美少女のいる生活/12
一回り以上年の差がある女の子を妊娠させて結婚するというとんでもない振る舞いをしたその父にして、一回り以上年の差のあるおっさんに告白するこの子ありと言ったところだろう。
「……ドン引きました?」
「えっ、いや、そんなことはないけど」
「もし、ご迷惑だったら、このケーキだけいただいたあとに、わたし、出て行きますから」
「入居初日が転居日になるなんて話は聞いたことないよ」
「じゃあ、いいんですか? 一緒に暮させてもらって」
「もちろん」
ふうっと、美咲は大きく息をついた。
「ああ、よかった……」
「どうした?」
「だって、こんな話、絶対引かれると思ってたんですもん」
「それを、歩きながらさらっと話すってどういうことだよ」
「さらっと話したように思われたかもしれませんけど、心臓バクバク言っていますよ、触ってみます?」
貴久は、美咲が自分の左胸に手を当てるのを見た。
「いや、周囲の人から、何か大いなる誤解を受けそうだから、やめておくよ」
彼女がどこまで本気で言っているのか貴久にはイマイチよく分からない。親友と違って、若い子と話す機会なんて無いし、多少見知った子だったとしても、そこまで深い付き合いをしたことがあるわけでもないのである。
そもそも、好きだというなら、好きになったきっかけがあるだろうが、それは何なのだろう。それが納得できる理由であれば、彼女が自分のことを好きだということにも納得ができることになる。
そのあたりを訊いてみようかと考えたときにマンションに着いたので、今度こそケーキを食べながら話を聞くことにした。
「さっきご飯食べたばっかりだけど、もうお腹空いてきました」
部屋に戻ると美咲が言った。
「サンドイッチとコーヒーだけだったからな。もっとガッツリしたものの方が良かったな」
「でも、美味しかったですよ、サンドイッチ」
「じゃあ、良かった」
貴久が、コーヒーの用意をしようとお湯を沸かそうとすると、
「わたし、やります!」
美咲が給仕役を買って出た。
任せることにした貴久はダイニングテーブルに着いた。そこから、年若い少女がキッチンでカップを出し、ケーキのための皿を出して、ペーパードリップでコーヒーを淹れるのを見ていた。今後、この光景がデフォルトになるのかと思うと、なんだか不思議な感覚である。
「カップは適当に使わせてもらいました」
コーヒーを持ってきてくれた美咲に、貴久はうなずいた。
「二個持ってきちゃっていいですか、ケーキ?」
「ちょっと二個は重たいな。今一個食べて、夕食後にもう一個はどう?」
「いいですね。先にモンブランでいいですか?」
貴久はケーキを食べながら、さっき考えた通り、彼女が自分のどこを気に入ったのか訊いてみることにした。