母の浮気/56
「良太くんは、もう一緒に入ってない?」
「入るわけないじゃないですかっ!」
「あっ、そうなんだ。それって、やっぱり、恥ずかしいから?」
そう改まって訊かれると、恥ずかしいからなのかどうかは疑問だった。これこれだから、という理由があるというよりは、自然に入らなくなるものだと思っていたのである。
「久司と同じくらいの時から、お母さんとはお風呂に入っていなかった?」
「入ってないです」
「あっ、そうなんだね……」
なるほど、と久司の母はうなずきながらも、少し寂しそうな顔をした。それにしても、久司のやつめ……と良太は再び弟とも思っている少年のことを憎々しく思った。こんなに美人なお母さんとお風呂に入れるというのに、うちの母親と風呂に入っているとは、しかも、女性と一緒に入浴することがさもありえないことのように喜んでいた。なかなかの演技派である。
「あんまり母親に干渉されると、男の子としては、うっとうしいものかな?」
「いや、そんなことないと思いますよ」
と良太は答えておいた。自分のことを考えても、別に母親のことをうっとうしいと思ったことはない。まして、久司は、母親に恋心を抱いているのである。だとしたら、嬉しがることはあっても、うっとうしいと思うことは無いだろう。
「スキンシップはどう?」
「スキンシップっていうのは、たとえば、どういうのですか?」
一緒にお風呂入ることだろうか、と良太は、また彼女の入浴シーンを想像してしまったわけだけれど、
「おはようのキスとか、学校から帰ってきたときにハグするとか、かな」
それ以上の話だった。
「ええっ! そんなことしてるんすか!?」
「あー、ちょっと話を盛っちゃったかな。おはようのキスは、いつもってわけじゃないよ」
盛っていたとしても、盛りすぎてはいなかったようである。良太は、久司を羨んだ。同時に、風呂にも一緒に入ってくれるし、そんなにスキンシップしてくれる母親だったら、エッチだって頼めそうなもんだと思ったが、さすがに、それとこれとでは話が違うのだろうか。
「お母さんは、良太くんにそんなことしない?」
「してましたよ」
「えっ、いつ頃まで?」
「幼稚園くらいの頃ですかね」
「あっ、そうなんだ、今は?」
「するわけないでしょ」
新婚夫婦じゃないんだから、と良太は心の中で一言付け足した。
「……やっぱり、そういうのも、ウザがられてるのかなあ」
「やめるように言われたんですか?」
「言われてないけど、この頃、そういうことすると、なんかこう、不機嫌そうな感じなんだよね」
それは意中の女性から、そんなスキンシップをされたら、チャラ男でない限りは、そういう反応をするしかないだろう、と良太は思った。