母の浮気/115
良太は、ホッとした。これで、久司の母のお招きにも預かれるということである。それに、あるいは、今後、他の女性と関係を結ぶということになったときも、母に気兼ねをしなくてもいい。
「本当に、好きな子がいるわけじゃないの?」
母が隣からもう一度尋ねてきた。
「別にいないよ」
「でも、クラスに可愛い子の一人や二人いるでしょう?」
「人気がある子はいるね」
「そういう子をカノジョにしたいとか、思わないの?」
「今のところは特には思わないかな。今じゃ、もう、母さんっていうカノジョもできたしね。また、今度、父さんがいないときに、デートしようよ」
「本当!?」
「ああ」
「嬉しいっ! お母さんね、良太と一緒に行きたいところ、たくさんあるのよ!」
母は、はしゃいだ声を上げた。一緒に出かけることをまた約束しただけで、そんなに喜んでもらえるとは、良太は、これまで母に寂しい思いをさせてきたのではないかと反省したが、彼女の数々の浮気を思い出すと、母は母で楽しくやっていたような気もした。
――待てよ……。
もしかしたら、それは、寂しさの裏返しではなかっただろうか。家族に相手にされないことへの寂しさの反動で、浮気を行っていた……。と、そんなことを思ってみた良太だったが、すぐに首を横に振った。母に限って、それは無いだろう。男たちとの行為中だけではなくて、行為前も行為後も、楽しそうにしていたではないか。その楽しみの裏に悲しみが隠れているなどということがあるだろうか。
「あっ、そうだ……ねえ、良太……」
「ん?」
「お母さん、良太としかシないって言ったけど、でも、その……たまに、お父さんに求められることはあるから、それは許してね。それとも、お父さんともシちゃダメ?」
語るに落ちるというのはこのことを言うのだろう。母は、父以外の誰とシないことを息子に約束したつもりなのか。これでは、浮気していたことを、自ら認めているようなものではないか。しかし、良太は、今はそれにツッコまないようにして、
「父さんとはどのくらいしているの?」
と尋ねた。
「たまによ。たまーに、求めてくるの」
良太は、以前、父と母の営みを覗いたことを思い出した。母は随分と気持ちよさそうにしていた。あれが演技でないとしたら、父との交わりでも相応に満足していたはずなのに、それでも他の男を求めたわけだから、どう言えばいいのか、あまり母に対しては使いたくない言葉をひらめいた良太は、その言葉を、胸の奥底に沈めるようにしたあと、
「父さんとはしょうがないよ」
と答えた。