仇討ちをしたい愚か者は私の前に出てこいッ! 私の大剣で捻り潰してやる! さあ、最初はどいつだ!?」

 巨鬼の死骸を足蹴にする女騎士。首魁を討たれて動揺する小鬼どもの掃討に取り掛かる。

「ヒュギャアアアアア! ギギャアアアアアアア!!」
「ピギィイィィィィッ! フィヒギャアアアアアアアアア!!」
「ピギィ! ピギャアア! ギャギャギャギャアアアアアッ!」

 耳障りな喚き声と悲鳴を上げながら小鬼は敗走し始める。リーダー格のいない群は混乱状態に陥った。

「小鬼どもを逃すな! 一匹残らず駆除だ! 騎士団の名誉にかけて鏖殺せよ!」

 騎士達は包囲を完成させている。巨鬼が敗死した時点で大勢は決していたのだ。

「どうせ死ぬなら、挑みかかってこい! 軟弱者どもめ!!」

 包囲網の中心では女騎士が大剣を竜巻のように振り回す。切断された子鬼の頭部や四肢が空を舞う。魔物達の返り血で、女騎士の白銀鎧が真っ赤に染まった。

「ふぅ。やれやれだ。これでは蟻を踏み潰すのと変わらん」
「マドリエンヌ様! お怪我はございませんか?」

 地面に転がる小鬼の死骸を飛び越えて、女騎士のもとに部下が馳せ参じる。

「戯言を抜かすな。この私が怪我をするわけないだろう」

 女騎士の名はマドリエンヌ・ド・バリハール。黄金髪を靡かせる美女は、負け知らぬの大剣豪であった。剛剣の二つ名は辺境諸国に轟き、街道で悪さを働く魔物を駆逐してきた。

 生来の恵体は屈強な大男を投げ飛ばす膂力。身の丈ほどの大剣を片手で振り回し、女にあるまじき豪快な戦いを好む。

「それとだな。ライアン⋯⋯!」
「はい。なんでしょうか? マドリエンヌ様?」
「ライアン!」
「は、はい⋯⋯? マドリエンヌ様?」
「⋯⋯ライアン」
「何か? お気に障ることでも? マ、マドリエンヌ様⋯⋯?」
「お前の態度だ! いつまで私を様付けで呼ぶ気だ? 妻をよそよそしく様付けで呼ぶな。そんなんだから夫のくせに、私の小姓扱いされるのだぞ!」
「実際、僕はマドリエンヌ様の小姓みたいなものですよ」
「世迷い言を抜かすな。私と結婚して何年目だ? そろそろマドリエンヌと呼び捨てにしろ! まったく! 夫が侮られて困るのは私だぞ」

 駆け付けた部下の青年は苦笑いする。彼の名はライアン・ド・バリハール。女騎士マドリエンヌの夫だった。

「そんなこと言われたって、今は仕事中なんだよ? 僕は騎士団所属の魔法使いで、マドリエンヌ様は団長だから⋯⋯ね。上官と部下だ。夫婦だからといっても序列は軽視しちゃいけない。僕の立場を分かってほしい」
「ライアンは頭が固い。誰もそんなことは気にしていないぞ。団長を呼び捨てにしたから何だというのだ。妻は妻だろ!」
「恐ろしい団長の前で、文句を口にする命知らずな騎士はいないさ」

 ライアンは浄化魔法を発動する。マドリエンヌの白銀鎧に付着した汚泥や返り血が洗い流された。治療の魔法専門家だが、マドリエンヌは滅多に怪我をしない。多用する魔法は身を清める浄化系ばかりだった。

「あとは死骸の処理だけです。休まれては?」

 砕けた口調を改めて、ライアンは仕事用の顔に戻る。
 マドリエンヌは夫の態度が気に食わなかった。しかし、咎めはしなかった。不機嫌そうに唇を噛むだけにとどめる。

「討ち漏らしははいないだろうな?」
「大丈夫です。包囲を逃れた小鬼はいませんでした」
「私が留守の間、騎士団は怠けきっていたらしい。特に新人は練度が著しく落ちているぞ。情けない」
「彼らは立派に働いていましたよ。マドリエンヌ様が大暴れしてくれたおかげで、完璧な包囲戦ができました。一匹残らず駆除完了です。群の戦闘員は全滅、小鬼達はしばらく街道に出てこないでしょう」
「薄汚い豚どもめ。山奥の洞窟でこそこそ生きていればいいものを⋯⋯。弱いくせに数が多くて困る。戦っていて詰まらん相手だ」
「荒れ野の主は手応えがありませんでしたか? 依頼を受けた冒険者が返り討ちに遭っていたそうですが⋯⋯」
「この雑魚に? どうやったら負けられるんだ? 素手でも勝てたぞ」

 ライアンは真っ二つになった巨鬼の死骸を調べる。

「即死ですね。さすがはマドリエンヌ様。剛剣の技は衰え知らずだ」

 一撃で敗れ去ったようだ。死に顔に刻まれた感情は恐怖と驚愕。人間に力負けするとは考えてもいなかったのだろう。しかも、相手は脆弱なはずの女だったのだ。

「赤肌の巨鬼は一撃で死んでしまったぞ。あんなのが頭目でよく群を統率できていたものだ」
「襲撃されたキャラバン隊から報告されています。棍棒を使う赤肌の巨鬼。外見上の特徴が一致していますよ」
「はぁ⋯⋯。おいおい。嘘だと言ってくれ。弱すぎだ。私の剣撃を一度も受け止めきれず、ああなったんだぞ」
「マドリエンヌ様の期待に添いませんでしたか?」
「当然! 期待外れだった! ん⋯⋯? 待てよ? もしかして他の個体だったりするか? 赤肌の巨鬼なんてそこら辺にいるだろ」
「赤肌は珍しい変異種ですよ。頭部に特徴的な古傷があります。まず間違いなく、この巨鬼が荒れ野の主でしょう」
「こんな弱っちい雑魚の魔物が、街の脅威に認定されてしまうのか。私が休職したらこの体たらくとはな。⋯⋯もっと早く復帰するべきだった。病み上がりでも全く問題なかったな」
「病み上がりって⋯⋯。別に病んでいたわけじゃないでしょう? そこは子育て中だったと言うべきですよ。マドリエンヌ様」

 マドリエンヌは街で有数の貴族だった。本来はお飾りで騎士団の旗振り役をする乙女。だが、どういうわけか実力で騎士団長になってしまった。
 自分より強い男を婿にすると言いだしたが、マドリエンヌに勝てる男は現れなかった。このままでは血筋が断絶しかねないとバリハール家は慌てた。この際、誰でもいいから結婚して後継者を産んでほしい。マドリエンヌに一族総出で頼み込んだ。

「少しは淑女らしくされては? 実家のご両親が喜びますよ?」
「どうだか。特に母は実娘の私よりも、婿のお前を気に入っているだろう」
「そんなことはないです。子供が可愛いと思わない母親は、この世におりません」
「そうだといいがな。私は生まれる性別を間違ったかもしれん。腹を痛めて産んだ息子や娘を見ても、母親らしいことができない。男に生まれていれば気楽だった。それでライアンが女であれば万事解決だ」
「いじけたことを言わないでください。それだけの美貌を持っているのですから、マドリエンヌ様は魅力的な女性ですよ」
「夫のくせに⋯⋯。他人行儀な口調でお世辞を言うな」

 魔法使いのライアンは幼馴染みだった。六つほど年下で弟のような存在だった。女同士では会話が詰まらないので、いつもライアンを連れ回していた。
 自分より強い男と結婚できないのなら、自分より賢い男を伴侶にした。気心が知れた相手であり、家柄にも問題なく、すんなりと結婚は決まった。
 騎士団を休職していた六年間でマドリエンヌとライアンは子作りに励み、男児二人と女児三人を産んだ。
 子供を産めば母性に目覚めて女らしくなるかと周囲は期待した。しかし、そんなことはなく、子産みの役目を終えたら騎士団に復帰してしまった。

「おい、知ってるか? 街ではこう言われてるらしいぞ。バリハール家の子供達はライアンが産んだ。魔法で性別を入れ替えでもしなければ、子供が産まれるはずはない」
「失礼な噂ですね」
「乳飲み子に母乳を与えてるのはライアンらしいぞ。くっくくくくく! 実際そうなのやもしれんな」
「本気で信じる人間がいるからやめてください。腹を痛めた赤子を産んだのはマドリエンヌ様ですよ。僕が痛めたのは腰だけ」
「まったく。街の年寄りどもは後継者がどうのこうのと煩わしい」
「ご両親を悪く言うのもいかがなものかと。お家が心配なんですよ」
「ともかく血統は残した。五人も産んでやったのだから、あとは私の自由だ。好きにやらせてもらう。そもそもだ。子供達は乳母のメイドに懐いている。私は母乳がでなかったからな。武骨な母親に育てられたくはあるまい」
「そんなことを言わずに⋯⋯。長男のロジェは立派な騎士になりたいと言っていたよ。きっと母親に憧れているんだ」
「そうだといいが⋯⋯。ロジェは気性が優しすぎる。魔法使いのほうが向いている」
「両方の才能が遺伝していれば、ロジェは魔法騎士になれるかもしれない」
「楽観的だな⋯⋯。親馬鹿め」

 子供に対する愛情はあった。だが、普通の母親として振る舞えない。それならばいっそ、距離を取った方がお互いのためでないのかとマドリエンヌは考えてしまう。
 生まれつきの剛力で、幼少期からマドリエンヌは恐れられた。力の加減を覚えるまで、何人もの人間を病院送りにしたせいだ。
 思い返せば親しくしていたのはライアンだけだった。腕の骨を折ってしまった翌日も、ライアンは笑いながら会いに来てくれた。骨折を魔法で治せるようになったと笑っていた。
 

「マドリエンヌ様。後処理は部下達に任せましょう。子供達が帰りを待っているよ。街に戻ろう。母親の英雄譚を聞きたがっている」

 夫の表情になったライアンが語りかける。五人の子供達は、父親を好いている。マドリエンヌはろくに母乳が出なかったせいもあって、子供達と触れあえていない。
 末娘にいたっては、マドリエンヌを怖がって泣き出してしまう。その理由をマドリエンヌは知っていた。

(はぁ⋯⋯。おそらく私は子供に嫉妬していた。恥ずかしくて公言はできないが⋯⋯。最近のライアンは子供のことばかり⋯⋯。幼いながらも子供達は、私の幼稚な内心を見透かしている気がする)

 子供を産んで初めてマドリエンヌは自覚した。いつも自分を見てくれていた青年が、我が子の世話に奔走している。産後の妻を労ってくれたが、やはり最優先は子供達だった。

(ライアンは子育てのことばかり私に言う。武具の買い出しにも付き合ってくれない⋯⋯。少しくらい子供を放っておいたって死にはしないだろ)

 今回の遠征にライアンを無理やり連れ出したのは、自分の子供達に夫を盗られそうな気がしたからだ。マドリエンヌは母親になれなかったが、自分の恋心を初めて理解した。

「分かった。帰ろう。久しぶりに魔物どもを殺せた。今の私は機嫌がいい。家族サービスをしてやらんでもない」

 マドリエンヌは髪結いを解いた。長髪は嫌いだったが、女らしくあってくれと母親に懇願されて伸ばしている。手入れはライアンに任せているので、放っておくと寝癖が酷くなって、野生児のようになる。
 二十代の頃はお淑やかさに欠けたお転婆娘で押し通せた。だが、子持ちの人妻となり、三十路を越えた。年下の夫であるライアンは、二十代前半だがそろそろ青年と呼ばれなくなる年頃だ。

(騎士団に復職したものの⋯⋯。そろそろ私も大人にならなければいけないのか。居座り続けるもの考えものだな)

 腕は鈍っていなかった。五人の子供を産んで胸と尻周りが大きく肥えてしまったが、筋力に衰えはなく、全盛期を維持できている。愛用の大剣と白銀鎧を使いこなせていた。

 剛剣の女騎士マドリエンヌ・ド・バリハールが魔物に敗北するなど、誰も予想できなかった。当人すらも自分が無敵だと信じきっていた。
 小鬼を暴力で支配していた巨鬼も、マドリエンヌに殺されるまで自分が最強だと疑っていなかった。無敗の強者は敗北を味わう瞬間、初めて理解させられるのだ。
 井の中の蛙、大海を知らず。世界は途方もなく広く、上には上がいる。



 ◆ ◆ ◆



「――何だ! これは!!」

 街道の商人を襲っていた魔物を掃討し、本拠のある街に凱旋したマドリエンヌは、凄惨な光景に憤怒した。
 打ち破られた門、逃げ惑う人々、市街地のいたるところで火の手が上がっている。
 騎士団の全員が出陣したわけではなかった。所詮は魔物退治。防衛戦力は十分に残していたにもかかわらず、街は陥落寸前だ。防衛にあたった騎士達は、生き延びた住民を領主の城に避難させたが、これは逆効果だった。誰かが叫ぶ。

「――お、おい! あれを見ろ!! ドラゴンだ!! ドラゴンが空を飛んでいる!!」

 街に到着したマドリエンヌは黒竜を目撃した。最強の魔物と言われるドラゴン。漆黒の鱗に覆われた暴竜は、マドリエンヌの留守をいいことに街を荒らし回っていた。

(ブラックドラゴン! 街を破壊した魔物はあいつか⋯⋯!!)

 領主の城を破壊しようと旋回している。狙いは宝物庫にある金銀宝物。ドラゴンは貴金属に執着する。攻城兵器のバリスタで反撃しているが、飛翔するドラゴンに当てるのは不可能だ。

「騎士団よ! 街を救うぞ! 広場に誘き出せ! ドラゴンは私が仕留める⋯⋯! あれは私の獲物だ!! 騎士達よ! 私に続け!!」

 マドリエンヌは街を駆ける。出陣していた騎士団の帰還を知った街の住民は歓声をあげた。剛剣の女騎士であればドラゴンを殺せる。領主の城に張られた防壁は耐えていた。

「ライアン! 城の魔法防壁はいつまで持つ?」
「防壁の起点である要石が破壊されない限り、しばらくは耐えてくれる⋯⋯!」
「さすがは辺境最強の魔法使い! ライアンの魔法ならドラゴンにも負けはしないな!」

 竜炎の息吹は魔法の護りを打ち消す。しかし、卓越した魔法使いであるライアンは、ドラゴンの猛攻に耐える魔法防壁を築いていた。魔法防壁が崩れ去れば、城に避難した人間は皆殺しにされてしまうだろう。

「マドリエンヌ様だ! 見ろ!! マドリエンヌ様が戻ってこられた!!」
「やった! やったぞぉ! 俺達は助かる! 俺達は助かったんだぁああ!! あぁ! 神様ぁあ! ありがとう! マドリエンヌ様を遣わしてくださった!」
「マドリエンヌ様! お願いです! このドラゴンを殺してくださいっ!! 私の父はあいつに踏み潰されたんです!!」
「俺の娘もだ! まだ三歳だったのに! あのドラゴンが炎を吐いて焼き殺した! 頼む! あのトカゲ野郎をぶち殺してくれ!!」

 魔法防壁に手こずっていた黒竜は、人間達が何やら叫んでいるのに気付いた。広場を見ると挑発的な目付きで女騎士が睨んでいる。
 黄金髪の美しい女騎士だった。大きな剣を掲げて、仲間を鼓舞していた。背後にいるのは魔法使いだ。羽ばたく翼が急に重たくなった。広場に落下させるつもりのようだ。

 ――漆黒の暴竜は急旋回する。

 ドラゴンは人間達の誘いに乗ってやることにした。城に引き籠もった人間達の反応を見れば、大剣を構える女騎士に寄せられた期待の大きさが分かる。
 逃げ惑うべき弱小生物が、最強の魔物であるドラゴンに歯向かう。気に食わなかった。挑戦から逃げれば、最強の矜持が傷つく。たとえ罠があろうと丸ごと踏み潰せばいい。

「よしっ! こっちに来ます! マドリエンヌ様! 防火の護りを施しましたが相手はドラゴンです! 炎の直撃を防げるのは一度か二度! 魔法の護りを過信はしないでください!」
「十分だ! それよりも地面に縛り付けろ! いくら私でも空を飛ぶ相手には攻撃できない! 地上での勝負なら、大剣で首を落としてみせよう!!」

 最前衛は女騎士マドリエンヌ、その後ろに魔法使いライアンが控える。

「さぁ⋯⋯来い⋯⋯! ドラゴン!!」

 最強種のドラゴンがなぜ街を襲ったのかは分からない。そもそも伝説級の魔物であり、ここ数百年は書物でしか確認されていなかった。
 マドリエンヌに恐れはなかった。あるのは怒りだ。生まれ故郷の街を焼き払われた憎悪。憎しみを力に変えて、漆黒の暴竜に挑む。

(高揚で鼓動が高まる! まるで恋だな! 怒りと喜び、感情が爆発しそうだ。巡ってきた竜殺しの機会⋯⋯! 逃しはしないぞ! くっくくくく⋯⋯! 血が沸き立つ! やっと歯ごたえのある好敵手と出会えた!! 本気を出させてくれよ! ドラゴン!!)

 伝説の魔物を討ち滅ぼせば、マドリエンヌの勇名は歴史に刻まれるだろう。ドラゴンスレイヤーは御伽噺の英雄。小さな人の身で、巨大な竜に斬りかかる。

「ハァアアアァァ!! 〈竜殺しの英雄〉の称号! 私に寄越せ!!」

 マドリエンヌは着地の隙を狙った。ライアンの魔法でドラゴンの体重は何倍にも加重されている。さっきまで翼をバタつかせて空にしがみついていた。

(狙いはライアンか! だが、ここは通さないっ!! ドラゴン⋯⋯!!)

 ドラゴンは魔法をかけた男に怒っている。狙いはライアンだ。そして、その前に立ちはだかるマドリエンヌを押し潰そうとする。

(ドラゴンの動作は見え透いているっ⋯⋯! 図体の肥えたトカゲだ! 動きが鈍い! 今までに私が殺してきた魔物と何ら違いはない⋯⋯! 捉えた! 勝てる! 殺せる! 所詮は大きさだけの魔物! 無防備に晒したその腹を穿ち貫く! 抉り抜いてやるぞッ!!)

 広場を疾走するマドリエンヌは、大剣の切っ先をドラゴンの腹に向けた。
 マドリエンヌの愛剣を造った鍛冶屋は、竜鱗を切り裂けると豪語していた。その言葉が本当かどうか、確かめる絶好の機会だった。

「なっ⋯⋯!? なんだと!?」

 マドリエンヌは敵を見くびっていた。なぜドラゴンが最強の魔物と呼ばれているのか。その意味を履き違えていた。
 魔法はドラゴンが発明した。魔物の業だからこそ、魔法と呼ばれてきた。黒竜の身体が軽快に浮かび上がり、マドリエンヌの頭上を通り抜けた。大剣の刃は空を切った。

(ありえない! なぜ着地の直前で上昇できる!? まさか!? このドラゴン⋯⋯! ライアンの拘束魔法を自力で解除したのか⋯⋯!?)

 ドラゴンはライアンの拘束魔法を容易く解いた。身軽になった身体でマドリエンヌの剣撃を躱し、厄介な魔法使いを潰しにかかる。

「ライアン! 逃げろ!! 奴の狙いはお前だ!!」

「くっ! 飛び越えてきた!? くそ! 狙いは僕か!! 来るなら来い! ドラゴン! 受け止めてやる!! マジック・シールドぉおおーーッ!!」

 ライアンは魔法杖を突き出して叫んだ。体内に宿る魔力を総動員して造りだした魔法防壁。ドラゴンの一撃に耐える自信はあった。

「――ァギャ!?」

 マドリエンヌを傍らで支え続けたライアンの才能は本物だ。魔法使いの腕前を評価され、王宮に仕えないかと勧誘もされていた。

 ――ぐぢゃっ!

 ドラゴンの尻尾がライアンをすり潰した。非力な人間が構築した魔法防壁など、最強種の魔物からすれば紙切れも同然だった。

「ライアン⋯⋯!? 嘘だ⋯⋯。ライアン⋯⋯? ライアン⋯⋯?」

 マドリエンヌは現実を受け入れられず、握っていた大剣を落としかけた。ずっと自分の隣で微笑み続けてくれる。そう思っていた伴侶が挽肉になっていた。

「うぁっ! あぁっ! おい! うあああああああああぁ! ライアンさん! ライアンさんがやられたぁあああ!!」
「おい! どうなってんだ! おいおい! これ、やべえ! やべえぞ!」
「待て逃げるなっ! にげるんじゃあない! 弓だ! 弓矢を撃て!」
「そんなもんが通じるか! 物陰に隠れろ! 炎を吐くぞ! 待避だ! 待避しろ!!」
「どこに逃げろってんだ! ここは広場だぞ! どこにも隠れるところなんて! うぎゃあああああああああああああぁっ!」
「や、やめろぉおっ! ああああああああああぁああああ!!」
「ふぎゃああああああぁ! いたいっ! いたいぃいっ! 団長! マドリエンヌ団長ぉぉぉおお! たずけげてぇえええっ!」
「うぎゃぁあああっっ! ぎゃぁああああああああああああぁ!」

 ドラゴンのブレスは後続の騎士達を焼き払った。ライアンが死亡し、防火壁は消失している。為す術なく騎士達は焼き尽くされ、鎧が一瞬で蒸発し、肉体は炭化した。

 ――肉が焦げた不快な匂い。屍灰と火花が舞い散る。熱風が吹き荒んでいた。

(なんだ⋯⋯これは⋯⋯? 何が起きた⋯⋯? これは夢か? 本当に現実なのか⋯⋯!?)

 阿鼻叫喚の火炎地獄。マドリエンヌは初めて戦いで恐怖を感じた。街道で悪さをしていた鬼達とまったく同じ立場になった。
 狩る者から、追われる獲物。この場において、弱者を蹂躙する強者とは漆黒の暴竜だ。

「くっ⋯⋯! ふざけるな! ドラゴンめ! よくもっ⋯⋯!! やってくれたな⋯⋯!! 私の部下を⋯⋯!! 私の夫を⋯⋯!! ぶち殺してやるぞッ!!」

 逆上で恐怖を塗り潰した。大剣を握り直し、ドラゴンに斬りかかる。巨鬼を圧倒する剛力で、マドリエンヌは大剣を振り抜いた。

「ハアアァアアアアアアアアアアアァァーー!!」

 ドラゴンは前足の爪先で大剣を弾いた。戯れ付いてきた子供を押さえつける。そんな仕草だ。

(嫌だッ⋯⋯! 負けたくない! 負けたくっ⋯⋯ないィ⋯⋯!!)

 マドリエンヌは愕然とする。ドラゴンの呆れた表情を見てしまう。つい数日前の自分と同じだった。弱々しい魔物達を詰まらなそうにあしらう。ドラゴンの表情はかつての自分と重なった。

(私を侮るなッ! くそっ! くそぉっ!! 私を敵とすら見ないつもりか! 傲慢なドラゴンめ⋯⋯!!)

 ドラゴンはマドリエンヌに興味を向けていない。気に食わなかったのは、魔法をかけてきた男のほうで、ちゃちな剣を振り回す女には無関心だった。

 ――ガキンッ!!

 何としてでも一矢報いる。マドリエンヌは根性で食らいついた。

(くっ⋯⋯! くっくくくく! どうだ! ドラゴン!! 私の一撃を軽んじた報いを! 人間の力を! 思い知れ⋯⋯!!)

 ドラゴンは驚きの表情を浮かべ、紅い目を見開いた。マドリエンヌは竜爪の一撃を受け止める。そればかりか爪先を砕き、押し返してくる。

「ぐぅ⋯⋯!! うぐぅうぅ⋯⋯! ハァアア!!」

 憤怒の表情で睨む女騎士。漆黒の暴竜は驚愕していた。

(耐えられるっ! 私ならドラゴンとも張り合えるはずだ⋯⋯!! 今まで、どんな魔物にも力では負けなかった!! ドラゴンにだって私は負けないっ! 負けるものか!!)

 人間にしては大きいが、大竜の巨躯に比べれば蟻に等しい。「ちっぽけな蟻が人間の爪を噛みちぎった」ドラゴンからすれば、驚き以外の何ものでもなかった。

 ――びゅんっ!

 試しに尻尾で振り払う。先ほどの魔法使いは耐えきれずに潰れた。破裂して臓器が広場の石畳に飛び散っている。女騎士はどうなるのか気になった。

「おがァ!? うぐぁぁっ⋯⋯! きゃぁぁああああああああああぁぁっ!!」

 弾き飛ばされたマドリエンヌは地面を転がって、公園中央の噴水に激突した。石造りの噴水は粉々に砕け散った。

「がはっ⋯⋯ぐぅ⋯⋯!! うが⋯⋯? あ? はぁはぁ⋯⋯はぁ⋯⋯!」

 マドリエンヌは原形を留めていた。白銀の鎧は脱げてしまったが、五体満足で息をしている。

(全身が痛む⋯⋯。痛覚が⋯⋯あるなら⋯⋯私は死んでないのか⋯⋯? ははは⋯⋯! 利き腕が砕け散りそうだ。骨が折れたどころの負傷ではないな。あぁ⋯⋯最悪だ⋯⋯! この私がみっともなく⋯⋯不様な悲鳴を上げる日が来ようとは⋯⋯!)

 咄嗟に大剣を盾にしたのだ。剣はひしゃげてどこかに飛んで行った。

「――生きてるね。君は人間のくせに頑丈だ」

 漆黒の暴竜は人語を喋った。マドリエンヌは驚愕する。言葉を使う魔物はいるが、ここまで流暢に話す魔物は見たことがない。

(こど⋯⋯も⋯⋯? まさか嘘だろう? ドラゴンはまだ子供⋯⋯? 幼竜に負けてしまったのか⋯⋯)

 マドリエンヌは耳を疑った。恐ろしいドラゴンは幼子の声で喋った。声変わりしたばかりの少年だ。
 巨大なドラゴンの体躯に似つかわしくない。だが、そもそもマドリエンヌは実物のドラゴンを今までに見たことがない。街を壊滅させたドラゴンは、独り立ちしたばかりの未熟な幼竜だった。

「意識もあるんだ。はぁ⋯⋯。やっぱり僕ってまだまだ弱いや。街を一つ落とせば一人前かと思ったけど⋯⋯。爪も砕けちゃったし⋯⋯」

 ドラゴンは傷ついた爪先を魔法で治癒する。決死の覚悟で与えた傷が、数秒で癒えてしまった。

(ここまでだな⋯⋯。身体がぴくりとも動かん⋯⋯)

 マドリエンヌは敗死を受け入れた。厳然たる力量差を見せつけられた。これ以上の足掻きは見苦しいだけだ。せめて生き残った市民が遠くに逃げてくれればいい。

(――もっと母親らしいことをすれば良かった)

 マドリエンヌは死に際に後悔した。領主の城に子供達は逃げ込んでいるだろうか。両親や家族は無事なのか。死に際になってから愛母の念が湧き出す。

(死ぬにしても、誇りある騎士として使命を果たさねばな)

 こんな最期を迎えるのなら、沢山の思い出を残してやりたかった。

「はぁはぁ。ぐっ⋯⋯! おい! ドラゴン⋯⋯! 貴様の目的は領主様の財宝か?」
「まあ、そんなとこ。腕騙しかな。巣立ちしたばっかりだから、色々と入り用だったんだ。この街を襲ったのは偶然だよ」

 存外に気さくな性格らしい。返答は期待していなかったがドラゴンは答えてくれた。だが、漆黒の暴竜は理由もなく街を襲撃し、財宝を奪おうとしている。本質は人類を害す魔物なのだろう。

「街を守る騎士は全滅した。戦える人間が一人もいない。おそらく私が最後の一人だ」
「君が一番しぶとかった。ほかの騎士は一撃で殺せたんだ。君らは騎士⋯⋯。あれ? パパから聞いてたのと違うや。騎士って女もなれるんだ? 君って女だよね? そう見えるだけ? 本当は男?」
「これでも女さ。私は特例だ。頑丈な身体で、力もあった。今まで負け無しだった。貴様に負けるまでは⋯⋯」
「ふーん。強さを褒め讃えられるのは悪くないね。君の名前は?」
「マドリエンヌ・ド・バリハール⋯⋯。この街を守ってきた騎士団長だ」
「僕は黒竜ラオシャオ。東の果てから来た。幼いから二つ名はない。この街を襲ったのは本当に気まぐれだよ。君らは運が悪かった」
「財宝がそんなに欲しいか⋯⋯?」
「奪えるものは奪うよ。ドラゴンだもん。弱者は強者に貢ぐ。それがこの世界の理だ」
「いいだろう。聖職者のように説教を垂れる気はない。宝物庫の財宝はくれてやる。だから、逃げる人間は殺さないでくれ⋯⋯」
「⋯⋯え? なにそれ? 取引にならないね。君の許しなんかなくたっていい。だって、僕は宝物を自力で奪えるもん。なんで弱い奴に許可をもらわないといけないの?」
「城の魔法防壁を破れずに苦労していた。違うのか? 私が戻ってくるまで、手こずっていたのはそのせいだろう?」

 ラオシャオは不機嫌そうに両目を細めた。やはり図星だった。

「交渉の余地はありそうだ。よく聞け、ドラゴン⋯⋯!」

 不興を買うのは分かっていた。これで踏み潰されればそれまでと腹を括る。

「城の魔法防壁を簡単に解除する方法がある」
「それ、本当?」
「私との取引に応じるなら教えてやる。城の魔法防壁を構築したのは私の夫だ。私はどこに防壁の要石があるか知ってる」
「やっぱ人間は頭が小さいから馬鹿だね。夫がいるんだ。じゃあ、君を殺した後、その魔法使いを探すよ。そいつから聞き出せばいい」
「くっくくくくく! それは無理だ。貴様が尻尾で磨り潰したからな」

 マドリエンヌは怨嗟を込めて吐きつけた。

「ああ、そっか。さっき潰した魔法使い。あの弱っちいのが城の魔法防壁を張ったんだ。へえ。夫婦のくせに、あっちは頑丈じゃないんだね。⋯⋯人間は個体差が激しいや」
「私の夫を馬鹿にするな。優秀な魔法使いだった⋯⋯! 城の魔法防壁はドラゴンであってもそう簡単には破れない。要石の場所を知りたくはないか?」

 ドラゴンは広場をうろうろと歩き回る。石畳が軋む。幼竜とはいえ、巨大な身体で歩くと地鳴りが響いた。

「まあいいや。よくよく考えたら、街の人間を皆殺しにすると僕が有名にならない。条件は城に避難した人間を見逃す。それだけでいいの?」
「⋯⋯どういう質問だ?」
「他人の命乞いだけ? こういうのって普通は『自分を見逃せ』って頼むんでしょ?」
「私を侮るなよ、ドラゴン⋯⋯! 私は誇り高き騎士だ⋯⋯! 部下達が一人残らず戦死しておきながら、私だけが生き延びる気はない⋯⋯!! 民の命が助かるのなら、私はどうなろうと構わん!!」
「ふーん。ご立派だね。自己犠牲? いや、騎士の矜持なのかな? 度胸がある女は好きだ。君を気に入った。いいよ。取引しよ。要石を場所を教えて」
「約束を違えるなよ⋯⋯」
「もちろん。僕から逃げる人間は殺さない。君の言った条件を守る。竜角に誓うよ。その代わり、そちらも約束を果たせ」
「いいだろう。取引は成立だ。要石の場所は――」

 マドリエンヌは夫のライアンから聞いていた要石の場所を教えた。
 黙っていても城に逃げ込んだ民は外に出られず、飢え死にしてしまう。そうなるくらいなら取引をするべきだ。一人でも多くの人間を救いたかった。

(子供達は⋯⋯城に逃げているといいんだが⋯⋯。雇っていた乳母は賢い女だった。ドラゴンが襲撃してきたとき、一番安全な城に避難してくれたと信じよう)

 黒竜ラオシャオは空気を吸い込み、ドラゴンブレスの予備動作に入った。マドリエンヌは生きてこそいるが、全身の骨が折れていた。業火で燃やし尽くしてくれるなら、痛みも少ないはずだ。

(手も足も出なかった。だが、不思議と受け入れられる。これが敗北か⋯⋯)

 やれるだけのことはやった。負けたのは悔しいが、弱肉強食の世界だ。今まで魔物を狩っていたが、自分以上の強者がいた。それだけのことだった。

 ――倒れ伏したマドリエンヌは黒炎で包まれた。

 広場全体に漆黒の炎波が広がった。強力な魔力が炎に宿っている。魔法の強さは知っていたが、ドラゴンの魔力は人間とは比べものにならなかった。
 身にまとっていた衣服が炎上し、灰燼となって散っていった。不思議と熱さは感じなかった。むしろ肌を撫でる竜炎は心地好かった。

(肉体の痛みが薄れていく⋯⋯これが死⋯⋯なのか⋯⋯? あぁ、案外⋯⋯悪くない⋯⋯。このまま私は消える⋯⋯。ライアン⋯⋯もう一度、お前に会いたい)

 あの世でライアンに謝らねばならない。結局、ドラゴンには勝てなかった。
 偉そうに豪語していたくせに、広い世界では弱者の側だった。威張ってないで、もっと妻らしく、子供達を可愛がってやればと死に際になって後悔する。

「⋯⋯⋯⋯?」

 マドリエンヌは困惑する。傷が癒えていた。右手の甲にあった古傷まで消えていた。身体が焼き滅ぼされて、魂が昇天したのかとさえ思った。しかし、違う。

「人間の身体を治すのは初めてだから不安だった。成功かな。傷は全て癒えたね」

 ラオシャオは息吹でマドリエンヌに砕かれた爪を治癒した。ドラゴンの炎には魔法が宿っている。治癒と破壊、両方の性質を操れる。

「これは⋯⋯!? おい!? ドラゴン! どういうつもりだ⋯⋯!?」

 全快したマドリエンヌは状況が理解できなかった。装備は燃え尽きて、真っ裸で棒立ちだった。
 ライアンからもらった結婚指輪は溶けてしまった。だが、マドリエンヌの傷ついた身体は全回復した。折れた骨どころか、身体に残っていた全ての傷が消え去った。

「筋肉で筋張ってるけど、デカパイとデカ尻は良い感じ。もうちょい贅肉が欲しいかな」
「なっ⋯⋯!? 貴様はなにやってるんだ!? ふっ、服を着ろっ⋯⋯!!」

 黒竜の巨体が広場から消え失せた。その代わり、黒髪の美少年が現れた。

(どういうつもりだ⋯⋯! ドラゴンのガキは⋯⋯何を考えて私の傷を癒やした⋯⋯!?)

 紅蓮の竜眼、頭部から生えた鋭い竜角、漆黒の鱗で覆われた竜尾。マドリエンヌは美少年が人間に化けたラオシャオだとすぐ分かった。

「何って? もう一つの約束を果たしてもらおうよ」
「はぁ!? 約束って⋯⋯!? なんの約束だ!?」
「言ったよね? 『民の命が助かるのなら、私はどうなろうと構わん』約束は違えない。そうだよね? 頑丈な身体をしてるし、黄金の髪は好みだ。純金が大好き。――だから、マドリエンヌに僕の子供を産ませる」
「は⋯⋯? こどもを⋯⋯うませる⋯⋯?」

 マドリエンヌは間抜けな声を出してしまう。「子供を産ませる」と宣言したラオシャオは勃起した男根を近づける。

「――僕と交尾してよ」

 黒光りするドラゴンの男性器は、亀頭のソリに棘が生えていた。幼竜ではあったが、肉棒の太さと長さとは違う。女の股を引き裂く極太の逸物。口から竜炎を漏らすドラゴンの少年は、戦利品の女騎士を押し倒した。

「交尾するの初めて。これが女のオマンコ? 思ったよりも小さい。こんな穴に僕のオチンポがはいるのかな?」
「や、やめ⋯⋯! 見るな! 私に触るなっ!!」
「穴の周りに縮れた毛が生えてる。下の毛も金色なんだ。そりゃ、そっか。体毛だもんね」

 身の危険を感じたマドリエンヌは、ラオシャオを投げ飛ばそうとした。しかし、子供の姿をしていても相手はドラゴンだ。剛剣の女騎士が誇った筋力はちっとも通じていない。

(くっ⋯⋯! ダメだっ! 引き剥がせない⋯⋯! 子供のくせに、なんてすごい力だ⋯⋯!!)

 生物としての格が違う。ラオシャオはマドリエンヌに抵抗されているとさえ感じていなかった。弱々しく暴れる両足を握り、股を押し開く。マドリエンヌの膣口を観察したり、匂いを嗅いでいる。初めての女体に興味津々だ。子犬のような仕草で股を嗅いでいる。

「待て⋯⋯待てっ⋯⋯! こんな辱めは⋯⋯!! さっきの約束にはいってないぞっ!!」
「はぁ? 自分はどうなってもいい。確かにマドリエンヌは言ったよ。約束なんかなくても孕ませる気だったけどね。思わぬ収穫だ。交尾の相手をこんなに早く見つけられるなんて」
「こっ、こうび⋯⋯!? ふざけるな! わっ、私は人間だぞ⋯⋯!?」
「え? 知らないの? ドラゴンは人間に子供を産ませるんだよ?」

 そんなの知るはずがない。ドラゴンは伝説の魔物だった。御伽噺のドラゴンは美しい姫をどこぞに攫う。勇敢な騎士が囚われの姫を救う英雄譚。

(ドラゴンに攫われた女は⋯⋯! そんな⋯⋯!!)

 物語の背景をマドリエンヌは深く考察しなかった。だが、少し考えれば分かる。ドラゴンが美女を連れ去る理由は一つだ。

「僕のパパは人間だよ。マドリエンヌと同じで騎士だったんだ。僕のママは強い男を探してた。そこで思い付いた。有名な姫を攫って、強い男を巣穴に誘き寄せる。――ほんとさ、回りくどすぎだよね」

 ラオシャオの母竜は、古い時代から御伽噺として伝わる「姫を攫ったドラゴン」であった。しかし、姫は餌であって、目的はドラゴンに挑む勇敢な騎士から、繁殖の相手を見つけることだった。

「人間の女は胎が丈夫じゃないと死んじゃうらしい。だけど、マドリエンヌは産めそうだ。弱小種族の割りには身体が頑丈だもん」

 ラオシャオは挿入を試みる。強引に股を開かせて、オマンコの穴に押し入ろうとしてくる。恐怖で震え上がったマドリエンヌの陰裂に暴竜の肉棒が触れた。

(⋯⋯ぇ?)

 マドリエンヌは乙女の身体に戻っていた。ドラゴンの治癒魔法はマドリエンヌの古傷を消し去った。

(なんで⋯⋯? 私⋯⋯! 処女の身体に戻ってるっ⋯⋯!?)

 再生した処女膜が亀頭の侵入を阻む。だが、薄い粘膜のヒダで暴竜の極太オチンポは防げない。処女膜の中央にぽっかりとあいた穴が、亀頭の先端で拡げられていった。

「ひぃっ⋯⋯あぁっ⋯⋯! やめろっ! やめろ! やめろぉおおっーー!!」

 ブチブチィッ! 再生したての処女膜があっけなく破られた。肉棘が生えた竜の生殖器は、返り血で真っ赤に染まった。マドリエンヌは激痛で身体を強ばらせ、歯を食いしばる。

「あれ? なんか⋯⋯つっかえてる⋯⋯? まあいいや。押し込めば入るでしょ」
「ぐっ⋯⋯ぐぅっ⋯⋯! やめろ⋯⋯! こんなの入るわけ⋯⋯んぁっ⋯⋯! 今すぐっ! 股が裂けてしまうっ! こんなに大きいオチンポは入らないっ! やめろっ! あぁあああっーー!!」
「誰に命令してんだよ。君は僕に負けたんだ。泣き叫んでないでさ。興醒めしちゃうよ? 交尾の相手に選んでやってるんだから、僕をもっと気持ちよくしろ!」
「はぐっ⋯⋯!? おぉっ⋯⋯! んっおぉぉっ⋯⋯⋯!!」

 ラオシャオは力任せにオチンポを捻じ挿れる。乾いた膣道に無理やり押し込んだ。肉厚な膣襞を切り裂きながら、オマンコの最奥まで到達した。

(デカいっ⋯⋯! デカすぎるっ⋯⋯!! 人間とのセックスとは何もかも! 違うっ! 違いすぎるっ! まったく違う⋯⋯!! オマンコの穴が裂けるっ⋯⋯! 子宮の入り口が壊れてしまうっ⋯⋯!!)

 破瓜と裂傷の血液が潤滑剤となった。竜炎で焼き払われた広場は、住民が集まる憩いの場だった。平時は多くの人々が訪れ、商売や談笑していた日常の象徴。

「あ⋯⋯あぁ⋯⋯! あぅっ⋯⋯!!」

 マドリエンヌは生まれて初めて悲しみで涙を流した。押し倒された女騎士は陵○を受ける。始めての交尾に大はしゃぎする幼竜は、尻尾を左右に振って悦んでいる。

「――よしっ! やっとだ。半分、挿った!」

 ラオシャオはマドリエンヌの乳房を掴む。これからが本番だと意気込んでいる。口から炎の吐息を漏らしていた。

(はん⋯⋯ぶん⋯⋯? これで⋯⋯半分だと⋯⋯!? 無理だっ! これ以上は入るわけがないっ!!)

 マドリエンヌの子宮は恐怖で縮み上がった。言葉の通り、ドラゴンの極太オチンポは半分まで挿入されていた。肉茎の下半分は未挿入の状態だった。しかし、既にオマンコの最奥部を突き上げている。

「む、むりだっ⋯⋯! これ以上は絶対に⋯⋯! むぃぃりぃ⋯⋯!! あがぁっ⋯⋯! うあぁ⋯⋯!! こわれるっ⋯⋯! 痛いっ⋯⋯! 痛い! 痛い! 痛いィっ⋯⋯!! 胎が潰れてしまう! オチンポを抜いてくれ! もうやめてくれぇっ!! いやぁ! やめてっ! やめてくださいっ!! いやぁあああああああああああああああああああぁあああぁああーーっ!!」

 剛剣と恐れられた女傑は、泣き叫んで許しを請う。マドリエンヌの甲高い悲鳴は、城に逃げ込んでいた生存者の耳にも届いた。広場を一望できるバルコニーにいた大人達は立ち尽くす。
 全裸にひん剥かれ、黒竜の少年に交尾を強いられる敗北の女騎士。遠目からでも広場の中央で何が行われているのか分かってしまった。

「今のうちだ⋯⋯。街から逃げる。それしかないんだ⋯⋯。あのドラゴンは俺達に意識を向けてない⋯⋯。逃げよう」

 誰かが言った。大人達は行動を開始する。弱者が残された数少ない選択肢は逃走だ。
 街を滅茶苦茶に破壊したドラゴンは、しばらく広場から飛び立たない。マドリエンヌを○すのに夢中で、他の人間達を襲ってきたりはしないだろう。それこそ、生殖を邪魔されでもしない限りは――。

「こ、子供達を早く連れていきましょう⋯⋯。見せちゃいけません」
「ロジェ様! こっちに⋯⋯! 逃げますよ⋯⋯!!」
「でも、お母さんがまだ広場にいるよ⋯⋯!」

 ロジェはバルコニーの鉄柵にしがみついた。女騎士マドリエンヌと魔法使いライアンの息子だった。五歳の少年は実母の身に起きている出来事が理解できていなかった。

(お父さんはどこにいるんだろ? それにお母さんはどうして鎧や服を脱いじゃったの⋯⋯? 燃えちゃったのかな。あの尻尾の生えた子は街を襲った黒いドラゴンだよね? そっか。分かった! お母さんは裸でドラゴンと取っ組み合ってるんだ⋯⋯!)

 身を乗り出してロジェは、母親の勇姿を目に焼き付けようとした。幼い息子の中で、女騎士マドリエンヌは最強の母親であった。魔物に敗北するなど微塵も思っていない。
 漆黒の暴竜は、人間達の都合なんてどうでも良かった。広場を一望できる城のバルコニーに、犯している女の息子がいたとしても無関心だ。子を産んだオマンコのより深くに男根を侵入させる。

「――いやぁっ! いやぁあああっ! やめてっ! お願いっ!! 痛いっ! 痛いィ!! あぁっ! いやぁああっ⋯⋯!! 殺してっ! いっそ⋯⋯殺してっ⋯⋯! あぁっ! あぅっ! んぁああああああああああああああああぁぁっーー!!」

 甲高い女の悲鳴が聞こえる。ロジェは叫びが母親のものだとすぐには気付けなかった。竜炎で囲まれた広場は光源で満ちている。見晴らしの良い高台からは、広場の様子がよく見えた。
 ロジェは目撃する。母親の股に黒槍が突き刺さり、真っ赤な血が太腿を伝っていた。黒竜鱗で覆われた長太い黒槍は、少年に化けたドラゴンの股間から生えていた。

(お母さんが泣いてる⋯⋯?)

 ドラゴンの少年は、泣き喚く母親の乳房を引っぱたいて黙らせた。豊満な乳房が真っ赤に染まった。尊大な女傑は恥辱に晒されてむせび泣く。陰裂の穴に挿入された黒光りする竜棒は突き進む。
 人間の夫では成せなかったことが、強き黒竜には成せる。男勝りな女騎士を徹底的に痛めつけ、ロジェ達を慈しみ育てた子宮に達した。
 亀頭のカリに備わった鋭利な針は返しがついている。針は肉厚な膣襞に引っかかり、生殖器官の交合を強固にする。
 
「ねえ。あれ、何をやってるの? ドラゴンのオチンチンがお母さんの股に刺さって⋯⋯」
「いけませんっ! マドリエンヌ様が時間を稼いでくれています。見てはダメです。バルコニーから離れなさい⋯⋯!」

 乳母はロジェの襟首を掴んで、城の中に引っ張った。大人達は何も言わない。幼い五歳児にも状況が何となく分かり始めた。

「急げ。裏門から出よう⋯⋯。あっちにはまだ火の手が回ってない。さあ、みんな⋯⋯いくぞ⋯⋯! あのドラゴンがこっちを襲ってくる前に⋯⋯!!」

 街を守ってくれていた騎士団は全滅。負け知らずの騎士団長ですら、あの不様な醜態を晒している。嗚咽が混じった悲痛な叫び。そこらの町娘が悪漢に辱められるのと変わらない。

「待って⋯⋯お母さんは置いていくの!? まだ広場にお母さんがいるよ! お父さんや騎士団の皆も探さないと⋯⋯!!」
「ロジェ様! お気持ちは痛いほど分かります! 私達は生き延びなければならないのです⋯⋯!! 街を守るために命を捧げた騎士達の犠牲を⋯⋯無駄にしてはなりませんっ⋯⋯!!」

 マドリエンヌとライアンの子供達には見せられない光景だった。敗北した母親が魔物に犯されている。乳母はバリハール家の子供達の耳を塞ぎ、裏門から脱出した。
 ラオシャオは逃げ出す人間達を追わなかった。マドリエンヌと交わした取引のこともあったが、意識が交尾だけに没頭していた。
 暴れるマドリエンヌを押さえつけて、ドラゴンの生殖器を無理やりオマンコに収めようとしてくる。子宮が内臓ごと押し上げられる。極太長大なオチンポを収容するため、マドリエンヌの骨盤が軋む。女穴の最奥部は開大した。

(あぁっ⋯⋯。子宮が潰される⋯⋯!! 壊れるっ! 股が裂けてしまう!! 痛いっ! 棘が刺さってるっ! 亀頭冠に生えた鋭い針が⋯⋯私の膣内に食い込む⋯⋯!!)

 ラオシャオの侵攻が止まった。下腹の皮膚がぽっこりと隆起する。マドリエンヌのオマンコは漆黒竜の逸物を根元まで呑み込んでいた。

(ぁ⋯⋯! ぅう゛⋯⋯! ぜぇ⋯⋯んぶ⋯⋯! 挿入って⋯⋯る⋯⋯! 挿入ってしまった⋯⋯!!)

 鮮血で真っ赤に染まった陰裂。深々と突き刺さった男根は、膣道を押し伸ばす。激痛でオマンコの肉筋が締まる。

「どう? マドリエンヌ? 僕のオチンポは気持ちいい? 初めてにしては上手でしょ。じゃあ、孕ませてあげる!」

 童貞を卒業した幼竜は満足げに笑った。

「待てっ⋯⋯! 待って! やめっ! 出すなぁ! これ以上! 私を辱めるな! いや! いやぁっ! あぁぁ! いやああああぁあああっーー!!」

「竜の胤を受け取れ⋯⋯! もっと喜んでよ! マドリエンヌ! 君を僕の奴○妻にしてやるっ! くっ⋯⋯! はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯! すっごい! 女との交尾って、こんなに気持ち良いんだ⋯⋯! 女穴にオチンポを突っ込んでるだけなのに、全身の精力が漲ってくるよっ!」

 竜胤を蓄えた陰嚢が蠢き始めた。睾丸が高熱を宿している。
 漆黒竜ラオシャオは女騎士マドリエンヌをつがいの相手と認めた。強者は弱者を組み敷き、子壺に灼熱の精子をぶちまける。

「んっ⋯⋯くっ⋯⋯! ふぅ~~⋯⋯! 僕の胤が膣内に出てるの分かる? ドラゴンはね、自分に相応しい相手にしか発情できない生き物なんだ。僕はマドリエンヌで精通しちゃった。思った通り、君は〈竜の子〉を産める女だ⋯⋯♥︎」

 黒竜の遺伝子が宿った孕ませ汁は、溶鉄に等しい温度だった。マドリエンヌの胎は焼き付けられ、凄まじい痛みが全身を駆け巡った。常人なら死んでいた。頑丈なマドリエンヌだからこそ耐えられた。

(⋯⋯痛みが⋯⋯鎮まっていく⋯⋯! ドラゴンの魔力が⋯⋯勝手に私の肉体を⋯⋯造り変えて⋯⋯あぁ⋯⋯ぁあ⋯⋯!)

 ラオシャオは竜の魔力でマドリエンヌの心身を染め上げる。痛みは和らぎ、次第に抑え難い快楽が襲いかかってきた。子宮の内腔に食い込んだ亀頭の竜針から、強大な魔力が伝わってくる。

(私はこんなにも小さく⋯⋯弱々しい女騎士だったのか⋯⋯。ラオシャオはまだ幼い竜だ⋯⋯。成竜に比べれば弱い。なのに、私はもっともっと⋯⋯弱い⋯⋯! 弱すぎる⋯⋯!!)

 マドリエンヌを支えていた心の何かが砕け散った。

(――城から人間の気配が消えた。避難していた住民は無事に逃げてくれたか。良かった)

 城のバルコニーに誰かがいた。息子のロジェだったかもしれない。こんな醜態を見られてしまったが、生き延びたのなら、マドリエンヌは満足だった。

「あぁ⋯⋯! あぅう⋯⋯! 約束⋯⋯は⋯⋯守って⋯⋯」
「逃げた奴は追わないよ。あんな奴らはもうどうでもいい。僕はマドリエンヌともっと交尾したい! 弱っちい人間の街を壊すのは爽快だけど、今は繁殖のほうが優先かな。だって、気持ち良いだもん!」
「あぅっ! んぎっ! おぉっ⋯⋯!!」
「そんな声じゃなくてさ。もっと女らしい声で啼いてよ? マドリエンヌは僕の奴○妻になったんだから、主人の好みに合わせてもらわないとね」
「⋯⋯奴○妻になった覚えは⋯⋯ふぎぃっ⋯⋯!?」
「弱いくせに反抗するつもり? 僕がその気になったら何百年も、何千年も、マドリエンヌを嬲れるんだよ? 僕の機嫌を損ねたら、街じゃなくて国が滅んじゃうかも、いいのかなぁ?」
「うっ⋯⋯うぅ⋯⋯!」
「効果抜群だよね。ママから聞いた。騎士ってこういうのが効くってね。僕のパパもマドリエンヌみたいに泣いてたってよ。人間は同族愛が強いんだね」
「あぁっ! んぁっ! ああんっ⋯⋯!! 動かな⋯⋯いで⋯⋯!」
「初めての交尾を一回で終わらせる気なんてない。マドリエンヌも愉しみなよ。僕のオチンポで気持ちよくしてあげるっ!」

 ラオシャオは激しく腰を振り始めた。体格は小さいが、血肉に宿った強大無比な怪力は、押し倒したマドリエンヌを征服する。

 ――漆黒の暴竜は女騎士の卵子を喰った。

 排出されたばかりの綺麗な卵子に、夥しい数の精子が群がる。競争心の強い竜の子胤達は卵子を奪い合い、激しい戦いに勝利した一匹だけが、遺伝子の核に辿り付いて融合する。
 最強種の魔物ドラゴンは生殖能力が低い。子が生まれるのは一〇〇年に一匹と言われる。ましてや初めての交尾で受精に至るのは奇跡的なことだった。

 ――ぷぢゅぅん♥︎

 マドリエンヌとラオシャオの遺伝子は出会ってしまった。女騎士の高貴な卵子は、若々しい暴竜の精子に屈した。夫を殺し、騎士団の仲間を鏖殺し、生まれ故郷を破壊し尽くしたドラゴンの女になった。

「あっ!? んぅっ! んぁあぁあああああああああああぁぁっ⋯⋯♥︎」

 生まれ始めてマドリエンヌは男に絶頂させられてしまった。

(な⋯⋯なにが⋯⋯! まるで落雷を受けたかのような⋯⋯! この快楽の痺れ⋯⋯♥︎)

 ライアンの優しい子作りでは一度も体験しなかった性的快楽。完膚なきまでに叩き潰され、乙女の身体に戻って、ついにマドリエンヌは自分の中に隠れていた女の本能を自覚した。

「良い顔付きになったね。そっちのほうが好き。剣とか鎧とか、弱い女には似合わない。それとさ、美味しい食べ物をたくさんあげるから、もっと膨よかになってね。オッパイとお尻ににしか贅肉がないじゃん」
「あぁ⋯⋯んぁ⋯⋯♥︎」
「もう一つ、僕のことは旦那様って呼ぶこと。ママはパパをダーリンって呼んでたけど、僕は威厳が欲しいから『旦那様』って呼ばせる。上下関係はしっかり示す」
「⋯⋯⋯⋯いや⋯⋯ぁ⋯⋯♥︎」
「じゃあ、国を滅ぼしちゃおうかな。それもいいかな。マドリエンヌが僕を旦那様って呼ぶまで、あっちこっちの国を焼き尽くすの。一番、眺めがいいところから見物させてあげるよ」

 敗北したマドリエンヌは、ラオシャオに従うしかなかった。強者は弱者を蹂躙する。剛剣の女騎士は思い出す。弱い魔物を雑魚と貶し、戦いの高揚感を得るために追いかけ回した。今は自分が弱い側に回ったのだ。
 マドリエンヌのくだらない意地で何百万人もの人間がドラゴンに殺される。そんなことは受け入れられなかった。

(すまない⋯⋯。うぅっ⋯⋯! ライアン。お前を裏切ってしまう。だが、許してくれるはずだ)

 夫のライアンは竜尾で潰されて、死体がどこにあるのかも分からない有様だ。愛する夫を裏切り、ドラゴンに媚びる。そうすることで救われる命がある。

「あぁ♥︎ 旦那様⋯⋯♥︎ 御慈悲をください⋯⋯♥︎ 人間の国を襲うなど⋯⋯なさらないで⋯⋯♥︎」

 マドリエンヌはラオシャオの矮躯を抱きしめ、耳元で囁いた。女騎士の人格を殺し、強者に媚びへつらう弱い女へと生まれ変わった。

「じゃあ、僕好みの妻になってね? 男口調は禁止ね。マドリエンヌは女なんだからさ」
「はい。分かりましたわ。んっ♥︎ んぁっ♥︎ あぅうっ♥︎ んひぃっ♥︎ あん♥︎ 旦那様♥︎ あん♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あっ♥︎ あんっ♥︎ おぉ♥︎ いぃっ♥︎ イぐぅ♥︎ イってしまっ⋯⋯うぅっ⋯⋯♥︎ んおお゛ォ~~♥︎」

 大きな淫叫が広場で反響する。ラオシャオは豊満なマドリエンヌの身体を軽々と抱き上げる。対面で抱き合ったまま、オチンポがオマンコを突いた。絶頂で震える両脚の先端は、地面すれすれを浮かんでいる。
 ラオシャオと身長差があるせいだ。マドリエンヌは背が一般的な男性よりも遥かに高く、足も長かった。背の低い少年に抱きかかえられると、とても惨めだった。だが、マドリエンヌは恥ずかしい淫態を晒すしかなかった。

「あぉ♥︎ んぉ♥︎ はぁはぁ♥︎ んぁっ⋯⋯あはっははは⋯⋯♥︎」

 竜胤を注がれる淫女の両目から悲涙が溢れる。辺境で一つの街が漆黒竜に滅ぼされた。運良く街を逃げ出せた人々は国々に助けを求めた。しかし、剛力の女騎士ですら勝てなかった暴竜に挑む者は現れなかった。
 竜殺しの英雄は滅多に出現しない救世主だからこそ、伝説となっているのだ。
 漆黒の暴竜は数ヵ月間、街を荒らし尽くした。そして、ある日の明朝、東の地に飛び去っていった。荒廃した街に戻った人々は、朽ち果てた犠牲者の遺骨を拾い集めたという。
 女騎士マドリエンヌの死体は見つからなかった。広場に残されたのは、ドラゴンの尻尾で折れ曲がった大剣、砕け散った白銀鎧の欠片。竜炎で焼け焦げた広場に、うな垂れて立ち尽くした生存者達は漆黒竜を憎み、恐れ、呪った。

 ――母さんは死んでしまったの? それとも⋯⋯?

 乳母に連れられて生き延びたロジェは東の空を見た。バリハール家の生き残りは、ロジェを含めた五人兄弟姉妹だけとなった。長子のロジェは滅びかけた一族を建て直さなければならない。
 両親は勇敢に戦い、ドラゴンに負けた。父ライアンは戦死。母マドリエンヌは行方不明。残されたバリハール家の子供達は、苦難の道を歩むことになるだろう。


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