母さんでもいいや/3
里穂は、しっかりと息子に抱き締められた。男のたくましい体に抱かれた里穂は、思わず相手が息子だということを忘れて、うっとりとしてしまった。しかし、もちろん、そうしているわけにもいかないので、
「拓実、寝ぼけないで」
と声をかけようとしたところで、彼の手が自分の尻たぶをぎゅっと掴むのを感じた。
「あんっ!」
里穂は、思わず声を上げてしまった。男の手に尻をつかまれるなど、ここ10数年絶えて無い。また、うっとりとしかけたところで、相手が息子なのだということをもう一度、すばやく自分に言い聞かせると、
「た、拓実、起きなさいっ!」
若干、どもりながら、しかし、はっきりとした声をかけた。すると、息子は、目を開いたようである。ホッとした里穂だったが、次の瞬間、ただでさえ近かった息子の顔がさらに近づいてきて、
――ええっ!
唇が重ねられるのを感じた。驚いて硬直する母親の隙をつくような形で、息子は、舌を入れてきた。里穂は、体から力が抜けるのが分かった。キスも随分と久しぶりであれば、ディープキスももちろんそうである。
里穂は、息子の舌先がまるで生き物のように動いて、自分の口内のいたるところに当てられるのが分かった。相手は息子であるにも関わらず、その気持ちよさは無類であり、里穂は、意識が飛びそうになっているのを認めた。頭の奥にピンク色のもやがかかって、何も考えられなくなりそうである。
――いけないっ!
里穂は、残っていた理性を総動員して、息子の体を押した。そうして、自分の体を引き離した。
「お、起きなさいっ、拓実!」
やはりどもってしまいながらも、なんとか声を上げる。
すると、寝ぼけ眼がはっきりとして、
「母さん……?」
と訊いてきたので、ホッとした里穂は、
「起きた?」
と応えてから、この状況は彼にとって気まずい状態になるのではないかと思った。なにせ寝ぼけていたとはいえ、母親を抱き締めて、キスしてしまったのだ。男の子にとって、トラウマ級の出来事になるのではなかろうか。
とはいえ、あのままディープキスされ続けていたら、自分の方がどうにかなってしまいそうだったので、やむを得ない。やむを得なくても、息子に心理的ダメージを与えたくない里穂は、どうすればいいのだろうかと迷っていたところ、
「母さんだったのか」
息子の声を聞いた。
その声は、特にショックを受けているものではなさそうであるので、
「カノジョとの夢でも見ていたの?」
軽く返すことで、この事実自体の意味合いを軽くしようと思ったところ、
「ま、母さんでもいいや」
と不思議な言葉を聞いた。
母さんでもいいとはどういうことだろうか、と疑問に思ったそのときに、里穂は、再び息子の顔が迫り、唇が重ねられるのを感じた。